説明

焼結軸受、及び焼結体のサイジング装置、並びに焼結軸受のサイジング方法

【課題】断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受等の焼結体に対しも高精度なサイジングを行うことで、当該外周面形状を有しつつも、高い寸法精度が確保された焼結体を提供する。
【解決手段】断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受Wを収容する収容孔2を有するダイ3と、収容孔2に収容される焼結軸受Wの内周面に挿入されるコア軸4と、収容孔2に収容される焼結軸受Wを上下方向から押圧する上パンチ5及び下パンチ6を備えた焼結軸受のサイジング装置1であって、ダイ3は、固定部7と可動押圧部8とを備え、可動押圧部8が、収容孔2を形成すると共に、円周方向で複数に分割され、各分割部分の移動により収容孔2を拡縮させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結軸受等の焼結体のサイジングに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば焼結軸受としては、周知のように、円筒形状をなすものが広く利用されており、その内周面を軸受面として、軸のラジアル荷重を支持するようになっている。この種の焼結軸受は、金属粉末粉を圧粉成形した後、焼結することにより製作されるものであるが、通常、所定の寸法精度を得るために、焼結後の焼結軸受にはサイジング装置を用いてサイジングが施される。
【0003】
かかるサイジング装置としては、ダイと、コア軸と、上パンチと、下パンチとを備え、各構成要素が次のような関係をなすものが一般的である。すなわち、ダイは、焼結軸受を収容する円形状の収容孔を有し、そのダイの収容孔と同軸上に円柱状のコア軸が配置されている。上パンチと下パンチは、それぞれ円筒状をなし、ダイとコア軸との間に上下方向から挿脱自在となっている。
【0004】
そして、ダイの収容孔の内径をサイジング前の焼結軸受の外径よりも僅かに大きく設定し、次のようにして焼結軸受のサイジングを行う。
【0005】
すなわち、焼結軸受をダイの収容孔に収容すると共に、その焼結軸受の内周にコア軸を挿入した後、上パンチを降下させて、上パンチと下パンチで焼結軸受を押圧して上下方向に圧縮して上下方向寸法をサイジングする。この際に、上下方向に圧縮された焼結軸受を径方向に変形させてダイとコア軸に密着させ、焼結軸受の内外径寸法をサイジングする(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−149605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、メンテナンス性を向上させる目的で、軸から容易に取り外すことができるように、例えば軸直角断面がU字形状をなす焼結軸受が使用される場合があり、このような焼結軸受に対しても、上述の円筒状の焼結軸受と同様に正確なサイジングを施すことが必要となる。
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1には、軸直角断面がU字形状をなす焼結軸受をサイジングする方法については何ら記載されていない。しかも、仮に上記の特許文献1に開示の手法をU字形状の焼結軸受のサイジングに適用することが可能であったとしても、ダイとコア軸とにより焼結軸受の内外周面のサイジングを正確に行うことは困難となる。これは、上パンチと下パンチとで、当該焼結軸受を上下方向に圧縮したとしても、その圧縮に起因する軸方向と直交する方向の変形が均等に生じ難く、その結果としてサイジングが不十分な箇所が生じてしまうためである。
【0009】
そして、上記の問題は、サイジングを施すべき焼結軸受の外周面形状の複雑性に起因するところが大きい。したがって、上記の問題は、例えば、複数の平面で外周面形状が形成される場合(具体的には、外周面形状が四角形などの多角形をなす場合など)や、平面と曲面とを組み合わせて外周面形状が形成される場合(具体的には、外周面形状が後述するU字形状や、長円形状など)や、曲率の異なる複数の部分円筒面を組み合わせて外周面形状が形成される場合など、断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結体であれば同様に生じ得る。
【0010】
本発明の課題は、上記実情に鑑み、断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受等の焼結体に対しも高精度なサイジングを行うことで、当該外周面形状を有しつつも、高い寸法精度が確保された焼結体を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る焼結軸受は、断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受であって、前記外周面形状が、円周方向で複数に分割されたプレス面によってサイジングされた加工面を連ねて形成されていることに特徴づけられる。
【0012】
このような構成によれば、断面形状が非真円形状をなす焼結軸受の外周面形状が、円周方向に複数に分割されたプレス面によってサイジングされた加工面を連ねて形成される。そのため、焼結軸受の外周面形状が非真円形状となって複雑化したとしても、分割された個々のプレス面でサイジングする焼結軸受の外周面形状を単純化することができる。すなわち、このように焼結軸受の外周面形状を単純化することにより、個々のプレス面によって焼結軸受の外周面に押圧力を直接かつ均等に作用させることが可能となるので、焼結軸受の内外周面に付与される押圧力が不十分となる箇所が発生し難くなる。したがって、断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受であっても、その外周面形状を上述のように分割されたプレス面によってサイジングされた加工面を連ねて形成すれば、高い寸法精度を確保することができる。
【0013】
上記の構成において、前記外周面形状において、連接する前記加工面の相互間に、前記プレス面の分割位置に倣った線状痕が形成されていてもよい。
【0014】
この場合、完成品たる焼結軸受を見れば、その外周面のサイジングが、分割されたプレス面によりなされたものであることが容易に認識可能となる。
【0015】
上記の構成において、前記外周面形状が、U字形状をなしていてもよい。
【0016】
上記の構成において、焼結軸受は、断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受であって、内周面の表面開口率が5%以上50%未満で、外周面の表面開孔率が20%以上50%以下であり、且つ、外周面の表面開孔率が内周面の表面開孔率よりも大きいことに特徴づけられる。なお、ここでいう表面開口率とは、単位面積当たりに占める、各開孔の面積の総和(総面積)の比率をいい、次の条件で測定されるものである。すなわち、測定器具として、金属顕微鏡:Nikon ECLIPSS ME600、デジタルカメラ:Nikon DXM1200、写真撮影ソフト:Nikon ACT−1 ver.1、及び画像処理ソフト:イノテック製 QUICK GRAINを使用し、写真撮影時のシャッタースピードを0.5秒とし、2値化しきい値を235とした場合の値とする。
【0017】
このようにすれば、焼結軸受の内外周面の表面開孔率が、断面形状が真円形状をなす内外周面形状を有する焼結軸受のそれと同程度となる。しかも、内周面の表面開孔率よりも外周面の表面開孔率が大きくなるように設定されているので、潤滑油を含浸させた状態で使用したときに次のような利点を享受することができる。すなわち、外周面側の表面開孔率が内周面側の表面開孔率よりも大きくなれば、外周面側に潤滑油を内部に保持できる空間がそれだけ多くなる。そして、この外周面側よりも表面開孔率の小さい内周面側には、多くの潤滑油を保持した外周面側から適量の潤滑油が順次供給され、安定した摺動特性を実現される。なお、仮に、内周面側の表面開孔率が外周面側の表面開孔率よりも大きくすれば、潤滑材を保持する空間が主として内周面側に形成されるので、内周面側に潤滑油が過剰に供給され、安定した摺動特性を実現することが困難となる。
【0018】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る焼結体のサイジング装置は、断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結体を収容する収容孔を有するダイと、前記収容孔に収容される前記焼結体の内周面に挿入されるコア軸と、前記収容孔に収容される前記焼結体を上下方向から押圧する上パンチ及び下パンチを備えた焼結体のサイジング装置であって、前記ダイは、固定部と可動押圧部とを備え、前記可動押圧部が、前記収容孔を形成すると共に、円周方向で複数に分割され、各分割部分の移動により前記収容孔を拡縮させるように構成されていることに特徴づけられる。
【0019】
このような構成によれば、円周方向で複数に分割されたダイの可動押圧部を移動させて、収容孔を縮小させることにより、焼結体の外周面をコア軸側に押圧することができる。そのため、従来のように、上パンチと下パンチによる焼結体の上下方向の圧縮のみで、焼結体の内外周面をダイとコア軸に密着させるように変形させる場合よりも、焼結体の外周面に対して直接的且つ均等に押圧力が付与されることになる。したがって、焼結体の内外周面に付与される押圧力が不十分となる箇所が発生し難くなり、結果として高精度なサイジングを行うことが可能となる。
【0020】
なお、サイジング後は、円周方向で複数に分割された各可動押圧部を移動させて、収容孔を拡大させることにより、サイジング後の焼結体の外周面と可動押圧部との接触状態を容易に解除することもできる。したがって、この状態で、サイジング後の焼結体をダイの収容孔から取り出せば、収容孔と焼結体との間でかじりが生じることがなくなるので、高精度なサイジングを維持したまま焼結体を取り出すことが可能となる。
【0021】
上記の構成において、前記ダイの固定部は下方に向かって前記コア軸に近づく方向の傾斜をもったテーパ面を有し、前記可動押圧部が前記テーパ面に沿って上下移動することにより、前記収容孔が拡縮するようになっていることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、可動押圧部をテーパ面に沿って上下移動させるだけで収容孔が拡縮されるので、焼結体のサイジングを簡単且つ確実に実行すること可能となる。
【0023】
上記の構成において、前記可動押圧部を前記固定部に対して下方から弾性支持する弾性部材を備え、前記可動押圧部が前記弾性部材の弾性力に抗して下方に移動することにより、前記収容孔が縮小するようになっていることが好ましい。
【0024】
このようにすれば、可動押圧部をテーパ面に沿って下方へ移動させる力を解除すれば、可動押圧部は弾性部材の弾性力によってテーパ面に沿って自動的に上方へ移動するため、可動押圧部は焼結体の外周面から離間する。したがって、サイジング後の焼結体をダイの収容孔からより簡単に取り出すことが可能となる。
【0025】
上記の構成において、前記可動押圧部の下方への移動が、前記上パンチで前記可動押圧部材を下方へ押圧することにより行なわれるようになっていることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、上パンチの上下方向へのストローク量を制御するだけで、焼結体に付与される全ての押圧力を調整することができるため、焼結体に対して高精度なサイジングを施す上でも極めて有利となる。
【0027】
上記の構成において、前記上パンチが、前記焼結体の上面を押圧する第1押圧面と、前記可動押圧部の上面を押圧する第2押圧面とを有するようにしてもよい。
【0028】
このようにすれば、上パンチの押圧面のうち、可動押圧部の上面を押圧する面と、焼結体の上面を押圧する面とを、別々の面で構成することができる。すなわち、可動押圧部の上面を押圧する面と、焼結体の上面を押圧する面とでは、それぞれ要求される表面性状が異なる場合(通常、焼結体の上面を押圧する面の方が要求される表面性状が厳しくなる)があるため、このように別々の面で構成することで過剰な表面性状を付与するそれぞれの面に適正な表面性状を付与することができるので好ましい。
【0029】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る焼結軸受のサイジング方法は、断面形状が非真円形をなす外周面形状を有する焼結軸受のサイジング方法であって、前記焼結軸受の外周面形状を、円周方向に複数に分割されたプレス面によってサイジングすることに特徴づけられる。
【0030】
このような方法によれば、断面形状が非真円形状をなす焼結軸受の外周面形状が、円周方向に複数に分割されたプレス面によってサイジングされる。そのため、焼結軸受の外周面形状が非真円形状となって複雑化したとしても、個々の分割されたプレス面によって焼結軸受の外周面形状を単純化することができる。このように焼結軸受の外周面形状を単純化することにより、個々のプレス面によって焼結軸受の外周面に押圧力を直接かつ均等に作用させることが可能となるので、焼結軸受の内外周面に付与される押圧力が不十分となる箇所が発生し難くなる。したがって、断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受であっても、その外周面形状によって高精度なサイジングを施すことができ、高い寸法精度を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受等の焼結体に対しも高精度なサイジングを行うことができるので、当該外周面形状を有しつつも、高い寸法精度が確保された焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るサイジング装置の全体構成を示す断面図であって、(b)は、(a)のA−A断面図である。
【図2】本実施形態に係るサイジング装置を使用した焼結軸受のサイジング工程を説明する図である。
【図3】(a)は、本実施形態に係るサイジング装置を使用した焼結軸受のサイジング工程を説明する図であって、(b)は、(a)のB−B断面図である。
【図4】本実施形態に係るサイジング装置を使用した焼結軸受のサイジング工程を説明する図である。
【図5】本実施形態に係るサイジング装置を使用した焼結軸受のサイジング工程を説明する図である。
【図6】本実施形態に係るサイジング装置でサイジングされた焼結軸受の使用例を示す斜視図である。
【図7】(a)は、本実施形態に係るサイジング装置の変形例を示す図であって、(b)は、そのサイジング装置を使用して焼結軸受を実際にサイジングしている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0034】
図1(a),(b)は、本発明の一実施形態に係るサイジング装置の全体構成を例示している。同図に示すように、サイジング装置1は、焼結体としての焼結軸受Wを収容する収容孔2を有するダイ3と、収容孔2に収容された焼結軸受Wの内周面に挿脱可能に上下動するコア軸4と、ダイ3とコア軸4との間に挿脱可能に上下動する上パンチ5と、ダイ3とコア軸4との間に挿脱可能に上下動する下パンチ6とを備えている。なお、本実施形態では、焼結軸受Wとして、図1(b)に示すように、軸直角断面が直線部Waと円弧部WbからなるU字形状をなすものを例にとって説明する。
【0035】
ダイ3は、固定部7と可動押圧部8とを備えている。可動押圧部8は、収容孔2を形成すると共に、円周方向で複数に分割され、各分割部分の移動により収容孔2を拡縮させるように構成されている。詳述すると、可動押圧部8は、図1(b)に示すように、焼結軸受Wの外周面の形状変化の態様が相違する部分毎に分割されている。つまり、可動押圧部8は、焼結軸受Wの直線部Waの外周面を包囲する部分と、焼結軸受Wの円弧部Wbの外周面を包囲する部分とに分割されている。この分割された可動押圧部8の内周面は、サイジング後の焼結軸受Wの外周面が取るべき形状、すなわち、サイジング後の焼結軸受Wの直線部Waと円弧部Wbのそれぞれの外周面が取るべき形状に合致するようになっている。なお、図示例では、焼結軸受Wの円弧部Wbの外周面を包囲する部分で、可動押圧部8がさらに2つに分割されている。付言すれば、可動押圧部8は、焼結軸受Wの外周面の形状変化の態様が相違する部分毎に少なくとも分割されていれば、外周面の形状変化の態様が同一の領域内で、さらに細かく分割されていてもよい。
【0036】
各可動押圧部8は、ダイ3の固定部7に形成されたテーパ面7aに沿って上下方向にスライド可能となっている。各可動押圧部8に対応したテーパ面7aは、下方に向かってコア軸4に近づく方向に傾斜しているため、可動押圧部8をテーパ面7aに沿って上昇させると、収容孔2が拡大してコア軸4との間隔Dが大きくなり、可動押圧部8をテーパ面7aに沿って下降させると、収容孔2が縮小してコア軸4との間隔Dが小さくなるようになっている。
【0037】
また、各可動押圧部8は、弾性部材としてのダンパー機構9によって下方から弾性支持されている。すなわち、可動押圧部8は、テーパ面7aに沿って下降する方向に外部から力を受けない状態では、図1(a)に示すように、テーパ面7aの上端部に位置し、コア軸4との間隔Dが最大となるようになっている。なお、図1(a)に示した例では、各可動押圧部8の上面は、外部から力を受けない状態では、固定部7の上面と同一平面上に位置するようになっている。
【0038】
コア軸4の外周面は、サイジング後の焼結軸受Wの内周面が取るべき形状に合致している。すなわち、この実施形態では、コア軸4の外周面は、サイジング後の焼結軸受Wの直線部Waと円弧部Wbのそれぞれの内周面に適合する形状となっている。
【0039】
上パンチ5は、コア軸4が挿通される貫通孔5aを有する。上パンチ5の下面には、上下方向に高低差を有する押圧面5bが形成されている。下方に突出した押圧面5bの高部面(第1押圧面)5b1は、焼結軸受Wの上面を押圧可能なようにU字形状を呈している。一方、高部面5b1よりも上方に退避した押圧面5bの低部面(第2押圧面)5b2は、ダイ3の可動押圧部8の上面に当接し、その可動押圧部8をダンパー機構9の弾性力に抗してテーパ面7aに沿って下降する方向に押し込むようになっている。
【0040】
下パンチ6は、コア軸4が挿通される貫通孔6aを有する。下パンチ6の上面には、焼結軸受Wの下面を押圧可能なU字形状を呈する押圧面6bが形成されている。
【0041】
なお、本実施形態では、図1(a),(b)に示す状態で、分割された可動押圧部8の内周面と、サイジング前の焼結軸受Wの外周面との間には隙間が形成されている。さらに、焼結軸受Wの外周面(円周方向)に沿って隣接する可動押圧部8の相互間にも、隙間が形成されている。
【0042】
また、サイジング前の焼結軸受Wは、下パンチ6の押圧面6b上に載置された状態で、下パンチ6の押圧面6bの外側(ダイ3の可動押圧部8側)に食み出すように、下パンチ6の押圧面6bの寸法形状が規定されている。これは、下パンチ6の押圧面6bと同一形状をなす上パンチ5の高部面5b1についても同様である。すなわち、サイジング前の焼結軸受Wの上面を上パンチ5の高部面5b1に当接させた場合、焼結軸受Wは高部面5b1の外側に食み出すようになっている。
【0043】
次に、以上のように構成されたサイジング装置1を使用した焼結軸受Wのサイジング方法について説明する。
【0044】
まず、図1(a)に示すように、焼結軸受Wの下面を下パンチ6で支持すると共に、その焼結軸受Wの内周面にコア軸4を挿入する。このとき、図1(b)に示すように、ダイ3の可動押圧部8と、焼結軸受Wの外周面との間には隙間が形成されているので、焼結軸受Wをダイ3に圧入しながら収容孔2に収容する必要がなくなるので、焼結軸受Wを下パンチ6の上に容易にセットすることができる。
【0045】
そして、図1(a),(b)に示す状態から上パンチ5を下降させると、図2に示すように、上パンチ5の押圧面5bの低部面5b2が可動押圧部8の上面に当接する。このとき、上パンチ5の押圧面5bのうち、低部面5b2よりも下方に突出した高部面5b1は、可動押圧部8とコア軸4との間に挿入される。
【0046】
その後、上パンチ5を更に下降させると、可動押圧部8が、ダンパー機構9の弾性力に抗してテーパ面7aに沿って下降する方向に押し込まれる。このとき、可動押圧部8は、テーパ面7aに案内されながら、コア軸4との間の間隔Dを縮小するように、コア軸4側に接近する。そして、図3(a),(b)に示すように、隣接する可動押圧部8の間の隙間がなくなるまで、上パンチ5により可動押圧部8を下方に押し込んだ状態で、焼結軸受Wの上下面が上パンチ5と下パンチ6により押圧され、これと同時に焼結軸受Wの内外周面がコア軸4と可動押圧部8により押圧される。すなわち、上パンチ5の下方へのストローク量により、焼結軸受Wに付与される全ての押圧力が調整される。
【0047】
このようにして焼結軸受Wのサイジングが完了すると、図4に示すように上パンチ5が上昇する。このように上パンチ5が上昇すると、可動押圧部8は、ダンパー機構9による弾性力によりテーパ面7a上を自動的に上昇し、コア軸4との間隔Dが拡大する。その結果、可動押圧部8がサイジング後の焼結軸受Wの外周面から離れ、両者の間に再び隙間が形成される。そして、この状態で下パンチ6が上昇し、図5に示すように、サイジングされた焼結軸受Wがダイ3の上面まで持ち上げられ、ダイ3の上面からサイジングされた焼結軸受Wが取り出される。
【0048】
このようにしてサイジングされた断面U字形状をなす焼結軸受Wは、例えば、図6に示すように、その円弧部Wbの内周面に対応する部分を軸受面として、回転軸Xのスラスト荷重を支持する焼結軸受として使用される。
【0049】
そして、このように製造された焼結軸受Wであれば、内周面の表面開口率が5%以上50%未満で、外周面の表面開孔率が20%以上50%以下であり、且つ、外周面の表面開孔率が内周面の表面開孔率よりも大きくなるようにすることができる。このようにすれば、焼結軸受Wの内外周面の表面開孔率が、断面形状が真円形状をなす内外周面形状を有する焼結軸受のそれと同程度となる。しかも、内周面の表面開孔率よりも外周面の表面開孔率が大きくなるように設定されているので、潤滑油を含浸させた状態で使用したときに次のような利点を享受することができる。すなわち、外周面側の表面開孔率が内周面側の表面開孔率よりも大きくなれば、外周面側に潤滑油を内部に保持できる空間がそれだけ多くなる。そして、この外周面側よりも表面開孔率の小さい内周面側には、多くの潤滑油を保持した外周面側から適量の潤滑油が順次供給され、安定した摺動特性を実現することが可能となる。
【0050】
また、焼結軸受Wの外周面には、図示しないが、分割された可動押圧部8同士の合わせ面に沿う線状痕が形成されている。
【0051】
以上のように本実施形態に係るサイジング装置1によれば、コア軸4との間隔Dが縮小するようにダイ3の分割された可動押圧部8を移動させることにより、焼結軸受Wが収容された収容孔2が縮小されるので、個々の可動押圧部8により焼結軸受Wの外周面形状を単純化しつつ、直接的にコア軸4側に押圧することが可能となる。そのため、従来のように、上パンチと下パンチによる焼結体の上下方向の圧縮のみで、焼結体の内外周面をダイとコア軸に密着させるように変形させる場合よりも、焼結軸受Wの内外周面に直接的に押圧力が付与されることになる。したがって、焼結軸受Wの内外周面に付与される押圧力が不十分となる箇所が発生し難くなり、結果として高精度なサイジングを行うことが可能となる。
【0052】
また、焼結軸受Wのサイジング完了後には、収容孔2が拡大するように各可動押圧部8が移動するので、可動押圧部8はサイジング後の焼結軸受Wの外周面から自動的に離れる。そのため、図5に示したように、サイジング後の焼結軸受Wを取り出す際に、可動押圧部8と焼結軸受Wの外周面との間にかじりが生じることがなく、焼結軸受Wにサイジング不良が発生する割合を確実に低減することが可能となる。
【0053】
なお、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施することができる。例えば、上記の実施形態では、軸直角断面がU字形状をなす焼結軸受Wをサイジングする場合を例にとって説明したが、焼結軸受Wは、それ以外でも、複数の平面で外周面形状が形成される場合(具体的には、外周面形状が四角形などの多角形をなす場合など)や、平面と曲面とを組み合わせて外周面形状が形成される場合(具体的には、長円形状(トラック形状)など)や、曲率の異なる複数の部分円筒面を組み合わせて外周面形状が形成される場合などであってもよい。具体的には、図7(a),(b)に示すように、軸直角断面が四角形をなす焼結軸受Wをサイジングする場合では、断面四角形をなす焼結軸受Wの各辺に対応するように可動押圧部8を分割し、その分割した可動押圧部8をコア軸との間隔を拡縮するように移動可能に構成することで、高精度なサイジングを実現できる。また、断面多角形をなす焼結軸受Wについても、各辺に対応するように可動押圧部8を分割すれば、同様に高精度なサイジングを実現できる。
【符号の説明】
【0054】
1 サイジング装置
2 収容孔
3 ダイ
4 コア軸
5 上パンチ
5a 貫通孔
5b 押圧面
5b1 高部面
5b2 低部面
6 下パンチ
6a 貫通孔
6b 押圧面
7 固定部
7a テーパ面
8 可動押圧部
9 ダンパー機構
W 焼結体
Wa 直線部
Wb 円弧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結軸受であって、
前記外周面形状が、円周方向で複数に分割されたプレス面のそれぞれによってサイジングされた加工面を連ねて形成されていることを特徴とする焼結軸受。
【請求項2】
前記外周面形状において、連接する前記加工面の相互間に、前記プレス面の分割位置に倣った線状痕が形成されている請求項1に記載の焼結軸受。
【請求項3】
前記外周面形状が、U字形状をなす請求項1又は2に記載の焼結軸受。
【請求項4】
内周面の表面開口率が5%以上50%未満で、外周面の表面開孔率が20%以上50%以下であり、且つ、外周面の表面開孔率が内周面の表面開孔率よりも大きい請求項1〜3のいずれか1項に記載の焼結軸受。
【請求項5】
断面形状が非真円形状をなす外周面形状を有する焼結体を収容する収容孔を有するダイと、前記収容孔に収容される前記焼結体の内周面に挿入されるコア軸と、前記収容孔に収容される前記焼結体を上下方向から押圧する上パンチ及び下パンチを備えた焼結体のサイジング装置であって、
前記ダイは、固定部と可動押圧部とを備え、
前記可動押圧部が、前記収容孔を形成すると共に、円周方向で複数に分割され、各分割部分の移動により前記収容孔を拡縮させるように構成されていることを特徴とする焼結体のサイジング装置。
【請求項6】
前記ダイの固定部は下方に向かって前記コア軸に近づく方向の傾斜をもったテーパ面を有し、前記可動押圧部が前記テーパ面に沿って上下移動することにより、前記収容孔が拡縮する請求項5に記載の焼結体のサイジング装置。
【請求項7】
前記可動押圧部を前記固定部に対して下方から弾性支持する弾性部材を備え、前記可動押圧部が前記弾性部材の弾性力に抗して下方に移動することにより、前記収容孔が縮小する請求項6に記載の焼結体のサイジング装置。
【請求項8】
前記可動押圧部の下方への移動が、前記上パンチで前記可動押圧部材を下方へ押圧することにより行なわれる請求項5又は6に記載の焼結体のサイジング装置。
【請求項9】
前記上パンチが、前記焼結体の上面を押圧する第1押圧面と、前記可動押圧部の上面を押圧する第2押圧面とを有する請求項8に記載の焼結体のサイジング装置。
【請求項10】
断面形状が非真円形をなす外周面形状を有する焼結軸受のサイジング方法であって、
前記焼結軸受の外周面形状を、円周方向に複数に分割されたプレス面によってサイジングすることを特徴とする焼結軸受のサイジング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−74953(P2011−74953A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224617(P2009−224617)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】