説明

焼結部品の製造方法と粉末成形装置

【課題】粉末成形装置の上パンチに付着した異物が落下してキャビティ内原料粉末に混入する事態をなくし、金型潤滑成形法で原料粉末を成形して製造される焼結部品の生産歩留まりを向上させることを課題としている。
【解決手段】少なくともダイ1と、上パンチ2と、下パンチ3を備える金型を使用して原料粉末Pの圧縮成形を金型潤滑法で行う焼結部品の製造方法において、上パンチ2の周囲をダクト6で覆い、そのダクト6の内部を吸引装置7で吸引して上パンチ2の表面に付着した異物を吸引回収するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型潤滑法を用いて原料粉末のプレス成形を行う焼結部品の製造方法とその方法で利用する粉末成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結部品は、原料粉末を金型で成形し、得られた粉末成形体を焼結して製造される。この方法での粉末成形法のひとつに金型潤滑成形法がある。その金型潤滑成形法は、金型の表面(摺動面や成形面)に潤滑剤の膜を形成して原料粉末を成形する方法である。この方法は、原料粉末に潤滑剤を添加して潤滑を行う方法に比べて焼結部品の密度低下が抑えられる。そのために、粉末成形体の平均密度が鉄系粉末使用時で例えば7.2g/cmを越えるような高密度焼結部品の製造に利用されている。
【0003】
その金型潤滑成形法は、例えば、下記特許文献1などに開示されている。同文献1に開示された粉末成形体の成形方法は、潤滑剤を水に分散させた溶液を金型に噴霧した後に水を蒸発させることで金型表面に潤滑層を形成する。そして、この状態で金型のキャビティに対する原料粉末の充填と粉末の圧縮成形を行う。これ以外に、金型の内部に設けた供給路を通して潤滑剤金型の摺動面に滲み出させ、金型を構成する要素の相対移動を利用して金型の表面に潤滑剤を塗布する方法や、摩擦帯電により粉末潤滑剤を帯電させて金型壁面に塗布する方法などもある。
【0004】
粉末成形では、ダイと下パンチと上パンチを組み合わせ、必要に応じてコアロッドを加えた金型が使用される。その金型のダイと下パンチとの間などに作り出されるキャビティに原料粉末を充填し、その粉末を対向した上パンチと下パンチで圧縮して粉末成形体を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−322156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した金型潤滑成形法では、キャビティに充填した原料粉末が金型の表面に付着した潤滑剤と混じり合って両者の混合物ができる。その混合物は、ダイの成形穴とその穴に挿入される上パンチの外周との間に摺動隙間があることから上パンチの外周に付着する。
【0007】
その付着した混合物の堆積量は、粉末成形体の成形個数が増加するにつれて徐々に増加する。そして、堆積した混合物があるタイミングで上パンチから剥がれて給粉前の下パンチ上面やキャビティに投入された給粉後の原料粉末上に落下することがある。その状態でキャビティに充填された原料粉末を圧縮すると、混合物に含まれている潤滑剤の影響でキュアリング後の粉末成形体にいわゆる巣が発生して得られる焼結部品が品質不良となる。
【0008】
上パンチに対する混合物の付着は、上パンチとダイの間に不可避の摺動隙間があるため防止することができない。そのために、混合物の付着に起因した品質不良の問題が発生し、生産の歩留まりが低下していた。
【0009】
この発明は、上パンチに付着した異物が落下して原料粉末に混入する問題をなくして金型潤滑成形法で原料粉末を成形して製造される焼結部品の生産歩留まりを向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、少なくともダイと、上パンチと、下パンチを備える金型を使用して原料粉末の圧縮成形を金型潤滑法で行う焼結部品の製造方法において、上パンチの周囲をダクトで覆い、そのダクトの内部を吸引して上パンチの表面に付着した異物を吸引回収するようにした。
【0011】
この方法での原料粉末の成形は、少なくともダイと、上パンチと、下パンチを備える粉末成形用の金型と、この金型の表面に潤滑剤の膜を形成する潤滑剤塗布装置と、金型のキャビティに原料粉末を充填する給粉装置と、前記上パンチの周囲を覆うダクトと、そのダクトの内部を吸引する吸引装置とを備えた粉末成形装置を使用して行う。この発明は、その粉末成形装置も併せて提供する。
【0012】
この粉末成形装置のダクトは、軸方向スライド可能な構造であって、上パンチがダイの成形穴の入口を塞ぐのと同時に、或はその前後にダイに受け止められるようにして受け止められた位置から上パンチに対して軸方向に相対的にスライドさせると好ましい。
【0013】
その場合、上パンチに対するダクトの軸方向スライド量の許容上限値を、相対スライドが開始された位置から下死点までの上パンチ移動量と同一又はそれよりも大に設定する。上パンチ降下時に同時に降下したダクトは、上パンチの移動と共に原位置に連れ戻すことができる。
【0014】
前記ダクトの吸引は、常時吸引も許容されるが、粉末の成形が完了して上パンチがダイから抜き出されるときに一時的に吸引を行ってもよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の方法によれば、上パンチの表面に付着した異物(潤滑剤と原料粉末の混合物)がダクト内に発生させた気流によって強制的に吸引回収される。そのために、上パンチの表面での異物の堆積、成長が起こらず、粉末成形体に対する異物の混入、それによる焼結部品の品質不良が防止されて生産の歩留まりが向上する。
【0016】
なお、ダクトを軸方向スライド自在に取り付けることで、軸方向の寸法規制を受けるときにもダクトが上パンチの移動の妨げになることを回避することができる。
【0017】
また、ダクトの吸引は、適正な時期に時間を制限して行うと吸引の無駄がない。上パンチの表面に混合物が付着した後でなければ吸引しても意味がない。また、付着後の回収時期が早いほど付着した混合物の落下の確率が小さくなる。従って、粉末の成形が完了して上パンチがダイから抜き出されるときに一時的に吸引を行うことが推奨される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の粉末成形装置の一例の概要を示す断面図
【図2】図1の装置の要部の拡大断面図
【図3】図1の粉末成形装置のキャビティに原料粉末を充填した状態を示す断面図
【図4】図1の粉末成形装置での圧粉成形工程を示す断面図
【図5】図1の粉末成形装置での粉末成形体の払い出し工程を示す断面図
【図6】ダクト復帰構造の他の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面の図1〜図6に基づいてこの発明の製造方法と粉末成形装置の実施の形態を説明する。
この発明の粉末成形装置の一例の概要を図1に示す。図1の粉末成形装置は、ダイ1と、上パンチ2と、この上パンチ2に対向させた下パンチ3を組み合わせた金型を有している。また、その金型の表面に潤滑剤の膜を形成する潤滑剤塗布装置4と、進退するシューボックス5aを使用して金型のキャビティに原料粉末を充填する給粉装置5と、上パンチ2の周囲を覆うダクト6と、そのダクト6の内部を吸引する吸引装置7を備えている。
【0020】
金型にはコアロッドが含まれていてもよく、パンチが複数の分割体で形成されていても構わない。
【0021】
ダイ1は、昇降可能なダイプレート8に支持されている。このダイ1は、上下面に貫通した成形穴1aを備えており、その成形穴1aに下パンチ3の先端側が挿入され、ダイ1と下パンチ3によって金型のキャビティ9が作り出される。
【0022】
上パンチ2はプレス機の上ラム(図示せず)に駆動される上パンチプレート10によって、下パンチ3はベースプレート11によってそれぞれ支持されている。
【0023】
ダクト6は、上パンチプレート10に設けられている。このダクト6は、上パンチ2に対して軸方向スライド可能に取り付け、上パンチ2の先端(下端)外周を覆う位置に保持されるようにしている。
【0024】
ダクト6は、ノズル部6−1とノズル保持部6−2からなる。このダクト6の保持は、図示の装置においては、図2に示すように、ノズル保持部6−2を上パンチプレート10に設置することによって行っている。ノズル部6−1は、上パンチ2の外周形状を包含する筒状であり、ノズル保持部6−2によって保持される。上パンチ2に対してノズル部6−1が許容下限まで相対的に下降した位置でノズル部6−1がノズル保持部6−2に受け支えられる。このように構成することで、上パンチプレート10が上昇するときにノズル保持部6−2とノズル部6−1を上昇させることができる。
【0025】
上パンチに対して相対的にスライドしたノズル部6−1は、上パンチ2が上昇するときにノズル保持部6−2との係合点まで自重で相対的に滑り落ちる。また、図6に示すように、上パンチホルダ12との間にスプリング13を介在させてそのスプリング13の力で原位置に復帰させてもよい。
【0026】
ノズル部6−1の下端は、軸方向の凸部や切り欠きなどを点在させてその下端がダイ1の上面に接しているときにダイ1とノズル部6−1との間に外気吸い込み用の隙間が形成されるようにしておくことができる。
【0027】
吸引装置7は、吸引源7aとノズル保持部6−2を吸引源7aに接続するホース7bとで構成されたものを用いている。ノズル部6−1の先端は開口しており、吸引源7aを作動させるとその先端開口からダクト6の内部に外気が吸い込まれる。
【0028】
このように構成された粉末成形装置の金型の表面に潤滑剤の膜を形成した後、シューボックス5aを有する給粉装置5(その一部のみを図示)を使用してキャビティ9に原料粉末Pを充填し、その原料粉末Pを上下のパンチで圧縮して所望の形状に成形する。
【0029】
潤滑剤塗布装置4は、金型上方から潤滑剤を分散させた溶液や粉末を金型の表面に塗布して潤滑剤の膜を形成する。
【0030】
金型の表面に潤滑剤の膜を形成し終えたらキャビティ9に原料粉末Pを供給する(図3参照)。給粉装置5による原料粉末のキャビティへの供給充填は、シューボックス5aをキャビティ9上に移動させてシューボックス5a内に供給された原料粉末Pをキャビティ9に落とし込む方法(これは周知)でなされる。
【0031】
キャビティ9に対する粉末充填後に上パンチ2を作動させる。このとき、ダクト6も上パンチ2と一緒に降下する。そのダクト6は、ダイ1に受け止められた位置で移動を停止し、その後、上パンチ2のみが下降を続けてキャビティ9内の原料粉末Pの圧縮成形がなされる(図4参照)。
【0032】
成形が完了したら、ダイ1を成形完了点からさらに引き下げて得られた粉末成形体Aをキャビティ9から抜き出す(図5参照)。このとき、粉末成形体Aに先行してキャビティ9から抜き出される上パンチ2の外周には、潤滑剤と原料粉末の混合物が付着している。
【0033】
そこで、上パンチ2の復帰開始信号などをきっかけにして吸引装置7の吸引源7aを作動させる。これにより、ダクト6の内部に気流が発生し、上パンチ2の外周に付着した潤滑剤と原料粉末の混合物などの異物がその気流に接して吸い取られる。
【0034】
そのために、上パンチ2の表面での異物の堆積、成長が起こらず、堆積した異物がキャビティの底に現われた下パンチ3の成形面や、キャビティ9にこの後に充填される原料粉末上に落下することがなくなる。
【0035】
これにより、落下異物に起因した焼結部品の品質不良の発生が防止され、生産の歩留まりが向上する。
【実施例1】
【0036】
日本粉末冶金工業会規格 SMF4030相当の鉄、炭素、銅系金属粉末を金型潤滑法で成形して粉末成形体を得た。そしてその粉末成形体を焼結して焼結後密度が7.6g/cmの自動車用部品を製造した。
【0037】
その製造は、上パンチの表面に付着した潤滑剤と原料粉末の混合物を積極的に除去しない従来法と、上パンチの外周を覆うダクトを設けて付着した混合物を積極的に吸引回収するこの発明の方法の2通りで行った。その結果、部品の端面に巣ができて不良と判定された焼結部品の1ヶ月の生産総数当たりの割合は、従来法で0.5%であったのが、この発明の方法では0%に減少した。
【符号の説明】
【0038】
1 ダイ
1a 成形穴
2 上パンチ
3 下パンチ
4 潤滑剤塗布装置
5 給粉装置
5a シューボックス
6 ダクト
6−1 ノズル部
6−2 ノズル保持部
7 吸引装置
7a 吸引源
7b ホース
8 ダイプレート
9 キャビティ
10 上パンチプレート
11 ベースプレート
12 上パンチホルダ
13 スプリング
P 原料粉末
A 粉末成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともダイ(1)と、上パンチ(2)と、下パンチ(3)を備える金型を使用して
原料粉末の圧縮成形を金型潤滑法で行う焼結部品の製造方法において、
前記上パンチ(2)の周囲をダクト(6)で覆い、そのダクト(6)の内部を吸引して上パンチ(2)の表面に付着した異物を吸引回収することを特徴とする焼結部品の製造方法。
【請求項2】
前記ダクト(6)は、軸方向スライド可能な構造であって、このダクト(6)がダイ(1)に受け止められた位置から当該ダクト(6)を上パンチ(2)に対して軸方向に相対的にスライドさせて上パンチ(2)をダイ(1)の成形穴(1a)に入り込ませる請求項1に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項3】
少なくともダイ(1)と、上パンチ(2)と、下パンチ(3)を備える粉末成形用の金型と、この金型の表面に潤滑剤の膜を形成する潤滑剤塗布装置(4)と、金型のキャビティ(9)に原料粉末(P)を充填する給粉装置(5)と、前記上パンチ(2)の周囲を覆うダクト(6)と、そのダクト(6)の内部を吸引する吸引装置(7)とを備えた粉末成形装置。
【請求項4】
前記ダクト(6)を軸方スライド可能な構造とし、このダクト(6)の上パンチ(2)に対する軸方向スライドの許容上限値をダイ(1)の成形穴(1a)に対する上パンチ(2)の入り込み量と同一又はそれよりも大に設定した請求項3に記載の粉末成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−236447(P2011−236447A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106392(P2010−106392)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】