説明

焼結部品の製造方法

【課題】高密度部と低密度部とを有する焼結部品を圧縮成形するにあたり、高密度部から低密度部への肉の流出を抑えて高密度部をより高密度化する。
【解決手段】歯部側余肉部(高密度側余肉部)15aが形成された歯部成形部(高密度成形部)15と、内周部成形部(低密度成形部)13と、歯部成形部15と低密度成形部13とを連結し、内周部成形部13の突出方向とは反対側の他方側に低密度部(内周部)3側から歯部成形部15側に向かって次第に肉厚が増大する段部側余肉部14aが形成された段部成形部14とを有する焼結素材11Bの外周面(歯面)を拘束し、歯部側余肉部15aを潰して歯部(高密度部)5を成形し、また、段部成形部14の段部側余肉部14aを潰して内周部3との間に段部4を成形する。歯部成形部15から段部成形部14に流出する肉に、段部成形部14で起きる肉の流動を対向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末冶金法によって製造される焼結金属製の各種歯車や環状部品等の焼結部品の製造方法に係るもので、耐摩耗性の向上を図る改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の焼結部品の多くは鉄系合金であり、粉末を圧縮成形して焼結した密度は6.8〜7.2Mg/m程度である。スプロケット(鎖歯車)や負荷が大きい歯車等にあっては歯面の耐摩耗性が他の部位よりも必要とされ、そのための一手段としては高密度化が有効である。高密度化の方法として、鉄系焼結体の場合には熱間鍛造が挙げられる。熱間鍛造を行うと気孔がほとんどない高密度な部品を得ることができるが、全体を高密度化する必要のない焼結部品では過剰品質となり、また、重量が重くなってしまうほか、振動減衰作用や含油できるといった多孔質体が有する利点が損なわれる短所がある。また、熱間鍛造は、ワークを高温下で圧縮する装置が必要であり、また、加熱されている最中のワークの酸化を防止をする配慮が必要なため、煩雑かつコスト高になるという欠点がある。
【0003】
高密度化させる別の方法としては、特許文献1に記載されるように、焼結体の冷間鍛造があり、また、特に焼結歯車の歯面を高密度化(緻密化)する方法としては、特許文献2に記載されるように、歯車転造がある。焼結体の転造は、内部気孔は転造前と変わらず、転造された歯面の表層のみが高密度化し、ピッチング耐摩耗性が改善されて歯車精度が良好な焼結歯車が得られるとされている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−253372号公報
【特許文献2】特公昭48−33137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載される冷間鍛造は、室温での圧縮で歯車を高密度化できるという特長がある。しかしながら、タブレット状の焼結体からなる素材(以下、焼結素材)を、金型内で圧縮して押し広げ、ダイに密着させて歯形を成形するので、高い圧力が必要であり、比較的歯丈が高い歯車では歯先の密度が低くなりやすいといった不都合な面がある。また、冷間鍛造により真密度に近い状態に圧縮する場合では、焼結素材の重量にばらつきがあることから、重量が所定より大きな焼結素材を所定寸法まで圧縮するといった場合も生じてくる。これは金型が破損しやすくなるため回避せねばならず、したがって熱間鍛造する場合と同様に、バリや余肉ができるような大きめの金型を用いることになるが、そうするとバリや余肉の除去工程が必要になって工程数の増加を招く。
【0006】
一方、特許文献2に記載される焼結歯車の転造は、歯車の歯面および歯底面が高密度化されて高い寸法精度で仕上げることができるとともに耐摩耗性を付与することができるといった特長がある。しかしながら、転造する時間が比較的長くかかるという課題がある。また、比較的モジュールが小さい歯車では、転造代を大きくできないことがあるため、均一な高密度化が難しく、また、歯部や軸孔部の高密度化には適さないという面もある。
【0007】
そこで、焼結歯車の場合においては、図7〜図9に示すように、歯部の部分だけ厚さを大きくして、その部分を再圧工程で厚さ方向に圧縮して歯部を高密度化するといった方法が考えられた。この方法は上記冷間鍛造と同様の原理であるが、歯部の部分だけ圧縮するためにパンチの加圧力が低減できて金型の負担が軽減されるといった利点を有している。図7(a)、(b)は製造すべき焼結体からなるスプロケット31の側面図および断面図を示しており、このスプロケット31の歯部35を高密度化すべく、図8に示すように、焼結素材41においては歯部35に相当する部分の歯部成形部45の厚さ方向の両側に所定厚さの余肉部45aを予め形成しておき、この焼結素材41の歯面および軸孔42の内周面42aを、それぞれダイ51およびコアロッド52で拘束し、図9(a)に示すように、上下のパンチ53,54で余肉部45aを圧縮する。すると、図9(b)〜(c)に示すように、余肉部45aが潰れて歯部成形部45が圧縮され、圧縮後の歯部35が高密度化する。
【0008】
ところがこの方法では、図9(c)に示すように、歯部においては矢印Aの方向に単に圧縮方向に肉が潰れるだけでなく、矢印A’の方向に径方向内側に肉が絞り出される塑性流動が生じるといった挙動が起こり、このため、いくら厚さ方向に圧縮しても圧縮されるべき肉が径方向内側に流出してしまい、高密度化するにも限度があった。図9(d)は、この方法で歯部35を高密度化した場合のスプロケット31の密度分布の例を示しており、高密度化された歯部31から、歯部31のない内周部33にかけては、密度が徐々に傾斜する領域が比較的広い範囲で存在し、これは、歯部31から内周部33に向かって塑性流動する肉の量が多いことを示している。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、高密度部と低密度部とを有する焼結部品を圧縮成形するにあたり、高密度部から低密度部への肉の流出を抑えて高密度部をより高密度化することができ、もって高密度部と低密度部とを比較的明確に分けて形成することができる焼結部品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、高密度部と、この高密度部よりも密度が低い低密度部と、これら高密度部と低密度部とを連結する段部とを備えた焼結部品の製造方法であって、圧縮方向が、前記高密度部と前記低密度部が並ぶ方向と交差する方向であり、圧縮前の素材として、圧縮方向の両側に高密度側余肉部が形成され、圧縮成形されて前記高密度部を形成する高密度成形部と、この高密度成形部に対して圧縮方向の一方向にずれた状態で配置され、圧縮成形後に前記低密度部とされる低密度成形部と、これら高密度成形部と低密度成形部とを連結し、圧縮方向の前記一方向とは反対側の他方側に、前記低密度成形部側から前記高密度成形部側に向かって次第に肉厚が増大する段部側余肉部が形成され、圧縮成形後に前記段部を形成する段部成形部とを有する焼結体からなる焼結素材を用意し、この焼結素材の外周を拘束した状態で、該高密度成形部を圧縮して前記高密度側余肉部を潰すことにより前記高密度部を成形するとともに、前記段部成形部の少なくとも前記段部側余肉部を圧縮して潰すことにより、前記高密度部と前記低密度部との間に段部を成形して、前記高密度部と、前記低密度部と、これら高密度部と低密度部とを連結する前記段部とを有する焼結部品を得ることを特徴としている。
【0011】
本発明によると、例えば図7で示したようなスプロケットを製造する場合において、歯部が高密度部、歯部の内周側の内周部が低密度部とされ、両者の間に新たに段部が形成されたスプロケットを製造することになる。その場合、焼結素材の高密度成形部を厚さ方向に圧縮して余肉部を潰すと、図9(c)で示したように歯部においては内周部方向すなわち低密度部方向に流出する肉が生じ、本発明の場合は、拘束されている側面とは反対側の段部成形部の方向に肉が流出することになる。
【0012】
ところが本発明の焼結素材は、段部成形部の、高密度成形部に対して低密度成形部がずれている一方向(一方の厚さ方向)とは反対側に段部側余肉部があり、この段部側余肉部が同時に圧縮されることにより、段部成形部において、圧縮方向に向かって真っ直ぐに塑性流動する肉の他に、段部の形状に応じて、高密度成形部の方向に塑性流動する肉が生じる。すなわち、段部成形部では、高密度成形部から段部成形部に流出してくる肉に対向する肉の動きが生じる。この対向する一部の肉の流動によって、高密度成形部から段部成形部に流出してくる肉の動きが抑えられ、その結果、高密度成形部の圧縮度が高くなり、圧縮成形後の高密度部が効果的に高密度化される。
【0013】
図9で示したような従来方法でも、歯部の余肉部の厚さを大きくすれば、内周部への肉の流出はあるものの圧縮度は高まって歯部の高密度化は可能ではある。しかしながらこのような方法を採ると、金型に対する負担が大きいため、金型の大型化や圧縮容量の増大など、装置にかかる負担も増えるといった問題を招く。ところが本発明の場合は、焼結素材に段部成形部を設けるとともに段部側余肉部を形成し、圧縮時に高密度部成形部から段部成形部方向への肉の流出を抑えるので、圧縮容量を大きくせずとも高密度部を高密度部化することができるため、金型の大型化など、生産上の負担の増大が抑えられるという利点もある。
【0014】
本発明では、圧縮された段部成形部の肉の一部が高密度成形部の方向に流動し、高密度成形部から段部成形部方向に流動する肉を有効に阻止して高密度成形部の圧縮度を高めるために、成形後の焼結部品における高密度部の圧縮方向寸法に相当する厚さh1と段部が形成されたことによる低密度部の高密度部に対する段差量h2との比:h2/h1が、1/4以上であることを、好ましい条件としている。
【0015】
また、成形後の焼結部品の段部の断面形状の例としては、直線状や弧状等が挙げられる。直線状の場合には、高密度部に対する段部の傾斜角度が10°以上90°未満であることが望ましい条件である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高密度部を圧縮成形する際に、その高密度部の圧縮度の向上を損ねる肉の流出が抑えられる形状に焼結素材を形成したことにより、圧縮成形後の高密度部が効果的に高密度化され、高密度部と低密度部とが比較的明確に分かれた焼結部品を容易に製造することができるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
図1は、一実施形態の製造方法で製造された焼結体からなるスプロケット(焼結部品)1Aを示しており、このスプロケット1Aは、シャフトが嵌合固定される軸孔2が中心に形成された環状の内周部(低密度部)3と、この内周部の周囲に形成された笠状の段部4と、この段部4の周囲に形成された歯部(高密度部)5とを有する均一厚さのスプロケットである。歯部5には、多数の歯5aが周方向に等間隔をおいて形成され、各歯5a間には歯溝5bが存在している。
【0018】
このスプロケット1Aは、焼結体からなる焼結素材を厚さ方向に再圧して得られたものであり、歯部5が高密度(7.6Mg/m以上)、内周部3が歯部5よりも低密度(7.2Mg/m程度)に成形されている。内周部3は段部4が形成されていることにより歯部5に対して一方の厚さ方向(図1(b)で上方)にずれており、歯部5と内周部3の面方向は平行とされている。
【0019】
図1(c)に示すように、歯部5と内周部3とを連結する段部4は、その断面形状が直線状であり、歯部5に対する傾斜角度θは、10°以上、かつ90°未満の範囲内に設定されている。また、歯部5の厚さ(スプロケット1A全体の厚さであるが)h1と、内周部3の段差量h2との比:h2/h1は、1/4以上に設定されている。このスプロケット1Aの場合、内周部3と歯部5の径方向長さは同等程度であり、段部4の径方向長さは、例えば内周部3の半分程度とされている。
【0020】
次に、このスプロケット1Aを製造する再圧の工程を説明する。
図2は、スプロケット1Aに再圧成形される前の焼結体からなる素材(以下、焼結素材)11Aを金型20によって厚さ方向に圧縮する前の準備段階を示している。焼結素材11Aはスプロケット1Aと相似形状をしており、軸孔12が中心に形成された内周部成形部(低密度成形部)13と、この内周部成形部13の周囲に形成された笠状の段部成形部14と、この段部成形部14の周囲に形成された歯部成形部(高密度成形部)15とが一体成形された焼結体である。歯部成形部15には、多数の歯が周方向に等間隔をおいて形成されている。段部成形部14は歯部成形部15の内周端から一方の厚さ方向(図2で上方)に盛り上がりながら内周側に直線状に延びており、この段部成形部14の内周端から、内周部成形部13が歯部成形部15と平行に内周側に延びている。内周部成形部13は段部成形部14があることにより、歯部成形部15に対して一方の厚さ方向(図2で上方)にずれた状態で配置されていると言える。
【0021】
歯部成形部15の両面すなわち図2中上下の端面には、一定厚さの歯部側余肉部(高密度側余肉部、破線よりも外面側の厚さ部分)15aがそれぞれ形成されており、歯部成形部15は他の部分よりも厚く形成されている。また、段部成形部14の、歯部成形部15から内周部成形部13に盛り上がる方向、すなわち上方とは反対側の面である下面には、内周部成形部13側から歯部成形部15側に向かって次第に肉厚が増大し、歯部成形部15の下側の面に段差なく連続する断面三角形状の段部側余肉部14aが形成されている。内周部成形部13の厚さは、この場合、再圧後の内周部3とほぼ同じ厚さとされている。
【0022】
金型20は、焼結素材11Aの外周面である歯面(反対側の側面)が摺動自在に嵌合する円筒内壁面21aを有するダイ21と、ダイ21内に同軸的に嵌合された焼結素材11Aの軸孔12に摺動自在に挿入されるコアロッド22と、焼結素材11Aの上下の端面を押し付けて焼結素材11Aを厚さ方向に圧縮する上下の円筒状パンチ23,24とから構成されている。上下のパンチ23,24のパンチ面は、それぞれが再圧後のスプロケット1Aの上下の端面に対応した寸法および形状を有している。
【0023】
図2に示すように、焼結素材11Aは、ダイ21内に、内周部成形部13が上方に突出し、かつ、歯面が円筒内壁面21aに嵌合して径方向への移動が不能なように拘束される。また、軸孔12にコアロッド22が挿入されて内周面12aが径方向に移動不能なように拘束される。このようなセット状態から、焼結素材11Aは、上下のパンチ23,24が焼結素材11A側に移動することにより再圧される。上下のパンチ23,24の各パンチ面は、それぞれ再圧後のスプロケット1Aの上面および下面と寸法および形状が同一とされており、このため、上下のパンチ23,24が焼結素材11Aに当接すると、歯部成形部15の上下の端面に歯部側余肉部15aが形成されていることにより、上パンチ23は歯部成形部15の歯部余肉部15aの上面のみに、また、下パンチ24は歯部成形部15の歯部余肉部15aの下面のみに当たり、段部成形部14と内周部3との間には隙間が形成される。
【0024】
図3(a)に示すように、上下のパンチ23,24が互いに近付く圧縮動作が始まると、まず、歯部側余肉部15aが潰れていき、さらに図3(b)に示すように、下パンチ24によって段部成形部14の段部側余肉部14aが外周側から潰れていく。そして、図3(c)〜(d)に示すように、さらに歯部側余肉部15aが潰れていくとともに段部側余肉部14aが潰れていき、上下のパンチ23,24がそれぞれ焼結素材11Aの上下の端面全面に密着した状態か、さらにそれから僅かに全体が圧縮されて、焼結素材11Aの再圧が終わり、図1に示したスプロケット1Aが得られる。
【0025】
このような圧縮動作において、歯部成形部15が、図3(a)〜(c)の矢印Aのように厚さ方向に圧縮されて歯部側余肉部15aが潰れていくと、歯部成形部15においては、歯面がダイ21で拘束されていて外周方向には肉の塑性流動が起こらない代わりに、歯面とは反対側の段部成形部14の方向に肉が流出していく。一方、歯部成形部15に対して傾斜する段部側余肉部14aが圧縮されると、図3(b),(c)に示すように、段部成形部14には、圧縮方向Bと、これに直交して外周側に向かう方向Cとの分力D方向に肉が塑性流動する現象が生じる。
【0026】
この肉の分力D方向の肉の流動は、図3(d)に示すように、歯部成形部15から段部成形部14の方向A’に流出してくる肉に対向する方向D’の肉の流動として作用する。この対向方向D’の肉の流動によって、歯部成形部15から段部成形部14に流出してくる肉の動きが抑えられ、その結果、歯部成形部15の圧縮度が高くなり、圧縮成形後の歯部5が効果的に高密度化される。図3(e)は、本実施形態で得られたスプロケット1Aの密度分布の例を示しており、高密度の歯部5と低密度の内周部3との間の段部4に密度分布の傾斜する領域が狭い範囲で形成されており、高密度な歯部5と低密度な内周部3とが比較的明確に分かれたものとなっている。
【0027】
上記スプロケット1Aは、段部4の断面形状が直線状であったが、本発明では、図4に示すような、段部4の断面が円弧状のスプロケット1Bにも適用することができる。図5は、このスプロケット1Bの再圧前の焼結素材11Bと、再圧用の金型20を示している。この場合の焼結素材11Bも、歯部成形部15、段部成形部14および内周部成形部13を有しており、歯部成形部15の両面には均一厚さの歯部側余肉部15aが形成され、段部成形部14の下面側には、下面が直線的に傾斜する段部側余肉部14aが形成されている。金型20は、図2に示したダイ21とコアロッドが流用されるが、上下のパンチ23,24は、スプロケット1Bの上下の端面に対応したものが用いられ、特に段部4を形成し得る形状となっている。なお、この場合のスプロケット1Bも、スプロケット1Aと同様に、歯部5の厚さh1と、内周部3の段差量h2との比:h2/h1は、1/4以上に設定されている。
【0028】
図6(a)〜(c)は、上下のパンチ23,24で焼結素材11Bを厚さ方向に圧縮している状態を示しており、この場合には、図6(a)に示すように、まず、上パンチ23によって歯部5形成部の上側の歯部側余肉部15aが圧縮されるとともに、下パンチ24によって段部側余肉部14aが圧縮され、続いて、図6(b)に示すように、歯部成形部15が上下から圧縮されると同時に、さらに段部側余肉部14aが圧縮される。
【0029】
この場合にも、段部側余肉部14aが圧縮される過程で、図6(a),(b)に示すように、段部成形部14には、圧縮方向Bと、これに直交して外周側に向かう方向Cとの分力D方向に肉が塑性流動する現象が生じる。そして、分力D方向の肉の流動は、図6(c)に示すように、歯部成形部15から段部成形部14の方向A’に流出してくる肉に対向する方向D’の肉の流動として作用し、歯部成形部15から段部成形部14に流出してくる肉の動きが抑えられ、その結果、圧縮成形後の歯部5が効果的に高密度化される。図6(d)は、この実施形態で得られたスプロケット1Bの密度分布の例を示しており、高密度の歯部5と低密度の内周部3との間の段部4に密度分布の傾斜する領域が狭い範囲で形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、上記実施形態のようなスプロケットのほか、オイルポンプロータ、減速機用歯車、歯付きベルトプーリ等の、必要な部位に高密度部を有する焼結部品を製造する際に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態の製造方法で製造されるスプロケットの(a)側面図、(b)断面図、(c)拡大断面図である。
【図2】一実施形態で用いられる焼結素材が金型にセットされた状態を示す断面図である。
【図3】(a)〜(d)は一実施形態の製造方法での圧縮過程を示す断面図、(e)は製造後のスプロケットの密度分布を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態のスプロケットの(a)側面図、(b)断面図、(c)拡大断面図である。
【図5】他の実施形態の焼結素材が金型にセットされた状態の断面図である。
【図6】(a)〜(c)は他の実施形態の製造方法での圧縮過程を示す断面図、(d)は製造後のスプロケットの密度分布を示す断面図である。
【図7】一従来方法で製造されるスプロケットの(a)側面図、(b)断面図である。
【図8】一従来方法で用いられる焼結素材が金型にセットされた状態を示す断面図である。
【図9】(a)〜(c)は一従来方法での圧縮過程を示す断面図、(d)は製造後のスプロケットの密度分布を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1A,1B…スプロケット(焼結部品)
3…内周部(低密度部)
4…段部
5…歯部(高密度部)
11A,11B…焼結素材
13…内周部成形部(低密度成形部)
14a…段部側余肉部
14…段部成形部
15a…歯部側余肉部(高密度側余肉部)
15…歯部成形部(高密度成形部)
h1…厚さ
h2…段差量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度部と、この高密度部よりも密度が低い低密度部と、これら高密度部と低密度部とを連結する段部とを備えた焼結部品の製造方法であって、
圧縮方向が、前記高密度部と前記低密度部が並ぶ方向と交差する方向であり、
圧縮前の素材として、圧縮方向の両側に高密度側余肉部が形成され、圧縮成形されて前記高密度部を形成する高密度成形部と、
この高密度成形部に対して圧縮方向の一方向にずれた状態で配置され、圧縮成形後に前記低密度部とされる低密度成形部と、
これら高密度成形部と低密度成形部とを連結し、圧縮方向の前記一方向とは反対側の他方側に、前記低密度成形部側から前記高密度成形部側に向かって次第に肉厚が増大する段部側余肉部が形成され、圧縮成形後に前記段部を形成する段部成形部とを有する焼結体からなる焼結素材を用意し、
この焼結素材の外周を拘束した状態で、該高密度成形部を圧縮して前記高密度側余肉部を潰すことにより前記高密度部を成形するとともに、
前記段部成形部の少なくとも前記段部側余肉部を圧縮して潰すことにより、前記高密度部と前記低密度部との間に段部を成形して、
前記高密度部と、前記低密度部と、これら高密度部と低密度部とを連結する前記段部とを有する焼結部品を得ることを特徴とする焼結部品の製造方法。
【請求項2】
前記焼結部品における前記高密度部の圧縮方向寸法に相当する厚さh1と前記段部が形成されたことによる前記低密度部の高密度部に対する段差量h2との比:h2/h1が、1/4以上であることを特徴とする請求項1に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項3】
前記焼結部品の前記段部の断面形状が直線状であり、前記高密度部に対する該段部の傾斜角度が10°以上90°未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項4】
前記焼結部品の前記段部の断面形状が弧状であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−314856(P2007−314856A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147826(P2006−147826)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】