説明

焼結鉱の製造方法

【課題】焼結機における未燃カーボンの発生を抑制することにより、高生産性でかつ低炭材使用原単位にて焼結鉱を製造しうる方法を提供する。
【解決手段】焼結原料中に含まれる配合カーボン量C1と、主排風機で焼結機から排出された排ガス量と該排ガス中のCOおよびCO濃度よりCバランスに基づいて算出された燃焼カーボン量C2とから下記式でカーボン燃焼率Rc(単位:%)を求め、このカーボン燃焼率Rcが予め定めた一定値以上となるように、前記焼結機の操業条件(パレット移動速度、前記吸引ガスへの酸素富化量、前記焼結原料への炭材配合量、前記焼結ベッドの上層部への炭材装入量、および、前記焼結原料に配合する炭材の粒度のうち1または2以上の操業因子)を調整する。
式 Rc=C2/C1×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉原料である焼結鉱の製造方法に関し、詳しくはDL型焼結機により、高生産性でかつ低炭材原単位で焼結鉱を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結鉱は、通常、複数銘柄の粉状鉱石に、スケール、返鉱等の雑原料と、石灰石、生石灰、珪石、蛇紋岩等の副原料と、コークス粉等の炭材を適量配合し、さらに水分を添加してドラムミキサやディスクペレタイザで混合造粒して焼結原料とした後、この焼結原料をDL型焼結機(以下、単に「焼結機」という。)に充填して焼結ベッドを形成し、この焼結ベッドの表層の炭材に着火し、吸引ガス(大気または排ガス循環ガス)を下方に吸気することにより焼成して得られる。
【0003】
ところで、近年の世界的な鉄鋼需要の急激な高まりに対応して高炉での銑鉄増産に対するニーズが高まっており、これに伴い、高炉原料である焼結鉱の増産に対するニーズも高まっている。
【0004】
このため、焼結機の操業はその最大生産能力に近いところで、特定の風箱内ガス温度を指標として最大の生産量が得られるようにパレット移動速度の調整を行っている。一方、焼結原料中の配合カーボン量は、成品焼結鉱のFeO分析値を指標として調整を行っているが、FeOの化学分析のため2時間程度の時間遅れが生じる。ところが、パレット上の焼結ベッドの通気状態は、焼結原料の積み付け状態に加えて鉱石や炭材の粒度の経時変化にも影響されて時々刻々変化するため、上記成品焼結鉱のFeO分析値による配合カーボン量の調整は短期の操業アクションには使用できないのが現状であった。
【0005】
このため、従来の操業においては、配合カーボン量が万が一不足すると焼け不足により焼結鉱の強度が低下してしまい成品焼結鉱としての品質を維持できなくなるので、安全をみて焼結原料に炭材を過剰に配合することが行われている。この結果、焼結機で配合カーボンが燃焼し切らず、焼結鉱は未燃のカーボンを残存させたまま後段のクーラに送られ、該クーラにて空冷される際にこの未燃カーボンが燃焼し発熱するため、冷却効率が低下し、その結果としてクーラにて生産性が律速される問題が生じている。
【0006】
そこで、上記成品焼結鉱のFeO分析値に替わる配合カーボン量の調整手段として、操業中オンラインで計測可能な、焼結機の排ガス中のCOおよびCO分析値を用いることが考えられる。
【0007】
ここで、従来より、焼結機の排ガス分析値を用いた操業方法が多数提案されている。例えば、特許文献1には、排ガス中のCO、CO、OおよびN分析値より焼結原料中のカーボン量を算出し、目標のカーボン配合量との偏差に応じて炭材配合量、点火炉用燃料等を調整する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、排ガス中のCOおよびCO分析値より算出されるコークスガス利用率を所定範囲内とするようにコークスの粒度を調整する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、上記従来技術はいずれも、焼結機にて配合カーボンは燃焼し切って完全にガス化することを前提にしたものであり、上述のような近年における高生産性下での未燃カーボンの発生による問題を解決し得るものではなかった。
【特許文献1】特開昭57−82433号公報
【特許文献2】特開昭58−133328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、焼結機における未燃カーボンの発生を抑制することにより、高生産性でかつ低炭材使用原単位にて焼結鉱を製造しうる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、焼結機における未燃カーボン量は、焼結原料中に配合したカーボン(以下、「配合カーボン」という。)の量と焼結機で実際に燃焼して排ガス中に含まれるカーボン(以下、「燃焼カーボン」という。)の量との差で把握できると考え、出願人の加古川製鉄所内に設置した焼結機の操業データを用いて以下のような解析を行った。
【0012】
図1は、パレット移動速度(単位:m/min)と、配合カーボンの流量および燃焼カーボンの流量(単位:t/h)との関係を示す図である。この操業期間中においては、焼結原料中への炭材の配合割合とパレット上の焼結ベッドの層厚はともに一定としていることから、配合カーボン流量はパレット移動速度にほぼ比例して直線的に増加するのに対し、燃焼カーボン流量はパレット移動速度の上昇とともに増加する傾向にはあるものの、パレット移動速度が所定値(本例では約3.6m/min)を超えるとパレット移動速度の上昇に追いつかず、頭打ちになることがわかる。
【0013】
図2は、上記図1を、パレット移動速度(単位:m/min)と、焼結原料単位質量当たりの配合カーボン量および燃焼カーボン量(単位:kg/t−焼結原料)との関係に整理し直した図である。配合カーボン量はパレット移動速度によらずほぼ一定であるのに対し、燃焼カーボン量はパレット移動速度により変化し、上記所定値(本例では約3.6m/min)でピーク値を示すことがわかる。
【0014】
図3は、上記図2より、配合カーボン量C1と燃焼カーボン量C2からカーボン燃焼率Rc(=C2/C1×100;単位:%)を算出し、パレット移動速度(単位:m/min)との関係としてプロットし直した図である。同図に示すように、パレット移動速度が上記所定値(本例では約3.6m/min)でカーボン燃焼率Rcはピーク値(本例では約90%)を示すものの、パレット移動速度が上記所定値から遠ざかるにしたがってカーボン燃焼率Rcが低下すること、つまり未燃カーボン量が増加することがわかった。
【0015】
ここで、パレット移動速度が上記所定値より低くなるほどカーボン燃焼率Rcが低下するのは、焼結原料の単位質量当たりに通過する吸引ガス量が過剰になることにより焼成温度が低下し、それに伴って炭材の燃焼速度が低下して焼結鉱中に未燃の炭材が残留するためと考えられる。一方、パレット移動速度が上記所定値より高くなるほどカーボン燃焼率Rcが低下するのは、焼成時間が不足し、やはり焼結鉱中に未燃の炭材が残留するためと考えられる。
【0016】
以上の知見より、カーボン燃焼率Rcが予め定めた一定値(例えば本例では85%)以上となるように、パレット移動速度を調整する(本例では3.2〜4.3m/minの範囲内に調整する)ことにより、未燃カーボンの発生をより確実に抑制できることとなる。
【0017】
上記知見に基づき、さらに検討を進めた結果、以下の発明を完成するに至った。
【0018】
請求項1に記載の発明は、移動するパレット上に焼結原料を積み付けて焼結ベッドを形成し、この焼結ベッドの表層に点火し、主排風機で吸引ガスを下方に吸気することにより焼結鉱を製造する方法において、前記焼結原料中に含まれる配合カーボン量C1と、前記主排風機で焼結機から排出された排ガス量と該排ガス中のCOおよびCO濃度よりCバランスに基づいて算出された燃焼カーボン量C2とから下記式でカーボン燃焼率Rc(単位:%)を求め、このカーボン燃焼率Rcが予め定めた一定値以上となるように、前記焼結機の操業条件を調整することを特徴とする焼結鉱の製造方法である。
式 Rc=C2/C1×100
【0019】
請求項2に記載の発明は、前記操業条件の調整が、パレット移動速度、前記吸引ガスへの酸素富化量、前記焼結原料への炭材配合量、前記焼結ベッドの上層部への炭材装入量、および、前記焼結原料に配合する炭材の粒度のうち1または2以上の操業因子の調整である請求項1に記載の焼結鉱の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、焼結原料中の配合カーボン量と焼結機排ガス中の燃焼カーボン量とから算出したカーボン燃焼率に基づいて焼結機の操業条件を調整することで、焼結機での未燃カーボンの発生がより確実に抑制されるようになった。その結果、炭材使用原単位が低減できるとともに、クーラでの未燃カーボンの燃焼による生産性阻害を解消することができるようになり、高生産性でかつ低炭材原単位にて焼結鉱を製造できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明に係る焼結鉱の製造方法は、例えば、複数銘柄の粉状鉱石に、スケール、返鉱等の雑原料と、石灰石、生石灰、珪石、蛇紋岩等の副原料と、炭材とを適量配合し、さらに水分を添加してドラムミキサやディスクペレタイザで混合造粒して焼結原料とした後、この焼結原料を焼結機に充填して焼結ベッドを形成し、この焼結ベッドの表層の炭材に着火し、主排風機で吸引ガス(大気または排ガス循環ガス)を下方に吸気することにより焼成して焼結鉱を製造するに当たり、前記焼結原料中に含まれる配合カーボン量C1と、前記主排風機で焼結機から排出された排ガス量と該排ガス中のCOおよびCO濃度よりCバランスに基づいて算出された燃焼カーボン量C2とから下記式(1)でカーボン燃焼率Rc(単位:%)を求め、このカーボン燃焼率Rcが予め定めた一定値以上となるように焼結機の操業条件を調整することを特徴とするものである。
Rc=C2/C1×100 ・・・式(1)
【0023】
「前記焼結原料中に含まれる配合カーボン量C1」は、各原料ホッパから切り出された粉状鉱石、雑原料、副原料および炭材の秤量値と、炭材のC分析値とから算出できる。なお、炭材としては、コークス粉や無煙炭の他、これらに沈殿ブリーズ、高炉乾ダスト、ヤードスラリ等を添加したものを用いることができる。
【0024】
「前記主排風機で焼結機から排出された排ガス量」は、例えば排ガスダクト内に設置したピトーベンチュリにより測定したガス線速度にダクト断面積を掛けて求めることができる。
【0025】
また、排ガス中のCOおよびCO濃度は、例えば赤外線分析計を用いて測定することができる。
【0026】
ここで、排ガス中のCOおよびCO成分は、焼結原料中の炭材が燃焼して生成したCO、COと、炭酸塩(石灰石、ドロマイト等)が熱分解して発生したCOと、点火炉の燃料が燃焼して生成したCO、COとで構成される。
【0027】
したがって、「燃焼カーボン量C2」は、排ガス量と排ガス中のCOおよびCO濃度から算出される排ガス中のカーボン量から、焼結原料に配合された炭酸塩中のカーボン量と点火炉の燃料のカーボン量とを差し引くことにより求めることができる。
【0028】
そして、上記のようにして求めた配合カーボン量C1と燃焼カーボン量C2から、下記に再掲する式(1)により、カーボン燃焼率Rcを算出する。
【0029】
Rc=C2/C1×100 ・・・再掲式(1)
【0030】
そして、このカーボン燃焼率Rcが予め定めた一定値以上となるように、焼結機の操業条件を調整するが、該操業条件の調整として、本実施形態ではパレット移動速度の調整を例に挙げて説明する。
【0031】
ここで、上記「予め定めた一定値」は、現在実施中の操業条件と同様の操業条件下で行われた過去の操業結果から求めた、パレット移動速度とカーボン燃焼率との関係(図3参照)より、例えばピーク値(図3の例では約90%)の5%減程度あるいは10%減程度(図3の例でいえば85%あるいは80%)というように設定すればよい。
【0032】
これにより、常に高いカーボン燃焼率で操業を行うことが可能となり、焼結機での未燃カーボンの発生が抑制され、炭材使用原単位が低減できるとともに、クーラでの未燃カーボンの燃焼による生産性阻害を解消することができるようになり、高生産性でかつ低炭材原単位にて焼結鉱を製造できることとなる。
【0033】
(変形例)
上記実施形態では、焼結機の操業条件はパレット移動速度を除いて一定の条件下においてパレット移動速度だけを調整する方法について説明したが、パレット移動速度の他、焼結原料中の炭材の燃焼効率に影響を及ぼす、パレット移動速度以外の操業因子をも調整しても良いことはもちろんである。
【0034】
焼結原料中の炭材の燃焼効率に影響を及ぼす、パレット移動速度以外の操業因子としては、吸引ガスへの酸素富化量、焼結原料への炭材配合量、焼結ベッドの上層部への炭材装入量、焼結原料に配合する炭材の粒度などが挙げられる。
【0035】
「吸引ガスへの酸素富化量」については、特に排ガス循環操業を行う場合に、吸引ガスである循環ガス中の酸素濃度の低下を補うため酸素ガスを添加することが行われているが、その酸素ガスの添加量を調整することで、炭材の燃焼効率を変化させることができる。
【0036】
また、「焼結原料への炭材配合量」については、[背景技術]の項で既述したように、従来は安全をみて炭材を多めに配合していたものを、カーボン燃焼率を操業パラメータとする本発明の適用によって、真に必要な炭材量がより精度良く把握できるようになるので、焼結原料への炭材配合量を調整することで、過剰な炭材配合分を削減しつつ、炭材の燃焼効率を変化させることができる。
【0037】
また、「焼結ベッドの上層部への炭材装入量」については、焼結ベッド全体の熱履歴を改善するために焼結ベッド層厚方向の炭材濃度分布を調整することが行われているが、焼結ベッドの上層部への炭材装入量を調整することで、焼結ベッド層厚方向の炭材濃度分布を変更して焼結ベッド全体の熱履歴を改善しつつ、炭材の燃焼効率を変化させることができる。
【0038】
また、「焼結原料に配合する炭材の粒度」については、炭材の比表面積を変化させることにより、その燃焼効率を変化させることができる(上記特許文献2参照)。
【0039】
したがって、パレット移動速度を含むこれらの操業因子(吸引ガスへの酸素富化量、焼結原料への炭材配合量、焼結ベッドの上層部への炭材装入量、焼結原料に配合する炭材の粒度など)のうち1または2以上の操業因子を調整することで、カーボン燃焼率Rcをより安定して高い値に維持することが可能となる。その結果、焼結機での未燃カーボンの発生がより少なくなり、炭材使用原単位がさらに低減できるとともに、クーラでの未燃カーボンの燃焼による生産性阻害をより完全に解消することができるようになり、さらに高生産性でかつ低炭材原単位で焼結鉱を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】パレット移動速度と、配合カーボン流量および燃焼カーボン流量との関係を示すグラフ図である。
【図2】パレット移動速度と、焼結原料単位質量当たりの配合カーボン量および燃焼カーボン量との関係を示すグラフ図である。
【図3】パレット移動速度とカーボン燃焼率との関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結機にて、移動するパレット上に焼結原料を積み付けて焼結ベッドを形成し、この焼結ベッドの表層に点火し、主排風機で吸引ガスを下方に吸気することにより焼結鉱を製造する方法において、
前記焼結原料中に含まれる配合カーボン量C1と、前記主排風機で前記焼結機から排出された排ガス量と該排ガス中のCOおよびCO濃度よりCバランスに基づいて算出された燃焼カーボン量C2とから下記式でカーボン燃焼率Rc(単位:%)を求め、このカーボン燃焼率Rcが予め定めた一定値以上となるように、前記焼結機の操業条件を調整することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
式 Rc=C2/C1×100
【請求項2】
前記操業条件の調整が、パレット移動速度、前記吸引ガスへの酸素富化量、前記焼結原料への炭材配合量、前記焼結ベッドの上層部への炭材装入量、および、前記焼結原料に配合する炭材の粒度のうち1または2以上の操業因子の調整である請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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