煙灰の処理方法
【課題】アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理する方法において、排ガス処理設備等における煙灰の付着を抑制する処理方法を提供する。
【解決手段】アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理し、製錬炉のボイラから回収したボイラ灰および/または電気集塵機から回収したコットレル灰を製錬炉に戻して繰り返し処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻すことによって煙灰の付着を抑制することを特徴とする煙灰の処理方法。
【解決手段】アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理し、製錬炉のボイラから回収したボイラ灰および/または電気集塵機から回収したコットレル灰を製錬炉に戻して繰り返し処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻すことによって煙灰の付着を抑制することを特徴とする煙灰の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製錬炉を用いて鉱石と共にシュレッダーダストを燃焼処理する方法において、排ガス処理設備等における煙灰の付着を抑制する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済み家電製品や自動車などを粉砕・リサイクルする工程で発生するシュレッダーダストの処理方法として、製錬炉を用い、鉱石と一緒に燃焼する方法が知られている。例えば、特開平9−189412号公報(特許文献1)には、シュレッダーダストを鉱石粉体および燃料粉体と共に衝風炉に装入して熔融処理する方法が記載されている。
【0003】
シュレッダーダストを製錬炉で燃焼処理する場合、該ダストに含まれている亜鉛や鉛、塩化物などの揮発性物質が炉内低温部分や排煙設備で凝縮して付着する問題がある。特許文献1の技術では衝風炉を用い、炉内温度を高めることに揮発性物質の付着を抑制しているが十分ではない。
【0004】
一般に反射炉や熔融炉などの製錬用の炉10(製錬炉と総称する)には、図11に示すように、排熱回収用のボイラ11が付設されており、ボイラ11から延びる煙道には電気集塵機(コットレル)12が設けられている。ボイラ11の内部には多数の水管が並設された水管部(水管パネル)が設けられており、この水管部に煙灰の一部が付着する。煙灰がボイラ内で強固に付着すると、スートブロワによる除灰効果が低下し、とりわけ排ガス熱の回収効率の低下やボイラ出口温度の上昇を生じ、また水管パネル間の隙間が狭い場合にボイラの閉塞などが起こる。このため、付着した灰を定期的に叩き落として剥離している。
【0005】
ボイラ灰や煙道の電気集塵機から回収されるコットレル灰には亜鉛、鉛、銅、カドミウムなどの金属が含まれている場合が多いので、これら煙灰を製錬炉に戻し、繰り返し処理している。
【0006】
これまでの一般的な煙灰の付着防止策として、(1)ボイラ構造や運転条件の改善、(2)添加剤による煙灰の改質、(3)原料成分の調整などの対策が知られている。
具体的には、(1)ボイラ構造に関しては、ボイラ内に過熱板を設置して付着灰を溶融・落下させることが特許文献2に記載されている。また、ボイラ入口付近の側壁にて窒素ガスなどの吹込口を設け、煙灰の酸化防止およびガス温度の低下によって付着灰を脆くすることが特許文献3に記載されている。(2)添加剤に関しては、消石灰(特許文献4)、または石炭灰や炭酸カルシウム(特許文献5)を炉内やボイラに吹き込む方法が知られている。(3)原料成分の調整に関しては、Naの多い石炭にシリカやアルミナが多い石炭を混合して使用することが特許文献6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−189412号公報
【特許文献2】特開平6−137510号公報
【特許文献3】米国特許第6228144号公報
【特許文献4】米国特許第3951646号公報
【特許文献5】特開2003−56815号公報
【特許文献6】特許第3771687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の煙灰付着防止法における石炭灰の吹き込みやスートブロワによる除灰はそれなりの効果はあるものの十分に煙灰付着を防止することができない。また、ボイラ下流の低温部においても灰の付着が起こるため、ボイラ構造を変更し、ガス温度を幾らか低下させても、灰の付着領域がボイラ上流部へ移動するだけであり付着防止効果は低く、さらに水管への煙灰付着が進行することによって周囲のガス温度が上昇し、期待するほどの効果は得られない。
【0009】
従来の煙灰付着防止方法は、煙灰の付着原因となる揮発性低融点物質として主に亜鉛や鉛に注目しているが、鉱石と共にシュレッダーダスト等のリサイクル原料を燃焼処理する場合、煙灰の付着原因物質は亜鉛や鉛に限らず、原料中から揮発するアルカリ成分(ナトリウムおよび/またはカリウムを含む化合物)も主要な原因物質であることが本発明において見い出された。鉱石やシュレッダーダストに含まれるアルカリ成分は亜鉛と共に製錬炉内で揮発し、ボイラ水管部で硫酸塩に変わり、低融点の熔融塩を形成し、煙灰が強固に付着する原因になることが明らかになった。
【0010】
本発明は上記知見に基き、繰返し処理されるボイラ灰およびコットレル灰に含まれるアルカリ成分を系外へ取り除くことによって、煙灰の付着量を格段に低減した煙灰の処理方法を提供する。
【0011】
ボイラ灰やコットレル灰に含まれるアルカリ成分や亜鉛の大半は硫酸塩として存在するので、これらを水浸出によって容易に除去することができる。本発明の処理方法は、シュレッダーダストなどのアルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理する場合に、発生するボイラ灰やコットレル灰を水浸出することによってこれらの灰に含まれるアルカリ成分を系外に取り除く簡単な工程によって煙灰の付着量を格段に低減することができる。また水浸出のpHを調整することによってアルカリ成分と共にカドミウムや亜鉛を煙灰等から溶出させることができるので、浸出液からこれらを回収して再利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の構成によって上記課題を解決した煙灰の処理方法である。
〔1〕アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理し、製錬炉のボイラから回収したボイラ灰および/または電気集塵機から回収したコットレル灰を製錬炉に戻して繰り返し処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻すことによって煙灰の付着を抑制することを特徴とする煙灰の処理方法。
〔2〕水スラリーのpHを7.5以上に調整することによって、銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムの溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す上記[1]に記載する煙灰の処理方法。
〔3〕水スラリーのpHを5.5〜7.5に調整することによって銅およびヒ素の溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムと共に亜鉛およびカドミウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す上記〔1〕に記載する煙灰の処理方法。
〔4〕上記〔3〕の処理方法において、水スラリーを固液分離した浸出液のpHを9以上に調整して亜鉛およびカドミウムを沈澱させ、この沈澱物を製錬原料として再利用する煙灰の処理方法。
〔5〕水スラリーのpHを5.5未満に調整することによって、ナトリウムおよびカリウムと共に銅、ヒ素、亜鉛およびカドミウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す上記〔1〕に記載する煙灰の処理方法。
〔6〕上記[5]の処理方法において、水スラリーを固液分離した浸出液のpHを9以上に調整して銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムを沈澱させ、この沈澱物を製錬原料として再利用する煙灰の処理方法。
〔7〕スラリーの固液比が1:2〜1:200、および浸出時間が10分〜20時間である上記[1]〜上記[6]に記載する煙灰の処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の処理方法は、ボイラ灰やコットレル灰に含まれるアルカリ成分を水浸出して溶出させ、これらの含有量が少ない浸出残渣を製錬炉に戻して処理するので、煙灰の付着原因物質が少なく、ボイラなどへの煙灰の付着量が大幅に軽減する。
【0014】
また、従来のように回収した煙灰の全量を製錬炉に戻して処理する場合には原料鉱石の処理量が圧迫される懸念があるのに対し、本発明の処理方法はアルカリ成分を溶出し、あるいはアルカリ成分と共に亜鉛、カドミウムなどを溶出して系外に除去するので、製錬炉に戻す残渣量が減少し、鉱石の処理量を圧迫することがない。さらに、溶出して系外に除去した亜鉛やカドミウムは沈澱化して容易に回収できるので、これらの回収率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る処理工程の一例(水スラリーのpH7.5〜11)。
【図2】本発明に係る処理工程の一例(水スラリーのpH5.5〜7.5)。
【図3】本発明に係る処理工程の一例(水スラリーのpH5.5〜4)。
【図4】水スラリーのpHに対するナトリウムの溶出量を示すグラフ。
【図5】水スラリーのpHに対するカリウムの溶出量を示すグラフ。
【図6】水スラリーのpHに対する亜鉛の溶出量を示すグラフ。
【図7】水スラリーのpHに対するカドミウムの溶出量を示すグラフ。
【図8】水スラリーのpHに対する銅の溶出量を示すグラフ。
【図9】水スラリーのpHに対するヒ素の溶出量を示すグラフ。
【図10】水浸出時間に対するナトリウムおよびカリウムの溶出量を示すグラフ
【図11】製錬炉とボイラおよびコットレルの設置状態を示す図。
【図12】ボイラ灰の付着状態を示す写真(左側は水浸出なし、右側は水浸出あり)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の処理方法は実施形態に基いて具体的に説明する。
本発明の処理方法は、アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理し、製錬炉のボイラから回収したボイラ灰および/または電気集塵機から回収したコットレル灰を製錬炉に戻して繰り返し処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻すことによって煙灰の付着を抑制することを特徴とする煙灰の処理方法である。
【0017】
本発明の処理工程を図1〜図3に示す。図示するように、本発明の処理方法は、アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻す処理方法である。
【0018】
アルカリ成分を含有する廃棄物としては、例えば、シュレッダーダスト、廃電池、ガラス成分を多く含むスクラップなどである。これらのアルカリ成分含有廃棄物を鉱石と共に製錬炉を用いて燃焼処理する場合などに本発明の処理方法を適用すれば煙灰の付着量を大幅に低減することができる。
【0019】
製錬炉は、反射炉、溶鉱炉、熔融炉、溶解炉、分離炉、流動床炉、シャフト炉、ロータリーキルン炉など何れでもよい。製錬は銅製錬、亜鉛や鉛の乾式製錬など鉱石を燃焼して製錬する方法であれば何れも適用できる。
【0020】
回収した灰(ボイラ灰、コットレル灰、またはこれらを混合した灰)に水を加えて水ラリーにして水浸出を行う。スラリーの固液比は1:2〜1:200が適当であり、1:3〜1:10程度が好ましい。固液比が1:2より大きいと、灰の量に対して水の量が少ないので浸出効率が低下する。固液比が1:200より小さいと液量が過剰になり排水処理の負担が大きくなる。
【0021】
水スラリーのpHによって、灰に含まれる成分の溶出量が大きく異なる。図4および図5に示すように、ナトリウムおよびカリウムは水スラリーのpHが4〜10の広い範囲で高い溶出量を示す。一方、図6に示すように、亜鉛は水スラリーのpHが6.5以上になると急激に溶出量が減少する。また図7に示すように、カドミウムは水スラリーのpHが7.5以上になると溶出量が急激に低下する。さらに図8に示すように、銅は水スラリーのpHが5.5以上になると溶出量が急激に低下する。また図9に示すように、ヒ素は水スラリーのpHが4.5以上になると溶出量が急激に低下する。
【0022】
本発明の処理方法は、図4〜図9に示すように、水スラリーのpHによって各元素の溶出量が相違することに基いて、水スラリーのpHを下記[イ]〜[ハ]のように調整することによって水スラリーの灰に含まれているナトリウムおよびカリウムを選択的に溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻して繰り返し処理する。
【0023】
ボイラ灰やコットレル灰にはナトリウムやカリウムなどのアルカリ成分、および銅や亜鉛などが硫酸塩の状態で含まれており、これらの灰に水を加えて水スラリーにするとスラリーは概ね弱酸性になる。
〔イ〕この水スラリーに生石灰、消石灰、または苛性ソーダなどのアルカリ化合物を添加して水スラリーのpHを7.5以上(好ましくは9〜11)に調整することによって銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムの溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムを溶出させる(図1の処理方法)。
次いで、水スラリーを固液分離する。固液分離した液分(浸出液)には煙灰中のナトリウムおよびカリウムの大部分が含まれており、アルカリ性であるので、この浸出液をpH調整などを含む排水処理して外部に放流する。一方、浸出残渣には煙灰に含まれていた銅、ヒ素、亜鉛、カドミウムの大部分が残っているので、この浸出残渣を製錬炉に戻して繰り返し処理する。
【0024】
〔ロ〕水スラリーのpHを5.5〜7.5に調整することによって銅およびヒ素の溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムと共に亜鉛およびカドミウムを溶出させる(図2の処理方法)。
次いで、水スラリーを固液分離する。固液分離した液分(浸出液)には煙灰中のナトリウムおよびカリウムと共に亜鉛およびカドミウムの大部分が含まれているので、この浸出液に生石灰や消石灰、苛性ソーダなどのアルカリ化合物を添加して水スラリーのpHを9以上に調整することによって亜鉛およびカドミウムを沈澱させる。亜鉛およびカドミウムは上記pH域で水酸化物を形成して沈澱する。この沈澱物を回収し、亜鉛やカドミウムの製錬原料として再利用する。一方、沈殿物を分離した濾液には煙灰中のナトリウムおよびカリウムの大部分が含まれており、この濾液をpH調整などを含む排水処理して外部に放流する。また、水スラリーを固液分離した浸出残渣には煙灰に含まれる銅、ヒ素の大部分が残っているので、この浸出残渣を製錬炉に戻して繰り返し処理する。
【0025】
〔ハ〕水スラリーのpHを4〜5.5に調整することよって、ナトリウムおよびカリウムと共に銅、ヒ素、亜鉛およびカドミウムを溶出させる(図3の処理方法)。pH4以下に調整しても金属イオンの浸出効果に差が出ず、またpH調整剤の消費が多くなるデメリットもある。
次いで、水スラリーを固液分離する。固液分離した液分(浸出液)には煙灰中のナトリウムおよびカリウムと共に銅、ヒ素、亜鉛、カドミウムの大部分が含まれているので、この浸出液に生石灰や消石灰、苛性ソーダなどのアルカリ化合物を添加して水スラリーのpHを9以上に調整する。浸出液に含まれる銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムは上記pH域で水酸化物を形成して沈澱する。この沈澱物を回収し、浸出残渣と共に製錬炉に戻して繰り返し処理する。
【0026】
浸出温度は常温でよい。ボイラ灰やコットレル灰に含まれる亜鉛やカドミウム、アルカリ成分などは概ね硫酸塩であり、これらは水への溶解度が常温でも高いので十分に溶出させることができる。また、常温浸出では浸出設備に加熱手段を設ける必要がないので費用を低減することができる。
【0027】
水浸出時間に対するナトリウムとカリウムの溶出量の変化を図10に示す。このグラフに示すように、10分程度の浸出時間によって高い溶出量が得られるので、浸出時間は10分〜20時間程度で良い。浸出時間が10分より短いと亜鉛やアルカリ成分が十分に浸出されない。数時間の浸出で塊状の煙灰も溶解される。浸出時間が20時間を超えると経済性が低下する。
【0028】
水スラリーを固液分離した浸出残渣や回収した沈殿物を製錬炉に戻して繰り返し処理することによって、浸出残渣や沈澱物に含まれる金属成分の回収率を高めることができる。また、浸出液の一部は水浸出工程に返送して再利用することができる。
【実施例】
【0029】
本発明の実施例を以下に示す。
〔実施例1〕
反射炉ボイラ内から剥離して粉砕したボイラ灰1gに水200ccを加えて水スラリーにし、これを1時間攪拌して水浸出を行った。浸出時のスラリpHは成り行きで約4.7であった。この水スラリーを濾過し、液分(浸出液)の元素濃度をICPにて測定した。なお、ボイラ灰の浸出残渣率は56%であった。浸出前後のボイラ灰の組成および浸出率を表1に示す。表1に示すように、水浸出によって、亜鉛、カリウム、ナトリウム、カドミウム、銅、および硫酸塩として存在する硫黄が80〜90%と高い割合で溶出する。また、ヒ素は水不溶の形態(Zn,Cu(AsO4))で存在するため殆ど溶出しない。
【0030】
【表1】
【0031】
〔実施例2〕
回収したボイラ灰を水浸出せずに反射炉に戻して繰返し処理した場合、灰に含まれる成分の一部が再び揮発しボイラ内の600℃付近で焼結して強固に付着する。この状態を図12(左側)に示す。一方、実施例1において水浸出したボイラ灰を反射炉に戻した場合、上記と同じ条件下の付着状態を図12(右側)に示す。水浸出した残渣は同じ条件において全く焼結しないので容易に粉砕することができ、また煙灰全体の付着力が弱いので落下しやすく、従って付着量が減少する。
【0032】
〔実施例3〕
反射炉のコットレル灰(組成を表2に示す)100gに水1リッターと少量のpH調整剤〔H2SO4、Ca(OH)2〕を加えて水スラリーにした。このスラリーを1時間攪拌して浸出を行った。浸出後、スラリーを濾過し、液分(浸出液)の金属イオン濃度を測定した。この結果を図4〜図9に示す。また、浸出pH9.1、pH6.5、pH4における浸出後残渣の組成および各元素の浸出率を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
図4および図5に示すように、ナトリウムおよびカリウムは水スラリーのpHが4〜10の広い範囲で高い溶出量を示す。一方、図6に示すように、亜鉛は水スラリーのpHが6.5以上になると急激に溶出量が減少する。また図7に示すように、カドミウムは水スラリーのpHが7.5以上になると溶出量が急激に低下する。さらに図8に示すように、銅は水スラリーのpHが5.5以上になると溶出量が急激に低下する。また図9に示すように、ヒ素は水スラリーのpHが4.5以上になると溶出量が急激に低下する。
表2に示すように、水スラリーのpHを調整することで、ナトリウム及びカリウムの高い浸出率を維持しつつ、亜鉛、カドミウム、銅、ヒ素の浸出率を制御できる。また、例えば水スラリーのpH6.5において、銅及びヒ素を煙灰の浸出残渣で残し、一方、アルカリ成分と共に、亜鉛の35%及びカドミウムの57%を溶出させ、亜鉛、カドミウムの製錬原料として回収できる(図2)。
【符号の説明】
【0035】
10−製錬炉、11−ボイラ、12−コットレル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製錬炉を用いて鉱石と共にシュレッダーダストを燃焼処理する方法において、排ガス処理設備等における煙灰の付着を抑制する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済み家電製品や自動車などを粉砕・リサイクルする工程で発生するシュレッダーダストの処理方法として、製錬炉を用い、鉱石と一緒に燃焼する方法が知られている。例えば、特開平9−189412号公報(特許文献1)には、シュレッダーダストを鉱石粉体および燃料粉体と共に衝風炉に装入して熔融処理する方法が記載されている。
【0003】
シュレッダーダストを製錬炉で燃焼処理する場合、該ダストに含まれている亜鉛や鉛、塩化物などの揮発性物質が炉内低温部分や排煙設備で凝縮して付着する問題がある。特許文献1の技術では衝風炉を用い、炉内温度を高めることに揮発性物質の付着を抑制しているが十分ではない。
【0004】
一般に反射炉や熔融炉などの製錬用の炉10(製錬炉と総称する)には、図11に示すように、排熱回収用のボイラ11が付設されており、ボイラ11から延びる煙道には電気集塵機(コットレル)12が設けられている。ボイラ11の内部には多数の水管が並設された水管部(水管パネル)が設けられており、この水管部に煙灰の一部が付着する。煙灰がボイラ内で強固に付着すると、スートブロワによる除灰効果が低下し、とりわけ排ガス熱の回収効率の低下やボイラ出口温度の上昇を生じ、また水管パネル間の隙間が狭い場合にボイラの閉塞などが起こる。このため、付着した灰を定期的に叩き落として剥離している。
【0005】
ボイラ灰や煙道の電気集塵機から回収されるコットレル灰には亜鉛、鉛、銅、カドミウムなどの金属が含まれている場合が多いので、これら煙灰を製錬炉に戻し、繰り返し処理している。
【0006】
これまでの一般的な煙灰の付着防止策として、(1)ボイラ構造や運転条件の改善、(2)添加剤による煙灰の改質、(3)原料成分の調整などの対策が知られている。
具体的には、(1)ボイラ構造に関しては、ボイラ内に過熱板を設置して付着灰を溶融・落下させることが特許文献2に記載されている。また、ボイラ入口付近の側壁にて窒素ガスなどの吹込口を設け、煙灰の酸化防止およびガス温度の低下によって付着灰を脆くすることが特許文献3に記載されている。(2)添加剤に関しては、消石灰(特許文献4)、または石炭灰や炭酸カルシウム(特許文献5)を炉内やボイラに吹き込む方法が知られている。(3)原料成分の調整に関しては、Naの多い石炭にシリカやアルミナが多い石炭を混合して使用することが特許文献6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−189412号公報
【特許文献2】特開平6−137510号公報
【特許文献3】米国特許第6228144号公報
【特許文献4】米国特許第3951646号公報
【特許文献5】特開2003−56815号公報
【特許文献6】特許第3771687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の煙灰付着防止法における石炭灰の吹き込みやスートブロワによる除灰はそれなりの効果はあるものの十分に煙灰付着を防止することができない。また、ボイラ下流の低温部においても灰の付着が起こるため、ボイラ構造を変更し、ガス温度を幾らか低下させても、灰の付着領域がボイラ上流部へ移動するだけであり付着防止効果は低く、さらに水管への煙灰付着が進行することによって周囲のガス温度が上昇し、期待するほどの効果は得られない。
【0009】
従来の煙灰付着防止方法は、煙灰の付着原因となる揮発性低融点物質として主に亜鉛や鉛に注目しているが、鉱石と共にシュレッダーダスト等のリサイクル原料を燃焼処理する場合、煙灰の付着原因物質は亜鉛や鉛に限らず、原料中から揮発するアルカリ成分(ナトリウムおよび/またはカリウムを含む化合物)も主要な原因物質であることが本発明において見い出された。鉱石やシュレッダーダストに含まれるアルカリ成分は亜鉛と共に製錬炉内で揮発し、ボイラ水管部で硫酸塩に変わり、低融点の熔融塩を形成し、煙灰が強固に付着する原因になることが明らかになった。
【0010】
本発明は上記知見に基き、繰返し処理されるボイラ灰およびコットレル灰に含まれるアルカリ成分を系外へ取り除くことによって、煙灰の付着量を格段に低減した煙灰の処理方法を提供する。
【0011】
ボイラ灰やコットレル灰に含まれるアルカリ成分や亜鉛の大半は硫酸塩として存在するので、これらを水浸出によって容易に除去することができる。本発明の処理方法は、シュレッダーダストなどのアルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理する場合に、発生するボイラ灰やコットレル灰を水浸出することによってこれらの灰に含まれるアルカリ成分を系外に取り除く簡単な工程によって煙灰の付着量を格段に低減することができる。また水浸出のpHを調整することによってアルカリ成分と共にカドミウムや亜鉛を煙灰等から溶出させることができるので、浸出液からこれらを回収して再利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の構成によって上記課題を解決した煙灰の処理方法である。
〔1〕アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理し、製錬炉のボイラから回収したボイラ灰および/または電気集塵機から回収したコットレル灰を製錬炉に戻して繰り返し処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻すことによって煙灰の付着を抑制することを特徴とする煙灰の処理方法。
〔2〕水スラリーのpHを7.5以上に調整することによって、銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムの溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す上記[1]に記載する煙灰の処理方法。
〔3〕水スラリーのpHを5.5〜7.5に調整することによって銅およびヒ素の溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムと共に亜鉛およびカドミウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す上記〔1〕に記載する煙灰の処理方法。
〔4〕上記〔3〕の処理方法において、水スラリーを固液分離した浸出液のpHを9以上に調整して亜鉛およびカドミウムを沈澱させ、この沈澱物を製錬原料として再利用する煙灰の処理方法。
〔5〕水スラリーのpHを5.5未満に調整することによって、ナトリウムおよびカリウムと共に銅、ヒ素、亜鉛およびカドミウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す上記〔1〕に記載する煙灰の処理方法。
〔6〕上記[5]の処理方法において、水スラリーを固液分離した浸出液のpHを9以上に調整して銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムを沈澱させ、この沈澱物を製錬原料として再利用する煙灰の処理方法。
〔7〕スラリーの固液比が1:2〜1:200、および浸出時間が10分〜20時間である上記[1]〜上記[6]に記載する煙灰の処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の処理方法は、ボイラ灰やコットレル灰に含まれるアルカリ成分を水浸出して溶出させ、これらの含有量が少ない浸出残渣を製錬炉に戻して処理するので、煙灰の付着原因物質が少なく、ボイラなどへの煙灰の付着量が大幅に軽減する。
【0014】
また、従来のように回収した煙灰の全量を製錬炉に戻して処理する場合には原料鉱石の処理量が圧迫される懸念があるのに対し、本発明の処理方法はアルカリ成分を溶出し、あるいはアルカリ成分と共に亜鉛、カドミウムなどを溶出して系外に除去するので、製錬炉に戻す残渣量が減少し、鉱石の処理量を圧迫することがない。さらに、溶出して系外に除去した亜鉛やカドミウムは沈澱化して容易に回収できるので、これらの回収率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る処理工程の一例(水スラリーのpH7.5〜11)。
【図2】本発明に係る処理工程の一例(水スラリーのpH5.5〜7.5)。
【図3】本発明に係る処理工程の一例(水スラリーのpH5.5〜4)。
【図4】水スラリーのpHに対するナトリウムの溶出量を示すグラフ。
【図5】水スラリーのpHに対するカリウムの溶出量を示すグラフ。
【図6】水スラリーのpHに対する亜鉛の溶出量を示すグラフ。
【図7】水スラリーのpHに対するカドミウムの溶出量を示すグラフ。
【図8】水スラリーのpHに対する銅の溶出量を示すグラフ。
【図9】水スラリーのpHに対するヒ素の溶出量を示すグラフ。
【図10】水浸出時間に対するナトリウムおよびカリウムの溶出量を示すグラフ
【図11】製錬炉とボイラおよびコットレルの設置状態を示す図。
【図12】ボイラ灰の付着状態を示す写真(左側は水浸出なし、右側は水浸出あり)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の処理方法は実施形態に基いて具体的に説明する。
本発明の処理方法は、アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理し、製錬炉のボイラから回収したボイラ灰および/または電気集塵機から回収したコットレル灰を製錬炉に戻して繰り返し処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻すことによって煙灰の付着を抑制することを特徴とする煙灰の処理方法である。
【0017】
本発明の処理工程を図1〜図3に示す。図示するように、本発明の処理方法は、アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻す処理方法である。
【0018】
アルカリ成分を含有する廃棄物としては、例えば、シュレッダーダスト、廃電池、ガラス成分を多く含むスクラップなどである。これらのアルカリ成分含有廃棄物を鉱石と共に製錬炉を用いて燃焼処理する場合などに本発明の処理方法を適用すれば煙灰の付着量を大幅に低減することができる。
【0019】
製錬炉は、反射炉、溶鉱炉、熔融炉、溶解炉、分離炉、流動床炉、シャフト炉、ロータリーキルン炉など何れでもよい。製錬は銅製錬、亜鉛や鉛の乾式製錬など鉱石を燃焼して製錬する方法であれば何れも適用できる。
【0020】
回収した灰(ボイラ灰、コットレル灰、またはこれらを混合した灰)に水を加えて水ラリーにして水浸出を行う。スラリーの固液比は1:2〜1:200が適当であり、1:3〜1:10程度が好ましい。固液比が1:2より大きいと、灰の量に対して水の量が少ないので浸出効率が低下する。固液比が1:200より小さいと液量が過剰になり排水処理の負担が大きくなる。
【0021】
水スラリーのpHによって、灰に含まれる成分の溶出量が大きく異なる。図4および図5に示すように、ナトリウムおよびカリウムは水スラリーのpHが4〜10の広い範囲で高い溶出量を示す。一方、図6に示すように、亜鉛は水スラリーのpHが6.5以上になると急激に溶出量が減少する。また図7に示すように、カドミウムは水スラリーのpHが7.5以上になると溶出量が急激に低下する。さらに図8に示すように、銅は水スラリーのpHが5.5以上になると溶出量が急激に低下する。また図9に示すように、ヒ素は水スラリーのpHが4.5以上になると溶出量が急激に低下する。
【0022】
本発明の処理方法は、図4〜図9に示すように、水スラリーのpHによって各元素の溶出量が相違することに基いて、水スラリーのpHを下記[イ]〜[ハ]のように調整することによって水スラリーの灰に含まれているナトリウムおよびカリウムを選択的に溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻して繰り返し処理する。
【0023】
ボイラ灰やコットレル灰にはナトリウムやカリウムなどのアルカリ成分、および銅や亜鉛などが硫酸塩の状態で含まれており、これらの灰に水を加えて水スラリーにするとスラリーは概ね弱酸性になる。
〔イ〕この水スラリーに生石灰、消石灰、または苛性ソーダなどのアルカリ化合物を添加して水スラリーのpHを7.5以上(好ましくは9〜11)に調整することによって銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムの溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムを溶出させる(図1の処理方法)。
次いで、水スラリーを固液分離する。固液分離した液分(浸出液)には煙灰中のナトリウムおよびカリウムの大部分が含まれており、アルカリ性であるので、この浸出液をpH調整などを含む排水処理して外部に放流する。一方、浸出残渣には煙灰に含まれていた銅、ヒ素、亜鉛、カドミウムの大部分が残っているので、この浸出残渣を製錬炉に戻して繰り返し処理する。
【0024】
〔ロ〕水スラリーのpHを5.5〜7.5に調整することによって銅およびヒ素の溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムと共に亜鉛およびカドミウムを溶出させる(図2の処理方法)。
次いで、水スラリーを固液分離する。固液分離した液分(浸出液)には煙灰中のナトリウムおよびカリウムと共に亜鉛およびカドミウムの大部分が含まれているので、この浸出液に生石灰や消石灰、苛性ソーダなどのアルカリ化合物を添加して水スラリーのpHを9以上に調整することによって亜鉛およびカドミウムを沈澱させる。亜鉛およびカドミウムは上記pH域で水酸化物を形成して沈澱する。この沈澱物を回収し、亜鉛やカドミウムの製錬原料として再利用する。一方、沈殿物を分離した濾液には煙灰中のナトリウムおよびカリウムの大部分が含まれており、この濾液をpH調整などを含む排水処理して外部に放流する。また、水スラリーを固液分離した浸出残渣には煙灰に含まれる銅、ヒ素の大部分が残っているので、この浸出残渣を製錬炉に戻して繰り返し処理する。
【0025】
〔ハ〕水スラリーのpHを4〜5.5に調整することよって、ナトリウムおよびカリウムと共に銅、ヒ素、亜鉛およびカドミウムを溶出させる(図3の処理方法)。pH4以下に調整しても金属イオンの浸出効果に差が出ず、またpH調整剤の消費が多くなるデメリットもある。
次いで、水スラリーを固液分離する。固液分離した液分(浸出液)には煙灰中のナトリウムおよびカリウムと共に銅、ヒ素、亜鉛、カドミウムの大部分が含まれているので、この浸出液に生石灰や消石灰、苛性ソーダなどのアルカリ化合物を添加して水スラリーのpHを9以上に調整する。浸出液に含まれる銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムは上記pH域で水酸化物を形成して沈澱する。この沈澱物を回収し、浸出残渣と共に製錬炉に戻して繰り返し処理する。
【0026】
浸出温度は常温でよい。ボイラ灰やコットレル灰に含まれる亜鉛やカドミウム、アルカリ成分などは概ね硫酸塩であり、これらは水への溶解度が常温でも高いので十分に溶出させることができる。また、常温浸出では浸出設備に加熱手段を設ける必要がないので費用を低減することができる。
【0027】
水浸出時間に対するナトリウムとカリウムの溶出量の変化を図10に示す。このグラフに示すように、10分程度の浸出時間によって高い溶出量が得られるので、浸出時間は10分〜20時間程度で良い。浸出時間が10分より短いと亜鉛やアルカリ成分が十分に浸出されない。数時間の浸出で塊状の煙灰も溶解される。浸出時間が20時間を超えると経済性が低下する。
【0028】
水スラリーを固液分離した浸出残渣や回収した沈殿物を製錬炉に戻して繰り返し処理することによって、浸出残渣や沈澱物に含まれる金属成分の回収率を高めることができる。また、浸出液の一部は水浸出工程に返送して再利用することができる。
【実施例】
【0029】
本発明の実施例を以下に示す。
〔実施例1〕
反射炉ボイラ内から剥離して粉砕したボイラ灰1gに水200ccを加えて水スラリーにし、これを1時間攪拌して水浸出を行った。浸出時のスラリpHは成り行きで約4.7であった。この水スラリーを濾過し、液分(浸出液)の元素濃度をICPにて測定した。なお、ボイラ灰の浸出残渣率は56%であった。浸出前後のボイラ灰の組成および浸出率を表1に示す。表1に示すように、水浸出によって、亜鉛、カリウム、ナトリウム、カドミウム、銅、および硫酸塩として存在する硫黄が80〜90%と高い割合で溶出する。また、ヒ素は水不溶の形態(Zn,Cu(AsO4))で存在するため殆ど溶出しない。
【0030】
【表1】
【0031】
〔実施例2〕
回収したボイラ灰を水浸出せずに反射炉に戻して繰返し処理した場合、灰に含まれる成分の一部が再び揮発しボイラ内の600℃付近で焼結して強固に付着する。この状態を図12(左側)に示す。一方、実施例1において水浸出したボイラ灰を反射炉に戻した場合、上記と同じ条件下の付着状態を図12(右側)に示す。水浸出した残渣は同じ条件において全く焼結しないので容易に粉砕することができ、また煙灰全体の付着力が弱いので落下しやすく、従って付着量が減少する。
【0032】
〔実施例3〕
反射炉のコットレル灰(組成を表2に示す)100gに水1リッターと少量のpH調整剤〔H2SO4、Ca(OH)2〕を加えて水スラリーにした。このスラリーを1時間攪拌して浸出を行った。浸出後、スラリーを濾過し、液分(浸出液)の金属イオン濃度を測定した。この結果を図4〜図9に示す。また、浸出pH9.1、pH6.5、pH4における浸出後残渣の組成および各元素の浸出率を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
図4および図5に示すように、ナトリウムおよびカリウムは水スラリーのpHが4〜10の広い範囲で高い溶出量を示す。一方、図6に示すように、亜鉛は水スラリーのpHが6.5以上になると急激に溶出量が減少する。また図7に示すように、カドミウムは水スラリーのpHが7.5以上になると溶出量が急激に低下する。さらに図8に示すように、銅は水スラリーのpHが5.5以上になると溶出量が急激に低下する。また図9に示すように、ヒ素は水スラリーのpHが4.5以上になると溶出量が急激に低下する。
表2に示すように、水スラリーのpHを調整することで、ナトリウム及びカリウムの高い浸出率を維持しつつ、亜鉛、カドミウム、銅、ヒ素の浸出率を制御できる。また、例えば水スラリーのpH6.5において、銅及びヒ素を煙灰の浸出残渣で残し、一方、アルカリ成分と共に、亜鉛の35%及びカドミウムの57%を溶出させ、亜鉛、カドミウムの製錬原料として回収できる(図2)。
【符号の説明】
【0035】
10−製錬炉、11−ボイラ、12−コットレル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理し、製錬炉のボイラから回収したボイラ灰および/または電気集塵機から回収したコットレル灰を製錬炉に戻して繰り返し処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻すことによって煙灰の付着を抑制することを特徴とする煙灰の処理方法。
【請求項2】
水スラリーのpHを7.5〜11に調整することによって、銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムの溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す請求項1に記載する煙灰の処理方法。
【請求項3】
水スラリーのpHを5.5〜7.5に調整することによって銅およびヒ素の溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムと共に亜鉛およびカドミウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す請求項1に記載する煙灰の処理方法。
【請求項4】
請求項3の処理方法において、水スラリーを固液分離した浸出液のpHを9〜11に調整して亜鉛およびカドミウムを沈澱させ、この沈澱物を製錬原料として再利用する煙灰の処理方法。
【請求項5】
水スラリーのpHを4〜5.5に調整することよって、ナトリウムおよびカリウムと共に銅、ヒ素、亜鉛およびカドミウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す請求項1に記載する煙灰の処理方法。
【請求項6】
請求項5の処理方法において、水スラリーを固液分離した浸出液のpHを9〜11に調整して銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムを沈澱させ、この沈澱物を製錬原料として再利用する煙灰の処理方法。
【請求項7】
スラリーの固液比が1:2〜1:200、および浸出時間が10分〜20時間である請求項1〜請求項6の何れかに記載する煙灰の処理方法。
【請求項1】
アルカリ成分を含有する廃棄物を製錬炉によって燃焼処理し、製錬炉のボイラから回収したボイラ灰および/または電気集塵機から回収したコットレル灰を製錬炉に戻して繰り返し処理する方法において、回収した灰を製錬炉に戻す前に水スラリーにしてアルカリ成分を溶出させ、この水スラリーを固液分離した浸出残渣を製錬炉に戻すことによって煙灰の付着を抑制することを特徴とする煙灰の処理方法。
【請求項2】
水スラリーのpHを7.5〜11に調整することによって、銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムの溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す請求項1に記載する煙灰の処理方法。
【請求項3】
水スラリーのpHを5.5〜7.5に調整することによって銅およびヒ素の溶出を抑制しつつ、ナトリウムおよびカリウムと共に亜鉛およびカドミウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す請求項1に記載する煙灰の処理方法。
【請求項4】
請求項3の処理方法において、水スラリーを固液分離した浸出液のpHを9〜11に調整して亜鉛およびカドミウムを沈澱させ、この沈澱物を製錬原料として再利用する煙灰の処理方法。
【請求項5】
水スラリーのpHを4〜5.5に調整することよって、ナトリウムおよびカリウムと共に銅、ヒ素、亜鉛およびカドミウムを溶出させ、浸出残渣を製錬炉に戻す請求項1に記載する煙灰の処理方法。
【請求項6】
請求項5の処理方法において、水スラリーを固液分離した浸出液のpHを9〜11に調整して銅、ヒ素、亜鉛、およびカドミウムを沈澱させ、この沈澱物を製錬原料として再利用する煙灰の処理方法。
【請求項7】
スラリーの固液比が1:2〜1:200、および浸出時間が10分〜20時間である請求項1〜請求項6の何れかに記載する煙灰の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−14789(P2013−14789A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146240(P2011−146240)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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