説明

熱交換器のフィン材用ブレージングシート並びに熱交換器及びその製造方法

【課題】Al−Si系ろう材がクラッドされた、ろう付け加熱後のフィン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiが微細化されているフィン材用ブレージングシートを提供すること。
【解決手段】芯材の両面にろう材がクラッドされ、該芯材がMnを0.6〜2.0質量%、Siを0〜1.3質量%、Znを0〜6.0質量%含有するアルミニウム合金であり、該ろう材がSiを5〜15質量%含有するアルミニウム合金であり、該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、該芯材中のSr含有量が0.6質量%以下であり、且つ、該ろう材中のSr含有量が0.6質量以下であり、該芯材中のSr含有量Cx(質量%)、該ろう材中のSr含有量Rx(質量%)、該ろう材の厚さDx(μm)が、Cx+0.025×Rx×Dx≧0.005を満たすこと、を特徴とする熱交換器のフィン材用ブレージングシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジエータ、ヒータコア、オイルクーラ、インタークーラ、カーエアコンのコンデンサ、エバポレータ等のように、アルミニウム合金製の熱交換器のフィン材用ブレージングシート、とチューブ材(作動流体通路材)とを、フラックスろう付けにより、チューブ材とフィン材とをろう付けして得られる熱交換器及びその製造方法に関する。また、それらに用いられるアルミニウム合金製の熱交換器のフィン材用ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金製の熱交換器は、自動車のラジエータ、ヒータコア、オイルクーラ、インタークーラ、カーエアコンのエバポレータやコンデンサ等の熱交換器として、広く使用されている。アルミニウム合金製の熱交換器は、Al−Mn合金、Al−Mn−Cu合金等からなるチューブ材と、アルミニウム合金のフィン材を組み付け、塩化物系フラックス又はフッ素系フラックスを用いる不活性ガス雰囲気ろう付け法、あるいは、真空ろう付け法により、製造されている。
【0003】
該チューブ材と該フィン材とをろう付けするろう材としては、Al−Si系ろう材が使用されることが一般的である。該ろう材は、該チューブ材側に配置されたり、あるいは、フィン材の両面に配置されており、該チューブ材と該フィン材とが組み付けられた後、ろう付け加熱されることで、該ろう材が溶融し、各部材が接合される。
【0004】
通常、フィン材用ブレージングシートの場合、ろう材フィレットを形成する以外のろう材は、ろう付け加熱後、フィンの表面全体の一般部に薄く残存している。図4及び図5を参照して説明する。図4は、ろう付け加熱後の熱交換器のコアの一部分を示す模式的な側面図であり、また、図5は、図4中の丸囲み部Aの拡大図である。図4及び図5中、熱交換器10は、チューブ材11と、フィン材用ブレージングシートをコルゲート加工して得られるフィン材と、を組み付けて、ろう付け加熱して、ろう付けすることにより得られる。該熱交換器10では、ろう付け加熱により、ろう付け加熱前の該フィン材のろう材が溶融して、コルゲートの頂点15付近に流動し、該コルゲートの頂点15付近でフィレット14を形成することにより、該チューブ材11と、ろう付け加熱後の該フィン材、すなわち、フィン材の一般部12とが、ろう付けされている。この時、ろう付け加熱により、ろう付け加熱前の該フィン材のろう材は、溶融して、該コルゲートの頂点15に向かって流動するが、溶融したろう材の全てが、該コルゲートの頂点15に流動するわけではなく、溶融したろう材の一部は、該フィン材の一般部12の表面に薄く残存する。
【0005】
そして、ろう付け加熱後に凝固したろう材には、針状Siと共晶α相との共晶組織、及びアルミニウムにSiが固溶した初晶α相が存在する。ろう付け加熱後にフィン材の一般部の表面に薄く残存した凝固ろう材は、結晶粒界を多く溶解した状態になっており、針状のSiの多くは溶融が最も大きい結晶粒界に沿って晶出している。共晶α相と針状Siとの境界部分ではSiの欠乏層が存在するため、電位的に卑な欠乏層部分が優先的に腐食して、芯材の粒界に沿って板厚深さ方向へ腐食が進行する。そのため、Al−Si系ろう材がクラッドされたフィン材用ブレージングシートには、該針状Siが、フィン材の強度を低下させ、場合によってはフィンがちぎれるなど性能低下の一因となるという問題があった。
また、フィレット(ろう付け部)においても、凝固したろう材には、針状Siと共晶α相の共晶組織、及びアルミニウムにSiが固溶した初晶α相が存在する。ろう付け加熱後の初晶α相はSiが欠乏しており、針状Siと共晶α相とでは強度が異なるため、表面が粗くなったりするため、疲労破壊の起点となる。そのため、Al−Si系ろう材がクラッドされたフィン用ブレージングシートには、該針状Siが、疲労強度の低下の一因となるという問題があった。
【0006】
この問題に対し、例えば、特開平2004−84060号公報(特許文献1)では、熱交換器用ブレージングフィン材の芯材のろう付前の組織を繊維組織とし、ろう付後の組織の結晶粒径を50〜250μmとすることにより、更には、芯材及びろう材に含有される金属種及び含有量を特定の範囲とすることにより、ブレージングフィン材の粒界腐食を低減する試みが行なわれてきた。
【0007】
また、特開平2003−39194号公報(特許文献2)では、ろう材中の粗大シリコン粒子の最大径が20μm以下であるブレージングシートが開示されている。しかし、特許文献2の課題は、ろう付加工時に、ブレージングシートに溶融穴を発生させないことなので、ろう付け後のブレージングフィン材の粒界腐食を防ぐという本発明とは、対象及び課題が異なる。また、特許文献2は、ブレージングシートの発明であるため、コルゲート加工することは想定されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平2004−84060号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平2003−39194号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1〜2では、上記問題点を解決することができなかった。
【0010】
従って、本発明の課題は、Al−Si系ろう材がクラッドされたフィン材用ブレージングシートであって、ろう付け加熱後のフィン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiが微細化されているフィン材用ブレージングシートを提供することにある。また、本発明の課題は、Al−Si系ろう材がクラッドされたフィン材用ブレージングシートであって、ろう付け加熱後のフィレット部を形成するろう材の凝固組織中のSiが微細化されているフィン材用ブレージングシートを提供することにある。また、本発明の課題は、耐食性に優れ且つ強度のばらつきが少ない熱交換器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、(1)ブレージングシートを構成する芯材及びろう材の添加元素及びその含有量を特定にすること、該芯材及び該ろう材に含有されるSrを特定の範囲とすることにより、(2)ブレージングシートを構成する芯材及びろう材に含有されるSrと、チューブ材に塗布されるフッ化物フラックスの塗布量との関係を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートであって、
該芯材がMnを0.6〜2.0質量%、Siを0〜1.3質量%、Znを0〜6.0質量%含有するアルミニウム合金であり、
該ろう材がSiを5〜15質量%含有するアルミニウム合金であり、
該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、
該芯材中のSr含有量が0.6質量%以下であり、且つ、該ろう材中のSr含有量が0.6質量以下であり、
該芯材中のSr含有量Cx(質量%)、該ろう材中のSr含有量Rx(質量%)、該ろう材の厚さDx(μm)が、下記式(1):
Cx+0.025×Rx×Dx≧0.005 (1)
を満たすこと、
を特徴とする熱交換器のフィン材用ブレージングシートを提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、チューブ材にフッ化物フラックスを塗布し、該チューブ材とフィン材とを組み付け、あるいは、フッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされたチューブ材と、フィン材とを組み付け、次いで、加熱して、該チューブ材と該フィン材とをろう付けするろう付け工程を行い得られる接合体を有する熱交換器であって、
該フィン材が、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートであり、該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、
該フィン材のフィン高さが5〜20mm、フィンピッチが1〜5mmであり、
該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が20g/m以下であり、
該フィン材の芯材中のSr含有量Cy(質量%)、該フィン材のろう材中のSr含有量Ry(質量%)、該フィン材のろう材の厚さDy(μm)、該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が、下記式(2):
Cy+0.025×Ry×Dy≧0.001×F+0.005 (2)
を満たすこと、
を特徴とする熱交換器を提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、チューブ材にフッ化物フラックスを塗布し、該チューブ材とフィン材とを組み付け、あるいは、フッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされたチューブ材と、フィン材とを組み付け、次いで、加熱して、該チューブ材と該フィン材とをろう付けするろう付け工程を有する熱交換器の製造方法であって、
該フィン材が、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートであり、該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、
該フィン材のフィン高さが5〜20mm、フィンピッチが1〜5mmであり、
該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が20g/m以下であり、
該フィン材の芯材中のSr含有量Cy(質量%)、該フィン材のろう材中のSr含有量Ry(質量%)、該フィン材のろう材の厚さDy(μm)、該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が、下記式(2):
Cy+0.025×Ry×Dy≧0.001×F+0.005 (2)
を満たすこと、
を特徴とする熱交換器の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Al−Si系ろう材がクラッドされたフィン材用ブレージングシートであって、ろう付け加熱後のフィン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiが微細化されているフィン材用ブレージングシートを提供することができる。また、本発明によれば、Al−Si系ろう材がクラッドされたフィン材用ブレージングシートであって、ろう付け加熱後のフィレット部を形成するろう材の凝固組織中のSiが微細化されているフィン材用ブレージングシートを提供することができる。また、本発明によれば、耐食性に優れ且つ強度のばらつきが少ない熱交換器及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の熱交換器のフィン材用ブレージングシート(以下、本発明のフィン材用ブレージングシートとも記載する。)は、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートであって、
該芯材がMnを0.6〜2.0質量%、Siを0〜1.3質量%、Znを0〜6.0質量%含有するアルミニウム合金であり、
該ろう材がSiを5〜15質量%含有するアルミニウム合金であり、
該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、
該芯材中のSr含有量が0.6質量%以下であり、且つ、該ろう材中のSr含有量が0.6質量以下であり、
該芯材中のSr含有量Cx(質量%)、該ろう材中のSr含有量Rx(質量%)、該ろう材の厚さDx(μm)が、下記式(1):
Cx+0.025×Rx×Dx≧0.005 (1)
を満たす、
熱交換器のフィン材用ブレージングシートである。
【0017】
本発明のフィン材用ブレージングシートの形態例としては、
(4)芯材の両面にろう材がクラッドされており、且つ、2つのろう材の組成が同じもの、
(5)芯材の両面にろう材がクラッドされており、且つ、2つのろう材の組成が異なるもの、
が挙げられる。
なお、以下では、上記(4)の場合、芯材を「芯材4A」と、該芯材4Aの一方の面にクラッドされているろう材を「ろう材4B」と、該芯材4Aの他方の面にクラッドされているろう材を「ろう材4C」とも記載する。また、上記(5)の場合、芯材を「芯材5A」と、該芯材5Aの一方の面にクラッドされているろう材を「ろう材5B」と、該芯材5Aの他方の面にクラッドされているろう材を「ろう材5C」とも記載する。
【0018】
本発明のフィン材用ブレージングシートに係る該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、Mnを0.6〜2.0質量%含有するアルミニウム合金であり、該芯材中のMnの含有量は、好ましくは1.0〜1.7質量%である。該芯材中のMnは、強度を確保するために添加される元素であり、耐高温座屈性を向上させる元素として機能する。該芯材中のMnの含有量が、上記範囲未満だと、上記Mn元素の添加効果が小さく、また、上記範囲を超えると、鋳造時に粗大な晶出物が生成して圧延加工性が害され、板材の製造が困難となる。
【0019】
本発明のフィン材用ブレージングシートに係る該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、Siを0〜1.3質量%、好ましくは0.2〜0.8質量%含有する。該芯材中のSiは、芯材の強度を向上させる元素として機能する。特に、Mnの含有量が少ない場合に、芯材の強度の向上に効果的である。ただし、芯材中のSiの含有量が多ければ多い程、芯材の強度は高くなるが、芯材中のSiの含有量が1.3質量%を超えると、耐食性が低くなるとともに、芯材の融点が低くなり過ぎて、ろう付け時に局部溶融が生じ易くなる。
【0020】
本発明のフィン材用ブレージングシートに係る該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、Znを0〜6.0質量%、好ましくは1.0〜4.0質量%含有する。該芯材中のZnは、フィン材の自然電位を低下させ、犠牲陽極効果によって、相手材であるチューブ材を防食する。芯材中のZnの含有量は多い程犠牲陽極効果は高くなるが、芯材中のZnの含有量が6.0質量%を超えると、フィン自体の腐食消耗速度が速くなり過ぎて、早期に熱交換器性能が低下する。
【0021】
本発明のフィン材用ブレージングシートに係る該ろう材(上記(4)の場合はろう材4B及びろう材4Cのいずれも、上記(5)の場合はろう材5B及びろう材5Cのいずれも)は、Siを5〜15質量%含有するアルミニウム合金であり、該ろう材中のSiの含有量は、好ましくは7〜12質量%である。該ろう材中のSiは、ろう材の融点を下げるために添加される元素であり、溶融ろうの流動性を高める元素として機能する。該芯材中のSiの含有量が、上記範囲未満だと、上記Si元素の添加効果が小さく、また、上記範囲を超えると、融点が急激に高くなり、ブレージングシートの製造時の加工性が低下する。
【0022】
本発明のフィン材用ブレージングシートでは、該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方が、Srを含有する。つまり、該芯材のみがSrを含有する場合、該ろう材のみがSrを含有する場合、該芯材及び該ろう材の両方がSrを含有する場合がある。上記(4)の場合、該芯材4AのみがSrを含有するか、該ろう材4B及び該ろう材4CのみがSrを含有するか、該芯材4A、該ろう材4B及び該ろう材4CのいずれもがSrを含有する。また、上記(5)の場合、該芯材5A、該ろう材5B及び該ろう材5CのうちのいずれかのみがSrを含有するか、該芯材5A、該ろう材5B及び該ろう材5Cのうちのいずれか2つ又は3つ全てがSrを含有する。
【0023】
そして、該芯材中のSr含有量が0.6質量%以下であり且つ該ろう材中のSr含有量が0.6質量%以下である。よって、該芯材4A及び該芯材5A中のSr含有量が0.6質量%以下であり且つ該ろう材4B、該ろう材4C、該ろう材5B及び該ろう材5C中のSr含有量が0.6質量%以下である。
【0024】
芯材中のSrは、ろうの溶融時に芯材からろう材中に拡散し、そして、ろう付け後のろう材の凝固組織中のSiを微細化させることができる。つまり、芯材中のSrは、ろう付け後のろう材の凝固組織中のSiを微細化するために添加される元素であり、該芯材がSrを含有することにより、ろう付け後のろう材の凝固組織中のSiを微細化することができるため、熱交換器の耐食性を向上させ、強度のばらつきを少なくすることができる。また、該ろう材中のSrは、鋳造凝固時にろう材中のSiの凝固粒子を微細化、すなわち、ろう付け前のろう材のSi粒子を微細化させ、且つろう付け後のろう材の凝固組織中のSiを微細化させることができる。つまり、該ろう材中のSrは、ろう付け前のろう材中のSiの凝固粒子を微細化し且つろう付け後のろう材の凝固組織中のSiを微細化するために添加される元素であり、該ろう材がSrを含有することにより、圧延後の製造性を向上させ、且つ熱交換器の耐食性を向上させ、強度のばらつきを少なくすることができる。一方、該芯材中のSrの含有量、あるいは、該ろう材中のSr含有量が、0.6質量%を超えると、鋳造時に巨大な晶出物が生成し圧延割れを生じる。そのため、本発明のフィン材用ブレージングシートでは、該芯材中のSrの含有量は0.6質量%以下であり且つ該ろう材中のSrの含有量が0.6質量%以下である。
【0025】
更に、本発明のフィン材用ブレージングシートでは、上記Srの添加効果が得易い点で、該芯材が0.005〜0.6質量%のSrを含有し且つ該ろう材が0.005〜0.6質量%のSrを含有することが好ましく、該芯材が0.005〜0.4質量%のSrを含有し且つ該ろう材が0.005〜0.4質量%のSrを含有することが特に好ましい。よって、該芯材4A及び該芯材5A中のSr含有量が0.005〜0.6質量%以下であり且つ該ろう材4B、該ろう材4C、該ろう材5B及び該ろう材5C中のSr含有量が0.005〜0.6質量%以下であることが好ましく、該芯材4A及び該芯材5A中のSr含有量が0.005〜0.4質量%以下であり且つ該ろう材4B、該ろう材4C、該ろう材5B及び該ろう材5C中のSr含有量が0.005〜0.4質量%以下であることが特に好ましい。つまり、本発明のフィン材用ブレージングシートでは、該芯材と該ろう材との両方が上記範囲のSrを含有することにより、ろう付け後のろう材の凝固組織中のSiを微細化させる効果が高くなる。
【0026】
本発明のフィン材用ブレージングシートでは、該芯材中のSr含有量Cx(質量%)、該ろう材中のSrの含有量Rx(質量%)及び該ろう材の厚さDx(μm)が、下記式(1):
Cx+0.025×Rx×Dx≧0.005 (1)
を満たし、好ましくは、下記式(1a):
Cx+0.025×Rx×Dx≧0.01 (1a)
を満たし、特に好ましくは、下記式(1b):
Cx+0.025×Rx×Dx≧0.03 (1b)
を満たす。該芯材中のSr含有量Cx、該ろう材中のSrの含有量Rx及び該ろう材の厚さDxが、上記式(1)を満たすことにより、ろう付け加熱後のフィン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiが微細化される。一方、該芯材中のSr含有量Cx、該ろう材中のSrの含有量Rx及び該ろう材の厚さDxが、上記式(1)を満たさない場合は、ろう付け加熱後のフィン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiが微細化されない。
なお、フィン材用ブレージングシートの片面のろう材毎に、上記式(1)、(1a)及び(1b)を満たすか否かを判断する。
よって、上記(4)の場合、該芯材4AのSr含有量をCx(質量%)、該ろう材4B及び該ろう材4CのSr含有量をRx(質量%)、該ろう材4Bの厚さをD41(μm)、該ろう材4Cの厚さをD42(μm)とすると、「Cx+0.025×Rx×D41≧0.005」且つ「Cx+0.025×Rx×D42≧0.005」を満たし、好ましくは「Cx+0.025×Rx×D41≧0.01」且つ「Cx+0.025×Rx×D42≧0.01」を満たし、特に好ましくは「Cx+0.025×Rx×D41≧0.03」且つ「Cx+0.025×Rx×D42≧0.03」を満たす。
また、上記(5)の場合、該芯材5AのSr含有量をCx(質量%)、該ろう材5BのSr含有量をR51(質量%)、該ろう材5CのSr含有量をR52(質量%)、該ろう材5Bの厚さをD51(μm)、該ろう材5Cの厚さをD52(μm)とすると、「Cx+0.025×R51×D51≧0.005」且つ「Cx+0.025×R52×D52≧0.005」を満たし、好ましくは「Cx+0.025×R51×D51≧0.01」且つ「Cx+0.025×R52×D52≧0.01」を満たし、特に好ましくは「Cx+0.025×R51×D51≧0.03」且つ「Cx+0.025×R52×D52≧0.03」を満たす。
【0027】
本発明者らは、鋭意検討した結果、フィン材用ブレージングシートでは、ろう付け加熱後のフィン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiの微細化効果は、ろう付け前の芯材及びろう材中のSr量の合計量に依存することを見出した。すなわち、ろう材中のSr量が少ないためにろう付け後のろう材の凝固組織中のSiの微細化効果が小さかったとしても、ろうの溶融時に芯材中のSrがろう材中に拡散してゆき、芯材から拡散してきたSrがろう付け加熱後のフォン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiの微細化効果を補うため、ろう付け前の該芯材及び該ろう材中のSr量の合計量が一定の関係にあれば、ろう付け加熱後のフィン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiが微細化されることを見出した。
そして、本発明のフィン材用ブレージングシートでは、ろう付け加熱後のフィン材の一般部の表面に残存したろう材の凝固組織中のSiが微細化される結果、本発明のフィン材用ブレージングシートが用いられている熱交換器は、フィン材の一般部の耐食性が高くなり、強度のばらつきが少なくなる。
【0028】
また、Fe含有量が0.1質量%以下のアルミニウム地金は高価なため、通常、芯材及びろう材には、Fe含有量が0.4質量%以下の地金が使われる。そして、芯材又はろう材が、0.4質量%以下のFeを含有することにより、若干強度が向上する。一方、芯材又はろう材のFe含有量が0.4質量%を超えると、自己耐食性が低くなる。従って、通常、Fe含有量が0.1〜0.4質量%の地金が使用される。
【0029】
該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、更に、0.3質量%以下のCuを含有することにより、芯材の強度を更に高くすることができる。なお、該芯材中のCu含有量が、0.3質量%を超えると、電位が貴化されフィン材自体の電位が高くなり、フィン材自体の自己消耗速度が速くなるので、早期に熱交換器の性能が低下し易くなる。
【0030】
該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、更に、0.05〜0.3質量%のZrを含有することにより、芯材の結晶粒度を粗大化させて、溶融ろうの浸透を抑制することができるので、溶融ろうの浸透による芯材の強度低下を防ぐことができる。なお、該芯材中のZr含有量が、0.05質量%未満だと、Zrの添加効果が小さく、また、0.3質量%を超えても、Zrの添加効果が飽和してしまう。
【0031】
該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、更に、0.05〜0.3質量%のTiを含有することにより、芯材の耐孔食性を向上させることができる。該芯材中のTiは、芯材に添加されると、芯材の板厚方向に濃度の高い領域と低い領域に分かれ、それらの領域が交互に分布する層状となるように存在し、Ti濃度の低い領域は高い領域に比べ優先的に腐食するので、該芯材中のTiは、腐食形態を層状にする効果を有し、それにより板厚方向への腐食の進行を妨げて材料の耐孔食性を向上させる元素として機能する。該芯材中のTiの含有量が、上記範囲未満だと、上記Ti元素の添加効果が小さく、また、上記範囲を超えると、鋳造が困難となり、加工性が悪くなり健全な材料の製造が困難となる。
【0032】
該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、更に、0.8質量%以下のFeを含有することにより、芯材の強度を更に高くすることができる。なお、該芯材中のFe含有量が、0.8質量%を超えると、フィン材自体の自己消耗速度が速くなるので、早期に熱交換器の性能が低下し易くなる。
【0033】
該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、更に、0.5質量%以下のNiを含有することにより、芯材の強度を更に高くすることができる。なお、該芯材中のNi含有量が、0.5質量%を超えると、フィン材自体の自己消耗速度が速くなるので、早期に熱交換器の性能が低下し易くなる。
【0034】
該ろう材(上記(4)の場合はろう材4B及びろう材4Cのいずれも、上記(5)の場合はろう材5B及びろう材5Cのいずれか一方又は両方)は、更に、Mnを含有することにより、ろう付け後のろう材の凝固組織中のSiを微細化させることができる。つまり、該ろう材中のMnは、ろう付け後のろう材の凝固組織中のSiを微細化させるために添加される元素である。また、該ろう材中のMn含有量が多過ぎると、鋳造時に巨大な晶出物が生成し圧延割れを生じる。そのため、該ろう材が、1.4質量%以下のMnを含有することが、上記Mn添加効果が得られる点で好ましい。
【0035】
また、該芯材及び該ろう材は、上記添加元素の他に以下の添加元素を含有することができる。
【0036】
該芯材(上記(4)の場合は芯材4A、上記(5)の場合は芯材5A)は、ブレージングシートの強度を向上させるために、0.3質量%以下のV、又は0.3質量%以下のMoを含有することができ、また、該芯材は、ブレージングシートの熱伝導度をほとんど下げることなく電位を卑にし、犠牲陽極効果を確保するために、0.3質量%以下のIn、0.3質量%以下のSn、又は0.3質量%以下のGaを含有することができ、また、該芯材は、ろう付け後の結晶粒径を粗大化させるために、0.3質量%以下のCrを含有することができ、また、該芯材は、0.1質量%以下のPb、0.1質量%以下のLi、0.1質量%以下のCa、又は0.1質量%以下のNaを含有することができ、また、該芯材は、鋳造組織の微細化のために、0.3質量%以下のTiを含有することができ、また、該芯材は、酸化防止のために、0.4質量%以下のBを含有することができる。
【0037】
該ろう材(上記(4)の場合はろう材4B及びろう材4Cのいずれも、上記(5)の場合はろう材5B及びろう材5Cのいずれか一方又は両方)は、0.4質量%以下のFe、0.3質量%以下のCr、0.3質量%以下のCu、0.1質量%以下のPb、0.1質量%以下のLi、又は0.1質量%以下のCaを含有することができ、また、該ろう材は、鋳造組織の微細化のために、0.3質量%以下のTi、又は0.1質量%以下のBを含有することができ、また、該ろう材は、犠牲陽極効果を確保するために、3.0質量%以下のZn、0.1質量%以下のIn、0.1質量%以下のSn、又は0.1質量%以下のGaを含有することができ、また、該ろう材は、表面酸化皮膜の成長を抑制するために、0.1質量%以下のBeを含有することができ、また、該ろう材は、ろう材の流動性を向上させるために、0.1質量%以下のBiを含有することができる。
【0038】
そして、該芯材及び該ろう材は、いずれも、上記添加元素、不可避的不純物及びアルミニウムからなるアルミニウム合金である。
【0039】
本発明のフィン材用ブレージングシートは、該芯材の両面に該ろう材がクラッドされたものである。
【0040】
本発明のフィン材用ブレージングシートは、該芯材の両面に該ろう材をクラッドすることにより得られる。該芯材に該ろう材をクラッドする方法としては、該芯材又は該ろう材中の各元素の組成と同じ組成を有する芯材用の合金鋳塊及びろう材用の合金鋳塊を鋳造し、次いで、該芯材用の合金鋳塊については常法に従って均質化処理を行い、該ろう材用の合金鋳塊については熱間圧延を行い、次いで、均質化処理後の該芯材用の合金鋳塊と該ろう材用の合金鋳塊の熱間圧延物を合わせて、熱間圧延→焼鈍→冷間圧延を順に行い、又は熱間圧延→冷間圧延→焼鈍を順に行い、次いで、仕上げ冷間圧延をする方法が挙げられる。
【0041】
本発明のフィン材用ブレージングシートの板厚は、特に制限されないが、通常0.05〜0.12mmである。
【0042】
本発明のフィン材用ブレージングシートは、後述する本発明の熱交換器中のフィン材の形状に加工される。例えば、本発明のフィン材用ブレージングシートは、歯車状の回転成形機によって、複数のスリットを加えて、コルゲート状に加工される。また、本発明のフィン材用ブレージングシートは、例えば、所定幅にスリッティングされていてもよい。
【0043】
本発明の熱交換器は、チューブ材(作動流体通路材)にフッ化物フラックスを塗布し、該チューブ材とフィン材とを組み付け、あるいは、フッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされたチューブ材と、フィン材とを組み付け、次いで、加熱して、該チューブ材と該フィン材とをろう付けするろう付け工程を行い得られる接合体を有する熱交換器であって、
該フィン材が、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートであり、該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、
該フィン材のフィン高さが5〜20mm、フィンピッチが1〜5mmであり、
該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が20g/m以下であり、
該フィン材の芯材中のSr含有量Cy(質量%)、該フィン材のろう材中のSr含有量Ry(質量%)、該フィン材のろう材の厚さDy(μm)、該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が、下記式(2):
Cy+0.025×Ry×Dy≧0.001×F+0.005 (2)
を満たす、
熱交換器である。
【0044】
本発明の熱交換器は、チューブ材(1)にフッ化物フラックスを塗布し、該チューブ材(1)とフィン材とを組み付けて、次いで、加熱して、該チューブ材(1)と該フィン材とをろう付けするろう付け工程を行い得られる接合体を有する熱交換器であるか、あるいは、本発明の熱交換器は、フッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされたチューブ材(2)とフィン材とを組み付けて、次いで、加熱して、該チューブ材(2)と該フィン材とをろう付けするろう付け工程を行い得られる接合体を有する熱交換器である。
【0045】
該チューブ材(1)は、本発明の熱交換器のチューブ材の形状に加工されており、内部に冷媒を流通するための管であり、アルミニウム合金製熱交換器に使用されるものであれば、特に制限されない。例えば、JISA1100合金やJISA3003合金等を偏平管状に押出成形することにより得られたものや、JISA3003合金等のマンガンを含有するアルミニウム合金の板材を、偏平管に成形することによって得られたものが挙げられる。
【0046】
該ろう付け工程では、該チューブ材(1)の表面に、該フッ化物フラックスを塗布し、該フッ化物フラックスが塗布された該チューブ材(1)を得る。該チューブ材(1)に係る該フッ化物フラックスは、フッ化物のフラックスであり、アルミニウム合金製熱交換器の製造において、チューブ材とフィン材とを、フラックスを用いてろう付けするために通常用いられるフラックスであれば、特に制限されず、例えば、KAlF、KAlF、KAlF、KAlF・HO、KZnF、KSiFが挙げられる。これらは、1種単独であっても2種以上の混合であってもよい。
【0047】
また、該チューブ材(2)は、本発明の熱交換器のチューブ材の形状に加工されており、内部に冷媒を流通するための管であり、アルミニウム合金製熱交換器に使用されるものであれば、特に制限されない。例えば、JIS1100合金やJIS3003合金等を偏平管状に押出成形することにより得られたものや、JIS3003合金等のマンガンを含有するアルミニウム合金の板材を、偏平管に成形することによって得られたものが挙げられる。
【0048】
該チューブ材(2)は、表面にフッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされている。該チューブ材(2)に係る該フッ化物フラックスは、該チューブ材(1)に係る該フッ化物フラックスと同様である。
【0049】
表面にフッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされた該チューブ材(2)を得る方法としては、例えば、該フッ化物フラックスをアクリル樹脂などのバインダーと混合し、溶媒に溶解又は分散させ、ロールコート法やスプレー法あるいは浸漬法により、該チューブ材(2)用の板材の表面に、塗布して、乾燥することより、該チューブ材(2)用の板材の表面に該フラックスプレコート層を形成させて、該フラックスプレコート層をプレコートし、次いで、本発明の熱交換器のチューブ材の形状に加工することにより、表面にフッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされた該チューブ材(2)を得る方法が挙げられる。
【0050】
本発明の熱交換器に係る該フィン材は、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートからなる。つまり、本発明の熱交換器に係る該フィン材は、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートが、本発明の熱交換器のフィン材の形状に加工されたものである。
本発明の熱交換器に係るフィン材用ブレージングシートの形態例としては、
(7)芯材の両面にろう材がクラッドされており、且つ、2つのろう材の組成が同じもの、
(8)芯材の両面にろう材がクラッドされており、且つ、2つのろう材の組成が異なるもの、
が挙げられる。
なお、以下では、上記(7)の場合、芯材を「芯材7A」と、該芯材7Aの一方の面にクラッドされているろう材を「ろう材7B」と、該芯材7Aの他方の面にクラッドされているろう材を「ろう材7C」とも記載する。また、上記(8)の場合、芯材を「芯材8A」と、該芯材8Aの一方の面にクラッドされているろう材を「ろう材8B」と、該芯材8Aの他方の面にクラッドされているろう材を「ろう材8C」とも記載する。
本発明の熱交換器に係るフィン材用ブレージングシートとしては、前記本発明のフィン材用ブレージングシートが好ましい。
【0051】
本発明の熱交換器に係るフィン材用ブレージングシートは、芯材にろう材がクラッドされている。本発明の熱交換器に係る該フィン材用ブレージングシートの該芯材及び該ろう材は、いずれも、アルミニウム合金であり、且つ、該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有する。上記(7)の場合、該芯材7AのみがSrを含有するか、該ろう材7B及び該ろう材7CのみがSrを含有するか、該芯材7A、該ろう材7B及び該ろう材7CのいずれもがSrを含有する。また、上記(8)の場合、該芯材8A、該ろう材8B及び該ろう材8CのうちのいずれかのみがSrを含有するか、該芯材8A、該ろう材8B及び該ろう材8Cのうちのいずれか2つ又は3つ全てがSrを含有する。
【0052】
本発明の熱交換器に係る該フィン材は、本発明の熱交換器中のフィン材の形状に加工されている。例えば、該フィン材は、歯車状の回転成形機によって、複数のスリットを加えて、コルゲート状に加工されている。また、該フィン材は、例えば、所定幅にスリッティングされていてもよい。そして、該フィン材のフィン高さは5〜20mmであり、且つ、フィンピッチが1〜5mmである。なお、本発明において、該フィン材のフィン高さ(図4中、符号16)とは、図4に示すように、コルゲート加工されたフィン材の上下の該コルゲートの頂点15間の距離を指す。また、該フィン材のフィンピッチ(図4中、符号17)とは、図4に示すように、コルゲート加工されたフィン材の隣り合う該コルゲートの頂点15間の距離を指す。
【0053】
本発明の熱交換器に係る該ろう付け工程では、ろう付け前の該チューブ材(1)の表面に塗布される該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)は、20g/m以下である。また、本発明の熱交換器に係る該ろう付け工程では、ろう付け前の該チューブ材(2)の表面にプレコートされている該フラックスプレコート層の該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)は、20g/m以下である。
【0054】
該ろう付け工程では、該フッ化物フラックスが塗布された該チューブ材(1)と該フィン材とを組み付けた後、あるいは、該ろう付け工程では、表面にフッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされた該チューブ材(2)と該フィン材とを組み付けた後、更に、その他熱交換器に必要な部材、例えば、ヘッダ等を組み付ける。
【0055】
そして、該ろう付け工程では、該フッ化物フラックスが塗布された該チューブ材(1)又は該フッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされた該チューブ材(2)と、該フィン材との組み付け体において、ろう付け前の該フィン材の芯材中のSr含有量Cy(質量%)、ろう付け前の該フィン材のろう材中のSrの含有量Ry(質量%)及びろう付け前の該フィン材のろう材の厚さDy(μm)と、ろう付け前の該チューブ材(1)又は該チューブ材(2)の表面に塗布されている該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)とが、下記式(2):
Cy+0.025×Ry×Dy≧0.001×F+0.005 (2)
を満たし、好ましくは、下記式(2a):
Cy+0.025×Ry×Dy≧0.002×F+0.005 (2a)
を満たし、特に好ましくは、下記式(2b):
Cy+0.025×Ry×Dy≧0.005×F+0.005 (2b)
を満たす。該ろう付け工程では、上記式(2)、(2a)、又は(2b)を満たすことにより、ろう付け後のフィレットのろう材の凝固組織中のSiを微細化できるので、熱交換器の耐食性を向上させ、強度のばらつきを少なくすることができる。
【0056】
なお、上記式(2)、(2a)及び(2b)中、Cyは、ろう付け前の該フィン材の芯材中のSr含有量(質量%)を示す。Ryは、ろう付け前の該フィン材のろう材中のSr含有量(質量%)を示す。Dyは、ろう付け前の該フィン材のろう材の厚さ(μm)を示す。Fは、該フッ化物フラックスの塗布量(g/m)を示し、ろう付け前の該チューブ材(1)又は該チューブ材(2)の表面に塗布されている該フッ化物フラックスの総質量(g)を、該フッ化物フラックスが塗布されている面積(m)で除した値である。また、該フッ化物フラックスは溶媒に溶解又は分散されているか、あるいは、アクリル樹脂等のバインダー中に分散しているが、上記(2)、(2a)及び(2b)において、該フッ化物フラックスの塗布量は、該フッ化物フラックス自体の質量を指す。
また、ろう材については、フィン材用ブレージングシートの両面のろう材の合計量で、上記式(2)、(2a)及び(2b)を満たすか否かを判断する。
よって、上記(7)の場合、該芯材7AのSr含有量をCy(質量%)、該ろう材7B及び該ろう材7CのSr含有量をRy(質量%)、該ろう材7Bの厚さをD71(μm)、該ろう材7Cの厚さをD72(μm)、該フッ化物フラックスの塗布量をF(g/m)とすると、「Cy+(0.025×Ry×D71+0.025×Ry×D72)≧0.001×F+0.005」を満たし、好ましくは「Cy+(0.025×Ry×D71+0.025×Ry×D72)≧0.002×F+0.005」を満たし、特に好ましくは「Cy+(0.025×Ry×D71+0.025×Ry×D72)≧0.005×F+0.005」を満たす。
また、上記(8)の場合、該芯材8AのSr含有量をCy(質量%)、該ろう材8BのSr含有量をR81(質量%)、該ろう材8CのSr含有量をR82(質量%)、該ろう材8Bの厚さをD81(μm)、該ろう材8Cの厚さをD82(μm)、該フッ化物フラックスの塗布量をF(g/m)とすると、「Cy+(0.025×R81×D81+0.025×R82×D82)≧0.001×F+0.005」を満たし、好ましくは「Cy+(0.025×R81×D81+0.025×R82×D82)≧0.002×F+0.005」を満たし、特に好ましくは「Cy+(0.025×R81×D81+0.025×R82×D82)≧0.005×F+0.005」を満たす。
【0057】
次いで、該ろう付け工程では、該チューブ材(1)又は該チューブ材(2)と、該フィン材と、その他熱交換器に必要な部材との組み付け体を、加熱し、該チューブ材(1)又は該チューブ材(2)と該フィン材とをろう付けする。
【0058】
該ろう付け工程でろう付けする際のろう付け条件としては、ろう付け温度は、590〜610℃、好ましくは595〜600℃、ろう付け時間は、10分〜60分、好ましくは15分〜30分、ろう付け雰囲気は、窒素で空気を置換することによって酸素濃度が100ppm以下、露点−40℃以下となった雰囲気が好ましい。
【0059】
そして、該ろう付け工程を行うことにより、該チューブ材(1)又は該チューブ材(2)と該フィン材とを、ろう付けし、これらの接合体を得る。そして、本発明の熱交換器は、該ろう付け工程を行い得られる該接合体を、熱交換器コアとして有するアルミニウム合金製熱交換器である。
【0060】
本発明の熱交換器の製造方法は、本発明の熱交換器に係る該ろう付け工程を有する熱交換器の製造方法である。よって、本発明の熱交換器の製造方法に係るろう付け工程は、本発明の熱交換器に係る該ろう付け工程と同様である。
【0061】
本発明者らは、鋭意検討した結果、(i)フィン材用ブレージングシートの芯材又はろう材に添加したSrによるろう付け後のろう材の凝固組織中のSiの微細化効果が、Srとフッ化物フラックスとの反応によって阻害されること、すなわち、Srに対してフッ化物フラックスの塗布量が多過ぎると、SrによるSiの微細化効果が低減することが解った。加えて、(ii)フィン材用ブレージングシートのろう材中のSrは、ろうが溶融した後は容易にフッ化物フラックスと反応すること、(iii)ろうが溶融する際に、芯材中のSrは表面に向かって拡散し、そして、ろう材に拡散するので、芯材中のSrも、ろう材の凝固組織中のSiの微細化効果に有効であること、(iv)フィン材用ブレージングシートの芯材中のSrは、ろう付け時に芯材が溶融しないため、フッ化物フラックスと反応するのは、芯材の表面に拡散したSrに限られること等を見出した。そして、これらの知見を基に、更に検討を重ねた結果、フィン材のフィン高さが5〜20mm且つフィンピッチが1〜5mmであり、フッ化物フラックスの塗布量が20g/m以下の場合、ろう付け前の該フィン材の芯材中のSr含有量(Cy)、ろう付け前の該フィン材のろう材中のSr含有量(Ry)、ろう付け前の該フィン材のろう材の厚さ(Dy)及び該フッ化物フラックスの塗布量(F)との関係を上記式(2)、(2a)又は(2b)に示す範囲とすることにより、ろう付け後のフィレットのろう材の凝固組織中のSiの微細化効果が得られ、熱交換器の耐食性を向上させ、強度のばらつきを少なくすることができることを見出した。
【0062】
更に、本発明の熱交換器に係る該フィン材用ブレージングシートが、本発明のブレージングシートである場合、ろう付け加熱後に、本発明の熱交換器のフィン材の一般部の表面に残存しているろう材の凝固組織中のSiも微細化される。よって、本発明の熱交換器に係る該フィン材用ブレージングシートが、本発明のブレージングシートであることが、フィン材の一般部の表面に残存しているろう材の凝固組織中のSiを微細化できるので、更に、熱交換器の耐食性が高く、強度のばらつきを少なくすることができる点で好ましい。
【0063】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
(実施例及び比較例)
(熱交換器用ブレージングシート材の製造)
連続鋳造によって表1及び表2に示す組成の芯材用アルミニウム合金鋳塊及びろう材用アルミニウム合金鋳塊を鋳造し、常法に従って均質化処理した。該ろう材用アルミニウム合金鋳塊については、更に、熱間圧延した。次いで、該芯材用アルミニウム合金鋳塊及びろう材用アルミニウム合金鋳塊を、表3に示す組み合わせで、芯材の両面にろう材をそれぞれ10%のクラッド率で重ね合わせた後、熱間クラッド圧延、次いで、冷間圧延を行い、最終焼鈍を経て、厚さ0.07〜0.10mmのブレージングシート(H14材調質)を製造した。
【0065】
次いで、得られたブレージングシートを、フィン高さ8mm、フィンピッチ3mmにコルゲート加工して、フィン材を得た。また、別に、押出し時にZnを10g/m溶射した得た押出し偏平多穴管(幅16mm、高さ2mm、長さ100mm)のチューブ材を用意し、該チューブ材の表面に、フッ化物フラックス(ノコロックフラックス)を、表4に示す塗布量塗布した。
【0066】
次いで、該フィン材とフッ化物フラックスが塗布された該チューブ材2つとを、該チューブ材で該フィン材を挟み込むようにして、組み付けた。次いで、窒素ガス雰囲気中で600℃(到達温度)に加熱して、ろう付け加熱を行い、ミニコアを得た。なお、実際の熱交換器の製造では、該チューブ材及び該フィン材の他にヘッダ等の部品も組み付けて、ろう付け加熱を行うが、本発明は、フィン材用ブレージングシートの芯材及びろう材中のSr含有量、並びに芯材及びろう材中のSr含有量とフッ化物フラックスの塗布量とを一定の関係にして、ろう付け加熱後のろう材の凝固組織中のSiを微細化することにより、熱交換器の耐食性を向上させ、強度のばらつきを少なくする発明であるので、該ミニコアで性能評価をした。
【0067】
<ろう付け加熱後のろう材の凝固組織の評価>
ろう付け加熱後のフィン材の一般部に残存したろう材の凝固組織の断面、及びチューブ材に流動したフィレットのろう材の凝固組織の断面を、光学顕微鏡で観察し、ろう材の凝固組織が、図1〜図3のSiの大きさが異なる3段階の写真のうちのどのレベルに相当するかを判断した。図1では、ろう材の凝固組織中のSiは微細な粒状である。図2では、ろう材の凝固組織中のSiは図1に比べ粒径が大きいものの粒状である。図3では、ろう材の凝固組織中のSiは針状である。そして、図1のろう材の凝固組織レベルの場合を良(◎)、図2のろう材の凝固組織レベルの場合を可(○)、図3のろう材の凝固組織レベルの場合を不可(×)とした。
【0068】
<サグ試験(耐高温座屈性)>
軽金属溶接構造協会規格のLWS T8801に準拠して、サグ特性によりフィン材の高温座屈性を評価した。試験では、幅22mm、長さ50mmで突き出した試験片をろう付け加熱した後の、垂下長さが、40mm以内の場合を耐高温座屈性が良(○)、40mmを超える場合を耐高温座屈性が不良(×)とした。
【0069】
<ろうの流動性試験>
先に述べた該ミニコアにて、チューブ材とフィン材との接合部に形成されたフィレットでろうの流動性を評価した。試験では、ろう付け前の材料を樹脂に埋め込み、断面ミクロ組織を観察し、ろう付け前のろう材の面積を測定し、また、別の試料でろう付けした後の材料を同様に樹脂に埋め込み、断面ミクロ組織を観察し、ろう付け後のフィレットの面積を測定した。ろうが流れた割合が、10%以上の場合をろうの流動性が良(○)、10%未満の場合をろうの流動性が不良(×)とした。
【0070】
<耐食性試験>
ASTMのSWAAT試験に準拠してフィン材の耐食性を評価した。平板をSWAAT試験機に挿入した。SWAAT4日にて、腐食試験前後の重量減少量を測定した。重量減少量が50%以内の試料を良(○)、50%を超える試料を不良(×)とした。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
各評価の結果、実施例は、全ての評価で目的の性能が得られたが、比較例は、評価項目のうちの少なくとも1つで目的の性能が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】ろう材の凝固組織レベルが良(◎)の場合の例
【図2】ろう材の凝固組織レベルが可(○)の場合の例
【図3】ろう材の凝固組織レベルが不可(×)の場合の例
【図4】ろう付け加熱後の熱交換器のコアの一部分を示す模式的な側面図である。
【図5】図4中の丸囲み部Aの拡大図である。
【符号の説明】
【0079】
10 熱交換器
11 チューブ材
12 フィン材の一般部
14 フィレット
15 コルゲートの頂点
16 フィン高さ
17 フィンピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートであって、
該芯材がMnを0.6〜2.0質量%、Siを0〜1.3質量%、Znを0〜6.0質量%含有するアルミニウム合金であり、
該ろう材がSiを5〜15質量%含有するアルミニウム合金であり、
該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、
該芯材中のSr含有量が0.6質量%以下であり、且つ、該ろう材中のSr含有量が0.6質量以下であり、
該芯材中のSr含有量Cx(質量%)、該ろう材中のSr含有量Rx(質量%)、該ろう材の厚さDx(μm)が、下記式(1):
Cx+0.025×Rx×Dx≧0.005 (1)
を満たすこと、
を特徴とする熱交換器のフィン材用ブレージングシート。
【請求項2】
前記芯材中のSr含有量が、0.005〜0.6質量%であり、
前記ろう材中のSr含有量が、0.005〜0.6質量%であること、
を特徴とする請求項1記載の熱交換器のフィン材用ブレージングシート。
【請求項3】
前記芯材が、更に、0.3質量%以下のCu、0.05〜0.3質量%のZr、0.05〜0.3質量%のTi、0.8質量%以下のFe、及び0.5質量%以下のNiのうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の熱交換器のフィン材用ブレージングシート。
【請求項4】
前記ろう材が、更に、1.4質量%以下のMnを含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の熱交換器のフィン材用ブレージングシート。
【請求項5】
チューブ材にフッ化物フラックスを塗布し、該チューブ材とフィン材とを組み付け、あるいは、フッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされたチューブ材と、フィン材とを組み付け、次いで、加熱して、該チューブ材と該フィン材とをろう付けするろう付け工程を行い得られる接合体を有する熱交換器であって、
該フィン材が、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートであり、該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、
該フィン材のフィン高さが5〜20mm、フィンピッチが1〜5mmであり、
該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が20g/m以下であり、
該フィン材の芯材中のSr含有量Cy(質量%)、該フィン材のろう材中のSr含有量Ry(質量%)、該フィン材のろう材の厚さDy(μm)、該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が、下記式(2):
Cy+0.025×Ry×Dy≧0.001×F+0.005 (2)
を満たすこと、
を特徴とする熱交換器。
【請求項6】
前記フィン材が、請求項1〜4いずれか1項記載の熱交換器のフィン材用ブレージングシートであることを特徴とする請求項5記載の熱交換器。
【請求項7】
チューブ材にフッ化物フラックスを塗布し、該チューブ材とフィン材とを組み付け、あるいは、フッ化物フラックスからなるフラックスプレコート層がプレコートされたチューブ材と、フィン材とを組み付け、次いで、加熱して、該チューブ材と該フィン材とをろう付けするろう付け工程を有する熱交換器の製造方法であって、
該フィン材が、芯材の両面にろう材がクラッドされた熱交換器のフィン材用ブレージングシートであり、該芯材及び該ろう材のいずれか一方又は両方がSrを含有し、
該フィン材のフィン高さが5〜20mm、フィンピッチが1〜5mmであり、
該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が20g/m以下であり、
該フィン材の芯材中のSr含有量Cy(質量%)、該フィン材のろう材中のSr含有量Ry(質量%)、該フィン材のろう材の厚さDy(μm)、該フッ化物フラックスの塗布量F(g/m)が、下記式(2):
Cy+0.025×Ry×Dy≧0.001×F+0.005 (2)
を満たすこと、
を特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項8】
前記フィン材が、請求項1〜4いずれか1項記載の熱交換器のフィン材用ブレージングシートであることを特徴とする請求項7記載の熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−161831(P2009−161831A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2206(P2008−2206)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)