説明

熱交換器及びそれを備えた冷凍装置

【課題】内側流路と内側流路の周囲に配置された複数の外側流路とを有しており、内側流路を流れる流体と外側流路を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換器において、ドライアウトによる熱交換効率の低下を抑える。
【解決手段】エコノマイザ熱交換器12は、内側流路22と内側流路22の周囲に配置された複数の外側流路23とを有しており、内側流路22を流れる流体と外側流路23を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換器であって、内側流路22を流れる流体は、内側流路22を気液二相状態で流れる冷媒であり、内側流路22を流れる冷媒に遠心力が作用するような遠心力作用機構24が内側流路22に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器及びそれを備えた冷凍装置に関する。本発明は、特に、内側流路と内側流路の周囲に配置された複数の外側流路とを有しており、内側流路を流れる流体と外側流路を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換器、及びそれを備えた冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1(特開2000−2492号公報)に示されるような熱交換器がある。この熱交換器は、内側流路と内側流路の周囲に配置された複数の外側流路とを有しており、内側流路を流れる流体と外側流路を流れる流体との間で熱交換を行うものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の熱交換器を、内側流路を気液二相状態の冷媒が流れる態様で使用すると、内側流路の内面においてドライアウトが発生することによって内側流路を流れる冷媒の蒸発伝熱性能が低下し、熱交換器の熱交換効率が低下しやすい。
【0004】
本発明の課題は、内側流路と内側流路の周囲に配置された複数の外側流路とを有しており、内側流路を流れる冷媒と外側流路を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換器において、ドライアウトによる熱交換効率の低下を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点にかかる熱交換器は、内側流路と内側流路の周囲に配置された複数の外側流路とを有しており、内側流路を流れる流体と外側流路を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換器であって、内側流路を流れる流体が、内側流路を気液二相状態で流れる冷媒であり、内側流路を流れる冷媒に遠心力が作用するような遠心力作用機構が内側流路に設けられている。
【0006】
発明者らは、研究の結果、内側流路を流れる冷媒が気液二相状態の場合には、内側流路の内面に冷媒の液膜が生じにくくなり、これにより、内側流路におけるドライアウトが発生しやすくなることを見いだした。
【0007】
そこで、発明者らは、内側流路を流れる冷媒に遠心力が作用するような遠心力作用機構を内側流路に設けるようにしている。
【0008】
これにより、この熱交換器では、遠心力作用機構によって冷媒に遠心力を作用させて冷媒の液滴を外周側に移動させることによって、冷媒の液滴を内側流路の内面に付着しやすくして内側流路におけるドライアウトの発生を抑えることができ、ドライアウトによる蒸発伝熱性能の低下を抑えて、熱交換効率の低下を抑えることができる。
【0009】
第2の観点にかかる熱交換器は、第1の観点にかかる熱交換器において、遠心力作用機構は、内側流路の内面に形成されており、内側流路の周方向にねじれながら軸方向に延びるフィンからなる遠心力作用フィンである。
【0010】
この熱交換器では、遠心力作用機構が内側流路の内面に形成された遠心力作用フィンであるため、冷媒に遠心力を作用させるとともに、内側流路の伝熱面積を増加させることができ、内側流路における熱流束が小さくなり、これにより、内側流路におけるドライアウトの発生をさらに抑えることができる。
【0011】
第3の観点にかかる熱交換器は、第2の観点にかかる熱交換器において、遠心力作用フィンのフィン高さは、内側流路の内径の0.08倍以上である。
【0012】
この熱交換器では、遠心力作用フィンのフィン高さを内側流路の内径の0.08倍以上にすることによって、内側流路を流れる冷媒に遠心力を十分に作用させることができる。
【0013】
第4の観点にかかる熱交換器は、第3の観点にかかる熱交換器において、内側流路の軸方向に対して遠心力作用フィンが延びる方向がなすねじれ角は、1°〜10°である。
【0014】
この熱交換器では、遠心力作用フィンのねじれ角を1°〜10°にすることによって、内側流路の軸中心及びその近傍を流れる冷媒を除いて、内側流路の長さよりも十分に短い距離で、冷媒の液滴のほとんどを内側流路の内面に付着させることができる。ここで、遠心力作用フィンのねじれ角を10°よりも大きくすれば、さらに短い距離で、さらに多くの冷媒の液滴を内側流路の内面に付着させることができるようになる。しかし、ねじれ角を10°以上にしても、冷媒の液滴を内側流路の内面に付着させる効果がわずかに向上するだけであり、その一方で、内側流路を流れる冷媒の圧力損失の増加が過大になる傾向になる。このため、この熱交換器では、遠心力作用フィンのねじれ角の下限を冷媒の液滴のほとんどを内側流路の内面に付着させる効果が得られる1°にし、遠心力作用フィンのねじれ角の上限を冷媒の液滴を内側流路の内面に付着させる効果がわずかに向上するだけになる10°にしている。
【0015】
第5の観点にかかる熱交換器は、第2〜第4の観点のいずれかにかかる熱交換器において、内側流路の内面には、遠心力作用フィンのフィン高さよりも小さい溝深さを有する溝からなる液滴捕捉溝がさらに形成されている。
【0016】
この熱交換器では、遠心力作用フィンとともに液滴捕捉溝が形成されているため、内側流路の内面に付着した冷媒の液滴を内側流路の内面に捕捉することができ、これにより、遠心力作用フィンによって内側流路の内面に付着した冷媒の液滴を内側流路の内面に付着した状態を維持されやすくできる。
【0017】
第6の観点にかかる熱交換器は、第1〜第5の観点のいずれかにかかる熱交換器において、複数の外側流路が、複数の外側流路に囲まれる内側孔とともに、外側多穴管部材に一体成形されている。そして、内側孔には、内側流路を形成しており、外側多穴管部材とは別の内側挿入管部材が挿入されている。
【0018】
この熱交換器では、複数の外側流路を形成する部材と内側流路を形成する部材とを、それぞれ、外側多穴管部材と内側挿入管部材という別の部材によって構成しているため、複数の外側流路及び内側孔については、その成形に適した金属素材の押し出し成形を採用することができ、また、内側流路については、遠心力作用機構という複雑な形状を容易に設けることができる。
【0019】
第7の観点にかかる熱交換器は、第1〜第5の観点のいずれかにかかる熱交換器において、内側流路と複数の外側流路とが金属素材の押し出し成形によって成形される管部材に一体成形されている。
【0020】
この熱交換器では、低コストでかつコンパクトなものにすることができる。
【0021】
第8の観点にかかる熱交換器は、第1〜第5、第7の観点のいずれかにかかる熱交換器において、遠心力作用機構は、内側流路内に設けられており、内側流路の周方向にねじれながら軸方向に延びる部材からなる遠心力作用部材である。
【0022】
この熱交換器では、遠心力作用機構が内側流路内に設けられた遠心力作用部材であるため、内側流路に遠心力作用部材を挿入するだけで、冷媒に遠心力を作用させる構成を実現することができ、これにより、ねじり板やコイル部材のような、冷媒に対して遠心力を作用させる効果が高い複雑な形状を採用しやすくできる。
【0023】
第9の観点にかかる熱交換器は、第1〜第8の観点のいずれかにかかる熱交換器において、内側流路を流れる流体が、気液二相状態における気体の密度に対する液体の密度の比である気液密度比が10以下の冷媒である。
【0024】
発明者らは、研究の結果、内側流路を流れる冷媒の気液密度比が10以下の場合には、内側流路を流れる気液二相状態の冷媒が噴霧流に近い流れになりやすいため、これに起因して、内側流路の内面に冷媒の液膜がさらに生じにくくなり、これにより、内側流路におけるドライアウトが非常に発生しやすくなることを見いだした。
【0025】
このため、上記のように、内側流路を流れる冷媒に遠心力が作用するような遠心力作用機構を内側流路に設けることが、ドライアウトによる蒸発伝熱性能の低下を抑えることに対して、非常に有効である。
【0026】
第10の観点にかかる冷凍装置は、圧縮機構と、放熱器と、膨張機構と、インジェクション管と、エコノマイザ熱交換器とを備えている。圧縮機構は、複数の圧縮要素を有しており、複数の圧縮要素のうちの前段側の圧縮要素から吐出された冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒を後段側の圧縮要素で順次圧縮するように構成されている。放熱器は、圧縮機構によって冷凍サイクルにおける高圧まで圧縮された冷媒の放熱を行う。膨張機構は、放熱器によって放熱した冷媒を減圧する。蒸発器は、膨張機構によって冷凍サイクルにおける低圧まで減圧された冷媒を蒸発させる。インジェクション管は、放熱器から膨張機構に送られる冷媒を分岐して後段側の圧縮要素に戻す。エコノマイザ熱交換器は、放熱器から膨張機構に送られる冷媒とインジェクション管を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒との熱交換を行う。そして、エコノマイザ熱交換器は、内側流路を流れる流体をインジェクション管を流れる冷媒とし、かつ、外側流路を流れる流体を放熱器から膨張機構に送られる冷媒とする第1〜第9の観点のいずれかにかかる熱交換器である。
【0027】
エコノマイザ熱交換器において熱交換を行った冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒をインジェクション管を通じて圧縮機構の後段側の圧縮要素に戻す操作(以下、中間圧インジェクションとする)を行う冷凍装置では、インジェクション管を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の気液二相状態の冷媒がエコノマイザ熱交換器を流れることになる。そして、この冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒の気液密度比は、非常に小さく、例えば、冷媒として二酸化炭素を使用する場合には、約2〜4程度となる。
【0028】
このため、内側流路と内側流路の周囲に配置された複数の外側流路とが金属素材の押し出し成形によって一体成形された管部材を有しており内側流路を流れる流体と外側流路を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換器を、内側流路に冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒が流れるエコノマイザ熱交換器として使用すると、冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒が内側流路を流れることになり、内側流路におけるドライアウトがさらに発生しやすい条件となる。
【0029】
しかし、この冷凍装置では、エコノマイザ熱交換器として、第1〜第6の観点のいずれかにかかる熱交換器を使用しているため、冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒という、気液密度比が非常に小さい条件であるにもかかわらず、冷媒の液滴を内側流路の内面に付着しやすくして内側流路におけるドライアウトの発生を抑えることができ、ドライアウトによる蒸発伝熱性能の低下を抑えて、熱交換効率の低下を抑えることができる。
【0030】
第11の観点にかかる冷凍装置は、第10の観点にかかる冷凍装置において、蒸発器を構成する伝熱管には、遠心力作用フィンよりもフィン高さが小さい溝深さを有する溝からなる蒸発器内面溝が形成されている。
【0031】
蒸発器では、冷凍サイクルにおける低圧の冷媒が流れるため、冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒が流れるエコノマイザ熱交換器の内側流路に比べて、冷媒の気液密度比が大きく、エコノマイザ熱交換器の内側流路に比べて、ドライアウトが発生するおそれが小さい。
【0032】
そこで、この冷凍装置では、蒸発器を構成する伝熱管に遠心力作用フィンよりもフィン高さが小さい溝深さを有する溝からなる蒸発器内面溝を形成するようにしている。
【0033】
すなわち、この冷凍装置では、エコノマイザ熱交換器の内側流路及び蒸発器のうち、ドライアウトが発生するおそれが非常に大きいエコノマイザ熱交換器の内側流路のみに遠心力作用フィンを形成するようにして、効果的にドライアウトの発生を抑えるようにしている。
【発明の効果】
【0034】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0035】
第1の観点にかかる熱交換器では、冷媒の液滴を外周側に移動させることによって、冷媒の液滴を内側流路の内面に付着しやすくして内側流路におけるドライアウトの発生を抑えることができ、ドライアウトによる蒸発伝熱性能の低下を抑えて、熱交換効率の低下を抑えることができる。
【0036】
第2の観点にかかる熱交換器では、冷媒に遠心力を作用させるとともに、内側流路の伝熱面積を増加させることができ、内側流路における熱流束が小さくなり、これにより、内側流路におけるドライアウトの発生をさらに抑えることができる。
【0037】
第3の観点にかかる熱交換器では、内側流路を流れる冷媒に遠心力を十分に作用させることができる。
【0038】
第4の観点にかかる熱交換器では、内側流路の軸中心及びその近傍を流れる冷媒を除いて、内側流路の長さよりも十分に短い距離で、冷媒の液滴のほとんどを内側流路の内面に付着させることができる。
【0039】
第5の観点にかかる熱交換器では、内側流路の内面に付着した冷媒の液滴を内側流路の内面に捕捉することができ、これにより、遠心力作用フィンによって内側流路の内面に付着した冷媒の液滴を内側流路の内面に付着した状態を維持されやすくできる。
【0040】
第6の観点にかかる熱交換器では、複数の外側流路及び内側孔については、その成形に適した金属素材の押し出し成形を採用することができ、また、内側流路については、遠心力作用機構という複雑な形状を容易に設けることができる。
【0041】
第7の観点にかかる熱交換器では、低コストでかつコンパクトなものにすることができる。
【0042】
第8の観点にかかる熱交換器では、内側流路に遠心力作用部材を挿入するだけで、冷媒に遠心力を作用させる構成を実現することができ、これにより、ねじり板やコイル部材のような、冷媒に遠心力を作用させる効果が高い複雑な形状を採用しやすくできる。
【0043】
第9の観点にかかる熱交換器では、内側流路を流れる気液二相状態の冷媒が噴霧流に近い流れになりやすく、内側流路の内面に冷媒の液膜がさらに生じにくい条件であるにもかかわらず、ドライアウトによる蒸発伝熱性能の低下を抑えて、熱交換効率の低下を抑えることができる。
【0044】
第10の観点にかかる熱交換器では、冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒という、気液密度比が非常に小さい条件であるにもかかわらず、冷媒の液滴を内側流路の内面に付着しやすくして内側流路におけるドライアウトの発生を抑えることができ、ドライアウトによる蒸発伝熱性能の低下を抑えて、熱交換効率の低下を抑えることができる。
【0045】
第11の観点にかかる熱交換器では、エコノマイザ熱交換器の内側流路及び蒸発器のうち、ドライアウトが発生するおそれが非常に大きいエコノマイザ熱交換器の内側流路のみに遠心力作用フィンを形成するようにして、効果的にドライアウトの発生を抑えるようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明にかかる冷凍装置の一実施形態としての空気調和装置の概略構成図である。
【図2】利用側熱交換器の概略構成図である。
【図3】利用側熱交換器を構成する伝熱管の横断面図である。
【図4】本発明にかかる熱交換器の一実施形態及びその変形例としてのエコノマイザ熱交換器の概略斜視図である。
【図5】管部材の横断面図である。
【図6】接続部材及び管部材の縦断面図である。
【図7】液滴が内側流路の内面に到達するまでの距離の遠心力作用フィンのねじれ角による影響を示すグラフである。
【図8】変形例1における管部材の横断面図である。
【図9】変形例2における空気調和装置の概略構成図である。
【図10】変形例3における管部材の横断面図である。
【図11】変形例3における接続部材及び管部材の縦断面図である。
【図12】変形例4における管部材の横断面図である。
【図13】変形例4における接続部材及び管部材の縦断面図である。
【図14】変形例4における管部材の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明にかかる熱交換器及びそれを備えた冷凍装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0048】
(1)空気調和装置の全体構成
図1は、本発明にかかる冷凍装置の一実施形態としての空気調和装置1の概略構成図である。空気調和装置1は、冷房運転が可能となるように構成された冷媒回路10を有している。そして、この冷媒回路10には、超臨界域で作動する冷媒(ここでは、二酸化炭素)が封入されており、二段圧縮式冷凍サイクルが行われるようになっている。
【0049】
空気調和装置1の冷媒回路10は、主として、圧縮機構2と、熱源側熱交換器3と、膨張機構4と、利用側熱交換器5と、インジェクション管11と、エコノマイザ熱交換器12とを有している。
【0050】
圧縮機構2は、ここでは、2つの圧縮要素で冷媒を二段圧縮する圧縮機21から構成されている。圧縮機21は、ケーシング21a内に、圧縮機駆動モータ21bと、駆動軸21cと、圧縮要素2c、2dとが収容された密閉式構造となっている。圧縮機駆動モータ21bは、駆動軸21cに連結されている。そして、この駆動軸21cは、2つの圧縮要素2c、2dに連結されている。すなわち、圧縮機21は、2つの圧縮要素2c、2dが単一の駆動軸21cに連結されており、2つの圧縮要素2c、2dがともに圧縮機駆動モータ21bによって回転駆動される、いわゆる一軸二段圧縮構造となっている。圧縮要素2c、2dは、例えば、ロータリ式やスクロール式等の容積式の圧縮要素である。そして、圧縮機21は、吸入管2aから冷媒を吸入し、この吸入された冷媒を圧縮要素2cによって圧縮した後に中間冷媒管6に吐出し、中間冷媒管6に吐出された冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒を圧縮要素2dに吸入させて冷媒をさらに圧縮した後に吐出管2bに吐出するように構成されている。ここで、中間冷媒管6は、圧縮要素2dの前段側に接続された圧縮要素2cから吐出された冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒を、圧縮要素2cの後段側に接続された圧縮要素2dに吸入させるための冷媒管である。また、吐出管2bは、圧縮機構2の圧縮要素2dから吐出された冷凍サイクルにおける高圧の冷媒を放熱器としての熱源側熱交換器3に送るための冷媒管である。また、吸入管2aは、蒸発器としての利用側熱交換器5から戻る冷凍サイクルにおける低圧の冷媒を圧縮機構2の圧縮要素2cに送るための冷媒管である。
【0051】
このように、圧縮機構2は、ここでは、2つの圧縮要素2c、2dを有しており、これらの圧縮要素2c、2dのうちの前段側の圧縮要素から吐出された冷媒を後段側の圧縮要素で順次圧縮するように構成されている。
【0052】
熱源側熱交換器3は、圧縮機構2によって圧縮された冷媒の放熱器として機能する熱交換器である。熱源側熱交換器3は、その一端が第1高圧冷媒管3a及び吐出管2bを介して圧縮機構2に接続されており、その他端が第2高圧冷媒管3b、エコノマイザ熱交換器12(熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷媒側の流路)及び第3高圧冷媒管3cを介して膨張機構4に接続されている。ここで、第1高圧冷媒管3aは、吐出管2bと放熱器としての熱源側熱交換器3の入口を接続する冷媒管である。また、第2高圧冷媒管3bは、放熱器としての熱源側熱交換器3の出口とエコノマイザ熱交換器12の入口(熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷媒側の流路の入口)とを接続する冷媒管である。尚、ここでは図示しないが、熱源側熱交換器3には、熱源側熱交換器3を流れる冷媒と熱交換を行う冷却源として水や空気が供給されるようになっている。
【0053】
膨張機構4は、放熱器としての熱源側熱交換器3から蒸発器としての利用側熱交換器5に送られる冷媒を減圧する機構であり、ここでは、膨張弁の一種である電動膨張弁が使用されている。膨張機構4は、その一端が第3高圧冷媒管3c、エコノマイザ熱交換器12(熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷媒側の流路)及び第2高圧冷媒管3bを介して熱源側熱交換器3に接続され、その他端が第1低圧冷媒管5aを介して利用側熱交換器5に接続されている。この膨張機構4は、放熱器としての熱源側熱交換器3及びエコノマイザ熱交換器12(熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷媒側の流路)において冷却された高圧の冷媒を蒸発器としての利用側熱交換器5に送る前に冷凍サイクルにおける低圧付近まで減圧する。ここで、第1低圧冷媒管5aは、膨張機構4と蒸発器としての利用側熱交換器5の入口とを接続する冷媒管である。
【0054】
利用側熱交換器5は、放熱器としての熱源側熱交換器3によって放熱された冷媒を蒸発させる蒸発器として機能する熱交換器である。利用側熱交換器5は、その一端が第1低圧冷媒管5aを介して膨張機構4に接続されており、その他端が第2低圧冷媒管5b及び吸入管2aを介して圧縮機構2に接続されている。ここで、第2低圧冷媒管5bは、蒸発器としての利用側熱交換器5の出口と吸入管2aとを接続する冷媒管である。尚、ここでは図示しないが、利用側熱交換器5には、利用側熱交換器5を流れる冷媒と熱交換を行う加熱源としての空気が供給されるようになっている。
【0055】
ここで、利用側熱交換器5は、例えば、図2に示すようなクロスフィン型の熱交換器によって構成されている。より具体的には、利用側熱交換器5は、主として、複数のプレートフィン51と、複数の伝熱管52と、複数のU字管53とを有している。プレートフィン51は、薄板状の金属部材であり、板厚方向に積層された状態で配置されている。伝熱管52は、円管であり、プレートフィン51を貫通している。U字管53は、略U字状の円管であり、伝熱管52の長手方向端間を接続している。伝熱管52の内面には、図3に示すように、蒸発器内面溝52aが形成されている。蒸発器内面溝52aは、溝深さhvを有する略台形状の溝である。伝熱管52の最大内径Dvは、約4mm〜10mm程度である。そして、溝深さhvは、最大内径Dvが4mmの場合には0.15mm以下であり、最大内径Dvが10mmの場合には0.30mm以下である。
【0056】
インジェクション管11は、放熱器としての熱源側熱交換器3から蒸発器としての利用側熱交換器5に送られる冷媒を分岐して後段側の圧縮要素2dに戻す戻し管として機能する冷媒管である。ここで、インジェクション管11は、放熱器としての熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷媒を分岐するように設けられている。より具体的には、インジェクション管11は、エコノマイザ熱交換器12(熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷媒側の流路)の上流側の位置(ここでは、第2高圧冷媒管3b)から冷媒を分岐して中間冷媒管6に戻すように設けられている。インジェクション管11は、第2高圧冷媒管3bとエコノマイザ熱交換器12の入口(第2高圧冷媒管3bから分岐された冷媒側の流路の入口)とを接続する第1管11aと、エコノマイザ熱交換器12の出口(第2高圧冷媒管3bから分岐された冷媒側の流路の出口)と中間冷媒管6とを接続する第2管11bとを有している。そして、このインジェクション管11の第1管11aには、開度制御が可能な戻し弁として機能するインジェクション弁11cが設けられている。ここでは、インジェクション弁11cとして、膨張弁の一種である電動膨張弁が使用されている。
【0057】
エコノマイザ熱交換器12は、放熱器としての熱源側熱交換器3から蒸発器としての利用側熱交換器4に送られる冷媒と戻し管としてのインジェクション管11を流れる冷媒(より具体的には、戻し弁としてのインジェクション弁11cにおいて冷凍サイクルにおける中間圧付近まで減圧された後の冷媒)との熱交換を行う冷却器として機能する熱交換器である。ここで、エコノマイザ熱交換器12は、放熱器としての熱源側熱交換器3と膨張機構4との間(ここでは、第2高圧冷媒管3b及び第3高圧冷媒管3c)を流れる冷媒とインジェクション管11を流れる冷媒との熱交換を行うように設けられている。すなわち、エコノマイザ熱交換器12は、熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷媒側の流路と、インジェクション管11を流れる冷媒側の流路とを有しており、両流路間で冷媒の熱交換を行うようになっている。より具体的には、熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、エコノマイザ熱交換器12の熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷媒側の流路を流れて、インジェクション管11を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒との熱交換によって冷却される。一方、インジェクション管11を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒は、エコノマイザ熱交換器12のインジェクション管11を流れる冷媒側の流路を少なくとも一時的には気液二相状態で流れて、熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷凍サイクルにおける高圧の冷媒との熱交換によって蒸発する。また、ここでは、インジェクション管11は、第2高圧冷媒管3bから分岐されている。このため、放熱器としての熱源側熱交換器3において冷却された冷媒は、エコノマイザ熱交換器12を通過する前に、インジェクション管11に分岐され、エコノマイザ熱交換器12において、インジェクション管11を流れる冷媒と熱交換を行うことになる。
【0058】
(2)エコノマイザ熱交換器の構成
ここでは、上記のエコノマイザ熱交換器12として、図4〜図6に示すような、金属素材の押し出し加工によって一体成形された管部材21を有する熱交換器を採用している。ここで、図4は、エコノマイザ熱交換器12の概略斜視図であり、図5は、管部材21の横断面図であり、図6は、接続部材31、32及び管部材21の縦断面図である。
【0059】
エコノマイザ熱交換器12は、上記のように、主として、管部材21を有している。
【0060】
管部材21は、内側流路22と、内側流路22の周囲に配置された複数(ここでは、12個)の外側流路23とを有する略円管状の部材である。ここでは、管部材21は、その全長が約1m〜数m程度であり、コイル状に巻かれた状態となっている。尚、管部材21は、直管状態やヘアピン状に折り曲げた状態であってもよい。また、管部材21の素材としては、アルミニウム又はアルミニウム合金が使用されている。
【0061】
外側流路23は、管部材21の中心軸O方向(以下、単に軸方向とする)にわたって形成された孔である。外側流路23は、管部材21の横断面視において、内側流路22の外周側でかつ管部材21の周方向に略等間隔に並ぶように配置されている。ここで、外側流路23の孔形状は、横断面視において、外周側に向かうにつれて周方向幅が大きくなるような略四角形である。また、外側流路23の径方向又は周方向のサイズは、約1mm〜8mm程度である。
【0062】
内側流路22は、外側流路23と同様、管部材21の軸方向にわたって形成された孔である。内側流路22は、管部材21の横断面視において、管部材21の軸方向中心に対して同心的に配置されている。ここで、内側流路22の孔形状は、横断面視において、略円形である。また、内側流路22の内径(最大内径)DIは、約4mm〜20mm程度である。
【0063】
そして、内側流路22には、内側流路22を流れる冷媒に遠心力が作用するような遠心力作用機構24が設けられている。ここで、遠心力作用機構24は、内側流路22の内面に形成されており、管部材21の周方向にねじれながら軸方向に延びるフィンからなる遠心力作用フィン22aである。遠心力作用フィン22aは、管部材21の横断面視において、内側流路22の内面に略等間隔に並ぶように複数(ここでは、6つ)配置されている。遠心力作用フィン22aの形状は、管部材21の横断面視において、略三角形又は略台形である。そして、遠心力作用フィン22aのフィン高さHは、少なくとも内側流路22の内径DIの0.08倍以上となっており、好ましくは、内径DIの0.15倍以上となっている。このため、遠心力作用フィン22aのフィン高さHは、内径DIが4mmの場合には0.32mm以上となり、内径DIが20mmの場合には1.6mm以上となり、蒸発器としての利用側熱交換器5を構成する伝熱管52の内面に形成された蒸発器内面溝52aの溝深さhvよりも2倍以上高くなっている。また、管部材21の軸方向に対して遠心力作用フィン22aが延びる方向がなすねじれ角αは、少なくとも1°〜10°の範囲内となっており、好ましくは、2°〜3°の範囲内となっている。尚、遠心力作用フィン22aは、例えば、管部材21の周方向にねじれなく軸方向に真っ直ぐに延びるフィンを内側流路22に一体成形しておき、この管部材21を管部材21の周方向にねじる加工を施すことによって形成することができる。
【0064】
また、管部材21の内側流路22を形成する部分は、外側流路23を形成する部分よりも軸方向両端側に突出している。そして、管部材21の軸方向両端には、接続部材31、32が設けられている。接続部材31、32は、主として、キャップ33と、ノズル34とを有している。キャップ33は、複数の外側流路23を流れる流体を合流させるため、又は、複数の外側流路23へ流体を分岐させるための空間Sを形成するための部材である。キャップ33は、筒状の部材であり、その一端が管部材21の軸方向端の外周部に嵌合しており、その他端に管部材21の内側流路22を形成する部分の軸方向端部21aが管部材21の軸方向に向かって貫通する第1貫通孔33aが形成されている。そして、管部材21の軸方向端部21aは、内側流路22を流れる流体の入口又は出口を構成している。また、キャップ33には、管部材21の軸方向に交差する方向に向かって貫通する第2貫通孔33bが形成されており、ノズル34が挿入されている。ノズル34は、両端が開口した筒状の部材であり、外側流路23を流れる流体の入口又は出口を構成している。
【0065】
そして、ここでは、管部材21の軸方向両端部21aにインジェクション管11の第1管11a及び第2管11bを接続し、接続部材31、32の両ノズル34に第2高圧冷媒管3b及び第3高圧冷媒管3cを接続するようにしている。これにより、このエコノマイザ熱交換器12では、内側流路22を流れる流体がインジェクション管11を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒となり、外側流路23を流れる流体が放熱器としての熱源側熱交換器3から膨張機構4に送られる冷凍サイクルにおける高圧の冷媒となっている。ここで、インジェクション管11を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒を外側流路23に流すように構成すると、外側流路23間における冷媒の分配が難しくなるため、また、インジェクション管11を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒はエコノマイザ熱交換器12が設置される環境温度よりも低い温度である場合が多く熱ロスが発生しやすくなるため、インジェクション管11を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒を内側流路22に流すようにしている。
【0066】
このように、このエコノマイザ熱交換器12では、内側流路22と外側流路23とが金属素材の押し出し加工によって一体成形された管部材21を使用しているため、低コストでかつコンパクトなものとなっている。
【0067】
(3)空気調和装置の動作、及び、エコノマイザ熱交換器の特徴
次に、上記の空気調和装置1の動作である冷房運転について、図1〜図6を用いて説明する。
【0068】
冷凍サイクルにおける低圧の冷媒は、吸入管2aから圧縮機構2に吸入される。この圧縮機構2に吸入された冷凍サイクルにおける低圧の冷媒は、圧縮要素2cによって冷凍サイクルにおける中間圧まで圧縮された後に、中間冷媒管6に吐出される。この前段側の圧縮要素2cから吐出された冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒は、インジェクション管11から後段側の圧縮要素2dに戻される冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒と合流することで冷却される(以下、中間圧インジェクションとする)。このインジェクション管11から戻る冷媒と合流した冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒は、圧縮要素2cの後段側に接続された圧縮要素2dに吸入される。この圧縮要素2dに吸入された冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒は、圧縮要素2dによってさらに圧縮されて、圧縮機構2から吐出管2bに吐出される。ここで、圧縮機構2から吐出された冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、圧縮要素2c、2dによる二段圧縮動作によって、冷媒の臨界圧力を超える圧力まで圧縮されている。そして、この圧縮機構2から吐出された冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、第1高圧冷媒管3aを通じて冷媒の放熱器として機能する熱源側熱交換器3に送られる。この熱源側熱交換器3に送られた高圧の冷媒は、熱源側熱交換器3によって冷却源としての水や空気と熱交換を行って冷却される。この熱源側熱交換器3において冷却された冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、その一部が第2高圧冷媒管3bにおいて、戻し管としてのインジェクション管11に分岐される。そして、インジェクション管11を流れる冷媒は、戻し弁としてのインジェクション弁11cにおいて冷凍サイクルにおける中間圧付近まで減圧された後に、冷却器としてのエコノマイザ熱交換器12の内側流路22に送られる。また、インジェクション管11に分岐された後の(すなわち、第2高圧冷媒管3bを流れる)冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、エコノマイザ熱交換器12の外側流路23に流入し、内側流路22を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒と熱交換を行って冷却される。一方、インジェクション管11を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒は、外側流路23を流れる冷凍サイクルにおける高圧の冷媒と熱交換を行って加熱されて、上述のように、前段側の圧縮要素2cから吐出された冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒に合流することになる。ここで、エコノマイザ熱交換器12を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒は、内側流路22内において蒸発過程を経るため、少なくとも一時的には気液二相状態で内側流路22を流れることになる。そして、エコノマイザ熱交換器12の外側流路23において冷却された冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、第3高圧冷媒管3cを通じて膨張機構4に送られる。膨張機構4に送られた冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、膨張機構4によって減圧されて、冷凍サイクルにおける低圧の気液二相状態の冷媒となり、第1低圧冷媒管5aを通じて冷媒の蒸発器として機能する利用側熱交換器5に送られる。そして、この利用側熱交換器5に送られた冷凍サイクルにおける低圧の気液二相状態の冷媒は、利用側熱交換器5によって加熱源としての水や空気と熱交換を行って加熱されて蒸発する。そして、この利用側熱交換器5において加熱され蒸発した冷凍サイクルにおける低圧の冷媒は、第2低圧冷媒管5b及び吸入管2aを通じて再び圧縮機構2に吸入される。このようにして、空気調和装置1の冷房運転が行われる。
【0069】
このように、空気調和装置1では、エコノマイザ熱交換器12及びインジェクション管11を用いた中間圧インジェクションを採用しているため、外部への放熱を行うことなく、後段側の圧縮要素2dに吸入される冷媒の温度を低く抑えることができ、また、利用側熱交換器5に送られる冷媒を冷却することができる。これにより、エコノマイザ熱交換器12及びインジェクション管11による中間圧インジェクションを採用しない場合に比べて、圧縮機構2から吐出される冷媒の温度が低く抑えられ、また、利用側熱交換器5に送られる冷媒の単位流量当たりの冷房能力が高められるため、圧縮機構2の消費動力を減らし、空気調和装置1の運転効率や冷房能力を向上させることができる。
【0070】
ところで、エコノマイザ熱交換器12の内側流路22には、冷凍サイクルにおける中間圧の気液二相状態の冷媒が流れるため、内側流路12の内面においてドライアウトが発生することによって内側流路22を流れる冷媒の蒸発伝熱性能が低下し、エコノマイザ熱交換器12の熱交換効率が低下しやすい。特に、内側流路22を流れる気液二相状態の冷媒の気体の密度に対する液体の密度の比である気液密度比(=液体密度/気体密度)が10以下の場合には、内側流路22を流れる気液二相状態の冷媒が噴霧流に近い流れになりやすいため、これに起因して、内側流路22の内面に冷媒の液膜が生じにくくなり、これにより、内側流路22におけるドライアウトが発生しやすくなる傾向にある。しかも、空気調和装置1では、冷媒として二酸化炭素を使用していることから冷凍サイクル全体の圧力が高く、しかも、エコノマイザ熱交換器12の内側流路22を流れる冷媒が冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒であるため、内側流路22を流れる気液二相状態の冷媒の気液密度比が約2〜4程度と非常に小さくなるため、内側流路22を流れる気液二相状態の冷媒が噴霧流に近い流れになる傾向が顕著になり、内側流路22におけるドライアウトがさらに発生しやすい条件となっている。
【0071】
しかし、このエコノマイザ熱交換器12では、内側流路22を流れる冷媒に遠心力が作用するような遠心力作用機構24が内側流路22に設けられているため、遠心力作用機構24によって冷媒に遠心力を作用させて冷媒の液滴を外周側に移動させることができるようになっている。
【0072】
これにより、このエコノマイザ熱交換器12では、冷媒の液滴を内側流路22の内面に付着しやすくすることができ、内側流路22におけるドライアウトの発生を抑えることができるため、ドライアウトによる蒸発伝熱性能の低下を抑えて、熱交換効率の低下を抑えることができる。
【0073】
特に、この空気調和装置1では、エコノマイザ熱交換器12及びインジェクション管11による中間圧インジェクションを採用しているため、冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒という、気液密度比が非常に小さい条件において、内側流路22と内側流路22の周囲に配置された複数の外側流路23とが金属素材の押し出し成形によって一体成形された管部材21を有する熱交換器を使用する態様となっている。しかし、上記のように、遠心力作用機構24が内側流路22に設けられているため、冷媒の液滴を内側流路22の内面に付着しやすくして内側流路22におけるドライアウトの発生を抑えることができ、ドライアウトによる蒸発伝熱性能の低下を抑えて、熱交換効率の低下を抑えることができる。
【0074】
尚、この空気調和装置1では、蒸発器として機能する利用側熱交換器5を流れる冷媒も、少なくとも一時的には気液二相状態で伝熱管52を流れて蒸発することになるため、利用側熱交換器5においてもドライアウトが発生するおそれがある。しかし、利用側熱交換器5を流れる冷媒は、冷凍サイクルにおける低圧の冷媒であるため、冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒が流れるエコノマイザ熱交換器12の内側流路22に比べて、冷媒の気液密度比が大きく、エコノマイザ熱交換器12の内側流路22に比べて、ドライアウトが発生するおそれが小さい。このため、この空気調和装置1では、利用側熱交換器5を構成する伝熱管52に遠心力作用フィン22aよりもフィン高さHが小さい溝深さhvを有する溝からなる蒸発器内面溝52aを形成するようにしている。すなわち、この空気調和装置1では、エコノマイザ熱交換器12の内側流路22及び蒸発器としての利用側熱交換器5のうち、ドライアウトが発生するおそれが非常に大きいエコノマイザ熱交換器12の内側流路22のみに遠心力作用フィン22aを形成するようにして、効果的にドライアウトの発生を抑えるようにしている。
【0075】
また、このエコノマイザ熱交換器12では、遠心力作用機構24が内側流路22の内面に形成された遠心力作用フィン22aであるため、冷媒に遠心力を作用させるとともに、内側流路22の伝熱面積を増加させることができ、内側流路22における熱流束が小さくなり、これにより、内側流路22におけるドライアウトの発生をさらに抑えることができる。しかも、このエコノマイザ熱交換器12では、遠心力作用フィン22aのフィン高さHを内側流路22の内径DIの0.08倍以上にすることによって、内側流路22を流れる冷媒に遠心力を十分に作用させることができる。
【0076】
また、このエコノマイザ熱交換器12では、遠心力作用フィン22aのねじれ角αを1°〜10°にすることによって、内側流路22の軸中心及びその近傍を流れる冷媒を除いて、管部材21の長さ(約1m〜数m程度)よりも十分に短い距離で、冷媒の液滴のほとんどを内側流路22の内面に付着させることができるようになっている。より具体的には、図7に示すように、内側流路22の内径DIを6mmとした場合において、内側流路22内に気液二相状態の冷媒が噴霧流(均一に液滴が分散した状態)で流れている場合を想定すると、ねじれ角αが1°程度で400mm程度の距離で、また、ねじれ角αが2°〜3°で150〜200mm程度の距離で内側流路22の内面に90%の液滴が付着することがわかる。ここで、遠心力作用フィン22aのねじれ角αを10°よりも大きくすれば、さらに短い距離で、さらに多くの冷媒の液滴を内側流路22の内面に付着させることができるようになる。しかし、ねじれ角αを10°以上にしても、図7に示すように、冷媒の液滴を内側流路22の内面に付着させる効果がわずかに向上するだけであり、その一方で、内側流路22を流れる冷媒の圧力損失の増加が過大になる傾向になる。このため、このエコノマイザ熱交換器12では、遠心力作用フィン22aのねじれ角αの下限を冷媒の液滴のほとんどを内側流路22の内面に付着させる効果が得られる1°にし、遠心力作用フィン22aのねじれ角αの上限を冷媒の液滴を内側流路22の内面に付着させる効果がわずかに向上するだけになる10°にしている。尚、図7は、液滴を質点と仮定し、内側流路22の内部に均一に分散した状態の液滴が周方向に旋回したときの遠心力によって、内側流路22の内面へ到達するまでの流れ方向の距離を算出したものである。
【0077】
(4)変形例1
上記の空気調和装置1(図1参照)に設けられたエコノマイザ熱交換器12(図4〜図6参照)では、内側流路22に遠心力作用フィン22aだけが形成されているが、図8に示すように、内側流路22の内面に、遠心力作用フィン22aのフィン高さHよりも小さい溝深さhを有する溝からなる液滴捕捉溝22bをさらに形成するようにしてもよい。
【0078】
このエコノマイザ熱交換器12においては、遠心力作用フィン22aとともに液滴捕捉溝22bが形成されているため、内側流路22の内面に付着した冷媒の液滴を内側流路22の内面に捕捉することができ、これにより、遠心力作用フィン22aによって内側流路22の内面に付着した冷媒の液滴を内側流路22の内面に付着した状態を維持されやすくできる。
【0079】
(5)変形例2
上記の空気調和装置1(図1参照)では、インジェクション管11が熱源側熱交換器3とエコノマイザ熱交換器12とを接続する第2高圧冷媒管3b(すなわち、エコノマイザ熱交換器12の上流側の位置)から分岐されているが、図9に示すように、インジェクション管11がエコノマイザ熱交換器12と膨張機構4とを接続する第3高圧冷媒管3c(すなわち、エコノマイザ熱交換器12の下流側の位置)から分岐されていてもよい。
【0080】
この場合においても、上記のエコノマイザ熱交換器12及びそれを備えた空気調和装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0081】
(6)変形例3
上記の空気調和装置1(図1、図9参照)に設けられたエコノマイザ熱交換器12(図4〜図6参照)では、遠心力作用機構24として、内側流路22の内面に形成された遠心力作用フィン22aを採用しているが、これに代えて、図10及び図11に示すような、管部材21の周方向にねじれながら軸方向に延びる部材からなる遠心力作用部材25を内側流路22内に設けてもよい。ここで、遠心力作用部材25は、内側流路22に挿入可能な幅を有する板材を周方向にねじり加工を施したねじり板である。
【0082】
この場合においても、ねじり板からなる遠心力作用部材25が遠心力作用機構24としての機能を果たすため、上記のエコノマイザ熱交換器12及びそれを備えた空気調和装置1と同様の作用効果を得ることができる。また、このエコノマイザ熱交換器12では、内側流路22に遠心力作用部材25を挿入するだけで、冷媒に遠心力を作用させる構成を実現することができるため、上記のねじり板のような、冷媒に対して遠心力を作用させる効果が高い複雑な形状を採用しやすくできる。尚、遠心力作用部材25は、上記のねじり板に限定されるものではなく、コイル部材等の他の部材であってもよい。
【0083】
(7)変形例4
上記の空気調和装置1(図1、図9参照)に設けられたエコノマイザ熱交換器12(図4〜図6参照)では、内側流路22と内側流路22の周囲に配置された複数の外側流路23とが金属素材の押し出し成形によって一体成形された管部材21を採用しているが、これに代えて、図12及び図13に示すような、外側多穴管部材121の内側孔121aに外側多穴管部材121とは別の内側挿入管部材122を挿入した構成を採用してもよい。ここで、外側多穴管部材121は、複数の外側流路23と、複数の外側流路23に囲まれる内側孔121aとを有する略円管状の部材である。また、内側挿入管部材122は、内側流路22を有する略円管状の部材である。そして、内側流路22には、図5及び図6に示すような遠心力作用機構24が設けられている。尚、内側挿入管部材122は、内側孔121aに挿入され、拡管等によって外側多穴管部材121に固定されている。また、変形例1(図8参照)のような内側流路22に液滴捕捉溝22bを形成した構成に対しても、図14に示すように、外側多穴管部材121の内側孔121aに外側多穴管部材121とは別の内側挿入管部材122を挿入した構成を採用することができる。
【0084】
この場合においても、内側流路22に遠心力作用機構24が設けられているため、上記のエコノマイザ熱交換器12及びそれを備えた空気調和装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0085】
しかも、この場合においては、複数の外側流路23を形成する部材と内側流路22を形成する部材とを、それぞれ、外側多穴管部材121と内側挿入管部材122という別の部材によって構成している。このため、複数の外側流路23及び内側孔122aについては、その成形に適した金属素材の押し出し成形を採用することができる。また、内側流路22については、遠心力作用機構24という複雑な形状を、内側挿入管部材122のみを周方向にねじる加工によって、又は、内側挿入管部材122を引き抜き管加工によって形成する等により、容易に設けることができる。また、内側流路22と内側流路22の周囲に配置された複数の外側流路23とが金属素材の押し出し成形によって一体成形された管部材21を採用する場合には、図6に示すように、複数の外側流路23とキャップ33の空間Sとを連通させるために、管部材21の長手方向端部の内側流路22のみを残すように加工する必要がある。しかし、この場合においては、図13に示すように、内側挿入管部材122の長手方向端部を外側多穴管部材121の長手方向端部よりも突出した状態で固定することで、容易に複数の外側流路23とキャップ33の空間Sとを連通させることができる。
【0086】
(8)他の実施形態
以上、本発明の実施形態及びその変形例について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及びその変形例に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0087】
(A)上記の実施形態及びその変形例では、外側流路23の内面が平滑な面をなしているが、これに限定されず、内面を溝付きにする等の他の内面を採用してもよい。また、外側流路23の横断面視における形状や接続部材31、32の形状は、上記の実施形態及びその変形例のものに限定されない。
【0088】
(B)上記の実施形態及びその変形例では、蒸発器としての利用側熱交換器5としてクロスフィン型の熱交換器を採用しているが、これに限定されず、冷媒が流れる伝熱管を有する熱交換器であればよい。
【0089】
(C)上記の実施形態及びその変形例では、エコノマイザ熱交換器12及びインジェクション管11による中間圧インジェクションを行う冷媒回路10において、エコノマイザ熱交換器12として、内側流路22と内側流路22の周囲に配置された複数の外側流路23とを有する熱交換器を採用するとともに、内側流路22をインジェクション管11を流れる冷媒(すなわち、冷凍サイクルにおける中間圧の気液二相状態の冷媒)が流れる態様で使用しているが、これに限定されない。例えば、冷凍サイクルにおける高圧の冷媒と冷凍サイクルにおける低圧の冷媒との熱交換を行うことで、冷凍サイクルにおける高圧の冷媒を冷却し、かつ、冷凍サイクルにおける低圧の冷媒を加熱・蒸発させる過冷却熱交換器や液ガス熱交換器として、内側流路22と内側流路22の周囲に配置された複数の外側流路23とが、内側流路と内側流路の周囲に配置された複数の外側流路とを有する熱交換器を採用するとともに、内側流路22を冷凍サイクルにおける低圧の気液二相状態の冷媒が流れる態様で使用してもよい。
【0090】
この場合においても、上記の実施形態及びその変形例と同様の作用効果を得ることができる。特に、内側流路22を流れる冷媒の気液密度比が10以下の場合には、内側流路22におけるドライアウトが発生しやすくなるため、顕著な効果が得られることになる。
【0091】
(D)上記の実施形態及びその変形例では、冷房専用の空気調和装置1に本発明を適用した例を説明したが、冷暖切換可能な空気調和装置のような他の型式の空気調和装置やヒートポンプ給湯機に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、内側流路と内側流路の周囲に配置された複数の外側流路とが金属素材の押し出し加工によって一体成形された管部材を有しており、内側流路を流れる冷媒と外側流路を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換器、及びそれを備えた冷凍装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 空気調和装置(冷凍装置)
2 圧縮機構
3 熱源側熱交換器(放熱器)
4 膨張機構
5 利用側熱交換器(蒸発器)
11 インジェクション管
12 エコノマイザ熱交換器
21 管部材
22 内側流路
22a 遠心力作用フィン
22b 液滴捕捉溝
23 外側流路
24 遠心力作用機構
25 遠心力作用部材
52 伝熱管
52a 蒸発器内面溝
121 外側多穴管部材
121a 内側孔
122 内側挿入管部材
DI 内径
H フィン高さ
h、hv 溝深さ
α ねじれ角
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【特許文献1】特開2000−2492号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側流路(22)と前記内側流路の周囲に配置された複数の外側流路(23)とを有しており、前記内側流路を流れる流体と前記外側流路を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換器であって、
前記内側流路を流れる流体は、少なくとも一時的には前記内側流路を気液二相状態で流れる冷媒であり、
前記内側流路を流れる気液二相状態の冷媒に遠心力が作用するような遠心力作用機構(24)が前記内側流路に設けられている、
熱交換器(12)。
【請求項2】
前記遠心力作用機構(24)は、前記内側流路(22)の内面に形成されており、前記内側流路の周方向にねじれながら軸方向に延びるフィンからなる遠心力作用フィン(22a)である、
請求項1に記載の熱交換器(12)。
【請求項3】
前記遠心力作用フィン(22a)のフィン高さ(H)は、前記内側流路(22)の内径(DI)の0.08倍以上である、
請求項2に記載の熱交換器(12)。
【請求項4】
前記内側流路(22)の軸方向に対して前記遠心力作用フィン(22a)が延びる方向がなすねじれ角(α)は、1°〜10°である、
請求項3に記載の熱交換器(12)。
【請求項5】
前記内側流路(22)の内面には、前記遠心力作用フィン(22a)のフィン高さ(H)よりも小さい溝深さを有する溝からなる液滴捕捉溝(22b)がさらに形成されている、
請求項2〜4のいずれか1項に記載の熱交換器(12)。
【請求項6】
前記複数の外側流路(23)は、前記複数の外側流路に囲まれる内側孔(121a)とともに、外側多穴管部材(121)に一体成形されており、
前記内側孔には、前記内側流路(22)を形成しており、前記外側多穴管部材とは別の内側挿入管部材(122)が挿入されている、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱交換器(12)。
【請求項7】
前記内側流路(22)と前記複数の外側流路(23)とは、金属素材の押し出し成形によって成形される管部材(21)に一体成形されている、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱交換器(12)。
【請求項8】
前記遠心力作用機構(24)は、前記内側流路(22)内に設けられており、前記内側流路の周方向にねじれながら軸方向に延びる部材からなる遠心力作用部材(25)である、
請求項1〜5、7のいずれか1項に記載の熱交換器(12)。
【請求項9】
前記内側流路(22)を流れる流体は、気液二相状態における気体の密度に対する液体の密度の比である気液密度比が10以下の冷媒である、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱交換器(12)。
【請求項10】
複数の圧縮要素を有しており、前記複数の圧縮要素のうちの前段側の圧縮要素から吐出された冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒を後段側の圧縮要素で順次圧縮するように構成された圧縮機構(2)と、
前記圧縮機構によって冷凍サイクルにおける高圧まで圧縮された冷媒の放熱を行う放熱器(3)と、
前記放熱器によって放熱した冷媒を減圧する膨張機構(4)と、
前記膨張機構によって冷凍サイクルにおける低圧まで減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器(5)と、
前記放熱器から前記膨張機構に送られる冷媒を分岐して前記後段側の圧縮要素に戻すインジェクション管(11)と、
前記放熱器から前記膨張機構に送られる冷媒と前記インジェクション管を流れる冷凍サイクルにおける中間圧の冷媒との熱交換を行うエコノマイザ熱交換器(12)とを備え、
前記エコノマイザ熱交換器は、前記内側流路(22)を流れる流体を前記インジェクション管を流れる冷媒とし、かつ、前記外側流路(23)を流れる流体を前記放熱器から前記膨張機構に送られる冷媒とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱交換器である、
冷凍装置(1)。
【請求項11】
前記蒸発器(5)を構成する伝熱管(52)には、前記遠心力作用フィン(22a)よりもフィン高さが小さい溝深さ(hv)を有する溝からなる蒸発器内面溝(52a)が形成されている、請求項10に記載の冷凍装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−64448(P2011−64448A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175365(P2010−175365)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】