説明

熱交換器

【課題】熱交換を効率よく行える熱交換器を提供すること。
【解決手段】本発明の熱交換器としてのラジエータ10は、冷却水が流入するアッパータンク11と、アッパータンク11からの流体が熱交換されるコア12と、コア12からの流体を集約するロアータンク13とを備え、アッパータンク11の内部には、内部空間を下部空間41と上部空間42とに2分するとともに、下部空間41および上部空間42を連通する連通開口43を有したバッフルプレート40が設けられ、バッフルプレート40の長手方向の端部には、下部空間41側に折曲した折曲部45が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に係り、例えばラジエータ等に代表される熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジエータ、オイルクーラ、インタークーラ(アウタクーラ)等の熱交換器において、熱交換器内に空気が滞留するのを抑制する構造を採用したものはよく知られている(特許文献1,2)。
特許文献1に記載されたものは水冷式インタークーラであるが、このインタークーラでは、冷却水が流入するケーシングの上面において、上向きに膨出した断面円弧状の溝を設けておき、ケーシング内の空気を当該溝を通して冷却水注入口まで導き、ここから外部へ排出する構造が採られている。
特許文献2に記載されたものは横流れ式のオイルクーラであるが、このオイルクーラでは、ヘッダパイプ内に空気が残らないように、ヘッダパイプのキャップとチューブとの隙間を小さくし、この隙間に実質的に空気溜まりが発生しない構造を採用している。
【0003】
【特許文献1】特開平5−96779号公報
【特許文献2】特開2001−116486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ダンプトラックに用いられるエンジン冷却水用のラジエータを見てみると、悪路走行などにおいて車両が左右に大きく傾斜した場合、ラジエータのアッパータンクでは、もともと存在する空気溜まりが冷却水の液面と共に傾斜してしまい、特許文献1の構造を採用した場合でも、空気を冷却水注入口まで確実に導くことができず、また、特許文献2の構造を採用しても、液面が傾斜することで気泡の発生箇所が安定せず、空気溜まりの発生を完全には防止できない。
【0005】
そして、アッパータンク内で冷却水の液面が傾斜すると、アッパータンクとコアとを連通させる連通管も空気溜まりに曝されてしまうため、この連通管を通して空気溜まりの空気がラジエータコア内に吸い込まれてしまうことがあり、コアでの冷却水と外気との熱交換が効率よく行われないという問題が生じる。
【0006】
本発明の目的は、熱交換を効率よく行える熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために本発明の熱交換器は、アッパータンク内に存在する空気溜まりを外部に排出したり、空気溜まりの発生そのものを抑制したりするものではなく、大きく姿勢変化した場合でも、存在する空気溜まりがコア内に吸い込まれるのを確実に防止できるよう構成したものであり、具体的には以下の通りである。
【0008】
すなわち、本発明の熱交換器は、熱交換される流体が流入するアッパータンクと、アッパータンクからの流体が熱交換されるコアと、コアからの流体を集約するロアータンクとを備え、前記アッパータンクの内部には、内部空間を下部空間と上部空間とに2分するとともに、前記下部空間および上部空間を連通する連通開口を有したバッフルプレートが設けられ、前記バッフルプレートの長手方向の端部には、前記下部空間側に折曲した折曲部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の熱交換器では、前記折曲部は、水平面に対して前記下部空間側に所定角度傾斜して設けられていることを特徴とする。
ここでの「所定角度傾斜して」とは、水平面に対して鋭角の範囲で傾斜していることをいう。
【発明の効果】
【0010】
以上の本発明によれば、熱交換器が傾斜した場合、空気溜まりが形成される上部空間においては、傾斜した上方側に空気溜まりが移動する。この際、バッフルプレートの端部には折曲部が設けられているので、この折曲部によって空気溜まりが形成される容積が増え、空気溜まりを端部側に寄せて確実に溜めておくことができ、空気溜まりの下方側がバッフルプレートの連通開口にかかるのを防止できる。従って、その連通開口部分で空気溜まりから気泡が分離したり、分離した気泡がコア側に引き込まれたりする心配がなくなり、コアでの冷却効率が低下するのを防止できる。
【0011】
以上の発明において、折曲部を所定角度傾斜させて設けた場合には、ラジエータが傾斜した状態から水平に戻った場合や、流体面が大きく揺れた場合など、当該折曲部での流体の跳ね返りを抑制でき、空気溜まりから気泡が分離し易い状況となるのを回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るラジエータ(熱交換器)10を示す全体斜視図である。ラジエータ10は、大型のダンプトラック等に搭載されたエンジンの冷却水(熱交換される流体)を冷却するものであり、エンジンからの冷却水が流入するアッパータンク11と、アッパータンク11内から流れ落ちる冷却水と外気との熱交換により当該冷却水を冷却するコア12と、コア12から流出した冷却水を集約してエンジン側のウォータポンプに戻すロアータンク13とを備えた縦流れ式に構成されている。なお、アッパータンク11については後述する。
【0013】
コア12は、本実施形態では、水平方向に並設された複数(本実施形態では4つ)のモジュールコア14で構成されている。コア12が非常に大型であることから、コア12を単体で構成すると製造上の困難性が生じる。このために本実施形態では、コア12をモジュール化された複数のモジュールコア14で構成することとし、容易に製造できるようにしている。
【0014】
それぞれのモジュールコア14は、通常のラジエータに用いられるコアと同様に、アッパータンク11からの冷却水をロアータンク13に導く複数のチューブと、チューブ間に介装された波状のフィンとを備えるコルゲートコアなどが採用されている。
【0015】
これらのモジュールコア14は、四周枠組みされた枠体20内に収容されている。この枠体20は、左右一対の縦フレーム16、縦フレーム16の上端間をブラケット19を介して連結する上フレーム17、および縦フレーム16の下端間をブラケット19を介して連結する下フレーム18とで構成されている。縦フレーム16の側面には、ラジエータ10を車両フレームに固定するためのステイ21が取り付けられている。
【0016】
ロアータンク13は、下フレーム18の下面に固定されており、各モジュールコア14と連通した内部空間を有する箱状に形成されている。ロアータンク13のエンジン側に面した側面には、冷却水戻し用のラジエータホースが接続される出口管22が取り付けられている。
【0017】
図2には、アッパータンク11を一部透視した斜視図が示されている。アッパータンク11は、矩形状の底プレート31とその両端に立設された側面プレート32とを断面略コ字形状のカバープレート33で覆った箱状とされ、カバープレート33のフランジ33Aを利用して枠体20の上フレーム17にボルトにより固定されている。フランジ33Aと上フレーム17との間には薄板状のシート部材34(図1)が密着した状態で介装されている。
【0018】
底プレート31には、各モジュールコア14(図1)に対応した位置に連通管35が取り付けられている。すなわち、底プレート31の下面側にはモジュールコア14が取り付けられており、連通管35によりアッパータンク11の内部空間とモジュールコア14の上部側とが連通している。アッパータンク11内に流入した冷却水は、各連通管35を通してそれぞれのモジュールコア14に分配される。
【0019】
カバープレート33のエンジン側の側面には、冷却水流入用のラジエータホースが接続される入口管36が取り付けられている。カバープレート33の一端側の上面には、吸水用のフィラー37が取り付けられている。カバープレート33の両端側において、上面の裏側には、スタッドボルト38が内部空間に収容された状態で取り付けられている。このスタッドボルト38には、ラジエータ10を車両に搭載する際などに、吊り込み用のフックボルトが螺設される。また、カバープレート33の中央には、冷却水の水温や各種状態を検出するセンサの取付ボス39が設けられている。
【0020】
このようなアッパータンク11の内部には、内部空間を長手方向に沿って下部空間41および上部空間42に2分するバッフルプレート40が溶接により取り付けられている。このバッフルプレート40は、入口管36を通して下部空間41内に流入した冷却水中に気泡が含まれる場合、この気泡を上部空間42に移動させて分離するとともに、分離した気泡を下部空間41に戻り難くし、連通管35からモジュールコア14に引き込まれるのを防止している。
【0021】
従ってバッフルプレート40の水平面部分には、長手方向に沿った適宜な位置に複数の連通開口43が設けられている。この連通開口43を通して気泡(冷却水を含む)が下部空間41から上部空間42に移動する。また、このような構成であるから、上部空間42内には常時、図3に示すように、空気溜まり44が存在することになる。ラジエータ10が水平状態にあるとき、バッフルプレート40は、後述の屋根部46の頂部を除き、冷却水の液面よりも下側に位置する。
【0022】
さらに、本実施形態のバッフルプレート40の両端には、水平面に対して下部空間41側に折曲して傾斜した折曲部45が設けられている。折曲部45は、両側の連通管35と干渉しない程度の角度で折曲している。連通管35と干渉しない角度であれば、例えば90度程度の角度で折曲されていてもよい。このような折曲部45が設けられることにより、上部空間42の両端側での容積が大きくなっている。
【0023】
そして、折曲部45の折曲位置および折曲角度は、増量させたい容積とも関係している。車両の悪路走行時には、車両が左右に傾くことでラジエータ10も傾く。ラジエータ10が傾くとアッパータンク11内では、図4に示すように、上部空間42内の上方に位置した側に空気溜まり44が移動する。この時、上部空間42の端部(この場合では上方側の端部)の容積が少ないと、空気溜まり44の下方側が連通開口43にかかってしまうため、空気溜まり44から分離した気泡が連通開口43を通って下部空間41に入り込み、連通管35からモジュールコア14に引き込まれる可能性がある。
【0024】
この状態では、モジュールコア14のチューブ内に気泡が存在することになるから、冷却水の流れが阻害され、冷却効率が低下する。また、場合によっては、気泡がウォータポンプまで達し、キャビテーションの原因になることも考えられ、このような気泡の引込を防止する必要がある。
【0025】
つまり、本実施形態では、そのような気泡の引込を防止するために、バッフルプレート40の両端に折曲部45を設けて容積アップを図っているのである。この構成により、図4に示すように、空気溜まり44が上方に移動した場合でも、空気を容積増量部分に十分に溜めておくことができ、空気溜まり44の下方側が連通開口43にかからないようになっている。
【0026】
図4に図示した状態は、ラジエータ10が約20度傾斜した状態であるが、本実施形態では、ラジエータ10が25度傾斜した場合でも、空気溜まり44の下方側が連通開口43にかからないように上部空間42の端部容積が増量されており、そのような増量分の容積が確保されるように折曲部45の折曲位置および折曲角度が決められている。
【0027】
以上のバッフルプレート40により、ラジエータ10が傾斜した場合でも、空気溜まり44が連通開口43にかかる心配がないから、空気溜まり44から気泡が分離するのを防いでコア12内に引き込まれるのを防止でき、冷却効率の低下を抑制できる。
また、バッフルプレート40が設けられていることで、入口管36から流入した冷却水を、波打つことなくなめらかにモジュールコア14に流すことができる。さらに、冷却水が波打つことがないので、冷却水中に気泡をより混入し難くできる。
【0028】
ここで、連通開口43を中央寄りに設けることで、ラジエータ10が傾斜した際の空気溜まりの連通開口43へのかかりを防止することも可能であるが、連通開口43を中央寄りにのみ設けると、流入した冷却水中の気泡を良好に上部空間42に導くことができない可能性がある。このことから、複数の連通開口43を、本実施形態のように、バッフルプレート40の長手方向に互いに離間させて設けることが望ましい。
【0029】
なお、アッパータンク11は、ラジエータ10全体の小型化の要請から、上下寸法が低く抑えられている。一方で、空気溜まり44を確保するためには所定容積の上部空間42が必要となる。そのためには、バッフルプレート40の位置を低くし、できる限り下部空間41の容積を抑える必要がある。
【0030】
そこで、本実施形態では、バッフルプレート40の前記入口管36に対応した位置に、当該入口管36と干渉しないように上向きに凸状とされた屋根部46を設け、この屋根部46の下方に入口管36を位置させることで、バッフルプレート40全体の位置を低くしつつ、冷却水を下部空間41に確実に流入させるようにしている。
【0031】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、数量などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、数量などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0032】
例えば、前記実施形態では、折曲部45がバッフルプレート40の端部に設けられていたが、バッフルプレート40の中央位置から端部に向けて全体的に傾斜するように折曲部を設けてもよい。
また、前記実施形態の折曲部45は斜めに傾斜した形状であったが、前述したように鉛直に折曲していてもよく、さらに、段差を有した階段状に設けられていてもよい。
【0033】
前記実施形態では、本発明の熱交換器としてラジエータ10について例示したが、本発明の熱交換器としてはこれに限定されず、オイルクーラなどであってもよく、アッパータンクを備えたあらゆる熱交換器に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ダンプトラック等の大型の輸送車両や、姿勢変化が頻繁に生じる建設機械に限らず、一般のトラックあるいは自動車などにも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱交換器を示す全体斜視図。
【図2】前記熱交換器を構成するアッパータンクを一部透視した斜視図。
【図3】前記アッパータンクを示す断面図。
【図4】前記アッパータンクが傾斜した状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0036】
10…熱交換器、11…アッパータンク、12…コア、13…ロアータンク、40…バッフルプレート、41…下部空間、42…上部空間、43…連通開口、44…空気溜まり、45…折曲部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換される流体が流入するアッパータンクと、
アッパータンクからの流体が熱交換されるコアと、
コアからの流体を集約するロアータンクとを備え、
前記アッパータンクの内部には、内部空間を下部空間と上部空間とに2分するとともに、前記下部空間および上部空間を連通する連通開口を有したバッフルプレートが設けられ、
前記バッフルプレートの長手方向の端部には、前記下部空間側に折曲した折曲部が設けられている
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器において、
前記折曲部は、水平面に対して前記下部空間側に所定角度傾斜して設けられている
ことを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−175094(P2010−175094A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15716(P2009−15716)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】