説明

熱交換型蒸留装置

【課題】通常の蒸留塔と比べて、エネルギー効率が高く、設計の自由度が大きく装置のメンテナンスも容易になる熱交換型蒸留装置を提供する。
【解決手段】本発明の蒸留装置は、濃縮塔1と、濃縮塔1よりも高い位置に配置された回収塔2と、回収塔の塔頂部2cと濃縮塔の塔底部1aを連通させる第一の配管23と、回収塔の塔頂部2cからの蒸気を圧縮して濃縮塔の塔底部1aに送るコンプレッサー4とを備える。さらに本発明の蒸留装置は、濃縮塔1の所定の段に配置された熱交換器8と、回収塔2の所定の段に配置され、該所定の段から一部の液を塔外部へ抜き出す液抜き部2dと、液抜き部2dからの液を熱交換器8へ導入する第二の配管24と、第二の配管24を経由して熱交換器8へ導入された後に該熱交換器8より流出する流体を液抜き部2dの直下の段へ導入する第三の配管25と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くの工業プロセスで広く適用される蒸留操作を実施するための蒸留装置であって、特に熱交換型蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留分離操作は、工業プロセス全般で広く適用されているが、消費エネルギーが非常に大きい単位操作でもある。そのため産業界では消費エネルギーを低減できる蒸留装置の研究がなされてきた。こうした研究において、少エネルギー性に優れた蒸留装置として内部熱交換型蒸留塔(Heat Integrated Distillation Column、以下、HIDiC と称す。)の開発が行われている。
【0003】
このHIDiCの基本的なシステムは図6に示すように、濃縮部(高圧部)と回収部(低圧部)を分離して並べた構造を有している。そして、濃縮部の操作温度が回収部の操作温度よりも高くなるように、濃縮部の操作圧力を回収部の操作圧力よりも高くする。このことによって、両者間に熱交換面があれば濃縮部から回収部に熱移動が生じるため、リボイラーにおける入熱量を小さくできる。また濃縮部の熱は回収部へ移動するため、コンデンサーにおける除熱量も小さくできる。したがって、エネルギー効率が極めて高い蒸留装置となる。
【0004】
このようなHIDiCを実用化するために、特許文献1に示すような二重管構造を有する蒸留装置が提案されている。
【0005】
この蒸留装置は、図7に示すように、本体胴51と、本体胴51内に挿入された複数のチューブユニット52とを備え、各チューブユニット52を上側チューブシート53a及び下側チューブシート53bによって本体胴51と連結させることにより形成されている。
【0006】
各チューブユニット52は二重管構造を有しており、チューブユニット52の内管54が濃縮部、内管54の外側面を囲む外管5が回収部として利用される。内管54の内部と外管55と内管54の間には充填物(規則充填物)54a,55aが充填されている。チューブユニット52については図8も参照されたい。また複数のチューブユニット52は外管55の外壁65どうしが互いに接触するように配設されている。
【0007】
再び図7を参照すると、本体胴51の上部には、外管(回収部)55に原料液を供給するための回収部液入口56と、外管55からの蒸気を抜き出す回収部蒸気出口57とが配設されている。
【0008】
上側チューブシート53aより上側に、内管(濃縮部)54のみと連通するチャンネル58aが形成されている。外管55の上端面は上側チューブシート53aから離れて開放されている。
【0009】
上側チャンネル58aには、内管54に液(還流液)を供給するための濃縮部液入口59と、内管54からの蒸気を抜き出す濃縮部蒸気出口60とが配設されている。
【0010】
本体胴51の下部には、外管55に蒸気を供給するための回収部蒸気入口61と、外管55からの液を抜き出す回収部液出口62とが配設されている。
【0011】
下側チューブシート53bより下側に、内管54のみと連通するチャンネル58bが形成されている。外管55の下端面は下側チューブシート53bから離れて開放されている。
【0012】
下側チャンネル58bには、内管54に蒸気を供給するための濃縮部蒸気入口63と、内管54からの液を抜き出す濃縮部液出口64とが配設されている。
【0013】
上記の蒸留装置では、原料液が回収部液入口56から供給され、それぞれのチューブユニット52の外管55の上面に均一に分散される。各外管55の上端面に供給された原料液のうちの、外管55を鉛直方向下側に蒸留されながら流下できた液は、回収部液出口62から塔外のリボイラーに流れて加熱される。リボイラーの加熱で生じた蒸気は回収部蒸気入口61から再び塔内に入る。回収部蒸気入口61からの蒸気は各チューブユニット52の外管55の下面に分配され、各外管55を鉛直方向上側に向かう。気化せずに残った液は缶出製品として払出される。
【0014】
外管55を鉛直方向上側に蒸留されながら上昇できた蒸気は回収部蒸気出口57からコンプレッサーに向かう。コンプレッサーを経た蒸気は濃縮部蒸気入口63から入る。濃縮部蒸気入口63からの蒸気は各内管54の下面から鉛直方向上側に向かう。内管54を鉛直方向上側に蒸留されながら上昇した蒸気は各内管54の上面を出て、濃縮部蒸気出口60から塔外のコンデンサーに向かう。濃縮部から出た蒸気はコンデンサーにて、全凝縮、或いは部分凝縮し、必要な場合、一部は還流として内管54へ濃縮部液入口59を介して供給され、残りは留出製品として払出される。
【0015】
こうした構成は濃縮部(内管54)から回収部(外管55)へ熱移動が生じるため、リボイラーにおける入熱量とコンデンサーにおける除熱量を小さくでき、エネルギー効率が極めて高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2004−16928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1に開示されるように濃縮部と回収部が二重管構造で構築された熱交換型蒸留装置は、次の1)〜6)のような課題がある。
【0018】
1)製品のサイドカットを行なうことが出来ない。サイドカットとは、最終の留出製品を得るまでの蒸留プロセスの途中のものを中間留分製品として抽出することをいう。
【0019】
特許文献1記載の蒸留装置では二重管構造のチューブユニット群が互いに接するように配置されている。その上、外管および内管には規則充填物が充填されている。このため、各チューブユニットの内管から中間留分製品を取り出せるように配管を形成することが出来ず、結果、サイドカットが出来ない。
【0020】
2)原料供給段(フィード段)の最適化を行うことが出来ない。二重管構造で構築された濃縮部と回収部ではそれぞれの充填高が同じになってしまい、濃縮部と回収部の段数を自由に設定できないからである。
【0021】
3)供給する原料に応じて供給位置を変えられない。上記2)で述べたようにフィード段位置を自由に設定できない構造だからである。
【0022】
4)マルチフィード(複数の原料ストリームの受け入れ)に対応できない。上記1)で述べたように二重管の途中に原料を供給することができない構造だからである。
【0023】
5)装置のメンテナンスが困難である。上記1)で述べたように規則充填物を用いたチューブユニットが互いに隣接して密集している為、所望のチューブユニットへ完全にアクセスすることが出来ず、それらのメンテナンスを行うことが出来ない。
【0024】
6)二重管を用いた濃縮部と回収部の間の熱交換量は、伝熱面積に対して設計上の自由度がなく蒸留塔の温度分布のみに依存しており、装置設計において熱交換量の設計上の自由度が小さい。
【0025】
濃縮部と回収部の間での熱交換量Qは、総括伝熱係数をUとし、伝熱面積をAとし、濃縮部と回収部の間の温度差をΔTとすると、Q=U×A×ΔT で表される。二重管構造を用いたHIDiCでは内管壁面が伝熱面積となる。この伝熱面積は二重管の形で決まる固定値である。また総括伝熱係数についても、伝熱構造および熱交換を行う流体物性により決まる固定値である。そのため、上記の熱交換量算出式から分かるように、設計時の熱交換量は、濃縮部と回収部の操作圧力によって変化する、濃縮部と回収部の間の温度差によって変更できるだけである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、上記のような課題を解決することができる熱交換型蒸留装置を提供することにある。
【0027】
本発明の熱交換型蒸留装置は、濃縮部として利用される塔体であり棚段塔部或いは充填塔部を有する濃縮塔と、濃縮塔よりも高い位置に配置され、回収部として利用される塔体であり棚段塔部或いは充填塔部を有する回収塔と、回収塔の塔頂部と濃縮塔の塔底部を連通させる第一の配管と、第一の配管の途中に設置され、回収塔の塔頂部からの蒸気を圧縮して濃縮塔の塔底部に送るコンプレッサーと、を備える
このような態様に加えて、本発明の一例は、濃縮塔の所定の段に配置された熱交換器と、回収塔の所定の段に配置され、該所定の段から一部の液を塔外部へ抜き出す液抜き部と、液抜き部からの液を熱交換器へ導入する第二の配管と、該第二の配管を経由して熱交換器へ導入された後に該熱交換器より流出する流体を液抜き部の直下の段へ導入する第三の配管と、をさらに備えている。
【0028】
この態様例では、第二の配管によって回収塔から濃縮塔の熱交換器へ液体が流れ、この熱交換器によって濃縮塔内の蒸気の熱を奪い、この熱を第三の配管によって濃縮塔から回収塔へ移動させることができる。また、回収塔から濃縮塔へ重力により液体が流れ、これによって、熱交換器内の流体は濃縮塔から回収塔へ押し流される。すなわち本態様の構成はサーモサイフォン方式となっているため、濃縮塔から鉛直方向上側の回収塔への液送においてポンプなどの圧送手段を必要としない。
【0029】
また、上記一例に替わる別の例は、回収塔の所定の段に設けられ、上から流下してきた液を溜める液溜め部と、回収塔の液溜め部内に配置された熱交換器と、濃縮塔の所定の位置に設けられた、上下の段を完全に仕切る仕切板と、仕切板の下側の段の蒸気を熱交換器へ導入する第二の配管と、該第二の配管を経由して熱交換器へ導入された後に該熱交換器より流出する流体を仕切板の上側の段へ導入する第三の配管と、を備えている。
【0030】
この代替例では、第二の配管によって濃縮塔内の蒸気を塔外に抜き出し、その蒸気を回収塔内の熱交換器に導入して、濃縮塔の熱を回収塔に移動させることができる。また、濃縮塔内の高圧蒸気は回収塔における熱交換器に向かって第二の配管を上昇し、これによって、熱交換器内で蒸気から変移した液が回収塔から塔外の第三の配管に押し出され、濃縮塔へ重力により流れる。したがって、本態様の構成においてもポンプなどの圧送手段は不要である。
【0031】
また上記の一例や代替例のように第二及び第三の配管並びに熱交換器を用いて濃縮塔から回収塔へ熱移動を行う装置構成は、このような熱移動の構成を備えない蒸留装置と比べて、濃縮塔の塔頂部に取り付けられるコンデンサーの除熱量が小さくでき、また、回収塔の塔底部に取り付けられるリボイラーの入熱量も小さくできる。結果、エネルギー効率の極めて高い蒸留装置を提供することができる。
【0032】
また、濃縮塔や回収塔が普通の蒸留装置と同じ棚段塔部或いは充填塔部を用いて構成されるものなので、サイドカットやマルチフィードの実施において装置を特別に改良することなく対応することが可能で、また装置のメンテナンスも容易に可能である。また同様の理由から、濃縮塔や回収塔の段数の設定には自由度があり、原料供給段の最適化も行える。
【0033】
さらに、伝熱面積が設計の自由度となるので、塔内温度差に依存しないで熱交換量を決定できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、エネルギー効率が優れ、サイドカットの実施やフィード段位置の設定に対して容易に対応することができ、装置のメンテナンスも容易になる。
【0035】
また、本発明の装置は設計の自由度が増した装置構造となるため、ユーザー側に受け入れられやすい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第一の実施形態による熱交換型蒸留装置の全体構成図。
【図2】図1の液抜き部の構成図。
【図3】図1の濃縮塔内に配置されたチューブバンドル型熱交換器の周辺構成を示す図。
【図4】本発明の第二の実施形態による熱交換型蒸留装置の全体構成図。
【図5】図4の回収塔内に配置されたチューブバンドル型熱交換器の周辺構成を示す図。
【図6】HIDiCの基本的な構造を示す図。
【図7】特許文献1に記載の、二重管構造を用いた熱交換型蒸留塔を示す図。
【図8】図7の蒸留塔における二重管構造を示す水平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
内部熱交換型ではない普通の蒸留装置は、鉛直方向に建てられる塔であって塔底部と棚段塔部(或いは充填塔部)と塔頂部とで構成された塔からなり、棚段塔部(或いは充填塔部)は原料供給位置を境に上側が濃縮部(高圧部)、下側が回収部(低圧部)となっている。これに対し、本発明の熱交換型蒸留装置は、上記のような回収部と濃縮部を分離して、鉛直方向に延びる回収部として利用される塔体(回収塔)と、鉛直方向に延びる濃縮部として利用される塔体(濃縮塔)とを設け、回収塔を濃縮塔よりも高い位置に配置した点を基本的特徴とする。以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0038】
(第一の実施形態)
図1は第一の実施形態による熱交換型蒸留装置の全体構成図を示している。本実施形態の熱交換型蒸留装置は、濃縮塔1と、濃縮塔1よりも高い位置に配置された回収塔2と、を有している。濃縮塔1は、塔底部1aと、棚段塔部(或いは充填塔部)1bと、塔頂部1cとから構成されている。回収塔2もまた、塔底部2aと、棚段塔部(或いは充填塔部)2bと、塔頂部2cとから構成されている。
【0039】
棚段塔部1b,2bは塔内に水平な棚板(トレイ)をいくつも設置したタイプの塔である。それぞれの棚板間の空間を段という。各段では気液接触が促進され物質移動が行われる結果、より揮発性の高い成分に富むことになった気相は上の段に送られ、より揮発性の低い成分に富むことになった液相は下の段へ流れ落ち、そこでまた新たな液相、或いは気相と気液接触を行い物質移動が行われる。このようにして塔の上部の段ほど揮発性の高い成分に富み、下部の段ほど揮発性の低い成分に富むことになり、蒸留操作が行われる。
【0040】
棚段塔部に置換可能な充填塔部は中空の塔内に何らかの充填物を入れ、その表面で気液接触を行わせるタイプの塔である。棚段塔部と同じ機構により塔の上部ほど揮発性の高い成分に富み、下部ほど揮発性の低い成分に富むことになり、蒸留操作が行われる。
【0041】
図1では棚段塔部1b,2b(或いは充填塔部)の内部が空白に描かれているが、実際は上記のような構造が採られている。
【0042】
さらに濃縮塔1および回収塔2の各々について個別に詳述する。まずは、回収塔2を説明する。
【0043】
回収塔2の塔底部2aの外側には、リボイラーと呼ばれる加熱器3が配設されており、配管21が塔底部2aの空間下部から加熱器3を介して塔底部2aの空間上部へ設けられている。したがって、回収塔2の棚段塔部2b(或いは充填塔部)を流下した液は塔底部2aに溜まり、この液の一部は加熱器3で加熱されて蒸気になって塔底部2aに戻る。また、塔底部2aの最底から、揮発性の低い成分に富んだ缶出液が配管22を通して得られる。
【0044】
回収塔2の塔頂部2cは原料を供給する位置となっている。塔頂部2cはコンプレッサー4を介して濃縮塔1の塔底部1aに、配管23を用いて接続されている。本実施形態では原料供給位置を回収塔2の塔頂部2cとしたが、原料供給位置は棚段塔部2b(或いは充填塔部)の任意の段であってもよい。また、原料が複数存在する場合でも、原料供給位置は回収塔2の塔頂部2cと、それ以外の任意の段(濃縮塔1の段も含む)とすることも可能である。
【0045】
加えて、回収塔2の棚段塔部2b(或いは充填塔部)は所定の段に液抜き部2dを有している。液抜き部2dは、図2に示すように、回収塔2の上部から流下してきた液10を液溜め用棚板5に溜め、液10の一部を回収塔2の外部へ抜き出す。液抜き部2dには、液10の一部を濃縮塔1へ向かわせる配管24が接続されている。また、液抜き部2dの直ぐ下の段には、濃縮塔1側からの配管25が回収塔2の外壁を貫通して挿入されている。液抜き部2dの直ぐ下の段に挿入された配管25からは、後述するように蒸気11と液12が混ざった流体が導入され、蒸気11は上昇し、液12は下へ落ちる。
【0046】
さらに濃縮塔1を説明する。
【0047】
濃縮塔1の塔底部1aの最底には配管26の一端が接続されており、この配管26の他端は、回収塔2の塔頂部2cへ原料を供給する配管27と接続されている。濃縮塔1の塔底部1aに溜まった液を、濃縮塔1よりも高い位置に位置する回収塔2の塔頂部2cに還流するため、配管26の途中には送出ポンプ6が必要となる。
【0048】
濃縮塔1の塔頂部1cの外側には、コンデンサーと呼ばれる凝縮器7が配設されており、配管28が塔頂部1cの空間上部から凝縮器7へ設けられている。したがって、濃縮塔1の塔頂部1cに移動してきた蒸気は凝縮器7で冷却されて液体になり、揮発性の高い成分に富んだ留出液が得られる。また、その液体の一部は必要に応じて塔頂部1cに還流される。
【0049】
加えて、濃縮塔1の棚段塔部1b(或いは充填塔部)には所定の段にチューブバンドル型熱交換器8が差し込まれている。チューブバンドル型熱交換器8のU形チューブにおける平行なチューブ部分は、凝縮した液を一度溜め、また上昇蒸気を整流するための液溜め用トレイ9に沿って配されている。該平行なチューブ部分のうち下側のチューブ部分8aは、回収塔2の液抜き部2dに接続された配管24と繋がっている。そして上側のチューブ部分8bは、液抜き部2dの直ぐ下の段に挿入されている配管25と繋がっている。
【0050】
ここで、チューブバンドル型熱交換器8の作用について説明する。
【0051】
本装置では回収塔2の塔頂部2cから出た蒸気はコンプレッサー4にて昇圧および昇温されて濃縮塔1の塔底部1aに供給される。この昇温された蒸気13(図3参照)は棚段塔部1bに導入されて上昇し、チューブバンドル型熱交換器8のUチューブと接触する。このとき、熱交換器8の下側のチューブ部分8aには回収塔2の任意の段における液が配管24により導入されているため、このチューブ部分8a内の液が蒸気13の熱で加熱されるとともに、チューブ部分8aに接触した蒸気13の一部は液14となって下へと落ちる。さらに、熱交換器8の上側のチューブ部分8bも蒸気13の熱で加熱されているので、配管24から熱交換器8内に導入された液体は下側のチューブ部分8aから上側のチューブ部分8bを移動するにつれて、液相と気相が混ざった流体に変わる。そして、この流体は塔外の配管25を通って回収塔2の液抜き部2dの直ぐ下の段に導入される(図1参照)。このような流体の循環においては、本構成がサーモサイフォン方式となっているため、ポンプなどの圧送手段を特に必要としない。
【0052】
つまり、回収塔2の液抜き部2dから濃縮塔1の熱交換器8の下側のチューブ部分8aまでを配管24で接続し、さらには、濃縮塔1の熱交換器8の上側のチューブ部分8bから回収塔2の液抜き部2dの直ぐ下の段までを配管25で接続しているため、回収塔2から濃縮塔1へ重力により液体が流れ、これによって上記の流体はポンプが無くても濃縮塔1から回収塔2へ押し流される。
【0053】
以上のように本実施形態では、熱交換器8によって濃縮塔1内の蒸気の熱を奪い、この熱を配管25によって濃縮塔1から回収塔2へ移動させることができる。本実施形態のように配管24,25および熱交換器8を用いた熱移動システムは、あたかも、濃縮塔1の任意の段にサイドコンデンサーが設置されると同時に回収塔2の任意の段にサイドリボイラーが設置されているかのような構成である。したがって、上記熱移動システムを備えない蒸留装置と比べて、濃縮塔1のコンデンサー7の除熱量が小さくでき、回収塔2のリボイラー3の入熱量も小さくでき、結果、エネルギー効率の極めて高い蒸留装置を提供することができる。
【0054】
なお、図1では上記熱移動システムが1セットだけ示されているが、例えば全理論段数の10〜30%に相当するセット数の熱移動システムを設置することができる。勿論、熱移動システムの設置数、熱交換器や配管の配置位置は設計に応じて任意に決められている。
【0055】
(第二の実施形態)
次に本発明の第二の実施形態を説明するが、第一の実施形態と同じ構成要素については同じ符号を使用して説明することにする。
【0056】
図4は第二の実施形態による熱交換型蒸留装置の全体構成図を示している。本実施形態の熱交換型蒸留装置は、濃縮塔1と、濃縮塔1よりも高い位置に配置された回収塔2と、を有している。濃縮塔1は、塔底部1aと、棚段塔部(或いは充填塔部)1bと、塔頂部1cとから構成されている。回収塔2もまた、塔底部2aと、棚段塔部(或いは充填塔部)2bと、塔頂部2cとから構成されている。棚段塔部或いは充填塔部の具体的構成は第一の実施形態と同様である。
【0057】
本実施形態は、チューブバンドル型熱交換器8が回収塔2側に配置されている点が第一の実施形態と比べて異なっている。
【0058】
本実施形態の回収塔2については、塔底部2aと塔頂部2cに付属する構成(リボイラー3、配管21,22,23,27など)は図4に示すように第一の実施形態と同じであるが、棚段塔部2b(或いは充填塔部)に関する構成が第一の実施形態と比べて変更されている。
【0059】
棚段塔部2b(或いは充填塔部)は所定の段に液溜め部2eを有している。液溜め部2eは、上から流下してきた液10を液溜め用棚板15上に所定量貯留し、液溜め用棚板15から溢れた液は下へ落とせるようになっている。液溜め部2eに貯留された液の中にチューブバンドル型熱交換器8のUチューブが浸漬されるように、液溜め部2e内にチューブバンドル型熱交換器8が差し込まれている(図5参照)。チューブバンドル型熱交換器8のU形チューブにおける平行なチューブ部分8a,8bは、液溜め用棚板15に沿って配されている。
【0060】
該平行なチューブ部分のうち上側のチューブ部分8bには、濃縮塔1から回収塔2へ流体を送る配管29(図4参照)が接続されている。下側のチューブ部分8aには、回収塔2から濃縮塔1へ流体を送る配管30(図4参照)が接続されている。
【0061】
ここで、液溜め部2eでの熱交換器8の作用について説明する。
【0062】
本装置では回収塔2の塔頂部2cから棚段或いは充填層を通って原料液が流下してくる。この液10(図5参照)は、任意の段に設けられた液溜め用棚板15上の液溜め部2eに溜まる。液溜め部2e内にはチューブバンドル型熱交換器8のU形チューブが配置されているため、該U形チューブは液10の中に浸漬されることとなる。この状態において熱交換器8の上側のチューブ部分8bに濃縮塔1内の高温蒸気が配管29によって導入されたとき、高温蒸気が移動するチューブ部分8b,8aの外壁と接している液10の一部は加熱され蒸気18になって上昇する(図5参照)。また配管29から熱交換器8に導入された高温蒸気は、上側のチューブ部分8bから下側のチューブ部分8aを移動するにつれて、液相と気相が混ざった流体に変わる。この流体は塔外の配管30を通り、後述するような濃縮塔1の仕切板16上の段に導入される(図4参照)。仕切板16上は仕切板16下よりも低い操作圧力に設定されており、この圧力差により流体の循環が行われる。このような流体の循環においては、本構成は第一の実施形態と同じようにポンプなどの圧送手段を特に必要としない。
【0063】
つまり、濃縮塔1における所定の段から回収塔2における熱交換器8の上側のチューブ部分8bまでを配管29で接続し、回収塔2における熱交換器8の下側のチューブ部分8aから濃縮塔1における前記所定の段までを配管30で接続しているため、仕切板16上下の圧力差により、濃縮塔1内の高圧蒸気は回収塔2における熱交換器8に向かって配管29を上昇し、これによって、熱交換器8内で蒸気から変移した液が回収塔2から塔外の配管30に押し出され、濃縮塔1へ重力により流れる。したがって、ポンプなどの圧送手段は不要である。
【0064】
さらに本実施形態の濃縮塔1を説明する。
【0065】
濃縮塔1についても、塔底部1aと塔頂部1cに付属する構成(コンデンサー7、配管23,26,28など)は図4に示すように第一の実施形態と同じであるが、棚段塔部1b(或いは充填塔部)に関する構成が第一の実施形態と比べて変更されている。具体的には、濃縮塔1の棚段塔部1b(或いは充填塔部)は途中の位置で仕切板16により上下の段が完全に仕切られている。仕切板16の直ぐ下の段は配管29と連通しており、この段での上昇蒸気は、鉛直方向に延びる配管29によって、回収塔2の液溜め部2eに配置された熱交換器8の上側のチューブ部分8bに送られる。
【0066】
仕切板16の上側の段には、回収塔2側からの配管30が濃縮塔1の外壁を貫通して挿入されている。この配管30から仕切板16の上側の段に、蒸気と液が混ざった流体が導入され、蒸気は上昇し、液は下へ落ちて仕切板16上に溜まる。その上昇蒸気は塔頂部1cに移動すると、配管28を通って凝縮器7で冷却される。結果、揮発性の高い成分に富んだ留出液が得られる。
【0067】
また仕切板16を挟んで上下に位置する二つ段は、制御弁17を備えた配管31により連絡可能となっている。仕切板16上に溜まった液は、制御弁17の開放操作により、仕切板16の下方の段へ適時送られる。
【0068】
以上のように本実施形態では、配管29によって濃縮塔1内の蒸気を塔外に抜き出し、その蒸気を回収塔2内の熱交換器8に導入することで、濃縮塔1内の熱を奪い回収塔2内に移動させることができる。本実施形態のように配管29,30および熱交換器8を用いた熱移動システムは、あたかも、濃縮塔1の任意の段にサイドコンデンサーが設置されると同時に回収塔2の任意の段にサイドリボイラーが設置されているかのような構成である。したがって、上記熱移動システムを備えない蒸留装置と比べて、濃縮塔1のコンデンサー7の除熱量が小さくでき、回収塔2のリボイラー3の入熱量も小さくでき、結果、エネルギー効率の極めて高い蒸留装置を提供することができる。
【0069】
なお、図4では上記熱移動システムが1セットだけ示されているが、本実施形態の場合も第一の実施形態のように、熱移動システムの設置数、熱交換器や配管の配置位置は設計に応じて任意に決められている。
【0070】
以上、第一および第二の実施形態として例示された本発明の熱交換型蒸留装置は、普通の蒸留装置と同じような棚段塔部或いは充填塔部を用いて構成されているため、サイドカットやマルチフィードの実施において装置を特別に改良することなく対応することが可能で、また装置のメンテナンスも容易に可能である。また同様の理由から、濃縮塔や回収塔の段数の設定には自由度があるため、原料供給段の最適化も行うことが可能となる。すなわち、特許文献1に代表される二重管構造を用いた熱交換型蒸留装置の課題として挙げた前記1)〜5)が本発明によって解決される。
【0071】
また本発明の実施形態では、濃縮塔1から回収塔2へ熱移動を行わせる熱移動システムの構成要素としてチューブバンドル型熱交換器8を用いるため、この熱交換器8のチューブ設計によって伝熱面積Aが自由に変えられる。したがって、濃縮塔1と回収塔2の間での熱交換量の決定に関して、濃縮塔1と回収塔2の間の温度差ΔTだけでなく、伝熱面積Aも設計上の自由度とすることが出来る。この事により、前記二重管構造を用いた熱交換型蒸留装置の課題6)が本発明によって解決されている。
【0072】
以上のように本発明の好ましい実施形態について幾つかの実施形態を例示して説明したが、本願発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能であることは言うまでもない。
【0073】
第一および第二の実施形態では熱交換器が蒸留塔内に組み込まれた形態を示したが、本発明はこの形態に限定されない。本発明では、回収塔のある部分の流体と濃縮塔のある部分の流体との熱交換が実施できればよいので、熱交換器が蒸留塔外部に設置されてもよい。また、熱交換器の形状についても、上記の実施形態では熱交換器を蒸留塔内に組み込む場合の一般的な例として、Uチューブのチューブバンドル型熱交換器を示したに過ぎず、その他の形状の熱交換器を使用してもよい。
【0074】
また上記の各実施形態では、濃縮塔1と回収塔2が鉛直方向上下に連結された形態を示したが、本発明はこの形態にも限定されない。すなわち本発明は、濃縮塔1と回収塔2が別個独立の構成で、回収塔2が濃縮塔1より高い位置に配置される形態を含むものである。
【符号の説明】
【0075】
1 濃縮塔
1a 塔底部
1b 棚段塔部(或いは充填塔部)
1c 塔頂部
2 回収塔
2a 塔底部
2b 棚段塔部(或いは充填塔部)
2c 塔頂部
2d 液抜き部
2e 液溜め部
3 加熱器(リボイラー)
4 コンプレッサー
5 棚板
6 圧送手段
7 凝縮器(コンデンサー)
8 チューブバンドル型熱交換器
5、15 液溜め用棚板
9 液溜め用トレイ
10、12、14 液
11、13、18 蒸気(ベーパー)
16 仕切板
17 制御弁
21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮部として利用される棚段塔部或いは充填塔部を有する濃縮塔と、
前記濃縮塔よりも高い位置に配置され、回収部として利用される棚段塔部或いは充填塔部を有する回収塔と、
前記回収塔の塔頂部と前記濃縮塔の塔底部を連通させる第一の配管と、
前記第一の配管の途中に設置され、前記回収塔の塔頂部からの蒸気を圧縮して前記濃縮塔の塔底部に送るコンプレッサーと、
前記濃縮塔の所定の段に配置された熱交換器と、
前記回収塔の所定の段に配置され、該所定の段から一部の液を塔外部へ抜き出す液抜き部と、
前記液抜き部からの液を前記熱交換器へ導入する第二の配管と、
前記第二の配管を経由して前記熱交換器へ導入された後に該熱交換器より流出する流体を前記液抜き部の直下の段へ導入する第三の配管と、
を備えた熱交換型蒸留装置。
【請求項2】
濃縮部として利用される棚段塔部或いは充填塔部を有する濃縮塔と、
前記濃縮塔よりも高い位置に配置され、回収部として利用される棚段塔部或いは充填塔部を有する回収塔と、
前記回収塔の塔頂部と前記濃縮塔の塔底部を連通させる第一の配管と、
前記第一の配管の途中に設置され、前記回収塔の塔頂部からの蒸気を圧縮して前記濃縮塔の塔底部に送るコンプレッサーと、
前記回収塔の所定の段に設けられ、上から流下してきた液を溜める液溜め部と、
前記回収塔の前記液溜め部内に配置された熱交換器と、
前記濃縮塔の所定の位置に設けられた、上下の段を完全に仕切る仕切板と、
前記仕切板の下側の蒸気を前記熱交換器へ導入する第二の配管と、
前記第二の配管を経由して前記熱交換器へ導入された後に前記熱交換器より流出する流体を前記仕切板の上側へ導入する第三の配管と、
を備えた熱交換型蒸留装置。
【請求項3】
前記仕切板を挟んで上下に位置する空間を連通させる、制御弁を備えた配管をさらに備えた、請求項2に記載の熱交換型蒸留装置。
【請求項4】
前記回収塔の塔頂部に、及び/又は、前記棚段塔部或いは充填塔部の所定の段に原料を供給する原料供給配管をさらに備えた、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱交換型蒸留装置。
【請求項5】
前記濃縮塔の塔底部に溜まった液を前記原料供給配管へ圧送するためのポンプ及び配管をさらに備えた、請求項4に記載の熱交換型蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−78872(P2011−78872A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231490(P2009−231490)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000222174)東洋エンジニアリング株式会社 (69)
【Fターム(参考)】