説明

熱伝導シート、その製造方法及び熱伝導シートを用いた放熱装置

【課題】高い熱伝導性と高い柔軟性を併せもつ熱伝導シート、該熱伝導シートを生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、かつ確実に得られる製造方法及び高い放熱熱能力をもつ放熱装置を提供する。
【解決手段】鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含み、前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向がシート内部で厚み方向に配向しており、シートの片面又は両面における表面部分で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が、シートの表面に沿う方向にシートの厚み方向を軸として、60〜90度の角度で折れ曲がった熱伝導シートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート、その製造方法及び熱伝導シートを用いた放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層配線板、半導体パッケージに対する配線の高密度化や電子部品の搭載密度が大きくなり、また半導体素子も高集積化して単位面積あたりの発熱量が大きくなったため、半導体パッケージからの熱放散を良くすることが望まれるようになっている。
【0003】
半導体パッケージのような発熱体とアルミや銅等の放熱体との間に、熱伝導グリース又は熱伝導シートを挟んで密着させることにより熱を放散する放熱装置が、一般に簡便に使用されているが、熱伝導グリースよりは熱伝導シートの方が放熱装置を組み立てる際の作業性に優れている。熱放散性を良くするためには、熱伝導シートに高い熱伝導性が求められるが、従来の熱伝導シートの熱伝導性は必ずしも充分とは言えなかった。
【0004】
そのため、熱伝導シートの熱伝導性をさらに向上させる目的で、マトリックス材料中に、一方向に熱伝導性の大きな黒鉛粉末を配合した、様々な熱伝導性複合材料組成物及びその成形加工品が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には黒鉛粉末を熱可塑性樹脂に充填した熱伝導性樹脂成形品が、特許文献2には黒鉛、カーボンブラック等を含有するポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には粒径1〜20μmの人造黒鉛を配合したゴム組成物が、特許文献4には結晶面間隔が0.33〜0.34nmの球状黒鉛粉末をシリコーンゴムに配合した組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には切断方向に対して垂直配向した炭素繊維とその形状を保持するための弾性体とを含有する成形体が、特許文献6には切断面に対して垂直方向に傾斜配向させた黒鉛化炭素繊維等の熱伝導性繊維を含有した高分子組成物が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献7には、成形体中の黒鉛粉末の結晶構造におけるc軸が、熱伝導方向に対して直交方向に配向されている熱伝導性成形体及びその製造方法が開示されている。
【0009】
一方、熱伝導シートには、前述のように放熱装置を組み立てる際の作業性が簡便であるという利点があり、この利点をさらに生かす使い方として、凹凸や曲面等の特殊な形状に対する追従性、応力緩和等の機能を持たせるニーズが生じてきている。
【0010】
例えば、ディスプレイパネルのような大面積からの放熱においては、熱伝導シートに発熱体と放熱体の表面のゆがみや凹凸等の形状に対する追従性、熱膨張率の違いによって起こる熱応力緩和等の機能も要求され、ある程度厚い膜でも伝熱できる高い熱伝導性の他、高い柔軟性が要求されるようになってきた。
【0011】
しかし、このような柔軟性と熱伝導性を高いレベルで両立できる熱伝導シートは未だ得られていなかった。
前述のような、特定の黒鉛粉末を成形体中にランダムに分散させた成形体であっても、実際に要求され続ける高度な熱伝導特性に対しては、熱伝導性が未だ不足していた。
【0012】
また、炭素繊維類が切断面に対して垂直配向した成形体は、柔軟性に対する配慮が必ずしも充分ではなく、また表面に露出している繊維端の被着物への接触性が必ずしも充分ではないため、接触抵抗が充分に低下しにくく、高い熱伝導性を得る上で確実性に欠ける。
【0013】
さらに、成形体中の黒鉛粉末の結晶構造におけるc軸が、熱伝導方向に対して直交方向に配向されている熱伝導性成形体の製造方法は、黒鉛粒子が表面に確実に露出しにくく、被着物への接触性が必ずしも充分でないため、高い熱伝導性を得る上で確実性に欠け、さらに、生産性、コスト面及びエネルギー効率等に関する配慮が充分ではなかった。
【0014】
【特許文献1】特開昭62−131033号公報
【特許文献2】特開平04−246456号公報
【特許文献3】特開平05−247268号公報
【特許文献4】特開平10−298433号公報
【特許文献5】特開2001−250894号公報
【特許文献6】特開2002−088171号公報
【特許文献7】特開2003−321554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高い熱伝導性と高い柔軟性を併せもつ熱伝導シート、該熱伝導シートを生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、かつ確実に得られる製造方法及び高い放熱熱能力をもつ放熱装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、黒鉛粒子をシート厚み方向に配向させることにより、高い熱伝導性を有し、且つシート表面の黒鉛粒子において、その黒鉛粒子の先端部分がシート表面に沿うように折れ曲がるように調整することで、表面に露出している黒鉛粒子が被着物への接触性に優れることを見出した。
すなわち、本発明は次の通りである。
(1)鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含む熱伝導シートであって、
前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向がシート内部で厚み方向に配向しており、シートの片面又は両面における表面部分で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が、シートの表面に沿う方向にシートの厚み方向を軸として、60〜90度の角度で折れ曲がった熱伝導シート。
【0017】
(2)前記シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の数が、シートの厚み方向の断面における横方向の長さ500μmあたり5〜20個である上記(1)記載の熱伝導シート。
(3)前記シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の折れ曲がり点が、シートの表面からシート厚の10%以内の位置にある上記(1)又は(2)記載の熱伝導シート。
【0018】
(4)前記シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の折れ曲がり部分の長さが、シート厚の5〜20%である上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の熱伝導シート。
(5)前記組成物中、前記黒鉛粒子(A)は10〜50体積%、前記有機高分子化合物(B)は10〜50体積%で配合されることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の熱伝導シート。
(6)鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有した組成物を、前記組成物中の黒鉛粒子(A)の配向方向に対して平行方向に5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関してほぼ平行な方向に前記黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、
前記一次シートを積層して成形体を得、
前記成形体を0.01〜0.5MPaの圧力で押し付けながら一次シート面から出る法線に対し0〜30度の角度でスライスし熱伝導シートを得、該熱伝導シートの片面又は両面における表面部分で、シートの表面に沿う方向に、シートの厚み方向を軸として60〜90度の角度で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が折れ曲がることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【0019】
(7)鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有した組成物を、前記組成物中の黒鉛粒子(A)の配向方向に対して平行方向に5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関してほぼ平行な方向に前記黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、
前記一次シートを前記黒鉛粒子(A)の配向方向を軸にして捲回し成形体を得、
前記成形体を0.01〜0.5MPaの圧力で押し付けながら一次シート面から出る法線に対し0度〜30度の角度でスライスし熱伝導シートを得、該熱伝導シートの片面又は両面における表面部分で、シートの表面に沿う方向に、シートの厚み方向を軸として60〜90度の角度で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が折れ曲がることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【0020】
(8)前記成形体のスライスは、スリットを有する平滑な盤面と、該スリット部より突出した刃部と、を有するスライス部材を用いて行い、
前記刃部は、前記熱伝導シートの所望の厚みに応じて、前記スリット部からの突出長さが調節可能である上記(6)又は(7)に記載の熱伝導シートの製造方法。
【0021】
(9)前記スライス部材は、カンナ又はスライサーである上記(8)に記載の熱伝導シートの製造方法。
(10)前記成形体を、−20〜10℃の温度範囲でスライスする上記(6)〜(9)のいずれか一つに記載の熱伝導シートの製造方法。
(11)上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は上記(6)〜(10)のいずれか一つに記載の熱伝導シートの製造方法により得られた熱伝導シートを、発熱体と放熱体との間に介在させた放熱装置。
【発明の効果】
【0022】
前記(1)記載の熱伝導シートは、シートの表面部分で黒鉛粒子(A)の先端部分が折れ曲がり、シートの表面における黒鉛粒子(A)の露出面積が大きくなるため、被着物への接触性が増し、高い熱伝導性を持ち、また高い柔軟性も併せもつので、放熱用途に好適である。
【0023】
また、前記(2)〜(5)のいずれかに記載の熱伝導シートは、前記(1)記載の発明の効果に加えて、さらに高い熱伝導性を達成できる。
また、前記(6)又は(7)記載の熱伝導シートの製造方法は、高い熱伝導性と高い柔軟性を併せ持つ熱伝導シートを、生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、かつ確実に製造できる。
【0024】
また、前記(8)〜(10)のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法は、前記(6)又は(7)記載の発明の効果に加えて、黒鉛粒子(A)がシートの表面部分で確実に折れ曲がるように製造できるので、高い熱伝導性を持つ熱伝導シートを製造できる。
さらに、前記(11)記載の放熱装置は、高い放熱能力を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含み、前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向がシート内部で厚み方向に配向しており、シートの片面又は両面における表面部分で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が、シートの表面に沿う方向にシートの厚み方向を軸として、60〜90度の角度で折れ曲がっていることを特徴とする。
【0026】
本発明において、黒鉛粒子(A)の形状は、鱗片状、楕球状又は棒状のものが用いられ、中でも鱗片状が好ましい。前記黒鉛粒子(A)の形状が、球状や不定形の場合は、熱伝導性に劣り、繊維状の場合はシートに成形するのが困難であるため生産性に劣る傾向がある。黒鉛粒子(A)の結晶中の6員環面は、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向しているものを用いる。これは、X線回折測定により確認することができる。
【0027】
具体的には、以下の方法で確認する。まず黒鉛粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向がシート又はフィルムの面方向に対し実質的に平行に配向した測定用サンプルシートを作製する。測定用サンプルシート調製の具体的な方法としては、10体積%以上の黒鉛粒子と樹脂との混合物をシート化する。ここで用いる「樹脂」とは有機高分子化合物(B)に相当する樹脂を使用できるが、X線回折の妨げになるピークが現れない材料、例えば非晶質樹脂であれば良く、また形状が作ることが可能であれば樹脂でなくとも用いることができる。このシートが元の厚みの1/10以下となるようにプレスし、プレスしたシートを積層する。この積層体を更に1/10以下まで押しつぶす操作を3回以上繰り返す。この操作により調製した測定用サンプルシート中では、黒鉛粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向がシート又はフィルムの面方向に対し実質的に平行に配向した状態になる。上記のように調製した測定用サンプルシートの表面に対しX線回折測定を行うと、2θ=77°付近に現れる黒鉛の(110)面に対応するピークの高さを2θ=27°付近に現れる黒鉛の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる。
このことより本発明において、「結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している」とは、黒鉛粒子、有機高分子化合物等の熱伝導シートの組成物をシート化したものの表面に対しX線回折測定を行い、2θ=77°付近に現れる黒鉛の(110)面に対応するピークの高さを2θ=27°付近に現れる黒鉛の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる状態をいう。
【0028】
本発明に用いられる黒鉛粒子(A)としては、例えば、鱗片黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、酸処理黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、炭素繊維フレーク等の鱗片状、楕球状又は棒状の黒鉛粒子を用いることができる。特に、有機高分子化合物(B)と混合した際に鱗片状の黒鉛粒子になり易いものが好ましい。具体的には、鱗片黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が配向させ易く、粒子間接触も保ち易く、高い熱伝導性を得易いためより好ましい。
【0029】
黒鉛粒子(A)の長径の平均値は特に制限されないが、熱伝導性の向上の観点で、好ましくは0.1〜5mm、より好ましくは0.2〜3mm、特に好ましくは0.2〜1mmである。
また、シート厚は、黒鉛粒子(A)の長径の平均値の1〜5倍が好ましく、さらには1〜3倍がより好ましい。
なお、本発明において「長径の平均値」とは、熱伝導シートを正八角形に切った各辺の厚み方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、いずれか1辺の断面に関し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から長径を測定し、平均値を求めた結果をいう。
【0030】
黒鉛粒子(A)の含有量は特に制限されないが、組成物全体積の10〜50体積%であることが好ましく、30〜45体積%であることがより好ましい。前記黒鉛粒子(A)の含有量が10体積%未満である場合は、熱伝導性が低下する傾向があり、50体積%を超える場合は、充分な柔軟性や密着性が得難くなる傾向がある。なお、本明細書における黒鉛粒子(A)の含有量(体積%)は次式により求めた値である。
黒鉛粒子(A)の含有量(体積%)=
(Aw/Ad)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+・・・)×100
Aw:黒鉛粒子(A)の質量組成(重量%)
Bw:高分子化合物(B)の質量組成(重量%)
Cw:その他の任意成分(C)の質量組成(重量%)
Ad:黒鉛粒子(A)の比重(本発明においてAdは2.25で計算する。)
Bd:高分子化合物(B)の比重
Cd:その他の任意成分(C)の比重
【0031】
本発明に用いられ有機高分子化合物(B)は、Tg(ガラス転移温度)が0℃以下、好ましくは−100〜0℃、より好ましくは−70〜−30℃である。前記Tgが0℃を超える場合は、柔軟性に劣り、発熱体及び放熱体に対する密着性が不良となる傾向がある。
また、Tgが0℃を超える場合は、柔軟性に劣ることより、熱伝導シートにおいて黒鉛粒子(A)の先端部分が、シートの表面に沿う方向にシートの厚み方向を軸として、60〜90度の角度で折れ曲がり難くなる。
【0032】
本発明に用いられる有機高分子化合物(B)としては、Tgが0℃以下であれば特に制限はないが、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等を主要な原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(所謂アクリルゴム)、ポリジメチルシロキサン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂シリコーン樹脂)、ポリイソプレン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂イソプレンゴム、天然ゴム)、クロロプレンを主要な原料成分とした高分子化合物(所謂クロロプレンゴム)、ポリブタジエン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂ブタジエンゴム)等、一般に「ゴム」と総称される柔軟な有機高分子化合物が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等を主な原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得易く、化学的安定性、加工性に優れ、粘着性をコントロールし易く、かつ比較的廉価であるため好ましい。
Tgが0℃以下の有機高分子化合物(B)として、具体的には、ナガセケムテックス株式会社製のアクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/2−ヒドロキシエチルメタクリレート(商品名:HTR−811DR)、ナガセケムテックス株式会社製のアクリル酸ブチル/アクリロニトリル/アクリル酸(商品名:HTR−280DR)等が挙げられる。
有機高分子化合物(B)の含有量は特に制限されないが、組成物全体積に対して好ましくは10〜50体積%、より好ましくは30〜50体積%である。
本発明の熱伝導シートは、難燃剤を含有することができる。難燃剤としては特に限定されず、例えば、赤りん系難燃剤やりん酸エステル系難燃剤を含有することができる。
また、本発明の熱伝導シートは、さらに必要に応じてウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物等の接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ向上剤;シリコーン油等の消泡剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤;等を適宜添加することができる。
【0034】
本発明において、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が「シート内部で厚み方向に配向」とは、まず熱伝導シートを正八角形に切った各辺の厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察し、いずれか1辺の断面に関し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から黒鉛粒子の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60〜90度の範囲になる状態をいう。
【0035】
また、本発明において「黒鉛粒子(A)の先端部分が折れ曲がっている」とは、熱伝導シートを正八角形に切った各辺の厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察し、いずれか1辺の断面に関し、シートの両面における表面部分で、先端部分が折れ曲がっている任意の30個の黒鉛粒子(A)について、シートの表面に沿う方向に、シートの厚み方向を軸として角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その角度が60〜90度の範囲で折れ曲がっている状態をいう。折れ曲がり部分は必ずしも「角」である必要はなく、曲線的に曲がっていても良い。
黒鉛粒子(A)の先端部分が折れ曲がっている状態を具体的に図1に示す。図1に示されるように、シート表面部分で黒鉛粒子が折れ曲がっているのが確認できる。
【0036】
本発明の熱伝導シートにおいて、シート内部に配向した黒鉛粒子(A)がシート内部の高熱伝導化に寄与し、黒鉛粒子(A)の先端部分が上記角度で折れ曲がることによって、被着物との確実な接触に寄与する結果、全体として良好な熱伝導性が得られる。
【0037】
本発明の熱伝導シートは、シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の数が、シートの厚み方向の断面における横方向の長さ500μmあたり5〜20個、好ましくは10〜20個、より好ましくは15〜20個である。熱伝導性の向上の観点から、前記黒鉛粒子(A)の数が多ければ多いほど良い。前記黒鉛粒子(A)の数が5個未満である場合は、充分な熱伝導性を得ることができない傾向がある。
シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の数の測定は、熱伝導シートを正八角形に切った各辺の厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察して行う。具体的には、シートを正八角形に切った各辺の厚み方向のいずれか1辺の断面における横方向の長さ500μmが撮影される蛍光顕微鏡写真を任意の5箇所について1枚づつ(計5枚)撮り、写真で見える範囲内(横方向の長さ500μm)で、シートの両面における表面部分で、先端部分が上記角度で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の合計数を測定し、その平均値をシートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の数とする。
【0038】
本発明の熱伝導シートは、シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の折れ曲がり点が、シートの表面からシート厚の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。前記黒鉛粒子(A)の折れ曲がり点が、シートの表面からシート厚の10%を超える場合は、充分な熱伝導性を得ることができない傾向がある。また、折れ曲がり部分が曲線的にまがっている場合は、各直線からの外挿により求めた点を折れ曲がり点とする。
シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の折れ曲がり点の位置の測定は、熱伝導シートを正八角形に切った各辺の厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察して行う。具体的には、いずれか1辺の断面に関し、シートの両面における表面部分で、先端部分が折れ曲がっている任意の30個の黒鉛粒子(A)について、シートの表面から折れ曲がり点の位置までの、シートの厚み方向における長さを測定し、その長さにおけるシートの厚みに対する割合を求める。
【0039】
本発明の熱伝導シートは、シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の折れ曲がり部分の長さが、シート厚の5〜20%、好ましくは10〜20%、より好ましくは15〜20%である。前記黒鉛粒子(A)の折れ曲がり部分の長さが、シート厚の5%未満である場合は、充分な熱伝導性を得ることができず、逆に、20%を超える場合は、被着物との密着性に劣り、シートとしての役目を果たすことができない傾向がある。
シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の折れ曲がり部分の長さの測定は、熱伝導シートを正八角形に切った各辺の厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察して行う。具体的には、いずれか1辺の断面に関し、シートの両面における表面部分で、先端部分が折れ曲がっている任意の30個の黒鉛粒子(A)について、折れ曲がっている部分の長さを測定し、その長さにおけるシートの厚みに対する割合を求める。
【0040】
また、本発明の熱伝導シートの片面又は両面が粘着性を有している場合は、粘着面を保護するために、使用前の熱伝導シートの粘着面は保護フィルムで覆っておいてもよい。保護フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテンフィルム等の樹脂、コート紙、コート布、アルミ等の金属が使用できる。これらの保護フィルムは2種以上組み合わせて多層フィルムとしてもよく、保護フィルムの表面がシリコーン系、シリカ系等の離型剤等で処理されたものが好ましく用いられる。また、表面と裏面がそれぞれ剥離力の異なる保護フィルムでカバーされていると、最初に剥離力の弱い片面を剥がして被着物に貼ることで、もう一方の面の保護フィルムの脱落を抑制できるので、作業性に優れ、好ましい。
また、片面あるいは両面に絶縁性のフィルムを付設すると電気絶縁性が必要な部分にも使用することができるので好ましい。熱伝導シートが保護フィルムと絶縁性のフィルムを両方有する場合は、熱伝導シートを保護する観点から保護フィルムが最外層とするのが好ましい。
【0041】
本発明の熱伝導シートの製造方法は、一次シートを作製する工程、前記一次シートを積層又は捲回して成形体を得る工程、前記成形体をスライスして熱伝導シートを得る工程とを含む。
まず、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、前記組成物中の黒鉛粒子(A)の配向方向に対して平行方向に5〜10MPaの圧力で押し付け、好ましくは黒鉛粒子の長径の平均値の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押し出し成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製する。
【0042】
前記黒鉛粒子(A)と有機高分子化合物(B)とを含有する組成物は、両者を混合することにより得られるが、混合方法については特に制限はない。例えば、前記有機高分子化合物(B)を溶剤に溶かしておいて、そこに前記黒鉛粒子(A)及び他の成分を加え、攪拌した後に乾燥する方法又はロール混練、ニーダーによる混合、ブラベンダによる混合、押し出し機による混合等を用いることができる。
【0043】
前記組成物を5〜10MPaの圧力で押し付け一次シートを作製する際の厚みは、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下、好ましくは2倍〜0.2倍とする。前記厚みが黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍を超える場合は、黒鉛粒子(A)の配向が不充分になり、結果として、最終的に得られる熱伝導シートの熱伝導性が悪くなる可能性がある。厚みは、押し付ける圧力により調整できる。
【0044】
前記組成物を、圧延成形、プレス成形、押し出し成形又は塗工することにより、前記黒鉛粒子(A)を主たる面に関してほぼ平行な方向に配向した一次シートを作製するが、圧延成形又はプレス成形が確実に黒鉛粒子(A)を配向させ易いので好ましい。
【0045】
前記黒鉛粒子(A)がシートの主たる面に関してほぼ平行方向に配向した状態とは、黒鉛粒子(A)がシートの主たる面に関して寝ているように配向した状態をいう。シート面内での黒鉛粒子(A)の向きは、前記組成物を成形する際に、組成物の流れる方向を調整することによってコントロールされる。
【0046】
つまり、組成物を圧延ロールに通す方向、組成物を押し出す方向、組成物を塗工する方向、組成物をプレスする方向を調整することで、黒鉛粒子(A)の向きがコントロールされる。
【0047】
前記黒鉛粒子(A)は、基本的に異方性を有する粒子であるため、組成物を圧延成形、プレス成形、押し出し成形又は塗工することにより、通常、黒鉛粒子(A)の向きは揃って配置される。
【0048】
また、一次シートを作製する際、前記黒鉛粒子(A)と有機高分子化合物(B)とを含有する組成物の成形前の形状が塊状物である場合は、塊状物の厚み(d0)に対し、成形後の一次シートの厚み(dp)がdp/d0<0.15になるよう圧延成形、プレス成形するか、押し出し機出口の一次シート断面形状に相当する形状調整によって、一次シートの横幅(W)に対し厚み(dp´)がdp´/W<0.15となるように押し出し成形することが好ましい。dp/d0<0.15又はdp´/W<0.15となるよう成形することにより、黒鉛粒子(A)がシートの主たる面に関してほぼ平行方向に配向させ易くなる。
【0049】
次いで、前記一次シートを積層又は捲回して成形体を得る。一次シートを積層する方法については特に制限はなく、例えば、複数枚の一次シートを積層する方法、一次シートを折り畳む方法等が挙げられる。
【0050】
積層する際は、シート面内での黒鉛粒子(A)の向きを揃えて積層する。積層する際の一次シートの形状は、特に制限はなく、例えば矩形状の一次シートを積層した場合は角柱状の成形体が得られ、円形状の一次シートを積層した場合は円柱状の成形体が得られる。
【0051】
また、一次シートを捲回する方法も特に制限はなく、前記一次シートを黒鉛粒子(A)の配向方向を軸にして捲回すればよい。捲回の形状も特に制限はなく、例えば、円筒形でも角筒形でもよい。
【0052】
一次シートを積層する際の圧力や捲回する際の引っ張り力は、この後の工程の一次シート面から出る法線に対し0〜30度の角度でスライスする都合上、スライス面がつぶれて所要面積を下回らない程度に弱く、かつシート間がうまく接着する程度に強くなるよう調整される。好ましくは、1〜5MPaの圧力範囲で接着する。
【0053】
通常はこの調整で積層面又は捲回面間の接着力を充分に得られるが、不足する場合は溶剤又は接着剤等を薄く一次シートに塗布した上で積層又は捲回を行ってもよい。また積層又は捲回は適宜加熱下に行っても良い。
【0054】
次いで、前記成形体を0.01〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、一次シート面から出る法線に対し0〜30度の角度で、好ましくは0〜15度の角度でスライスして、所定の厚さを持った熱伝導シートを得る。前記スライス角度が30度を超える場合は熱伝導率が低下する傾向がある。前記成形体を0.01〜0.5MPaの圧力で押し付けながらスライスすることにより、シートの片面又は両面における表面部分で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が折れ曲がった状態となる。
前記成形体が積層体である場合は、一次シートの積層方向とは垂直又はほぼ垂直となるようにスライスすれば良い。
【0055】
また、前記成形体が捲回体である場合は、捲回の軸に対して垂直もしくはほぼ垂直となるようにスライスすればよい。
さらに、円形状の一次シートを積層した円柱状の成形体の場合は、上記角度の範囲内でかつら剥きのようにスライスしても良い。
【0056】
スライスする方法は、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられるが、熱伝導シートの厚みの平行を保ちやすい点でナイフ加工法が好ましい。しかし、いずれにおいても0.01〜0.5MPaの圧力をかけて押し付ける盤面を有する必要がある。
【0057】
スライスする際の切断具は、特に制限はないが、スリットを有する平滑な盤面と、該スリット部より突出した刃部と、を有するカンナ様の部位を有するスライス部材であって、前記刃部が、前記熱伝導シートの所望の厚みに応じて、前記スリット部からの突出長さが調節可能であるものを使用すると、得られる熱伝導シートの表面近傍の黒鉛粒子の配向を乱し難く、かつ所望の厚みの薄いシートも作製し易いので好ましい。
具体的には、上記スライス部材は、鋭利な刃を備えたカンナ又はスライサーを用いることが好ましい。これらの刃は、熱伝導シートの所望の厚みに応じて、前記スリット部からの突出長さが調節可能とすることで、容易に所望の厚みとすることが可能である。
これらで切断することにより、シートの表面部分で黒鉛粒子(A)の先端部分を折り曲げることが容易となる。また薄いシートも作製し易い。
【0058】
スライスする際の成形体の温度範囲は、−20〜10℃であることが好ましく、−10〜0℃であることがより好ましい。前記スライスする際の温度が10℃を超える場合は、成形体が柔軟になってスライスし難く、黒鉛粒子の配向が乱れる傾向がある。
【0059】
逆に−20℃未満である場合は、成形体が固くもろくなってスライスし難く、シートの表面部分で黒鉛粒子(A)の先端部分を折り曲げることができない。またスライス直後にシートが割れ易くなる傾向がある。
【0060】
熱伝導シートの厚さは、用途等により適宜設定されるが、好ましくは0.05〜3mm、より好ましくは0.1〜1mmである。前記熱伝導シートの厚さが0.05mm未満である場合はシートとしての取り扱いが難しくなる傾向があり、3mmを超える場合は放熱効果が低くなる傾向がある。前記成形体のスライス幅が熱伝導シートの厚さとなり、スライス面が熱伝導シートにおける発熱体や放熱体との当接面となる。
【0061】
本発明の放熱装置は、本発明の熱伝導シート又は本発明の熱伝導シートの製造方法により得られた熱伝導シートを、発熱体と放熱体の間に介在させて得られる。発熱体としては、少なくともその表面温度が200℃を超えないもの好ましい。
【0062】
前記表面温度が200℃を超える可能性が高いもの、例えば、ジェットエンジンのノズル近傍、窯陶釜内部周辺、溶鉱炉内部周辺、原子炉内部周辺、宇宙船外殻等に使用すると、本発明になる熱伝導シート又は本発明になる製造方法により得られた熱伝導シート中の有機高分子化合物が分解してしまう可能性が高いので適さない。
【0063】
本発明の熱伝導シート又は本発明の熱伝導シートの製造方法により製造された熱伝導シートが、特に好適に使用できる温度範囲は−10〜120℃であり、半導体パッケージ、ディスプレイ、LED、電灯等が好適な発熱体の例として挙げられる。
【0064】
一方、放熱体としては、例えば、アルミ、銅のフィン・板等を利用したヒートシンク、ヒートパイプに接続されているアルミや銅のブロック、内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミや銅のブロック、ペルチェ素子及びこれを備えたアルミや銅のブロック等が使用できる代表的なものである。
【0065】
本発明の放熱装置は、発熱体と放熱体に、本発明の熱伝導シート又は本発明の熱伝導シートの製造方法により得られた熱伝導シートの各々の面を接触させることで成立する。発熱体、熱伝導シート及び放熱体を充分に密着させた状態で固定できる方法であれば、接触させる方法に制限はないが、密着を持続させる観点から、ばねを介してねじ止めする方法、クリップで挟む方法等のように押し付ける力が持続する接触方法が好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、各実施例において熱伝導性の指標とした熱伝導率は以下の方法により求めた。この方法は、接触抵抗の影響を受けるので、本発明の効果を確認し易い。
【0067】
(熱伝導率の測定)
縦1cm×横1.5cmの熱伝導シートをトランジスタ(2SC2233)とアルミニウム放熱ブロックとの間に挟み、トランジスタを押し付けながら電流を通じた。トランジスタの温度:T1(℃)と、放熱ブロックの温度:T2(℃)を測定し、測定値と印可電力:W1(W)から、次式(I)によって熱抵抗:X(℃/W)を算出した。
【0068】
X=(T1−T2)/W1 式(I)
上記の式の熱抵抗:X(℃/W)と熱伝導シートの厚さ:d(μm)、熱伝導率既知試料による補正係数:Cから、次式(II)により熱伝導率:Tc(W/mK)を見積もった。
【0069】
Tc=C×d/X 式(II)
【0070】
(実施例1)
有機高分子化合物(B)としてアクリル酸エステル共重合樹脂(2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体、日立化成工業株式会社製、重量平均分子量:43万7000、Tg−64.11℃、25質量%水溶液)20.48g、黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、平均粒子径250μm)5.93g、難燃剤として酸処理黒鉛粉末(エア・ウォーター株式会社製、商品名:モエヘンZ、平均粒子径:120μm)1.94g及び芳香族縮合リン酸エステル(リン酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR−733S)1.69gを、ステンレス匙で良くかき混ぜた。
【0071】
これを離型処理したPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに塗り延ばし、ドラフト中で室温下3時間風乾後、120℃の熱風乾燥機で1時間乾燥し、組成物を得た。組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、黒鉛粒子(A)が30.0体積%、有機高分子化合物(B)が45.3体積%及び難燃剤が24.7体積%であった。
この組成物の一部を直径1cmの球状に丸め、小型プレスで0.5mm厚のシート状にした。これを20枚に切り分けたものを積層して再度同様にプレスした。この操作を更にもう1回繰り返して得たシートの表面をX線回折により分析した。2θ=77°付近に黒鉛の(110)面に対応するピークが確認できず、用いた膨張黒鉛粉末(HGF-L)が「結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している」ことを確認できた。
【0072】
この組成物1gを離型処理したPETフィルムにはさみ、5cm×10cmのツール面をもつプレスを用いて、ツール圧10MPa、ツール温度120℃の条件で10秒間プレスして、厚さ0.3mmの一次シートを得た。この操作を繰り返して多数枚の一次シートを作製した。
【0073】
得られた一次シートを2cm×2cmの寸法にカッターで切りだし、黒鉛粒子の向きを揃えて37枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、厚さ1.1cmの成形体を得た。
【0074】
次いで、この成形体をドライアイスで−5℃に冷却した後、1.1cm×2cmの積層断面を、7MPaの圧力で押し付けながら、カンナ(スリット部からの刀部の突出長さ:3mm)を用いてスライスし(一次シート面から出る法線に対して0度、すなわち、黒鉛粒子(A)の配向方向に対して90度の角度でスライス)、縦1.1cm×横2cm×厚さ0.58mmの熱伝導シート(I)を得た。
【0075】
この熱伝導シート(I)を液体窒素で−50℃に冷却し、ミクロトーム(大和工機株式会社製)を用いてシートの厚み方向の断面が見えるように切り、縦0.58mm×横1.1cmの断面を得た。これを、蛍光顕微鏡を用いて観察し、シートの表面部分で黒鉛粒子が折れ曲がっていることを確認した(シートの厚み方向を軸として角度60〜90度の範囲であった)。また折れ曲がっている黒鉛粒子数を数えたところ、横方向の長さ500μmあたり12個であった。
【0076】
熱伝導シート(I)の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察し、シートの表面から黒鉛粒子の折れ曲がり点までの長さを測定し、その平均値を求めたところ12μmであり、シート厚の5%であった。また折れ曲がり部分の長さを測定し、その平均値を求めたところ25μmであり、シート厚の10%であった。
熱伝導シート(I)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から長径を測定し、平均値を求めたところ、黒鉛粒子の長径の平均値は255μmであった。
熱伝導シート(I)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0077】
この熱伝導シート(I)の熱伝導率を測定したところ、50W/mKと良好な値を示した。また熱伝導シート(I)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性も良好であった。
【0078】
(実施例2)
有機高分子化合物(B)としてアクリル酸エステル共重合樹脂(2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体、日立化成工業株式会社製、重量平均分子量:43万7000、Tg−64.11℃、25質量%水溶液)1400g、黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、平均粒子径250μm)400g、難燃剤として酸処理黒鉛(日立化成工業株式会社製、商品名:CR−733S)130g及び芳香族縮合リン酸エステル(リン酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR−733S)110gをかき混ぜた上、100℃の2本ロール(関西ロール社製、試験用ロール機(8×20Tロール))で混練し、組成物を混練シートの形態で得た。
【0079】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、黒鉛粒子(A)が30.0体積%、有機高分子化合物(B)が45.9体積%及び難燃剤が24.1体積%であった。
【0080】
得られた混練シートを2〜3mm角程度の大きさに刻み、厚み15〜20mmのペレット状にしたものを、東洋精機製、ラボプラストミルMODEL20C200を用い、170℃で幅60mm厚み2mmのシート状に押し出し、一次シートを得た。
【0081】
得られた一次シートを5cm×5cmの寸法にカッターで切りだし、アセトンを薄くシート表面に塗って150枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、厚さ30cmの成形体を得た。
【0082】
次いで、この成形体をドライアイスで−10℃に冷却した後、5cm×30cmの積層断面を、10MPaの圧力で押し付けながら、株式会社丸仲鉄工所製、超仕上げかんな盤スーパーメカ(スリット部からの刀部の突出長さ:0.11mm)を用いてスライスし(一次シート面から出る法線に対して0度、すなわち、黒鉛粒子(A)の配向方向に対して90度の角度でスライス)、縦5cm×横30cm×厚さ0.55mmの熱伝導シート(II)を得た。
【0083】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(II)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は254μmであった。シートの厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察し、シートの表面部分で黒鉛粒子が折れ曲がっていることを確認した(シートの厚み方向を軸として角度60〜90度)。シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子数は、横方向の長さ500μmあたり15個、シート表面から折れ曲がり点までの長さの平均値は10μmであり、シート厚の4%であった。また折れ曲がり部分の長さの平均値は28μmであり、シート厚の11%であった。
また、熱伝導シート(II)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0084】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(II)の熱伝導率を測定したところ、45W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(II)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性も良好であった。
【0085】
(比較例1)
黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、平均粒子径250μm)の代わりに、球状の天然黒鉛(平均粒子径20μm)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作にして、縦1.1cm×横2cm×厚さ0.56mmの熱伝導シート(III)を得た。
【0086】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、黒鉛粒子(A)が30.0体積%、有機高分子化合物(B)が45.9体積%及び難燃剤が24.1体積%であった。
【0087】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(III)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は22μmであった。シートの厚み方向の断面を蛍光顕微鏡を用いて観察したが、黒鉛粒子の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度が明確でないため割り出しがたく、シートの厚み方向への配向が認められなかった。
【0088】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(III)の熱伝導率を測定したところ、1.2W/mKと非常に低い値を示した。なお、熱伝導シート(III)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性は良好であった。
【0089】
(比較例2)
有機高分子化合物(B)としてアクリル酸エステル共重合樹脂(2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体、日立化成工業株式会社製、重量平均分子量:43万7000、Tg−64.11℃、25質量%水溶液)20.48gの代わりに、異なる配合のアクリル酸エステル共重合樹脂(メチルメタクリレート/エチルアクリレート/ブチルアクリレート/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:SG−P−26DR、重量平均分子量:20万、Tg28℃)5.12gを用いた以外は、実施例1と同様の操作で作製して、縦1.1cm×横2cm×厚さ0.6mmの熱伝導シート(IV)を得た。
【0090】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、黒鉛粒子(A)が30.0体積%、有機高分子化合物(B)が45.9体積%及び難燃剤が24.1体積%であった。
【0091】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(IV)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は258μmであった。シートの厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察し、シートの表面部分で黒鉛粒子が折れ曲がっていないことを確認した。
また、熱伝導シート(IV)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0092】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(IV)の熱伝導率を測定したところ、15W/mKと低い値を示した。また熱伝導シート(IV)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性も不良であった。
【0093】
(比較例3)
実施例1と同様の操作で作製した縦2cm×横2cm×厚さ1cmの成形体をドライアイスで−5℃に冷却した後、1.1cm×2cmの積層断面を、カッターナイフを用いて切断し(一次シート面から出る法線に対して0度、すなわち、黒鉛粒子(A)の配向方向に対して90度の角度で切断)、縦1.1cm×横2cm×厚さ0.60mmの熱伝導シート(V)を得た。このとき、成形体を押し付ける操作は行わなかった。
【0094】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(V)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は254μmであった。シートの厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察し、シートの表面部分で黒鉛粒子が折れ曲がっていないことを確認した。
また、熱伝導シート(V)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0095】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(V)の熱伝導率を測定したところ、12W/mKと低い値を示した。なお、熱伝導シート(V)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性は良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】熱伝導シート表面部分で、黒鉛粒子(A)先端部分の折れ曲がりを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含む熱伝導シートであって、
前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向がシート内部で厚み方向に配向しており、シートの片面又は両面における表面部分で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が、シートの表面に沿う方向にシートの厚み方向を軸として、60〜90度の角度で折れ曲がった熱伝導シート。
【請求項2】
前記シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の数が、シートの厚み方向の断面における横方向の長さ500μmあたり5〜20個である請求項1記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の折れ曲がり点が、シートの表面からシート厚の10%以内の位置にある請求項1又は2記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記シートの表面部分で折れ曲がっている黒鉛粒子(A)の折れ曲がり部分の長さが、シート厚の5〜20%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記組成物中、前記黒鉛粒子(A)は10〜50体積%、前記有機高分子化合物(B)は10〜50体積%で配合されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有した組成物を、前記組成物中の黒鉛粒子(A)の配向方向に対して平行方向に5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関してほぼ平行な方向に前記黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、
前記一次シートを積層して成形体を得、
前記成形体を0.01〜0.5MPaの圧力で押し付けながら一次シート面から出る法線に対し0〜30度の角度でスライスし熱伝導シートを得、該熱伝導シートの片面又は両面における表面部分で、シートの表面に沿う方向に、シートの厚み方向を軸として60〜90度の角度で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が折れ曲がることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有した組成物を、前記組成物中の黒鉛粒子(A)の配向方向に対して平行方向に5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関してほぼ平行な方向に前記黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、
前記一次シートを前記黒鉛粒子(A)の配向方向を軸にして捲回し成形体を得、
前記成形体を0.01〜0.5MPaの圧力で押し付けながら一次シート面から出る法線に対し0〜30度の角度でスライスし熱伝導シートを得、該熱伝導シートの片面又は両面における表面部分で、シートの表面に沿う方向に、シートの厚み方向を軸として60〜90度の角度で、前記黒鉛粒子(A)の先端部分が折れ曲がることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項8】
前記成形体のスライスは、スリットを有する平滑な盤面と、該スリット部より突出した刃部と、を有するスライス部材を用いて行い、
前記刃部は、前記熱伝導シートの所望の厚みに応じて、前記スリット部からの突出長さが調節可能である請求項6又は7に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
前記スライス部材は、カンナ又はスライサーである請求項8に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】
前記成形体を、−20〜10℃の温度範囲でスライスする請求項6〜9のいずれか一項に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱伝導シート又は請求項6〜10のいずれか一項に記載の熱伝導シートの製造方法により得られた熱伝導シートを、発熱体と放熱体との間に介在させた放熱装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−149831(P2009−149831A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28129(P2008−28129)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】