説明

熱伝導性樹脂ペーストおよびそれを用いた光ディスク装置

【課題】硬化性で熱伝導率が高い熱伝導性樹脂ペーストおよびそれを用いた光ディスク装置を提供することを目的とする。
【解決手段】硬化性ベース樹脂100重量部に対し、150W/m・K以上の熱伝導率を有する粒子である窒化アルミニウム粒子がX重量部、20W/m・K以上の熱伝導率を有し、粒子表面が金属酸化物の粒子である酸化アルミニウム粒子がY重量部配合されたとき、1.0X+0.4Y≧700を満たす粒子が配合されたことを特徴とする熱伝導性樹脂ペーストである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発熱体の熱を他の周辺部材に逃がす媒体として機能する熱伝導性樹脂ペーストおよびそれを用いた光ディスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学記録媒体として、DVD(デジタルバーサタイルディスク)、CD−R(書き込み可能なコンパクトディスク)、CD−RW(書き換え可能なコンパクトディスク)等の種々の光ディスクが開発されている。DVDにおいては、波長約650nmのレーザー光により情報の記録または再生が行なわれる。一方、CD−RやCD−RWにおいては、波長約780nmのレーザー光により情報の記録または再生が行なわれる。このような複数種類の光ディスクに対して情報の記録または再生を行う光ディスク装置が提案されている。
【0003】
また、このような複数種類の光ディスクに対して情報の記録または再生を行う光ディスク装置において、光ディスク装置に搭載される光ピックアップの光源としては、複数の異なる波長の光束を出射するレーザー素子を1つのパッケージに隣接して配置したハイブリッド型2波長半導体レーザーや、1つの半導体基板に複数の波長の光源を集積化したモノリシック型2波長半導体レーザーなどが用いられている。
【0004】
光源にハイブリッド型2波長半導体レーザーを用いた場合、比較的光源間の間隔が広いため、光源での発熱量はあまり大きなものではないが、モノリシック型2波長半導体レーザーを用いると、モノブロックでしかも光束出射位置が極めて近接しているために、極めて高い発熱量があり、光源の寿命が短くなるなどの弊害が生じることがあった。
【0005】
また、この光源は、角度の調整が必要なため、光ピックアップの基台上に固定して備え付けられているのではなく、基台から若干分離した状態で備え付けられており、光源の発熱により約80℃まで光源自身の温度は上昇する。そのため、光源の熱を基台に逃がすことが行なわれている。
【0006】
従来は、光源と基台との間の隙間に熱伝導性のあるシリコーン系グリースを塗り、光源で発していた熱を基台に伝導していた。熱伝導性シリコーン系グリースでは、熱伝導性物質を配合したオイルコンパウンドであり、シリコーンは、充填剤への濡れ性もよく、多くの粒子を充填するのに適しており、高いもので約6W/m・Kの熱伝導率を有していた。
【0007】
しかし、シリコーン系グリースは硬化性ではないため、媒体であるシリコーンオイルが経時でオイルブリードする「ポンピングアウト現象」が発生していた。そのため、オイルブリードした後は、約80℃まで上昇する発熱体の熱を伝導する機能を十分に果たすことができず、装置に不具合をもたらすおそれがあった。
【0008】
上述した問題を解決するために、従来では、エポキシ樹脂に熱伝導性物質を配合することにより、熱伝導性材料を硬化型にして用いていた(例えば、特許文献1,2参照)。これにより、ポンピングアウト現象が防止され、安定した熱伝導性を確保していた。
【特許文献1】特許第1943804号公報
【特許文献2】特許第2685399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術では、以下のような問題が生じていた。
【0010】
即ち、従来の熱伝導性接着剤では、熱伝導率が0.5〜4W/m・K程度とそれ程高い訳ではなく、十分に発熱体の熱を吸収して、光ピックアップの基台に伝導することができないという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、硬化性で熱伝導率が高い熱伝導性樹脂ペーストおよびそれを用いた光ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、硬化性ベース樹脂100重量部に対し、150W/m・K以上の熱伝導率を有する粒子がX重量部、20W/m・K以上の熱伝導率を有し、少なくとも粒子表面が金属酸化物である粒子がY重量部配合されたとき、1.0X+0.4Y≧700を満たす粒子が配合されたことを特徴とする熱伝導性樹脂ペーストである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記構成により、熱伝導性樹脂ペーストにおける熱伝導性物質の粒子の割合を硬化性ベース樹脂に対して極めて多く配合することができるため、硬化性で熱伝導率が高い熱伝導性樹脂ペーストを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
請求項1記載の発明は、硬化性ベース樹脂100重量部に対し、150W/m・K以上の熱伝導率を有する粒子がX重量部、20W/m・K以上の熱伝導率を有し、少なくとも粒子表面が金属酸化物である粒子がY重量部配合されたとき、1.0X+0.4Y≧700を満たす粒子が配合されたことを特徴とする熱伝導性樹脂ペーストである。これにより、熱伝導性樹脂ペーストにおける熱伝導性物質の粒子の割合を硬化性ベース樹脂に対して極めて多く含有させることで、熱伝導性樹脂ペーストの熱伝導率を高くすることができ、その硬化物は6W/m・K以上の熱伝導率を持つ熱伝導性樹脂ペーストとすることができる。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記150W/m・K以上の熱伝導率を有する粒子は、窒化アルミニウム粒子であることを特徴とする。これにより、低粘度で6W/m・K以上の熱伝導率を得ることができ、絶縁材料を用いることにより樹脂ペーストの硬化物を絶縁体とすることができる。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記窒化アルミニウム粒子は、平均粒径が40〜100μmの範囲内であることを特徴とする。これにより、ベース樹脂中に多量の粒子を配合しても、粘度の上昇を抑えることができ、高熱伝導率を保ちつつ、ディスペンサを用いて吐出することができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項2乃至3に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記窒化アルミニウム粒子は、小粒径の窒化アルミニウムを造粒し、焼結することにより略球状に形成されていることを特徴とする。これにより、ベース樹脂中に多量の粒子を配合しても、粘度の上昇を抑えることができ、高熱伝導率を保ちつつ、ディスペンサを用いて吐出することができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項2乃至4に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記窒化アルミニウム粒子は、多糖類または酸化ケイ素により表面処理がなされることを特徴とする。窒化アルミは水と反応してアンモニアを発生するが、これらの処理により耐水性を向上することができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記20W/m・K以上の熱伝導率を有し、少なくとも粒子表面が金属酸化物である粒子は、酸化アルミニウム粒子であることを特徴とする。これにより、低粘度で6W/m・K以上の熱伝導率を得ることができ、絶縁材料を用いることにより樹脂ペーストの硬化物を絶縁体とすることができる。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記20W/m・K以上の熱伝導率を有し、少なくとも粒子表面が金属酸化物である粒子は、酸化アルミニウム粒子であることを特徴とする。これにより、低粘度で6W/m・K以上の熱伝導率を得ることができ、絶縁材料を用いることにより樹脂ペーストの硬化物を絶縁体とすることができる。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項6乃至7に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記酸化アルミニウム粒子は、表面処理剤で表面処理されていることを特徴とする。これにより、幅が狭い空間に抵抗なくスムーズに注入することができ、さらに分散安定性を増すことができる。
【0022】
請求項9記載の発明は、請求項8に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記表面処理剤は、フェニル基とアミノ基を有するシランカップリング剤であることを特徴とする。この表面処理剤は、表面処理剤の中でも、多種の硬化性ベース樹脂や粒子に対して高い流動効果や分散安定性を示すため、樹脂組成の幅を広くすることができ、適用範囲を広くすることができる。
【0023】
請求項10記載の発明は、請求項6乃至9に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、硬化性ベース樹脂100重量部に対し、平均粒径が略0.7μmの酸化アルミニウム粒子が100〜300重量部配合されていることを特徴とする。これにより、高熱伝導率を保ちつつ、ディスペンサでの吐出速度をより多くすることができる。さらに、熱伝導性樹脂ペーストの分散安定性を向上することができ、貯蔵性に優れた熱伝導性樹脂ペーストとすることができる。
【0024】
請求項11記載の発明は、請求項6乃至10に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記酸化アルミニウム粒子は、略球状であることを特徴とする。これにより、ベース樹脂中に多量の粒子を配合しても、粘度の上昇を抑えることができ、高熱伝導率を保ちつつ、ディスペンサを用いて吐出することができる。
【0025】
請求項12記載の発明は、請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記150W/m・K以上の熱伝導率を有する粒子は、窒化アルミニウム粒子であり、且つ、前記20W/m・K以上の熱伝導率を有し、少なくとも粒子表面が金属酸化物である粒子は、酸化アルミニウム粒子であることを特徴とする。これにより、その硬化物は6W/m・K以上の熱伝導率を持つ、硬化性樹脂ペーストとすることができ、硬化性であるため熱伝導性樹脂ペーストの流動化を防止しつつ発熱体の熱を十分に伝導できる。さらに、絶縁材料を用いているため、その硬化物は絶縁体とすることができ、電子部品に塗布しても、端子間をショートさせることなく使用することができる。
【0026】
請求項13記載の発明は、請求項12に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、窒化アルミニウム粒子と酸化アルミニウム粒子の混合比が、重量比で略4:6〜6:4であることを特徴とする。これにより、高熱伝導率を保ちつつ、熱伝導性樹脂ペーストの粘度を低減することができ、狭い隙間に注入することが可能となる。また、ディスペンサ等の汎用装置にて塗布が可能で、作業性の面でも有用な熱伝導性樹脂ペーストとすることができる。
【0027】
請求項14記載の発明は、請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記硬化性ベース樹脂は、熱硬化性樹脂、室温硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂から選ばれる硬化性樹脂であることを特徴とする。これにより、光透過性の悪い粒子を多量に充填しても硬化が可能で、高熱伝導率を確保することができる。
【0028】
請求項15記載の発明は、請求項1または14に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記硬化性ベース樹脂は、硬化後の硬化物中に含まれる側鎖に、水酸基が付加された構造であることを特徴とする。ベース樹脂に粒子を多量に配合すると、バインダーの役割をするベース樹脂の量が非常に少なくなるため、樹脂ペーストの硬化物は脆くなりやすい。しかし、硬化物の側鎖に水酸基が付加された構造をとることにより、粘りがあり強靱な硬化物とすることができる。
【0029】
請求項16記載の発明は、請求項15に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記硬化性ベース樹脂は、水酸基を持つ単官能モノマーを含むことを特徴とする。これにより、その硬化物は側鎖に水酸基を持つ構造となり、強靱な硬化物を得ることができる。
【0030】
請求項17記載の発明は、請求項1または14乃至16に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記硬化性ベース樹脂は、潜在性の硬化剤を含むことを特徴とする。これにより、硬化性ベース樹脂の反応性を高めたり、逆に室温ではほとんど反応しない硬化性ベース樹脂とすることができる。このため、熱伝導性樹脂ペーストの硬化時間を短縮したり、硬化温度を低減したり、ポットライフを長くしたりすることができる。
【0031】
請求項18記載の発明は、請求項1または14乃至17に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記硬化性ベース樹脂は、エポキシ樹脂であることを特徴とする。エポキシ樹脂は熱や薬品への耐久性が高く、様々な物性の硬化物が作製可能であるため、使用できる分野が広い熱伝導樹脂ペーストとすることができる。
【0032】
請求項19記載の発明は、請求項18に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記エポキシ樹脂は、硬化剤としてアミン系硬化剤を含むことを特徴とする。これにより、硬化剤の反応性に応じて、熱硬化性、室温硬化性の樹脂とすることができ、さらにケチミン化することにより湿気硬化性樹脂にすることもできる。また、硬化反応の結果水酸基を発生するため、強靱な硬化物を得ることができる。
【0033】
請求項20記載の発明は、請求項18乃至19に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記エポキシ樹脂は、単官能のモノマーを含むことを特徴とする。アミン系の硬化剤を用いた上で単官能のモノマーを配合すると、その硬化物は側鎖に水酸基を持つ構造となるため、強靱な硬化物を得ることができる。また、単官能のモノマーは、通常低粘度であるため、硬化性ベース樹脂の粘度を低減することができる。
【0034】
請求項21記載の発明は、請求項1または14乃至20に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記硬化性樹脂ベース樹脂またはエポキシ樹脂には、分散剤が配合されていることを特徴とする。これにより、粒子の分散性が増し、そのため樹脂ペーストの粘度が下がり、ディスペンサによる吐出速度を増加させることができる。また、基材への塗れ性の向上や、樹脂の流動性の制御にも大きな効果を示す。
【0035】
請求項22記載の発明は、請求項1または14乃至21に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記硬化性ベース樹脂またはエポキシ樹脂の粘度が380mPa・s以下であることを特徴とする。これにより、硬化性樹脂ペーストの粘度を低くすることができ、その結果ディスペンサによる吐出速度を大きくすることができる。
【0036】
請求項23記載の発明は、ディスペンサにて5mLのシリンジと、内径0.78mmのニードルを用い、請求項1乃至22に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、少なくとも0.5MPaの圧力で吐出できることを特徴とする。これにより、汎用装置をもって極めて狭い隙間にも熱伝導性樹脂ペーストを注入する作業が可能となる。
【0037】
請求項24記載の発明は、請求項24に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、ディスペンサにて5mLのシリンジと、内径0.78mmのニードルを用い、0.5MPaの圧力で200mg/分以上吐出できることを特徴とする。これにより、汎用装置をもって極めて狭い隙間にも熱伝導性樹脂ペーストを注入する作業が短時間で可能となり、作業性の高い熱伝導性樹脂ペーストとすることができる。
【0038】
請求項25記載の発明は、請求項1乃至24に記載の熱伝導性樹脂ペーストであって、前記熱伝導性樹脂ペーストの硬化物は、絶縁体であることを特徴とする。これにより、電子部品等に塗布しても、端子間をショートさせることなく使用することができる熱伝導性樹脂ペーストとすることができる。
【0039】
請求項26記載の発明は、オキシラン環を2つ以上持つエポキシオリゴマーまたはエポキシモノマーと、単官能のエポキシモノマーと、アミン系硬化剤と、分散剤とで構成される硬化性ベース樹脂100重量部に対し、窒化アルミニウム粒子がX重量部、酸化アルミニウム粒子がY重量部配合されたとき、1.0X+0.4Y≧700を満たす粒子が配合され、窒化アルミニウム粒子と酸化アルミニウム粒子の混合比が、重量比で略4:6〜6:4である硬化性樹脂ペーストであり、熱伝導率が6W/m・K以上、且つ、5mLのシリンジと、内径0.78mmのニードルを装着したディスペンサを用い、0.5MPaの圧力で吐出したときの吐出速度が200mg/分以上であることを特徴とする熱伝導性樹脂ペーストである。これにより、高熱伝導性を有しつつ、一般的な設備をもって極めて狭い空間にも高熱伝導材料を充填することができる。さらに、基材への塗れ性も良いため作業性に優れ、熱や薬品への耐久性が高いエポキシ樹脂を用い、硬化物は強靱な物性であるため信頼性が高く、樹脂ペーストの硬化物は絶縁体となるため電子部品をはじめ、様々な分野で用いることができる熱伝導性樹脂ペーストとすることができる。
【0040】
請求項27記載の発明は、請求項1乃至26に記載の熱伝導性樹脂ペーストを充填または塗布し、所定の条件で硬化させた硬化物を具備したことを特徴とする光ディスク装置である。これにより、レーザーや受光素子のような発熱する部品の熱を速やかに拡散させることができるため、信頼性が高く、寿命が長い光ディスク装置とすることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【0042】
図1に本発明による樹脂ペーストのディスペンサによる吐出速度と、熱伝導率の関係を表したグラフを示す。このときのディスペンサによる吐出速度は、一般的なディスペンサ装置(武蔵エンジニアリング社製)を用いて、5mLのシリンジに、外径1.08mm、内径0.78mmのニードル(武蔵エンジニアリング社製プラスチックニードル、PN−19G−B)を装着して、0.5MPaの圧力で吐出したときの吐出速度とした。
【0043】
なお、試料1〜8は本発明の実施例、試料9〜11は比較例となっており、(表1)に本発明に用いた硬化性ベース樹脂の配合、(表2)に粒子の配合を下記に示し、各試料の製造方法、基本的な特徴については後述する。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
図1中の試料9および試料10がこれまでに市販されている熱伝導性樹脂ペーストである。試料9の熱伝導性樹脂ペーストは、ディスペンサでの吐出速度が200mg/分程度、熱伝導率が4W/m・K程度であり、現在市販されている熱伝導性樹脂ペーストの中で、実使用上問題なく使用できるレベルとしては、最も熱伝導率が高いものである。熱伝導性樹脂ペーストは、場所によっては1箇所に500mg程度注入されることもあり、これよりもディスペンサでの吐出速度が小さくなると工程に時間がかかりすぎてしまい、生産性が低くなってしまう。そのため、熱伝導性樹脂ペーストは、ディスペンサでの吐出速度が200mg/分以上であることが好ましい。試料10の熱伝導性樹脂ペーストは、熱伝導率が6W/m・K程度であり、熱伝導性という点では市販品で最高レベルであるが、ディスペンサでは20mg/分程度の吐出速度で、実使用上問題がある。
【0047】
図2に試料1における粒子の配合から、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムをそれぞれ増減させたときの熱伝導率を表したグラフを示す。粒子の配合量を増やすと熱伝導率は高くなり、粒子の配合量を減らすと熱伝導率は低くなる結果であるが、試料1の配合より、どちらの粒子を減らしても、6W/m・K以下の熱伝導率となってしまう。また、高熱伝導率を有する窒化アルミニウムの方が熱伝導率に対する寄与が大きい。このため、窒化アルミニウムの配合量を増やし、酸化アルミニウムの配合量を減らした、例えば硬化性ベース樹脂100重量部に対し、窒化アルミニウム600重量部と酸化アルミニウムを250重量部配合した樹脂ペーストも考えられる。
【0048】
試料5、7、8は、同一の硬化性ベース樹脂を用いて、その硬化物が約7W/m・Kの熱伝導率を持つ、熱伝導性樹脂ペーストである。これらの試料の粒子配合をグラフにプロットしたものを図3に示す。この3点はベース樹脂100重量部に対して、窒化アルミニウムをX重量部、酸化アルミニウムをY重量部配合したとするとき、1.0X+0.4Y=700で表される直線上に位置している。樹脂組成1を用いた、試料5、7、8では7W/m・K程度の熱伝導率が得られたが、樹脂組成により多少熱伝導率が変化することを加味しても、少なくとも1.0X+0.4Y=700で表される配合量以上の粒子を配合すると、6W/m・K以上の熱伝導率が得られる。
【0049】
本実施例では、150W/m・K以上の高熱伝導率を有する粒子として、窒化アルミニウムを配合したが、一般的に、高熱伝導性の樹脂ペーストを得るためには、ベース樹脂にできるだけ高熱伝導の粒子を、できるだけ多量に配合すると良いため、アルミニウム、金、銀、銅、タングステン、ベリリウム、マグネシウム等の熱伝導率が高い金属粒子を配合することもできる。しかし、金属粒子を多量に配合すると、その硬化物は導電性となってしまうため、本発明のように、電子部品に塗布する用途に用いる可能性がある場合は、絶縁性の粒子を用いることが望ましい。金属粒子を配合する場合は、配合量が少なければその樹脂硬化物も絶縁性を確保できるため、少量添加したり、絶縁性の粒子の表面を薄くコーティングしたりすることにより、熱伝導率を向上させることができる。
【0050】
なお、上記金属酸化物や金属粒子以外にも、炭素を主成分として形成される粒子で150W/m・K以上の高熱伝導率を有するものであれば、利用可能である。
【0051】
熱の伝導には大きく分けて数種類の伝達方法があるが、その中でも、格子振動による伝達と、自由電子による伝達が、特に効率よく熱伝達を行う方法である。そのため、一般的に高熱伝導率を有する物質は硬く、非常に安定な物質である。このような安定な物質は、他の物質との相互作用が小さいため、高熱伝導率を有する粒子は、一般的に樹脂との馴染みが悪い。そのため、比較的熱伝導率が低くても、樹脂との馴染みが良い物質を配合し、樹脂ペーストの分散安定性を向上させる必要がある。このような作用を持つ物質として、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛などの金属酸化物が挙げられる。分散安定性が向上するメカニズムは、金属酸化物が持つ酸素と、樹脂が持つ炭素鎖の間で、弱い静電的な作用があると考えられる。このような作用は、粒子表面が金属酸化物であれば問題ないため、金属表面を酸化させる、もしくは、金属表面に金酸化物をコーティングするなどの方法により、金属粒子と金属酸化物のコアシェル構造とすると、熱伝導率が高く、樹脂との馴染みがよい、理想的な無機粒子ができる。
【0052】
金属酸化物の中でも、酸化アルミニウムは比較的熱伝導率が高く、安価で、球状のものが存在する。酸化アルミニウムを配合する場合は、粒径が異なる粒子を2種類以上混合すると、大粒径の隙間に小粒径の粒子が入り込み、高充填が可能となる。さらに2種類の混合比を調節することにより、粒子全体の比表面積をコントロールでき、樹脂ペーストの粘性を自由にコントロールすることができる。本実施例では、硬化性ベース樹脂1gに対して平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム1gと平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム4gを配合したが、小粒径の酸化アルミニウムはベース樹脂100重量部に対して100〜300重量部程度が望ましく、これより少ないと分散安定性を向上させる効果が低く、これより多いと粘度が高くなり、ディスペンサでの吐出ができなくなる。
【0053】
高熱伝導率の粒子は、前述の通り樹脂との馴染みが悪いため、できるだけ比表面積が小さい方がよく、そのため球状で、粒径が大きい方が良い。本実施例では平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウムを用いたが、40μmより小さくなると、比表面積が大きくなるため粘度が上昇し、ディスペンサによる吐出速度が小さくなってしまう。逆に100μmより大きいと、狭い隙間で目詰まりを起こしたり、分散安定性が悪くなったりするため、高熱伝導率粒子の粒径は40〜100μm程度が適当である。このような高熱伝導率を有する粒子と金属酸化物の粒子を混合することにより、金属酸化物が高熱伝率を有する粒子をコーティングするような構造となり、樹脂ペーストの分散安定性を向上させることができる。
【0054】
図4に硬化性ベース樹脂100重量部に対し、配合される粒子を合計1000重量部とし、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの配合比を変化させたときの、樹脂ペースト硬化物の熱伝導率と、樹脂ペーストのディスペンサによる吐出速度を表したグラフを示す。熱伝導率が高い窒化アルミニウムの配合量を多くするほど熱伝導率は高くなる。吐出速度は酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの配合比が重量比で4:6となる点をピークに、窒化アルミニウムを増加させるほど減少していく傾向にある。これは、ベース樹脂と窒化アルミニウムの馴染みが悪いためであり、あまり増加させると分散安定性が悪くなる。酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの配合比は重量比で4:6〜6:4程度が適当であり、これより窒化アルミニウムが少ないと熱伝導率が低く、高粘度となり、これより窒化アルミニウムが多いと分散安定性が悪く、保存性が低い上に、ディスペンサでの目詰まり等の原因となる。
【0055】
本発明の熱伝導性樹脂ペーストは、ダイアモンドのような高価な粒子を用いらない限り、光透過性の低い粒子を多量に配合する必要がある。そのため、光硬化性のベース樹脂では表面の数十μm程度の硬化しか期待できず、全体を硬化させるためには、熱硬化性、室温硬化性、湿気硬化性のベース樹脂であることが望ましい。
【0056】
本実施例では、硬化性ベース樹脂として、エポキシ樹脂を用いたが、光硬化以外の手法で硬化できる樹脂であれば何でも用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などは熱硬化性、室温硬化性、湿気硬化性のものが知られている。アクリル樹脂を用いる場合、熱硬化性または室温硬化性にするために、有機過酸化物が用いられるが、有機過酸化物は自己反応性の物質で、危険性があり、反応の制御が難しい。ウレタン樹脂は高粘度のものが多く、粒子を多量に配合するためには可塑剤などを配合する必要があるが、可塑剤はブリード等の恐れがあるため、電子部品への使用には適さない。シリコーン樹脂は、低粘度にするためには、低分子のシロキサンを用いる必要があるが、低分子シロキサンはガラスを侵すため、レンズ等の光学部品を曇らせる原因となりうる。これらのことを考えると、熱や薬品への耐久性が高く、樹脂粘度の自由度があり、物性の調整がしやすい、エポキシ樹脂を硬化性ベース樹脂に用いることが好ましい。
【0057】
エポキシのオリゴマーは、一般的にビスフェノールA型、ビスフェノールF型が知られているが、近年ではこのような骨格を元に、モノマー等を付加して様々な物性を示すオリゴマーが、各樹脂メーカーより発売されている。本発明ではオリゴマーに関する限定を特に行っていないが、できるだけ低粘度で、硬化したときの物性が柔軟である方が良い。これは、光ディスク等の光学部品に用いた場合、硬化物があまりに硬いと光軸をずらしてしまう恐れがあるためである。また、耐水性を考慮する場合、オリゴマー構造中にエステル結合を持たないものを使用することが望ましい。
【0058】
単官能または2官能のモノマーとしては、長鎖のアルキル鎖を持つモノマーが、比較的低粘度で、樹脂ペーストの粘度を低減する効果が高い。単官能モノマーは、樹脂ペーストの粘度を低減する効果とともに、樹脂硬化物を柔軟で粘りのある物性にする効果を有する。これは、架橋密度を低減する他に、アミン硬化剤を用いると水酸基が側鎖に付加された構造をとるためである。側鎖とは、片端が他のオリゴマーやモノマーに結合していない鎖のことを指す。単官能モノマーとアミン硬化剤が結合した場合、オキシラン環が開環した結果、水酸基を生じ、側鎖に水酸基が付加された構造となる。
【0059】
図5に単官能モノマーの配合量と、ベース樹脂硬化物の伸び率の関係を表したグラフを示す。単官能モノマーの配合量を増やすほど、伸び率が大きくなっていることが分かる。本発明のように、ベース樹脂中に粒子を多量に配合する場合、ベース樹脂硬化物の伸び率が小さいと樹脂ペーストの硬化物は脆くなってしまうため、ベース樹脂硬化物の伸び率は大きいほど良い。そのため、単官能モノマーを多量に配合する必要があるが、配合量をあまり増加させると、硬化性の悪化や、架橋密度低下による耐久性の低下等の不具合が生じる。単官能モノマーの配合量は30〜60重量%程度が適当である。
【0060】
硬化剤として、カチオン重合開始剤や、イミダゾールのようなアニオン系の重合を行う硬化剤を用いる場合は、反応により水酸基を発生しないため、側鎖に水酸基が付加した構造とするためには、水酸基を持った単官能モノマーを配合する必要がある。この場合は、ベース樹脂中に単官能モノマーを20重量%程度加えると顕著な効果が現れ、ベース樹脂の硬化物は粘り強く、柔らかい物性となる。
【0061】
本実施例では、変性ポリアミンを硬化剤として用いたが、エポキシ樹脂の硬化剤としては、アミン系硬化剤、ポリメルカプタン、酸無水物、カチオン重合開始剤、アミン錯体などが知られており、硬化温度、ポットライフを考慮の上、要求性能に応じた硬化剤の選択が必要である。
【0062】
本発明の熱伝導性樹脂ペーストは、光ディスク装置のレーザー素子付近に注入または塗布することを想定しているが、レーザー素子は高温になると発振しなくなるため、通常80℃程度までしか製品保証がなされていない。このため、樹脂ペーストの硬化温度は80℃以下であることが望まれるが、このような低温で硬化する樹脂は、室温でもある程度の反応性があるため、ポットライフが短いという問題点を有する。このような問題を解決するために、常温ではほとんど反応しないような、潜在性硬化剤を用いると、ポットライフを長くすることができる。
【0063】
潜在性硬化剤の中でも、硬化温度が低いものとして、変性ポリアミンやアミンアダクトのうち、常温固体であり溶融点が低温であるもの、カチオン重合開始剤、イミダゾール、アミン錯体などが知られている。湿気硬化性のもので、アミンの活性基をケトンでブロックしたケチミンも潜在性硬化剤の一種である。
【0064】
図6にベース樹脂の粘度と、試料1と同様の配合で粒子を配合した樹脂ペーストの粘度の関係、さらにそのときのディスペンサでの吐出速度の関係を表したグラフを示す。この実験に用いたベース樹脂は、(表1)に記載の樹脂組成1〜5の樹脂である。ベース樹脂100重量部に対する、酸化アルミニウム500重量部と窒化アルミニウム500重量部を配合した場合、全ての樹脂組成にてディスペンサでの吐出が可能であったが、吐出速度は200mg/分以上であることが好ましいため、ベース樹脂の粘度は、少なくとも380mPa・s以下であれば良いことが分かる。しかし、このような関係が成り立つのは、あくまでこの系のベース樹脂を用いたときに、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムをこの配合量で混合したときであって、ベース樹脂を変えたり、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの種類や配合量を変えるとこの関係も変化するため、各組み合わせに応じてベース樹脂の粘度は最適化する必要がある。ベース樹脂の粘度は、低いほど樹脂ペーストの粘度も低くなり、ディスペンサでの吐出速度も大きくなる。従って、ベース樹脂の粘度が低いほど作業効率が向上するが、硬化性の樹脂とするためには(表1)の樹脂組成1程度の配合が好ましい。
【0065】
硬化性ベース樹脂と粒子の混合方法に関して、特に限定はないが、乳鉢のような器具を用いて混合する場合には、小粒径の粒子から順番に混合・分散することにより、凝集粒子をよく破砕でき、分散性が向上する。また、本実施例のような造粒した粒子を用いる場合は、造粒した粒子を破壊してしまう恐れがあるため、あまり強い力をかけない方が良い。脱法撹拌装置のように、樹脂ペーストを流動させて混合する場合は、粒子同士の摩擦により温度が上昇しやすく、これにより樹脂の硬化反応が進行してしまうため、できるだけ温度が上がらないような、穏和な条件で攪拌する必要がある。
【0066】
以下、各試料の製造方法を示す。
【0067】
試料1の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成3の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を5g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を4g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、6.5W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において520mg/分であり、これまでにない高い熱伝導性能と、高い生産性を兼ね備えた熱伝導性樹脂ペーストである。
【0068】
試料2の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成3の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を7g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を4g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、8.5W/m・Kであった。熱伝導率が高い窒化アルミニウムを増量することにより、樹脂ペースト硬化物の熱伝導率を効果的に向上することができる。また、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において60mg/分であった。粒子を多量に配合したために、吐出速度は激減し、工程では使いづらい配合となっている。このような樹脂ペーストの配合の場合は、ディスペンサニードルの内径が大きいものを使う必要がある。
【0069】
試料3の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成2の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を5g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を4g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、6.8W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において1380mg/分であった。硬化性ベース樹脂の粘度を下げると、吐出速度は大幅に増加し、生産性を大きく向上することができる。
【0070】
試料3に用いた硬化性ベース樹脂は、(表1)の樹脂組成2の配合であるが、これは試料1に用いた樹脂組成3と比べると、オリゴマーが少なく、その代わりに2官能のモノマーを配合した組成となっている。このような組成にすることで、粘度を低くできる効果は高い。ベース樹脂中にオリゴマーを多量に配合すると、その硬化物は弾性に富んだ物性となりやすい。逆にモノマーを多量に配合すると、塑性変形する物性となる傾向があるため、用途によって配合を適正化する必要がある。
【0071】
試料4の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成2の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を7g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を4g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、8.7W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において150mg/分であった。
【0072】
試料5の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成1の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を5g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を4g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、7.0W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において2970mg/分であった。
【0073】
試料5に用いた硬化性ベース樹脂は、(表1)の樹脂組成1の配合である。試料1〜4に用いたベース樹脂の樹脂組成2、3とは異なり、オリゴマーを全く配合していない、低粘度という点に特化したベース樹脂である。このような配合をすると、硬化性が悪くなったり、粒子との馴染みが悪くなったりする不具合を生じやすいため、硬化剤や配合する粒子の選択を慎重に行う必要がある。
【0074】
試料6の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成1の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を7g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を4g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、8.9W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において300mg/分であった。
【0075】
試料7の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成1の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を3g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を9g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、7.1W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において1030mg/分であった。
【0076】
試料7と同等の熱伝導率を持つ試料5の樹脂ペーストを比較すると、試料7の吐出速度が大幅に小さい。試料7では低粘度である樹脂組成1を配合したために、十分な吐出速度が得られているが、もう少し粘度が高いベース樹脂を用いると、十分な吐出速度が得られなくなる。
【0077】
試料8の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成1の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を6g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を1.5g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、7.1W/m・Kであった。ディスペンサでの吐出は、すぐにニードルが目詰まりしてしまい、十分に吐出できない結果となった。
【0078】
試料9の熱伝導性樹脂ペーストは、スリーボンド社製、TB2955Eを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、4.0W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において220mg/分であった。
【0079】
試料10の熱伝導性樹脂ペーストは、信越化学社製、X−32−2133を型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、5.9W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において20mg/分であった。
【0080】
試料11の熱伝導性樹脂ペーストは、樹脂組成3の硬化性ベース樹脂1gに対し、平均粒径が約50μmの球状窒化アルミニウム(古川電子社製FAN−f50−J−A)を2g、平均粒径が約0.7μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC2500−SXH)を1g、平均粒径が約10μmの球状酸化アルミニウム(アドマテックス社製AC9500−SXB)を4g配合した。この樹脂ペーストを型に流し込み、硬化させることにより、厚さ2mmの平板を作製し、定常熱流法により熱伝導率を測定したところ、4.2W/m・Kであった。さらに、ディスペンサでの吐出速度は、前記条件において1480mg/分であった。
【0081】
本発明の熱伝導性ペーストを光ディスクに用いた場合について、図7〜9を用いて説明する。図7に光ディスク装置71の斜視図を示す。光ディスク装置71は、スピンドルモータ72にCD、DVD、BD(Blu−ray Disc)等の光ディスクを装着し、光ディスクを回転させながら、光ピックアップ装置73に搭載された対物レンズより射出される光を、光ディスク上のデータ記録面に照射することによって、データの記録もしくは再生を行う。
【0082】
図8は、光ピックアップ装置73の拡大図である。光ピックアップ装置73には、光源として半導体レーザー素子、光を光ディスクまで導き、光ディスクのデータ記録面に照射するための光学部品、光ディスクから反射してきた光を検出する受光素子等が装着されている。例えばBDを再生する場合、半導体レーザー素子81aから射出された光は種々の光学部品によってアクチュエータ82に設けられた対物レンズ83まで導かれ、対物レンズ83によってBDの記録面上に集光・照射される。ここで対物レンズ83は2つの対物レンズを指示しているが、一方がBD用の対物レンズであり、他方がCD、DVD用の対物レンズである。照射された光は、BDの記録面上で反射し、射出された光と同一の経路をたどってプリズム84aへ戻ってくる。プリズム84aでは戻ってきた光は反射され、受光素子85aに入射される。受光素子85aでは入射した光を電気信号に変換し、その電気信号は信号生成系の回路部に送られ、その回路部においてRF信号を生成し、所望の情報を生成する。
【0083】
図9は、光ピックアップ装置73を簡略化した模式図である。光源である半導体レーザー素子81a、81bは、光軸調整を行う必要があるため、基台86との間には隙間があり、半導体レーザー素子81a、81bは、精密固定用の接着剤にて固定されている。精密固定用の接着剤は一般的に熱伝導率が低いため、半導体レーザー素子81a、81bで発熱した熱は基台86にはほとんど伝達しない。さらに、受光素子85a、85bも発熱体であるため、半導体レーザー素子81a、81b周辺の温度は、80℃を大きく超えてしまう恐れがあり、半導体レーザー素子81a、81bは高温になってしまうと発振しなくなったり、寿命が短くなったりするため、一般的に80℃までしか製品保証がなされていない。そのため、半導体レーザー素子81a、81bは80℃以上の温度にならないように、熱を基台86へ効率よく拡散する手段が必要となる。
【0084】
これまで、半導体レーザー素子81a、81bから基台86への熱伝達の手段として、熱伝導率が4W/m・K程度の熱伝導性接着剤が用いられてきたが、この程度の熱伝導率では十分に熱を拡散できず、さらに半導体レーザー素子81a、81bの上にグラファイトシートを貼り付ける等の工夫がなされている。しかし、近年では、光ディスクへの書き込み速度上昇の要請は強く、そのためさらに高出力の半導体レーザー素子を用いる必要が出てくる。高出力の半導体レーザー素子を用いると、現在用いている半導体レーザー素子81a、81bよりも発熱量は大きくなるため、これまでより熱を効率よく拡散させる必要がある。その1つの手段として、高い熱伝導率を持つ熱伝導材料を用いることが考えられる。
【0085】
また、本発明の熱伝導性樹脂ペーストは、硬化性のベース樹脂に、熱伝導率が高い無機粒子を多量に配合することにより、高熱伝導性を達成しているが、通常、樹脂に粒子を多量に配合すると、その樹脂ペーストは粘度が高くなってしまい、ディスペンサのような器具を用いて、狭い隙間に樹脂を注入することはできなくなってしまう。その一方で、発熱体と光ピックアップの基台との距離は、狭い方が熱伝導しやすいことや、小型化、薄型化により、部材同士が非常に近接していることから、近年の光ディスクドライブは、発熱体と光ピックアップの基台の隙間は非常に狭く設計されることが多い。その隙間は1mm程度になることもあるため、先端が細い、外径が1mm程度のディスペンサニードルを用いて、隙間に樹脂ペーストを注入することが必要となってくる。
【0086】
そこで、本発明の熱伝導性樹脂ペーストを光ディスクに使用し、使用例として図9に示すように、熱伝導性樹脂ペーストを半導体レーザー素子81a、81bと基台86の間や、受光素子85a、85bと基台86の間に注入したり、上から塗布したりした後、硬化させることで熱伝導性樹脂ペーストの硬化物87a、87bが形成される。
【0087】
なお、本実施例の樹脂ペーストは絶縁性を有するため、半導体レーザー素子81a、81b等に塗布する際に短絡等の影響を気にすることなく、容易に塗布することができる。
【0088】
上記熱伝導性樹脂ペーストの硬化物87a、87bは、6W/m・K以上の熱伝導率を有するため、半導体レーザー素子81a、81bや受光素子85a、85bから効率よく基台86へ熱を拡散することができる。また、本発明の熱伝導性樹脂ペーストは硬化性であるため、他の場所に流れ出たりすることがなく、そのため高い熱伝導率を維持でき、光学部品を汚染することもない。
【0089】
以上のことから、本発明の熱伝導性樹脂ペーストを光ディスク装置に用いることにより、信頼性が高く、寿命が長い、光ディスク装置とすることができる。
【0090】
上述した光ディスク装置以外の使用例としては、発熱量が大きく放熱が必要となる電子部品、例えばCPU、ドライバIC等の集積素子や、LEDなどの光源等が挙げられ、CPUに用いる場合には、CPUの熱を受熱し放熱フィンへと熱を伝える受熱部とCPUとの接触部分に用いたりすることにより、CPUからの熱を受熱部に効率的に伝えることができる。
【0091】
そのため、光ディスク装置のように光源等の発熱源が他の部材と隙間をもって設けられ接点が少なく熱を逃がしにくい構造となっている場合には、発熱源から熱を逃がすためにその隙間に充填剤として本発明の樹脂ペーストを用いるのは好適である。
【0092】
また、本実施例の樹脂ペーストは絶縁性を有するため、例えば樹脂ペーストを平板上に形成することで配線板の絶縁層として利用したり、配線上の導電性パターンを保護するための保護材として利用可能であり、熱源から発生する熱を効率よく拡散することができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
発熱体の熱を他の周辺部材に逃がす媒体として機能するため、パソコンのCPU、各種集積素子、LED等、発熱する全てのデバイスを冷却することができる。さらに、狭い空間に注入することが可能であるため、光ディスク装置に用いる、半導体レーザー素子の冷却に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施例における性能を比較したグラフ
【図2】本発明の実施例における性能を比較したグラフ
【図3】本発明の実施例における性能を比較したグラフ
【図4】本発明の実施例における物性を比較したグラフ
【図5】本発明の実施例における物性と性能を表したグラフ
【図6】本発明の実施例における適切な粒子の配合量を表したグラフ
【図7】本発明の実施例における光ディスク装置の斜視図
【図8】本発明の実施例における光ピックアップ装置の拡大図
【図9】本発明の実施例における光ピックアップ装置の模式図
【符号の説明】
【0095】
71 光ディスク装置
72 スピンドルモータ
73 光ピックアップ装置
81a 半導体レーザー素子
81b 半導体レーザー素子
82 アクチュエータ
83 対物レンズ
84a プリズム
84b プリズム
85a 受光素子
85b 受光素子
86 基台
87a 熱伝導性樹脂ペーストの硬化物
87b 熱伝導性樹脂ペーストの硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性ベース樹脂100重量部に対し、150W/m・K以上の熱伝導率を有する粒子がX重量部、20W/m・K以上の熱伝導率を有し、少なくとも粒子表面が金属酸化物である粒子がY重量部配合されたとき、1.0X+0.4Y≧700を満たす粒子が配合されたことを特徴とする熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項2】
前記150W/m・K以上の熱伝導率を有する粒子は、窒化アルミニウム粒子であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項3】
前記窒化アルミニウム粒子は、平均粒径が40〜100μmの範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項4】
前記窒化アルミニウム粒子は、小粒径の窒化アルミニウムを造粒し、焼結することにより略球状に形成されていることを特徴とする請求項2乃至3に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項5】
前記窒化アルミニウム粒子は、多糖類または酸化ケイ素により表面処理がなされることを特徴とする請求項2乃至4に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項6】
前記20W/m・K以上の熱伝導率を有し、少なくとも粒子表面が金属酸化物である粒子は、酸化アルミニウム粒子であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項7】
前記酸化アルミニウム粒子は、平均粒径が略0.7μmの粒子と、平均粒径が略10μmの粒子とを混合した粒子であることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項8】
前記酸化アルミニウム粒子は、表面処理剤で表面処理されていることを特徴とする請求項6乃至7に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項9】
前記表面処理剤は、フェニル基とアミノ基を有するシランカップリング剤であることを特徴とする請求項8に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項10】
硬化性ベース樹脂100重量部に対し、平均粒径が略0.7μmの酸化アルミニウム粒子が100〜300重量部配合されていることを特徴とする請求項6乃至9に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項11】
前記酸化アルミニウム粒子は、略球状であることを特徴とする請求項6乃至10に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項12】
前記150W/m・K以上の熱伝導率を有する粒子は、窒化アルミニウム粒子であり、且つ、前記20W/m・K以上の熱伝導率を有し、少なくとも粒子表面が金属酸化物である粒子は、酸化アルミニウム粒子であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項13】
窒化アルミニウム粒子と酸化アルミニウム粒子の混合比が、重量比で略4:6〜6:4であることを特徴とする請求項12に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項14】
前記硬化性ベース樹脂は、熱硬化性樹脂、室温硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂から選ばれる硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項15】
前記硬化性ベース樹脂は、硬化後の硬化物中に含まれる側鎖に、水酸基が付加された構造であることを特徴とする請求項1または14に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項16】
前記硬化性ベース樹脂は、水酸基を持つ単官能モノマーを含むことを特徴とする請求項15に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項17】
前記硬化性ベース樹脂は、潜在性の硬化剤を含むことを特徴とする請求項1または14乃至16に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項18】
前記硬化性ベース樹脂は、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1または14乃至17に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項19】
前記エポキシ樹脂は、硬化剤としてアミン系硬化剤を含むことを特徴とする請求項18に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項20】
前記エポキシ樹脂は、単官能のモノマーを含むことを特徴とする請求項18乃至19に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項21】
前記硬化性樹脂ベース樹脂またはエポキシ樹脂には、分散剤が配合されていることを特徴とする請求項1または14乃至20に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項22】
前記硬化性ベース樹脂またはエポキシ樹脂の粘度が380mPa・s以下であることを特徴とする請求項1または14乃至21に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項23】
ディスペンサにて5mLのシリンジと、内径0.78mmのニードルを用い、少なくとも0.5MPaの圧力で吐出できることを特徴とする請求項1乃至22に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項24】
ディスペンサにて5mLのシリンジと、内径0.78mmのニードルを用い、0.5MPaの圧力で200mg/分以上吐出できることを特徴とする請求項23に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項25】
前記熱伝導性樹脂ペーストの硬化物は、絶縁体であることを特徴とする請求項1乃至24に記載の熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項26】
オキシラン環を2つ以上持つエポキシオリゴマーまたはエポキシモノマーと、単官能のエポキシモノマーと、アミン系硬化剤と、分散剤とで構成される硬化性ベース樹脂100重量部に対し、窒化アルミニウム粒子がX重量部、酸化アルミニウム粒子がY重量部配合されたとき、1.0X+0.4Y≧700を満たす粒子が配合され、窒化アルミニウム粒子と酸化アルミニウム粒子の混合比が、重量比で略4:6〜6:4である硬化性樹脂ペーストであり、熱伝導率が6W/m・K以上、且つ、5mLのシリンジと、内径0.78mmのニードルを装着したディスペンサを用い、0.5MPaの圧力で吐出したときの吐出速度が200mg/分以上であることを特徴とする熱伝導性樹脂ペースト。
【請求項27】
請求項1乃至26に記載の熱伝導性樹脂ペーストを充填または塗布後、硬化させた硬化物を具備したことを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−179771(P2009−179771A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22336(P2008−22336)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】