説明

熱伝導繊維および樹脂複合材

【課題】従来の熱伝導繊維では、熱可塑性樹脂との複合材を作製する際、あるいは、複合材を加工する際に電気絶縁性である窒化ホウ素の被覆が剥離し、電気導電性である炭素繊維が露出してしまい、複合材、あるいは、その加工物の電気絶縁性が1×1010Ω・cm以上にできないという課題がある。
【解決手段】この発明に係る熱伝導繊維は、ポリ‐p‐フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維と、該ポリ‐p‐フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の表面の一部または全部に結着された窒化ホウ素粉末とからなる熱伝導繊維であって、前記結着が熱硬化性樹脂によりなされることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非導電性で高い熱伝導性を有する窒化ホウ素で被覆されたポリ‐p‐フェニレンベンゾビスオキサゾール(以下、PBOと記載する)繊維およびそれを用いた樹脂複合材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品および電機機器は、小型化および高性能化が進展し、内部から発生する熱は増大の一途をたどっている。
そこで、機器内部で発生した熱をいかにして効率よく外へ放出するかが重要な課題となっているが、樹脂材料は、一般的に金属材料やセラミクス材料などの無機材料に比べて熱伝導性が低く、機器で発生した熱を外に逃がしにくいという課題がある。
【0003】
上記のような課題を解決するために、樹脂材料の放熱性を高める手段として、高い熱伝導性を有する無機粉末を多量に樹脂中に配合することで、樹脂の高熱伝導化を図る試みが広くなされている。
【0004】
しかしながら、樹脂中に多量の無機粉末を配合すると、樹脂組成物の粘度が著しく増大するため、成形性が悪化する。また、脆くなるという問題が生じる。
【0005】
このような問題を解決するために、気相法炭素繊維の表面の一部または全部が、高熱伝導性かつ電気絶縁性である窒化ホウ素で被覆された電気絶縁体被覆気相法炭素繊維、および、該繊維と合成樹脂とからなる樹脂複合材がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−235279号公報(2頁2行〜7行および2頁41行〜44行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記熱伝導繊維では、熱可塑性樹脂との複合材を作製する際、あるいは、複合材を加工する際に電気絶縁性である窒化ホウ素の被覆が剥離し、電気導電性である炭素繊維が露出してしまい、複合材、あるいは、その加工物の電気絶縁性が1×1010Ω・cm以上にできないという課題がある。
【0008】
また、炭素繊維を窒化ホウ素で被覆するために2000℃以上での熱処理が必要であり、熱伝導繊維を製造するために多量のエネルギーを必要とするという課題もある。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであって、高い電気絶縁性を有する熱伝導繊維およびそれを用いた樹脂複合材の提供を少ないエネルギーで効率的に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る熱伝導繊維は、ポリ‐p‐フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維と、該ポリ‐p‐フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の表面の一部または全部に結着された窒化ホウ素粉末とからなる熱伝導繊維であって、前記結着が熱硬化性樹脂によりなされることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い熱伝導性と電気絶縁性を有する窒化ホウ素粉末でPBO繊維を被覆しているので、高い熱伝導性と電気絶縁性を有する繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る熱伝導繊維の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
次に、図面を用いて、この発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付してある。但し、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる場合がある。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態1に係る熱伝導繊維の断面図である。図において、熱伝導繊維4は、PBO繊維1と、PBO繊維1を被覆し高熱伝導性を付与する窒化ホウ素粉末3と、PBO繊維1と窒化ホウ素粉末3とを結着するための熱硬化性樹脂2を含んで構成される。
【0015】
ここで、PBO繊維1としては、従来公知のPBO繊維で合目的的な任意のもの、例えば市販のPBO繊維(商品名「ザイロン」、東洋紡績株式会社製)等を用いることができる。繊維の繊度としては特に限定されないが、通常0.1〜30.0dtexものを用いる。好ましくは0.3〜10.0dtex、より好ましくは0.5〜5.0dtexがよい。
【0016】
熱硬化性樹脂2としては、PBO繊維1の熱分解温度650℃以下で硬化するものであれば、特に限定されない。ただし、熱可塑性樹脂との複合材として使用する場合、熱硬化性樹脂2のガラス転移点が熱可塑性樹脂の加工温度以上であることが望ましい。熱硬化性樹脂2のガラス転移点が、熱可塑性樹脂の加工温度以下であると、熱可塑性樹脂のPBO繊維1および窒化ホウ素粉末3に対する接着強度が著しく低くなってしまうため、熱伝導性繊維と熱可塑性樹脂を複合化する時および複合材を加工する際に、PBO繊維1から熱硬化性樹脂2および窒化ホウ素粉末3が脱離しやすくなるからである。
【0017】
窒化ホウ素粉末3は粉末状の窒化ホウ素で、公知の物質であり容易に用いることができる。ただし、窒化ホウ素粉末3の粒径は、PBO繊維1の直径以下であることが望ましい。窒化ホウ素粉末3の粒径がPBO繊維1の直径以上であると、PBO繊維1から窒化ホウ素粉末3がはみ出した構造(PBO繊維1の窒化ホウ素粉末3が付着した反対側から見た場合に窒化ホウ素粉末3が確認できる構造)となり、熱可塑性樹脂との複合時および複合材の加工時に加工装置によっては、脱離され易くなるからである。また、窒化ホウ素粉末3の粒径は、0.1μm以上であることが望ましい。これより小さいと、取扱が困難になるからである。
【0018】
次に、この発明の実施の形態1に係る熱伝導繊維4の製法について説明する。まず、連続繊維状のPBO繊維1をディッピングし、塗布等により未硬化状態の熱硬化性樹脂2で被覆する。次いで、未硬化の熱硬化性樹脂2で被覆されたPBO繊維1に粉体塗装等で窒化ホウ素粉末3を付着させ、加熱により熱硬化性樹脂2を硬化させて、PBO繊維1に窒化ホウ素粉末3を結着させる。その後、所定の繊維長に切断する方法が望ましい。例えば、短繊維状のPBO繊維1を原料とし、同様の方法で被覆した場合、熱伝導繊維4が塊状なりやすく好ましくない。
【0019】
この発明の熱可塑性樹脂としては、熱可塑性樹脂の加工温度が熱硬化性樹脂2のガラス転移温度以下であれば、特に限定されない。しかしながら、熱伝導繊維4を熱可塑性樹脂に複合化すると、複合樹脂の粘度が増加し、加工性が低下するため、熱可塑性樹脂としては、粘度が低いことが望ましい。具体的には、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、または、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0020】
次に、この発明の樹脂複合材の製造方法について説明する。製造方法として混練を用いる。混練の方法としては、溶融混練、溶媒キャストブレンド、ラテックスブレンド、または、ポリマーコンプレックスなどの物理的ブレンドを用いるが、特に溶融混練法が好ましい。混練する装置としては、タンブラー、ヘンシェルミキサー、ロータリーミキサー、スパーミキサー、リボンタンブラー、または、Vブレンダー等が用いられ、溶融混練した上でペレット化する。ペレット化には単軸または多軸押出機を用いるのが一般的であるが、上記押出機以外にはバンバリーミキサー、ローラー、コ・ニーダー、ブラストミル、または、プラベンダーブラウトグラフなどを用いることもる。これらを回分的、または連続的に運転する。
【0021】
次に、本発明を実施例および比較例を用いて詳しく説明する。
本発明の実施例および比較例における熱伝導率は、繊維については非定常熱線法で、複合材についてはレーザーフラッシュ法で測定した。本発明の実施例および比較例における電気絶縁性に関わる体積抵抗率の測定は2短針法で測定した。
【0022】
(実施例1)
PBO繊維1(繊維径1.7dtex、連続繊維)を280℃に加熱したポリイミド樹脂(宇部興産製PETI−330、ガラス転移温度330℃)中にディッピングした後、室温に冷却した。次いで、窒化ホウ素粉末3を含有するコーティング剤(オーデック製BNコート<C>)を塗布し、370℃で硬化させ、窒化ホウ素粉末3をPBO繊維1に結着させて、熱伝導繊維4を作製した。作製した熱伝導繊維4を長さ1mmに切断し、ポリフェニレンサルファイド樹脂に50wt%配合した樹脂複合材を調整した。熱伝導繊維4の熱伝導率は30W/m・Kであり、この熱伝導繊維4を用いた樹脂複合材の熱伝導率は2W/m・Kであった。樹脂複合材の電気絶縁性を示す体積抵抗率は1×1013Ω・cmであった。
【0023】
(比較例1)
炭素繊維を280℃に加熱したポリイミド樹脂(宇部興産製PETI−330、ガラス転移温度330℃)中にディッピングした後、室温に冷却した。次いで、窒化ホウ素粉末3を含有するコーティング剤(オーデック製BNコート<C>)を塗布し、370℃で硬化させ、窒化ホウ素粉末3を炭素繊維に結着させて、熱伝導繊維を作製した。作製した熱伝導繊維を長さ1mmに切断し、ポリフェニレンサルファイド樹脂に50wt%配合した樹脂複合材を調整した。熱伝導繊維の熱伝導率は30W/m・Kであり、この熱伝導繊維を用いた樹脂複合材の熱伝導率は2W/m・Kであった。樹脂複合材の電気絶縁性を示す体積抵抗率は1×10Ω・cmであった。
【0024】
【表1】

【0025】
以上の結果から明らかなように、本発明の樹脂複合材は高い電気絶縁性を示す。
【符号の説明】
【0026】
1 PBO繊維、2 熱硬化性樹脂、3 窒化ホウ素粉末、4 熱伝導繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ‐p‐フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維と、
該ポリ‐p‐フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の表面の一部または全部に結着された窒化ホウ素粉末とからなる熱伝導繊維であって、
前記窒化ホウ素粉末の結着が熱硬化性樹脂によりなされることを特徴とする熱伝導繊維。
【請求項2】
前記請求項1記載の熱伝導繊維と、
熱可塑性樹脂とからなることを特徴とする樹脂複合材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162817(P2012−162817A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22976(P2011−22976)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】