説明

熱伝播器

電子装置用の熱伝播器は、連続的で制御されないピット又は孔が無く、ダイヤモンド装填材料上に成長したCVDダイヤモンド層を有する。ダイヤモンド装填材料は、母材中のダイヤモンド粒子の塊を含み、露出したダイヤモンド粒子を備える表面を有し、その上にCVDダイヤモンドが成長する。CVDダイヤモンド層は少なくとも部分的にエピタクシによってダイヤモンド装填材料の露出したダイヤモンド粒子に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱伝播器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱管理材料は2種の異なる群に分けることができる。第1はヒートシンクであり、第2は熱伝播器である。ヒートシンクは、熱を金属の塊に移動し、次いで熱を環境空気又は水冷回路に通過させるような場合に、対象物又は閉システムから熱を取り除くのに使用される。他方、熱伝播器は局部的な「高温点(ホットスポット)」から、熱を熱伝播器の中へ急速に伝導するのに使用される。熱伝播器は、システムから発生した全ての熱を除去するために通常ヒートシンクと熱的に接触している。
【0003】
熱の流れは、熱源を囲む任意の表面を横切る熱流量の総計は同じであるという、熱流量保存の原理に従う。熱源に近いほど表面積は小さく、従って、材料が均一な熱伝導率を有していれば、温度勾配はより大きいであろう。したがって、その領域に高い熱伝導率の熱伝播器を有することの利益は大きい。
【0004】
熱は電子的移動及び格子振動の2つの主要な機構によって伝導する。大部分の良好な熱伝導体において、支配的な機構は電子的移動であり、熱電子は自由に分散してそれらと共に熱を運ぶ。また、これらの電子の動きはこれらの材料を電気的に良好な伝導体にする。さらに限られた材料のグループにおいて、熱伝導性は格子中のフォノン移動から生じ、これらの材料は電気的に絶縁体になることができる。多くの熱管理用途は、例えば、冷却された対象物がその搭載面で電気的接触の1つを形成する電子装置である場合、電気的な絶縁体である熱伝播器材料を使用することから利益を得る、又は必要とする。
【0005】
したがって、ヒートシンクはしばしば本質的に金属であり電気的に伝導性である。それらは比較的大きな表面積から熱を取り除くのに使用されるので、出力密度は低く、従って多くの金属、例えばアルミニウム又は銅の熱伝導性が容認される。
【0006】
他方、熱伝播器は局部的な「ホットスポット」から熱を除去するその能力に完全に依存し、したがってその熱伝導性は非常に重要である。Si、SiC、Cu、Al、Agなどの材料はそれ自体で良好な熱伝播器であり、材料の塊にダイヤモンド結晶を装填して複合材料を形成するとき、多くの場合さらに良好な熱伝播器に加工することができる。複合材のダイヤモンドの割合を変えることによって、熱伝導性及び平均熱膨張係数の両方を用途に合わせて調整することができる。しかし、これらの材料の全てはダイヤモンド装填複合材の形であっても、ある程度電気的に伝導性があり、このことはその用途を制限する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダイヤモンド及び特にCVDダイヤモンドは熱伝播器として非常に魅力的である。ダイヤモンドは非常に硬い剛性のある格子及び非常に広いバンドギャップを有し、フォノン移動による優れた熱伝導性と良好な電気絶縁性をもたらす。しかし、熱伝播器は非常に価格に敏感な用途で必要とされ、しばしば固体のダイヤモンド層は必要なコストで製造することができない。
【0008】
電気的にも絶縁性があり、熱伝播器として使用することのできる他の材料は、アルミナ、ベリリア、窒化アルミニウム、窒化ホウ素である。しかし、ダイヤモンドと比べて、これらの材料ははるかに熱伝導率が低く、前述の良好なダイヤモンド装填複合材料よりも熱伝導性が極めて低い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、特に電子装置用の熱伝播器は、好ましくは連続的であり、制御されないピットや孔が無く、ダイヤモンド装填材料の上に成長させたCVDダイヤモンド層を含み、ダイヤモンド装填材料は、ダイヤモンド粒子の塊を母材中に含み、その上にCVDダイヤモンド層を成長させるダイヤモンド粒子の露出した表面を有し、CVDダイヤモンド層は、ダイヤモンド装填材料の露出したダイヤモンド粒子に少なくとも部分的にエピタクシで結合する。ダイヤモンド装填材料は以降「DL材料」と呼ぶ。
【0010】
熱伝播器はCVDダイヤモンド層とDL材料の露出したダイヤモンド粒子との間の界面に実質的エピタクシを呈することが好ましい。詳細には、エピタクシは界面の面積の30%を超えて被覆することが好ましく、50%を超えることがより好ましく、60%を超えることがさらに好ましく、70%を超えることがさらにより好ましい。
【0011】
CVDダイヤモンド層は、CVDダイヤモンド層の厚さの少なくとも4倍のグレインサイズのダイヤモンド粒で占められる露出表面の少なくとも30%の露出表面を有することが好ましく、少なくとも50%が好ましく、少なくとも60%がより好ましく、少なくとも70%がさらにより好ましい。
【0012】
エピタクシャルダイヤモンドグレインはCVDダイヤモンド層の少なくとも30%を提供することが好ましく、少なくとも50%がより好ましく、少なくとも60%がさらにより好ましく、少なくとも70%がさらにより好ましい。
【0013】
CVDダイヤモンド層とDL材料のダイヤモンド粒子との間のエピタクシによる結合は、未処理DL材料を用いて自然に起きるよりも意図的に増加させることが好ましい。
【0014】
一般に、DL材料はDL材料の主要表面上に成長させたCVDダイヤモンド層を備える層の形で提供される。
【0015】
本発明のさらに他の態様によれば、熱伝播器は、その両側の各々に主要表面を有するDL材料の層と、主要表面の各々と熱的に接触したCVDダイヤモンド層とを含み、CVDダイヤモンド層の1層又は両方はDL材料の露出したダイヤモンド粒子に少なくとも部分的にエピタクシによって結合し、CVDダイヤモンド層とダイヤモンド装填材料のダイヤモンド粒子との間のエピタクシによるこの結合は、未処理DL材料を用いて自然に起きるよりも意図的に増加させることが好ましい。
【0016】
本発明のさらに他の態様は、CVDダイヤモンド層とDL材料のダイヤモンド装填との間のエピタクシによる結合を最適化することなどのために、表面調製技術及びCVDダイヤモンド層の成長のための成長条件を使用することである。
【0017】
詳細には、本発明は、ダイヤモンド粒子の塊を母材中に含み、露出したダイヤモンド粒子を備える露出表面を有するダイヤモンド装填(DL)材料を提供するステップと、露出したダイヤモンド粒子に少なくとも部分的にエピタクシによって結合するように、CVDダイヤモンド層をDL材料の露出表面に成長させるステップとを含む熱伝播器の製造方法であって、DL材料の露出表面をその上にCVDダイヤモンドを成長させる前に処理し、それによって未処理のDL材料を用いて自然に起きるよりもエピタクシを増加させる方法に及ぶ。
【0018】
方法は、DL材料の露出表面の処理又は調製にラップ仕上げ工程を用いることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
DL材料は任意のダイヤモンド装填材料、例えば、母材がSi、SiC、Cu、Al、又はAgであるダイヤモンド装填材料とすることができる。DL材料の母材は、Si、SiCの1種であることが好ましく、SiCであることがより好ましい。好ましい母材は、熱伝播器に取り付けられるであろうSiベース装置の熱膨張係数に一致させるため、特定のダイヤモンド装填を備える特定の母材を選択して、用途による特定の仕様とすることができる。この場合、母材はそれ自体Si装置の熱膨張係数に近いか又はそれよりも大きな熱膨張を有することができ、ダイヤモンド装填を選択し、複合材の熱膨張係数を低くして適合させる。材料に装填するダイヤモンド粒子は10μmよりも大きな直径であることが好ましく、それらは合成Ibダイヤモンド又は天然IIaダイヤモンドであることが好ましい。用途に応じて正確なサイズの分布を調整することができるが、DL材料の良好な装填を確保するためにダイヤモンド粒子サイズの混合物を用いることが好ましい。
【0020】
本発明は、DL材料が比較的高い熱伝導性を提供するが、それ自体の電気絶縁性は不十分である時に特に有益である。DL材料の表面に結合されたピンホールの無いCVDダイヤモンド層は電気的絶縁を提供し、その厚さは用途の要求する絶縁特性(電圧、漏洩電流)を提供するように選択される。さらに、ダイヤモンドは、下地のダイヤモンドを装填した材料の表面よりも平坦化がはるかに容易な、又は高度な表面仕上げを設けることのできる、したがって、メタライゼーション、フォトリゾグラフ、及び装置の搭載により適した表面を提供する。最終的にダイヤモンド層は、冷却すべき装置と直接接触する重要な領域において、DL材料よりもより均一で熱伝導性の高い層を提供する。
【0021】
しばしば粗い表面を有する未調製のDL材料に直接堆積することはCVDダイヤモンドコーティングに孔を招くことがある。これらの孔は伝導性通路を形成し、電気絶縁体としてのコーティングの機能を無効にするであろう。本発明に含まれる調製技術はそれらの孔を排除するためにDL材料表面を平坦化及び平滑化する。
【0022】
ダイヤモンド層の典型的な厚さは0.1μm〜300μmであり、1μm〜200μmが好ましく、2μm〜150μmがより好ましく、10μm〜100μmがさらにより好ましい。
【0023】
しかし、複数の層を熱伝播器に使用する問題は、境界の熱インピーダンスである。この熱インピーダンスは、境界の材料の劣化、機械的接触の低さ、境界での熱的不一致によるフォノンの散乱等の結果発生し得る。したがって、この問題に対処するために、本発明は、DL材料上にCVDダイヤモンドを合成するとき、調製及び成長条件を選択して、DL材料の表面に存在する又は露出したダイヤモンド結晶上にエピタクシ成長するダイヤモンドの能力を確保し又は向上させることを提供する。DL材料の表面上のダイヤモンド結晶間の母材材料の上など、他の場所に、ダイヤモンド層は典型的な微細粒の多結晶ダイヤモンドとして核形成するであろう。DL材料のダイヤモンド結晶上へのCVDダイヤモンド層のエピタクシ成長は、非常に良好な熱的調和を形成し、境界の材料劣化、又は低い機械的接触、又は熱的調和の悪さに起因するフォノン散乱を回避する。
【0024】
多結晶ダイヤモンド層のグレインサイズは、当分野の技術の精通者には一般に理解された概念である。多結晶CVDダイヤモンド成長は方向性があり、したがってそれは柱状グレインを生成する。グレインサイズと呼ばれるのは、成長方向に垂直な面上で定められる。したがって、グレインは、材料が全体的に同一であるか又は双晶化のいずれかの結晶学的な配向性で結びついており、それをその結晶学的配向に係わらない材料から分離する結合力の無い境界に囲まれた材料の領域である。グレインサイズは成長に垂直な平面内のそれらのグレインの平均「直径」であり、平均直径は、グレインを横切る多数の異なる方向の最大弦を平均することによって得られる。簡単で一般に有効な近似は、各グレインの横寸法を1個又は複数、好ましくは2個測定することである。多結晶ダイヤモンド層のグレイン境界は、研磨及び次いで化学的エッチング又は火炎エッチングなどのエッチングを加えることによって明らかにすることができる。微細グレインの多結晶ダイヤモンド(例えば<20〜40μm)の領域では、この簡単な手順はグレインサイズの上限だけを与えるであろう。
【0025】
内部の実験及び文献に報告された研究(例えば、J.E.Graebner、S.Jin、G.W.Kammlott、J.A.Herb及びC.F.Gardinier、「ダイヤモンド膜における異常に高い熱伝導率(Unusually high thermal conductivity in diamond films)」Appl.Phys.Lett.、Vol.60(13)、1576ページ、1992年3月30日)は、非ダイヤモンド基板上に不規則に核形成された、CVDダイヤモンド成長の最初の核形成段階に係わる微細グレイン化した多結晶ダイヤモンド材料が、塊材料よりもはるかに低い熱伝導率(50%以上低い)を有していることを示した。内部研究からのデータの例は、以下の通りである。
【表1】

【0026】
したがって、DL材料中のダイヤモンド上へのエピタクシ成長は、非エピタクシ成長よりも2つの熱的利点を有する。第1に、エピタクシは、僅かな界面の問題でさえ大きな熱的障壁になり得るので、DL材料とコーティングとの間に良好な界面が存在することを確実にし、第2に、CVDダイヤモンド層は、低品質のグレイン核形成材料を実質上低減された割合で含むので、それ自体熱伝導率が高くなるであろう。
【0027】
露出したダイヤモンドであるDL材料の比表面積は、DL材料中のこの露出したダイヤモンドとCVDダイヤモンド層との間のエピタクシ結合を形成する方法によって可能であるように、様々な手段によって増加できることが見出された。
【0028】
詳細には、以下の1つ又は複数の点を達成できる技術を用いて、エピタクシを増加させることが好ましい。
(1)DL材料のダイヤモンド装填上のCVDによるエピタクシ成長は、CVDダイヤモンド層とDL材料間の界面の表面積の大部分を形成し、この表面積の実質的部分は、表面積の総計の30%を超え、又は40%を超え、又は50%を超え、又は60%を超え、又は70%を超える。
(2)DL材料のダイヤモンド装填上にエピタクシ成長によって製造されたCVDダイヤモンドグレインは、最終的な成長表面の表面積の大部分を形成する。母材上又はさもなければCVDダイヤモンド層とDL材料との間の界面に核形成されたCVDダイヤモンドグレインの横寸法は、一般に成長表面で層の厚さの程度又はそれ未満であり、DL材料のダイヤモンド装填上にエピタクシ成長したグレインの横寸法は、ダイヤモンド装填の粒子サイズ程度である。CVDダイヤモンド層の厚さが、DL材料のダイヤモンド装填の粒子サイズよりも4倍超及び好ましくは10倍超実質上小さい場合、成長表面でのグレインサイズ分布の意味のある分析を行うことができる。グレイン境界を明らかにする研磨及び後続のエッチング又は他の適切な調製を用いることによって、ダイヤモンド層厚さの好ましくは4倍、より好ましくは10倍を超える1つ又は好ましくは2つの横寸法を有するグレインのCVDダイヤモンド成長表面での全表面積は、CVDダイヤモンド層の成長表面の大部分を被覆するはずであり、表面積のこの大部分は、前表面積の30%を超え、又は40%を超え、又は50%を超え、又は60%を超え、又は70%を超える。
(3)DL材料のダイヤモンド装填上のCVDによって成長したエピタクシャルダイヤモンドは、CVDダイヤモンド層の体積の大分部を形成し、この大部分の体積は、CVDダイヤモンド層の体積の30%を超え、又は40%を超え、又は50%を超え、又は60%を超え、又は70%を超える。
【0029】
CVDダイヤモンド層とDL材料のダイヤモンド結晶との間のエピタクシが実質上達成された材料中では、特にDL材料中のダイヤモンド結晶がCVDダイヤモンド層の厚さより大きい場合、上の基準は実質上同じである。これは、多結晶ダイヤモンドのグレイン構造が柱状であり、グレインサイズは層厚さと共にゆっくり増加するからである。したがって、異なる基準の特別な利点は、それらがある種の条件下でより容易に適用可能なことであり、例えば基準2は基準1及び3よりも破壊試験は少ない。
【0030】
CVDダイヤモンド層を成長させる前のDL表面の調製は、例えば、CVDダイヤモンド層の堆積の前に複合材をラッピングすることによって埋め込まれたダイヤモンド結晶を露出させることを含む。
【0031】
DL材料の表面を加工する主な問題は、ダイヤモンドグリットが母材材料に比べて非常に研磨し難いことである。その結果、表面の加工中に母材材料中のピットの形成を容易に招くことである。このピット形成はダイヤモンド被覆層中のピンホールを招くので非常に有害である。このピット形成問題を解決する鍵は、ラップ仕上げ工程中にダイヤモンドグリット粒子のサイズ分布を制御することである。
【0032】
単純なモデルは、浮遊する大きな粒子がラップ仕上げされる表面に加えた荷重の大部分を受けて、粒子が最終的に破壊するまで一連のピットをもたらすように、ラップ仕上げされる表面をグリット粒子の平均サイズに設定した間隔でラッピングプレート上に浮べることが考えられる。対照的に、より小さなグリットは個々に有害ではないが、平均グリット粒子サイズを低下させ得る。
【0033】
発明者らは、開発したグリット粒子サイズの制限範囲に関して、グリット粒子サイズの分布は、最大グリットが、平均グリット粒子サイズと比べて、好ましくは20%以下又は15μm大きく(最も制約を受けるいずれか)、より好ましくは10%以下又は10μm大きい(最も制約を受けるいずれか)ことを示した。これは特に接触圧力0.7g/mmに当てはまり、接触圧力で僅かに変化しやすい。
【0034】
別法として、又は追加で、ダイヤモンド装填複合材料は、装填密度及び表面の粒子サイズ分布が、
a)CVDダイヤモンド層とDL材料のダイヤモンドとの間のエピタクシの程度を高める。
b)ダイヤモンド層とDL材料との表面の間の熱膨張調和を高める。
の1つ又は複数に基づいて最適化されるように傾斜材料とすることができ、一方、DL材料本体において、装填密度と粒子サイズ分布は、塊の熱伝導率、コスト、又は下地ヒートシンクへの調和(熱伝導率及び熱膨張係数の両方)など、他のパラメーターに対して最適化することができる。また、装填粒子サイズ分布は過剰成長させたダイヤモンド層の意図した厚さによって最適化することもできる。
【0035】
さらに他の別法として、CVDダイヤモンド層の調製及び成長条件の他のステップは、DL材料のダイヤモンド装填上のエピタクシャルダイヤモンド成長のために最適化することができる。詳細には、化学的エッチング又はプラズマエッチングを用いて、エピタクシ成長のための清浄なダイヤモンド界面を確保し、微細中間粒子状ダイヤモンド核形成の核形成密度及び核形成時間を修正及び制御することができる。後者のパラメーター及び大きなエピタクシャルダイヤモンドと微細核形成ダイヤモンドの相対成長速度の制御(例えば、成長パラメーターを用いることによる)は、CVDダイヤモンド層のグレイン構造を制御するのに用いることができる。さらに、成長工程のガス組成物及び特にカーボン源の濃度を制御してエピタクシを最適化することができる。
【0036】
ダイヤモンドの第2層はDL材料の逆の面に結合又は成長させることができる。この層は後続のヒートシンク材料との界面を補助する。また、この第2層はダイヤモンド層とDL材料のダイヤモンド装填との間のエピタクシの程度を高めるのに使用される広範囲の技術から恩恵を受けることができる。
【0037】
さらに、本発明は、その反対側の主要表面と、主要表面の一方又は両方と熱的に接触する熱伝播器材料として使用するためのダイヤモンド層とを有する、DL材料の層の使用も含む。特定の実施形態において、熱管理を必要とする装置は、DL材料に結合したダイヤモンド層の外側面に本発明の方法を用いて搭載又は結合される。
【0038】
本発明の熱伝播器中のダイヤモンド層は、電子装置の搭載のための十分な電気絶縁を備え、好ましくは少なくとも既知のDL材料ほどの、より好ましくは既知のDL材料よりも向上したヒートシンクとしての性能を備える熱伝播器をさらに提供する。
【0039】
ダイヤモンド層は平滑化し、平坦化し、又は研磨することができ、電子装置又は他の熱源と接触するであろう。ダイヤモンド層はDL材料の表面全体を被覆することができ、又は、例えば熱伝播器がマルチチップモジュールに使用されるならば、特定の領域のみ被覆することができる。
【0040】
DL材料は一般に金属製ヒートシンクなどのヒートシンクと熱的に接触して配置される。
【0041】
ダイヤモンド層及び/又はDL材料はメタライゼーションを行い又はパターン形成して電子装置への適切な接触を提供し、又はヒートシンクへの熱伝播器の結合を助けることができる。電気的相互接続、光学的アドレス、又は他の目的のために、ダイヤモンド層及び/又はDL材料に貫通する孔を提供することもできる。DL材料が両側をダイヤモンドでコーティングされる場合、伝導性DL材料は接地板として、又は装置への電気的相互接続の1種として使用することができる。
【0042】
ダイヤモンド層は、DL材料の層上に成長させたCVDダイヤモンド層であることが好ましく、CVDダイヤモンドでコーティングする前にラップ仕上げすることが好ましい。一般に、ダイヤモンド層は薄く、典型的には300μmより厚くはないであろう。しかし、ダイヤモンド層の厚さは装置とDL材料との間に適切な電気絶縁を提供するように選択されるであろう。例えば、1000Vに耐えるためにはダイヤモンド層は少なくとも25μmの厚さを必要とするであろう。また、ダイヤモンド層の厚さは、コスト的な効果を維持しつつ、確実に熱伝播器の全体的な熱的性能を要求に適合させるように選択されるであろう。
【0043】
CVDダイヤモンドは既知の方法によって製造することができ、一般に多結晶である。
【0044】
本発明の熱伝播器には、シリコンベースの装置など大きな電子装置への特定の用途がある。それらの大きな装置では、窒化アルミニウムなどの比較的安価な熱伝播器は、シリコンベースの装置と窒化アルミニウムとの間の熱膨張係数が異なるので、適切ではない。ダイヤモンドははるかに近く調和するが、それらの装置へのダイヤモンドそれ自体は高価であろう。DL材料の層に熱的に接触した薄いダイヤモンド層を含む熱伝播器は、市場で競合可能な価格で、効率的な熱伝播器及び電気絶縁を提供する。DL材料単独は、それらが全て電気的に伝導性があるので、多くの用途に使用することはできない。CVDダイヤモンド層は熱的な伝導性を損なうことなく電気絶縁を提供し、一般に冷却すべき装置に直接隣接した層の熱伝導率を高める。
【0045】
また、本発明の熱伝播器は、熱伝播器への熱的接触面積がDL材料中のダイヤモンド結晶サイズよりも小さな熱源に特定の用途がある。CVDダイヤモンドコーティングが無いと、熱の冷却したがって装置の性能は、それがダイヤモンド結晶の上にあるか、又はダイヤモンド結晶の間の熱的により伝導性の低い充填材料の上にあるかに依存するであろう。CVDダイヤモンドコーティングは均一な熱伝導率の層を提供し、その上に装置を取り付けて装置の性能を再現可能にすることができる。
【0046】
本発明によって製造されたダイヤモンド層の増加したエピタクシは、そのダイヤモンド層の熱伝導率を高める。これは、冷却すべき装置に最も近接して接触しているのは熱伝播器であるので特に重要である。例として、小さな電子装置(例えば、重要な熱的接触表面の特性横寸法が1〜20μmの)を考える。CVDダイヤモンド層の最適厚さは、典型的にはこの特性寸法よりも僅かに1〜3倍大きい程度、すなわち3〜60μmである。不規則に核形成した多結晶ダイヤモンド層は、典型的にはこの厚さよりも小さなグレインサイズを有し、しばしばはるかに小さい。しかし、本発明の恩恵を受けたエピタクシを用いることによって、CVDダイヤモンド層中のグレインの大部分の体積はDL材料中のダイヤモンド結晶のサイズと類似させることができ、これは例えば、100〜200μmに選択することができる。そのうえ、より大きなグレインサイズのダイヤモンド層はより高い熱伝導率を提供する。
【実施例】
【0047】
実施例1
マイクロウェーブプラズマCVD合成反応器を使用して、SiCの母材中のダイヤモンドクリスタリットからなるDL材料上に25μmまでのダイヤモンド層を堆積した。DL材料中のダイヤモンドクリスタリットのサイズは100〜250μmの範囲であった。
【0048】
5mm×5mmのDLサンプルの表面を標準的なラピダリー(lapidary)技術を用いて、しかし粒子サイズ幅の狭い合成ダイヤモンドグリット(325/400、篩サイズ45/38μm)の水ベース懸濁液中で調製した。加えた接触圧力は0.7g/mmであり、サンプルを1時間ラップ仕上げした。
【0049】
基板をマイクロウェーブプラズマCVDダイヤモンド堆積反応器に装填し、真空を確立し、次いでsccm比3000:40のH/Arの混合物を導入した。プラズマを立ち上げ、圧力を上げ、200ミリバールで安定化させた。次いで、コーティングするDL材料の表面の均一な温度を光学式高温計で測定して850℃に確立し、CHを導入してsccm3000:40のH/CH比を与えた。
【0050】
堆積運転は最初にCHの切り替え停止、及び次いで電力及び圧力を一定して降下させることによって停止し、工程が停止したとき450℃になるまで、約10分間かけて基板の温度を下げた。
【0051】
CVDダイヤモンド層の厚さは25μmであることが見出された。CVDダイヤモンドの表面の試験によって、高品質の良好に中間成長した結晶であることが明らかになった。基板材料への接着は良好であり、剥離又は亀裂の形跡はなかった。
【0052】
続いて、標準的なCVDダイヤモンド研磨技術を用いて、層を成長層に対して浅い角度(7.5°)で研磨した。一部分をコーティングから下地基板に至るまで研磨することによって界面を露出させ、それが鋭く高品質である(非ダイヤモンド性カーボン相がない)ことが示され、下地DL材料の特性、及び深さの関数としてのCVDダイヤモンドコーティングのグレインサイズが明らかになった。これらの特徴の目視識別は様々な標準的なエッチング技術によって高めることができよう。CVDダイヤモンド層の厚さを通して、ダイヤモンドのグレインサイズは〜200μmであり、すなわち下地DL材料のグレインサイズに一致していた。このサイズのグレイン(層厚さの〜8倍)で被覆された成長表面の部分は76%であった。このコーティング厚さ及びこのグレインサイズでは、グレインの形状は層を通して大きく変化せず、このグレインサイズを有するエピタクシャルCVDダイヤモンドの体積はやはり〜76%であった。
【0053】
比較例1
比較のため、同じ種類のDL材料(粒子サイズ100〜250μm)上に実施例1と同じ手順を用いて5×5mmのサンプルをコーティングしたが、ラピダリー調製段階を省いた。このサンプル上の最終コーティングの厚さは22μmであった。
【0054】
サンプルを実施例1と同じように浅い角度で研磨し、界面品質及びコーティンググレイン構造を明らかにした。界面の品質は再び良好であったが、界面に隣接する大部分のCVDダイヤモンドグレインサイズは10μm未満であり、表面では40μm未満まで増加した。これは、このサンプルには実施例1よりもエピタクシ成長がはるかに少ない(又は無い)ことを示唆している。また、コーティングには下地基板材料まで貫通するピット/ピンホールの形跡があった。これは、DL材料の最初の表面に存在したピットに起因するものと考えられる。
【0055】
実施例2
10×10mmのDLサンプルを実施例1の手順を用いてコーティングした。次いで、CVDダイヤモンドを研磨して10μmの均一な厚さのコーティングを得た。
【0056】
研磨した層は透明で無色であり、下地基板の形状を明瞭に見ることができた。これは、CVDダイヤモンド層及びダイヤモンド層とDL材料との間の界面が高品質であったことを示している。研磨したCVDダイヤモンド層のグレイン構造(エッチングによって露出した)は、下地DL材料グレイン構造上を完全に写像し、成長がエピタクシであったことが確認される。DL材料の表面に露出した下地ダイヤモンド結晶上にエピタクシ成長したグレインによってもたらされた最終的なCVDダイヤモンド層表面の比率は、この場合>90%であった。これは、界面にエピタクシ結晶を大きな比率で形成したことによって、層がより厚く成長するとき、これらがDL材料の母材上に核形成した微細グレインの多結晶材料に十分競合することを示唆している。研磨した層の表面粗さをTaylor Hobsonの「Form Talysurf50」装置を用いて評価すると、8nmのRa値が得られた。倍率×50の顕微鏡を用いて、コーティング上に孔は検出されず、コーティングが良好な電気絶縁特性を有するであろうことを示唆している。
【0057】
実施例3
直径50mmのサンプルを実施例1の手順を用いてCVDダイヤモンドでコーティングしたが、厚さは250μmであった。再び接着は良好であり、剥離又は破壊の形跡は無かった。サンプルを研磨し、次いで文献に広く報告されている標準的なCVDダイヤモンドレーザ切断技術を用いて、直径25mmのサンプルをその中心からレーザ切断した。レーザ切断縁は高品質であり、切断部又は近傍に剥離の形跡はなかった。コーティングとDL材料との間の界面も切断面上に明らかではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド装填(DL)材料上に成長させたCVDダイヤモンド層を含む熱伝播器であって、前記DL材料は、母材中のダイヤモンド粒子の塊を含み、露出したダイヤモンド粒子を備える表面を有し、その上に前記CVDダイヤモンド層を成長させ、前記CVDダイヤモンド層は少なくとも部分的にエピタクシによって前記DL材料の露出したダイヤモンド粒子に結合している上記熱伝播器。
【請求項2】
前記CVDダイヤモンド層が連続的であり、制御されないピット又は孔の無い請求項1に記載の熱伝播器。
【請求項3】
前記CVDダイヤモンド層と前記DL材料の露出したダイヤモンド粒子との間の界面に実質的エピタクシを呈する請求項1又は2に記載の熱伝播器。
【請求項4】
前記エピタクシが、界面の30%を超える領域を被覆する請求項3に記載の熱伝播器。
【請求項5】
前記エピタクシが、界面の50%を超える領域を被覆する請求項4に記載の熱伝播器。
【請求項6】
前記エピタクシが、界面の60%を超える領域を被覆する請求項5に記載の熱伝播器。
【請求項7】
前記エピタクシが、界面の70%を超える領域を被覆する請求項6に記載の熱伝播器。
【請求項8】
前記CVDダイヤモンドの成長した層が露出表面を有し、前記露出表面の少なくとも30%が、前記CVDダイヤモンド層の厚さの少なくとも4倍のグレインサイズを有するダイヤモンドグレインで占められる請求項1又は2に記載の熱伝播器。
【請求項9】
前記ダイヤモンドグレインが、前記CVDダイヤモンド層の露出表面の少なくとも50%を占める請求項8に記載の熱伝播器。
【請求項10】
前記ダイヤモンドグレインが前記CVDダイヤモンド層の露出表面の少なくとも60%を占める請求項9に記載の熱伝播器。
【請求項11】
前記ダイヤモンドグレインが前記CVDダイヤモンド層の露出表面の少なくとも70%を占める請求項10に記載の熱伝播器。
【請求項12】
前記CVDダイヤモンド層が、前記CVDダイヤモンド層の体積の少なくとも30%を提供するエピタクシャルダイヤモンドグレインを含む請求項1又は2に記載の熱伝播器。
【請求項13】
前記エピタクシャルダイヤモンドグレインが、前記CVDダイヤモンド層の体積の少なくとも50%を提供する請求項12に記載の熱伝播器。
【請求項14】
前記エピタクシャルダイヤモンドグレインが、前記CVDダイヤモンド層の体積の少なくとも70%を提供する請求項13に記載の熱伝播器。
【請求項15】
前記DL材料を層の形で提供し、前記CVDダイヤモンド層を前記DL材料の層の主要表面上に成長させる請求項1から14のいずれか一項に記載の熱伝播器。
【請求項16】
その両側の各々に主要表面を有するDL材料の層と、前記主要表面の各々と熱的に接触しているCVDダイヤモンド層とを含む熱伝播器であって、前記CVDダイヤモンド層の片側又は両側のいずれかが、少なくとも部分的にエピタクシによって前記DL材料の露出したダイヤモンド粒子に結合している上記熱伝播器。
【請求項17】
前記CVDダイヤモンド層と前記DL材料の露出したダイヤモンド粒子との間のエピタクシによる前記結合を、未処理DL材料を用いて自然に起きるであろうよりも意図的に増加させる請求項1から16のいずれか一項に記載の熱伝播器。
【請求項18】
ダイヤモンド粒子の塊を母材中に含み、露出したダイヤモンド粒子を備える露出表面を有するダイヤモンド装填(DL)材料を提供するステップと、露出したダイヤモンド粒子に少なくとも部分的にエピタクシによって結合するように、CVDダイヤモンド層をDL材料の露出表面に成長させるステップとを含む熱伝播器の製造方法であって、前記DL材料の露出した表面をその上にCVDダイヤモンド層を成長させる前に処理し、それによって未処理のDL材料を用いて自然に起きるよりもエピタクシを増加させる上記方法。
【請求項19】
前記DL材料の露出表面がラップ仕上げ工程によって処理される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ラップ仕上げ工程が、存在するピットを除去し、さらに表面のピットを最小化し、エピタクシに適した前記DL材料の露出表面に存在する露出したダイヤモンド粒子の表面積を最大化するように構成される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記表面のピットを除去し、さらに前記ラップ仕上げ工程中にダイヤモンド粒子サイズの分布を制御することによってピットを最小化する請求項20に記載の方法。
【請求項22】
最大のダイヤモンド粒子が、前記DL材料の露出表面中のダイヤモンド粒子の平均粒子サイズよりも20%以下又は15μm大きい、最も制約を受けるいずれかであることを確保するように前記ラップ仕上げ工程を行う請求項21に記載の方法。
【請求項23】
最大のダイヤモンド粒子が、前記DL材料の露出表面中のダイヤモンド粒子の平均粒子サイズよりも10%以下又は10μm大きい、最も制約を受けるいずれかである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記CVDダイヤモンド層が、連続的であり制御されないピット又は孔の無い請求項18から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記CVDダイヤモンド層と前記DL材料の露出したダイヤモンド粒子との間の界面で実質的エピタクシを呈する請求項18又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記エピタクシが、界面の30%を超える領域を被覆する請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記エピタクシが、界面の50%を超える領域を被覆する請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記エピタクシが、界面の60%を超える領域を被覆する請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記エピタクシが、界面の70%を超える領域を被覆する請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記CVDダイヤモンドの成長した層が露出表面を有し、前記露出表面の少なくとも30%が、前記CVDダイヤモンド層の厚さの少なくとも4倍のグレインサイズを有するダイヤモンドグレインで占められる請求項18又は24に記載の方法。
【請求項31】
前記ダイヤモンドグレインが、前記CVDダイヤモンド層の露出表面の少なくとも50%を占める請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ダイヤモンドグレインが、前記CVDダイヤモンド層の露出表面の少なくとも60%を占める請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ダイヤモンドグレインが、前記CVDダイヤモンド層の露出表面の少なくとも70%を占める請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記CVDダイヤモンド層が、前記CVDダイヤモンド層の体積の少なくとも30%を提供するエピタクシャルダイヤモンドグレインを含む請求項18又は24に記載の方法。
【請求項35】
前記エピタクシャルダイヤモンドグレインが、前記CVDダイヤモンド層の体積の少なくとも50%を提供する請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記エピタクシャルダイヤモンドグレインが、前記CVDダイヤモンド層の体積の少なくとも70%を提供する請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記DL材料を層の形で提供し、前記CVDダイヤモンド層をDL材料の層の主要表面上に成長させる請求項18から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
CVDダイヤモンドの対向する層を前記DL材料の層のそれぞれの対向する主要表面上に成長させ、前記CVDダイヤモンド層の一方又は両方のいずれかを少なくとも部分的にエピタクシによって前記DL材料の露出したダイヤモンド粒子に結合させる請求項37に記載の方法。

【公表番号】特表2006−502580(P2006−502580A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542739(P2004−542739)
【出願日】平成15年10月8日(2003.10.8)
【国際出願番号】PCT/IB2003/004420
【国際公開番号】WO2004/034466
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(503458043)エレメント シックス リミテッド (45)
【Fターム(参考)】