説明

熱処理炉の燃焼異常診断方法

【課題】燃焼系の異常に限らず、燃焼設備の異常部位や異常形態の判定をも可能とする。
【解決手段】燃焼空気の空気予熱器4を付帯する多数本のバーナ2の、燃料系及び燃焼空気系をそれぞれ一系統で制御する燃焼ゾーンを、複数備えた燃焼炉例えばラジアントチューブ炉1において、前記多数本のラジアントチューブの、各々の予熱空気及び排ガスの温度を検出する。これら検出値を当該ゾーンの検出平均値と比較することにより燃焼系の異常の有無と異常部位・異常形態を判断する。
【効果】燃焼炉における燃焼系の異常の有無、異常部位、及び異常形態の判定が可能となるので、操業中には悪化の未然防止あるいは必要な措置を、また事前の保全計画立案が可能となって、燃焼炉における生産性、品質、エネルギー効率を、最小の保全作業、コストで維持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼空気を予熱する空気予熱器を付帯する多数本のバーナの、燃料系及び燃焼空気系をそれぞれ一系統で制御する燃焼ゾーン(以下、単にゾーンという。)を複数有する熱処理炉の、燃焼異常を診断する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばラジアントチューブ炉では、複数のゾーン20を各々適正な温度に均一加熱するため、図6に示すように、小容量のバーナ21が、各ゾーン20に50〜300本設置されている。なお、図6中の22は燃焼空気配管、23は燃料配管、24は燃焼空気配管22及び燃料配管23に設けた流量調整弁25a,25bの開度を制御する制御器、26は排ガスを吸引するファンを示す。
【0003】
これら各ゾーンに設置された多数本のバーナは、主に経済的な制約から、その燃料流量及び燃焼空気流量をそれぞれ一系統で制御しているのが一般的である。
【0004】
ところで、ラジアントチューブは、一般的には、図7に示すように、前記バーナ21と、チューブ27及び自己排ガスの排熱を回収する空気予熱器28の3つの部品から構成されている。
【0005】
そして、ラジアントチューブを構成する前記バーナ、チューブ、及び空気予熱器の異常発生モードとしては、バーナの場合は閉塞・溶損等、チューブの場合は亀裂・穴あき等、空気予熱器の場合は溶損・リーク等を挙げることができる。
【0006】
ラジアントチューブを構成する前記3つの部品の異常発生部位を早期に特定できれば、異常が発生した部品を交換することで、ラジアントチューブの健全性を維持することができる。
【0007】
しかしながら、前記3つの構成部品の異常を特定できずに放置すれば、異常燃焼が続く結果、異常が発生した構成部品だけでなく、ラジアントチューブ全体に損傷が及ぶ ことになる。
【0008】
各ゾーンに配置された多数本のラジアントチューブを、燃焼空気、燃料それぞれを一系統で制御している中で、ラジアントチューブの1本が損傷すると、ゾーン内の他のラジアントチューブへの燃焼空気と燃料のバランスが崩れ、正常燃焼からズレが生じる。
【0009】
その結果、エネルギーロスが発生するだけでなく、他のラジアントチューブの損傷も連鎖的に進行していくというトラブルが発生し、生産能率低下や製品品質不良といった大きな問題を引き起こすことになり、復旧のための保守費用も莫大なものとなる。
【0010】
このような熱処理炉におけるバーナの燃焼が異常かどうかの判定を、多数本のバーナの、各々の予熱空気の温度を検出することによって行う方法が、特許文献1に開示されている。この特許文献1で開示された方法は、空気比の変化により予熱空気温度のパターンが変化することに着目したものである。
【0011】
しかしながら、特許文献1で開示された方法は、予熱空気の温度のみに基づいて判定を行うので、バーナ等の燃焼系の限られた内容の異常しか判定することができず、空気予熱器の穴開き等の異常についての判定はできない。また、この方法は、同一空燃比であっても、燃料流量・ゾーンの炉温によって燃焼空気温度が変化することについての考慮がなされていないので、異常の特定精度が低いという問題がある。
【0012】
また、多数本のバーナの前圧力を検出することにより、バーナの異常燃焼を判定する方法が特許文献2に開示されている。この特許文献2で開示された方法は、予め測定された正常動作時の圧力範囲と測定した前圧力を比較することで燃焼が異常か否かを判断するものである。
【0013】
しかしながら、特許文献2で開示された方法も、バーナの前圧力のみに基づいて判定を行うので、バーナ等の燃焼系の限られた内容の異常しか判定することができず、チューブや空気予熱器の穴開き等の異常についての判定はできない。
【0014】
また、これら特許文献1、2は、燃焼設備の異常部位や異常形態の判定に関しては、全く考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平5−312318号公報
【特許文献2】特開平8−13040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の熱処理炉の燃焼異常診断方法は、バーナ等の燃焼系の限られた内容の燃焼異常の有無しか判定することができないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の燃焼炉の燃焼異常診断方法は、
バーナ等の燃焼系の異常に限らず、チューブや空気予熱器の穴開き等の燃焼設備の異常部位や異常形態の判定をも行うことを可能にするために、
燃焼空気の空気予熱器を付帯する多数本のラジアントチューブの、燃料系及び燃焼空気系をそれぞれ一系統で制御する燃焼ゾーンを、複数備えた燃焼炉において、
前記多数本のラジアントチューブの、
1) 各々の予熱空気及び排ガスの温度を検出し、
或いは、
2) 各々のバーナ前圧力と、予熱空気及び排ガスの温度を検出し、
これら検出値を当該ゾーンの検出平均値と比較することにより、燃焼系の異常の有無と異常部位・異常形態を判断することを最も主要な特徴としている。
【0018】
より具体的には、各々の予熱空気及び排ガスの温度を検出する場合は、
当該ゾーンの検出平均値に対して、予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上低い場合には、バーナあるいはバーナに燃料を供給する配管に詰まり又は閉塞が生じたと判定する。
【0019】
また、当該ゾーンの検出平均値に対して、予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上高い場合には、チューブに穴開き又は亀裂が生じたと判定する。
【0020】
また、当該ゾーンの検出平均値に対して、予熱空気温度は基準範囲以上低く、排ガス温度は基準範囲以上高い場合には、空気予熱器に溶損又は穴開きが生じたと判定する。
【0021】
一方、各々のバーナ前圧力と、予熱空気及び排ガスの温度を検出する場合は、
当該ゾーンの検出平均値に対して、バーナ前圧力、予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上低い場合には、バーナ前圧力測定位置より供給側の燃料配管で詰まりあるいは閉塞が生じたと判定する。
【0022】
また、当該ゾーンの検出平均値に対して、基準範囲以上に、バーナ前圧力が高く、予熱空気温度と排ガス温度が低い場合には、バーナ部の詰まりあるいは閉塞が生じたと判定する。
【0023】
また、当該ゾーンの検出平均値に対して、バーナ前圧力が基準範囲以上高く、予熱空気温度と排ガス温度は基準範囲内にある場合には、チューブに変形を生じたと判定する。
【0024】
また、当該ゾーンの検出平均値に対して、予熱空気温度と排ガス温度は基準範囲以上高く、バーナ前圧力は基準範囲内にある場合には、チューブには穴開き又は亀裂を生じたと判定する。
【0025】
また、当該ゾーンの検出平均値に対して、基準範囲以上に、予熱空気温度が低く、排ガス温度が高く、バーナ前圧力は基準範囲内にある場合には、空気予熱器に溶損又は穴開きを生じたと判定する。
【0026】
前記本発明においては、前記ゾーンの検出平均値を、炉温と燃料の流量が一定の範囲のデータを抽出して得るものとすれば、より判定精度が向上する。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、燃焼炉における燃焼系の異常の有無、異常の部位、及び異常の形態を判定することが可能となる。また、警告値の設定や傾向管理を行うようにすれば、明らかな異常をきたす前に異常の部位や異常の形態を把握することも可能となる。
【0028】
以上の効果により、操業中には悪化の未然防止あるいは必要な措置を、また事前の保全計画立案が可能となり、燃焼炉における生産性、品質、エネルギー効率を、最小の保全作業、コストで維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ラジアントチューブ炉について、予熱空気温度及び排ガス温度を検出することによる本発明の燃焼異常診断方法の第1の例を実施する装置を示した図である。
【図2】(a)はゾーンの炉温が700℃〜750℃の範囲と、850℃〜900℃の範囲のゾーン燃料流量に対する1個のラジアントチューブの予熱空気温度の関係を示した図、(b)は同じく排ガス温度との関係を示した図である。
【図3】各ラジアントチューブの排ガス温度及び予熱空気温度を抽出し、その平均値を示した図で、(a)はNo.1ゾーン、(b)はNo.2ゾーンを示した図である。
【図4】ラジアントチューブ炉について、バーナ前圧力、予熱空気温度及び排ガス温度を検出することによる本発明の燃焼異常診断方法の第2の例を実施する装置を示した図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明の燃焼異常診断の第2の例の測定例を説明する図である。
【図6】ラジアントチューブ炉における燃焼ゾーンの概略図である。
【図7】ラジアントチューブの構造を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明では、燃焼系の異常に限らず、燃焼設備の異常部位や異常形態の判定をも可能とするという目的を、各々の予熱空気及び排ガスの温度、或いは更に各々のバーナ前圧力をも検出し、これら検出値を当該ゾーンの検出平均値と比較することによって実現した。
【実施例】
【0031】
ラジアントチューブ炉に備えられた多数本のバーナの、各バーナの燃焼系に異常が発生すれば、各々の特性(各部の圧力・温度、排ガスの成分等)に異常が見られることは当然である。
【0032】
しかしながら、これらの特性値を常時計測することは、経済面・保守面を考えると合理的ではない。従って、生産能率や燃料原単位の明確な悪化時、あるいは定期的な開放点検等による異常発見時に、事後的に保全するのが一般的である。
【0033】
一方で、従来技術のように計測対象を1つ(例えば燃焼空気温度)に絞れば、経済面・保守面の負担を小さくして、ある程度の種類の燃焼異常について異常の「有無」を判定することができる。この場合、操業中(燃焼調整・バーナ閉止等)や点検時(保全対象の絞込み)の措置に一定の効果を得ることができる。
【0034】
しかしながら、従来技術の場合、判定が可能な燃焼異常の内容が限られる上、燃焼系のどの部位で、どのような形態で異常が発生したのかを判定することができない。従って、最終的には開放点検時でないと異常部位や異常形態の判定は不可能であり、異常に対応する内容も限られる。
【0035】
発明者らは、ラジアントチューブ炉おける燃焼装置の開放点検時に見つかった異常部位及び異常形態と、各種燃焼特性の計測値の比較調査を行った結果、ラジアントチューブ炉の燃焼異常の有無とその部位・形態の判定が可能であることを見出した。
【0036】
すなわち、発明者らは、各バーナの予熱空気温度及び排ガス温度、或いは更に各々のバーナ前圧力を常時計測すれば、燃焼異常バーナの検出とともにその異常部位・異常形態を判定でき、適切な操業時及び点検時の措置をとることが可能であることを見出した。
【0037】
本発明の燃焼炉の燃焼異常診断方法は、前記発明者らの知見に基づいてなされたものであり、以下、ラジアントチューブ炉について本発明の燃焼異常診断方法を適用する場合について説明する。
【0038】
[実施例1]
図1は、ラジアントチューブ炉について、予熱空気温度及び排ガス温度を検出することによる本発明の燃焼異常診断方法の第1の例を適用する場合の構成例を示す。
1はラジアントチューブ炉のゾーンで、ゾーン加熱を行うために、各ゾーン1に複数のバーナ2が設けられている。ゾーン1内の各バーナ2には、燃料及び燃焼空気がそれぞれ一系統で供給され、それぞれの流量がゾーン制御される。
【0039】
燃焼空気は空気予熱器4で排ガスと熱交換した後、バーナ2に導かれ、燃料と混合してチューブ3内で燃焼して対象物を間接的に加熱する。なお、図1中の5は燃料配管、6は燃焼空気配管、7は排ガス配管、14a,14bは燃料配管5、燃焼空気配管6に設けられた流量調整弁、15は排ガス配管7に設けられた排ガス吸引用のファンを示す。
【0040】
本発明方法を実施する場合、上記構成のラジアントチューブ炉における各バーナ2の、空気予熱器4の下流側の燃焼空気配管6に予熱空気温度測定器9を、排ガス配管7に排ガス温度測定器10をそれぞれ設置する。
【0041】
そして、前記予熱空気温度測定器9、排ガス温度測定器10で測定した各測定データを、データ収集装置11、データ蓄積部12を介してデータ処理装置13に送る。データ処理装置13は、前記2種のデータ測定値に基づき、以下のようにして、燃焼系の異常の有無と、異常部位・異常形態を判定する。なお、データ蓄積部12とデータ処理装置13を分割せず、一体に構成した装置を使用しても良い。
【0042】
下記表1に、ラジアントチューブ炉における燃焼装置の開放点検時に見つかった異常部位及び異常形態と、各種燃焼特性の計測値とを比較調査して見出した、異常部位・異常形態と、前記2種のデータの測定値と当該ゾーンの検出平均値との差との関係を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、予熱空気温度、排ガス温度を各ラジアントチューブについて測定し、これら検出値を当該ゾーンの検出平均値と比較すれば、燃焼系の異常の有無だけでなく、異常部位及び異常形態をも判定することが可能になることが分かる。
【0045】
すなわち、予熱空気温度が低く、排ガス温度も低い場合は、バーナあるいはバーナに燃料を供給する配管に詰まり又は閉塞が発生していると判定する。これは、バーナあるいは燃料配管が詰まる又は閉塞すると、燃料が十分に供給されていない状態になって、排ガス温度が低くなり、結果的に予熱空気温度も低下するためである。
【0046】
また、予熱空気温度が低く、排ガス温度が高い場合は、空気予熱器が溶損等していると判定する。これは、空気予熱器の溶損等で自己排ガスの熱回収が十分に行われない場合は、予熱空気温度が下がり、排ガス温度は上がるためである。
【0047】
また、予熱空気温度が高く、排ガス温度が高い場合は、チューブに穴開きや亀裂が発生していると判定する。これは、チューブに穴開きや亀裂が発生している場合は、加熱炉内の高温の雰囲気ガスが、チューブの穴開きや亀裂からチューブ内に引き込まれ、その熱エネルギー分排ガス温度が上昇する結果、予熱空気温度も上昇するためである。
【0048】
従って、データ処理装置に、各測定値と当該ゾーンの検出平均値との差に応じた異常パターンを予め設定しておき、各ラジアントチューブについて測定した予熱空気温度、排ガス温度を当該ゾーンの検出平均値と比較すれば、異常の有無だけでなく異常部位・異常形態をも判定できるようになる。
【0049】
その際、予熱空気温度と排ガス温度の正常範囲は、炉やラジアントチューブの形式によって異なるので、事前調査を行った後に設定しておくことが望ましい。しかしながら、大多数の正常バーナに比較して、異常が発生しているバーナには、温度のズレが生じるため、ズレが生じたバーナを点検して異常が発生していれば、異常の範囲として設定すれば良い。
【0050】
また、データ処理装置に、予め異常あるいは警告を表示すべき値と、異常パターンを設定しておき、異常時には警報とともに異常パターンを表示するようにすることが望ましい。
【0051】
なお、異常あるいは警告を表示すべき値は、一律に決まるものではなく、ラジアントチューブ炉及びそれを構成する機器の形式、あるいは保全の考え方によって適宜決定するものである。
【0052】
さらには、各測定値の傾向管理を行うようにすれば、異常の進行を防止する手段を採ることも可能になる。
【0053】
図2にゾーンの炉温が700℃〜750℃の範囲と、850℃〜900℃の範囲のゾーン燃料(Cガス)流量に対する1個のラジアントチューブの予熱空気温度と排ガス温度の関係を示す。
【0054】
図2より、予熱空気温度と排ガス温度は、ゾーンの燃料流量のみならず、ゾーンの炉温の影響も受けることが明らかであるため、単純にサンプリングデータの平均値を取った場合は判定精度が低下する。
【0055】
従って、前記分析精度を向上させるためには、予熱空気温度と排ガス温度を一定期間、一定周期でサンプリングして蓄積した後、ゾーンの炉温と燃料流量が一定範囲の区間のデータを抽出し、平均値を取ることが望ましい。
【0056】
溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインのラジアントチューブ炉の、燃焼空気配管と排ガス配管のサンプリング孔に、前記予熱空気温度測定器及び排ガス温度測定器としてシース熱電対を設置し、以下のデータ抽出範囲において、各ラジアントチューブの排ガス温度及び予熱空気温度を検出した。
【0057】
(データ抽出範囲)
炉温:850℃以上、900℃以下
燃料:
種類:Cガス(4600kcal/Nm3
流量:180Nm3/H以上、200Nm3/H以下
【0058】
データ蓄積部12では、その時のゾーンの炉内温度、ゾーン燃料流量を1分間隔で3日間サンプリングし、データ処理装置13では、一定炉温範囲、燃料流量範囲の各ラジアントチューブの排ガス温度及び予熱空気温度を抽出し、その平均値をとった。
【0059】
図3にデータ処理装置13の出力を示す。図3(a)はNo.1ゾーンの出力、(b)はNo.2ゾーンの出力を示したものである。
【0060】
図3(a)に示すNo.1ゾーンでは、3番のラジアントチューブの予熱空気温度と排ガス温度が共に低く、バーナ異常と判定した。また、9番のラジアントチューブの予熱空気温度が低く、排ガス温度が高いので、空気予熱器異常と判定した。
【0061】
図3(b)に示すNo.2ゾーンでは、5番のラジアントチューブの予熱空気温度と排ガス温度が共に高く、チューブ異常と判定した。
【0062】
そして、前記判定は、その後の定期修理のラジアントチューブ点検の結果、妥当であることが判明した。
【0063】
[実施例2]
図4にラジアントチューブ炉について本発明の燃焼異常診断方法の第2の例を適用する場合の構成例を示す。図4中、図1と同一符号は同一部品或いは相当部品を示し、詳細な説明を省略する。
【0064】
本発明方法の第2の例を実施する場合、図1に示した第1の例の構成に加えて、各バーナ2の、燃料配管5にバーナ前圧力測定器8をさらに設置する。
【0065】
そして、前記バーナ前圧力測定器8、予熱空気温度測定器9、排ガス温度測定器10で測定された各測定データは、データ収集装置11、データ蓄積部12を介してデータ処理装置13に送る。
【0066】
データ処理装置13は、前記3種のデータ測定値に基づき、以下のようにして、燃焼系の異常の有無と、異常部位・異常形態を判定する。
【0067】
下記表2に、ラジアントチューブ炉における燃焼装置の開放点検時に見つかった異常部位及び異常形態と、各種燃焼特性の計測値とを比較調査して見出した、異常部位・異常形態と、前記3種のデータの測定値と当該ゾーンの検出平均値との差との関係を示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すように、バーナ前圧力、予熱空気温度、排ガス温度を各バーナについて測定し、これら検出値を当該ゾーンの検出平均値と比較すれば、燃焼系の異常の有無だけでなく、異常部位及び異常形態をも判定することが可能になることが分かる。
【0070】
従って、データ処理装置に、各測定値と当該ゾーンの検出平均値との差に応じた異常パターンを予め設定しておき、各バーナについて測定したバーナ前圧力、予熱空気温度、排ガス温度を当該ゾーンの検出平均値と比較すれば、異常の有無だけでなく異常部位・異常形態をも判定できるようになる。
【0071】
図5に本発明による測定結果の一例を示す。
この測定結果によると、No.2のバーナは、予熱空気温度は低い方で、排ガス温度は高い方で異常判定値を超えており、表2の異常パターンEと一致しているので、No.2のバーナついては、空気予熱器の溶損あるいは穴開きと判定できる。従って、消火の措置をとり、次の保全日までに空気予熱器の予備を用意した上で交換した。
【0072】
また、No.5のバーナは、バーナ前圧力が高い方で、予熱空気温度と排ガス温度は低い方で、それぞれ警告値を超えており、表2の異常パターンBと一致しているので、No.5のバーナについては、バーナ部で、詰まりあるいは閉塞が生じたと判定できる。従って、燃焼空気配管のバルブにより空気比を最適に調整した上で操業し、次回保全日でバーナの清掃を行った。
【0073】
一方、従来技術の場合、先に述べたように燃焼系の異常を、いわゆる「診断」することは出来ず、異常の検出のみを行うことになる。例えば特許文献1で開示された予熱空気温度を指標とした検出方法では、表1のA、B、D、Eの異常パターンによる異常は検出できるものの、Cの異常パターンは検出できないうえ、異常がどういう形態で発生しているかは判定できない。
【0074】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0075】
例えば、図1の実施例ではU字型の、また図4の実施例ではW字型のラジアントチューブを使用したが、シングルエンド型のラジアントチューブを使用した場合でも適用できる。また、ばらつきの影響を考慮しないのであれば、データを蓄積せず、同一の炉温、同一の燃料流量時の瞬時値で評価しても良い。さらに、溶融亜鉛めっきラインのみでなく、ラジアントチューブを使用する燃焼炉であればどのような燃焼炉でも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上の本発明は、燃焼空気の空気予熱器を付帯する多数本のバーナの、燃料系及び燃焼空気系を一系統で制御する燃焼ゾーンを複数有する熱処理炉であれば、ラジアントチューブ炉の燃焼異常診断に限らず、その他の燃焼炉の燃焼異常診断にも有効である。
【符号の説明】
【0077】
1 ゾーン
2 バーナ
3 チューブ
4 空気予熱器
5 燃料配管
6 燃焼空気配管
7 排ガス配管
8 バーナ前圧力測定器
9 予熱空気温度測定器
10 排ガス温度測定器
11 データ収集装置
12 データ蓄積部
13 データ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼空気の空気予熱器を付帯する多数本のラジアントチューブの、燃料系及び燃焼空気系をそれぞれ一系統で制御する燃焼ゾーンを、複数備えた燃焼炉において、
前記多数本のラジアントチューブの、各々の予熱空気及び排ガスの温度を検出し、
これら検出値を当該ゾーンの検出平均値と比較することにより燃焼系の異常の有無と異常部位・異常形態を判断することを特徴とする燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項2】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上低い場合には、
バーナあるいはバーナに燃料を供給する配管に詰まり又は閉塞が生じたと判定することを特徴とする請求項1に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項3】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上高い場合には、
チューブに穴開き又は亀裂が生じたと判定することを特徴とする請求項1に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項4】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
予熱空気温度は基準範囲以上低く、排ガス温度は基準範囲以上高い場合には、
空気予熱器に溶損又は穴開きが生じたと判定することを特徴とする請求項1に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項5】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上低い場合には、バーナあるいはバーナに燃料を供給する配管に詰まり又は閉塞が生じたと判定し、
予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上高い場合には、チューブに穴開き又は亀裂が生じたと判定し、
予熱空気温度は基準範囲以上低く、排ガス温度は基準範囲以上高い場合には、空気予熱器に溶損又は穴開きが生じたと判定することを特徴とする請求項1に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項6】
請求項1に記載の燃焼異常診断方法において、
前記多数本のラジアントチューブの、各々のバーナ前圧力を更に検出し、
これら検出値を当該ゾーンの検出平均値と比較することにより燃焼系の異常の有無と異常部位・異常形態を判断することを特徴とする燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項7】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
バーナ前圧力、予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上低い場合には、
バーナ前圧力測定位置より供給側の燃料配管で、詰まりあるいは閉塞が生じたと判定することを特徴とする請求項6に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項8】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
基準範囲以上に、バーナ前圧力が高く、予熱空気温度と排ガス温度が低い場合には、
バーナ部で、詰まりあるいは閉塞が生じたと判定することを特徴とする請求項6に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項9】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
バーナ前圧力が基準範囲以上高く、予熱空気温度と排ガス温度は基準範囲内にある場合には、
チューブに変形を生じたと判定することを特徴とする請求項6に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項10】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
予熱空気温度と排ガス温度は基準範囲以上高く、バーナ前圧力は基準範囲内にある場合には、
チューブに穴開き又は亀裂を生じたと判定することを特徴とする請求項6に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項11】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
基準範囲以上に、予熱空気温度が低く、排ガス温度が高く、バーナ前圧力は基準範囲内にある場合には、
空気予熱器に溶損又は穴開きを生じたと判定することを特徴とする請求項6に記載の燃焼炉の燃焼異常診断方法。
【請求項12】
当該ゾーンの検出平均値に対して、
バーナ前圧力、予熱空気温度、排ガス温度の何れもが、基準範囲以上低い場合には、バーナ前圧力測定位置より供給側の燃料配管で詰まりあるいは閉塞が生じたと判定し、
基準範囲以上に、バーナ前圧力が高く、予熱空気温度と排ガス温度が低い場合には、バーナ部の詰まりあるいは閉塞が生じたと判定し、
バーナ前圧力が基準範囲以上高く、予熱空気温度と排ガス温度は基準範囲内にある場合には、チューブに変形を生じたと判定し、
予熱空気温度と排ガス温度は基準範囲以上高く、バーナ前圧力は基準範囲内にある場合には、チューブに穴開き又は亀裂を生じたと判定し、
基準範囲以上に、予熱空気温度が低く、排ガス温度が高く、バーナ前圧力は基準範囲内にある場合には、空気予熱器に溶損又は穴開きを生じたと判定することを特徴とする請求項6に記載の燃焼異常診断方法。
【請求項13】
前記ゾーンの検出平均値は、炉温と燃料の流量が一定の範囲のデータを抽出して得たものであることを特徴とする請求項1〜12の何れかに記載の燃焼異常診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−12928(P2011−12928A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159234(P2009−159234)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】