説明

熱分析センサとこれを用いた熱分析装置

【課題】基板から熱分離した熱容量が極めて小さな薄膜に温度センサと試料ホルダを形成して、消費電力が小さく、高速応答の外部からの加熱手段で、少なくとも試料ホルダを均一な温度分布にする熱分析センサを実現し、これを用いた熱分析装置を提供する。
【解決手段】SOI層などをカンチレバ状に形成した薄膜の先端部を試料ホルダとして利用し、この領域に薄膜温度センサを形成する。このSOI層のカンチレバの上側と下側に空隙を介して薄膜を挟むダイアフラムに加熱手段としての薄膜ヒータを形成するか、または薄膜を囲む薄膜ヒータを形成して試料ホルダを一様に加熱できるように加熱手段を有する熱分析センサを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板から熱分離した薄膜に形成した薄膜温度センサと試料ホルダと、この薄膜を略一様加熱するための加熱手段を具備した熱分析センサ、およびこれを用いた熱分析装置に関するもので、試料ホルダにある試料が生体試料である場合には、酵素反応を用いた熱型バイオセンサとして利用でき、また、熱容量の小さな加熱手段による温度走査により、試料のエンタルピ変化などを利用した低消費電力で極微量試料の検出ができる熱分析装置として利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、示差熱量計としての熱分析装置があった。この装置では、試料ホルダが金属板からなる入れ物であり、二個の試料ホルダを温度制御された電気炉で所定の温度プログラムで温度走査のさせるもので、一方の試料ホルダには、非検出試料を設置し、他方には、標準試料を設置しておき、温度上昇に伴い、非検出試料にエンタルピ変化があると、このときの時刻で標準試料と非検出試料との間に温度差が生じるので、この温度差を時間経過とともに表示し、非検出試料の物性などを調べる装置があった。しかし、この従来の熱分析装置では、試料ホルダの熱容量が大きく、多量の非検出試料が必要であり、応答時間もその分遅く、試料ホルダを加熱する電気炉は、断熱材で覆うなど熱容量が大きいので、電力消費が大きく、更に応答時間も極めてゆっくりで、一回の計測に数時間かかるものであった。
【0003】
これに対し本出願人は、基板から熱分離した薄膜に、少なくとも1個の試料ホルダと薄膜ヒータとを備え、所定の温度プログラムにより温度走査する熱分析装置を発明し(特許第3377162号;USP−6331074)、基板から熱分離した薄膜が700μm角程度で、厚みが10μm程度のものを利用した場合には、水のエンタルピ変化である沸点検出は、数十秒程度で検出できることを示した。
【0004】
本出願人は、基板から熱分離した薄膜に、1個の薄膜ヒータと1個の温度センサThAと、更に、この薄膜ヒータから離れた箇所の薄膜にもう一つの温度センサThBを有する気体センシングデバイスを発明し(特願2003−076619)、フローセンサ、ピラニ型真空センサや絶対湿度センサなどに利用できること、更に、温度センサThBの箇所に特定の酵素を薄膜に固定しておくことによる熱型バイオセンサとして利用できることも示した。
【0005】
しかしながら、本出願人が発明した熱分析装置(特許第3377162号;USP−6331074)においては、微量液体の検出において、温度の走査時間中に試料の蒸発があり、時間経過と共に液体試料量が減少してしまうので、これを防ぐ工夫が必要であること、また、極微量液体試料の試料ホルダへの導入方法の問題、さらに、同一薄膜にマイクロヒータと温度センサとが形成されているために、マイクロヒータの熱容量が余分に存在し、また、薄膜内に加熱時の温度分布がやはり存在するので高感度で高精度になりにくいので、改良する必要があった。
【0006】
また、本出願人が発明した気体センシングデバイスをバイオセンサとして利用するのに、やはり、極微量液体の導入問題、特に、温度の異なる液体試料をどのようにして試料ホルダにある酵素固定領域へ、一定量だけ導入するかの問題が存在していた。
【特許文献1】特許第3377162号公報
【特許文献2】特開2004−286492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、熱容量が極めて小さな薄膜に温度センサと試料ホルダを形成して、温度に対して高速応答で、高感度で、高精度な温度センサであり、しかも均一な温度分布を実現すること、更に消費電力が小さく、高速応答の上記薄膜の外部に加熱手段を形成すること、極微量液体試料を定量分だけ試料ホルダに導入し、蒸発を防ぐようにした熱分析センサを提供し、更にこれを用いた超小型の熱分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係わる熱分析センサは、基板1から第1の空洞3を介して熱分離した薄膜2に、少なくとも1個の薄膜温度センサ5と試料ホルダ6とを備え、薄膜2のうちの少なくとも試料ホルダ6を略一様に昇温させる加熱手段を有し、この加熱手段は空隙30を介して試料ホルダ6を囲む構造であり、試料ホルダ6に導入した試料の熱反応に基づく温度変化を前記薄膜温度センサ5で検出するようにしたことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の請求項2に係わる熱分析センサは、加熱手段として、薄膜ヒータ20とした場合である。
【0010】
また、本発明の請求項3に係わる熱分析センサは、薄膜ヒータ20として、薄膜2に形成された試料ホルダ6を上下で挟む形で構成してある一対の薄膜ヒータ21、22とした場合である。一方の薄膜ヒータ21は、薄膜2を支持する基板1の第1の空洞3を介して直接形成したダイアフラム25か、または基板1の薄膜2とは反対側に密着形成してある別の基板のダイアフラム25に形成できる。他方の薄膜ヒータ22は、基板1に密着形成した更に別の基板10に形成されている第2の空洞13を介して形成してあるダイアフラム26に形成できる。
【0011】
また、本発明の請求項4に係わる熱分析センサは、薄膜温度センサ5として、トランジスタサーミスタ、ダイオードサーミスタもしくは薄膜熱電対を用いた場合である。
【0012】
また、本発明の請求項5に係わる熱分析センサは、試料ホルダ6に酵素7を固定した場合である。
【0013】
また、本発明の請求項6に係わる熱分析センサは、毛細管現象もしくは電気浸透流により液体試料を試料ホルダ6に導くようにした場合である。
【0014】
また、本発明の請求項7に係わる熱分析センサは、液体試料が蒸発し難いように試料ホルダ6に薄膜カバー55を設けた構造の場合である。もちろん、試料注入孔から試料ホルダ6に至るまでのチャネル部分にも薄膜カバー55を延在するなどして設けた方が良いし、液体試料に対してその液体に対して親和力が大きい材料を薄膜カバー55の材料とした方が、毛細管現象を利用しやすいので好都合である。
【0015】
また、本発明の請求項8に係わる熱分析装置は、請求項1から7に記載しているいずれかの熱分析センサを有し、その加熱手段の温度を制御する温度制御手段を具備してあり、この熱分析センサの試料ホルダ6に設置した試料の熱反応に基づく温度変化を、この熱分析センサの薄膜温度センサ5で検出するようにしたことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の請求項9に係わる熱分析装置は、温度制御手段として、一定温度に保持したり、所定のプログラムに基づき温度走査ができるようにした場合である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱分析センサは、基板1から第1の空洞3を介して熱分離した薄膜2に、薄膜温度センサ5と試料ホルダ6とを備えてあり、この薄膜2を加熱手段は空隙30介して薄膜2を取り囲む構造であるので、特に、空隙30を狭くしておけば対流も無視できるようになり、容易に試料ホルダ6を略一様に昇温させる加熱させることができるという利点があり、更に、薄膜温度センサ5と試料ホルダ6とは、同一の宙に浮いた構造の薄膜2に形成されているので、熱容量が小さく、高速にしかも低消費電力で昇温させることができるという利点がある。
【0018】
本発明の熱分析センサは、加熱手段として、薄膜ヒータ20としているので、高速応答で、低消費電力のヒータとなり、しかも、ジュール加熱にすれば、電力供給の制御により微細な温度制御が可能になるという利点がある。
【0019】
本発明の熱分析センサは、薄膜ヒータ20として、薄膜2を支持する基板1を上下に密着形成した基板10,11にそれぞれ空洞31,32を介して形成されたダイアフラムに形成された場合で、特に、基板としてシリコン単結晶を利用すると、半導体のMEMS技術が使用できるので、容易に、しかも同一基板に集積回路としての制御回路、演算回路、メモリ回路、駆動回路なども形成できるから、超小型の熱分析センサチップが作成できるとともに、これを熱分析装置に用いた場合、ハンディな熱分析装置が提供できるという利点がある。
【0020】
本発明の熱分析センサは、薄膜温度センサ5として、極めて高感度で、超小型となるトランジスタサーミスタ、ダイオードサーミスタもしくは電流検出型熱電対を用いると、半導体の製作工程で一般に用いられているフォトリソグラフィーが利用できるし、大量生産性があるので、安価で、高感度の熱分析センサが達成できるという利点がある。
【0021】
本発明の熱分析センサは、試料ホルダ6に酵素を固定すると、酵素反応を利用して、非検出試料中の特定物質成分との発熱反応から、極微量成分の分析ができる熱型バイオとして利用することができる。
【0022】
また、基板1から熱分離した複数の薄膜2を基板1に形成し、それぞれの薄膜2に薄膜温度センサ5と試料ホルダ6と、異なる酵素を薄膜状に形成しておき、そこに非検出試料を導入できるようにしておくことにより、一気にそれぞれに対応する物質成分を特定することができるという利点がある。
【0023】
本発明の熱分析センサは、毛細管現象もしくは電気浸透流により液体試料を試料ホルダ6に導くようにしてあるので、液体試料を一定量導入することが容易であるという利点がある。特に、毛細管現象を利用する場合は、試料の駆動部や電力が不必要であるという利点があり、電気浸透流を利用することにより、容易に、しかも高速に試料の導入が可能であるという利点がある。
【0024】
本発明の熱分析センサは、液体試料が蒸発し難いように試料ホルダ6に薄膜カバー55を設けてあるので、揮発性の試料でも熱分析ができると共に、この熱容量の極めて小さい薄膜カバーを利用して、所定の一定量の液体試料を試料ホルダに導入することができるという利点がある。
【0025】
本発明の熱分析装置は、上述の利点を有する熱分析センサを利用するので、その加熱手段の温度を制御する温度制御手段も極めて小型で低消費電力にできるので、ハンディな熱分析装置を提供できるという利点がある。
【0026】
本発明の熱分析装置は、上述の利点を有する熱分析センサを利用し、温度制御手段として、一定温度に保持できるようにしてあるので、例えば、試料ホルダとそこにある固定された薄膜状の酵素が最も活性な温度に保持して、そこに導入された液体試料中の特定成分の発熱的酵素反応により、その特定成分の種類と量を容易に分析できるという利点がある。
【0027】
本発明の熱分析装置は、上述の利点を有する熱分析センサを利用し、温度制御手段として、所定のプログラムに基づき温度走査ができるようにしてあるので、液体試料ばかりでなく、極微量の固体試料も熱分析ができるハンディな熱分析装置が提供できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
SOI基板のSOI層をカンチレバ状に形成し、この先端部を例えば幅広に形成して試料ホルダとして利用し、更に、この領域に薄膜温度センサを形成する。さらに、このSOI層のカンチレバの上側と下側に空隙を介してダイアフラムを形成してここに加熱手段としての薄膜ヒータを形成して、カンチレバの試料ホルダを一様に外部から加熱できるような加熱手段を有する熱分析センサを構成する。
【0029】
上記の加熱手段を有する熱分析センサからの信号を増幅する回路、信号から所望の特性を算出する演算回路、加熱手段である薄膜ヒータの温度を制御する温度制御手段としての温度制御回路などの集積回路を、薄膜温度センサや試料ホルダを有するSOI層のカンチレバが形成されている同一のSOI基板に形成して、熱分析装置を構成する。このように熱分析センサ部とこれを駆動し演算する集積回路などを同一SOI基板に形成することにより極めてコンパクトな熱分析装置が提供できる。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の熱分析センサを酵素反応に基づく熱型バイオセンサとした一実施例で、この熱分析センサのうちの熱分離した薄膜2を有する基板1の部分の平面概略図で、基板1からの熱分離のために中に浮いた薄膜2をカンチレバ9として実施した場合である。図2は、熱分析センサの一実施例を示す横断面の概略図であって、図1に示した基板1に基板10の蓋12を接合してあり、この蓋12にも薄膜ヒータ22を形成してあり、薄膜2を一様に加熱するようにしている。
【0031】
基板1として、シリコン単結晶を用いた(100)面のSOI基板を用い、SOI基板にSOI層8の少なくとも一部を残して第1の空洞3を形成し、この第1の空洞3を介してカンチレバ9の形態で熱分離したSOI層8Aを薄膜2として利用する。この薄膜2に薄膜温度センサ5と試料ホルダ6を形成しておく。薄膜温度センサ5は、薄膜熱電対(例えば、縮退するほど高濃度のn型層を薄膜熱電対の要素5Aとし、ニッケル薄膜を薄膜熱電対の要素5Bとして形成することで作成できる)を用いた場合であり、試料ホルダ6は単に、カンチレバ9の先端部を幅広にして、そこに、例えば、グルコースオキシダーゼなどの酵素7を薄膜状に固定した例である。
【0032】
カンチレバ9の薄膜2を形成している基板1と同様に、図2に示すように、シリコン単結晶の(100)面を有するSOI基板である基板10を用い、上記熱分離した薄膜2の試料ホルダ6よりも十分大きな面積で、この試料ホルダ6を囲むように、2枚の基板1,10にそれぞれ第1の空洞3と第2の空洞13を介して2枚のダイアフラム25,26を形成し、これらのダイアフラム25,26に半導体の不純物拡散により低抵抗層領域を形成して、シリコン単結晶薄膜からなる面発熱する2枚の薄膜ヒータ21,22を作成する。これらの薄膜ヒータ21,22の領域は、試料ホルダ6を挟みこむように形成してあり、この試料ホルダの面積よりも十分大きく形成してあるので、試料ホルダ6がほぼ一様に加熱され、均一な温度分布になるようにしてある。
【0033】
第1の空洞3と第2の空洞13は、ヒドラジン水溶液などのシリコンの異方性エッチングにより容易に形成できるが、基板1に形成するダイアフラム25は、異方性エッチングに耐性があるホウ素の高濃度添加により形成すると好都合である。この場合、ホウ素添加のシリコンはp型となるので、基板1であるSOI基板の下地基板はn型になるようにしておくと良い。
【0034】
試料ホルダ6の温度と、そこに固定した酵素7と導入された試料60との熱反応に基づく温度変化は、試料ホルダ6内に形成されている薄膜温度センサ5を利用して計測する。本実施例では、薄膜熱電対を薄膜温度センサ5として使用した場合であり、試料ホルダ6の温度を、薄膜熱電対を普通の熱電対(開放起電力の計測を利用する電圧検出型)として基板1と試料ホルダ6の温度差を検出しても良いし、本出願人が発明した薄膜熱電対をOPアンプの仮想短絡などのより等価的に短絡して、そこを流れる電流から温度差を計測する、所謂、電流検出型の熱電対として基板1と試料ホルダ6の温度差を検出しても良い。その場合、基板1の温度は、基板1に設けてあるサーミスタ15を使用するとよい。本実施例では、薄膜熱電対の要素5A、5B として、それぞれ高濃度n型シリコン層とニッケル薄膜とを使用した例であり、電流検出型の熱電対として使用する場合を示した。
【0035】
酵素7としてグルコースオキシダーゼの場合、液体試料としてグルコース水溶液を用いると、試料ホルダ6の温度が37℃程度になるように2枚の薄膜ヒータ21,22の温度を調節するとよい。液体の試料60としてのグルコース水溶液は、試料注入孔16から導入され、チャネル17を毛細管現象で試料ホルダ6の方に移動し、途中37℃程度に暖められながら試料ホルダ6に固定してある薄膜状に固定したグルコースオキシダーゼと反応して、グルコースが酸化されて発熱反応を起こし、グルコースの濃度に応じて発熱量が変化するので、それに対応して試料ホルダ6が温度上昇するので、薄膜温度センサ5によるこの温度検出からグルコース水溶液の濃度を知ることができる。グルコース水溶液は、血液や尿、更には唾液などの体液を使用し校正すると、所謂、血糖値などを計測できる。
【0036】
本実施例では、液体試料を用いた場合であるから、チャネル17を通る液体試料が蒸発しないように薄膜カバー55をチャネル17上に被せてあり、毛細管現象も起こりやすくしている。薄膜カバー55は、薄膜状態に固定した酵素7の上にも薄膜カバー55を分割するなどして、試料ホルダ6上にまで延在させると、試料ホルダ6からの蒸発を抑制することもできる。
【実施例2】
【0037】
図3は、本発明装置の加熱手段を有する熱分析センサを酵素反応に基づく熱型バイオセンサとして実施した一実施例であり、実施例1で述べた図1と図2に示した熱分析センサのうち、試料注入孔16とチャネル17とを除くセンシング部分(S1−S14)を複数個(本実施例では14個)設けた場合である。センシング部分には異なる酵素7を固定しておき、それぞれの酵素7が特定の物質と熱反応しやすい温度に設定しておく。試料注入孔16から注入した液体の試料60がチャネル17を通って各センシング部分(S1−S14)に流入する。試料60と反応する酵素7を固定してある箇所のS1からS14のうちのセンシング部分、例えば、S3のみが温度上昇するので、この特定酵素に反応する試料60の成分を特定できるし、その発熱量から試料60の反応している成分の量を計測することもできる。
【実施例3】
【0038】
図4は、極微量の試料60の熱分析するための本発明の熱分析センサの一実施例を示す模式図であり、同図(A)は、その断面構造図であり、同図(B)は、熱分析センサのうちの脱着可能なセンサチップ300部分のみを抜き出して表示した断面構造図である。このセンサチップ300は、例えば、使い捨て型(デスポーザブル型)として、安価に作成できるようにすることもできる。
【0039】
図4(B)のセンサチップ300から説明すると、単結晶シリコンの基板1から例えば異方性エッチング技術により空洞3を形成してカンチレバ型の基板1から熱分離した薄膜2を作成してある。薄膜2には、試料ホルダ6、薄膜温度センサ5としての薄膜熱電対、この薄膜熱電対の要素5A,5Bをカンチレバ型の薄膜2に延在して形成してあり、また、熱分析をする試料60がその先端部にある試料ホルダ6に載せるようにしてある。基板1の側には、薄膜状の延在してある薄膜熱電対の要素5A,5Bからの電極として、厚めにした薄膜温度センサ用電極41A,41Bを形成してあり、ケース200に装着後、ケース200側の電極である薄膜温度センサ用接点41C,41Dと電気的に接続できるようにしてある。また、基板1の側には、基板1に形成した温度センサであるサーミスタ15が形成されてあり、基板1の温度を検出して、そこを基準にして試料ホルダ6の微細な温度変化が薄膜熱電対である薄膜温度センサ5の出力から計測できるようにしてある。薄膜熱電対は、上述の電流検出型の熱電対としても使用することができる。なお、センサチップ300は、脱着可能な形態をとっているので、ハンドリングがしやすいように、プラスチックなどのチップカバー310がしてあり、しかも、ケース200への挿入時にその位置が定められるように、ストッパ350を付けてある。図では、チップカバー310が基板1の表面側にのみ形成してあるように描いているが、基板1をチップカバー310で包むようにしても良いことはもちろんで、むしろ、その方が、取扱に便利である。
【0040】
図4(A)は、図4(B)で図示したセンサチップ300をケース200に装着した場合の図であり、断熱材でできているケース200の内部には、薄膜ヒータ20がケース200の内側から空隙31を介して宙に浮いた構造で形成されてあり、この薄膜ヒータ20は、挿入されたセンサチップ300の試料60を搭載した薄膜2とは空隙30で空間的に分離してあり、試料60が一様に加熱されるように、薄膜2をほぼ密閉構造で取り囲むように形成してある。薄膜ヒータ20と薄膜熱電対である薄膜温度センサ5からの端子は、配線101を介してケース200の外側にそれぞれ薄膜ヒータ用端子45A‘、45B’と薄膜温度センサ用端子41A‘,41B’として形成してある。
【0041】
本実施例の熱分析センサの動作の概要を説明すると次のようである。センサチップ300の先端付近の試料ホルダ6に固体や液体の試料60を、例えば定量だけ搭載し、ケース200内に装着する。薄膜ヒータ20に薄膜ヒータ用端子45A‘、45B’を通して電流を流して、薄膜ヒータ20を温度上昇または降下させ、試料60を搭載した薄膜2の温度を上昇または降下などの温度走査をさせる。この温度制御は、時間と共に直線的に温度を上昇や降下させるなど、薄膜ヒータ20の温度を所定のプログラムで温度走査を行う。所定のプログラムは、試料60を搭載しない空のセンサチップ300、または、試料60の代わりに、標準試料を搭載させて、試料ホルダ6のところの薄膜温度センサ5を用いて、温度上昇のテストを行っておき、これを基にして定めるとよい。試料60の温度を時間と共に上昇させて行くと、試料60の融点、沸点や更には他の状態の変化、また、化学反応に基づくエンタルピ変化で、熱の発生や吸熱反応が伴うので、特定の温度になったときに温度変化が発生する。試料60が存在しないときや標準試料のときでは、その温度では何も起こらないので、試料60がある場合と、ない場合または標準試料との時間経過に伴う温度変化の差を求めることにより、試料60の熱特性が求められる。このようにして、試料60の熱分析が可能になる。
【0042】
上述の本発明の熱分析センサを用いた熱分析の実施例では、温度走査のための所定のプログラムは、試料60を搭載しない空のセンサチップ300、または、試料60の代わりに、標準試料を搭載させて行う場合を示したが、初めから一つの基板1に、薄膜温度センサ5や試料ホルダ6を有する2個の同等なカンチレバ型の薄膜2を形成しておき、一方に試料60を搭載し、他方には、標準試料か、空の試料状態(試料60がない状態)にして、同時に温度走査を行い、これらの差動動作により差温度を時間と共に出力して、熱分析することも出来る。
【0043】
また、上述の熱分析の実施例では、薄膜ヒータ20自体の温度計測には触れていないが、薄膜ヒータ20の抵抗温度係数が大きければ、薄膜ヒータ20の抵抗値の大きさから薄膜ヒータ20自体の平均的な温度を計測できるし、薄膜ヒータ20に、他の温度センサを形成しておき、そこの温度計測から薄膜ヒータ20の代表温度として利用することも出来る。
【0044】
薄膜ヒータ20の温度走査は、薄膜ヒータ20自体の温度を基準にして、プログラム化しても良いし、薄膜2に搭載している薄膜温度センサ5を基準にしても良い。
【0045】
上述の実施例では、薄膜2としてカンチレバ型にしていたが、これは両端支持の薄膜2でもよいし、ダイアフラムにスリットを入れて、基板1への熱伝導を小さくさせて、容易に昇温できるようにしても良い。
【実施例4】
【0046】
図5には、本発明の熱分析装置の構成の一実施例の概略ブロック図を示している。本実施例では、例えば、試料60を搭載しない空のセンサチップ300を用いて、薄膜2に搭載している薄膜温度センサ5を基準にして、その温度が時間と共に一定の割合で上昇させるように温度制御手段である薄膜ヒータ20の温度走査をプログラム化した場合である。先ず、空のセンサチップ300を用いて、温度走査に従い薄膜温度センサ5の時間的に変化する時々刻々の温度に相当する出力を、出力増幅回路部を用いて増幅し演算回路部で演算して、空の時の薄膜温度センサ5が一定の割合で温度上昇するように、温度制御手段を介して加熱手段である薄膜ヒータ20に時々刻々電力を供給する。また、このときの時々刻々の温度に対応する薄膜温度センサ5の出力は演算回路部にあるメモリに記録させておく。次に、試料60を搭載したセンサチップ300を用いて同一の温度走査を行い、空の場合の記録されていた時々刻々の出力と、試料60を搭載した場合の対応する時々刻々の出力とを温度走査開始を基準にして、それぞれの温度差に相当する出力を演算回路部で時間経過の温度差に対応させて出力し、これを表示回路部でグラフ化させたり、時々刻々のデータを表示させるようにする。この温度走査範囲内に、試料60にエンタルピ変化があれば、温度の停滞などが生じるので、試料60がある場合とない場合の温度差が、試料60にエンタルピ変化が生じる温度で、例えば、ピークとして観測されることになり、所謂、従来の熱分析装置のように動作させることができる。
【0047】
上述の実施例では、温度走査を実施した場合であるが、試料60を搭載する前に一定温度に試料ホルダ6の温度を一定に維持させるように加熱手段である薄膜ヒータ20の温度を設定しておき、その後、試料60を搭載して、例えば酵素7を用いた試料60の酸化反応熱による温度変化を検出して、試料60の中の特定成分の量を知ることもできる。
【0048】
上述の実施例は、それぞれ一実施例に過ぎず、本願発明の主旨と作用および効果が同様でありながら、種々の変形があることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の熱分析センサのうちの熱分離した薄膜2を有する基板1の部分の平面概略図である。(実施例1)
【図2】本発明の熱分析センサの横断面概略図である。(実施例1)
【図3】本発明の熱分析センサのセンシング部を同一基板に複数個設けた場合の基板の平面概略図である。(実施例2)
【図4】本発明の熱分析センサの一実施例を示す模式図であり、同図(A)は、その断面構造概略図であり、同図(B)は、熱分析センサのうちの脱着可能なセンサチップ300部分のみを抜き出して表示した断面構造図である。(実施例3)
【図5】本発明の熱分析装置の構成の一実施例の概略ブロック図である。(実施例4)
【符号の説明】
【0050】
1、10、11 基板
2 薄膜
3、13 空洞
5 薄膜温度センサ
5A、5B 薄膜熱電対の要素
6 試料ホルダ
7 酵素
8、8A、8B SOI層
9 カンチレバ
12 蓋
15 サーミスタ
16 試料注入孔
17 チャネル
20、21、22 薄膜ヒータ
25、26 ダイアフラム
30、31 空隙
41A,41B 薄膜温度センサ用電極
41A‘,41B’ 薄膜温度センサ用端子
41C,41D 薄膜温度センサ用接点
42A、42B サーミスタ用電極
43A、43B 上部薄膜ヒータ用電極
44A、44B 下部薄膜ヒータ用電極
45A、45B 薄膜ヒータ用電極
45A‘、45B’ 薄膜ヒータ用端子
50 埋め込み絶縁膜(BOX層)
51 絶縁膜
55 薄膜カバー
60 試料
101 配線
120 スペーサ
200 ケース
300 センサチップ
310 チップカバー
350 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)から第1の空洞(3)を介して熱分離した薄膜(2)に、少なくとも1個の薄膜温度センサ(5)と試料ホルダ(6)とを備え、薄膜(2)のうちの少なくとも試料ホルダ(6)を略一様に昇温させる加熱手段を有し、該加熱手段は空隙(30)を介して試料ホルダ(6)を囲む構造であり、試料ホルダ(6)に導入した試料の熱反応に基づく温度変化を前記薄膜温度センサ(5)で検出するようにしたことを特徴とする熱分析センサ。
【請求項2】
加熱手段として、薄膜ヒータ(20)とした請求項1記載の熱分析センサ。
【請求項3】
薄膜(2)を支持する基板(1)の第1の空洞(3)と、異なる基板(10)に設けられた第2の空洞(13)には、それぞれがダイアフラム(25、26)を備えてあり、薄膜ヒータ(20)として、これらのダイアフラム(25、26)にそれぞれ形成した一対の薄膜ヒータ(21、22)とした請求項2記載の熱分析センサ。
【請求項4】
薄膜温度センサ(5)として、トランジスタサーミスタ、ダイオードサーミスタもしくは電流検出型熱電対を用いた請求項1から3のいずれかに記載の熱分析センサ。
【請求項5】
試料ホルダ(6)に酵素(7)を固定した請求項1から4のいずれかに記載の熱分析センサ。
【請求項6】
毛細管現象もしくは電気浸透流により液体試料を試料ホルダ(6)に導くようにした請求項5記載の熱分析センサ。
【請求項7】
試料ホルダ(6)に薄膜カバー(55)を設けて、液体試料の蒸発を防ぐようにした構造の請求項6記載の熱分析センサ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の熱分析センサを有し、その加熱手段の温度を制御する温度制御手段を具備してあり、前記熱分析センサの試料ホルダ(6)に設置した試料の熱反応に基づく温度変化を、前記熱分析センサの薄膜温度センサ(5)で検出するようにしたことを特徴とする熱分析装置。
【請求項9】
温度制御手段は、一定温度に保持したり、所定のプログラムに基づき温度走査ができるようにした請求項8記載の熱分析装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−226850(P2006−226850A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41429(P2005−41429)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(391025741)
【Fターム(参考)】