説明

熱加工装置及びその装置に用いる加工ヘッド

【課題】長期間に亘り劣化、消耗のないブラシを有する加工ヘッド、及び下面に成形加工された被加工材でも安定的に熱加工処理が可能な熱加工装置を提供することを目的とする。
【解決手段】支持テーブル21上に被加工材Wを支持せしめた状態で加工ヘッド11に備えられた加工部25より熱ビームを前記被加工材へ向けて照射せしめて熱加工を行う熱加工装置1において、前記加工ヘッドに鍍金された炭素繊維からなる第一のブラシ40を植設せしめ、かつ前記支持テーブル上の所定の範囲に鍍金された炭素繊維からなる第二のブラシ41を平面的に植設してなることを特徴とする熱加工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工材に熱加工を行う熱加工装置及びその装置に用いる加工ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ加工装置(レーザ切断加工装置,レーザ溶接装置)またはプラズマ加工装置などの熱加工装置や、これらの熱加工装置とプレスあるいはパンチプレスなどの板材加工装置との複合加工装置においては、支持テーブル上に被加工材を支持せしめた状態で加工ヘッドに備えられた加工部(ノズルまたはトーチ)より熱ビームを被加工材へ向けて照射せしめて被加工材に熱加工を行ったり、更にプレス加工も併せて行う加工方式が知られている。
【0003】
この熱加工方式における熱加工時には、加工部(ノズルまたはトーチ)の周辺にスパッタが生じるが、このスパッタを効果的に抑制するスパッタ飛散防止装置が設けられておらず、発生したスパッタにより熱加工に種々な支障を来たしていた。
【0004】
ところで、スパッタの飛散を防止するには、スパッタの発生する加工領域を何らかの手段で遮蔽すれば良いわけであるが、実際にこのようなスパッタ飛散防止装置が設けられない理由としては、レーザ切断加工装置につき次のような理由があった。
【0005】
すなわち、熱加工の際に飛散するスパッタが高温の溶融金属であり、可撓性のあるビニール、プラスチック等の高分子材料製シートや繊維または、ガラス繊維あるいはこれらの成型材では、溶融、燃焼、炭化を起こす為使用できないか、使用してもその寿命は著しく短かかったため、加工装置を遮蔽できないというのがその理由であった。
【0006】
かかる課題を解決するため、例えば特許文献1には、支持テーブル上に被加工材を支持せしめた状態で加工ヘッドに備えられた加工部より熱ビームを被加工材へ向けて照射せしめて被加工材に熱加工を行う熱加工装置であって、前記加工ヘッドに炭素繊維からなるブラシを植設せしめてなることを特徴とする熱加工装置及びその加工ヘッドの発明が開示されている。
【特許文献1】特開平10−137970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記熱加工装置及び加工ヘッドにおいても、スパッタの温度が高温であるため、長く装置を使用すると炭素繊維からなるブラシが劣化、消耗してしまうという問題、更に被加工材がフリーベアリング上に載せられているため、被加工材の裏面が傷ついたり、バーリング等の加工が被加工材の裏面になされていた場合には、そのバーリング等がフリーベアリングに接触して製品搬送のパスラインが安定しないという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、長期間に亘り劣化、消耗のないブラシを有する加工ヘッド、及びそれを備え、かつ下面に成形加工された被加工材でも安定的に熱加工処理が可能な熱加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の目的を達成するため、以下(1)〜(8)の構成を備えるものである。
【0010】
(1)支持テーブル上に被加工材を支持せしめた状態で加工ヘッドに備えられた加工部より熱ビームを前記被加工材へ向けて照射せしめて熱加工を行う熱加工装置において、前記加工ヘッドに鍍金された炭素繊維からなる第一のブラシを植設せしめ、かつ前記支持テーブル上の所定の範囲に、鍍金された炭素繊維からなる第二のブラシを平面的に植設してなることを特徴とする熱加工装置。
【0011】
(2)前記第一のブラシを前記加工ヘッドの加工部周辺に設けてなることを特徴とする前記(1)記載の熱加工装置。
【0012】
(3)支持テーブル上に被加工材を支持せしめた状態で加工ヘッドに備えられた加工部より熱ビームを被加工材へ向けて照射せしめて熱加工を行う熱加工装置において、前記加工部に装着したブラシ支持部材を、前記被加工材の方向に付勢手段を介して前記加工ヘッドに設けると共に、前記ブラシ支持部材の前記加工部を囲繞した外周部に鍍金された炭素繊維からなる第一のブラシを植設せしめ、かつ前記支持テーブル上の所定の範囲に、鍍金された炭素繊維からなる第二のブラシを平面的に植設してなることを特徴とする熱加工装置。
【0013】
(4)前記第一及び第二のブラシの炭素繊維に施される鍍金が、銅鍍金とニッケル鍍金であることを特徴とする前記(1)乃至(3)いずれかに記載の熱加工装置。
【0014】
(5)前記熱加工装置がレーザ加工装置またはプラズマ加工装置であることを特徴とする前記(1)乃至(4)いずれかに記載の熱加工装置。
【0015】
(6)加工部を先端のほぼ中心部に備えた加工ヘッドであって、前記加工部を囲繞した加工ヘッドの先端の外周部に鍍金された炭素繊維からなるブラシを植設してなることを特徴とする加工ヘッド。
【0016】
(7)加工部を先端のほぼ中心部に備えた加工ヘッドであって、前記加工部を装着したブラシ支持部材を、前記被加工材の方向に付勢手段を介して前記加工ヘッドに設けると共に、前記ブラシ支持部材の前記加工部を囲繞した外周部に鍍金された炭素繊維からなるブラシを植設してなることを特徴とする加工ヘッド。
【0017】
(8)前記炭素繊維に施される鍍金が、銅鍍金とニッケル鍍金であることを特徴とする前記(6)または(7)記載の加工ヘッド。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記構成を有することで、長期に亘り安定的に熱加工ができ、かつ安定した製品搬送のパスラインを有する熱加工装置及びそれに用いられる加工ヘッドを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、実施例により詳しく説明する。
【実施例】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図3を参照するに、熱加工装置としての例えばレーザ加工装置1は立設された下部フレーム3を備えており、この下部フレーム3上の後部寄りにはコラム5が上下方向へ一体化されており、このコラム5には前記下部フレーム3の上方位置にオーバハングした上部フレーム7が備えられている。そして、この下部フレーム3,コラム5および上部フレーム7とでC字形のフレーム形状をなしている。
【0022】
前記下部フレーム3の後方には、レーザ発振器9が載置されており、このレーザ発振器9からのレーザビームLBは、前記上部フレーム7の内に設けられた複数のベンドミラー(図示省略)を経由して加工ヘッドとしてのレーザ加工ヘッド11に導かれている。そして、レーザ加工ヘッド11内にはレーザビームLBを集光する凸レンズなどの集光用光学系(図示省略)が設けられている。
【0023】
前記上部フレーム7と下部フレーム3の間には、被加工材WをX軸方向およびY軸方向に移動位置決めする被加工材移動位置決め装置13が設けられている。この被加工材移動位置決め装置13には、被加工材Wをクランプする複数のクランプ装置15を備えたX軸キャレッジ17が、Y軸キャレッジベース19にX軸方向へ移動位置決め自在に設けられている。また、前記下部フレーム3の上面には、被加工材テーブルとしての固定テーブル21が設けられており、前記Y軸キャレッジベース19には、前記固定テーブル21の両側をY軸方向に移動自在の左右の被加工材支持テーブルとしての可動テーブル23L,23Rが設けられている。
【0024】
前記レーザ加工ヘッド11の下端部におけるほぼ中央部には加工部としてのノズル25が設けられており、このノズル25から、前記集光用光学系で集光されたレーザビームLBがこのレーザ加工ヘッド11の下方に位置決めされた被加工材Wの表面に照射されると同時に酸素または窒素などのアシストガスが噴射されて、被加工材Wに切断または溶接などのレーザ加工が行われる。なお、前記被加工材移動位置決め装置13およびレーザ発振器9はNC制御装置27によって適宜に制御されるものである。
【0025】
本実施例の加工ヘッドの基本構造を、図1を参照しながら説明する。
【0026】
本加工ヘッド11はノズル部25と、その周辺部に取り付けられた上部ブラシ40とからなる。一方、固定テーブル21、可動テーブル23L、23Rには前記上部ブラシと同一の素材からなる下部ブラシ41が所定の範囲に平面的に植設されている。加工対象であるワークWは、これら上部ブラシと下部ブラシの間に挟まれた状態でノズル部25からのレーザ光等により、上部ブラシの中心部で加工されることになる。
【0027】
この上部ブラシの果たす機能としては、まず作業者に対してノズル部からのレーザ散乱光を遮蔽することがあげられる。同時に、レーザ加工によりワークから発生したスパッタの飛散を防止するという機能も有する。また、上下ブラシでレーザ加工時にワークで挟み込む状態になるので、製品姿勢を安定化するという機能も有している。製品姿勢が安定化することで、加工時に使用するアシストガスによるワークの浮き上がりを防止できるという大きな効果が発生する。特に、ワークが薄い金属板である場合にはその効果は大きい。更に、ワークのバタツキが防止されることで、ガウジング等の切断不良を防止することができ、酸素アシストガスを使用した高速切断が可能となる。
【0028】
一方、下部ブラシの果たす機能としては、上記した製品姿勢の安定化という機能の他に、ワークの下面に従来発生していたフリーベア痕を無くすことができること以外に、下向き成型(バーリング等)製品の邪魔にならないという機能を有している。このことで製品の搬送ラインであるパスラインを安定化できるという利点を有し、その結果テイクアウト時の吸着ミスが無くなるという効果がある。
【0029】
なお、上下ブラシの材料としては、従来使用された炭素繊維のみのブラシではなく、炭素繊維に鍍金した不燃ブラシを使用するものとする。この場合の炭素繊維としては、例えば7μmのブラシ繊維を約2000本の束として、2束を縒って凧糸状にしたものが想定される。このような素材を採用することで、スパッタ等の熱の影響を無くすことが可能となる。また鍍金としては、無電解の銅メッキとニッケルメッキを併用したものがある。
【0030】
更に、上ブラシはノズル周辺部に、下ブラシは加工テーブルの所定の位置に着脱可能な構造であるものとする。このような構造を採用することで、装置の清掃時において優れたメンテナンス性を有することになる。
【0031】
なお、上部ブラシについては、図2に示したように、スプリング等の弾性体39を介してノズル部に取り付けても良い。こうすることで、ワークに対して一定の押さえが可能となり、ブラシの消耗による影響を低減することが可能となる。
【0032】
更に、上記の実施例ではレーザ光が固定された位置から発せられる熱加工装置について述べたが、レーザ光が移動するタイプの熱加工装置であっても、下部ブラシは加工テーブル上に平面的に植設されているので問題はない。また、熱加工装置としてレーザ加工装置を述べたが、プラズマ加工装置であっても同様の効果が得られる。
【0033】
本実施例の熱加工装置は、以上述べたことから明らかなように、加工時に発生する高温のスパッタの影響を受けることのないブラシが植設された加工ヘッドを有することで、安定的な熱加工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例の熱加工装置の加工ヘッドを示す側面図
【図2】実施例の他の熱加工装置の構成を示す側面図
【図3】実施例の熱加工装置の全体を示し斜視図
【図4】従来の熱加工装置の加工ヘッドを示す側面図
【符号の説明】
【0035】
1 レーザ加工装置
3 下部フレーム
5 コラム
7 上部フレーム
9 レーザ発信器
11 加工ヘッド
13 被加工材移動位置決め装置
15 クランプ装置
17 X軸キャリッジ
19 Y軸キャリッジベース
21 固定テーブル
23R、23L 可動テーブル
25 ノズル
27 NC制御装置
33 上部ブラシ
34 フリーベアリング
35 ノズル芯出し用ノブ
37 ブラシ支持リング
39 弾性体
40 上部ブラシ
41 下部ブラシ
50 バーリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持テーブル上に被加工材を支持せしめた状態で加工ヘッドに備えられた加工部より熱ビームを前記被加工材へ向けて照射せしめて熱加工を行う熱加工装置において、
前記加工ヘッドに鍍金された炭素繊維からなる第一のブラシを植設せしめ、かつ前記支持テーブル上の所定の範囲に、鍍金された炭素繊維からなる第二のブラシを平面的に植設してなることを特徴とする熱加工装置。
【請求項2】
前記第一のブラシを前記加工ヘッドの加工部周辺に設けてなることを特徴とする請求項1記載の熱加工装置。
【請求項3】
支持テーブル上に被加工材を支持せしめた状態で加工ヘッドに備えられた加工部より熱ビームを被加工材へ向けて照射せしめて熱加工を行う熱加工装置において、
前記加工部に装着したブラシ支持部材を、前記被加工材の方向に付勢手段を介して前記加工ヘッドに設けると共に、
前記ブラシ支持部材の前記加工部を囲繞した外周部に鍍金された炭素繊維からなる第一のブラシを植設せしめ、かつ前記支持テーブル上の所定の範囲に、鍍金された炭素繊維からなる第二のブラシを平面的に植設してなることを特徴とする熱加工装置。
【請求項4】
前記第一及び第二のブラシの炭素繊維に施される鍍金が、銅鍍金とニッケル鍍金であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の熱加工装置。
【請求項5】
前記熱加工装置がレーザ加工装置またはプラズマ加工装置であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の熱加工装置。
【請求項6】
加工部を先端のほぼ中心部に備えた加工ヘッドであって、前記加工部を囲繞した加工ヘッドの先端の外周部に鍍金された炭素繊維からなるブラシを植設してなることを特徴とする加工ヘッド。
【請求項7】
加工部を先端のほぼ中心部に備えた加工ヘッドであって、前記加工部を装着したブラシ支持部材を、前記被加工材の方向に付勢手段を介して前記加工ヘッドに設けると共に、前記ブラシ支持部材の前記加工部を囲繞した外周部に鍍金された炭素繊維からなるブラシを植設してなることを特徴とする加工ヘッド。
【請求項8】
前記炭素繊維に施される鍍金が、銅鍍金とニッケル鍍金であることを特徴とする請求項6または7記載の加工ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−214129(P2009−214129A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59358(P2008−59358)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(390014672)株式会社アマダ (548)
【Fターム(参考)】