説明

熱収縮性ポリスチレン系フィルム、およびその製造方法

【課題】主収縮方向である長手方向への収縮性が高い上、ミシン目開封性が良好でタフネス性の高い熱収縮性ポリスチレン系フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、主収縮方向が長手方向になっている。そして、90℃の温水中で10秒間処理した場合における長手方向の温湯熱収縮率、90℃の温水中で10秒間処理した場合における幅方向の温湯熱収縮率、80℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後の幅方向の直角引裂強度、長手方向および幅方向の破断エネルギーが、それぞれ、所定の範囲となるように調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリスチレン系フィルム、およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、ラベル用途に好適な熱収縮性ポリスチレン系フィルム、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、包装品の外観向上のための外装、内容物の直接的な衝突を避けるための包装、ガラス瓶またはプラスチックボトルの保護と商品の表示を兼ねたラベル包装等の用途に、各種の樹脂からなる熱収縮プラスチックフィルムが広汎に使用されている。それらの熱収縮プラスチックフィルムの内、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等からなる延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ポリエチレン容器、ガラス容器等の各種の容器において、ラベルやキャップシールあるいは集積包装の目的で使用される。ところが、ポリ塩化ビニル系フィルムは、収縮特性には優れるものの、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となる等の問題がある。
【0003】
それゆえ、焼却時にダイオキシンの問題が生じないポリスチレン系フィルムが、収縮ラベルとして広汎に利用されるようになってきており、PET容器の流通量の増大に伴って、使用量が増加している傾向にある。また、通常の熱収縮性ポリスチレン系フィルムとしては、幅方向に高倍率に延伸されており幅方向に大きく収縮するもの(すなわち、主収縮方向が幅方向であるもの)が広く利用されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−94520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した幅方向に延伸した熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、実用上問題のないタフネス性を有しているものの、ポリエステルフィルム等に比べると、所謂タフネス性が不足しており、ラベルとして使用した際に、装着されたボトルを落下させてしまうと、ラベルがミシン目から裂けてしまう虞れがある。
【0006】
加えて、幅方向に収縮する熱収縮性フィルムは、ボトルのラベルとして装着する際には、幅方向がボトルの周方向となるように筒状体を形成した上で、その筒状体を所定の長さ毎に切断してボトルに装着して熱収縮させなければならないため、高速でボトルに装着するのが困難である。さらに、近年では、お弁当等の合成樹脂製の片開き容器の周囲(開口部)を帯状のフィルムで覆うことによって容器を閉じた状態で保持する新規なラッピング方法が開発されているが、上記した幅方向に収縮するフィルムは、そのような用途に対する使い勝手が悪かった。
【0007】
本発明の目的は、上記従来の熱収縮性ポリスチレン系フィルムが有する問題点を解消し、主収縮方向である長手方向への収縮性が良好であるのみならず、主収縮方向がボトルの周方向になるようにフィルムロールから直接的にボトルの周囲に装着することが可能で、上述した新規なラッピング用途に対する使い勝手の良い実用的な熱収縮性ポリスチレン系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のうち、請求項1に記載された発明は、ポリスチレン系樹脂によって一定幅の長尺状に形成されており、主収縮方向が長手方向である熱収縮性ポリスチレン系フィルムであって、下記要件(1)〜(5)を満たすことを特徴とするものである。
(1)90℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合における長手方向の温湯熱収縮率が25%以上80%以下であること
(2)90℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合における長手方向と直交する幅方向の温湯熱収縮率が−5%以上10%以下であること
(3)80℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後の単位厚み当たりの幅方向の直角引裂強度が50N/mm以上200N/mm以下であること
(4)30℃の雰囲気下で2週間以上保管した後に、23℃の雰囲気下で引張試験を行った場合の長手方向および幅方向の破断エネルギーが、いずれも1,000MPa・%以上10,000MPa・%以下であること
【0009】
ここで 破断エネルギーとは、下式1で表される物性値である。
破断エネルギー[MPa・%]=破断強度[MPa]×破断伸度[%] ・・式1
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、ポリスチレン系樹脂が、アタクチックポリスチレンを主成分とするものであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または請求項2に記載された発明において、ポリスチレン系樹脂原料が、スチレンを主体として、共役ジエンモノマー、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのうちの少なくとも一つを共重合させたものであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載された発明において、前記共重合が、ランダム共重合であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に記載された発明は、請求項3に記載された発明において、前記共重合が、ブロック共重合であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に記載された発明は、請求項3に記載された発明において、前記共重合が、グラフト共重合であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に記載された発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の熱収縮性ポリスチレン系フィルムを製造するための製造方法であって、未延伸フィルムを、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態でTg+5℃以上Tg+40℃以下の温度で幅方向に2.5倍以上6.0倍以下の倍率で延伸した後、100℃以上170℃以下の温度で1.0秒以上30.0秒以下の時間に亘って熱処理し、しかる後、フィルムの幅方向の両端縁のクリップ把持部分を切断除去した後、Tg+5℃以上Tg+50℃以下の温度で長手方向に1.5倍以上5.5倍以下の倍率で延伸することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、主収縮方向である長手方向への収縮性が高く、ミシン目開封性、タフネス性が良好である。それに加えて、主収縮方向と直交するミシン目に沿って引き裂く場合の引き裂き性(ミシン目開封性)が、今までの熱収縮性ポリスチレン系フィルムに比べて一段と良好である。したがって、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、ボトル等の容器のラベルとして好適に用いることができ、ボトル等の容器に短時間の内に非常に効率良く装着することが可能となる上、装着後に熱収縮させた場合に、熱収縮によるシワや収縮不足のきわめて少ない良好な仕上がりを発現させることができる。加えて、装着されたラベルは、良好なタフネス性、非常に良好なミシン目開封性を発現するものとなる。
【0017】
また、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムの製造方法によれば、主収縮方向である長手方向への収縮性が高く、ミシン目開封性、タフネス性が良好な熱収縮性ポリスチレン系フィルムを、安価かつ容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明で使用するポリスチレン系樹脂としては、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体、スチレン含有率の異なる前記共重合体を2種類以上含む混合物、前記共重合体とスチレン炭化水素または共役ジエン系炭化水素と共重合可能なモノマーとの共重合体、またはこれらの混合物を用いることができ、その中でも、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体を用いることが好ましい。
【0019】
スチレン系炭化水素としては、たとえば、ポリスチレン、ポリ(p−、m−またはo−メチルスチレン)、ポリ(2,4−、2,5−、3,4−または3,5−ジメチルスチレン)、ポリ(p−t−ブチルスチレン)等のポリアルキルスチレン;ポリ(o−、m−またはp−クロロスチレン)、ポリ(o−、m−またはp−ブロモスチレン)、ポリ(o−、m−またはp−フルオロスチレン)、ポリ(o−メチル−p−フルオロスチレン)等のポリハロゲン化スチレン;ポリ(o−、m−またはp−クロロメチルスチレン)等のポリハロゲン化置換アルキルスチレン;ポリ(p−、m−またはo−メトキシスチレン)、ポリ(o−、m−またはp−エトキシスチレン)等のポリアルコキシスチレン;ポリ(o−、m−、またはp−カルボキシメチルスチレン)等のポリカルボキシアルキルスチレン;ポリ(p−ビニルベンジルプロピルエーテル)等のポリアルキルエーテルスチレン;ポリ(p−トリメチルシリルスチレン)等のポリアルキルシリルスチレン;さらにはポリビニルベンジルジメトキシホスファイド等を挙げることができる。スチレン系炭化水素は、これら単独または2種以上で構成されていても良い。なお、これらのスチレン系炭化水素は、アタクチック構造であることが好ましい。
【0020】
共役ジエン系炭化水素としては、たとえば、ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等を挙げることができる。共役ジエン系炭化水素は、これら単独または2種以上で構成されていても良い。
【0021】
スチレン系炭化水素と共重合可能なモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2一エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の脂肪族不飽和カルボン酸エステルを挙げることができる。その中でも特に、スチレンとブチル(メタ)アクリレートとの共重合体が好ましく、さらにその中でも共重合体中のスチレン含有率が40質量%以上90質量%以下の範囲であり、Tg(損失弾性率E’’のピーク温度)が50℃以上90℃以下、メルトフローレート(MFR)測定値(測定条件:温度200℃、荷重49N)が2g/10分以上15g/10分以下のものを好適に用いることができる。なお、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを示す。
【0022】
共役ジエン系炭化水素と共重合可能なモノマーとしては、たとえば、アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0023】
本発明で好ましく使用されるスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体の一つは、スチレン系炭化水素がスチレンであり、共役ジエン系炭化水素がブタジエンであるスチレン−ブタジエン系共重合体(SBS)である。SBSのスチレン含有率は40質量%以上、好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。またスチレン含有率の上限は95質量%、好ましくは90質量%、さらに好ましくは85質量%である。スチレンの含有率が60質量%以上であれば、耐衝撃性の効果が発揮でき、また上限を95質量%とすることにより、室温前後の温度でのフィルムの弾性率が保持され、良好な腰の強さを得ることができる。スチレン系樹脂としてスチレン−共役ジエン系共重合体、スチレン−アクリル酸エステル系共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル系共重合体を用いる場合の重合形態は、特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、およびテーパーブロック構造やグラフト構造を有する共重合体のいずれの態様であっても良いが、ブロック共重合体が好ましい。なお、コスト面のみを考慮すると、ランダム共重合体やグラフトタイプ共重合体を用いるのが好ましい。
【0024】
上記SBS樹脂の市販品としては、たとえば、「クリアレン」(電気化学工業社製)、「アサフレックス」(旭化成ケミカルズ社製)、「スタイロフレックス」(BASFジャパン社製)、「Kレジン」(シェブロンフィリップス化学社製)等を挙げることができる。
【0025】
また、上記スチレン系樹脂組成物は単独で用いても良いし、スチレン含有率の異なる2種以上のスチレン系樹脂を混合して用いても良い。さらに、上記スチレン系樹脂組成物は、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体と、前記共重合体とスチレン系炭化水素または共役ジエン系炭化水素と共重合可能なモノマーとの共重合体との混合物であっても良い。
【0026】
上記スチレン系樹脂組成物は、重量(質量)平均分子量(Mw)が100,000以上、好ましくは150,000以上であり、上限が500,000以下、好ましくは400,000以下、さらに好ましくは300,000以下である。スチレン系樹脂組成物の重量(質量)平均分子量(Mw)が100,000以上であれば、フィルムの劣化が生じるような欠点もないので好ましい。さらに、スチレン系樹脂組成物の重量(質量)平均分子量が500,000以下であれば、流動特性を調整する必要なく、押出性が低下する等の欠点もないため好ましい。
【0027】
上記スチレン系樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)の測定値(測定条件:温度200℃、荷重49N)は、2g/10分以上、好ましくは3g/10分以上であり、上限が15g/10分以下、好ましくは10g/10分以下、さらに好ましくは8g/10分以下であることが望ましい。MFRが2g/10分以上であれば、押出成型時に適度な流動粘度が得られ、生産性を維持または向上させることができる。また、MFRが15g/10分以下であれば、適度な樹脂の凝集力が得られるため、良好なフィルム強伸度を得ることができ、フィルムを脆化し難くすることができる。
【0028】
また、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、90℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、下式2により算出したフィルムの長手方向の熱収縮率(すなわち、90℃の温湯熱収縮率)が、25%以上80%以下であることが必要である。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) ・・式2
【0029】
90℃における長手方向の温湯熱収縮率が25%未満であると、収縮量が小さいために、熱収縮した後のラベルにシワやタルミが生じてしまうので好ましくない。なお、90℃における長手方向の温湯熱収縮率の下限値は、30%以上であると好ましく、35%以上であるとより好ましく、40%以上であると特に好ましい。なお、原料であるポリスチレン系樹脂の本質的な特性を考慮すると、90℃における長手方向の温湯熱収縮率の上限値は、80%程度と考えている。
【0030】
また、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、90℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、上式2により算出したフィルムの幅方向の温湯熱収縮率が、−5%以上10%以下であることが必要である。なお、−(マイナス)の温湯熱収縮率は、フィルムの伸張を意味する。
【0031】
90℃における幅方向の温湯熱収縮率が−5%未満(たとえば、−7%)であると、ボトルのラベルとして使用する際に良好な収縮外観を得ることができないので好ましくなく、反対に、90℃における幅方向の温湯熱収縮率が10%を上回ると、ラベルとして用いた場合に熱収縮時に収縮に歪みが生じ易くなるので好ましくない。なお、90℃における幅方向の温湯熱収縮率の下限値は、−3%以上であると好ましく、0%であるのが最も好ましい。また、90℃における幅方向の温湯熱収縮率の上限値は、8%以下であると好ましく、6%以下であるとより好ましく、4%以下であると特に好ましい。
【0032】
また、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、80℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後に、以下の方法で単位厚み当たりの幅方向の直角引裂強度を求めたときに、その幅方向の直角引裂強度が50N/mm以上200N/mm以下であることが必要である。
【0033】
[直角引裂強度の測定方法]
所定の長さを有する矩形状の枠にフィルムを予め弛ませた状態で装着する(すなわち、フィルムの両端を枠によって把持させる)。そして、弛んだフィルムが枠内で緊張状態となるまで(弛みがなくなるまで)、約5秒間に亘って80℃の温水に浸漬させることによって、フィルムを長手方向に10%収縮させる。しかる後に、JIS−K−7128に準じて所定の大きさの試験片としてサンプリングする。しかる後に、万能引張試験機で試験片の両端を掴み、引張速度200mm/分の条件にて、フィルムの幅方向における引張破壊時の強度の測定を行う。そして、下式3を用いて単位厚み当たりの直角引裂強度を算出する。
直角引裂強度=引張破壊時の強度÷厚み ・・式3
【0034】
80℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後の直角引裂強度が50N/mm未満であると、ラベルとして使用した場合に運搬中の落下等の衝撃によって簡単に破れてしまう事態が生ずる可能性があるので好ましくなく、反対に、直角引裂強度が200N/mmを上回ると、ラベルを引き裂く際の初期段階におけるカット性(引き裂き易さ)が不良となるため好ましくない。なお、直角引裂強度の下限値は、70N/mm以上であると好ましく、90N/mm以上であるとより好ましく、110N/mm以上であると特に好ましい。また、直角引裂強度の上限値は、180N/mm以下であると好ましく、160N/mm以下であるとより好ましく、140N/mm以下であると特に好ましい。
【0035】
なお、ラベルをミシン目部分において引裂く際のカット性に関しては、上記に記載したようなミシン目の最初の部分(ラベルの上端あるいは下端の部分)の引裂き易さ(切り欠きの入り易さ)と、ミシン目に沿って斜めにずれたり途中でタブが切れたりせず、軽い力でミシン目方向に最後まで裂けるような引裂き易さ(ミシン目方向と直角方向との引裂き易さのバランス)との両方が、実際に手でラベルを剥がす際の作業のし易さに寄与するものと考えるが、後者はミシン目のピッチの改良等により幾分改善することができるようになり、また前者のミシン目の最初の部分の引裂き易さの方が、実際に手でラベルを引裂く際の官能評価とよりよく対応しており、より重要な特性と考えられる。従って、本発明の熱収縮ポリスチレン系フィルムは上記範囲の直角引裂強度であることが必要である。しかし、後者のミシン目方向と直角方向との引裂き易さのバランスをある特定の範囲にすることは本発明の熱収縮ポリスチレン系フィルムのミシン目開封性をより向上させることができるので好ましい。具体的には、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、80℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後に、以下の方法で長手方向および幅方向のエルメンドルフ引裂荷重を求めたときに、それらのエルメンドルフ引裂荷重の比であるエルメンドルフ比が0.35以上1.5以下であることが好ましい。
【0036】
[エルメンドルフ比の測定方法]
所定の長さを有する矩形状の枠にフィルムを予め弛ませた状態で装着する(すなわち、フィルムの両端を枠によって把持させる)。そして、弛んだフィルムが枠内で緊張状態となるまで(弛みがなくなるまで)、約5秒間に亘って80℃の温水に浸漬させることによって、フィルムを長手方向に10%収縮させる。しかる後に、JIS−K−7128に準じて、フィルムの長手方向および幅方向のエルメンドルフ引裂荷重の測定を行い、下式4を用いてエルメンドルフ比を算出する。
エルメンドルフ比=長手方向のエルメンドルフ引裂荷重÷幅方向のエルメンドルフ引裂荷重 ・・式4
【0037】
エルメンドルフ比が0.35未満であると、ラベルとして使用した場合にミシン目に沿って真っ直ぐに引き裂きにくいので好ましくない。反対にエルメンドルフ比が1.5を上回ると、ミシン目とずれた位置で裂け易くなるので好ましくない。なお、エルメンドルフ比の下限値は、0.40以上であると好ましく、0.45以上であるとより好ましく、0.50以上であると特に好ましい。また、エルメンドルフ比の上限値は、1.4以下であると好ましく、1.3以下であるとより好ましく、1.2以下であると特に好ましい。
【0038】
また、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、30℃の雰囲気下で2週間以上保管した後に、23℃の雰囲気下で引張試験を行った場合の長手方向および幅方向の破断エネルギー(上式1によって算出されるもの)が、いずれも1,000MPa・%以上10,000MPa・%以下であることが必要である。
【0039】
破断エネルギーとは、上式1で表される物性値のことであり、フィルムの強靭性(タフネスさ)の指標となると考えている。加工時の引張り(たとえば、印刷時のフィルムへのテンション)や収縮包装後のラベルへの衝撃(たとえば、ボトル落下時)等による変形に対する耐裂け性や耐破れ性を良好なものとするためには、かかる破断エネルギーを高める必要があると考えている。破断エネルギーが1,000MPa・%未満であると、経時(商品として消費されるまでの流通保管等に起因した経時)により脆くなり易いので好ましくない。なお、破断エネルギーの下限値は、1,500MPa・%以上であると好ましく、2,000MPa・%以上であるとより好ましい。また、破断エネルギーは、大きいほど好ましいが、原料であるポリスチレンの特性を考慮すると、10,000MPa・%程度が上限になると考えている。
【0040】
一方、本発明においてはフィルムの長手方向の最大熱収縮応力値が3.0(MPa)以上であることが好ましい。フィルムの長手方向の最大熱収縮応力値が3.0(MPa)未満であると、PETボトル等の容器にラベルとして装着して熱収縮させた場合に、PETボトルのキャップの開放時にキャップと一緒にラベルが回転してキャップの開封性を悪化させる事態が生じ得るので好ましくない。なお、フィルムの長手方向の最大熱収縮応力値は、4.0(MPa)以上であるとより好ましく、5.0(MPa)以上であると特に好ましい。なお、最大熱収縮応力値は、原料であるポリスチレンの特性を考慮すると、10(MPa)程度が上限になると考えている。
【0041】
上記の熱収縮フィルムの熱収縮率、直角引裂強度、エルメンドルフ比、破断エネルギーは、前述の好ましいフィルム組成を用いて、後述の好ましい製造方法と組み合わせることにより達成することが可能となる。
【0042】
本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムの厚みは、特に限定するものではないが、ラベル用熱収縮性フィルムとして10〜200μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。
【0043】
また、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、上記したポリスチレン原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す方法により、二軸延伸して熱処理することによって得ることができる。
【0044】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリスチレン原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリスチレン原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200〜300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。かかる押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0045】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金より回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0046】
さらに、得られた未延伸フィルムを、後述するように、所定の条件で幅方向に延伸した後に、一旦、熱緩和処理し、しかる後に所定の条件で長手方向に延伸し、その縦延伸後のフィルムを冷却することによって、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムを得ることが可能となる。以下、本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムを得るための好ましい二軸延伸方法について、従来の熱収縮性ポリスチレン系フィルムの二軸延伸方法との差異を考慮しつつ詳細に説明する。
【0047】
[熱収縮性ポリスチレン系フィルムの好ましい製膜方法]
上記したように、単純に幅方向に延伸した熱収縮性フィルムは、実用上問題のないタフネス性を有しているものの、ポリエステルフィルム等に比べると、所謂タフネス性が不足している。一方、従来から長手方向に収縮する熱収縮性フィルムについての要求は高いものの、未延伸フィルムを単純に長手方向に延伸するだけでは、幅の広いフィルムが製造できないため生産性が悪い上、厚み斑の良好なフィルムを製造することができない。また、単純に幅方向に延伸した後に長手方向に延伸する方法を採用すると、長手方向への収縮量が不十分となったり、幅方向に不必要に収縮するものとなってしまう。
【0048】
本発明者らは、幅方向の延伸後に長手方向に延伸する方法(以下、横−縦延伸法という)において、各延伸工程における条件によりフィルムの長手方向の温湯収縮率、タフネス性がどのように変化するかについて鋭意検討した。その結果、横−縦延伸法によるフィルム製造の際に、以下の手段を講じることにより、長手方向の収縮量が高く、タフネス性が良好なフィルムを安定して製造することが可能となることを突き止めた。加えて、主収縮方向と直交する方向のミシン目開封性が、今までのものと比べて一段と向上することが判明した。そして、本発明者らは、それらの知見に基づいて本発明を案出するに至った。
(1)幅方向への延伸後における中間熱緩和処理
(2)長手方向へ延伸する前のフィルム端部のトリミング
以下、上記した各手段について順次説明する。
【0049】
(1)幅方向への延伸後における中間熱緩和処理
本発明の横−縦延伸法によるフィルムの製造においては、未延伸フィルムを幅方向に延伸した後に、100℃以上170℃以下の温度で1.0秒以上30.0秒以下の時間に亘って熱緩和処理(以下、中間熱緩和処理という)することが必要である。かかる中間熱緩和処理を行うことによって、ラベルとした場合にミシン目カット性、タフネス性が良好で収縮斑が生じないフィルムを得ることが可能となる。そのように横延伸後に特定の中間熱緩和処理を施すことによりミシン目カット性、タフネス性が良好で収縮斑が生じないフィルムを得ることが可能となる理由は明らかではないが、特定の中間熱緩和処理を施すことによって、幅方向への分子配向をある程度残存させつつ、幅方向の収縮応力を低減させることが可能となるためではないかと考えている。
【0050】
また、中間熱緩和処理を行わなかったり、中間熱緩和処理の温度が100℃未満であったりすると、縦延伸における幅の減少が著しく、平面性の良好なフィルムを得ることができないので好ましくない。なお、熱緩和処理の温度の下限は、110℃以上であると好ましく、115℃以上であるとより好ましい。また、熱緩和処理の温度の上限は、165℃以下であると好ましく、160℃以下であるとより好ましい。一方、熱緩和処理の時間は、1.0秒以上30.0秒以下の範囲内で原料組成に応じて適宜調整する必要がある。
【0051】
また、未延伸フィルムの幅方向への延伸は、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg+5℃以上Tg+40℃以下の温度で2.5倍以上6.0倍以下の倍率となるように行う必要がある。延伸温度がTg+5℃を下回ると、延伸時に破断を起こし易くなるので好ましくなく、反対にTg+40℃を上回ると、幅方向の厚み斑が悪くなるので好ましくない。なお、横延伸の温度の下限は、Tg+10℃以上であると好ましく、Tg+15℃以上であるとより好ましい。また、横延伸の温度の上限は、Tg+35℃以下であると好ましく、Tg+30℃以下であるとより好ましい。一方、幅方向の延伸倍率が2.5倍を下回ると、生産性が悪いばかりでなく幅方向の厚み斑が悪くなるので好ましくなく、反対に6.0倍を上回ると、延伸時に破断を起こし易くなる上、熱緩和させるのに多大なエネルギーと大掛かりな装置が必要となり、生産性が悪くなるので好ましくない。なお、横延伸の倍率の下限は、3.0倍以上であると好ましく、3.5倍以上であるとより好ましい。また、横延伸の倍率の上限は、5.5倍以下であると好ましく、5.0倍以下であるとより好ましい。
【0052】
(2)長手方向へ延伸する前のフィルム端部のトリミング
本発明の横−縦延伸法によるフィルムの製造においては、中間熱緩和処理を施したフィルムを長手方向に延伸する前に、フィルム端縁際の十分に横延伸されていない肉厚部分(主として横延伸時のクリップ把持部分)をトリミングすることが必要である。より具体的には、フィルムの左右の端縁際に位置した中央部分の厚みの約1.1〜1.3倍の厚みの部分においてカッター等の工具を用いてフィルム端縁際の肉厚部分を切断し、肉厚部分を除去しつつ、残りの部分のみを長手方向に延伸することが必要である。なお、上記の如くフィルム端部をトリミングする際には、トリミングする前のフィルムの表面温度が50℃以下となるように冷却しておくことが好ましい。そのようにフィルムを冷却することにより、切断面を乱すことなくトリミングすることが可能となる。また、フィルム端部のトリミングは、通常のカッター等を用いて行うことができるが、周状の刃先を有する丸刃を用いると、局部的に刃先が鈍くなる事態が起こらず、フィルム端部を長期間に亘ってシャープに切断し続けることができ、長手方向への延伸時における破断を誘発する事態が生じないので好ましい。
【0053】
かかる如く、長手方向への延伸前にフィルムの端部をトリミングすることによって、一旦熱固定したフィルムを均一に長手方向へ延伸することが可能となり、初めて破断のない安定したフィルムの連続製造が可能となる。加えて、長手方向(主収縮方向)の収縮量の大きなフィルムを得ることが可能となる。さらに、フィルムを均一に長手方向へ延伸することが可能となるため、長手方向の厚み斑の小さなフィルムを得ることができる。その上、フィルムの端部をトリミングすることによって、長手方向への延伸時におけるボーイングが回避され、左右の物性差の小さなフィルムを得ることが可能となる。
【0054】
なお、上記した(1),(2)の手段の内の何れかのみが、フィルムの長手方向における熱収縮性、ミシン目開封性、タフネス性、安定した製膜性に有効に寄与するものではなく、(1),(2)の手段を組み合わせて用いることにより、非常に効率的に、長手方向における熱収縮性、ミシン目開封性、タフネス性、安定した製膜性を発現させることが可能となるものと考えられる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。実施例、比較例で使用した原料の性状、組成、実施例、比較例におけるフィルムの製造条件(延伸・熱処理条件等)を、それぞれ表1、表2に示す。なお、実施例および比較例に用いたポリスチレンは以下の通りである。
・ポリスチレン1:スチレン45モル%、ブタジエン21モル%、アクリル酸ブチル21モル%、メタクリル酸メチル13モル%からなるグラフトタイプ共重合ポリスチレンで、スチレン部分はアタクテイック構造であるもの(MFR3.5g/10分)
・ポリスチレン2:スチレン50モル%、ブタジエン25モル%、アクリル酸ブチル20モル%、メタクリル酸メチル5モル%からなるグラフトタイプ共重合ポリスチレンで、スチレン部分はアタクテイック構造であるもの(MFR3.5g/10分)
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
フィルムの評価方法は下記の通りである。
【0059】
[Tg(ガラス転移点)]
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgを、−40℃から120℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引き、その交点をTg(ガラス転移点)とした。
【0060】
[Tm(融点)]
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgを採取し、室温より昇温速度10℃/分で昇温した時の吸熱曲線のピークの温度より求めた。
【0061】
[熱収縮率(温湯熱収縮率)]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、所定温度(80℃,90℃)±0.5℃の温水中において、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、上式2にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。当該熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
【0062】
[最大熱収縮応力値]
延伸したフィルムを、主収縮方向×主収縮方向と直交する方向=200mm×15mmのサイズにカットした。しかる後、万能引張試験機((株)島津製作所製 オートグラフ)を温度90℃に調整した上で、カットしたフィルムをセットし、60秒間保持したときの最大の応力値を測定した。
【0063】
[直角引裂強度]
80℃に調整された温湯中にてフィルムを主収縮方向に10%収縮させた後に、JIS−K−7128に準じて、図1に示す形状にサンプリングすることによって試験片を作製した(なお、サンプリングにおいては、試験片の長手方向をフィルムの主収縮方向とした)。しかる後に、万能引張試験機((株)島津製作所製 オートグラフ)で試験片の両端を掴み、引張速度200mm/分の条件にて、フィルムの幅方向における引張破壊時の強度の測定を行い、上式3を用いて単位厚み当たりの直角引裂強度を算出した。
【0064】
[エルメンドルフ比]
得られたフィルムを矩形状の枠に予め弛ませた状態で装着し(フィルムの両端を枠によって把持させ)、弛んだフィルムが枠内で緊張状態となるまで(弛みがなくなるまで)、約5秒間に亘って80℃の温水に浸漬させることによって、フィルムを主収縮方向に10%収縮させた(以下、予備収縮という)。しかる後に、JIS−K−7128に準じて、主収縮方向×直交方向=63mm×75mmのサイズに切り取り、長尺な端縁(直交方向に沿った端縁)の中央から当該端縁に直交するように20mmのスリット(切り込み)を入れることによって試験片を作製した。そして、作製された試験片を用いて主収縮方向のエルメンドルフ引裂荷重の測定を行った。また、上記方法と同様な方法でフィルムを主収縮方向に予備収縮させた後に、フィルムの主収縮方向と直交方向とを入れ替えて試験片を作製し、直交方向のエルメンドルフ引裂荷重の測定を行った。そして、得られた主収縮方向方向および主収縮方向と直交する方向のエルメンドルフ引裂荷重から上式4を用いてエルメンドルフ比を算出した。
【0065】
[破断エネルギー]
フィルムを30℃×2週間保管後した後に、幅10mm×長さ150mmの試験片をサンプリングし、(株)島津製作所製「オートグラフ」を用いて、初期長40mm、引張速度200mm/minにて、JIS−K7127に準じて主収縮方向および直交方向それぞれについて引張破断強度および破断伸度を求め、上式1によって破断エネルギーを求めた
【0066】
<収縮仕上り性>
得られたフィルムロールを、約200mmの幅にスリットした上で、所定の長さに分割して巻き取ることによって小型のスリットロールを作成し、そのスリットロールに、予め東洋インキ製造(株)の草色・金色・白色のインキを用いて、ラベル用の印刷(3色印刷)を繰り返し施した。また、各ラベル用印刷毎に、フィルムロールの長手方向と直交する方向に、フィルム全幅に亘るミシン目(約2mm間隔で約1mm径の円が連続するミシン目)を、約22mmの間隔で2本平行に形成した。そして、ラベル用の印刷が施されたロール状のフィルムの片方の端部を、500mlのPETボトル(胴直径 62mm、ネック部の最小直径25mm)の外周の一部に塗布した粘着剤の上に重ねることによって接着し、その状態で、ロール状のフィルムを所定の長さだけ引き出して、PETボトルの外周に捲回させた。しかる後、ペットボトルの外周で重なり合った熱収縮性フィルム同士を上記した粘着剤によって貼り合わせながら、カッターにより外側のフィルムを鉛直方向に切断することによって、ペットボトルの外周にラベルを被覆させた。そして、Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式;SH−1500−L)を用い、ラベルを被覆させたペットボトルを、通過時間2.5秒、ゾーン温度80℃の条件下で通過させ、500mlのPETボトルの外周においてラベルを熱収縮させることによってラベルの装着を完了した。なお、装着の際には、ネック部においては、直径40mmの部分がラベルの一方の端になるように調整した。収縮後の仕上がり性の評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
◎:シワ,飛び上り、収縮不足の何れも未発生で、かつ色の斑も見られない
○:シワ,飛び上り、または収縮不足が確認できないが、若干、色の斑が見られる
△:飛び上り、収縮不足の何れも未発生だが、ネック部の斑が見られる
×:シワ、飛び上り、収縮不足が発生
【0067】
[ミシン目開封性]
予め主収縮方向とは直向する方向にミシン目を入れておいたラベルを、上記した収縮仕上り性の測定条件と同一の条件でPETボトルに装着した。ただし、ミシン目は、長さ1mmの孔を2mm間隔で入れることによって形成し、ラベルの縦方向(高さ方向)に幅22mm、長さ120mmに亘って2本設けた。その後、このボトルに水を500ml充填し、5℃に冷蔵し、冷蔵庫から取り出した直後のボトルのラベルのミシン目を指先で引裂き、縦方向にミシン目に沿って綺麗に裂け、ラベルをボトルから外すことができた本数を数え、全サンプル50本に対する割合(%)を算出した。
【0068】
[タフネス性(落下強度)]
上記した収縮仕上り性の評価と同様にラベルを装着したPETボトルを、1mの高さからボトル底面が床に当たるように落下させ、ラベルの裂け具合を目視にて評価した。ラベルに裂け目が発生したものを不良とし、PETボトル10本中の不良本数の割合が30%以下で裂け目ができにくいものをタフネス性○とし、不良率40%以上で裂け易いものをタフネス性×とした。
【0069】
[実施例1]
上記したポリスチレン1を押出機に投入し、220℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが360μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/min.であった。また、未延伸フィルムのTgは72℃であった。しかる後、その未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱緩和処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、当該テンターにおいては、横延伸ゾーンと中間熱緩和処理ゾーンとの中間に位置した中間ゾーンの長さが、約40cmに設定されている。また、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている。
【0070】
そして、テンターに導かれた未延伸フィルムを予備加熱(設定温度90℃)した後、横延伸ゾーンで横方向に82℃で4倍に延伸し、中間ゾーンを通過させた後に、中間熱緩和処理ゾーンへ導き、120℃の温度で12秒間に亘って熱処理することによって厚み90μmの横一軸延伸フィルムを得た。しかる後、テンターの後方に設けられた左右一対のトリミング装置(周状の刃先を有する丸刃によって構成されたもの)を利用して、横一軸延伸フィルムの端縁際(中央のフィルム厚みの約1.2倍の厚みの部分)を切断し、切断部位の外側に位置したフィルムの端部を連続的に除去した。
【0071】
さらに、そのように端部をトリミングしたフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後に、表面温度95℃に設定された低速延伸ロールと内部の循環水の温度が30℃に設定された高速延伸ロールとの間で3倍に延伸し、巻き取ることによって、約30μmの二軸延伸フィルム(熱収縮性ポリスチレン系フィルム)を所定の長さに亘って巻き取ったフィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0072】
[実施例2]
ポリスチレン原料を上記したポリスチレン2に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0073】
[実施例3]
テンターにおける横方向の延伸倍率を5.0倍に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。なお、熱収縮性ポリスチレン系フィルムの厚みは約24μmであった。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0074】
[実施例4]
テンターにおける中間熱緩和処理の温度を130℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。なお、熱収縮性ポリスチレン系フィルムの厚みは約30μmであった。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0075】
[実施例5]
縦延伸機における長手方向の延伸倍率を2.3倍に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。なお、熱収縮性ポリスチレン系フィルムの厚みは約39μmであった。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0076】
[実施例6]
縦延伸機における長手方向の延伸倍率を1.8倍に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。なお、熱収縮性ポリスチレン系フィルムの厚みは約50μmであった。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0077】
[比較例1]
未延伸フィルムの厚みが約150μmとなるように押出機の吐出量を調整した。それ以外は、実施例1と同様の方法によって未延伸フィルムを得た。そして、得られた未延伸フィルムを、横延伸、中間熱緩和処理することなく縦延伸機へ導き、実施例1と同様に縦延伸し、巻き取ることによって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。なお、熱収縮性ポリスチレン系フィルムの厚みは、約50μmであった。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0078】
[比較例2]
実施例1と同様にして得られた未延伸フィルムを、実施例1と同様に横延伸した後、中間熱緩和処理することなく縦延伸機へ導き、実施例1と同様に縦延伸し、巻き取ることによって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。しかしながら、縦延伸における幅の減少が著しく、平面性の良好なフィルムを得ることができなかった。
【0079】
[比較例3]
縦延伸機における長手方向の延伸倍率を1.2倍に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。なお、熱収縮性ポリスチレン系フィルムの厚みは約75μmであった。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0080】
[比較例4]
中間熱緩和処理の温度を80℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。しかしながら、縦延伸における幅の減少が著しく、平面性の良好なフィルムを得ることができなかった。
【0081】
[比較例5]
テンターにおける横方向の延伸倍率を2.0倍に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、熱収縮性ポリスチレン系フィルムを巻き取ったフィルムロールを得た。なお、熱収縮性ポリスチレン系フィルムの厚みは約60μmであった。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3から明らかなように、実施例1〜6で得られたフィルムは、いずれも、主収縮方向である長手方向への収縮性が高く、主収縮方向と直交する幅方向への収縮性は非常に低く、破断エネルギーが高かった。また、実施例1〜6で得られたフィルムは、いずれも、収縮斑もなく、収縮仕上がり性、ミシン目開封性、タフネス性が良好であった。すなわち、実施例で得られた熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、いずれもラベルとしての品質が高く、きわめて実用性の高いものであった。
【0084】
それに対して、比較例1で得られた熱収縮性フィルムは、幅方向の温湯熱収縮率、直角引裂強度が本発明の範囲を外れているため、ラベルを被覆する際に収縮斑が生じ、ミシン目開封性が不良であった。また、比較例3で得られた熱収縮性フィルムは、長手方向および幅方向の温湯熱収縮率、破断エネルギー(幅方向)が本発明の範囲を外れているため、ラベルとして被覆する際に収縮斑が生じ、ミシン目開封性が不良であり、タフネス性も不十分であった。加えて、比較例5で得られた熱収縮性フィルムは、破断エネルギー(長手方向)が本発明の範囲を外れているため、被覆したラベルのタフネス性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、上記の如く優れた加工特性を有しているので、ボトルのラベル用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】直角引裂強度の測定における試験片の形状を示す説明図である(なお、図中における試験片の各部分の長さの単位はmmである)。
【符号の説明】
【0087】
F・・フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂によって一定幅の長尺状に形成されており、主収縮方向が長手方向である熱収縮性ポリスチレン系フィルムであって、
下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリスチレン系フィルム。
(1)90℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合における長手方向の温湯熱収縮率が25%以上80%以下であること
(2)90℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合における長手方向と直交する幅方向の温湯熱収縮率が−5%以上10%以下であること
(3)80℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後の単位厚み当たりの幅方向の直角引裂強度が50N/mm以上200N/mm以下であること
(4)30℃の雰囲気下で2週間以上保管した後に、23℃の雰囲気下で引張試験を行った場合の長手方向および幅方向の破断エネルギーが、いずれも1,000MPa・%以上10,000MPa・%以下であること
【請求項2】
ポリスチレン系樹脂が、アタクチックポリスチレンを主成分とするものであることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリスチレン系フィルム。
【請求項3】
ポリスチレン系樹脂原料が、スチレンを主体として、共役ジエンモノマー、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのうちの少なくとも一つを共重合させたものであることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリスチレン系フィルム。
【請求項4】
前記共重合が、ランダム共重合であることを特徴とする請求項3に記載の熱収縮性ポリスチレン系フィルム。
【請求項5】
前記共重合が、ブロック共重合であることを特徴とする請求項3に記載の熱収縮性ポリスチレン系フィルム。
【請求項6】
前記共重合が、グラフト共重合であることを特徴とする請求項3に記載の熱収縮性ポリスチレン系フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱収縮性ポリスチレン系フィルムを製造するための製造方法であって、
未延伸フィルムを、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態でTg+5℃以上Tg+40℃以下の温度で幅方向に2.5倍以上6.0倍以下の倍率で延伸した後、100℃以上170℃以下の温度で1.0秒以上30.0秒以下の時間に亘って熱処理し、しかる後、フィルムの幅方向の両端縁のクリップ把持部分を切断除去した後、Tg+5℃以上Tg+50℃以下の温度で長手方向に1.5倍以上5.5倍以下の倍率で延伸することを特徴とする熱収縮性ポリスチレン系フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−174729(P2008−174729A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315501(P2007−315501)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】