説明

熱可塑性を示さないエラストマー組成物の製造方法

【課題】柔軟性及び低温耐久性に優れたエラストマー組成物の製造方法の提供。
【解決手段】式(II)及び(III ):
φd/(φm+φ1)x(ηml/ηd)<1 (II)
ηml/ηd=0.8−1.2 (III )
(式中、φd及びηdは、それぞれ、エラストマー成分(B)の体積分率及び粘度を示し、φmは熱可塑性樹脂(A)の体積分率を示し、φlは可塑剤(D)の体積分率を示し、ηmlは熱可塑性樹脂(A)と可塑剤(D)との混合物の溶融粘度を示す)
を満たす比率の熱可塑性樹脂(A)、エラストマー成分(B)及び可塑剤(D)を混合、成形した後、可塑剤(D)を揮発、抽出又は移行させて除去することによって、熱可塑性を示さない、柔軟性及び低温耐久性に優れたエラストマー組成物(C)を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性を示さないエラストマー組成物の製造方法に関し、更に詳しくは樹脂の特性を生かしつつ柔軟で低温耐久性に優れた熱可塑性を示さないエラストマー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂のマトリックス(連続相)中にゴムが微細分散(分散相)した熱可塑性エラストマー組成物は知られており、後で述べる式(IV)を満たすような条件下では樹脂がゴムをくるんだ海島構造になることは知られている(例えば特開2000−159936号公報参照)。熱可塑性樹脂がマトリックスとなる状態で得られる組成物をゴム状弾性体とするためには、ゴム量をできるだけ増やす必要があるが、ゴム量を多く配合すると連続相としての熱可塑性樹脂と、分散相としてのエラストマー成分の相が逆転するため調整された熱可塑性エラストマー組成物が、熱可塑性樹脂の流動性を示さず、成形不可能になるため、配合可能なゴム量には限界があった。
【発明の概要】
【0003】
従って、本発明の目的は、比較的少量の熱可塑性樹脂(A)のマトリックス中に比較的多量のエラストマー成分(B)を微細分散させた、柔軟で低温耐久性に優れたエラストマー組成物(C)の製造方法を提供することにある。
【0004】
本発明に従えば、更に式(II)及び(III ):
φd/(φm+φ1)x(ηml/ηd)<1 (II)
ηml/ηd=0.8−1.2 (III )
(式中、φd及びηdは、それぞれ、エラストマー成分(B)の体積分率及び粘度を示し、φmは熱可塑性樹脂(A)の体積分率を示し、φlは可塑剤(D)の体積分率を示し、ηmlは熱可塑性樹脂(A)と可塑剤(D)との混合物の溶融粘度を示す)
を満たす比率の熱可塑性樹脂(A)、エラストマー成分(B)及び可塑剤(D)を混合、成形した後、可塑剤(D)を揮発、抽出又は移行させて除去することによって前記熱可塑性を示さないエラストマー組成物(C)を製造する方法が提供される。
【0005】
本発明によれば、熱可塑性樹脂の特性(例えば耐熱性、低ガス透過性、耐薬品性)を生かしつつ柔軟な弾性体を得ることができるため、例えば熱可塑性樹脂としてナイロンを用い、エラストマーとしてブチル系ゴムを用いた場合には、耐熱性、低ガス透過性、耐薬品性、高動的耐久性を併せ持ったインナーライナーを作製することができる。同様の特性からホース内管、パッキングなどに用いることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決すべく研究を進めた結果、熱可塑性樹脂(A)とエラストマー成分(B)及び可塑剤(D)とを式(II)を満たす組成で混合成形して樹脂(A)が海、エラストマー(B)が島となる海島構造を作り、最終形状に成形した後、組成の一部を除去することによって通常に作成できる限界以上にエラストマーの比率を高めた海島構造から得られ、これによってマトリックスである熱可塑性樹脂(A)の特性を生かしつつ高いエラストマー量によって柔軟な弾性体を得ることが可能となる。
【0007】
従来より公知(特開平9−100413号公報、特開2000−159936号公報等参照)である、熱可塑性樹脂成分のマトリックスにエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物を製造するためには、以下の条件が必要である。すなわち、マトリックス(連続相)を形成する熱可塑性樹脂成分の体積分率をφm、溶融混練時の粘度をηmとし、一方、分散相を形成するエラストマー成分の体積分率をφd、同条件における粘度をηdとしたとき、
α=〔φd/φm〕×〔ηm/ηd〕
の値が1より小さくなるような体積分率で、両者を混練する必要がある。即ち、
〔φd/φm〕×〔ηm/ηd〕<1 (IV)
これは製造された熱可塑性エラストマー組成物のミクロ構造が上記αの値が1より小さい時には、熱可塑性樹脂成分が連続相(マトリックス)となり、エラストマー成分が分散相(ドメイン)となって存在するため、熱可塑性樹脂の成形法に従い、成形が出来るが、αが1以上の時には、この連続相と分散相が逆転してしまうため、調製された熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂の流動を示さず、従って樹脂用成型加工機で、成形不可能となるからである。また、エラストマー量を多く配合した場合、一定以上配合するとαが1より大きくなる傾向となり、連続相と分散相が逆転してしまうことになる。熱可塑性樹脂からなる連続相とエラストマーからなる分散相の関係を維持しつつ、エラストマー比率をより一層高めるには、従来から公知の製造方法ではおのずと限界があった。
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂成分(A)が連続相(マトリックス)となり、エラストマー成分(B)が分散相(ドメイン)となって存在する状態でありながら、従来の製造方法では実現できなかった程度にまで樹脂中のエラストマー成分(B)の体積比率を高めたエラストマー組成物の製造方法である。
【0009】
すなわちエラストマー組成物(C)は
〔φd/φm〕×〔ηm/ηd〕>1 (I)
を満たしながら、熱可塑性樹脂成分(A)の連続相(マトリックス)中に、エラストマー成分(B)が分散相(ドメイン)となって存在する状態が形成されている。
【0010】
さらに、エラストマー組成物(C)の製造方法は以下のとおりである。
【0011】
熱可塑性樹脂成分(A)に、可塑剤(D)を擬似的樹脂構成成分として、エラストマー成分(B)とともに以下の条件を満たして配合する。
【0012】
〔φd/(φm+φl)〕×〔ηml/ηd〕<1 (II)
ηml/ηd=0.8−1.2 (III )
(式中、φd及びηdは、それぞれ、エラストマー成分(B)の体積分率及び粘度を示し、φmは熱可塑性樹脂(A)の体積分率を示し、φlは可塑剤(D)の体積分率を示し、ηmlは熱可塑性樹脂(A)と可塑剤(D)との混合物の溶融粘度を示す)
これにより、可塑剤(D)を含んだ熱可塑性樹脂成分(A)が連続相(マトリックス)となり、エラストマー成分(B)が分散相(ドメイン)となる熱可塑性エラストマー組成物(E)がまず製造される。ここで式(III )は、粘度比ηml/ηdを0.8−1.2の範囲にすることで、エラストマーの分散粒子を小さくできることを示しており、分散粒子を小さくすることで耐久性が向上することが従来より知られている。(特開2000−159936参照)
ここでφ1/(φm+φ1)=0.05〜0.6より好ましくは0.1〜0.3である。
【0013】
このように製造した組成物(E)は、熱可塑性を有するが、この組成物(E)からさらに、可塑剤(D)を揮発、抽出、又は移行させて最終的にエラストマー組成物(C)が製造される。なお、このエラストマー組成物(C)は、熱可塑性が失われている。
【0014】
本発明の熱可塑性を示さないエラストマー組成物(C)の作製に用いられる熱可塑性樹脂(A)としては、1種又はそれ以上の熱可塑性樹脂が使用され、樹脂成分としては、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体)、ポリエステル系樹脂(例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミド酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル)、ポリニトリル系樹脂(例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体)、ポリメタクリレート系樹脂(例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル)、ポリビニル系樹脂(例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体)、セルロース系樹脂(例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース)、フッ素系樹脂(例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE))、イミド系樹脂(例えば芳香族ポリイミド(PI))などを挙げることができる。この中でナイロンに代表される線状ポリアミド樹脂を用いることが耐久性とガスバリア性のバランスを取るため好ましい。
【0015】
また、前記エラストマー組成物のマトリックスを構成する熱可塑性樹脂(A)中には、加工性、分散性あるいはまた耐熱・酸化防止性などの改善その他のために一般的に配合される、充填剤、補強剤、加工助剤、安定剤、酸化防止剤等を必要に応じ適宜配合してもよい。
【0016】
本発明のエラストマー組成物の作製に用いられるエラストマー成分(B)は、エラストマー成分に加硫系配合成分を含む通常のゴム配合剤を配合してなるエラストマー組成物としてもよいし、または、エラストマー成分に、加硫系配合成分を除く、通常のゴム配合剤を配合したエラストマー組成物であってもよい。そのようなエラストマー成分としては、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBRのようなジエン系ゴムおよびその水素化合物;エチレンプロピレンゴム(EPDM,EPM)、マレイン酸変性エチレン−αオレフィン共重合体(M−PO)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマーのようなオレフィン系ゴム;Br−IIR,Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC,CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)のような含ハロゲンゴム;メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴムのようなシリコンゴム;ポリスルフィドゴムのような含硫黄ゴム:ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴムのようなフッ素ゴム;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーのような熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
【0017】
本発明のエラストマー組成物(C)の分散相を構成する前記エラストマー成分(B)は動的加硫してもよく、動的加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、および加硫条件(温度、時間)等は、添加するエラストマー成分(B)の組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。加硫剤としては、一般的なゴム加硫剤(架橋剤)を用いることができる。具体的には、硫黄系加硫剤としては粉末硫黄、沈降性硫黄、高分散性硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等を例示でき、例えば、0.5−4重量部〔エラストマー成分(ポリマー)100重量部あたりの重量部〕程度用いることができる。
【0018】
また、有機過酸化物系の加硫剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が例示され、例えば、1〜20重量部程度用いることができる。更に、フェノール樹脂系の加硫剤としては、アルキルフェノール樹脂の臭素化物や、塩化スズ、クロロプレン等のハロゲンドナーとアルキルフェノール樹脂とを含有する混合架橋系等が例示でき、例えば、1−20重量部程度用いることができる。
【0019】
その他の配合成分として、亜鉛華(5重量部程度)、酸化マグネシウム(4重量部程度)、リサージ(10〜20重量部程度)、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニトロソベンゼン(2−10重量部程度)、メチレンジアニリン(0.2−10重量部程度)が例示できる。
【0020】
また、必要に応じて、加硫促進剤を添加してもよい。加硫促進剤としては、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオ酸塩系、チオウレア系等の一般的な加硫促進剤を、例えば、0.5〜2重量部程度用いることができる。また、加硫促進助剤としては、一般的なゴム用助剤を併せて用いることができ、例えば、ステアリン酸やオイン酸およびこれらのZn塩(2−4重量部程度)等が使用できる。
【0021】
さらに、分散相をなすエラストマー成分(B)には、前記の配合剤に加えて、分散性や耐熱性などの改善その他のために一般的に配合される軟化剤、老化防止剤、加工助剤などの配合剤を必要に応じ適宜配合することができる。
【0022】
本発明の製造方法において使用される可塑剤(D)としては、アルキルベンゼンスルホンアミド、ジアリルフタレート、ジオクチルフタレート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、トリクレジルホスフェート、トリメリント酸イソノニルエステルなどのエステル系、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール類、パラフィン油、ナフテン油、アロマ油などの石油系油などが使用できるが、沸点が高いこと、樹脂との相溶性の点からアルキルベンゼンスルホンアミドが好ましい。
【0023】
本発明において、マトリックス樹脂(A)中にエラストマー(B)が微細に分散しているエラストマー組成物(C)の製造方法は、例えば以下の通り実施することができる。先ず、エラストマーと必要に応じて配合剤を予め一般のニーダー、バンバリーミキサー等を用いて均一混合状態が得られるまで混練してエラストマー成分(B)を作製する。この際エラストマー成分(B)には、カーボンブラック、オイル、その他炭酸カルシウム等の充填剤を適当量添加することも可能である。また、必要な場合には、エラストマーの加硫剤又は架橋剤、加硫助剤、加硫促進剤等を加えてもよい。次に、マトリックスを構成する熱可塑性樹脂(A)と可塑剤(D)及び、必要に応じて配合される老化防止剤などの配合剤を2軸混練機などに投入して混練を行い、マトリックスを構成する熱可塑性樹脂成分(A)を作製する。このようにして作製した樹脂成分(A)とエラストマー成分(B)とを2軸混練機等に投入し、溶融混練を行う。エラストマー成分(B)に加硫系配合剤を配合していないエラストマー成分(B)を用いる場合には、混練が十分になされた段階で加硫系配合剤を添加して更に混練し、エラストマー成分を動的架橋させ、熱可塑性エラストマー組成物(E)を得ることができる。
【0024】
また、熱可塑性樹脂成分(A)又はエラストマー成分(B)への各種配合剤は、上記2軸混練前に予め混合してもよいが、上記2軸混練中に添加してもよい。更に、マトリックス樹脂とエラストマー、各種配合剤および可塑剤を2軸混練機などで一度に練ってもよいが、その場合マトリックス樹脂と可塑剤を十分混練した後にエラストマーを加えるようにする必要がある。これらエラストマー成分(B)、マトリックス樹脂成分(A)との混練及びエラストマー組成物の溶融混練条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であればよい。また、混練時の剪断速度は500〜7500sec-1であるのが好ましく、混練時間は、30秒から10分程度が好ましい。
【0025】
得られた熱可塑性エラストマー組成物(E)は、引き続き単軸押出機の先端のT型シーティングダイス、ストレート又はクロスヘッド構造のチュービングダイス、インフレート成形用の円筒ダイス等を使用し、シート、フィルム又はチューブ状に成形し、その後、オーブン加熱による揮発、ゴムなどと積層して熱プレスすることによる移行、メタノール等の溶媒を用いた抽出などで可塑剤(D)の一部又は全部を除去することによりエラストマー組成物(C)の成形体を得ることができる。空気入りタイヤ又はホースなどの低透過層として利用するには可塑剤を含んでいる上記熱可塑性エラストマー組成物(E)をタイヤ又はホースの、例えば最内層にゴムと積層した状態で貼り付け、最終形状に成形した後熱プレスによって可塑剤(D)をゴム中に移行させることでエラストマー組成物(C)で構成された低透過層を得ることができる。この層は樹脂がマトリクス、ゴムが分散相でゴム量が非常に多いため、樹脂の特性、例えば低透過性、耐熱性、耐薬品性を生かしながら柔軟でゴムのように動的耐久性に優れた材料層となる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
実施例1−7及び比較例1−7
サンプルの調製
表Iに示す配合において、エラストマー及び架橋剤を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃2分間混合してコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)にてペレット状に加工した。樹脂ペレットに樹脂用可塑剤(ブチルベンゼンスルホンアミド、大八化学工業製 BM−4)を樹脂に対して約30重量%(φ1/(φm+φ1)=0.26)になるように加えて2軸混練機(日本製鋼所製)で混練し、得られた可塑剤入り樹脂とゴムペレットとを再び2軸混練機(日本製鋼所製)で混練して可塑剤入りエラストマー組成物のペレットを作製した(動的加硫されている)。作製したペレットをT−ダイ成形機にてシート状に成形し、メタノールを用いて可塑剤を抽出除去した後、真空オーブンで70℃で12時間乾燥してメタノールを完全に除去し、エラストマー組成物のシートを得た。
実施例8
表Iに示す配合において、エラストマー及び架橋剤を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃で2分間混合してエラストマー組成物を作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所)にてペレット状にした。樹脂ペレットに樹脂用可塑剤(ブチルベンゼンスルホンアミド、大八化学工業製BM−4)を樹脂に対して約30重量%になるように加えて2軸混練機(日本製鋼所製)で混練し、得られた可塑剤入り樹脂とエラストマーペレットを再び2軸混練機(日本製鋼所製)で混練して可塑剤入りエラストマー組成物のペレットを作製した(動的架橋されている)。作製したペレットをT−ダイ成形機にてシート状に成形し、真空オーブン180℃で30分間乾燥して可塑剤を揮発除去し、エラストマー組成物のシートを得た。
実施例9
表Iに示す配合において、エラストマー及び架橋剤を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃で2分間混合してエラストマー組成物を作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所)にてペレット状に加工した。樹脂ペレットに樹脂用可塑剤(ブチルベンゼンスルホンアミド、大八化学工業製BM−4)を樹脂に対して約30重量%になるように加えて2軸混練機(日本製鋼所製)で混練し、得られた可塑剤入り樹脂とエラストマーペレットとを再び2軸混練機(日本製鋼所製)で混練して可塑剤入りエラストマー組成物のペレットを作製した(動的架橋されている)。作製したペレットをT−ダイ成形機にてシート状に成形し、下記組成のゴムコンパウンド2mmのシートで挟んで180℃で15分熱プレスして可塑剤を揮発及びゴムコンパウンドに移行させて除去し、エラストマー組成物のシートを得た。
【0027】
ゴムコンパウンドの組成

成分 重量部 メーカー、グレード
天然ゴム 80 RSS#1
SBR1502 20 日本ゼオン製、ニポール1502
FEFカーボンブラック 50 中部カーボン製、HTC100
ステアリン酸 2 花王製、ルナックYA
酸化亜鉛 3 正同化学製、亜鉛華3号
硫黄 3 軽井沢精錬所製、粉末硫黄
加硫促進剤 1 大内新興化学工業製、ノクセラーNS−P
アロマオイル 2 日本石油製、コウモレックス300
得られたシートの物性を以下の試験方法で測定し、結果を表Iに示した。
物性評価試験法
通気度:JIS K 7126「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法(A法)」に準じた。
【0028】
試験片:各例で作成したフィルムサンプルを用いた。
【0029】
試験気体:空気(N2:O2=8:2)
試験温度:30℃
空気圧維持のため、20×10-12(cm3・cm/cm2・sec・cmHg)以下が良好で、15×10-12(cm3・cm/cm2・sec・cmHg)以下が好ましい。
【0030】
M50(−20℃):JIS K6251に準拠して−20℃で測定。
【0031】
動的疲労(−20℃)
−20℃の定ひずみ試験:JIS 3号ダンベルを用い、定ひずみ試験機(上島製作所製)にて−20℃以下で40%の繰返しひずみをかけた。ワイブルプロットによる破断率70%の点が100万回を超えたものを合格とした。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表I脚注
*1:Exxon Mobile Chemicals製IPMS(Exxon89−4)(粘度:200Pa・s)
*2:三井化学(株)製Mah−EPM(タフマーMP0620)(粘度:120Pa・s)
*3:Bayer製Br−IIR(Bromobutyl X2)(粘度:20Pa・s)
*4:Exxon Mobile Chemicals製IIR(Exxon Butyl268)(粘度:80Pa・s)
*5:BASF製PIB(Oppanol B100)(粘度:300Pa・s)
*6:正同化学(株)製亜鉛華(亜鉛3号)
*7:日本油脂(株)製ステアリン酸(ビーズステアリン酸)
*8:宇部興産(株)製ナイロン6,66(ウベナイロン 5033B)(粘度:500Pa・s)
*9:宇部興産(株)製ナイロン6(ウベナイロン 1030B)(粘度:500Pa・s)
*10:ARKEMA(株)製ナイロン11(リルサン BESNOTL)(粘度:200Pa・s)
可塑剤入りナイロンの粘度
可塑剤入りナイロン11:150Pa・s
可塑剤入りナイロン6:170Pa・s
可塑剤入りナイロン6,66:200Pa・s
比較例8−13
エラストマー及び架橋剤を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃2分間混合してコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)にてペレット状に加工した。コンパウンドのペレットと樹脂ペレットを2軸混練機(日本製鋼所)で混練した。一部はゴム比率が高すぎるため、相反転して混練不可であった。作製したペレットをT−ダイ成形機にてシート状に成形し、熱可塑性エラストマー組成物のシートを得た。得られたシートの物性を前述のようにして測定し結果を表IIに示した。
【0035】
【表3】

【0036】
比較例14−16
エラストマー及び架橋剤を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃2分間混合してコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)にてペレット状に加工した。樹脂ペレットに樹脂用可塑剤(ブチルベンゼンスルホンアミド、大八化学工業製BM−4)を樹脂に対して約30重量%になるように加えて2軸混練機(日本製鋼所製)で混練し、できた可塑剤入り樹脂とゴムペレットを再び2軸混練機(日本製鋼所製)で混練して可塑剤入りエラストマー組成物のペレットを作製した。作製したペレットをT−ダイ成形機にてシート状に成形し、熱可塑性エラストマー組成物のシートを得た。得られたシートの物性を前述のようにして測定し、結果を表IIIに示した。
【0037】
【表4】

【0038】
タイヤ試験
得られたシートを用いて以下のタイヤ試験を行なった。結果は表IVに示す。
【0039】
【表5】

【0040】
エア漏れ試験:各例に記載の材料(厚み0.15mm)をインナーライナーに用いて195/65/R15サイズのタイヤを作製し、空気圧250KPa、25℃雰囲気下で3ヶ月内圧変化を測定し、ブチルゴム/天然ゴム80/20重量%の標準インナーライナーを使用したタイヤと比較し、内圧保持率が同等以上であるものを合格、同等未満であるものを不合格とした。
【0041】
−20℃動的耐久試験:各例に記載の材料(厚み0.15mm)をインナーライナーに用いて195/65/R15サイズのタイヤを作製し、空気圧120KPa、−20℃雰囲気下で4.8kNの荷重をかけて金属ドラム上を30000kmまで走行させた。走行後インナーライナーを観察し、クラックが発生したものを不合格とした。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、熱可塑性樹脂の特性(例えば耐熱性、低ガス透過性、耐薬品性)を生かしつつ柔軟な弾性体を得ることができるため、例えば耐熱性、低ガス透過性、耐薬品性、高動的耐久性を併せ持ったインナーライナーを作製することができ、同様の特性から、空気入りタイヤの他の部位やホース内管、パッキングなどに用いることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)及び(III ):
φd/(φm+φ1)x(ηml/ηd)<1 (II)
ηml/ηd=0.8−1.2 (III )
(式中、φd及びηdは、それぞれ、エラストマー成分(B)の体積分率及び粘度を示し、φmは熱可塑性樹脂(A)の体積分率を示し、φlは可塑剤(D)の体積分率を示し、ηmlは熱可塑性樹脂(A)と可塑剤(D)との混合物の溶融粘度を示す)
を満たす比率の熱可塑性樹脂(A)、エラストマー成分(B)及び可塑剤(D)を混合、成形した後、可塑剤(D)を揮発、抽出又は移行させて除去することによって請求項1−4のいずれか1項に記載の熱可塑性を示さないエラストマー組成物(C)を製造する方法。
【請求項2】
可塑剤(D)がアルキルベンゼンスルホンアミドである請求項1に記載の熱可塑性を示さないエラストマー組成物(C)を製造する方法。

【公開番号】特開2010−138415(P2010−138415A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66738(P2010−66738)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【分割の表示】特願2008−502888(P2008−502888)の分割
【原出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】