説明

熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性エラストマー組成物

【課題】優れたリサイクル性を保持し、耐油性にも優れ、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れる熱可塑性エラストマーおよびそれを含有する熱可塑性エラストマー組成物の提供。
【解決手段】エポキシドと水酸基と含窒素複素環とを有するエラストマー性ポリマーからなり、
前記含窒素複素環が窒素原子または酸素原子を介して前記エラストマー性ポリマーの主鎖と結合している熱可塑性エラストマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性エラストマー組成物に関し、詳しくは、温度変化により架橋形成および架橋解離を繰り返し再現しうる特性(以下、単に「リサイクル性」という場合がある。)を有する熱可塑性エラストマーおよびそれを含有する熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護や省資源等の立場から、使用済み材料の再利用が望まれている。架橋ゴム(加硫ゴム)は、高分子物質と架橋剤(加硫剤)とが共有結合した安定な三次元網目構造を有し、非常に高い強度を示すが、強い共有結合による架橋のため再成形が難しい。一方、熱可塑性エラストマーは、物理的架橋を利用するものであり、予備成形等を含む煩雑な加硫・成形工程を必要とせずに、加熱溶融により容易に成形加工することができる。
このような熱可塑性エラストマーの典型例としては、樹脂成分とゴム成分とを含み、常温では微結晶の樹脂成分が三次元網目構造の架橋点の役割を果たすハードセグメントとなり、ゴム成分(ソフトセグメント)の塑性変形を阻止し、昇温により樹脂成分の軟化または融解により塑性変形する熱可塑性エラストマーが知られている。しかし、このような熱可塑性エラストマーでは、樹脂成分を含んでいるためゴム弾性が低下しやすい。そのため、樹脂成分を含まずに熱可塑性が付与できる材料が求められている。
【0003】
かかる課題に対し、本発明者は先に、カルボニル含有基と複素環アミン含有基とを側鎖に有するエラストマー性ポリマーからなる水素結合性の熱可塑性エラストマーが、水素結合を利用して温度変化により架橋形成と架橋解離とを繰り返すことができることを見出し、側鎖に、(i) カルボニル含有基と、(ii)複素環アミン含有基とを有するエラストマー性ポリマーからなる水素結合性の熱可塑性エラストマーを提案し、該熱可塑性エラストマーの製造方法として、環状酸無水物基を側鎖に有するエラストマー性ポリマーと、複素環アミン含有化合物とを、該複素環アミン含有化合物が環状酸無水物基と化学的結合しうる温度下に反応させて、熱可塑性エラストマーを得る熱可塑性エラストマーの製造方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような特性を有する熱可塑性エラストマーは、その産業上の利用価値、および環境保護上の価値は高く、更に高い引張強度が得られるとともに、架橋形成および架橋解離を繰り返しても物性変化のない、リサイクル性に優れた材料として期待されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載する熱可塑性エラストマーは、リサイクル性を有するものの耐油性が劣る場合があり、耐油性が求められる用途には適さない場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−169527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、優れたリサイクル性を保持し、耐油性にも優れ、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れる熱可塑性エラストマーおよびそれを含有する熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の反応により得られうる熱可塑性エラストマーが、優れたリサイクル性を保持し、耐油性にも優れ、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れることを見出し、本発明を達成するに至った。
すなわち、本発明は、下記(i)〜(viii)に記載の熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【0009】
(i)エポキシドと水酸基と含窒素複素環とを有するエラストマー性ポリマーからなり、
上記含窒素複素環が窒素原子または酸素原子を介して上記エラストマー性ポリマーの主鎖と結合している熱可塑性エラストマー。
【0010】
(ii)下記式(1)で表される構造を有する上記(i)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0011】
【化1】


(式中、Aは含窒素複素環である。)
【0012】
(iii)下記式(2a)〜(2c)のいずれかで表される構造を有する上記(i)または(ii)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0013】
【化2】


(式中、Aは含窒素複素環を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基またはアルキル基にアリール基が置換したアラルキル基を表す。)
【0014】
上記含窒素複素環が、5または6員環であるのが好ましい。
【0015】
上記含窒素複素環が、トリアゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、チアジアゾール環またはヒダントイン環であるのが好ましい。
【0016】
(iv)エポキシドを有する化合物(A)、および、アミノ基または水酸基と含窒素複素環とを有する化合物(B)、の反応により得られる上記(i)〜(iii)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【0017】
(v)上記化合物(A)が、エポキシ化エラストマーである上記(iv)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0018】
(vi)上記エポキシ化エラストマーが、エポキシ化天然ゴム、エポキシドを有するスチレン系エラストマー、エポキシドを有するアクリルゴム、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体またはエチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体である上記(v)に記載の熱可塑性エラストマー。
【0019】
(vii)上記化合物(B)が、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、2−アミノチアゾール、4−アミノピリジンまたは2−ブチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾールである上記(iv)〜(vi)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【0020】
(viii)上記(i)〜(vii)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の効果】
【0021】
以下に説明するように、本発明によれば、優れたリサイクル性を保持し、耐油性にも優れ、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れる熱可塑性エラストマーを提供することができるため有用である。また、この熱可塑性エラストマーを含有する組成物も同様の効果を奏し、その価値も極めて高いため非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の第1の態様に係る熱可塑性エラストマー(以下、単に「本発明の熱可塑性エラストマー」という場合がある。)は、エポキシドと水酸基と含窒素複素環とを有するエラストマー性ポリマーからなり、該含窒素複素環が窒素原子または酸素原子を介して該エラストマー性ポリマーの主鎖と結合している熱可塑性エラストマーである。
【0023】
本発明においては、エポキシドとは、3員環をなすオキシドをいい、3員環を形成する2つの炭素原子がエラストマー性ポリマーの主鎖の一部を構成するものであってもよく、エラストマー性ポリマーの主鎖と化学的に安定な結合(例えば、共有結合、イオン結合等)を介して存在するものであってもよい。
また、本発明においては、水酸基には、カルボキシ基の一部を構成する水酸基が含まれない。
【0024】
本発明の熱可塑性エラストマーが、優れたリサイクル性を保持し、耐油性にも優れ、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れる理由は、詳細には明らかではないが、発明者は、以下のように考えている。
熱可塑性エラストマーが、その構造中に、水素結合性の架橋部位を非常に多く有しているため、すなわち、水酸基と含窒素複素環とを有し、かつ、該含窒素複素環が窒素原子または酸素原子を介して主鎖と結合しているため、優れたリサイクル性を保持し、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れると考えられる。
同様に、熱可塑性エラストマーが、その構造中に、エポキシドを有することから耐油性に優れると考えられる。
【0025】
本発明の熱可塑性エラストマーの主鎖となるエラストマー性ポリマーは、一般的に公知の天然高分子または合成高分子であって、そのガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマー、すなわちエラストマーであれば特に限定されない。
このようなエラストマー性ポリマーとしては、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物;エチレン−プロピレンゴム、エチレン−アクリルゴム(AEM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンゴム、ポリプロピレンゴムなどのオレフィン系ゴム;エピクロロヒドリンゴム;多硫化ゴム;シリコーンゴム;ウレタンゴム;等が挙げられる。
【0026】
また、上記エラストマー性ポリマーは、樹脂成分を含むエラストマー性ポリマーであってもよく、その具体例としては、水添されていてもよいポリスチレン系エラストマー性ポリマー(例えば、SBS、SIS、SEBS等)、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー、ポリウレタン系エラストマー性ポリマー、ポリエステル系エラストマー性ポリマー、ポリアミド系エラストマー性ポリマー等が挙げられる。
【0027】
更に、上記エラストマー性ポリマーは、液状または固体状であってもよく、その分子量は特に限定されず、本発明の熱可塑性エラストマーおよび本発明の第2の態様に係る熱可塑性エラストマー組成物(以下、単に「本発明の組成物」という。)が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて適宜選択することができる。
本発明の熱可塑性エラストマーおよび本発明の組成物(以下、単に「本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)」という場合がある。)を加熱(脱架橋)した時の流動性を重視する場合は、上記エラストマー性ポリマーは液状であることが好ましく、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、重量平均分子量が1,000〜100,000であることが好ましく、1,000〜50,000程度であることが特に好ましい。
一方、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)の強度を重視する場合は、上記エラストマー性ポリマーは固体状であることが好ましく、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、重量平均分子量が100,000以上であることが好ましく、500,000〜1,500,000程度であることが特に好ましい。
本発明において、重量平均分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(Gel permeation chromatography(GPC))により測定した重量平均分子量(ポリスチレン換算)である。測定にはテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いるのが好ましい。
【0028】
本発明においては、上記エラストマー性ポリマーを2種以上混合して用いることができる。この場合の各エラストマー性ポリマー同士の混合比は、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)が用いられる用途、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
また、上記エラストマー性ポリマーのガラス転移点は、上述したように25℃以下であることが好ましく、該エラストマー性ポリマーが2以上のガラス転移点を有する場合または2種以上の該エラストマー性ポリマーを混合して用いる場合は、ガラス転移点の少なくとも1つは25℃以下であることが好ましい。上記エラストマー性ポリマーのガラス転移点がこの範囲であると、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)からなる成形物が室温でゴム状弾性を示すため好ましい。
本発明において、ガラス転移点は、示差走査熱量測定(DSC−Differential Scanning Calorimetry)により測定したガラス転移点である。昇温速度は10℃/minにするのが好ましい。
【0029】
このようなエラストマー性ポリマーは、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴム;エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)などのオレフィン系ゴム;であることが、ガラス転移点が25℃以下であり、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)からなる成形物が室温でゴム状弾性を示すため好ましい。また、オレフィン系ゴムを用いると、二重結合が存在しないため組成物の劣化が抑制される。
【0030】
本発明においては、上記スチレン−ブタジエンゴム(SBR)の結合スチレン量、水添エラストマー性ポリマー等の水添率等は、特に限定されず、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)が用いられる用途、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)に要求される物性等に応じて任意の比率に調整することができる。
また、上記エラストマー性ポリマーの主鎖として、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)を用いる場合、そのエチレン含有量は、好ましくは10〜90モル%であり、より好ましくは40〜90モル%である。エチレン含有量がこの範囲であると、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)の機械的強度、特に圧縮永久歪に優れるため好ましい。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマーは、上記エラストマー性ポリマーにエポキシドと水酸基と含窒素複素環とを有し、該含窒素複素環が窒素原子または酸素原子を介して該エラストマー性ポリマーの主鎖と結合している熱可塑性エラストマーである。
【0032】
本発明においては、上記エラストマー性ポリマーに有する含窒素複素環は、窒素原子を介して該エラストマー性ポリマーの主鎖と結合しているのが好ましい。
【0033】
具体的には、本発明の熱可塑性エラストマーが、下記式(1)で表される構造を有するのが好ましく、下記式(2a)〜(2c)のいずれかで表される構造を有するのがより好ましい。
【0034】
【化3】

【0035】
上記式(1)中、Aは含窒素複素環を表し、窒素原子のAと結合していない側の結合手は、メチル基を表すものではなく、上記エラストマー性ポリマーとの結合(例えば、共有結合、イオン結合等)を表す。
また、上記式(2a)〜(2c)中、Aは含窒素複素環を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基またはアルキル基にアリール基が置換したアラルキル基を表す。
ここで、上記式(2a)の各炭素原子のフリーな結合手は、メチル基を表すものではなく、上記式(2a)中の2つの炭素原子間の結合は、上記エラストマー性ポリマーの主鎖の一部を構成するものである。また、上記式(2b)中のR2が結合した炭素原子および上記式(2c)中のR1が結合した炭素原子のフリーな結合手は、メチル基を表すものではなく、上記エラストマー性ポリマーとの結合(例えば、共有結合、イオン結合等)を表す。
【0036】
上記式(1)中のAである含窒素複素環としては、具体的には、例えば、以下に示すものが挙げられる。
また、上記式(2a)〜(2c)中のR1〜R3である、水素原子、アルキル基、アリール基またはアルキル基にアリール基が置換したアラルキル基としては、具体的には、例えば、後述する式(3)および(4)中の置換基Xと同様、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜20のアリール基が好適に挙げられる。
【0037】
本発明においては、上記含窒素複素環は、複素環内に窒素原子を含むものであれば複素環内に窒素原子以外のヘテロ原子、例えば、イオウ原子、酸素原子、リン原子等を有するものでも用いることができる。
また、上記含窒素複素環は置換基を有していてもよく、該置換基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、ヘキシル基などのアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基などのアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子からなる基;シアノ基;アミノ基;芳香族炭化水素基;エステル基;エーテル基;アシル基;チオエーテル基;等が挙げられ、これらを組み合わせて用いることもできる。これらの置換基の置換位置は特に限定されず、置換基数も限定されない。
【0038】
このような含窒素複素環としては、具体的には、例えば、ピロロリン、ピロリドン、オキシインドール(2−オキシインドール)、インドキシル(3−オキシインドール)、ジオキシインドール、イサチン、インドリル、フタルイミジン、β−イソインジゴ、モノポルフィリン、ジポルフィリン、トリポルフィリン、アザポルフィリン、フタロシアニン、ヘモグロビン、ウロポルフィリン、クロロフィル、フィロエリトリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、イミダゾロン、イミダゾリドン、ヒダントイン、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリドン、インダゾール、ピリドインドール、プリン、シンノリン、ピロール、ピロリン、インドール、インドリン、オキシルインドール、カルバゾール、フェノチアジン、インドレニン、イソインドール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、フェナントロリン、オキサジン、ベンゾオキサジン、フタラジン、プテリジン、ピラジン、フェナジン、テトラジン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、アントラニル、ベンゾチアゾール、ベンゾフラザン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、アントラゾリン、ナフチリジン、チアジン、ピリダジン、ピリミジン、キナゾリン、キノキサリン、トリアジン、ヒスチジン、トリアゾリジン、メラミン、アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびこれらの誘導体等が挙げられる。これらのうち、特に含窒素5員環については、下記の化合物、下記式(3)で表されるトリアゾール誘導体および下記式(4)で表されるイミダゾール誘導体が好ましく例示される。また、これらは上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素付加または脱離されたものであってもよい。
【0039】
【化4】

【0040】
【化5】

【0041】
式中、置換基Xは、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜20のアリール基である。
このような置換基Xとしては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基、ステアリル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基などの分岐状のアルキル基;ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基;フェニル基、トリル基(o−、m−、p−)、ジメチルフェニル基、メシチル基などのアリール基;等が挙げられる。
これらのうち、アルキル基、特に、ブチル基、オクチル基、ドデシル基、イソプロピル基、2−エチルヘキシル基であることが、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)の高温での流動性が良好となるため好ましい。
【0042】
また、含窒素6員環については、下記の化合物が好ましく例示される。これらについても上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素付加または脱離されたものであってもよい。
【0043】
【化6】

【0044】
また、上記含窒素複素環とベンゼン環または含窒素複素環同士が縮合したものも用いることができ、具体的には、下記の縮合環が好適に例示される。これらの縮合環についても上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。
【0045】
【化7】

【0046】
このような含窒素複素環のうち、5員環または6員環であることが好ましい。具体的には、トリアゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、チアジアゾール環またはヒダントイン環であることが、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)のリサイクル性が更に良好となり、機械的強度、特に、圧縮永久歪が更に良好となるため好ましい。
また、このような含窒素複素環のうち、芳香族性を有しているのが、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)の架橋時の引張強度がより高くなり、機械的強度、特に、耐圧縮永久歪がより良好となるため好ましい。
【0047】
本発明においては、このような含窒素複素環を、上記エラストマー性ポリマーの主鎖と窒素原子または酸素原子を介して結合していることにより、得られる本発明の熱可塑性エラストマーの水素結合性の架橋部位が多くなり、優れたリサイクル性を保持し、また機械的強度、特に圧縮永久歪に優れると考えられる。
【0048】
次に、含窒素複素環の結合位置について説明する。なお、含窒素複素環を便宜上「含窒素n員環化合物(n≧3)」とする。
以下に説明する結合位置(「1〜n位」)は、IUPAC命名法に基づくものである。例えば、非共有電子対を有する窒素原子を3個有する化合物の場合、IUPAC命名法に基づく順位によって結合位置を決定する。具体的には、上記で例示した5員環、6員環および縮合環の含窒素複素環に結合位置を記した。
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマーでは、窒素原子または酸素原子を介して上記エラストマー性ポリマーの主鎖と結合する含窒素n員環化合物の結合位置は特に限定されず、いずれの結合位置(1位〜n位)でもよい。好ましくは、その1位または3位〜n位である。
【0050】
含窒素n員環化合物に含まれる窒素原子が1個(例えば、ピリジン環等)の場合は、分子内でキレートが形成されやすく本発明の熱可塑性エラストマー組成物の引張強度等の物性に優れるため、3位〜(n−1)位が好ましい。
含窒素n員環化合物の結合位置を選択することにより、本発明の熱可塑性エラストマーは、該熱可塑性エラストマー同士の分子間で、水素結合、イオン結合、配位結合等による架橋が形成されやすくなり、リサイクル性をより良好とし、機械的強度、特に、圧縮永久歪をより良好とすることができる。
【0051】
本発明の熱可塑性エラストマーにおいて、エポキシドは、上記エラストマー性ポリマーを構成するモノマー単位に対して0.1〜60%の割合で有しているのが好ましい。エポキシドを有する割合がこの範囲であると、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)の耐油性がより良好となる。
同様に、水酸基は、上記エラストマー性ポリマーを構成するモノマー単位に対して0.1〜60%の割合で有しているのが好ましい。水酸基を有する割合がこの範囲であると、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)のリサイクル性および圧縮永久歪がより良好となる。
同様に、含窒素複素環は、上記エラストマー性ポリマーを構成するモノマー単位に対して0.1〜60%の割合で有しているのが好ましい。含窒素複素環を有する割合がこの範囲であると、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)のリサイクル性および圧縮永久歪がより良好となる。
【0052】
本発明の熱可塑性エラストマーは、エポキシドを有する化合物(A)、および、アミノ基または水酸基と含窒素複素環とを有する化合物(B)の反応により得られるものであるのが、含窒素複素環と主鎖とを結合する水素結合性の高いアミノ基(窒素原子)やエーテル基(酸素原子)が容易に生成する理由から好ましい。
【0053】
<エポキシドを有する化合物(A)>
エポキシドを有する化合物(A)としては、例えば、上記エラストマー性ポリマーにエポキシドを有するエポキシ化エラストマーが挙げられる。
エポキシ化エラストマーとしては、具体的には、例えば、エポキシ化天然ゴム、エポキシドを有するスチレン系エラストマー、エポキシドを有するアクリルゴム、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体等が好適に挙げられる。
中でも、エポキシ化天然ゴム、エポキシドを有するアクリルゴムであるのが、得られる本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)の圧縮永久歪がより良好となる理由から好ましい。
【0054】
本発明においては、エポキシ化天然ゴムとして、天然ゴムをエポキシ化して得られるものを用いてもよく、また市販品を用いてもよい。
天然ゴムをエポキシ化する方法は特に限定されず、例えば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等の方法が挙げられる。具体的には、天然ゴムに過酢酸や過ギ酸などの有機過酸を反応させる方法が挙げられる。
また、市販品としては、具体的には、例えば、マレーシアゴム局(MRB)製のENR−25(エポキシ化率:25%)、ENR−50(エポキシ化率:50%)、ENR−60(エポキシ化率:60%)等が挙げられる。
【0055】
また、本発明においては、エポキシ化天然ゴムのエポキシ化率は、5〜80モル%であるのが好ましく、5〜60モル%であるのがより好ましい。エポキシ化率がこの範囲であると、得られる本発明の熱可塑性エラストマーの耐油性がより良好となる。
【0056】
一方、エポキシドを有するアクリルゴムとしては、具体的には、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メトキシエチルアクリレートなどの主骨格を形成するモノマー成分と、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどの架橋点を形成するモノマー成分とを共重合させて得られるものを用いてもよく、また市販品を用いてもよい。
市販品としては、具体的には、例えば、日本ゼオン社製のNipol AR30シリーズ、40シリーズ、50シリーズが挙げられ、中でも、Tgが低く、耐寒性に優れる理由から、AR54が好適に挙げられる。
【0057】
また、エポキシドを有するスチレン系エラストマーとは、ハードセグメントがポリスチレンであるスチレン系熱可塑性エラストマーであって、ソフトセグメントの共役ジエン成分に含まれる不飽和二重結合部分をエポキシ化したエラストマーをいい、本発明においては、ダイセル化学工業社製のエポフレンド(例えば、CT301、AT501)等の市販品を用いることができる。
【0058】
また、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体としては、住友化学社製のボンドファースト7L、7M等の市販品を用いることができ、同様にエチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体としては、住友化学社製のボンドファースト2B、7B等の市販品を用いることができる。
【0059】
<アミノ基または水酸基と含窒素複素環とを有する化合物(B)>
アミノ基または水酸基と含窒素複素環とを有する化合物(B)としては、具体的には、上述した含窒素複素環にアミノ基または水酸基を有する種々の例が挙げられる。
中でも、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−カルボン酸、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール−3−オールなどのトリアゾール環化合物;2−アミノイミダゾール、2−ブチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルイミダゾール、4ーヒドロキシメチル−2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール環化合物;2−アミノチアゾールなどのチアゾール環化合物;2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジンなどのピリジン環化合物;等が好適に例示される。
【0060】
上記化合物(A)と上記化合物(B)との反応条件は、主に上記化合物(A)の種類により適宜変更する必要があるため特に限定されないが、上記化合物(A)としてエポキシ化天然ゴムを用いた場合は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを、100℃以上の条件下で反応させるのが好ましい。
【0061】
本発明の熱可塑性エラストマーは、そのガラス転移点が25℃以下であるのが好ましく、該熱可塑性エラストマーが2以上のガラス転移点を有する場合または2種以上の熱可塑性エラストマーを併用する場合はガラス転移点の少なくとも1つは25℃以下であるのが好ましい。ガラス転移点が25℃以下であれば、成形物が室温でゴム状弾性を示す。
【0062】
次に、本発明の熱可塑性エラストマーを含有する本発明の組成物について説明する。
本発明の組成物は、本発明の第1の態様に係る熱可塑性エラストマーを1種以上含有する。2種以上含有する場合の混合比は、組成物が用いられる用途、組成物に要求される物性等に応じて、任意の比率とすることができる。
【0063】
本発明の組成物は、補強剤としてカーボンブラックおよび/またはシリカを含有していることが好ましい。
カーボンブラックの種類は、用途に応じて適宜選択される。一般に、カーボンブラックは粒子径に基づいて、ハードカーボンとソフトカーボンとに分類される。ソフトカーボンはゴムに対する補強性が低く、ハードカーボンはゴムに対する補強性が強い。本発明では、特に、補強性の強いハードカーボンを用いることが好ましい。
カーボンブラックの含有量(カーボンブラック単独で用いる場合)は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。
【0064】
シリカは、特に限定されず、具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、けいそう土等が挙げられ、その含有量(シリカ単独で用いる場合)は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。これらのうち、沈降シリカが好ましい。
補強剤としてシリカを用いる場合には、シランカップリング剤を併用できる。シランカップリング剤としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(Si69)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(Si75)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、後述するアミノシラン化合物も用いることができる。
【0065】
カーボンブラックおよびシリカを併用する場合の含有量(カーボンブラックおよびシリカの合計量)は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。
【0066】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、本発明の熱可塑性エラストマー以外のポリマー、カーボンブラックおよびシリカ以外の補強剤(充填剤)、アミノ基を導入してなる充填剤(以下、単に「アミノ基導入充填剤」という。)、該アミノ基導入充填剤以外のアミノ基含有化合物、金属元素を含む化合物(以下、単に「金属塩」という。)、無水マレイン酸変性ポリマー、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤、フィラーなどの各種添加剤等を含有することができる。
【0067】
上記添加剤等は、一般に用いられるものを使用することができ、以下に具体的に、その一部を例示するが、これら例示したものに限られない。
本発明の熱可塑性エラストマー以外のポリマーとしては、上記した理由と同様にガラス転移温度が25℃以下のポリマーが好ましい。具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、エチレン−ブテンゴム(EBM)等が挙げられ、特にIIR、EPM、EBMの不飽和結合を有さないポリマーまたは不飽和結合の少ないポリマー(例えば、EPDM)が好ましい。また、水素結合可能な部位を有するポリマーも好ましく、例えば、ポリエステル、ポリラクトン、ポリアミド等が挙げられる。更に、ポリオレフィン系軟質樹脂、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテンまたはエチレン−ブテン共重合体などの熱可塑性ポリマーも挙げられる。
また、本発明の組成物において、本発明の熱可塑性エラストマー以外のポリマーは、1種または2種以上を含有させてもよく、該ポリマーの含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。
【0068】
カーボンブラックおよびシリカ以外の補強剤としては、具体的には、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー等が挙げられる。これらの補強剤の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。
【0069】
上記アミノ基導入充填剤の基体となる充填剤(以下、単に「基体となる充填剤」という場合がある。)としては、例えば、上記架橋ゴムに所望により添加することができるとして例示した充填剤が挙げられ、アミノ基の導入のしやすさ、導入割合(導入率)の調整等が容易である観点から、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウムであることが好ましく、シリカであることがより好ましい。
【0070】
上記基体となる充填剤に導入されるアミノ基(以下、単に「アミノ基」という場合がある。)は、特に限定されず、その具体例としては、脂肪族アミノ基、芳香族アミノ基、複素環を構成するアミノ基、これらアミノ基の複数の混合アミノ基等が挙げられる。
ここで、本発明において、脂肪族アミン化合物に有するアミノ基を脂肪族アミノ基、芳香族アミン化合物に有する芳香族基に結合したアミノ基を芳香族アミノ基、複素環アミン化合物に有するアミノ基を複素環アミノ基という。
これらのうち、本発明の熱可塑性エラストマーとの相互作用を適度に形成し、該熱可塑性エラストマー中に効果的に分散可能であるという観点から、複素環アミノ基、複素環アミノ基を含む混合アミノ基または脂肪族アミノ基であることが好ましく、複素環アミノ基または脂肪族アミノ基であることが好ましい。
【0071】
上記アミノ基の級数は、特に限定されず、1級(−NH2)、2級(イミノ基、>NH)、3級(>N−)または4級(>N+<)のいずれであってもよい。
上記アミノ基が1級であると、本発明の熱可塑性エラストマーとの相互作用が強くなる傾向があり、組成物を調製する際の条件等によってはゲル化する場合がある。一方、上記アミノ基が3級であると、本発明の熱可塑性エラストマーとの相互作用が弱くなる傾向があり、組成物としたときの圧縮永久歪等の改善効果が小さい場合がある。
このような観点から、上記アミノ基の級数は、1級または2級であることが好ましく、2級であることがより好ましい。
【0072】
すなわち、上記アミノ基としては、複素環アミノ基、複素環アミノ基を含む混合アミノ基または1級もしくは2級の脂肪族アミノ基であることが好ましく、複素環アミノ基または1級もしくは2級の脂肪族アミノ基であることが特に好ましい。
【0073】
上記アミノ基は、上記基体となる充填剤の表面に少なくとも1つ有すればよいが、組成物としたときの圧縮永久歪等の改善効果に優れる観点から、複数有することが好ましい。
【0074】
上記アミノ基を複数有する場合は、複数のアミノ基のうち少なくとも1つは複素環アミノ基であることが好ましく、更に1級または2級のアミノ基(脂肪族アミノ基、芳香族アミノ基、複素環アミノ基)を有することがより好ましい。
また、上記アミノ基は、組成物に要求される物性に応じてアミノ基の種類および級数を任意に調整できる。
【0075】
上記アミノ基導入充填剤は、上記基体となる充填剤に、上記アミノ基を導入して得られる。
上記アミノ基を導入する方法は、特に限定されず、その具体例としては、一般的に各種充填剤、補強剤等に用いられる表面処理法(例えば、表面改質法、表面被覆法等)が挙げられる。好ましい方法としては、上記基体となる充填剤と反応可能な官能基およびアミノ基を有する化合物を該充填剤に反応させる方法(表面改質法)、アミノ基を有するポリマーで上記基体となる充填剤の表面をコーティングする方法(表面被覆法)、または、充填剤の合成過程においてアミノ基を有する化合物等を反応させる方法等が挙げられる。
【0076】
上記アミノ基導入充填剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
上記アミノ基導入充填剤の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることが特に好ましい。
【0077】
上記アミノ基導入充填剤以外のアミノ基含有化合物について説明する。
上記アミノ基含有化合物中のアミノ基は、上記アミノ基導入充填剤において説明したものと基本的に同様であり、また、該アミノ基の含有数は1個以上であれば特に限定されず、2個以上であることが本発明の熱可塑性エラストマーと2以上の架橋結合を形成することができ、物性の改善効果に優れるため好ましい。
【0078】
上記アミノ基含有化合物中のアミノ基の級数は特に制限されず、上記アミノ基導入充填剤におけるアミノ基と同様、1級(−NH2)、2級(イミノ基、>NH)、3級(>N−)または4級(>N+<)のいずれであってもよく、本発明の組成物に要求されるリサイクル性、圧縮永久歪、硬度および機械的強度、特に引張強度等の物性に応じて任意に選択できる。2級アミノ基を選択すると機械的強度に優れる傾向があり、3級アミノ基を選択するとリサイクル性に優れる傾向がある。特に、2級アミノ基を2つ有すると、得られる本発明の組成物のリサイクル性、圧縮永久歪および機械的強度に優れ、かつこれらの物性のバランスにも優れるため好ましい。
また、上記アミノ基含有化合物が、2個以上のアミノ基を含有する場合においては、該アミノ基含有化合物中における1級アミノ基数が2個以下となるようにすることが好ましく、1個以下とすることがより好ましい。1級アミノ基を3個以上有すると、該アミノ基および本発明の熱可塑性エラストマー中の官能基(特に、カルボニル含有基であるカルボキシ基)によって形成される(架橋)結合が強固になり、優れたリサイクル性を損なう場合がある。
【0079】
つまり、本発明の熱可塑性エラストマー中の官能基と上記アミノ基含有化合物中のアミノ基との結合力等を勘案してアミノ基の級数、数およびアミノ基含有化合物の構造を適宜調整、選択することができる。
【0080】
このようなアミノ基含有化合物としては、具体的には、N,N′−ジメチルエチレンジアミン、N,N′−ジエチルエチレンジアミン、N,N′−ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N′−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N′−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N′−ジイソプロピル−1,3−プロパンジアミン、N,N′−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N′−ジエチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N′,N′′−トリメチルビス(ヘキサメチレン)トリアミンなどの2級の脂肪族ジアミン;テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミンなどの3級の脂肪族ジアミン;アミノトリアゾール、アミノピリジンなどの芳香族1級アミンと複素環状アミンとを含むポリアミン;ドデシルアミンなどの直鎖アルキルモノアミン;ジピリジルなどの3級複素環状ジアミン;等が、圧縮永久歪、機械的強度、特に引張強度等の改善効果が高い理由から好適に例示される。
これらのうち、2級の脂肪族ジアミン、芳香族1級アミンと複素環状アミンを含むポリアミンまたは3級複素環状ジアミンがより好ましい。
【0081】
これらの例示以外にも、上記アミノ基含有化合物としては、アミノ基を有する高分子化合物を用いることができる。
【0082】
アミノ基を有する高分子化合物は、特に限定されず、その具体例としては、ポリアミド、ポリウレタン、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアミノスチレン、アミノ基含有ポリシロキサン等のポリマー、または、各種ポリマーをアミノ基を持つ化合物で変性したポリマー等が挙げられる。
これらのポリマーの平均分子量、分子量分布、粘度等の物性は、特に限定されず、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の物性とすることができる。
【0083】
また、アミノ基を有する高分子化合物は、アミノ基を有する縮合性または重合性の化合物(モノマー)を重合(重付加、重縮合)させたポリマーであることが好ましく、加水分解性置換基とアミノ基とを有するシリル化合物の単独縮合体または該シリル化合物とアミノ基を有さないシリル化合物との共縮合体であるアミノ基を有するポリシロキサンであることが、入手が容易で製造しやすく、分子量の調整、アミノ基の導入率の調整等が容易であるためより好ましい。
【0084】
加水分解性置換基とアミノ基とを有するシリル化合物は、特に限定されず、例えば、アミノシラン化合物が挙げられ、具体的には、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、4−アミノ−3,3−ジメチルブチルトリメトキシシラン(以上、日本ユニカー社製)などの脂肪族1級アミノ基を有するアミノシラン化合物;N,N−ビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]アミン、N,N−ビス[(3−トリエトキシシリル)プロピル]アミン、N,N−ビス[(3−トリプロポキシシリル)プロピル]アミン(以上、日本ユニカー社製)、3−(n−ブチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(Dynasilane1189(デグサヒュルス社製))、N−エチル−アミノイソブチルトリメトキシシラン(Silquest A−Link 15 silane、OSiスペシャリティーズ社製)などの脂肪族2級アミノ基を有するアミノシラン化合物;N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製)などの脂肪族1級および2級アミノ基を有するアミノシラン化合物;N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー社製)などの芳香族2級アミノ基を有するアミノシラン化合物;イミダゾールトリメトキシシラン(ジャパンエナジー社製)、アミノトリアゾールとエポキシシラン化合物またはイソシアネートシラン化合物等とを触媒の存在下または非存在下、室温以上の温度で反応させて得られるトリアゾールシランなどの複素環アミノ基を有するアミノシラン化合物;等が挙げられる。
これらのうち、圧縮永久歪等の物性の改善効果が高い観点から、上記した、脂肪族1級アミノ基を有するアミノシラン化合物、脂肪族2級アミノ基を有するアミノシラン化合物および脂肪族1級および2級アミノ基を有するアミノシラン化合物のアミノアルキルシラン化合物であることが好ましい。
【0085】
アミノ基を有さないシリル化合物は、加水分解性置換基とアミノ基とを有するシリル化合物と異なる化合物であってアミノ基を含まない化合物であれば、特に限定されず、その具体例としては、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物等が挙げられる。これらのうち、入手が容易で取り扱いやすく、得られる共縮合体の物性に優れる観点から、アルコキシシラン化合物が好ましい。
アルコキシシラン化合物としては、具体的には、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
ハロゲン化シラン化合物としては、具体的には、例えば、テトラクロロシラン、ビニルトリフルオロシラン等が挙げられる。
これらのうち、安価で取扱い等が安全である観点から、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランが好ましい。
【0086】
加水分解性置換基とアミノ基とを有するシリル化合物およびアミノ基を有さないシリル化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0087】
このようなアミノ基を有する高分子化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
【0088】
また、アミノ基を有する高分子化合物の含有量は、上記アミノ基含有化合物と同様、本発明の熱可塑性エラストマーの側鎖に対する該化合物中の窒素原子数(当量)で規定することもできるが、該高分子化合物の構造、分子量等により該熱可塑性エラストマーとの相互作用を有効に形成できないアミノ基が存在する場合がある。
そのため、アミノ基を有する高分子化合物の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが特に好ましい。
【0089】
上記金属塩は、金属元素を少なくとも1つ含む化合物であれば特に限定されず、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlからなる群から選択される1種以上の金属元素を含む化合物であることが好ましい。
上記金属塩としては、具体的には、例えば、これらの1種以上の金属元素を含むギ酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、(メタ)アクリル酸塩等の不飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、塩化物、酸化物、水酸化物、ジケトンとの錯体等が挙げられる。
ここで、「ジケトンとの錯体」とは、例えば、1,3−ジケトン(例えば、アセチルアセトン)等が金属原子に配位した錯体をいう。
【0090】
これらのうち、得られる本発明の組成物の圧縮永久歪がより改善される観点から、金属元素としてはTi、Al、Znが好ましく、金属塩としてはこれらの酢酸塩、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、酸化物、水酸化物、ジケトンとの錯体が好ましく、ステアリン酸塩等の炭素数1〜20の飽和脂肪酸塩、金属アルコキシド(炭素数1〜12のアルコールとの反応物)、ジケトンとの錯体が特に好ましい。
【0091】
上記金属塩は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
【0092】
上記金属塩の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマーに含有するカルボニル基に対して、0.05〜3.0当量であることが好ましく、0.1〜2.0当量であることがより好ましく、0.2〜1.0当量であることが特に好ましい。上記金属塩の含有量がこの範囲であれば、得られる本発明の組成物の圧縮永久歪、硬度および機械的強度、特に引張強度等の物性が改善されるため好ましい。
【0093】
また、上記金属塩は、その金属のとりうるすべての水酸化物、金属アルコキシド、または、カルボン酸塩等を用いることができる。例えば、水酸化物を例にとると、金属が鉄の場合は、Fe(OH)2、Fe(OH)3をそれぞれ単独で用いても、混合して用いてもよい。
更に、上記金属塩は、上述したように、Li、Na、K、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、GaおよびAlからなる群から選択される1種以上の金属元素を含む化合物であることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲でこれら以外の金属元素を含有してもよい。これら以外の金属元素の含有率は、特に限定されないが、例えば、上記金属塩中の全金属元素に対して、1〜50モル%であることが好ましい。
【0094】
上記無水マレイン酸変性ポリマーは、上記エラストマー性ポリマーを無水マレイン酸で変性して得られるポリマーのことであり、該無水マレイン酸変性ポリマーの側鎖は、無水マレイン酸残基および含窒素複素環以外の官能基を有していてもよいが、無水マレイン酸残基のみを有していることが好ましい。
【0095】
上記無水マレイン酸残基は、上記エラストマー性ポリマーの側鎖または末端に導入(変性)され、該エラストマー性ポリマーの主鎖に導入されることはない。また、上記無水マレイン酸残基は、環状酸無水物基であり、環状酸無水物基(部分)が開環することもない。
したがって、上記無水マレイン酸変性熱可塑性ポリマーとしては、例えば、下記式(5)のように、無水マレイン酸のエチレン性不飽和結合部分がエラストマー性ポリマーと反応して得られる、側鎖に環状酸無水物基を有し含窒素複素環を有しない熱可塑性のエラストマーが挙げられ、その具体例としては、上記した環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーで例示したものが挙げられる。
【0096】
【化8】


(式中、Qはエチレン残基またはプロピレン残基であり、p、qおよびrはそれぞれ独立に0.1〜99の数を表す。)
【0097】
無水マレイン酸変性量は、優れたリサイクル性を損なわず、圧縮永久歪を改善できる観点から、上記エラストマー性ポリマーの主鎖部分100モル%に対して、好ましくは0.1〜50モル%であり、より好ましくは0.3〜30モル%であり、特に好ましくは0.5〜10モル%である。
【0098】
上記無水マレイン酸変性ポリマーは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、本発明の組成物が用いられる用途、本発明の組成物に要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
【0099】
上記無水マレイン酸変性ポリマーの含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1〜100質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましい。上記無水マレイン酸変性ポリマーの含有量がこの範囲であれば、得られる本発明の組成物の加工性および機械的強度が改善されるため好ましい。
なお、本発明の熱可塑性エラストマーの製造時、具体的には、上記反応工程AまたはBにおいて、未反応物として環状酸無水物基を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーが残存する場合は、残存するカルボニル含有基変性エラストマーを除去せずに、そのまま本発明の組成物に含有させることもできる。
【0100】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
顔料としては、具体的には、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられる。
【0101】
可塑剤としては、具体的には、例えば、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバチン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クエン酸等の誘導体をはじめ、ポリエステル、ポリエーテル、エポキシ系等が挙げられる。
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、ベントン、無水ケイ酸、ケイ酸誘導体、尿素誘導体等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系等が挙げられる。
難燃剤としては、具体的には、例えば、TCP等のリン系、塩素化パラフィン、パークロルペンタシクロデカン等のハロゲン系、酸化アンチモン等のアンチモン系、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0102】
溶剤としては、具体的には、例えば、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素系;テトラクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素系;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系;酢酸エチルなどのエステル系;等が挙げられる。
界面活性剤(レベリング剤)としては、具体的には、例えば、ポリブチルアクリレート、ポリジメチルシロキサン、変性シリコーン化合物、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
脱水剤としては、具体的には、例えば、ビニルシラン等が挙げられる。
【0103】
防錆剤としては、具体的には、例えば、ジンクホスフェート、タンニン酸誘導体、リン酸エステル、塩基性スルホン酸塩、各種防錆顔料等が挙げられる。
接着付与剤としては、具体的には、例えば、公知のシランカップリング剤、アルコキシシリル基を有するシラン化合物、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。より具体的には、トリメトキシビニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第4級アンモニウム塩、あるいはポリグリコールやエチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0104】
可塑剤の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、1〜30質量部であることがより好ましい。その他の添加剤の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましい。
【0105】
本発明の熱可塑性エラストマーは自己架橋できるものもあるが、本発明の目的を損わない範囲で加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等を併用することもできる。
加硫剤としては、イオウ系、有機過酸化物系、金属酸化物系、フェノール樹脂、キノンジオキシム等の加硫剤が挙げられる。
イオウ系加硫剤としては、具体的には、例えば、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる。
有機過酸化物系の加硫剤としては、具体的には、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が挙げられる。
その他として、酸化マグネシウム、リサージ(酸化鉛)、p−キノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、ポリ−p−ジニトロソベンゼン、メチレンジアニリン等が挙げられる。
【0106】
加硫助剤としては、具体的には、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アミン類;アセチル酸、プロピオン酸、ブタン酸、ステアリン酸、アクリル酸、マレイン酸などの脂肪酸;アセチル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ブタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、マレイン酸亜鉛などの脂肪酸亜鉛;等が挙げられる。
加硫促進剤としては、具体的には、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)等のチウラム系;ヘキサメチレンテトラミンなどのアルデヒド・アンモニア系;ジフェニルグアニジン等のグアニジン系;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)などのチアゾール系;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系;等が挙げられる。更にアルキルフェノール樹脂やそのハロゲン化物等を用いることもできる。
加硫遅延剤としては、具体的には、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸などの有機酸;N−ニトロソージフェニルアミン、N−ニトロソーフェニル−β−ナフチルアミン、N−ニトロソ−トリメチル−ジヒドロキノリンの重合体などのニトロソ化合物;トリクロルメラニンなどのハロゲン化物;2−メルカプトベンツイミダゾール;N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド(サントガードPVI);等が挙げられる。
これら加硫剤等の含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。
【0107】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、本発明の熱可塑性エラストマーと、必要に応じて含有してもよい各種添加剤等とを、ロール、ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出し機、二軸押出し機、万能かくはん機等を用いて混合することにより製造する方法等が挙げられる。
【0108】
本発明の組成物を(加硫剤により)永久架橋させる場合の硬化条件は、配合する各種成分等に応じて適宜選択することができ、特に制限されない。例えば、130〜200℃の温度で、5〜60分で硬化させる硬化条件が好ましい。
【0109】
本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)は、約80〜200℃に加熱することにより三次元の架橋結合(架橋構造)が解離して軟化し、流動性が付与される。分子間または分子内で形成されている側鎖同士の相互作用が弱まるためであると考えられる。
軟化し、流動性が付与された本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)を約80℃以下に放置にすると、解離した三次元の架橋結合(架橋構造)が再び結合して硬化する。この繰り返しにより、本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)はリサイクル性が発現する。
【0110】
本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)は、例えば、ゴム弾性を活用して種々のゴム用途に使用することができる。またホットメルト接着剤として、またはこれに含ませる添加剤として使用すると、耐熱性およびリサイクル性を向上させることができるので好ましい。本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)は、自動車周り、ホース、ベルト、シート、防振ゴム、ローラー、ライニング、ゴム引布、シール材、手袋、防舷材、医療用ゴム(シリンジガスケット、チューブ、カテーテル)、ガスケット(家電用、建築用)、アスファルト改質剤、ホットメルト接着剤、ブーツ類、グリップ類、玩具、靴、サンダル、キーパッド、ギア、ペットボトルキャプライナー等の用途に好適に用いられる。
【0111】
上記自動車周りとしては、具体的には、例えば、タイヤのトレッド、カーカス、サイドウォール、インナーライナー、アンダートレッド、ベルト部などのタイヤ各部;外装のラジエータグリル、サイドモール、ガーニッシュ(ピラー、リア、カウルトップ)、エアロパーツ(エアダム、スポイラー)、ホイールカバー、ウェザーストリップ、カウベルトグリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、換気口部品、防触対策部品(オーバーフェンダー、サイドシールパネル、モール(ウインドー、フード、ドアベルト))、マーク類;ドア、ライト、ワイパーのウェザーストリップ、グラスラン、グラスランチャンネルなどの内装窓枠用部品;エアダクトホース、ラジエターホース、ブレーキホース;クランクシャフトシール、バルブステムシール、ヘッドカバーガスケット、A/Tオイルクーラーホース、ミッションオイルシール、P/Sホース、P/Sオイルシールなどの潤滑油系部品;燃料ホース、エミッションコントロールホース、インレットフィラーホース、ダイヤフラム類などの燃料系部品;エンジンマウント、インタンクポンプマウントなどの防振用部品;CVJブーツ、ラック&ピニオンブーツ等のブーツ類;A/Cホース、A/Cシール等のエアコンデショニング用部品;タイミングベルト、補機用ベルトなどのベルト部品;ウィンドシールドシーラー、ビニルプラスチゾルシーラー、嫌気性シーラー、ボディシーラー、スポットウェルドシーラーなどのシーラー類;等が挙げられる。
【0112】
またゴムの改質剤として、例えば、流れ防止剤として、室温でコールドフローを起こす樹脂あるいはゴムに含ませると、押出し時の流れやコールドフローを防止することができる。
【0113】
本発明の熱可塑性エラストマー(組成物)は、従来の熱可塑性エラストマーに比して、同等程度のリサイクル性を保持しつつ耐油性に優れ、また機械的強度に優れるため、上記で例示した用途の中でも、リサイクル性および耐油性ならびに機械的強度が特に要求される用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0114】
次に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜4および比較例1〜3)
まず、180℃に設定した加圧ニーダーに、エポキシ化天然ゴム(ENR−50、エポキシ化率:50%、マレーシアゴム局(MRB)製)および老化防止剤(Irganox1010、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を下記表1に示す質量部投入し、5分間混練した。
その後、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(ATA、日本カーバイト社製)、2−アミノチアゾール(和光純薬社製)、2−ブチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール(日本合成化学社製)、4−アミノピリジン(広栄化学社製)、ジエチレントリアミン(東京化成社製)、3−メルカプトトリアゾール(大塚化学社製)または2−メルカプトイミダゾール(大塚化学社製)を下記表1に示す質量部投入して更に10分間混練して反応させることで熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物を調製した。IR分析を行うことにより、エポキシドと水酸基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマーを含有していることを確認した。
【0115】
実施例1〜4および比較例1〜3で得られた各熱可塑性エラストマー組成物について、後述する方法によりJIS−A硬度、引張特性および圧縮永久歪ならびに耐油性を測定し、リサイクル性を評価した。その結果を下記表1に示す。
【0116】
<JIS−A硬度>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を180℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
このシートから円板状(直径29mm)の試験片を打ち抜き、得られた円板状試験片を7枚重ね、200℃で20分間熱プレスし、JIS K6253に準拠して、JIS−A硬度を測定した。
【0117】
<引張特性>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を180℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
このシートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251に準拠して行い、100%モジュラス(M100)[MPa]、300%モジュラス(M300)[MPa]、破断強度(TB)[MPa]、および、破断伸び(EB)[%]を室温にて測定した。
【0118】
<圧縮永久歪み(C−Set)>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を180℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
作製したシートを7枚重ね合わせて200℃で20分間熱プレスし、円筒状のサンプル(直径29×厚さ12.5mm)を作製した。
この円筒状サンプルを、専用治具で25%圧縮し、70℃で22時間放置した後の圧縮永久歪みをJIS K6262に準じて測定した。
【0119】
<耐油性>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を180℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
このシートから円板状(直径29mm)の試験片を打ち抜き、23℃のJIS 3号オイル中に、168時間浸漬させ、浸漬前後の体積変化率(%)を測定することにより行った。
【0120】
<リサイクル性>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を200℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。このシートを細かく切断して再度プレス成形し、継ぎ目のない一体化したシートが作製できる回数で評価した。
10回以上作製できたものを「○」とした。
【0121】
【表1】


【0122】
上記表1に示す結果から、実施例1〜4で調製した熱可塑性エラストマー組成物は、比較例1で調製した含窒素複素環を有しない熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物に比べて、耐油性に優れることが分かり、また機械的強度、特に圧縮永久歪にも優れることが分かった。
また、実施例1〜4で調製した熱可塑性エラストマー組成物は、比較例1および2で調製した含窒素複素環が硫黄原子を介して主鎖と結合している熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物に比べて、意外にも、耐油性に格段に優れることが分かり、また機械的強度、特に圧縮永久歪にも格段に優れることが分かった。
【0123】
(実施例5および6)
まず、180℃に設定した加圧ニーダーに、エポキシドを有するアクリルゴム(AR54、日本ゼオン社製)および老化防止剤(Irganox1010、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を下記表2に示す質量部投入し、5分間混練した。
その後、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(ATA、日本カーバイト社製)を下記表2に示す質量部投入して更に10分間混練して反応させることで熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物を調製した。IR分析を行うことにより、エポキシドと水酸基と含窒素複素環とを有する熱可塑性エラストマーを含有していることを確認した。
【0124】
実施例5および6で得られた各熱可塑性エラストマー組成物について、上述した方法によりJIS−A硬度、引張特性および圧縮永久歪ならびに耐油性を測定し、リサイクル性を評価した。その結果を下記表2に示す。
なお、引張特性については、300%モジュラス(M300)[MPa]の測定に代えて、50%モジュラス(M100)[MPa]および200%モジュラス(M300)[MPa]を測定した。
また、耐油性については、70℃のJIS 3号オイル中に72時間浸漬させた場合の体積変化率(%)も更に測定した。
【0125】
【表2】

【0126】
上記表2に示す結果から、実施例5および6で調製した熱可塑性エラストマー組成物も、耐油性に優れることが分かり、また機械的強度、特に圧縮永久歪にも優れることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシドと水酸基と含窒素複素環とを有するエラストマー性ポリマーからなり、
前記含窒素複素環が窒素原子または酸素原子を介して前記エラストマー性ポリマーの主鎖と結合している熱可塑性エラストマー。
【請求項2】
下記式(1)で表される構造を有する請求項1に記載の熱可塑性エラストマー。
【化1】


(式中、Aは含窒素複素環を表す。)
【請求項3】
下記式(2a)〜(2c)のいずれかで表される構造を有する請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー。
【化2】


(式中、Aは含窒素複素環を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基またはアルキル基にアリール基が置換したアラルキル基を表す。)
【請求項4】
エポキシドを有する化合物(A)、および、アミノ基または水酸基と含窒素複素環とを有する化合物(B)、の反応により得られる請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項5】
前記化合物(A)が、エポキシ化エラストマーである請求項4に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項6】
前記エポキシ化エラストマーが、エポキシ化天然ゴム、エポキシドを有するスチレン系エラストマー、エポキシドを有するアクリルゴム、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体またはエチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体である請求項5に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項7】
前記化合物(B)が、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、2−アミノチアゾール、4−アミノピリジンまたは2−ブチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾールである請求項4〜6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性エラストマー組成物。

【公開番号】特開2008−111022(P2008−111022A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294227(P2006−294227)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】