説明

熱可塑性ポリエステル樹脂組成物

【課題】 機械的特性、耐久性に優れるだけでなく、十分に優れた成形性を有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜10重量部のカルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)と、0.01〜5重量部のカルボン酸無水物(C)とを配合してなることを特徴とする。また、本発明に係る別の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)100重量部、(B−1)および/または(B−2)0.1〜10重量部、および、(C)0.01〜5重量部を溶融混練してなる。また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂成形体の製造方法は、熱可塑性ポリエステル樹脂を材料とする成形体を製造する方法であって、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いて成形を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物とその使用方法に関する。さらに詳しくは、成形性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物とその使用方法に関する。
【0002】
【従来の技術】熱可塑性ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレートで代表されるポリアルキレンテレフタレートは、多くの優れた特性を有しているため、工業用繊維、フィルム、その他の成形体の素材としても広く用いられているが、より優れた機械的特性、耐熱性、耐加水分解性、成形性が要求されている。特に、ブロー成形や押出成形に供するには、一般にポリエステル樹脂は溶融粘度が低すぎ、ドローダウンが激しく、所望の形状の成形品を得ることは至難である。また、廃棄PETをリサイクル使用した際は、回収操作の間に溶融を繰り返すため、固有粘度(IV)が低下し、もはや紡糸成形にも適さず、十分な強度と伸度を持った繊維を得ることができなかった。これらを改良するために、重合度を高める事、ポリエステル中の末端カルボキシル基を減少させる事が有効であり、このような目的でポリエステルを変性する方法としては、ポリエステル樹脂の末端基と反応してポリマー鎖を延長することができる鎖延長剤を用いる方法がある。例えば、ビスオキサゾリン化合物を用いる方法(特開昭55−161823)や多官能性化合物を用いる方法(特公昭47−13860、特開平2−276820、特開平5−506056)などが検討されている。
【0003】しかし、これらの方法では、ポリエステル樹脂に機械的特性、耐熱性、耐加水分解性をある程度付与することはできるが、一方で、成形性については十分な性能を付与できてはいない。例えば、前記のビスオキサゾリン化合物を用いる方法(特開昭55−161823)では、機械的特性、耐久性も十分とはいえず、さらに、各種成形法に適するに十分な溶融粘度、IVを付与できない。また、前記の多官能性化合物を用いる方法(特公昭47−13860、特開平2−276820、特開平5−506056)では、多官能エポキシ化合物や多官能イソシアネート等を用いた場合、やはり十分な溶融粘度、IVを付与できず、押出成形、射出成形、ブロー成形に適用した場合には、分子量が十分でないために樹脂がドローダウンしてしまうという欠点があり、発泡成形に適用した場合には、樹脂粘度が低いために均一微細な発泡体が得られないという欠点があり、紡糸成形に適用した場合には、紡糸中の糸切れが起こるという欠点があった。また、溶融粘度を上げるため、それらの化合物の添加量を増やすと、組成物がゲル化し、著しく成形性が悪くなることが知られている。さらに、それら多官能性化合物が成形工程中に揮散し、金型汚染を起こし、成形品の外観を損なう等の問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】したがって本発明が解決しようとする課題は、機械的特性、耐久性に優れるだけでなく、十分に優れた成形性を有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、熱可塑性ポリエステル樹脂に、カルボン酸無水物と、さらに、特定の反応性基含有重合体および/または分子中に特定の基を有する化合物を配合することによって得られる組成物が、上記課題を解決することができ、各種成形方法に好適に適用できることを見出した。本発明はこのようにして完成された。
【0006】すなわち、本発明に係る熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂を必須成分とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物において、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜10重量部のカルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)と、0.01〜5重量部のカルボン酸無水物(C)とを配合してなることを特徴とする。
【0007】また、本発明に係る別の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部、カルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)0.1〜10重量部、および、カルボン酸無水物(C)0.01〜5重量部を溶融混練してなる。
【0008】また、本発明に係る熱可塑性ポリエステル樹脂成形体の製造方法は、熱可塑性ポリエステル樹脂を材料とする成形体を製造する方法であって、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いて成形を行うことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。
(組成物)本発明に係る熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂を必須成分とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物において、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜10重量部のカルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)と、0.01〜5重量部のカルボン酸無水物(C)とを配合してなることを特徴とする。
【0010】また、本発明に係る別の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部、カルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)0.1〜10重量部、および、カルボン酸無水物(C)0.01〜5重量部を溶融混練してなる。
【0011】以下、これらの本発明に係る樹脂組成物についてまず説明する。本発明において使用される熱可塑性ポリエステル樹脂(A)としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸等の酸成分とエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール成分とからなるポリエステルが挙げられる。また、上記2官能成分のほかにトリメリット酸、ペンタエリスリトール等の3官能以上の成分を共重合しても良い。また、p−オキシ安息香酸などのオキシ酸およびそれらの残基から誘導されるポリエステル、ポリピパロラクトン等のポリラクトン、1,2−ビス(4,4−ジカルボキシメチルフェノキシ)エタン等の芳香族エーテルジカルボン酸の残基と前述のグリコール成分とからなるポリエーテルエステル、さらに以上に述べた、ジカルボン酸、オキシ酸、グリコール類などを組み合わせたコポリエステル等を挙げる事ができる。さらに、2種以上の低分子量ポリエステルを2官能性鎖延長剤を用いてカップリングさせたブロック共重合ポリエステルを挙げる事ができる。
【0012】これらポリエステルの中でポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、製造作業や使用後廃棄から得られた、例えばフィルム、シート、繊維、ボトル成形品などの形態の廃棄PETを使用することもできる。本発明において使用できるカルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)とは、カルボン酸と反応しうる官能基を有する重合体をいう。ここで、カルボン酸と反応しうる官能基とは、例えば、オキサゾリン基、エポキシ基が挙げられるが、本発明の効果を十分に発揮させるためには、好ましくは、オキサゾリン基である。重合体(B−1)中に有する前記官能基は、1種でも2種以上であってもよい。
【0013】重合体(B−1)がオキサゾリン基を有する場合は、一般式(I)
【0014】
【化1】


【0015】(式中、R1 、R2 、R3 、R4 はそれぞれ独立に水素、ハロゲン、アルキル、アラルキル、フェニルまたは置換フェニルであり、R5 は付加重合性不飽和結合を持つ非環状有機基である。)で表される付加重合性オキサゾリン化合物(b−1)、および、必要に応じて少なくとも1種の他の単量体(b−2)を重合してなる、側鎖として複数個のオキサゾリン基を有する重合体である。
【0016】前記付加重合性オキサゾリン化合物(b−1)の具体例としては、たとえば、2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−5,5−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、4,4,6−トリメチル−2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等のビニルオキサゾリンが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらオキサゾリン基を有する単量体の中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが、入手が容易であり、また、反応性が良好であるため好ましい。
【0017】付加重合性オキサゾリン化合物(b−1)の使用量は特に限定されるものではないが、オキサゾリン基含有重合体中、0.5重量%以上50重量%未満であることが望ましい。0.5重量%未満の量では、成形性および耐熱性向上効果が不十分であり、また、50重量%以上使用しても効果は変わらず、経済的に不利である。
【0018】前記他の単量体(b−2)とは、オキサゾリン基と反応せず、付加重合性オキサゾリン(b−1)と共重合可能な単量体であれば、特に制限はなく、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα、β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン等のα、β−不飽和芳香族モノマー類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0019】重合体(B−1)がエポキシ基を有する場合は、エポキシ基を有する単量体(b−3)、および、必要に応じて少なくとも1種の、前述と同様の他の単量体(b−2)を重合してなる、側鎖として複数個のエポキシ基を有する重合体である。前記エポキシ基を有する単量体(b−3)の具体例としては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル等の不飽和有機酸のグリシジルエステル類;アリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの中でも、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルが好ましい。
【0020】重合体(B−1)は、例えば、付加重合性オキサゾリン化合物(b−1)および/またはエポキシ基含有単量体(b−3)、および、必要に応じて少なくとも1種の他の単量体(b−2)からなる単量体成分を、従来公知の重合法、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、バルク重合法等により製造できる。本発明において使用されるカルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)の数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)の測定において、1000〜20000の範囲が好ましく、1500〜10000の範囲が特に好ましい。数平均分子量が1000未満では、得られる本発明の組成物の分子量が十分でないために成形性が悪くなる傾向があり、しかも、耐熱性向上効果も少なくなりがちであり、また、20000を越えても、得られる本発明の組成物の成形性が劣る傾向にある。
【0021】重合体(B−1)の供給形態は特に制限されないが、取扱いの面から固形または有機溶剤溶液が好ましく、特に固形が好ましい。本発明において使用できる、分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)とは、例えば、1,3−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、1,4−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−ビス(2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4,4−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−エチレンビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2−テトラエチレンビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2−シクロヘキシレンビス(4−エチル−2−オキサゾリン)等のビスオキサゾリン化合物が挙げられるが、好ましくは、1,3−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が挙げられる。
【0022】本発明において使用されるカルボン酸無水物(C)は、例えば、芳香族テトラカルボン酸の二無水物、特にピロメリット酸二無水物が最も好ましい。その他の有用なカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸、(ペリレン−3,4,9,10)テトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、および、2,3,4,5−テトラカルボキシヒドロフラン、フタル酸、マレイン酸等の無水物が挙げられる。
【0023】カルボン酸無水物(C)は重合体であってもよく、例えば、スチレンと無水マレイン酸の共重合体であってもよい。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の一つの形態は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、カルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)が0.1〜10重量部、カルボン酸無水物(C)が0.01〜5重量部の割合で配合されてなる形態である。この形態は、樹脂(A)、重合体(B−1)および/または化合物(B−2)、および、酸無水物(C)が互いに反応せずに混合物の状態で含有してなる形態であってもよいし、各成分の一部が反応した状態、すなわち、混合物と反応物とが併存して含有してなる形態であってもよいし、あるいは、各成分が完全に反応した反応物として含有してなる形態であってもよい。
【0024】また、本発明の別の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の形態は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部、カルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)0.1〜10重量部、および、カルボン酸無水物(C)0.01〜5重量部を溶融混練してなる形態である。この形態においては、樹脂(A)、重合体(B−1)および/または化合物(B−2)、および、酸無水物(C)の少なくとも一部が溶融混練によって反応し、この特定の反応形態を経て得られる樹脂組成物は、機械的特性、耐久性に優れるだけでなく、十分に優れた成形性を特に好ましく有する。かかる各成分の溶融混練は、1軸または2軸押出機を使用して一旦ペレット化した後、成形に供してもよいし、また、溶融混練後に直ちに成形に供してもよい。また、前記各成分を一度に溶融混練処理しても、あるいは、各成分を別々に混練して後から混合したり、各成分を2回以上に分けて添加し、溶融混練してもよい。
【0025】重合体(B−1)および/または化合物(B−2)の配合量が0.1重量部より少ないと、成形性、耐熱性の向上効果が発揮されず、10重量部より多いと、物性が低下する等の問題が発生する。重合体(B−1)および/または化合物(B−2)の配合量は、好ましくは、0.1〜7重量部であり、より好ましくは、0.2〜5重量部である。また、カルボン酸無水物(C)の配合量が0.01重量部より少ないと、成形性向上効果が発揮されず、5重量部より多いと、十分な成形性向上効果が得られない上に、成形品の物性に悪影響を与える。カルボン酸無水物(C)の配合量は、好ましくは、0.01〜3重量部、より好ましくは、0.05〜3重量部、さらにより好ましくは、0.1〜2重量部である。
【0026】この際、カルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)中のカルボン酸反応性基および/または化合物(B−2)中のオキサゾリン基/ポリエステル樹脂中のカルボキシル基=0.1〜3(モル比)の範囲が好ましい。さらに本発明においては、得られるポリエステル樹脂組成物の物性を損なわない限りにおいて原料(A)、(B−1)および/または(B−2)、(C)の配合時、成形時に、他の添加剤、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなどのポリオレフィン類や塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、熱可塑性エラストマー類などの他の熱可塑性樹脂、顔料、染料、強化剤、炭酸カルシウムやタルクなどの充填剤、耐熱性向上剤、酸化劣化防止剤、可塑剤、耐候性向上剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、結晶促進剤、流動性改良剤、帯電防止剤、安定剤、難燃剤などを添加してもよい。添加量は特に限定されないが、好ましくは、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、0〜50重量部、より好ましくは、0〜30重量部である。
【0027】上記の添加剤等として、ポリオレフィンを含む場合は、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンおよびそれらの共重合体、並びにそれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、それらの共重合体、またはそれらの混合物であり、さらに好ましくは、ポリプロピレンである。上記ポリオレフィンの好ましい分子量は、5000〜1000000の範囲内、さらに好ましくは10000〜100000の範囲内のものである。上記ポリオレフィンの添加量は、上記ポリエステル樹脂100重量部当たり、上記ポリオレフィンが、0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.2〜2重量部の範囲内である。
【0028】また、強化剤として強化繊維を配合することは、用途によってはよく用いられる手法であり、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、カーボン繊維などが挙げられ、中でも特にガラス繊維が好ましく、より好ましくはチョップドガラス繊維である。強化繊維の添加量としては特に限定されないが、ポリエステル樹脂に対して、ガラス繊維の場合は5〜50重量%が好ましく、10〜45%がさらに好ましい。また、アラミド繊維、カーボン繊維の場合は2〜50重量%が好ましく、5〜45重量%がさらに好ましい。繊維の長さは、通常用いる長さであれば特に制限はないが、好ましくは0.1〜5mm、さらに好ましくは0.2〜4mmである。
【0029】ポリエステル樹脂(A)、カルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)、カルボン酸無水物(C)、および必要によりその他の添加剤等の配合方法としては、特に限定されない。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)、カルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)、カルボン酸無水物(C)を配合してなるので、従来の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物と比較して、優れた成形性を有している。これは、ポリエステル樹脂(A)の有する末端カルボキシル基、末端ヒドロキシル基、重合体(B−1)中のカルボン酸反応性基、化合物(B−2)中のオキサゾリン基、カルボン酸無水物(C)の酸無水物基が、何らかの反応あるいは相互作用をし、結果として、例えば、長鎖分岐を有するなど、優れた成形性に貢献できる分子構造を有する重合体となっているからと推定される。これに対し、ビスフェノールF型グリシジルエーテル等のエポキシ化合物等を用いた場合、成形条件を精密に制御しなければ、ゲル化を引き起こすことがしばしばあった。
(用途)本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、上述のように、成形性に優れているので、各種成形方法に用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂を材料とする成形体を製造することは、非常に好ましい態様である。すなわち、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂成形体の製造方法は、熱可塑性ポリエステル樹脂を材料とする成形体を製造する方法であって、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いて成形を行うことを特徴とする。
【0030】前記成形は、押出成形、射出成形、ブロー成形、発泡成形、および、紡糸成形から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、その成形性が従来品に比べて十分に優れているので、特に、押出成形、ブロー成形の際に樹脂のドローダウンが起こらずに良好な成形性を示し、また、発泡成形の際には均一微細な発泡体が得られ、かつ、これらの成形方法により機械的物性、外観に優れた成形品が得られる。また、紡糸成形においては、糸切れが起こりにくくなる。
【0031】これらの成形で用いる成形機は特に限定されないが、例えば、通常の射出成形機や、いわゆる射出圧縮成形機、二軸スクリュー押出機、一軸スクリュー押出機、ベント付き二軸スクリュー押出機、ベント付き一軸スクリュー押出機などが好ましく用いられる。押出成形の場合は、通常用いられる押出機により、通常の方法で成形できる。即ち、本発明の組成物を押出機で溶融し、所望の形状のダイより連続的に押し出すことで、シートやフィルム等に成形される。
【0032】射出成形の場合は、通常用いられる射出成形機を使用し、通常の方法で成形できる。即ち、押出機内で本発明の組成物を溶融し、シリンダーより金型内に溶融された組成物を射出し、所望の形状に賦形された成形体を得ることができる。ブロー成形の場合は、一般的に熱可塑性樹脂のブロー成形に用いられるブロー成形機を使用し、通常の方法で行えばよい。すなわち、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を押出機等で可塑化し、これを環状のダイにより押出あるいは射出して環状の溶融または軟化した中間体パリソンを形成し、これを金型にはさんで内部に気体を吹き込み、ふくらませて冷却固化し、中空体として成形される。内部に吹き込む気体については、空気、窒素その他何でもよいが、経済性の面から空気が通常用いられ、その吹込圧は3〜10kg/cm2 が好ましい。更には、3次元ブロー成形機等の特殊ブロー成形機で成形することもできる。また、本発明の組成物を1層以上とし、また、他の材料による層と組み合わせて多層ブロー成形品とすることも可能である。
【0033】発泡成形の場合は、例えば、配合量を調整した本発明の組成物と増粘剤などを押出機内で溶融混合させ、その溶融混合物を高圧下で発泡剤と混合し、得られた混合物を大気中などの低圧域に押し出して成形を行うことができる。発泡成形で用いることができる押出機としては、例えば、単軸押出機、多軸押出機、タンデム押出機などの押出成形機を用いることができ、これらの押出機を用いる場合には、前記溶融混合物は、口金から低圧域に押し出される。
【0034】前記発泡剤としては、加熱によって気化ないし膨張する性質を有する物理発泡剤などを用いることができる。この発泡剤の例としては、例えば、炭酸ガス、チッ素ガスなどの不活性ガス;メタン、エタン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、ノルマルヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタンなどの飽和脂肪族炭化水素;メチルシクロプロパン、シクロペンタン、エチルシクロブタン、1,1,2−トリメチルシクロプロパンなどの飽和脂環族炭化水素;ベンゼンなどの芳香族炭化水素;トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、モノクロロジフルオロメタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、2−エトキシエタノールなどのエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトンなどのケトンなどが挙げられ、これらは単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
【0035】前記発泡剤の使用量は、得られる成形体が所望の発泡倍率を有するようにするため、前記溶融混合物100重量部に対して、0.5重量部以上、好ましくは1部以上であり、また、押出成形時に成形体の寸法安定性が低下しないようにするには、前記溶融混合物100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、7.5重量部とするのがより好ましい。
【0036】また、発泡成形に際し、気泡を細かくするために、発泡核剤を添加することが好ましい。発泡核剤としては、タルク、シリカ、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の無機物質、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩、二酸化炭素、窒素等の無機ガスを加熱することにより発生する有機化合物であるアゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチルジニトリル、アゾジカルバミン酸アミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド等が例示される。発泡核剤は、本発明の樹脂組成物100重量部に対して0.01〜5重量部添加するのが好ましい。また、発泡成形させる際、成形性を改良するために、公知の反応促進剤も用いることができる。例えば、炭酸ナトリウム等のI、II、III族の金属化合物や、ステアリン酸アルミニウム等の有機金属化合物等である。その添加量は、本発明の樹脂組成物100重量部に対し、0.01〜5重量部が好ましい範囲である。
【0037】紡糸成形によってポリエステル繊維を得る場合は、常法の紡糸成形条件を採用できるが、紡糸速度としては、1000〜6000m/分、好ましくは、1500〜5000m/分、より好ましくは、1500〜4000m/分である。また、溶融紡糸された糸条をそのまま巻き取っても、一旦第1ホットロールで引き取り、第2ホットロール間で延伸し、熱固定後に巻き取っても(いわゆる紡糸直接延伸)、紡糸線上で一旦ポリマーのガラス転移温度以下に冷却した後、非接触ホットチューブに通し、加熱延伸後に巻き取ってもよい。
【0038】
【実施例】以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(分子量)重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した。
(固有粘度(IV))フェノールとテトラクロロエタンの6:4(重量比)の混合溶媒を用い、25℃で測定した。
【0039】(成形性の評価)
発泡成形性: ○ 発泡倍率が20倍以上。
△ 発泡倍率が10倍を超えて20倍未満。
× 発泡倍率が10倍以下。
ブロー成形性:○ ドローダウンが起きず肉厚の均一な成形品が得られる。
△ 吹き込み時の破れが起こることがある。
× ドローダウンや吹き込み時の破れが起こる。
射出成形性: ○ 表面外観良好。
× やや波打ちがある。
紡糸成形性: ○ 糸切れがなく良好。
× 糸切れが頻発。
【0040】[参考例1]攪拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備えたフラスコに、トルエン665部を仕込み、ゆるやかに窒素ガスを流しながら90℃に加熱した。そこへ、スチレン512部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン128部およびパ−ブチルO(日本油脂(株)製)25部からなる混合物を2時間にわたって滴下した。更に、90℃で6時間攪拌を続けて反応を完結させた後、室温まで冷却して樹脂溶液を得た。次に得られた樹脂溶液をロータリーエバポレーターに移し、所定の温度および圧力でトルエンを留去した後、残留物を粉砕して、オキサゾリン基含有重合体(B−1a)を得た。重合体(B−1a)中にオキサゾリン基が存在することは、IRスペクトルにより、1655cm-1に特性吸収があることにより確認した。
【0041】得られたオキサゾリン基含有重合体(B−1a)の数平均分子量をGPCにて測定したところ、6000であった。
[参考例2]前記2−イソプロペニル−2−オキサゾリンを、グリシジルメタクリレートに代えた以外は、参考例1と同様に行い、エポキシ基含有重合体(B−1b)を得た。重合体(B−1b)中にエポキシ基が存在することは、IRスペクトルにより、910cm-1に特性吸収があることにより確認した。
【0042】得られたエポキシ基含有重合体(B−1b)の数平均分子量をGPCにて測定したところ、6000であった。
[実施例1〜4、比較例1〜5]熱可塑性ポリエステル樹脂PET−1(鐘紡製、商品名:ペルベットPBK−1)、オキサゾリン基含有重合体(B−1a)、エポキシ基含有重合体(B−1b)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン(以下、Ox化合物と略すことがある)、ビスフェノールF型グリシジルエーテル(以下、Ep化合物と略すことがある)、ピロメリット酸2無水物(以下、PMDAと略すことがある)の中から選ばれる少なくとも1種を、表1に示す配合割合(重量部)で2軸押出機に投入し、溶融混練した後、冷却し、スタランドカッターにより樹脂組成物ペレットを調製した。また、溶融混練して得られたペレットのIVを測定した結果を表1に示した。
【0043】実施例1〜4および比較例1〜4においては、得られた樹脂組成物ペレットを用い、ブロー成形機(株式会社プラコー製、S−45ND)で、ダイ(ダイス径50mm、ダイス間隔3mm)温度270℃、金型温度80℃、吹込圧5kg/cm2 で、平均厚み2.5mm、内容量500ccの円筒状中空容器を成形し、ブロー成形性を評価した。評価結果を表1に示した。
【0044】さらに、実施例3〜4および比較例1〜4においては、得られた樹脂組成物ペレットを射出成形機(住友重機械工業社製、SG25−HIPRO MI1)に導入し、ノズル温度280℃、バレル温度280℃、充填圧70%で成形し、射出成形性を評価した。評価結果を表1に示した。なお、比較例5で用いたビスフェノールF型グリシジルエーテルは、分子量が1000未満であり、製造過程でいわゆる重合反応を経ずに製造され、本発明にいう重合体(B−1)には該当しないものである。
【0045】
【表1】


【0046】[実施例5〜8、比較例6〜10]熱可塑性ポリエステル樹脂PET−1(鐘紡製、商品名:ペルベットPBK−1)、オキサゾリン基含有重合体(B−1a)、エポキシ基含有重合体(B−1b)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン(以下、Ox化合物と略すことがある)、ビスフェノールF型グリシジルエーテル(以下、Ep化合物と略すことがある)、ピロメリット酸2無水物(以下、PMDAと略すことがある)の中から選ばれる少なくとも1種、および、発泡核剤としてタルクを、表2に示す配合割合(重量部)でタンブラーにて混合し、押出機ホッパーに投入して溶融混合し、4重量部の発泡剤(イソペンタン)を押出機途中より溶融混合物中に注入し、ノズル金型よりロッド状に大気中に押出発泡させ、冷却して発泡体を成形した。押出機の各部の設定温度は、供給部:268〜280℃、圧縮部:285〜290℃、溶融部:274〜283℃、ヘッド部:280〜290℃、金型:265〜270℃の範囲内で調整した。得られた成形体の発泡成形性を評価した。評価結果を表2に示した。
【0047】なお、比較例10で用いたビスフェノールF型グリシジルエーテルは、分子量が1000未満であり、製造過程でいわゆる重合反応を経ずに製造され、本発明にいう重合体(B−1)には該当しないものである。
【0048】
【表2】


【0049】[実施例9〜12、比較例11〜15]熱可塑性ポリエステル樹脂PET−2(PETフィルム成形屑から回収したPETペレット)、オキサゾリン基含有重合体(B−1a)、エポキシ基含有重合体(B−1b)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン(以下、Ox化合物と略すことがある)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(以下、Ep化合物と略すことがある)、ピロメリット酸2無水物(以下、PMDAと略すことがある)の中から選ばれる少なくとも1種を、表3に示す配合割合(重量部)でベント付き2軸押出機に投入し、バレル温度280℃で溶融した。溶融押し出し後の融液を用いて常法により溶融紡糸し、ノズル温度280℃、巻き取り速度5000m/分で巻き取った。また、紡糸前の融液を取り出し、そのIVを測定した結果を表3に示し、さらに、紡糸性の評価結果も表3に示した。
【0050】なお、比較例15で用いたビスフェノールF型グリシジルエーテルは、分子量が1000未満であり、製造過程でいわゆる重合反応を経ずに製造され、本発明にいう重合体(B−1)には該当しないものである。
【0051】
【表3】


【0052】
【発明の効果】本発明によれば、機械的特性、耐久性に優れるだけでなく、十分に優れた成形性を有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。特に、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は高い分子量、IVを有し、靱性等の強度も付与できる。具体的には、押出成形やブロー成形の際に樹脂のドローダウンが起こらずに良好な成形性を示し、発泡成形の際には均一微細な発泡体が得られる。また、樹脂に粘りや靱性が付与されているために、ブロー成形の際の成形品の破れ等が発生しにくい。また、紡糸成形においては、糸切れの問題が起こりにくくなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】熱可塑性ポリエステル樹脂を必須成分とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物において、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜10重量部のカルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)と、0.01〜5重量部のカルボン酸無水物(C)とを配合してなることを特徴とする、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部、カルボン酸反応性基を有する重合体(B−1)および/または分子中に複数のオキサゾリン基を有する化合物(B−2)0.1〜10重量部、および、カルボン酸無水物(C)0.01〜5重量部を溶融混練してなる、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】前記重合体(B−1)中のカルボン酸反応性基がオキサゾリン基および/またはエポキシ基である、請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】前記重合体(B−1)の数平均分子量が1000〜20000の範囲にある、請求項1から3までのいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】熱可塑性ポリエステル樹脂を材料とする成形体を製造する方法であって、請求項1から4までのいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いて成形を行うことを特徴とする、熱可塑性ポリエステル樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】前記成形が、押出成形、射出成形、ブロー成形、発泡成形、および、紡糸成形から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2001−98145(P2001−98145A)
【公開日】平成13年4月10日(2001.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−279977
【出願日】平成11年9月30日(1999.9.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】