説明

熱可塑性樹脂シートの製造方法、製造装置、およびタッチロール

【課題】鏡面仕上げが可能であり、シートが白化を生じさせることなく、また曇りもなく、かつすぐれた透明性を有するシートを成形するための熱可塑性樹脂シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】溶融状態の熱可塑性樹脂を供給ダイ11から連続的に供給し、供給ダイ11の下方に設けられた冷却ロール12とタッチロール13との間に形成される挟圧部において、熱可塑性樹脂を挟圧しつつ冷却してシート状にする、熱可塑性樹脂シートの製造方法において、当該タッチロール13を、金属製の芯部材13aと、当該芯部材の表面を覆う弾性層13bとを有し、前記弾性層13bは、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂であり、さらに、当該弾性層の表面部分13cの中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下であることを特徴とするタッチロール13とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性樹脂シートの製造方法および製造装置、さらには、熱可塑性樹脂シートの押出形成法において用いられるタッチロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばポリプロピレン樹脂などの熱可塑性樹脂を用いて樹脂シートを製造するには、熱可塑性樹脂を溶融状態で供給ダイとしてのTダイを通して押出成形する方法が実施されている。この場合、Tダイにより押出成形された樹脂を金属製冷却ロールのみを用いて片面圧着する、いわゆるエア・チャンバー方式にて樹脂シートを製造するのが一般的であった。
【0003】
また、得られる熱可塑性樹脂シートの平滑性および透明性を向上させるため、冷却ロールと併せてタッチロールを設け、これら冷却ロールとタッチロールとの間で熱可塑性樹脂を挟圧することで樹脂シートを製造することも知られている。また、冷却ロールに加えてタッチロールを使用して、厚みが100μm以下の樹脂シートを製造する場合、冷却ロールを金属製とし、タッチロールをゴム製とすることも知られている。このように冷却ロールとタッチロールの材質を工夫することにより、得られる熱可塑性樹脂シートの厚みを均一にすることができ、これによって、熱可塑性樹脂シートの平滑性および光学的均一性を向上させることができる。また、タッチロールによって熱可塑性樹脂を冷却ロールにより強く密着させることができるので、熱可塑性樹脂をより効率的に冷却することができ、このことにより、熱可塑性樹脂の結晶化が防がれ、その結果、透明性の高い熱可塑性樹脂シートを得ることが可能となる。
【0004】
このような観点から、熱可塑性樹脂に対し、冷却ロール方向へ向かうエアを吹き付け、これによって熱可塑性樹脂を冷却ロールにより強く密着させる方法も提案されている。(例えば、特許文献1乃至3)。
【0005】
また、シートの表面を平滑に、すなわち鏡面に仕上げる方法として、いわゆる圧着法が知られている。この方法は、例えば図2に示すように、シート状に加工した後の樹脂シート30を一対の金属ロール31間に通して、ロール間の圧力によって樹脂シートを押圧し、シート表面を平滑に仕上げるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−216717号公報
【特許文献2】特開平10−100231号公報
【特許文献3】特開2008−229901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来法のうち、エア・チャンバー方式による片面圧着方法によれば、金属製冷却ロール側は平滑面を有しているが、金属製冷却ロールと反対側の表面にはダイライン、すなわちTダイによる押出成形の際の縦方向の筋模様が表われたり、樹脂原料の未溶融物の粒状塊がシート表面に小さい突起として表われたりして、平滑な表面仕上げを達成することができないという問題があった。
【0008】
また、冷却ロールと併せてタッチロールを用いる方式にあっては、ゴム製のタッチロールの表面の粗さがそのまま樹脂シートの表面に転写され、シート表面に曇りが生じてしまい、その透明性が損なわれるという問題があった。さらにまた、特にポリプロピレン樹脂のような結晶性樹脂を原料とした場合、冷却効果が不十分でシートを構成するポリプロピレン樹脂の結晶化が進行してしまい、シート表面に曇りが生じて、透明性が損なわれるという問題があった。
【0009】
また、特許文献1乃至3に開示されているような、熱可塑性樹脂にエアを吹き付けて冷却を補う方法においては、熱可塑性樹脂にエアを吹き付ける位置と、熱可塑性樹脂を冷却ロールとタッチロールとにより挟圧する位置が離れているため、エアにより熱可塑性樹脂が冷却ロールに密着させられてから、冷却ロールとタッチロールとにより熱可塑性樹脂が挟圧されるまでにタイムラグが生じているもの考えられる。このため、挟圧される前の熱可塑性樹脂が冷却ロールにより冷却され固まってしまい、これによって熱可塑性樹脂が冷却ロールから浮き上がり、この結果、得られる熱可塑性樹脂シートにシワが発生することが懸念される。
【0010】
また、金属ロールを用いた両面圧着方法により樹脂シートの表面を鏡面化する方法もあるが、この方法では、樹脂シートの厚みが100μm以下のいわゆる薄物である場合には、樹脂自体の肉厚方向への弾性変形が期待できないため、ロールによる均一な圧着が不可能となり、不安定な加工となってしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための第1の本発明は、溶融状態の熱可塑性樹脂を供給ダイから連続的に供給し、供給ダイの下方に設けられた冷却ロールとタッチロールとの間に形成される挟圧部において、熱可塑性樹脂を挟圧しつつ冷却してシート状にする、熱可塑性樹脂シートの製造方法であって、前記タッチロールが、金属製の芯部材と、当該芯部材の表面を覆う弾性層とを有し、前記弾性層は、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂であり、さらに、当該弾性層の表面部分の中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、上記第1の本発明にあっては、前記タッチロールに、金属製のバックアップ冷却ロールを圧着せしめ、これにより当該タッチロールを冷却してもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するための第2の本発明は、溶融状態の熱可塑性樹脂を連続的に供給する供給ダイと、前記供給ダイの下方に設けられた冷却ロールとタッチロールと、を有し、前記冷却ロールとタッチロールとの間に形成される挟圧部において、熱可塑性樹脂を挟圧しつつ冷却してシート状にする、熱可塑性樹脂シートの製造装置であって、前記タッチロールが、金属製の芯部材と、当該芯部材の表面を覆う弾性層とを有し、前記弾性層は、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂であり、さらに、当該弾性層の表面部分の中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、上記第2の本発明においては、前記タッチロールと圧着しており、当該タッチロールを冷却するための、金属製のバックアップ冷却ロールを備えてもよい。
【0015】
また、上記課題を解決するための第3の本発明は、熱可塑性樹脂シートの製造において用いられるタッチロールであって、当該タッチロールは、金属製の芯部材と、当該芯部材の表面を覆う弾性層とを有し、前記弾性層は、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂であり、さらに、当該弾性層の表面部分の中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のタッチロール、およびこれを用いた熱可塑性樹脂シートの製造方法および製造装置によれば、上記の従来技術の問題を解決し、厚みが100μm以下の薄物の樹脂シートを製造する場合でも、タッチロールによってシート表面を確実にかつ均一に圧着することができ、従って加工が非常に安定なものとなって、押出成形の際のダイラインがシート表面に残ったり、あるいは樹脂原料の未溶融物等の粒状塊がシート表面に突起として表われたりするようなことが全くなく、シート表面の平滑性を向上することができて、鏡面仕上げが可能であり、シートが白化を生じさせることなく、また曇りもなく、かつすぐれた透明性を有するシートを成形することかできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態にかかる装置の概略図。
【図2】従来法に用いられる装置の概略を示す垂直横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明のタッチロール、これを用いた熱可塑性樹脂シートの製造方法および製造装置のそれぞれについて、実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、実施の形態にかかる装置の概略図である。
【0020】
はじめに、本実施の形態においてシートの原料として用いられる熱可塑性樹脂20、および当該熱可塑性樹脂20を成形して得られる熱可塑性樹脂シート21について説明する。
【0021】
(熱可塑性樹脂:原料)
熱可塑性樹脂20は、後述する供給ダイ11を用いた溶融押出成形法により熱可塑性樹脂シート21を形成することができるものであれば特に限定されるものではない。熱可塑性樹脂20として、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリプチレンンテレフタレート等のポリエステル、トリアセチルセルロース等のセルロース、ナイロン6及びナイロン66等のポリアミド、並びにポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフイン、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂に、適宜各種の添加剤や添加樹脂を混合して用いてもよい。
【0022】
上述の熱可塑性樹脂20のうち、得られる熱可塑性樹脂シート21の透明性および光学的均一性が極めて良好になるという点でポリプロピレンが特に好ましい。ポリプロピレンとしては、例えば、プロピレンの単独重合体、又はプロピレンと1種若しくは2種以上のコモノマーとの共重合体が挙げられる。ポリプロピレンの製造に用いられる重合用触媒としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒などが挙げられる。このうちメタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンは、分子量と結晶性が均一であって、かつ低分子量・低結晶性成分が少ないという一般的特徴を有するので好ましい。この場合、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンは、プロピレンとα−オレフィンのランダム共重合体であることが好ましい。
【0023】
α−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等を挙げることができる。共重合体中のプロピレンおよびコモノマーの好ましい割合は、プロピレンが80モル%以上であり、コモノマーが20モル%以下である。
【0024】
(熱可塑性樹脂シート)
熱可塑性樹脂20から形成される熱可塑性樹脂シート21の成膜幅は特に限定されず、例えば400mmとなっている。熱可塑性樹脂シート21の厚さは、好ましくは10〜200μmの範囲内となっており、さらに好ましくは30〜150μmの範囲内となっている。上述した、原料としての熱可塑性樹脂20をこのような厚さの熱可塑性樹脂シート21に成形することにより、極めて良好な透明性および光学的均一性を有する熱可塑性樹脂シート21を得ることができる。
【0025】
上述のように、熱可塑性樹脂シート21は、良好な透明性および光学的均一性を得るため薄く加工することが望まれる場合が多い。このような要望に応えるにあたり、金属製の冷却ロールと、同じく金属製のタッチロールを用い、これらの間に形成される挟圧部で熱可塑性樹脂を挟圧することで薄いシートを形成する場合、挟圧部を小さく、つまり冷却ロールとタッチロールとの間隔を小さくしなければならない。しかしながらそうすると、挟圧時にロール同士に傷が発生しやすくなり、さらにロールに発生した傷が熱可塑性樹脂シート21に転写され、この結果、得られる熱可塑性樹脂シート21が不良となってしまうことがあった。本願の実施形態にかかるタッチロール、およびこれを用いた製造方法や製造装置によれば、このような傷が形成されるのを防ぐことができる。以下に詳しく説明する。なお、熱可塑性樹脂シートの製造装置の実施形態を説明しつつ、併せて、これに用いられているタッチロール、および熱可塑性樹脂シートの製造方法についても説明することとする。
【0026】
(熱可塑樹脂シートの製造装置)
図1に示すように、実施形態にかかる製造装置10は、熱可塑性樹脂20を連続的に供給する供給ダイ11と、供給ダイ11下方に設けられた冷却ロール12およびタッチロール13とを有する。そして、冷却ロール12とタッチロール13との間に形成される挟圧部において、熱可塑性樹脂20を挟圧しつつ冷却することで熱可塑性樹脂シート21を製造する。そして、このような製造装置10は、前記タッチロール13が、金属製の芯部材13aと、当該芯部材13aの表面を覆う弾性層13bとを有し、前記弾性層13bは、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂であり、さらに、当該弾性層13bの表面部分13cの中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下であることに特徴を有している。
【0027】
以下に、製造装置10の各構成について説明する。
【0028】
(供給ダイ)
図1に示すように、供給ダイ11は、開口11aを有しており、この開口11aから溶融状態の熱可塑性樹脂20が押し出される。供給ダイ11としては、たとえばTダイを用いることができる。開口11aの幅および高さは、形成する熱可塑性樹脂シート21の成膜幅および厚さに応じて適宜選択することができる。また、溶融状態の熱可塑性樹脂20の温度は、当該樹脂の種類や物性に応じて適宜決定される。
【0029】
(冷却ロール)
上記冷却ロール12は、前記供給ダイ11の下方に設けられ、後述するタッチロール13と併せて用いられるものであり、タッチロール13との間に挟圧部を形成し、ここで熱可塑性樹脂20を挟圧するとともに、熱可塑性樹脂20を冷却するためのロールである。本実施の形態においては、このような作用機能を発揮する冷却ロールであればよく、特に限定することはない。たとえば、材質としては金属製であることが好ましく、より具体体には、鋼製ロールの表面にクロムメッキを施こしたものであってもよい。また、種々の冷却手段を備えていてもよく、たとえば、オイル、水等を用いた冷却手段が内蔵されていてもよい。
【0030】
このような冷却ロール12の表面温度は、熱可塑性樹脂20の溶融温度より約50〜150℃低い温度に設定するのが好ましい。例えばポリプロピレン樹脂を原料して用いる場合、当該樹脂の溶融温度は200℃であるので、急冷による結晶化進行を回避するために冷却ロール12の表面温度は30℃程度に設定することが好ましい。
【0031】
(タッチロール)
タッチロール13は、金属製の芯部材13aと、当該芯部材13aの表面を覆う弾性層13bとを有する。ここでまず、金属製の芯部材13aについては特に限定されることはなく、従来からタッチロールとして用いられていた種々のロールを適宜流用することができる。
【0032】
次に、前記芯部材13aの表面を覆う弾性層13bは、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂で構成されている。このように、タッチロール13の表面部分に、ゴムなどの弾性体からなる弾性層13bを設けることにより、冷却ロール12が金属製であった場合でも互いが接触などして傷が付くことを防止することができ、これにより表面状態の優れた熱可塑性樹脂シートを安定的に供給することができる。
【0033】
しかしながら一方で、ゴムや樹脂などの弾性体の熱伝導度は一般に金属に比べて小さい。したがって、単純にこれらの材質からなる弾性層をタッチロール13に設けた場合、その内側から冷却するのは容易ではない。そして、タッチロール13の弾性層13bが高温となった場合、冷却ロール12とタッチロール13との間で熱可塑性樹脂20を挟圧する際に、熱可塑性樹脂20を十分に冷却することができず、このため得られる熱可塑性樹脂シート21に白化が生じることが懸念される。
【0034】
本願の実施形態にかかるタッチロール13は、このような懸念も十分に検討されており、そのために、弾性層13bには、アルミナが30〜70質量%の割合で含有せしめられている。このようにアルミナを所定量含有せしめることにより、弾性層13bの熱伝導度を良好にすることができ、これにより弾性層13bが高温となることを防止することができる。
【0035】
このような、弾性層13bの厚さは、1.0〜6.0mm、好ましくは2.0〜4.0mmであり、そのアルミナの含有量は、層全体で30〜70質量%が望ましい。アルミナ含有量が30質量%を下回ると、熱伝導効果が下がってしまい、たとえば原料としてポリプロピレン樹脂を用いた場合、結晶化が進行してしまう虞がある。また、アルミナの含有が70質量%を超えると、熱可塑性樹脂20とタッチロール13との接触面積が小さくなってしまい熱伝導効果が下がってしまうことがあるばかりでなく、アルミナを含有する弾性層13bと金属製の芯部材13aとの接着力も低下し、タッチロール13の耐久性を悪化させる虞がある。
【0036】
ここで、弾性層13bは、前述の通り、冷却ロール12との間においていわゆる緩衝材として機能するのみならず、冷却ロール12とタッチロール13との間に形成される挟圧部における圧力を弾性変形によって逃がし、かつ当該タッチロール13の表面形状を復元するためのものであり、このような観点から、シリコンゴム等の合成ゴムを使用することが好ましく、一方で、適度の反発弾性を有する各種合成樹脂も使用可能である。
【0037】
さらに実施形態にかかるタッチロール13にあっては、上述の弾性層13bの表面部分13cの中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下となっている。これはつまり、弾性層13bの表面部分13cが、いわゆる鏡面化、平坦化されていることを意味する。このように、弾性層13bの表面部分13c、つまりはタッチロール13の表面を鏡面化、もしくは平坦化することにより、得られる熱可塑性樹脂シート21の平滑性、透明性および光学的均一性を向上させることができる。
【0038】
タッチロール13の弾性層13bの表面部分13cの中心線平均粗さが0.3μmより小さいと、熱可塑性樹脂20とタッチロール13の表面部分13cとの密着性が高くなり過ぎ、これによって不具合が生じることが考えられる。また、タッチロール13の表面部分13cの中心線平均粗さを0.3μm以下にするためには、高度な鏡面仕上げ技術が必要となり、このためタッチロール13の製造コストが高くなることも考えられる。一方、表面部分13cの中心線平均粗さが1.2μmより大きいと、得られる熱可塑性樹脂シート21の透明性が低くなることが考えられる。従って、タッチロール13の弾性層13bの表面部分13cの中心線平均粗さは、0.3μm以上1.2μm以下の範囲内となっていることが好ましく、これによって、製造コストを抑制するとともに、得られる熱可塑性樹脂シート21の平滑性、透明性および光学的均一性を向上させることができる。
【0039】
弾性層13bの表面部分13cとは、具体的には、最表面から0.5〜1.0μmの部分のことを意味する。また、当該表面部分13cの中心線平均粗さを所定の範囲内とする方法については特に限定されることはなく、弾性層13bが合成ゴムの場合には、当該合成ゴムを硬化させた後バフ研磨をしてもよく、他にも一般的な方法を適宜採用することができる。以下に、タッチロール13の弾性層13bの表面部分13cを所定の中心線平均粗さとする処理方法について、より具体的に説明する。
【0040】
タッチロール13の弾性層13bの処理として研磨剤を用いることができる。用いられる研磨剤は、弾性層13bにおいて所望の中心線平均粗さを実現することができればよく、特に限定されないが、たとえば、平均粒子径0.01〜0.1μmの研磨粒子と、シリコン樹脂とシリコンオイルのいずれか一方または双方とを含む研磨剤を用いることができる。
【0041】
この場合、研磨粒子によってタッチロール13の弾性層13bを平滑化するとともに、シリコン樹脂やシリコンオイルにより弾性層13bをコーティングすることができる。このようにしてタッチロール13の弾性層13bの表面部分13cを平滑化することにより、得られる熱可塑性樹脂シート21の透明性を向上させることができる。さらに、当該表面部分13cをシリコン樹脂やシリコンオイルによりコーティングすることにより、タッチロール13の弾性層13bの表面部分13cの離型性を向上させることもできる。これによって、挟圧される前の熱可塑性樹脂20が冷却ロール12よりも先にタッチロール13に密着するのを防ぐことができるとともに、挟圧により得られた熱可塑性樹脂シート21をタッチロール13から容易に剥離させることができる。このことにより、得られる熱可塑性樹脂シート21にシワが発生するのを防ぐことができる。
【0042】
用いられる研磨粒子としては、アルミナ、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、酸化セリウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、ダイヤモンド、立方晶窒化ほう素(CBN)、シリカ、ケイソウ土などを挙げることができる。研磨剤は、溶剤成分に研磨粒子と、シリコン樹脂とシリコン油のいずれか一方または双方とを分散又は溶解させて液体状にして用いることが好ましく、溶剤成分としては、キシレンやトルエン等の芳香族系の炭化水素、ベンジンや石油エーテル等の石油系炭化水素、ジエチルエーテルやTHF等のエーテル類などを用いることができる。
【0043】
このような研磨剤を用いた処理をタッチロール13の弾性層13bの表面部分13cに施すことにより、当該表面部分13cの中心線平均粗さを、0.3μm以上1.2μm以下の範囲内とすることができる。
【0044】
ここで、このようなタッチロール13にあっては、前述した冷却ロール12と同様、種々の冷却手段が備えられていてもよい。たとえば、原料としてポリプロピレン樹脂を用いる場合であって、冷却ロールの温度を30℃とした場合、タッチロール13の設定温度は、これより約10℃低い20℃に設定される。このように設定しても、通常の場合、溶融したポリプロピレン樹脂により加熱され、冷却ロール12と同等の30℃になる。
【0045】
また、タッチロール13を冷却するにあたっては、図1に示すように、タッチロール13に、金属製のバックアップ冷却ロール14を圧着せしめ、これにより当該タッチロールを冷却するようにしてもよい。バックアップ冷却ロール14を設けることにより、冷却ロール12からタッチロール13に加わる押圧力を、冷却ロール12の反対側から支持することに加えて、熱可塑性樹脂20の冷却不足を補足することができる。したがって、製造される熱可塑性樹脂シート21が十分に透明である場合には、このバックアップ冷却ロール14の必要はない。
【0046】
このようなバックアップ冷却ロール14の材質や構成については特に限定することはなく、適宜選択・設計可能である。たとえば、バックアップ冷却ロール14は、前述の冷却ロール12と同等で、鋼製ロールの表面にクロムメッキが施されたものであり、さらには、オイル、水等を用いた冷却手段が内蔵せしめられているものを用いてもよい。また、その表面状態は、タッチロール13の弾性層13bの表面部分13cを傷つけないレベルで、セミミラーな状態で設定すると良い。バックアップ冷却ロール14の面状は熱可塑性樹脂シート21に転写はされないためである。冷却ロール12の表面温度は、溶融状態の熱可塑性樹脂と接するタッチロール13の加熱を抑えるために、約20〜40℃と低い温度に適宜設定する。つまり、たとえば、原料としてポリプロピレン樹脂を用いた場合、タッチロール13の設定温度を20℃とすれば、バックアップ冷却ロール14の温度は、約30℃に設定することが好ましい。
【0047】
以上説明したタッチロール13、およびこれを用いた方法および装置により熱可塑性樹脂シートを製造すれば、冷却ロール12とタッチロール13との間に形成される挟圧部において挟圧しつつ冷却することで、タッチロール13の弾性層13bの表面部分13cはその厚みが比較的薄いので、熱可塑性樹脂シートの凹凸に沿って変形可能であり、かつこの表面部分13cの変形は、弾性層13b全体により吸収されて、直ちに復元される。従って熱可塑性樹脂シートがたとえ厚み100μm以下の薄物であっても、シート表面をロールによって確実にかつ均一に圧着することができ、加工が非常に安定なものとなる。このため、押出成形のさいのダイラインがシート表面に残ったり、あるいは樹脂原料の未溶融物等の粒状塊がシート表面に突起として表われたりするようなことが全くなく、シート表面の平滑性を向上することができ、熱可塑性樹脂シートの鏡面仕上げが可能となる。
【実施例】
【0048】
次に、上述した実施の形態の具体的実施例を、比較例とともに説明する。
【0049】
(実施例1〜7、および比較例1〜3)
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ウィンテック(登録商標)、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン、融点142℃、曲げ弾性率900MPa)を用いた。
【0050】
次に、このプロピレン樹脂を200℃で加熱して溶融させた後、図1に示すような装置を用い、その供給ダイの開口から溶融したポリプロピレン樹脂を押出速度10m/min、厚さ80μm、成膜幅700mmで下方の、冷却ロールとタッチロールとで形成された挟圧部に向けて単層押出により押し出して、透明ポリプロピレン樹脂シートを製造した。
【0051】
ここで、用いた3つのロールは、下記の条件を満たすものであった。
・冷却ロール
材質:鋼材
直径:450mm
表面加工:クロムメッキ(鏡面処理済み)
表面温度:30℃
・タッチロール
芯部材:鋼材
芯部材の直径:450mm
弾性層の材質:シリコンゴム
弾性層に含有されるアルミナの量:表1参照
弾性層の表面部分の表面粗さ:表1参照
設定温度:20℃
・バックアップ冷却ロール
材質:(ジエン系ゴム)
直径:150mm
表面温度:30℃
【0052】
タッチロールにおける弾性層の表面部分の中心線平均粗さおよび弾性層中のアルミナの含有量を変化させ、他の条件はすべて同一として、ポリプロピレン樹脂シートを製造し、できた樹脂シートの透明性と外観の調査を行った。その結果を表1に示す。なお、表1において、弾性層の表面部分の中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下の場合に○とし当該範囲外の場合に×とした。また、具体的な評価基準は以下の通りである。
【0053】
(評価)
透明性の評価:
JIS K7105に準拠し、光源光を熱可塑性樹脂シートのタッチロール側から入射させ、熱可塑性樹脂シートのヘーズを測定した。ヘーズの値が小さい熱可塑性樹脂シートは、透明性が良好といえる。ヘーズが10%以下であるときを○、10%を超えるときを×とした。
外観検査:
熱可塑性樹脂シートの製造を行った際に、製品の白化やシワの発生の有無を観察したり、タッチロールそのものの状態を調査確認した。問題ない場合を○とした。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から明らかなように、本願の実施例によれば、冷却ロール側の表面は勿論のこと、反対側のタッチロール側の表面も平滑なポリプロピレン樹脂シートを成形することができるものであり、得られたシートは、押出成形の際のTダイによるダイラインが表面に残っておらず、かつ樹脂原料の未溶融物等の粒状塊による突起が表面に表われておらず、鏡面を有し、シートの両表面に曇りはなく、透明性は良好であった。これに対し、比較例1〜3によって得られたポリプロピレン樹脂シートは、透明性が悪く、ロール軸から剥離してしまったり、白色不良となってしまった。なお、実施例6と7は、実用には耐えうるが、ごく希に白化不良が生じたり、ダイライン不良が生じたりした。
【符号の説明】
【0056】
10 熱可塑樹脂シートの製造装置
11 供給ダイ
12 冷却ロール
13 タッチロール
13a 芯部材
13b 弾性層
13c 表面部分
14 バックアップ冷却ロール
20 熱可塑性樹脂
21、30 樹脂シート
31 金属ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の熱可塑性樹脂を供給ダイから連続的に供給し、供給ダイの下方に設けられた冷却ロールとタッチロールとの間に形成される挟圧部において、熱可塑性樹脂を挟圧しつつ冷却してシート状にする、熱可塑性樹脂シートの製造方法であって、
前記タッチロールが、
金属製の芯部材と、当該芯部材の表面を覆う弾性層とを有し、
前記弾性層は、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂であり、
さらに、当該弾性層の表面部分の中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下である
ことを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記タッチロールに、金属製のバックアップ冷却ロールを圧着せしめ、これにより当該タッチロールを冷却することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
溶融状態の熱可塑性樹脂を連続的に供給する供給ダイと、
前記供給ダイの下方に設けられた冷却ロールとタッチロールと、
を有し、
前記冷却ロールとタッチロールとの間に形成される挟圧部において、熱可塑性樹脂を挟圧しつつ冷却してシート状にする、熱可塑性樹脂シートの製造装置であって、
前記タッチロールが、
金属製の芯部材と、当該芯部材の表面を覆う弾性層とを有し、
前記弾性層は、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂であり、
さらに、当該弾性層の表面部分の中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下である
ことを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項4】
前記タッチロールと圧着しており、当該タッチロールを冷却するための、金属製のバックアップ冷却ロールを備えることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項5】
熱可塑性樹脂シートの製造において用いられるタッチロールであって、
当該タッチロールは、
金属製の芯部材と、当該芯部材の表面を覆う弾性層とを有し、
前記弾性層は、アルミナを30〜70質量%の割合で含有した合成ゴムまたは合成樹脂であり、
さらに、当該弾性層の表面部分の中心線平均粗さが0.3μm以上1.2μm以下である
ことを特徴とするタッチロール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−6395(P2013−6395A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142204(P2011−142204)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】