説明

熱可塑性樹脂シートの製造方法

【課題】本発明の目的は、プロセスモデルを用いた厚み制御を行ってシートを製造する際に、厚み調整手段への操作量が発散することを防止し安定して厚み斑の少ないシートの製造方法を提供する。
【解決手段】複数個の厚み調整手段2を備えた口金1を用いて原料を押し出し、成形してシートとなすとともに、シートの幅方向における厚み分布を測定し、この測定値に基づき、制御系の挙動を記述したプロセスモデルを用いて厚み調整手段2に加える操作量を求め、操作量を各厚み調整手段2に出力してシートの幅方向の厚み分布が所望の厚み分布となるように制御するシートの製造方法であって、複数個の厚み調整手段2と幅方向における厚み分布の測定に際する位置との対応関係の調整を、1本以上の製品シートのロールを製造後、所定の式が成立する条件にて実施し、調整の結果に基づいて厚み調整手段2に加える操作量を求める熱可塑性樹脂シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂シートの製造方法は、次のようなプロセスにより行われている。
【0003】
図2は、一般的な熱可塑性樹脂シートの製造設備の概略図である。
【0004】
この製造設備は、押し出された溶融樹脂をリップ間隙によってシート状に成形する口金1、シート状に成形された冷却ロール3、シートを縦横方向に延伸する延伸機4、延伸されたシートを連続的に所望の長さまでロール状に巻き取り、かつ連続的に切り換えが可能なターレットワインダ6を備えている。
シートは幅方向に同じ所定厚みを持つことが要求されるが、実際には口金の細い間隙を幅方向に同じ速度で溶融樹脂を通過することが困難であり、かつ延伸においても幅方向で異なるために、シートの厚みは必ずしも幅方向に同じにならない。
【0005】
このため、口金1はシートに対して幅方向に配列された厚み調整手段2を備えている。厚み調整手段2には、ヒートボルトを用い、これらのボルトの温度を変化させて、ボルトを熱膨張、収縮させることにより口金1のリップ間隙を調整するヒートボルト方式等が使用されている。
【0006】
シートを連続的に延伸機4に通過させ、延伸機4通過後のシート厚みを厚み測定器5にてシートの幅方向の分布として測定し、口金のリップにシート幅方向に多数配設された厚み調整手段2に対応する測定位置での厚み測定値に基づいて該厚み調整手段2を制御するようにしたシートの製造方法は各種知られている。
【0007】
この際には、各厚み調整手段とシート厚みの測定位置との対応関係が精度良く決定されていることが重要である。精度良く決定されていない場合には、本来調整すべき位置とは異なった位置のシート厚みを調整することになり、シート厚みを精度良く制御することができず、シートの品質が低下する。シートの幅方向の各所で、シート幅方向に均一に延伸するものであれば、キャスト位置でのシート幅と測定位置でのシート幅の相似的な関係から各厚み調整手段に対応する測定位置を決定することが出来るが、実際にはネックイン現象、シート幅方向で場所によって延伸状態が異なることや、幅方向で延伸状態が異なることで発生する厚み斑を収束させるために、制御によって口金のリップ間隙が幅方向に均一にできないなどの影響によって、上記のように単純に相似関係を利用して対応関係を決定することはできず、各厚み調整手段に対応する測定位置を実測する必要がある。
【0008】
厚み調整手段と測定位置の対応関係を決定する方法として、例えば特許文献1には、厚み調整手段を所定量操作して、厚み調整手段を操作したことによって起こるシートの厚み変動が定常状態になったところで、前記シート厚み変動のピーク位置を検出し、ピーク位置に最も近い測定位置を前記厚み調整手段対応位置とすることが開示されている。
制御手段としては、制御開始前に厚み調整手段を所定量操作し、厚み調整手段を操作したことにより起こるシートの厚み変動が定常状態になったところで、シート厚み変動ピークを検出しピーク位置で最も測定位置を厚み調整手段の対応位置とする手法(以下調整手段対応)によって各厚み調整手段とシート厚みの測定位置を決定し、周知の比例(P)、比例積分(PI)あるいは比例積分微分(PID)の演算を施して得られる制御出力を操作量として厚み調整手段に出力するPID制御方式の厚み制御手段が、構成の簡単な割には安定した効果が得られる点、チューニングが容易である点等の理由で広く利用されている。
しかしながら、PID制御の場合、定常運転状態では実用上、シートの幅方向の厚み分布制御をほぼ問題なく行うことができるが、立ち上げ時、大きな条件変更時等には目的とする品質となる厚み斑に収束させるにはむだ時間が多く膨大な時間がかかっている問題があった。
【0009】
そこで、近年コンピュータ利用による制御システムが発達し、特許文献2,3に記載の厚み調整手段に加える操作量とシート厚みの数式関係を表すプロセスモデルを用いて厚み調整手段へ加える操作量を決定する方法により、厚みの収束性の改善がなされている。プロセスモデルを用いた制御の場合、PID制御に比べ、立ち上げ時、大きな条件変更時の厚み斑収束速度が速く、かつ最終的な収束厚み斑も小さくなり、より厚み斑の小さいシートを製造できる。
【0010】
しかしながら、プロセスモデルを用いた厚み制御を行って熱可塑性樹脂シートを製造していくと厚み調整手段への操作量が隣接する厚み調整手段の操作量との差が過度に大きくなる状況が発生することがあった。隣接位置での操作量の差が過度に大きくなった場合には、隣接する厚み調整手段の差をより大きくしても、操作量は近接する厚み調整手段まで影響し、間隙の形状がこの操作量差に追従できなくなり、間隙の調整能力が低下し、シートの厚み制御精度を低下させ、最終的に操作量を発散させてしまい、制御不能な状態まで陥ることがあった。
【0011】
これは、厚み斑を収束させるために、厚み調整手段へ操作量を随時変化して、操作量変化に伴う口金リップ形状変化によって、溶融熱可塑性樹脂の流路が変更される。そのため、厚み調整前の調整手段対応に微小なズレが生じる。この微少なズレはPID制御の場合、特に大きな問題とならなかったが、大きな操作量変化や、微小厚み斑まで改善させることが可能なプロセスモデルを用いた制御の場合、長時間使用によって操作量を発散させる傾向を顕在化させる。
【0012】
また、口金リップ間隙形状変化によってプロセスモデルに関わる重要な特性であるプロセスゲインや干渉率が微小ながら変化を引き起こし、実際のプロセス特性がプロセスモデルと必ずしも一致しないことが現れて、かつ口金に設置している厚み調整手段の機差もあるためプロセスモデルを実際のプロセスと完全に一致させることは困難である。このプロセスモデル誤差によって、制御安定性が低下することがあり、制御安定性が低下すると、立ち上げ時、大きな条件変更時等の短時間では問題なく制御できた場合にも、定常運転状態で長時間に使用していくにつれて、最終的な厚み収束が悪くなり、操作量が発散していき制御不能に陥ることがあった。
【特許文献1】特開2002−301752号公報
【特許文献2】特開2000−094497号公報
【特許文献3】特開2002−096371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記問題点を解決し、操作量が発散することを防止し安定して厚み斑の小さなシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明によれば、以下の構成を有する。
【0015】
すなわち、複数個の厚み調整手段を備えた口金を用いて原料を押し出し、成形してシートとなすとともに、前記シートの幅方向における厚み分布を測定し、この測定値に基づき、制御系の挙動を記述したプロセスモデルを用いて前記厚み調整手段に加える操作量を求め、前記操作量を前記各厚み調整手段に出力して前記シートの前記幅方向の厚み分布が所望の厚み分布となるように制御するシートの製造方法であって、前記複数個の厚み調整手段と前記幅方向における厚み分布の測定に際する位置との対応関係の調整を、1本以上の製品シートのロールを製造後、次の式(1)が成立する条件にて実施し、前記調整の結果に基づいて前記厚み調整手段に加える操作量を求めることを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造方法が提供される。
【0016】
【数2】

F:品種替えもしくは口金交換または前回調整手段対応を実施してからの経過時間[時間]
d:熱可塑性樹脂シートの基準厚み[μm]
N:品種替えもしくは口金交換から調整手段対応を実施した回数(N=0,1,2,3,・・・)
また、本発明の好ましい形態によれば、前記各厚み調整手段と幅方向における厚み分布の測定に際する位置との対応関係の調整は、互いに離間した前記複数個の厚み調整手段について同時期に実施し、前記対応関係を調整した前記各厚み調整手段ごとに、プロセスゲインおよび/または隣接する厚み調整手段との干渉率を求め、求めた前記プロセスゲインおよび/または前記干渉率に基づいてプロセスモデルを再構成することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの製造方法が提供される。
【0017】
本発明において、プロセスモデルとは、操作量を出力してからの厚み調整手段の動作の時間遅れ、シートが口金を出てから厚み測定装置の位置まで搬送される時間と厚み測定装置で幅方向の厚みデータを測定するのに要する時間からなるむだ時間および一つの厚み調整手段を操作した場合に隣接する厚み調整手段に対応する位置のシート厚みが変化する干渉などを考慮して、制御系の挙動を数式化したものである。しかし、各厚み調整手段に対して個々にモデル化するのでは多大な時間と労力を要するだけでなく、時系列導出式が頻雑になりすぎる。そこで、プロセスモデルを、厚み調整手段の操作量と対応する位置のシート厚みの関係を表す伝達関数と個々の厚み調整手段間の干渉を表す。少なくとも対角成分がゼロでない定数行列との積を用いて表現することが好ましい。これにより、厚み調整手段の操作量時系列演算の際の演算が簡略化される。
【0018】
本発明において、熱可塑性樹脂とは、加熱すると塑性を示す樹脂であり、代表的な樹脂(ポリマー)としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンα、β−ジカルボキシレート、P−ヘキサヒドロ・キシリレンテレフタレートからのポリマー、1,4シクロヘキサンジメタノールからのポリマー、ポリ−P−エチレンオキシベンゾエート、ポリアリレート、ポリカーボネートなど及びそれらの共重合体で代表されるように主鎖にエステル結合を有するポリエステル類、更にナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11、などで代表されるように主鎖にアドミ結合を有するポリアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどで代表されるように主としてハイドロカーボンのみからなるポリオレフィン類、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリオキシメチレンなどで代表されるポリエーテル類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレンなどで代表されるハロゲン化ポリマー類およびポリフェニレンスルフイド(PPS)、ポリスルフオンおよびそれらの共重合体や変性体などである。
【0019】
本発明の場合、熱可塑性樹脂としては、特に、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリエーテル類、ポリフェニレンスルフイドなどが好ましく、更にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類およびポリフェニレンスルイドは特に本発明の効果が顕著であり、一層好ましい。もちろん上記した樹脂に、必要に応じて適宜、添加剤、例えば安定剤、粘度調整剤、酸化防止剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等を添加してもよい。
【0020】
本発明において、熱可塑性樹脂シートの基準厚みとは、製造する品種によって一義的に決まる目標となる厚みのことである。
【0021】
本発明において、プロセスゲインとは、操作量変化に対する制御量変化の感度を表す値である。すなわち、シートの厚み調整手段に入力する操作量を単位量変化させたときに、シートの厚みがどれだけ変化するかを表す値である。 本発明において、干渉率とは、ある厚み調整手段を操作したときに、その厚み調整手段に対応するシート厚み調整手段に対応するシート厚み測定位置のシート厚み変化に対して、隣接する厚み調整手段に対応する測定位置のシート厚みがどの程度変化するかを表す値である。すなわち厚み調整手段を操作したときに、口金の剛性や延伸工程での影響によって、シート厚みは操作位置だけでなく、周辺部もある広がりを持って変化する。このとき、前記操作した厚み調整手段に隣接する厚み調整手段に対応する測定位置でのシート厚み変化割合がどの程度であるか示したものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂シートの製造方法によれば、厚み調整手段への操作量が発散し、制御不能な状態を防止して、厚み斑の小さな熱可塑性樹脂シートを安定製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の実施形態の例を説明する。
【0024】
口金を交換してから、すなわち、フィルムの製造を休止した状態から、シートの厚みを制御開始する前に、複数の厚み調整手段のうち所定の間隔、好ましくは厚み調整手段の操作による厚み変動分布の干渉が無視できる間隔だけ離れた2点以上の数点の厚み調整手段に所定の操作量を加える。厚み調整手段を操作したことによって起こるシートの厚み変動が定常状態になったところで、厚み調整手段を変化する前の厚みとの偏差をとって幅方向の厚み偏差分布を取得する。この厚み分布のピーク位置を検出し、ピーク位置に最も近い測定位置を前記厚み調整手段の対応位置とする。また、ピーク位置の厚み調整手段の対応位置間を補間によって、全部の厚み調整位置と厚み測定位置の関係が算出され、調整手段の対応位置を取得する。
【0025】
この対応位置にプロセスモデルを用いて制御を行っていく場合に長期で使用して行くにつれて、厚み均一性が悪化していく、この厚み均一性の悪化時間を図3に示す。厚み均一性の評価として、延伸機通過後のシートの幅方向の厚みを厚み測定器で20回測定したシートの幅方向の厚み分布を平均化した幅方向の厚み分布を算出し、この幅方向の厚み分布のR値(幅方向の厚み分布の最大値と最小値の差)が50%悪化するまでの時間とした。厚み均一性が悪化したときに調整手段対応を実施して、82カ所ある厚み調整手段のうち、13、27、41、55,69番目の厚み調整手段が、それぞれ、240カ所ある厚み測定位置のどの厚み測定位置に対応するのかを表1に記載した。なお、厚み均一性の評価は、シートの基準厚みがそれぞれ、30μm、50μm、100μm、250μm、500μmのものについて行った。
【0026】
【表1】

口金を交換してからは、最初の調整手段対応以降では大きな厚み斑を修正するために、口金リップ形状変化が大きくなり、調整手段対応のズレが大きくかつ厚み均一性の悪化が早く現れる(図3において、60〜75時間程度までの間に厚み均一性が悪化している。)。2回目以降は厚み斑は小さい状態で制御を再開することができるために、調整手段対応のズレが発生するまでの時間が長くなり、厚み均一性の悪化までの時間が延長される(図3において、75〜120時間程度までの間に厚み均一性が悪化している。)。3回目以降においては、2回目の調整手段対応後に、まず調整手段対応にズレが生じた状態での厚み調整手段の操作量から、厚み均一性を確保するための操作量に戻すように操作量が変化し、口金のリップ形状変化が小さいながらも発生する(図3において、110〜140時間程度までの間に厚み均一性が悪化している。)。この形状変化は、回数ごとに小さくなるために、調整手段対応を実施するたびに減少していき、結果として調整手段対応実施までの時間を伸ばすことが可能になるが、最終的には、厚み均一性確保のための操作量変化があり、形状変化も少ないものの存在するので、調整手段対応のズレが無くなることはない。この厚み均一性悪化までの時間は式(1)で近似することができ、この近似式で演算された間隔以内で、再び調整手段対応を実施することによって、厚み均一性の悪化を防ぐことが出来る。
【0027】
さらに、ピーク位置の偏差量と厚み調整手段に加えた一定の操作量の比率をプロセスゲインとして算出する。前記対応位置が算出されたことによって、厚み調整手段に一定の操作量を加えた位置の隣接する厚み調整手段位置も算出され、その位置の偏差量と偏差のピーク値の比率が干渉率として算出される。算出されたプロセスゲインと干渉率より、プロセスモデルを作成する。
【0028】
新たに作成されたプロセスモデルを制御に適用することによって、口金リップ間隙形状変化によってプロセスモデルに関わるプロセスモデルの誤差も常に小さい状態で制御が出来るようになり結果として最終的な厚み収束性も良化する。
【0029】
図1に本発明の実施形態例におけるフローチャートを示す。
【0030】
プロセスモデルを用いて、厚み制御を実施してシートの製造を行う前に調整手段対応を実施し、対応位置を取得し、かつ調整手段対応で現れた厚み偏差によって、プロセスゲインと干渉率を算出し、プロセスモデルを作成し、制御に適用させる。プロセスモデルを使用して制御を実施していき、シートを製造する。長期で使用することによる調整手段対応にズレが生じて、操作量が発散傾向に動いて厚み斑が大きくならないように、式(1)の時間までに一度制御をやめて、調整手段対応を実施する。この調整時間対応によって得られる対応位置とプロセスモデルに置き換えて、再び制御を開始し、厚み均一性の良いシートを製造していく。
【0031】
この場合、製品シートを製造しているときに制御を一旦停止し、調整手段対応を実施することは、製品シートに厚み斑を設けることになり、その時製造中のロールは製品にならないので、ワインダで製品ロールを切り替えのタイミングで、調整手段対応実施からの経過時間を比較して、調整手段対応を実施した場合、製品ロールのロスがなくなり、好ましく使用される。
【0032】
なお、式(1)において、等号が成り立つ場合には最も調整手段の対応時間を延ばすことができ、歩留まりが良くなることは言うまでもない。また、等号が成立する5割以上8割以下程度で調整手段の対応を取ることも好ましい。
【実施例】
【0033】
以上の熱可塑性樹脂シートの製造方法を用いて、熱可塑性樹脂シート(二軸延伸ポリエステルフィルム)を製造し、各評価を行なった。
【0034】
押出機でポリエステルを溶融し、290℃の温度で口金より押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティング・ドラム上に急冷固化せしめて、未延伸シートを作った。また、押出機の吐出量を調節し、延伸終了後の最終ポリエステルフィルムの厚みが50μmになるように調整した。上記の未延伸フィルムは、112℃で3.5倍長手方向に延伸後、幅方向に110℃で4.8倍延伸した後、246℃で熱処理を施し、ワインダで50m/minの速度で、シートロール一本につき8500m巻取り(巻き取り時間は170分)、厚み50μmの熱可塑性樹脂シート(二軸延伸ポリエステルフィルム)を得た。このフィルムの幅方向の厚み分布の均一性を確認するため、シート厚みの幅方向のR(フィルム厚みの幅方向での最大値と最小値の差)を測定した。
さらに、厚み均一性が悪化しないことを320時間にわたって監視し、厚みに悪化していく傾向がないかを確認し、定常的に厚みの崩れが見られる場合はNGとした。
この案件において、回数N=0のときの式(1)のFは、68以下となる。また、N=1のときの式(1)のFは、109以下となる。
[実施例1]
シートを製造する際、等速度で横行するβ線厚さ計を用いて、延伸機通過後のシートの幅方向の厚み分布をシートの幅方向に等間隔に240カ所で測定した。厚さ計で測定されたシートの幅方向の厚みデータはコンピュータからなるコントローラに入力し、ヒートボルトからなる厚み調整手段を口金に等間隔で82カ所配置して、厚み調整手段対応を5カ所(13、27、41、55,69番目)において実施し、厚み調整手段に対する出力が演算され、各操作量を厚み調整手段に出力することによって幅方向の厚み分布が均一になるように制御を実施し、調整手段対応を実施してからの間隔が式(1)に到達する前、すなわち、ここでは70時間、180時間、320時間の段階で調整手段対応を実施し、さらに調整手段対応厚み偏差によって、得られたプロセスゲインと干渉率によって作成されたプロセスモデルを次の制御から使用するようにした。
【0035】
結果、図4に示すように、監視した320時間すべてにわたってフィルムの厚み均一性を悪化させることなく、平均厚み約1.2μm(300時間の平均)の厚み斑の小さいシートを安定して製造することができた。
[実施例2]
調整時間対応実施の間隔時間が、式(1)に到達する前、すなわち、ここでも実施例1と同様に70時間、180時間、320時間の段階で調整手段対応を実施するが、過去5回に亘って測定したプロセスゲインと干渉率の平均から作成したプロセスモデルを使用し続けて厚み調整手段の出力を演算する以外は、実施例1と同様にシートを製造した。
【0036】
結果、図5に示すように、プロセスモデルの誤差によって、実施例1に比べて最終の厚み斑は小さくならないが、監視した320時間すべてにわたってフィルムの厚み均一性を悪化させることなく、約1.5μm(300時間の平均)の厚み斑の小さいシートを安定して製造することができた。
[比較例1]
式(1)の時間を経過しても調整手段対応を実施せずに、製造を継続した以外は実施例1と同様にシートを製造した。
【0037】
結果、図6に示すように、厚み斑が一旦は小さくなるものの、約100時間程度で調整手段対応のズレによって、操作量の発散が起こり、その後厚み斑も発散してしまった。
[比較例2]
比較例2として、式(1)の時間を経過して、調整手段対応を1回のみ行なって、2回目以降実施せずに、製造を継続した以外は実施例1と同様にシートを製造した。
【0038】
結果、図7に示すように、最初の調整手段対応によってプロセスモデルの算出まで実施することで、約160時間程度までの最初の厚み収束性はよいが、最初の大きな厚み斑修正後の調整手段対応ズレについて修正しているため、制御を実施してシートを製造することによる調整手段対応ズレが再度発生し、徐々にシート厚み崩れが発生していき、安定製膜できなくなった。
【0039】
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、熱可塑性樹脂シートの製造方法に限らず、他の材質のシートなどにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態の熱可塑性樹脂シートの製造方法におけるシート厚み調整方法のフローチャートである。
【図2】シートの製造設備の全体概略構成を示す斜視図である。
【図3】プロセスモデルを使用した厚み制御での厚み悪化時間を表した図である。
【図4】実施例1で製造したシート厚みのRを時系列で表した図である。
【図5】実施例1で製造したシート厚みのRを時系列で表した図である。
【図6】比較例1で製造したシート厚みのRを時系列で表した図である。
【図7】比較例2で製造したシート厚みのRを時系列で表した図である。
【符号の説明】
【0043】
1 口金
2 厚み調整手段
3 冷却ロール
4 延伸機
5 厚み測定器
6 ワインダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の厚み調整手段を備えた口金を用いて原料を押し出し、成形してシートとなすとともに、前記シートの幅方向における厚み分布を測定し、この測定値に基づき、制御系の挙動を記述したプロセスモデルを用いて前記厚み調整手段に加える操作量を求め、前記操作量を前記各厚み調整手段に出力して前記シートの前記幅方向の厚み分布が所望の厚み分布となるように制御するシートの製造方法であって、前記複数個の厚み調整手段と前記幅方向における厚み分布の測定に際する位置との対応関係の調整を、1本以上の製品シートのロールを製造後、次の式(1)が成立する条件にて実施し、前記調整の結果に基づいて前記厚み調整手段に加える操作量を求めることを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【数1】

F:品種替えもしくは口金交換または前回調整手段対応を実施してからの経過時間[時間]
d:熱可塑性樹脂シートの基準厚み[μm]
N:品種替えもしくは口金交換から調整手段対応を実施した回数(N=0,1,2,3,・・・)
【請求項2】
前記各厚み調整手段と幅方向における厚み分布の測定に際する位置との対応関係の調整は、互いに離間した複数個の前記厚み調整手段について同時期に実施し、前記対応関係を調整した前記各厚み調整手段ごとに、プロセスゲインおよび/または隣接する厚み調整手段との干渉率を求め、求めた前記プロセスゲインおよび/または前記干渉率に基づいてプロセスモデルを再構成することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−118478(P2007−118478A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315922(P2005−315922)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】