説明

熱可塑性樹脂発泡成形体及びその製造方法

【課題】軽量で且つ、優れた断熱性及びクッション性を有する熱可塑性樹脂成形体とその製造方法を提供する。
【解決手段】表裏スキン層1、1の内面に表裏発泡層2、2が設けられていると共にこれらの表裏発泡層2、2間にコア層3を設けてなり、上記コア層3は、上下両端が上記表裏発泡層の対向面に連らなっている無数の細い短繊維状樹脂体3aと、隣接する短繊維状樹脂体間に形成された空隙3bとからなることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内装材及び外装材等に用いられる熱可塑性樹脂発泡成形体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、ドアトリム、ピラートリム、各種ボックスリッド、インストルメントパネル等の内装材やタイヤハウス、アンダーカバー等の外装材などの種々の部材が用いられている。このような自動車の内装材及び外装材としては、軽量化を図るために、熱可塑性樹脂を発泡させた発泡層表面に非発泡のスキン層によって被覆された構造を有するシート状の熱可塑性樹脂発泡成形体が広く採用されているが、近年、このような軽量化と共にクッション性を有し、且つ、優れた振動吸収性、断熱性を発揮することができる熱可塑性樹脂発泡成形体が要望されるようになってきている。
【0003】
このため、例えば、特許文献1に記載されているような熱可塑性樹脂発泡成形体が開発されている。この熱可塑性樹脂発泡成形体は、非発泡層からなる表裏スキン層間に、熱可塑性樹脂を発泡させた無数の発泡セルからなる発泡層を設けてなるものであるが、この発泡層は、成形時に金型の速度を早めながら該金型を後退させることよって上記発泡セルをその金型後退方向に延伸することにより、その延伸方向に連なる発泡セル同士を互いに連通させた無数の霜柱状発泡セルからなり、且つ、延伸方向に対して直角方向に連なる発泡セルはそのセル壁同士を連通させた構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−106021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成した熱可塑性樹脂発泡成形体によれば、無数の霜柱状発泡セルからなる発泡層によって軽量化を図ることができると共に良好な吸音性、断熱性を奏することができるが、クッション性については、スキン層の表面にこの熱可塑性樹脂発泡成形体の厚み方向に外力が作用すると、霜柱状発泡セルが長さ方向に圧縮しながらその外力を吸収しようとするが、隣接する霜柱状発泡セル同士が互いに突っ張り合って外力に対して抵抗し、厚み方向に対して直交する方向に弾性的に湾曲しながら外力を吸収する作用を互いに阻止しているから、良好なクッション性を発揮することができないといった問題点がある。
【0006】
また、このような熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法においては、上記無数の霜柱状発泡セルからなる発泡層の形成は、金型を1秒間に53mmもの速い速度でもって後退させて発泡セルをその金型後退方向に延伸することにより、その延伸方向に連なる発泡セル同士を互いに連通させることによって行っているので、霜柱状発泡セルの形成途上で、該霜柱状発泡セルがその長さ方向の中間部から金型の急速な後退による延伸力によって引き千切れが生じる虞れがあり、そのため、厚さが比較的薄い熱可塑性樹脂発泡成形体を製造することができても肉厚の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造には適さないばかりでなく、上述したように、無数の発泡セルが延伸方向及び延伸方向に対して直角方向に連なった構造となって、クッションに富んだ熱可塑性樹脂発泡成形体を製造することが困難である等の問題点がある。
【0007】
そこで、クッションに富んだ熱可塑性樹脂発泡成形体とするために、編布、合皮、不織布などの表皮材の裏面に接着剤層を介してウレタン樹脂発泡シートを積層一体化してなる表皮部材を用意し、この表皮部材を熱可塑性樹脂発泡成形体の表面に粘着剤などを介して貼着一体化させることも考えられるが、余分な工程を要することから製造効率が悪いという問題点を有する。
【0008】
又、上記表皮部材を予めキャビティ内に配設しておき、しかる後、上述の要領で熱可塑性樹脂発泡成形体を製造し、熱可塑性樹脂発泡成形体の表面に表皮部材を積層一体化することも考えられるが、表皮部材のウレタン樹脂発泡シートが成形時の圧力によって圧壊されてしまい、表皮部材が本来有しているクッション性が損なわれてしまい、その結果、熱可塑性樹脂発泡成形体に充分なクッション性を付与することができないという問題点を有する。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、軽量で且つ、高い断熱性能を有しているのは勿論、優れたクッション性を有する熱可塑性樹脂発泡成形体とその製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の熱可塑性樹脂発泡成形体は、請求項1に記載したように、表裏スキン層の内面に表裏発泡層が設けられていると共にこれらの表裏発泡層間にコア層を設けている熱可塑性樹脂発泡成形体であって、上記コア層は、上下両端が上記表裏発泡層の対向面に連らなっている無数の細い短繊維状樹脂体と、隣接する短繊維状樹脂体間に形成された空隙とからなることを特徴とする。
【0011】
このように構成した熱可塑性樹脂発泡成形体において、請求項2に係る発明では、短繊維状樹脂体は、溶融した熱可塑性樹脂が成形時において成形体の厚み方向に緩速度でもって糸引き状に延伸されることによって形成されたものであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、上記熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法であって、発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂を固定金型と可動金型との間に形成されたキャビティ内に充填して可動金型を後退させることにより表裏スキン層の形成と共にこの表裏スキン層間の熱可塑性樹脂を発泡させる工程と、この発泡工程に引き続いて可動金型をこの発泡工程時における後退速度よりも遅い速度で後退させることにより、表裏スキン層の内面に接する発泡した熱可塑性樹脂による表裏発泡層の形成と共に、これらの表裏発泡層間の熱可塑性樹脂を可動金型の後退方向に糸引き状に延伸して長さ方向の両端が上記表裏発泡層の対向面に連なった無数の細長い短繊維状樹脂体と隣接する短繊維状樹脂体間に空隙を形成しているコア層を得る工程とを有することを特徴とする。
【0013】
上記請求項3に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法において、請求項4に係る発明は、可動金型を後退させて表裏スキン層の形成と共にこの表裏スキン層間の熱可塑性樹脂を発泡させる工程からコア層を得る工程に移る前に、可動金型をコア層を得る工程における可動金型の後退速度よりも遅い速度でもって短い移動距離だけ後退させることにより、スキン層間の熱可塑性樹脂の発泡セルを成長させることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項5に係る発明は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対して化学発泡剤を5〜30重量部、配合していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、熱可塑性樹脂発泡成形体は、表裏スキン層と表裏発泡層とコア層とからなり、このコア層は、上下両端が上記表裏発泡層の対向面に連らなっている無数の細い短繊維状樹脂体と隣接する短繊維状樹脂体間に形成された空隙とからなるので、この空隙の存在によって熱可塑性樹脂発泡成形体全体の空隙率が極めて高くなって従来の熱可塑性樹脂発泡成形体では得ることが困難であった軽量化を図ることができると共に、熱伝導率を低くすることができて優れた断熱機能を有する熱可塑性樹脂発泡成形体を提供することができる。
【0016】
さらに、この熱可塑性樹脂成形体の厚み方向に圧縮力や衝撃力等の外力が作用した場合に、コア層を形成している上記無数の短繊維状樹脂体が座屈することなく、表裏発泡層を支点としてその長さ方向に対して直交する方向に弾性的に円弧状に屈曲しながら上記外力を吸収することができ、その上、隣接する短繊維状樹脂体間には空隙が存在しているから、隣接する短繊維状樹脂体同士が互いに突っ張り合うようなことなく空隙に向かって自由に大きく弾性的に屈曲することができ、従って、従来の熱可塑性樹脂発泡成形体では得ることができない優れたクッション性及び緩衝性を発揮することができると共に変形後においても良好な弾性復元力を発揮することができ、その上、スキン層の存在にもかかわらず優れた屈曲性、柔軟性を奏して、自動車の内装材及び外装材に採用した場合には、施工が容易で且つ精度のよい内装や外装が可能となる。また、振動吸収性においても優れた作用を発揮することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、短繊維状樹脂体は、溶融した熱可塑性樹脂が成形時において成形体の厚み方向に緩速度でもって糸引き状に延伸されることによって形成されたものであり、溶融した熱可塑性樹脂を発泡セル壁の破壊と共にゆっくりと引き伸ばすことにより、溶融した熱可塑性樹脂を千切れさせることなく細長く延伸させることができる。このように形成された短繊維状樹脂体はその上下端が表裏発泡層の対向面に連なると共に非常に小さい径を有し、これにより熱可塑性樹脂成形体の厚み方向に外力が作用した場合に上記短繊維状樹脂体が弾性的に屈曲して上記外力を高く吸収することが可能となる。
【0018】
また、上記熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法によれば、請求項3に記載したように、発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂を固定金型と可動金型との間に形成されたキャビティ内に充填して可動金型を後退させることにより表裏スキン層の形成と共にこの表裏スキン層間の熱可塑性樹脂を発泡させる工程と、この工程に引き続いて、可動金型をこの発泡工程時における後退速度よりも遅い速度で後退させることにより、表裏スキン層の内面に接する発泡した熱可塑性樹脂による薄肉の表裏発泡層の形成と共に、これらの表裏発泡層間の熱可塑性樹脂を可動金型の後退方向に糸引き状に延伸するので、熱可塑性樹脂を千切れさせることなく発泡セルを破壊させながら細長く糸引き状に延伸することができて、両端が表裏スキン層の内面に設けている表裏発泡層に連続した無数の細長い短繊維状樹脂体を形成することができると共に隣接する短繊維状樹脂体間に空隙を設けてなるコア層を形成することができ、空隙率が極めて高くて軽量化と共に優れた断熱機能を奏し、且つ、クッション性、柔軟性、屈曲性に富んだ熱可塑性樹脂発泡成形体を能率よく製造することができる。
【0019】
さらに、請求項4に係る発明によれば、可動金型を後退させて表裏スキン層の形成と共にこの表裏スキン層間の熱可塑性樹脂を発泡させる工程からコア層を得る工程に移る前に、可動金型をコア層を得る工程時における可動金型の後退速度よりも遅い速度でもって短い移動距離だけ後退させることにより、スキン層間の熱可塑性樹脂の発泡セルを成長させるので、金型の後退によって熱可塑性樹脂を細長く延伸させる際に、発泡セルを容易に破壊して隣接する短繊維状樹脂体間に空隙を形成することができる。
【0020】
また、請求項5に係る発明によれば、上記熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法において、熱可塑性樹脂100重量部に対して発泡剤を5〜50重量部、配合しているので、可動金型を後退させてスキン層の形成と共にこのスキン層間の熱可塑性樹脂を発泡させた際に、上記空隙の形成に必要な無数の発泡セルを生成させることができる。
【0021】
更に、請求項6によれば、発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂をキャビティ内に充填する前に上記キャビティ内に表皮材を配設する工程を有するので、得られる熱可塑性樹脂発泡体Aの表面には表皮材が強固に積層一体化されており、熱可塑性樹脂発泡体Aは優れた外観を有している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂発泡成形体の簡略拡大縦断側面図。
【図2】キャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を充填した状態の金型の縦断側面図。
【図3】可動金型を僅かに後退させた状態の縦断側面図。
【図4】可動金型を緩速度でもって後退させた状態の縦断側面図。
【図5】得られた熱可塑性樹脂成形体の一部の断面の拡大写真。
【図6】固定金型と可動金型との間に表皮材を配設した状態の金型の縦断側面図。
【図7】キャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂を充填した状態の金型の縦断側面図。
【図8】可動金型を僅かに後退させた状態の縦断側面図。
【図9】可動金型を緩速度でもって後退させた状態の縦断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の具体的な実施の形態を図面に基づいて説明すると、図1、図5において、熱可塑性樹脂発泡成形体Aは、表裏スキン層1、1と、これらの表裏スキン層1、1の対向する内面に一体に設けられた低発泡層からなる表裏発泡層2、2と、この表裏発泡層2、2間に設けられたコア層3とからなる成形体であって、コア層3は、溶融した上記熱可塑性樹脂を金型のキャビティ内で発泡成形させる際に、可動金型を好ましくは30mm/秒以下、より好ましくは0.9mm/秒以下の遅い速度でもって上記表裏発泡層2の厚みの数倍以上に達する距離まで徐々に後退させることによって熱可塑性樹脂を糸引き状に延伸させて形成された両端が上記表裏発泡層2、2の対向面に連なっている無数の細長い短繊維状樹脂体3a、3a・・・3aと、隣接する短繊維状樹脂体3a、3a間に形成され、且つ、延伸方向に直交する方向に対しては互いに連通した空隙3bとから構成されている。
【0024】
空隙3bと共にコア層3を形成している無数の短繊維状樹脂体3aは、その長さ方向を表裏発泡層2、2の対向面に向けて林立した形態を有しているが、1本、1本が必ずしも独立した形状を有しているのではなく、隣接する短繊維状樹脂体3a、3aがその長さ方向の一部分を互いに結合させてこの結合部から表裏発泡層2、2に向かってそれぞれ枝分かれ状に分離した形状や、その結合部が長さ方向に2箇所以上生じている形状、或いは、複数本の短繊維状樹脂体3aが部分的に束ねられてその集束部から発泡層2に向かって分岐している形状、さらには、長さ方向の両端が表裏発泡層2、2間に連なっている短繊維状樹脂体3aの長さ方向の中間部分に、一端が表裏発泡層2、2における一方の発泡層2に連なっている短繊維状樹脂体3aの他端を結合させている形状等がランダムに組み合わせてなる鍾乳洞形態に形成されている。
【0025】
従って、隣接する短繊維状樹脂体3a、3a間に形成される空隙3bも形状が不定で大きさも大小様々であるが、大多数は上記延伸方向、即ち、熱可塑性樹脂発泡成形体Aの厚み方向に細長い空隙3bに形成されている。この空隙3bは、熱可塑性樹脂発泡成形体Aの成形時において、発泡セルが金型の後退による延伸によって破壊させることにより形成される。したがって、コア層には発泡セルが存在せず、隣接する短繊維状樹脂体3a、3a間に発泡セルの破壊と共に形成された非常に多くの空隙3bが存在することになる。
【0026】
熱可塑性樹脂発泡成形体Aの発泡倍率は、好ましくは2〜10倍、より好ましくは3〜7倍であり、従って、熱可塑性樹脂発泡体Aの軽量化を図ることができると共に、空隙率が大きくて熱伝導率を低くすることができるために優れた断熱作用を奏することができる。さらに、軽量であるにもかかわらず、この熱可塑性樹脂発泡体Aのコア層3は、上下端がスキン層1、1の内面に一体に設けられている表裏発泡層2、2に連なった無数の細長い短繊維状樹脂体3a、3a・・・3aと、隣接する短繊維状樹脂体3a、3a間に形成された空隙3bとからなるので、厚み方向にかかる荷重等に対してはこれらの短繊維状樹脂体3aが突張力を発揮して適度な耐圧強度を有すると共に、ある程度の大きさの押圧力や衝撃力等の外力がその一部に作用した場合には、その部分の短繊維状樹脂体3aが座屈することなく弾性的に弧状に屈曲しながら厚みが薄くなる方向に変形してその外力を吸収し、外力が解かれると直ちに弾性的に復元する。また、振動吸収性においても優れた作用を奏する。
【0027】
さらに、上記のように熱可塑性樹脂発泡体Aに外力が作用して短繊維状樹脂体3aが弾性的に屈曲変形した場合、隣接する短繊維状樹脂体3a、3a間に空隙3bが存在しているので、短繊維状樹脂体3aが大きく弓形状に屈曲、変形が可能となり、優れたクッション性及び緩衝性を発揮することができる。また、熱可塑性樹脂発泡体Aはその表裏面に設けているスキン層1、1によって、撓み方向にはある程度の剛性を有しているが、このスキン層1、1はコア層3に比べて極めて薄くてコア層3の数分の1以下の厚みであるため、容易に屈曲させたり撓ませたりすることができる。
【0028】
この際、シート状に形成された熱可塑性樹脂発泡体Aを屈曲させると、凸円弧状に湾曲する面側においてはその面方向に引張力が発生し、凹円弧状に湾曲する面側においてはその面方向に圧縮力が発生するが、コア層3を形成している短繊維状樹脂体3a、3a間には空隙3bが存在しているので、圧縮力を受ける側に存在する短繊維状樹脂体3a、3aの端部間が互いにこの空隙3bを狭めようとする方向に変動して大きく屈曲させることができ、可撓性及び柔軟性においても優れた熱可塑性樹脂発泡体Aを提供することができる。
【0029】
なお、本発明において、熱可塑性樹脂発泡体Aの発泡倍率とは、発泡後の熱可塑性樹脂発泡体の厚さを射出成形機のキャビティの初期厚さで除した値を意味する。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂発泡成形体Aは、様々な用途に用いることができる。用途としては、例えば、ドアトリム、ピラートリム、各種ボックスリッド、インストルメントパネル、及びサンバイザーなどの自動車内装部品、タイヤハウス、アンダーカバー、サイドプロテクトモール、バンパー、ソフトフェイシア、マッドガードなどの外装部品、自動二輪車用シート、家具、建築材、家電製品、及び、電子機器類等の様々な製品における部品、さらには輸送用容器や緩衝材などが挙げられる。なかでも、本発明の熱可塑性樹脂成形体Aは、軽量性、緩衝性、及び断熱性等に優れていることから、自動車内装部品として用いられることが好ましい。
【0031】
次に、上記熱可塑性樹脂発泡体Aの製造方法を図2〜図4に基づいて説明すると、まず、図2に示すように、射出成形機の固定金型11と可動金型12とを型締めすることによって所定の厚みに形成されたキャビティ13内に固定金型11又は可動金型12に設けているゲート(図示せず)を通じて発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂20を充填し、固定金型11と可動金型12の面に接する熱可塑性樹脂20をこれらの面で冷却させて非発泡の表裏スキン層1、1を形成する。なお、熱可塑性樹脂20には、この熱可塑性樹脂100重量部に対して発泡剤が好ましくは5〜50重量部、配合されている。
【0032】
キャビティ13内に対する熱可塑性樹脂20の充填完了後、直ちに或いは極く僅かな時間間隔を存して可動金型12を高速でもって瞬間的に後退させることにより、キャビティ13の容積を急速に僅かに増大させてキャビティ13内を減圧し、図3に示すように溶融した熱可塑性樹脂20を発泡させる。この際、熱可塑性樹脂には上記発泡剤を配合させているので、無数の発泡セルが形成される。この発泡工程を第1発泡工程として引き続いて第2発泡工程に移る。
【0033】
この第2発泡工程は、熱可塑性樹脂20が充分な粘性を有する間に上記第1発泡工程時における可動金型12の後退速度の数百倍分の1以下の極めて遅い速度でもって、第1発泡工程時における可動金型12の後退距離の数倍以上の距離まで後退させることにより行われ、図4に示すように、後退初期においては表裏スキン層1、1に粘着した熱可塑性樹脂層の発泡によって薄い表裏発泡層2、2が形成され、引き続いて可動金型12が後退することにより、この表裏発泡層2、2間の熱可塑性樹脂層が表裏発泡層2、2の対向面を支点として千切れることなく可動金型12の後退方向に糸引き状に延伸されると共に熱可塑性樹脂20に含まれている上記発泡剤の発泡力によって発泡セルが大きく成長し、その膨脹圧と共に上記可動金型12の後退による延伸力によってセル壁が破壊されながら熱可塑性樹脂が細長く延伸されて長さ方向の両端が上記表裏発泡層2、2の対向面に連なった無数の短繊維状樹脂体3aが形成されると共に隣接する短繊維状樹脂体3a、3a間に空隙3bが形成されたコア層3が形成される。この第2発泡工程が完了した後は、熱可塑性樹脂を冷却して固化させることにより、熱可塑性樹脂発泡体Aが得られる。
【0034】
このように、本発明の熱可塑性樹脂発泡体Aは、可動金型12の後退速度や熱可塑性樹脂の溶融温度などにより、可動金型12の後退時に熱可塑性樹脂を発泡させた後に千切れさせることなく糸引き状に延伸させるのに適した粘度に調整することで製造することができ、したがって上記熱可塑性樹脂発泡体Aは、設備やプロセスに大幅な変更を加えることなく、簡単且つ能率よく製造することができる。
【0035】
発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂は好ましくは170〜270℃、より好ましくは180〜260℃の温度としてキャビティ13内に充填する。この時、射出圧力は好ましくは50〜200MPa、より好ましくは80〜170MPaとする。
【0036】
上記第1、第2発泡工程における固定金型11及び可動金型12の温度は、15〜100℃、好ましくは15〜80℃であり、この範囲内であれば固定金型11と可動金型12との温度が異なっていてもよい。
【0037】
第2発泡工程では、可動金型12を第1発泡工程における移動速度の好ましくは0.0005〜0.05倍、より好ましくは0.0005〜0.01倍、特に好ましくは0.0005〜0.0015倍の移動速度でもって後退させる。第2発泡工程において上記移動速度で可動金型を後退させることにより、発泡した熱可塑性樹脂を引き千切れを生じさせることなく細い短繊維状に延伸させることができる粘度とすることができる。
【0038】
上述したように、第2発泡工程では、第1発泡工程よりも可動金型12を遅い速度でもって後退させることにより、第1発泡工程で発泡させた発泡セルのセル壁を破泡と共にゆっくりと引き伸ばされて無数の短繊維状樹脂体3aと共に隣接する短繊維状樹脂体3a、3a間に空隙3bを有するコア層3を形成することができる。
【0039】
第1発泡工程における可動金型の移動速度は、好ましくは250〜600mm/秒であり、より好ましくは450〜600mm/秒である。このような移動速度とすることにより、第1発泡工程における溶融させた熱可塑性樹脂の発泡時に微細な発泡セルを均一に形成し、第2発泡工程において径が小さい短繊維状樹脂体を千切れることなく安定して形成することが可能となる。
【0040】
第2発泡工程における可動金型12の後退は第1発泡工程から連続して行ってもよいが、第1発泡工程から第2発泡工程に移る前に、可動金型12を第2発泡工程時よりも遅い速度でもって、且つ、第1発泡工程時の後退距離と同じ距離、又は僅かに短い距離だけ後退させて、第1発泡工程時に発泡した熱可塑性樹脂に含まれる気泡を成長させる工程(気泡調整工程)を行ってもよい。このような気泡成長工程を行うことによって、微細な気泡を高い密度でもって均一に形成することができ、このような発泡状態の熱可塑性樹脂を第2発泡工程によって延伸させることにより、極めて細い短繊維状樹脂体3aが表裏発泡層2、2間で空隙3bを介して無数に林立したコア層3を形成することができる。
【0041】
この気泡成長工程における可動金型12の移動速度は、第1発泡工程における可動金型12の移動速度の0.00001〜0.02倍とするのが好ましく、0.00005〜0.0001倍とすることがより好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂発泡体Aを形成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、及び、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂などが挙げられる。なかでも、ポリプロピレン系樹脂を使用するのが好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、第2発泡工程において千切れることなく糸引き状に延伸させることができ、製造工程に大幅な変更を行うことなく簡易な方法により上記構造を有する熱可塑性樹脂発泡成形体Aを製造できる。
【0043】
発泡剤としては、不活性ガスなどの物理発泡剤の他、加熱により分解又は反応してガスを発生する化学発泡剤を用いることができる。可動金型の後退時に発生するガス圧を調整し易いことから化学発泡剤を用いるのが好ましい。化学発泡剤としては、ニトロソ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド化合物、アジド化合物などの有機系化学発泡剤や、炭酸水素ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、クエン酸などの無機系化学発泡剤などが挙げられる。
【0044】
発泡剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは5〜50重量部、より好ましくは10〜20重量部、特に好ましくは15〜20重量部を配合する。このような量で発泡剤を用いることによって、上記第2発泡工程において、発泡セルを膨張させて破壊し、その膨張圧により熱可塑性樹脂を細長く延伸させて短繊維状樹脂体を千切れさせることなく形成することが可能となると共に、この短繊維状樹脂体間に高い空隙率で空隙を形成することが可能となる。
【0045】
キャビティ内に充填する熱可塑性樹脂には、発泡剤の他に、熱可塑性エラストマーを配合するのが好ましい。熱可塑性エラストマーを用いることにより、得られる熱可塑性樹脂発泡成形体のクッション性をより向上させることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリエステル系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリブテン系、ポリイソブチレン系、塩素化ポリエチレン系などが挙げられる。熱可塑性エラストマーは、熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは5〜100重量部、より好ましくは10〜30重量部配合する。
【0046】
熱可塑性樹脂には、気泡核剤をさらに配合してもよい。気泡核剤を用いることにより、溶融させた熱可塑性樹脂の発泡時に微細な気泡をより均一に形成し、短繊維状樹脂体を千切れることなくより安定して形成することが可能となる。気泡核剤としては、例えばタルク、マイカ、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛などの無機化合物が挙げられる。気泡核剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは5〜20重量部、より好ましくは3〜10重量部配合する。
【0047】
熱可塑性樹脂には、滑剤をさらに配合してもよい。滑剤を用いることにより、得られる熱可塑性樹脂発泡成形体のクッション性をより向上させることができる。滑剤としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。滑剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは2〜5重量部配合する。
【0048】
また、製造される熱可塑性樹脂発泡成形体Aの表裏スキン層1、1の表面にシボ加工又はエンボス加工、或いは、梨地加工等の表面加工を施すことが好ましい。熱可塑性樹脂成形体Aにおけるスキン層1、1に表面加工を施すことにより、自動車等の内装材や外装材として高級グレードに使用されている塩化ビニル樹脂シートやウレタン表皮一体部品に劣らない外観と質感とを熱可塑性樹脂成形体Aに付与することができる。
【0049】
このような表面加工は、例えば、固定金型11と可動金型12との対向面の少なくとも一方に、微細な凹凸模様を設けておくことによって形成することができる。
【0050】
また、発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂を固定金型11と可動金型12との間に形成されたキャビティ13内に充填する前に、キャビティ13内に表皮材14を予め配設しておき、成形される熱可塑性樹脂発泡成形体Aの表面に表皮材14を積層一体化させて、得られる熱可塑性樹脂発泡成形体Aの外観の向上を図ってもよい。
【0051】
具体的には、図6に示したように、射出成形機の固定金型11におけるキャビティ13を形成する凹部11aの開口部にこの開口部を被覆した状態となるように表皮材14を配設、固定する。なお、図6に示したように、固定金型11の凹部11aの開口部を被覆した状態に表皮材14を配設する必要はなく、固定金型11の凹部11a内に表皮材14を部分的に載置しておいてもよい。また、表皮材14としては、従来から公知のものが用いられるが、後述するように、金型の面に沿って変形可能であると共に、キャビティ13内に充填され且つ固定金型11と可動金型12の面に表皮材14を介して接する熱可塑性樹脂20が固定金型11と可動金型12の面によって冷却されて非発泡の表裏スキン層1、1が形成される程度の熱伝動性を有している必要がある。表皮材14としては、例えば、ナイロン繊維などのポリアミド系繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレン系樹脂繊維などの合成樹脂繊維、綿、麻、絹などの天然繊維などの繊維からなる不織布、織布又は編布、合成樹脂シート、及び、これらの積層体などが挙げられる。
【0052】
次に、図7に示したように、固定金型11と可動金型12とを型締めすることによって、固定金型11と可動金型12との間に形成されたキャビティ13内に表皮材14が配設された状態となり、表皮材14が配設されたキャビティ13内に固定金型11又は可動金型12に設けているゲート(図示せず)を通じて発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂を充填し、固定金型11と可動金型12の面に直接又は表皮材14を介して接する熱可塑性樹脂20を固定金型11と可動金型12の面で冷却させて非発泡の表裏スキン層1、1を形成する。また、キャビティ13内に配設された表皮材14は、発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂のキャビティ13内への充填圧力によって金型11、12に向かって押圧され、金型11、12の面に沿って変形、密着する。
【0053】
なお、図7では、固定金型11と可動金型12とを完全に型締めしてキャビティ13を形成した後に、キャビティ13内に発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂を充填した状態を示したが、固定金型11と可動金型12とを型締めしてキャビティ13を形成するにあたって、固定金型11と可動金型12とを完全に型締めすることなく、クラッキングを残した状態、即ち、半閉じ状態に型締めしてキャビティ13を形成した後に、キャビティ13内に発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂を充填し、この熱可塑性樹脂のキャビティ13内への充填中又は充填完了後に固定金型11と可動金型12とを完全に型締めしてもよい。このように、固定金型11と可動金型12とをクラッキングを残した状態にて型締めしてキャビティ13を形成し、このキャビティ13内への熱可塑性樹脂の充填中又は充填完了後に固定金型11と可動金型12とを完全に型締めすることによって、キャビティ13内に存在する空気をキャビティ13外に円滑に排出することができ、溶融した熱可塑性樹脂と表皮材14との間や、溶融した熱可塑性樹脂と、固定金型11又は可動金型12との間に空気溜まりを生じさせることなく、更に美麗で且つ寸法精度に優れた熱可塑性樹脂発泡体Aを製造することができる。
【0054】
更に、射出成形機の固定金型11における凹部11aの開口部に表皮材14を固定するにあたって、表皮材14が固定金型11に対して相対的に変位不能に固定させてもよいが、表皮材14の一部のみを固定金型11に固定させることによって表皮材14を固定金型11に対して相対的に変位可能に固定金型11に固定させることが好ましい。このように表皮材14を固定金型11の凹部11aの開口部に配設するにあたって、表皮材14が固定金型11に対して相対的に変位可能とし、上述のように、固定金型11と可動金型12とをクラッキングを残した状態にて型締めした状態にてキャビティ13内に溶融した熱可塑性樹脂を充填するようにすると、表皮材14がキャビティ13内への熱可塑性樹脂の充填圧力によって固定金型11に対して容易に相対移動しながら、表皮材14を金型11、12の面に沿って円滑に変形、密着させることができ、表皮材14に皺などを生じさせることなく美麗な状態に表皮材14を所望形状に変形させ、熱可塑性樹脂発泡成形体Aの表面に表皮材14を美麗に積層一体化させることができる。
【0055】
なお、キャビティ13内への発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂の充填は、表皮材14が固定金型11に密着した状態となるように行うことが好ましい。このように溶融した熱可塑性樹脂をキャビティ13内に充填することによって、発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂が可動金型12の面に直接且つ確実に密着した状態となり、その後の工程において、可動金型12の後退に伴う延伸力を熱可塑性樹脂中の発泡セルに確実に加えて短繊維状樹脂体3aを確実に形成することができる。
【0056】
しかる後、図8に示したように、上述と同様の要領で、キャビティ13内に対する熱可塑性樹脂20の充填完了後、直ちに或いは極く僅かな時間間隔を存して可動金型12を高速でもって瞬間的に後退させて、溶融した熱可塑性樹脂20を発泡させる(第1発泡工程)。
【0057】
次に、図9に示したように、上述と同様の要領で第2発泡工程を行ってコア層3を形成し、熱可塑性樹脂を冷却して固化させることにより、熱可塑性樹脂発泡体Aが得られる。このようにして得られた熱可塑性樹脂発泡成形体Aの表面には表皮材14が積層一体化されており、熱可塑性樹脂発泡成形体Aは優れた外観を有している。そして、表皮材14は、発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂のキャビティ13内への充填圧力及び熱可塑性樹脂の発泡圧力によって熱可塑性樹脂と強固に一体化されており、熱可塑性樹脂発泡成形体Aの表面には表皮材14が強固に積層一体化されている。
【0058】
更に、熱可塑性樹脂発泡成形体Aは優れたクッション性を有しているので、表皮材Aに発泡シートの如きクッション層が具備されている必要はなく、表皮材Aをより薄く且つ軽量にすることができ、その結果、熱可塑性樹脂発泡成形体Aの軽量性を向上させることができる。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0060】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂(住友化学株式会社製 製品名EL80F)100重量部、化学発泡剤として重炭酸ナトリウム(三協化成株式会社製 製品名セルマイク3274F)15重量部、オレフィン系熱可塑性エラストマー(住友化学株式会社製 製品名エスポレックス)30重量部、及び着色剤として(東洋インキ製造株式会社製 製品名136B)3重量部を、射出成形機で溶融混練することにより溶融樹脂を得た。この溶融樹脂を、固定金型と後退が可能な可動金型とから構成される長方形状のキャビティ(縦130mm×横330mm、固定金型と可動金型との離間距離1mm、固定金型及び可動金型の温度40℃)を有し、中央部に1個のバルブゲートを有するキャビティ中に、溶融樹脂温度200℃、射出圧力150MPaで0.4秒間かけてフル充填するように射出し、射出充填完了後から1.2秒経過した後、可動金型を550mm/秒の後退速度で1.5mm後退させることにより表側及び裏側のスキン層(それぞれの厚さ300μm)の形成と共に溶融樹脂を発泡させ、引き続き可動金型を0.5mm/秒の後退速度で2.5mm後退させることにより発泡させた溶融樹脂の厚さ方向中心部を延伸させ、これにより発泡させた溶融樹脂の表面側及び裏面側が離間して表裏発泡層(それぞれの厚さ500μm)が形成されると共に、長さ方向の両端が表裏発泡層の対向面を連なるように糸引き状に延伸された無数の短繊維状樹脂体(平均径100μm)からなるコア層(厚さ2.4mm)を形成した。その後、発泡させた溶融物を冷却及び固化して発泡成形体(発泡倍率4倍)を得た。
【0061】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製 製品名FX200S)100重量部、化学発泡剤として重炭酸ナトリウム(三協化成株式会社製 製品名セルマイク3274F)15重量部、スチレン系熱可塑性エラストマー(住友化学株式会社製 製品名エスポレックス)30重量部、及び着色剤(東洋インキ製造株式会社製 製品名136B)3重量部を、射出成形機で溶融混練することにより溶融樹脂を得た。この溶融樹脂を、固定金型と後退が可能な可動金型とから構成される長方形状のキャビティ(縦130mm×横330mm、固定金型と可動金型との離間距離1mm、固定金型及び可動金型の温度40℃)を有し、中央部に1個のダイレクトサイドゲートを有するキャビティ中に、溶融樹脂温度210℃、射出圧力100MPaで0.4秒間かけてフル充填するように射出し、射出充填完了後から0.8秒経過した後、可動金型を550mm/秒の後退速度で1.5mm後退させることにより表側及び裏側のスキン層(それぞれの厚さ300μm)の形成と共に溶融樹脂を発泡させ、引き続き可動金型を0.05mm/秒の後退速度で0.1mm後退させることにより気泡を成長させた後、引き続き可動金型を0.6mm/秒の後退速度で2.4mm後退させることにより発泡させた溶融樹脂の厚さ方向中心部を延伸させ、これにより発泡させた溶融樹脂の表面側及び裏面側が離間して表裏発泡層(それぞれの厚さ300μm)が形成されると共に、長さ方向の両端が表裏発泡層の対向面を連なるように糸引き状に延伸された無数の短繊維状樹脂体(平均径50μm)からなるコア層(厚さ2.8mm)を形成した。その後、発泡させた溶融物を冷却及び固化して発泡成形体(発泡倍率4倍)を得た。
【0062】
また、予め金型のキャビティ表面にシボ加工を施すことにより、上記発泡成形体のスキン層に皮革状の凹凸の浮き出し模様を付した。
【0063】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂(ホモポリプロピレン、日本ポリプロ株式会社製 製品名MTS6)100重量部、化学発泡剤として重炭酸ナトリウム(三協化成株式会社製 製品名セルマイク3274F)15重量部、スチレン系熱可塑性エラストマー(住友化学株式会社製 製品名エスポレックス)30重量部、及び着色剤(東洋インキ製造株式会社製 製品名136B)3重量部を、射出成形機で溶融混練することにより溶融樹脂を得た。この溶融樹脂を、固定金型と後退が可能な可動金型とから構成される長方形状のキャビティ(縦130mm×横330mm、固定金型と可動金型との離間距離1mm、固定金型及び可動金型の温度40℃)を有し、中央部に1個のダイレクトサイドゲートを有するキャビティ中に、溶融樹脂温度210℃、射出圧力150MPaで0.4秒間かけてフル充填するように射出し、射出充填完了後から0.5秒経過した後、可動金型を550mm/秒の後退速度で1.5mm後退させることにより表側及び裏側のスキン層(それぞれの厚さ200μm)の形成と共に溶融樹脂を発泡させ、引き続き可動金型を0.05mm/秒の後退速度で0.1mm後退させることにより気泡を成長させた後、引き続き可動金型を0.6mm/秒の後退速度で2.4mm後退させることにより発泡させた溶融樹脂の厚さ方向中心部を延伸させ、これにより発泡させた溶融樹脂の表面側及び裏面側が離間して表裏発泡層(それぞれの厚さ500μm)が形成されると共に、長さ方向の両端が表裏発泡層の対向面を連なるように延伸された無数の短繊維状樹脂体(平均径30μm)からなるコア層(厚さ2.6mm)を形成した。その後、発泡させた溶融物を冷却・固化して発泡成形体(発泡倍率4倍)を得た。
【0064】
また、予め金型のキャビティ表面にシボ加工を施すことにより、上記発泡成形体のスキン層に皮革状の凹凸の浮き出し模様を付した。
【0065】
実施例2で作成した発泡成形体を切断して、その断面を透過型電子顕微鏡により撮影した。写真を図5に示す。
【符号の説明】
【0066】
A 熱可塑性樹脂発泡成形体
1 スキン層
2 発泡層
3 コア層
3a 短繊維状樹脂体
3b 空隙
11 固定金型
12 可動金型
13 キャビティ
14 表皮材
20 熱可塑性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏スキン層の内面に表裏発泡層が設けられていると共にこれらの表裏発泡層間にコア層を設けている熱可塑性樹脂発泡成形体であって、上記コア層は、上下両端が上記表裏発泡層の対向面に連らなっている無数の細い短繊維状樹脂体と、隣接する短繊維状樹脂体間に形成された空隙とからなることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項2】
短繊維状樹脂体は、溶融した熱可塑性樹脂が成形時において成形体の厚み方向に緩速度でもって糸引き状に延伸されることによって形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項3】
発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂を固定金型と可動金型との間に形成されたキャビティ内に充填して可動金型を後退させることにより表裏スキン層の形成と共にこの表裏スキン層間の熱可塑性樹脂を発泡させる工程と、この発泡工程に引き続いて可動金型をこの発泡工程時における後退速度よりも遅い速度で後退させることにより、上記表裏スキン層の内面に接する発泡した熱可塑性樹脂による表裏発泡層の形成と共に、これらの表裏発泡層間の熱可塑性樹脂を可動金型の後退方向に糸引き状に延伸して長さ方向の両端が上記表裏発泡層の対向面に連なった無数の細長い短繊維状樹脂体と隣接する短繊維状樹脂体間に空隙を形成しているコア層を得る工程とを有することを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
可動金型を後退させて表裏スキン層の形成と共にこの表裏スキン層間の熱可塑性樹脂を発泡させる工程からコア層を得る工程に移る前に、可動金型をコア層を得る工程時における可動金型の後退速度よりも遅い速度でもって短い移動距離だけ後退させることにより、表裏スキン層間の熱可塑性樹脂の発泡セルを成長させることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂100重量部に対して発泡剤を5〜50重量部、配合していることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂をキャビティ内に充填する前に上記キャビティ内に表皮材を配設する工程を有することを特徴とする請求項3乃至請求項5の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40861(P2012−40861A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222531(P2010−222531)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(390033112)積水テクノ成型株式会社 (48)
【Fターム(参考)】