説明

熱可塑性樹脂組成物、及びこれを用いた射出成形品

【課題】表面のハードコート層を不要とし、表面硬度を備え、透明性に優れた成形品を効率よく製造することができる、ポリカーボネートを含む熱可塑性樹脂組成物や、これを用いた射出成形品を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート(A)100質量部に対して、芳香族(メタ)アクリレート単位を50質量%以上含有する重合体(B)0.1〜15質量部、及び、メチルメタクリレート単位を60質量%以上含有し、質量平均分子量が5,000〜20,000である重合体(C)5〜70質量部を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面硬度と透明性に優れた成形品が得られる熱可塑性樹脂組成物、及びこれを用いた射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、その優れた機械強度、耐熱性、電気特性、寸法安定性、難燃性、透明性等により、電気電子・OA機器、光メディア、自動車部品、建築部材等に広く使用されている。
【0003】
このようなポリカーボネートは、通常ビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとを直接反応させる方法(ホスゲン法)、又は芳香族ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルとをエステル交換反応させる方法(エステル交換法)等により製造されている。
【0004】
芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用いて製造されるポリカーボネート成形品は、硬度が充分ではない場合がある。例えば、自動車ヘッドランプ、メガネレンズ、又はシート等のように屋外で使用される用途においては、ポリカーボネート成形品は硬度(表面硬度)が不充分であるため、ハードコート層を設けて表面の硬度を補っている。しかしながら、ハードコート層はポリカーボネートの成形後、塗装等により設けるため、成形品の成形工程数が増加してコストアップとなる上、成形品において充分な表面硬度と透明性が得られない場合がある。
【0005】
また、ポリカーボネート成形品の表面硬度を向上させる方法として、特定の分子量のアクリル樹脂を配合し、透明性を維持して成形品を与える方法(特許文献1)、特定の構造を有する炭酸エステル共重合体(特許文献2)を用いる方法等が報告されている。
【0006】
しかしながら、上記の方法は、熱溶融成形した後の工程を必要としないため、製造工程の点では有利であるが、充分な表面硬度と透明性との物性バランスを両立するのが困難である。特許文献2に記載される炭酸エステル共重合体は、特殊な芳香族ジヒドロキシ化合物を50モル%〜90モル%と比較的大量に使用する必要があり、工業的に大量生産するにはコスト面を含めて課題がある。
【0007】
このため、透明性に優れ、表面にハードコート層等を設けずに、屋外用途に利用することができるような優れた表面硬度を有する成形品を与えることができるポリカーボネートの開発が要請されている。
【特許文献1】特開昭62−131056号公報
【特許文献2】特開平08−183852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、表面のハードコート層を不要とし、表面硬度を備え、透明性に優れた成形品を効率よく安価に製造することができる、ポリカーボネートを含む熱可塑性樹脂組成物、及びこれを用いた射出成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の分子量を有するポリメチルメタクリレートがポリカーボネートと相容し、更に特定の構造を有するポリ芳香族(メタ)アクリレートが、更に相互の相容性を向上させることができ、これらが充分に相容することにより、得られる成形品の硬度を高めることができ、表面のハードコート層を不要とすることができることの知見を得た。この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、ポリカーボネート(A)100質量部に対して、芳香族(メタ)アクリレート単位を50質量%以上含有する重合体(B)0.1〜15質量部、及び、メチルメタクリレート単位を60質量%以上含有し、質量平均分子量が5,000〜20,000である重合体(C)5〜70質量部を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、上記熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる射出成形品に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、表面のハードコート層を不要とし、表面硬度を備え、透明性に優れた成形品を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート(A)100質量部に対して、芳香族(メタ)アクリレート単位を50質量%以上含有する重合体(B)0.1〜15質量部、及び、メチルメタクリレート単位を60質量%以上含有し、質量平均分子量(以下、「Mw」という。)が5,000〜20,000である重合体(C)5〜70質量部を配合して得られる。
【0014】
本発明に用いるポリカーボネート(A)は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む、−[O−R−OCO]−単位を有するものであれば、Rが脂肪族基である脂肪族ポリカーボネート、Rが芳香族基である芳香族ポリカーボネート、Rが脂肪族基と芳香族基の双方を有する脂肪族・芳香族ポリカーボネートのいずれのものであってもよい。
【0015】
ポリカーボネート(A)としては、特に、ビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物を用いて得られる芳香族ポリカーボネートが経済性の面から好ましい。
【0016】
ポリカーボネート(A)の粘度平均分子量(以下、「Mv」という。)は15,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは17,000〜25,000である。Mvが上記範囲にあれば、重合体(B)及び重合体(C)との相容性が良好であり、表面硬度の向上効果に優れる。
【0017】
上記ポリカーボネート(A)の製造方法としては、ホスゲン法、エステル交換法等、適宜選択することができる。
【0018】
ポリカーボネートとして上市されているものを適用することもでき、例えば、ユーピロンS−2000F(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、Mv:24,000)、タフロンFN1700(商品名、出光興産(株)製、Mv:18,000)等を用いることができる。
【0019】
本発明に用いる重合体(B)は、芳香族(メタ)アクリレート単位を50質量%以上含有するものであり、ポリカーボネート(A)と重合体(C)との相容性を向上させる作用を有する。
【0020】
ここで、芳香族(メタ)アクリレートとは、エステル部分に芳香族基を有するメタクリレート、エステル部分に芳香族基を有するアクリレート、又はこれら双方を含むものであり、重合体(B)は、芳香族(メタ)アクリレート単位を含有する重合体である。
【0021】
上記芳香族(メタ)アクリレート単位を構成する芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
これらの中では、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートが好ましく、フェニルメタクリレートがより好ましい。
【0023】
重合体(B)(100質量%)中の芳香族(メタ)アクリレート単位の含有率は、50質量%以上である。
【0024】
重合体(B)(100質量%)中の芳香族(メタ)アクリレート単位の含有率が50質量%以上であることにより、ポリカーボネート(A)との相容性が良好になる。ポリカーボネート(A)との相容性を向上させるためには、重合体(B)中の芳香族(メタ)アクリレート単位の含有率は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0025】
また、重合体(B)(100質量%)中の芳香族(メタ)アクリレート単位の含有率の上限は、99.5質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましい。
【0026】
重合体(B)(100質量%)は、その他の単量体単位を50質量%未満の範囲で含有してもよい。その他の単量体単位は、芳香族(メタ)アクリレートと共重合が可能な単量体による単位であればよく、α,β−不飽和単量体単位が好ましい。
【0027】
かかる単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
重合体(B)のMwは、30万〜500万が好ましく、40万〜300万がより好ましく、60万〜200万が更に好ましく、80万〜130万が特に好ましい。
【0029】
重合体(B)のMwが上記範囲であれば、得られる成形品において高い透明性と表面硬度を達成することができる。
【0030】
重合体(B)の製造方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等を使用することができる。好ましくは乳化重合法や懸濁重合法であり、より好ましくは乳化重合法である。
【0031】
乳化重合法の場合は、重合後に、酸析凝固や塩析凝固、噴霧乾燥等の方法により重合体を回収するのが一般的である。
【0032】
本発明に用いる重合体(C)は、メチルメタクリレート単位を60質量%以上含有し、Mwが5,000〜20,000のものである。かかる重合体(C)は、ポリカーボネート(A)と相容し、得られる成形品の表面硬度を向上させる作用を有する。
【0033】
重合体(C)(100質量%)中のメチルメタクリレート単位の含有率は、60質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
【0034】
また、重合体(C)(100質量%)中のメチルメタクリレート単位の含有率の上限は、99.5質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましい。
【0035】
重合体(C)(100質量%)中のメチルメタクリレート単位の含有率が上記範囲であれば、表面硬度に優れる成形品を得ることができる。
【0036】
重合体(C)(100質量%)は、その他の単量体単位を40質量%未満の範囲で含有してもよい。その他の単量体単位は、メチルメタクリレートと共重合が可能な単量体による単位であればよく、α,β−不飽和単量体単位が好ましい。
【0037】
かかる単量体としては、例えば、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
これらの中では、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートや、スチレンが好ましい。
【0039】
重合体(C)のMwは、5,000以上であり、好ましくは7,000以上、より好ましくは9,000以上である。
【0040】
重合体(C)のMwが5,000以上であれば、得られる成形品において優れた表面硬度を有する。重合体(C)のMwが5000未満であれば、重合体(C)のガラス転移温度が低下するために、得られる成形品において表面硬度の向上効果が低下する場合がある。
【0041】
また、重合体(C)のMwは、20,000以下であり、好ましくは15,000以下、より好ましくは13,000以下である。
【0042】
重合体(C)のMwが20,000以下であれば、ポリカーボネート(A)との相容性が良好であり、表面硬度の向上効果に優れる。
【0043】
重合体(C)の製造方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等を使用することができる。好ましくは塊状重合法や懸濁重合法であり、より好ましくは懸濁重合法である。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の重合体(B)の含有量は、ポリカーボネート(A)100質量部に対して、0.1〜15質量部であり、好ましくは0.3〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0045】
熱可塑性樹脂組成物中の重合体(B)の含有量が、ポリカーボネート(A)100質量部に対して0.1質量部以上であれば、ポリカーボネート(A)と重合体(C)との相容性の向上を図ることができ、15質量部以下であれば、ポリカーボネート(A)の機械特性が低下するのを抑制することができる。
【0046】
熱可塑性樹脂組成物中の重合体(C)の含有量は、ポリカーボネート100質量部に対して、5〜70質量部であり、好ましくは10〜50質量部、より好ましくは15〜35質量部である。
【0047】
熱可塑性樹脂組成物中の重合体(C)の含有量が、ポリカーボネート(A)100質量部に対して5質量部以上であれば、得られる成形品において表面硬度の向上を図ることができ、70質量部以下であれば、ポリカーボネート(A)の透明性が低下するのを抑制することができる。
【0048】
熱可塑性樹脂組成物は、上記重合体の機能を阻害しない範囲において、必要に応じて他の樹脂、添加物等を含有していてもよい。
【0049】
かかる樹脂としては、例えば、ABS、HIPS、PS、PAS等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリオレフィン系樹脂;上記ポリカーボネート(A)、重合体(B)、重合体(C)以外の熱可塑性樹脂を配合したエラストマー等のポリマーアロイが挙げられる。
【0050】
これらの樹脂の含有量は、ポリカーボネート(A)が本来有する耐熱性、耐衝撃性、難燃性等を損なわない範囲であることが好ましく、具体的にはポリカーボネート(A)と重合体(B)と重合体(C)との合計の質量100質量部に対して50質量部以下の範囲を挙げることができる。
【0051】
熱可塑性樹脂組成物が含有していてもよい添加物としては、例えば、安定剤、耐候剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、染顔料、フルオロオレフィン等が挙げられる。
【0052】
具体的には、成形品の強度、剛性、難燃性を向上させるために、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等を用いることができる。更に、耐薬品性等の改良のためにポリエチレンテレフタレート等の他のエンジニアリングプラスチック、耐衝撃性を向上させるためのゴム状弾性体等を含有してもよい。
【0053】
上記安定剤としては、例えば、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジフェニルハイドロジジェンフォスファイト、イルガノックス1076〔ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が挙げられる。
【0054】
上記耐候剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンが挙げられる。
【0055】
熱可塑性樹脂組成物の製造は、ポリカーボネート(A)、重合体(B)、重合体(C)とを、粉体状態で混合する方法や、これらを加熱溶融して混練する方法によることができる。
【0056】
混合方法としては、ポリカーボネート(A)が、重合体(B)と重合体(C)とを高濃度に含有するマスターバッチを調製し、その後、ポリカーボネート(A)で希釈する方法や、ポリカーボネート(A)と重合体(B)、ポリカーボネート(A)と重合体(C)のマスターバッチを調製しこれらを混合する方法、あるいは、重合体(B)と重合体(C)のマスターバッチを調製し、これとポリカーボネート(A)とを混合する方法等を適用することができる。
【0057】
また、重合体(B)と重合体(C)のマスターバッチを調製するには、重合体(C)の存在下で重合体(B)を構成する単量体を重合する方法や、重合体(B)の存在下で重合体(C)を構成する単量体を重合する方法によることもできる。
【0058】
上記混合には、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、2本ロール、ニーダー、ブラベンダー等を使用することができる。
【0059】
本発明の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
【0060】
成形方法としては、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、ブロー成形、押出成形、積層成形、カレンダリング成形等いずれの方法も用いることができる。
【0061】
得られる成形品は、ポリカーボネートの優れた機械強度、耐熱性、電気特性、寸法安定性、難燃性等の特性を有し、しかも、表面の硬度が高く、透明性に優れるものである。
【0062】
本発明の射出成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られる。
【0063】
射出成形の条件としては、成形温度が260〜320℃の範囲であり、金型温度が80℃以上、好ましくは100℃以上であることが表面硬度向上の観点から好ましい。
【0064】
射出成形によって得られる成形品は、表面硬度が高く、表面にハードコート層を積層せずに、成形品として使用することができ、製造工程の簡略化の観点からも低コスト化が可能となる。
【0065】
従って、自動車ヘッドランプ、メガネレンズ、又はシート等のような屋外で使用される用途においても、充分に使用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例を用いて詳述するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0067】
尚、以下において「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0068】
重合体(B)及び(C)のMwは、以下の条件で測定した。また、同様にして数平均分子量(以下、「Mn」という。)も測定した。
【0069】
装置 :東ソー(株)製 HLC−8220GPC
カラム :東ソー(株)製 TSKGel SuperHZM−M
(内径4.6mm×長さ150mm) 4本
溶離液 :THF(テトラヒドロフラン)
流速 :0.35ml/分
温度 :40℃
試料濃度 :0.1%
試料注入量:10μl
検出器 :RI(UV)
【0070】
[製造例1] 重合体(B−1)の製造
温度計、冷却管、窒素導入管、撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、脱イオン水 281部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 1部の混合液を投入した。
【0071】
次いで、フェニルメタクリレート 98部、メチルアクリレート 2部、n−オクチルメルカプタン(連鎖移動剤) 0.001部の混合液を加えた。
【0072】
容器内を窒素置換した後、50℃に昇温し、t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.4部、脱イオン水 9部の混合液を加え、続けて、硫酸第一鉄 0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.003部、ロンガリット 0.2部、脱イオン水 9部の混合液を加えてラジカル重合を開始させ、その後60℃で1時間保持して重合を完了した。
【0073】
得られた重合体(B−1)のラテックスを、5%酢酸カルシウム水溶液 400部に投入して凝析させ、90℃で凝固させた。
【0074】
凝固物を温水で洗浄した後、乾燥して、重合体(B−1)を得た。得られた重合体(B−1)のMwは150万であった。
【0075】
[製造例2] 重合体(B’−1)の製造
フェニルメタクリレートに替えてメチルメタクリレートを用いたこと以外は、製造例1と同様にして、重合体(B’−1)を得た。得られた重合体(B’−1)のMwは150万であった。
【0076】
[製造例3] 重合体(C−1)の製造
温度計、冷却管、窒素導入管、撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、下記成分を投入した。容器内を窒素置換した後、80℃に昇温した。
【0077】
脱イオン水 200部
分散安定剤 0.3部
硫酸ナトリウム 0.5部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.3部
n−オクチルメルカプタン 2.5部
メチルメタクリレート 98部
メチルアクリレート 2部
【0078】
4時間攪拌を続け、得られたビーズ状の重合体(C−1)を水洗、乾燥し、重合体(C−1)を得た。
【0079】
得られた重合体(C−1)のMwは11,000、Mnは5,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。
【0080】
[製造例4] 重合体(C’−1)の製造
n−オクチルメルカプタンの使用量を2.5部から0.2部に変更したこと以外は、製造例3と同様にして、重合体(C’−1)を得た。
【0081】
得られた重合体(C’−1)のMwは100,000、Mnは50,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.0であった。
【0082】
[実施例1〜3、比較例1〜5] 熱可塑性樹脂組成物
製造例1〜4により得られた重合体及び、市販のポリカーボネート(A)(商品名「ユーピロンS−2000F」、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、Mv:24,000)を、表1に示す質量比で混合し、二軸押出機(機種名「TEX−30α」、日本製鋼所製)に供給し、280℃で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0083】
表中、ポリカーボネート(A)、重合体(B)、重合体(C)の欄の数値は、質量部を示す。
【0084】
これを用いて、表面硬度、ロックウェル硬さ、透明性、衝撃強度について以下のように試験を行なった。
【0085】
[表面硬度]
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いてバレル温度280℃、金型温度90℃の射出成形により厚さ3mmの平板試験片を作成し、JIS K5400に準じて測定を行なった。すり傷が観察されない鉛筆硬度を表1に示す。
【0086】
[ロックウェル硬さ]
上記試験片を2枚重ねて、JIS K7202−2に準じてMスケールで測定を行なった。結果を表1に示す。
【0087】
[透明性]
ヘーズメーターHR−100(村上色彩技術研究所(株)製)を用い、上記試験片についてJIS−K7105に準じて全光線透過率とヘーズを測定した。結果を表1に示す。
【0088】
[衝撃強度]
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いてバレル温度280℃、金型温度90℃の射出成形により厚さ6.4mmの試験片を調製した。試験片に切り欠き(ノッチ)をつけノッチ付きアイゾット衝撃試験片を作成し、ASTM D256に準拠してアイゾット試験を行なった。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1で明らかなように、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品(実施例1〜3)は、鉛筆硬度に優れると共に、透明性が高い。
【0091】
比較例1の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(B)として、メチルメタクリレートを主成分とする重合体(B’−1)を用いているために、その成形品は、鉛筆硬度がやや劣り、透明性が劣る。
【0092】
比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(B)を用いていないために、その成形品は、鉛筆硬度がやや劣る。
【0093】
比較例3の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(C)として、Mwが本発明の範囲外となる(C’−1)を用いているために、その成形品は、鉛筆硬度、透明性共に著しく劣る。
【0094】
比較例4の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(C)を用いていないために、その成形品は、鉛筆硬度が著しく劣る。
【0095】
比較例5の熱可塑性樹脂組成物は、重合体(B)及び(C)を用いておらず、その成形品は、鉛筆硬度が著しく劣る。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネートに比べて表面硬度に優れ、透明性を維持できることから、自動車ヘッドランプ、メガネレンズ、又はシート等のような屋外で使用される用途、光メディア用材料等の透明性が必要とされる用途、筐体等の発色性が必要とされる用途等、幅広い分野に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート(A)100質量部に対して、
芳香族(メタ)アクリレート単位を50質量%以上含有する重合体(B)0.1〜15質量部、及び、
メチルメタクリレート単位を60質量%以上含有し、質量平均分子量が5,000〜20,000である重合体(C)5〜70質量部を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる射出成形品。

【公開番号】特開2010−13607(P2010−13607A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177143(P2008−177143)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】