説明

熱可塑性樹脂組成物及びそれから成る成形品

【課題】
優れた耐熱性と寸法安定性を併せ持ち、成形加工性及びコストパフォーマンスに優れた成形品を得ることができる熱可塑性樹脂組成物と、それからなる成形品を提供する。
【解決手段】
本発明は、ゴム含有グラフト共重合体(A)10〜30重量部と、ビニル系共重合体(B)45〜85重量部と、マレイミド系単量体残基を20〜50重量%の範囲で含有するマレイミド系共重合体(C)を5〜40重量部混合した熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、融点が50〜200℃の油脂(D)を3〜10重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイミド系共重合体と油脂を含有するスチレン系熱可塑性樹脂からなる、優れた耐熱性と寸法安定性を兼ね備え、成形性に優れた熱可塑性樹脂組成物、及びそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂(ABS樹脂は、スチレン系樹脂に含まれる。)は、機械的強度及び成形加工性に優れていることから、OA機器や家電製品等の用途に幅広く利用されている。
【0003】
近年、家電製品の小型化、軽薄化及び集積化に伴い、樹脂部品も小型化と軽薄化が要求され、必然的に高強度で耐熱性と寸法安定性に優れたポリカーボネート、ポリアセタール及びポリアミド等のエンジニアリングプラスチック、更には、ポリエーテルエーテルケトンやポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックが採用されるケースが増えてきている。これらのエンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックは確かに優れた特性を有するが、耐熱性や強度物性が高過ぎて過剰性能であるケースも少なくなく、何より高コストという問題がある。故に依然として、スチレン系樹脂のような安価な準エンジニアリングプラスチックの高機能化が求められている。
【0004】
スチレン系樹脂の高機能化技術としては、スチレン系樹脂にガラス繊維や無機質充填剤を添加し、高強度化、耐熱性化及び寸法安定化を図る方法(特許文献1参照。)、スチレン系樹脂にトリグリセリド等の油脂類を添加して寸法安定化する方法(特許文献2及び6参照。)、及びスチレン系樹脂にマレイミド系共重合体を添加することにより熱変形温度を向上させる方法(特許文献3、4、5及び6参照。)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案のガラス繊維や粉末状炭酸カルシウムなどを添加して得られる樹脂組成物においては、成形加工性及び耐衝撃性の低下と共に、高比重化等の問題が指摘されている。また、これらの樹脂組成物の多くは摺動性能に乏しく、摺動箇所に用いる場合の摩耗粉の発生や無機フィラーの脱落等、パーティクルの発生による不具合が懸念される。
【0006】
また、特許文献2で提案のトリグリセリドを添加して得られる樹脂組成物については、低融点のトリグリセリドを使用した場合、成形加工時の金型汚れ性に問題を生じるケースがあり、更に、使用される重合体の固有粘度及び得られた樹脂組成物の流動特性に規定が無いため、寸法安定性が要求される用途においては必ずしも好適に用いることが出来ないという問題があった。
【0007】
特許文献3及び5で提案のマレイミド系共重合体を添加して得られる樹脂組成物においては、確かに熱変形温度の向上が図れているものの、総じてマレイミド系共重合体の添加量が多く、スチレン系樹脂の一般的な成形温度領域では相当高粘度であると考えられ、マレイミド系共重合体添加量と流動特性の関係や成形加工性及び寸法安定性に及ぼす影響は明記されておらず不明であり、例えば、成形歪みに起因する反りが懸念される等、耐熱性、良好な成形加工性及び寸法安定性が同時に要求される用途には必ずしも適切に用いることが出来ないことが懸念される。
【0008】
特許文献4で提案の樹脂組成物については、マレイミド系共重合体をスチレン系樹脂と相溶させることが可能という表現にとどまるものであり、マレイミド系共重合体を含有することによるスチレン系熱可塑性樹脂の性質や機能に関しては何ら提案されていない。
【0009】
特許文献6で提案の融点50℃以上の動物油および/または植物油を添加して得られる樹脂組成物においては、ゴム含有グラフト共重合体、若しくはシアン化ビニル系共重合体の構成物としてマレイミド系単量体が選択可能であると記載されているが、特許文献4の提案と同様、マレイミド系共重合体を含有することによるスチレン系熱可塑性樹脂の性質や機能に関しては何ら提案されていない。
【特許文献1】特公昭44−7532号公報
【特許文献2】特公昭52−9699号公報
【特許文献3】特開昭63−9544号公報
【特許文献4】特開平04−38776号公報
【特許文献5】特開平05−86105号公報
【特許文献6】特開2004−277467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記のような従来の技術的課題を解決するものであり、優れた耐熱性及び寸法安定性を兼ね備え、成形性に優れた熱可塑性樹脂組成物と、それから成る成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的の達成について鋭意検討した結果、ゴム含有グラフト共重合体、シアン化ビニル系共重合体、マレイミド系共重合体及び油脂からなる熱可塑性樹脂組成物の「耐熱性、寸法安定性、機械物性」と「流動特性、成形加工性」のバランスを考慮した処方及び製造方法を確立することにより、上記課題が効果的に解決されることを見出し、本発明に達した。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム質重合体(a)に、芳香族ビニル系単量体(b)10〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)0〜50重量%およびその他共重合可能なビニル系単量体(d)0〜90重量%をグラフト共重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)10〜30重量部、芳香族ビニル系単量体(b)10〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)0〜50重量%およびマレイミド系単量体(e)を除くその他共重合可能なビニル系単量体(f)0〜90重量%を共重合させてなるビニル系共重合体(B)45〜85重量部、およびマレイミド系単量体(e)残基を20〜50重量%の範囲で含有するマレイミド系共重合体(C)を5〜40重量部混合した熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、融点が50〜200℃である油脂(D)を3〜10重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物である。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のゴム質重合体(a)の重量平均粒子径は0.1〜0.5μmであり、且つ、ゴム含有グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体(a)の含有量は、20〜80重量%である。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のビニル系共重合体(B)のメチルエチルケトン可溶分の30℃の温度で測定した固有粘度[η]は、0.25〜0.60dl/gの範囲のものである。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のマレイミド系共重合体(C)を構成する芳香族ビニル系単量体(b)残基が10〜60重量%、シアン化ビニル系単量体(c)残基が0〜20重量%及びその他のビニル系単量体(d)残基が0〜20重量%であり、該マレイミド系共重合体(C)のN,N−ジメチルホルムアミド可溶分の30℃の温度で測定した還元粘度ηsp/cは0.40〜0.65dl/gの範囲のものである。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、種々の成形法により任意形状の成形品に成形することが出来る。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マレイミド系共重合体の効果により無機質充填剤を用いることなく、スチレン系樹脂に優れた耐熱性(高荷重たわみ温度と高熱変形性)を付与することができる。従来の手法では、マレイミド系共重合体の添加量の増加、またはマレイミド系共重合体中のマレイミド系単量体残基量の増加に伴って熱可塑性樹脂組成物の増粘を招いて成形性が悪化し、それに起因する成形歪みが促進され反りの発生を招く等、寸法安定性が悪化する。故に、耐熱性、寸法安定性及び成形加工性を同時に満足させるため、低粘度のシアン化ビニル系共重合体を併用することにより、得られる熱可塑性樹脂の粘度を制御可能とした。これにより、粘度起因の成形歪みが抑制され、成形性と寸法安定性が向上する。その上、高融点の油脂を用いることにより、寸法安定性(低ソリと低成形収縮率)により優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。高融点の油脂を敢えて限定して使用するのは、溶融混練時の揮発抑制と、射出成形時の金型汚れを抑制するために不可欠なためである。
【0018】
本発明により得られる熱可塑性樹脂組成物は、成形直後の寸法安定性に優れているだけでなく、100℃未満の発熱環境において十分な耐熱性と寸法安定性を保持することが可能であり、従来のスチレン系熱可塑性樹脂では使用困難であった用途にも使用可能となる。例えば、小型化、軽薄化及び集積化が進む家電向けの内外装樹脂部品として好適に使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、ゴム質重合体(a)に、芳香族ビニル系単量体(b)とシアン化ビニル系単量体(c)とその他共重合可能なビニル系単量体(d)をグラフト共重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)、芳香族ビニル系単量体(b)とシアン化ビニル系単量体(c)とマレイミド系単量体(e)を除くその他共重合可能なビニル系単量体(f)を共重合させてなるビニル系共重合体(B)、マレイミド系単量体(e)残基と芳香族ビニル系単量体(b)残基とシアン化ビニル系単量体(c)残基とその他のビニル系単量体(d)残基から構成されるマレイミド系共重合体(C)、および融点が50〜200℃である油脂(D)を使用する。
【0020】
上記のゴム含有グラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体(a)には、好適にはジエン系ゴム、アクリル系ゴム及びエチレン系ゴム等を使用することが出来る。
【0021】
ゴム質重合体(a)の具体例としては、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエンラバー、ポリ(エチレン−イソプレン)及びポリ(エチレン−アクリル酸メチル)等が挙げられる。これらのゴム質重合体(a)は、1種または2種以上の混合物で使用することが出来る。これらのゴム質重合体(a)の中では、耐衝撃性の面で、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)及びエチレン−プロピレンラバーが特に好ましく用いられる。
【0022】
本発明におけるゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)及びマレイミド系共重合体(C)に用いられる芳香族ビニル系単量体(b)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン及びハロゲン化スチレン等が挙げられる。これらの芳香族ビニル系単量体(b)は、1種または2種以上を用いることが出来る。これら芳香族系ビニル単量体(b)の中では、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、更に好ましくはスチレンが用いられる。
【0023】
本発明におけるゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)及びマレイミド系共重合体(C)に用いられるシアン化ビニル単量体(c)の具体例としては、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等が挙げられる。これらのシアン化ビニル単量体(c)は、1種または2種以上用いることが出来る。これらシアン化ビニル系単量体(c)の中では、耐衝撃性の点でアクリロニトリルが特に好ましく用いられる。
【0024】
本発明におけるゴム含有グラフト共重合体(A)及びマレイミド系共重合体(C)に用いられるその他共重合可能なビニル単量体(d)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル等の炭素数1〜6までのアルキル基または置換アルキル基を持つ(メタ)アクリル酸エステル化合物、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−メチルマレイミド等のマレイミド化合物、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物及びアクリルアミド等の不飽和アミド化合物等を挙げることが出来る。これらのその他共重合可能なビニル単量体(d)は、単独ないし2種以上を用いることが出来る。
【0025】
ビニル系共重合体(B)に用いられるその他共重合可能なビニル単量体(f)には、マレイミド系単量体以外のビニル系単量体を用いることが出来る。その他共重合可能なビニル単量体(f)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル等の炭素数1〜6までのアルキル基または置換アルキル基を持つ(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物及びアクリルアミド等の不飽和アミド化合物等を挙げることが出来る。これらのその他共重合可能なビニル単量体(f)は、単独ないし2種以上を用いることが出来る。
【0026】
本発明におけるマレイミド系共重合体(C)は、マレイミド系単量体(e)、芳香族ビニル系単量体(b)、シアン化ビニル系単量体(c)及びその他共重合可能なビニル系単量体(f)の共重合により得るか、若しくは無水マレイン酸、芳香族ビニル系単量体(b)、シアン化ビニル系単量体(c)及びその他共重合可能なビニル系単量体(d)の共重合体を1級アミン(h)によりイミド化することにより得ることが出来る。
【0027】
ここで用いられるマレイミド系単量体(e)の具体例としては、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド及びN−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらのマレイミド系単量体(e)は、1種または2種以上用いることが出来る。これらマレイミド系単量体(e)の中では、性能バランスや生産性の点で、N−フェニルマレイミドが特に好ましく用いられる。
【0028】
また、無水マレイン酸、芳香族ビニル系単量体(b)、シアン化ビニル系単量体(c)及びその他共重合可能なビニル系単量体(d)の共重合体をイミド化する際に用いられる1級アミン(h)の具体例としては、アニリン、シクロヘキシルアミン及びメチルアミン等が挙げられる。これらの1級アミン(h)は、少なくとも1種以上用いることが出来る。これら1級アミンの中では、性能バランスや生産性の面で、アニリンが特に好ましく用いられる。
【0029】
本発明におけるゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)及びマレイミド系共重合体(C)からなる熱可塑性樹脂混合物の好ましい組成は、ゴム含有グラフト共重合体(A)に関しては10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%の範囲であり、ビニル系共重合体(B)に関しては45〜85重量%、より好ましくは50〜75重量%の範囲であり、また、マレイミド系共重合体(C)に関しては5〜40重量%、より好ましくは10〜35重量%の範囲である。
【0030】
ゴム含有グラフト共重合体(A)の割合が、ゴム含有グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+マレイミド系共重合体(C)の合計量に対して、10重量%未満であるか、あるいは、ビニル系共重合体(B)とマレイミド系共重合体(C)の合計量の割合が、ゴム含有グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+マレイミド系共重合体(C)の合計量に対して90重量%を超えると、衝撃強度が低下する。
【0031】
また、ゴム含有グラフト共重合体(A)の割合が、ゴム含有グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+マレイミド系共重合体(C)の合計量に対して、30重量%を超えるか、マレイミド系共重合体(C)の割合が、ゴム含有グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+マレイミド系共重合体(C)の合計量に対して40重量%を超えると、溶融粘度が上昇して成形加工性が悪化する。更に、成形加工性の悪化する配合においては、成形体の内部歪みが促進され寸法安定性が低下する。
マレイミド系共重合体(C)の割合が、ゴム含有グラフト共重合体(A)+ビニル系共重合体(B)+マレイミド系共重合体(C)の合計量に対して40重量%を超える場合、得られる成形体の衝撃性能も低下する。
【0032】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体(a)の重量平均粒子径は、0.1〜0.5μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.4μmの範囲である。重量平均粒子径が上記の好ましい範囲にあると、耐衝撃性と成形性のバランスが良好となる。
【0033】
ゴム含有グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体(a)の含有量は、好ましくは20〜80重量%の範囲であり、より好ましくは35〜60重量%の範囲である。ゴム質重合体(a)の含有量がこの範囲にあると、得られる熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が低下しない。
【0034】
本発明で用いられるゴム含有グラフト共重合体(A)は、芳香族ビニル系単量体(b)を組成割合として10〜90重量%含むものであり、好ましい含有量は20〜80重量%である。また、ゴム含有グラフト共重合体(A)は、シアン化ビニル単量体(c)を必要に応じて含有することが出来、その含有量は0〜50重量%であり、好ましくは0〜40重量%である。更に、ゴム含有グラフト共重合体(A)は、その他共重合可能なビニル系単量体(d)を必要に応じて含有することが出来、その含有量は0〜90重量%の範囲であり、好ましくは0〜80重量%である。このような組成においては、耐衝撃性と成形性のバランスが良好となる。
【0035】
ゴム含有グラフト共重合体(A)に配合される単量体混合物は、その全てがゴム質重合体(a)にグラフト化している必要はなく、単量体混合物の単量体同士で結合し、グラフト化していない重合体を含有していても良い。好ましいグラフト率は、10〜100%の範囲であり、より好ましくは20〜80%の範囲である。
【0036】
本発明で用いられるビニル系共重合体(B)を構成する芳香族ビニル系単量体(b)、シアン化ビニル系単量体(c)及びマレイミド系単量体(e)を除くその他共重合可能なビニル系単量体(f)の組成割合については、耐衝撃性及び成形性のバランスをとる点で、芳香族ビニル系単量体(b)を10〜90重量%含むものであり、好ましい含有量は20〜80重量%である。
【0037】
また、ビニル系共重合体(B)は、シアン化ビニル系単量体(c)を必要に応じて含有することが出来、その含有量は0〜50重量%であり、好ましくは0〜40重量%である。更に、ビニル系共重合体(B)は、必要に応じてマレイミド系単量体(e)を除くその他共重合可能なビニル系単量体(f)を含有することが出来、その含有量は0〜90重量%であり、好ましくは0〜80重量%である。このような好ましい組成においては、耐衝撃性及び成形性のバランスが良好となる。
【0038】
本発明で用いられるビニル系共重合体(B)の30℃の温度におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度[η]は、0.25〜0.60dl/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.30〜0.45dl/gの範囲である。固有粘度[η]がこの範囲であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度と成形加工性のバランスが良好となる。固有粘度[η]が0.60を超えると、得られる熱可塑性樹脂の流動性が悪くなり、成形加工性及び寸法安定性が悪化する傾向を示す。
【0039】
本発明で用いられるマレイミド系共重合体(C)を構成するマレイミド系単量体(e)残基、あるいはマレイミド系単量体(e)相当部(無水マレイン酸の1級アミンによるイミド化部もマレイミド系単量体(e)残基に相当する。)と芳香族ビニル系単量体(b)残基及びシアン化ビニル系単量体(c)残基及びその他共重合可能なビニル系単量体(d)残基の好ましい組成比は、耐熱性を確保する点で、マレイミド系単量体(e)残基、あるいはマレイミド系単量体(e)相当部(無水マレイン酸(f)残基の1級アミンによるイミド化部もマレイミド系単量体(e)残基に相当する)を20〜50重量%を含むことが好ましく、より好ましい含有量は22〜40重量%である。
【0040】
また、分散性と成形性を確保する点で、0〜80重量%の芳香族ビニル系単量体(b)残基を含むことが好ましく、より好ましくは30〜60重量%の芳香族ビニル系単量体(b)残基を含むものである。また必要に応じて、シアン化ビニル系単量体(c)残基と、その他共重合可能なビニル系単量体(d)残基を、好ましくはそれぞれ0〜20重量%の範囲で含有することが出来るが、より好ましくはそれぞれ0〜10重量%の範囲である。但し、その他共重合可能なビニル系単量体(d)残基がマレイミド系単量体(e)由来である場合は、マレイミド系共重合体(C)中のマレイミド系単量体(e)残基が20〜50重量%の範囲を超えないようにする必要がある。
【0041】
マレイミド系共重合体(C)を構成するマレイミド系単量体(e)残基あるいはマレイミド系単量体(e)残基相当部の量が、マレイミド系単量体(e)+芳香族ビニル系単量体(b)+シアン化ビニル系単量体(c)+その他共重合可能なビニル系単量体(d)の合計量に対して50重量%を超えるか、芳香族ビニル系単量体(b)残基、シアン化ビニル系単量体(c)残基及びその他共重合可能なビニル系単量体(d)残基の合計量が、マレイミド系単量体(e)+芳香族ビニル系単量体(b)+シアン化ビニル系単量体(c)+その他共重合可能なビニル系単量体(d)の合計量に対して50重量%を下回ると、溶融粘度が上昇して成形性が悪化する。更に、成形性の悪化により成形体の内部歪みが促進され、寸法安定性が悪化する。
【0042】
また、マレイミド系共重合体(C)を構成するマレイミド系単量体(e)残基あるいはマレイミド系単量体(e)残基相当部の量が、マレイミド系単量体(e)+芳香族ビニル系単量体(b)+シアン化ビニル系単量体(c)+その他共重合可能なビニル系単量体(d)の合計量に対して20重量%未満であるか、芳香族ビニル系単量体(b)残基、シアン化ビニル系単量体(c)残基及びその他共重合可能なビニル系単量体(d)残基の合計量が、マレイミド系単量体(e)+芳香族ビニル系単量体(b)+シアン化ビニル系単量体(c)+その他共重合可能なビニル系単量体(d)の合計量に対して80重量%を上回ると、マレイミド系共重合体としての添加効果が薄れ、最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物及びそれから成る成形品の耐熱性(高荷重たわみ温度、高熱変形性)が低下する。
【0043】
本発明で用いられるマレイミド系共重合体(C)の30℃の温度におけるN,N−ジメチルホルムアミド可溶分の還元粘度ηsp/cは、0.40〜0.65dl/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.50〜0.60dl/gの範囲である。還元粘度ηsp/cが0.40dl/g未満では得られる熱可塑性樹脂組成物の耐熱性が不十分となる懸念があり、また還元粘度が0.65dl/gを超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性低下や、マレイミド系共重合体(C)の分散不良を招き、成形加工性、寸法安定性及び衝撃強度が低下する傾向を示す。
【0044】
本発明におけるゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)及びマレイミド系共重合体(C)の製造には、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合等の方法を用いることが出来る。単量体の仕込みとしては、初期一括仕込み、単量体の一部または全てを連続仕込み、あるいは単量体の一部及び全てを分割仕込みする等の方法を用いることが出来る。
【0045】
本発明で用いられる油脂(D)とは、動植物から採取される脂肪や油等の油脂の少なくとも1種であり、例えば、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油、菜種極度硬化油及び牛脂極度硬化油等が挙げられる。これらの油脂(D)の配合量は、ゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)及びマレイミド系共重合体(C)からなる熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して3〜10重量部であり、好ましくは6〜8重量部である。油脂(D)の配合量が3重量部未満では得られた成形品の寸法安定性が劣り、10重量部を超えると成形加工時の金型汚れ性が増す。
【0046】
本発明で用いられる油脂(D)の融点は、50〜200℃の範囲であり、好ましくは55〜180℃の範囲である。油脂(D)の融点が50℃未満である場合、溶融混練時の揮発により添加効果が薄れ、また、成形加工時の金型汚れ性も増す。油脂(D)の融点が200℃を超えると、該熱可塑性樹脂混合物との溶融混煉が困難になり、分散性の面で好ましくない。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂組成物のISO1133準拠により求められたメルトフローレート(温度220℃、98N)は、10〜55g/10minであることが好ましく、より好ましくは15〜40g/10minである。メルトフローレートが10g/10min未満では、流動性が悪いために成形加工性が悪くなり、成形品の内部歪みを促進し、寸法安定性が低下する傾向を示す。また、本発明において、メルトフローレートが55g/10minを超えることは、マレイミド系共重合体(C)の添加量が少な過ぎるか、ゴム含有グラフト共重合体(A)の添加量が少な過ぎる場合に起こり得る。このような場合、耐衝撃性か耐熱性の何れかが低下する傾向を示す。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)及びマレイミド系共重合体(C)からなる熱可塑性樹脂混合物と油脂(D)を、例えば、バンバリミキサー、ロール、エクストルーダー及びニーダー等で溶融混練することにより製造することができるが、マレイミド系共重合体(C)の溶融分散をより適切に行うために、ツインスクリューのエクストルーダーを用いて溶融混練し、製造することが好ましい。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、各種染料や顔料を添加することにより任意の色調に着色することが出来る。また、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系または含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系またはアクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系またはサクシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系やヒンダードアミン系などの光安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類、シリコーンなどの滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類などの可塑剤、臭素化化合物、リン酸エステルまたは赤燐等の各種難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどの難燃助剤、及びアルキルカルボン酸やアルキルスルホン酸の金属塩などを添加することができる。また、各成分が酸性や塩基性であった場合、中和剤などを1種以上添加することができる。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成及びそれから成る成形品は、無機系充填剤を含有しないことを特長の一つとしているが、摩耗粉の発生が無い静的な使用である場合、あるいは摩耗粉の発生が問題にならない場合においては、各種強化剤や無機系充填剤を添加することも可能である。
【0051】
上記によって得られた本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形及びガスアシスト成形等、現在、熱可塑性樹脂の成形に用いられる公知の成形法によって成形することが出来る。
【実施例】
【0052】
本発明を更に具体的に説明するために、以下、実施例を挙げて説明するが、これをもって本発明を制限するものではない。
【0053】
(1)重量平均粒子径(μm)
ゴム質重合体(a)の重量平均粒子径は、「Rubber Age Vol.88 p484〜490(1990)by E.Schmidt,P.H.Biddison」記載のアルギン酸ナトリウム法によって求めた。即ち、アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より、累積重量分率50%の粒子径を求めた。
【0054】
(2)グラフト率(%)
ゴム含有グラフト共重合体(A)の所定量[m]にアセトンを加えて3時間還流し、この溶液を8800rpm(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾取し、この不溶分を60℃の温度で5時間減圧乾燥して重量[n]を測定した。グラフト率は、下式により算出した。
・グラフト率={[n−(m×L)]/m×L}×100
(式中、Lはグラフト共重合体のゴム含有率である。)。
【0055】
(3)マレイミド系共重合体(C)の還元粘度ηsp/c(dL/g)
0.4gのサンプルを100ml溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド)で溶解、調整し、ウベローデ粘度計を用いて還元粘度を求めた。
【0056】
(4)ビニル系重合体(B)の固有粘度[η](dL/g)
サンプルを溶媒(メチルエチルケトン)で溶解させ、異なる濃度の溶液を調整し、それぞれウベローデ粘度計を用いて還元粘度ηsp/cを求め、濃度を0に外挿し、固有粘度[η]を求めた。
【0057】
(5)シャルピー衝撃強さ(kJ/m
ISO179の規定(2000年)に準拠(温度23℃、Vノッチ付き)し、測定した。
【0058】
(6)曲げ強度/弾性率(MPa)
ISO178の規定(2000年)に準拠し、測定した。
【0059】
(7)荷重たわみ温度(℃)
ISO75に準拠の規定(2000年)に準拠し、測定した(荷重1.8MPa)。
【0060】
(8)メルトフローレート(g/10分)
ISO1133の規定(2000年)に準拠し、測定した(温度220℃、荷重98N)。
【0061】
(9)金型汚れ性(mg/15g)
熱可塑性樹脂組成物のペレットを平衡水分率まで乾燥(温度90℃、3時間以上)させた後、270℃の温度に設定した加熱プレート上に平面の金型(下金型)を設置する。サンプルペレット15gを秤量し、下金型の上にサンプルペレットを平敷きする。下金型上のペレットの上に、上金型を設置(下金型と上金型の間隔は4mmになるようスペーサーを入れる。)後、270℃の温度で10分間加熱する。10分間加熱処理後、上金型に捕捉されたブリードアウト物を捕集・秤量し、ブリードアウト量とする。ブリードアウト量が多いほど金型汚れ性が大きい。
【0062】
(10)成形収縮率(%)
射出成形機にて、シリンダー設定温度250℃、金型温度60℃で長さ240mm×幅70mm×厚み3mmのファンゲートを有する金型で、図1に示した成形収縮率測定用角板を成形し、樹脂の流動方向と直角方向の寸法をノギスで測定し、成形収縮率を算出した。
【0063】
(11)ソリ性(mm)
射出成形機にてシリンダー設定温度250℃、金型温度60℃で、トレイ状の成形品を成形し、その成形品を温度23℃、湿度50%に雰囲気下で24時間状態調整する。状態調整後、定盤にトレイ状の成形品を置き、図2に示すA点とB点を定盤に密着させる形で固定し、3次元測定機((株)ミツトヨ製)を用いて、定盤からC点までの垂直方向の寸法を測定することによりソリ性を評価した。定盤からC点までの隙間が小さいほど低ソリ性に優れることになる。
【0064】
(12)熱変形性(mm)
ソリ性評価で使用したソリ量が明確なトレイ状の成形品を65℃の温度に保たれた熱風オーブン中で24時間静置し、23℃まで放冷後、図2に示すA点とB点を定盤に密着させる形で固定し、3次元測定機((株)ミツトヨ製)を用いて、定盤からC点までの垂直方向の寸法、すなわち成形〜状態調整後、ある程度ソリが発生している状態からの垂直方向の更なる寸法の動きを測定して、熱変形性評価とした。
【0065】
トレイ状の成形品でなくとも、熱変形性の評価は可能である。射出成形機にてシリンダー設定温度250℃、金型温度60℃で、短冊状試験片(長さ170mm×幅10mm×厚み4mm)若しくはISO引張試験片を成形し、試験片を室温23℃、湿度50%の雰囲気下で24時間状態調整する。状態調整後、図3に示す片持ち梁を作成し、無荷重状態、及び、固定端から135mmの位置に31.5gの集中荷重を与えた状態で、65℃の温度に保たれた多段式熱風オーブン中で24時間静置し、23℃の温度まで放冷後、試験片のソリ量を測定し熱変形性評価とする。集中荷重を与えたときの評価結果は、トレイ状の成形品の熱変形性評価結果と傾向が良く類似していた。
【0066】
[参考例1] ゴム含有グラフト共重合体(A)の製造方法
(1)ゴム含有グラフト共重合体(A−1)の製造方法
窒素置換した反応器に、純水120重量部、ブドウ糖0.5重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、硫酸第一鉄0.005重量部及びポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含有率85%)60重量部(固形分換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。温度が65℃に到達した時点で単量体混合物(スチレン30重量部及びアクリロニトリル10重量部)及びt−ドデシルメルカプタン0.3重量部から成る単量体混合物を5時間掛けて連続滴下した。同時にクメンハイドロパーオキサイド0.25重量部、オレイン酸カリウム2.5重量部及び純水25部の混合液を7時間かけて連続滴下し、単量体の反応を完了させた。
【0067】
得られたスチレン系共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄し、濾過し、乾燥してゴム含有グラフト共重合体(A−1)を得た。このゴム含有グラフト共重合体(A−1)のグラフト率は35%であった。
【0068】
[参考例2] ビニル系共重合体(B)の製造方法
(1)ビニル系共重合体(B−1)の製造方法
スチレン76重量%とアクリロニトリル24重量%からなる単量体混合物を懸濁重合して、ビニル系共重合体(B−1)を得た。得られたビニル系共重合体(B−1)の30℃の温度におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度[η]は、0.42dl/gであった。
【0069】
(2)ビニル系共重合体(B−2)の製造方法
スチレン70重量%とアクリロニトリル30重量%からなる単量体混合物を連続塊状重合して、ビニル系共重合体(B−2)を得た。得られたビニル系共重合体(B−2)の30℃の温度におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度[η]は、0.45dl/gであった。
【0070】
(3)ビニル系共重合体(B−3)の製造方法
スチレン72重量%とアクリロニトリル28重量%からなる単量体混合物を連続塊状重合して、ビニル系共重合体(B−3)を得た。得られたビニル系共重合体(B−3)の30℃の温度におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度[η]は、0.53dl/gであった。
【0071】
(4)ビニル系共重合体(B−4)の製造方法
スチレン72重量%とアクリロニトリル28重量%からなる単量体混合物を懸濁重合して、ビニル系共重合体(B−4)を得た。得られたビニル系共重合体(B−4)の30℃の温度におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度[η]は、0.85dl/gであった。
【0072】
[参考例3] マレイミド系共重合体(C)の製造方法
(1)マレイミド系共重合体(C−2)の製造方法
窒素置換した反応器に純水160部、ラウリル硫酸ナトリウム0.6及び過硫酸カリウム0.5部を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を70℃に昇温した。反応系の温度が70℃に達した時点を重合開始とし、N−フェニルマレイミド30部、アクリロニトリル19部、スチレン50部及びt−ドデシルメルカプタン0.3部からなる混合液を9時間かけて連続滴下し、その後、アクリロニトリル1部を1時間かけて連続滴下した。これと並行し、重合開始からラウリル硫酸ナトリウム3部を水溶液で12時間かけて連続滴下した。また、重合開始から10時間目に過硫酸カリウム0.1部を添加し、11時間目に過硫酸カリウムを0.01部添加した。反応液の温度は、重合開始から10時間は70℃に保ち、次いで80℃に昇温し、2時間保持して反応を完了させた。
【0073】
得られたマレイミド系共重合体ラテックスを硫酸マグネシウムで凝固後、水洗し、濾過し、乾燥させて、パウダー状のマレイミド系共重合体(C−2)を得た。得られたマレイミド系共重合体(C−2)のN−フェニルマレイミド残基は30重量%であり、還元粘度ηsp/cは0.58dl/gであった。
【0074】
[実施例1〜13]
次に示すゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)、マレイミド系共重合体(C)及び油脂(D)を、それぞれ表1と2に示した配合比で配合し、ベント付き30mmφ二軸押出機((株)池貝製PCM−30)を使用し、シリンダー温度250℃で溶融混練し、押出しを行うことにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した。
・ゴム含有グラフト共重合体(A−1):ゴム質重合体(a)の重量平均粒子径0.3μm、含有量45重量%、グラフト率35%
・ビニル系共重合体(B−1):スチレン76重量%、アクリロニトリル24重量%、固有粘度[η]0.42dl/g
・ビニル系共重合体(B−2):スチレン70重量%、アクリロニトリル30重量%、固有粘度[η]0.45dl/g
・ビニル系共重合体(B−3):スチレン72重量%、アクリロニトリル28重量%、固有粘度[η]0.53dl/g
・マレイミド系共重合体(C−1):(株)日本触媒製 “ポリイミレックス”(登録商標)PAS1460、N−フェニルマレイミド残基38重量%、還元粘度ηsp/c:0.56dl/g
・マレイミド系共重合体(C−2):N−フェニルマレイミド残基30重量%、還元粘度ηsp/c:0.58dl/g
・油脂(D−1):パーム極度硬化油(融点58℃)
・油脂(D−2):大豆極度硬化油(融点68℃)
・油脂(D−3):菜種極度硬化油(融点61℃)
・油脂(D−4):牛脂極度硬化油(融点61℃)
・油脂(D−5):豚脂極度硬化油(融点58℃)
次いで、上記のようにして得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度60℃で試験片を成形し、特性を評価した。結果を、表1と表2に併せて示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
[比較例1〜11]
次に示すゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)、マレイミド系共重合体(C)及び油脂(D)を、それぞれ表3と4に示した配合比で配合し、ベント付き30mmφ二軸押出機((株)池貝製PCM−30)を使用し、シリンダー温度250℃で溶融混練し、押出しを行うことにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した。
・ゴム含有グラフト共重合体(A−1):ゴム質重合体(a)の重量平均粒子径0.3μm、含有量45重量%、グラフト率35%
・ビニル系共重合体(B−1):スチレン76重量%、アクリロニトリル24重量%、固有粘度[η]0.42dl/g
・ビニル系共重合体(B−2):スチレン70重量%、アクリロニトリル30重量%、固有粘度[η]0.45dl/g
・ビニル系共重合体(B−4):スチレン72重量%、アクリロニトリル28重量%、固有粘度[η]0.85dl/g
・マレイミド系共重合体(C−1):(株)日本触媒製 “ポリイミレックス”(登録商標)PAS1460、N−フェニルマレイミド残基38重量%、還元粘度ηsp/c:0.56dl/g
・油脂(D−1):パーム極度硬化油(融点58℃)
・油脂(D−2):大豆極度硬化油(融点68℃)
・油脂(D−3):菜種極度硬化油(融点61℃)
・油脂(D−6):椰子油(融点44℃)
・油脂(D−7):亜麻仁油(融点−10℃)
・油脂(D−8):牛脂(融点35℃)
・油脂(D−9):豚脂(融点40℃)
次いで、上記のようにして得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形機を用い、シリンダー温度250℃、金型温度60℃で試験片を成形し、特性を評価した。結果を、表3と表4に併せて示した。
【0078】
[比較例12]
次に示すゴム含有グラフト共重合体(A)、マレイミド系共重合体(C)及び油脂(D)を、表4に示した配合比で配合し、ベント付き30mmφ二軸押出機((株)池貝製PCM−30)を使用し、シリンダー温度280℃で溶融混練し、押出を行うことにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した。
・ゴム含有グラフト共重合体(A−1):ゴム質重合体(a)の重量平均粒子径0.3μm、含有量45重量%、グラフト率35%
・マレイミド系共重合体(C−1):(株)日本触媒製 “ポリイミレックス”(登録商標)PAS1460、N−フェニルマレイミド残基38重量%、還元粘度ηsp/c:0.56dl/g
・油脂(D−2):大豆極度硬化油(融点68℃)
次いで、上記のようにして得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形機を用い、シリンダー温度280℃、金型温度60℃で試験片を成形し、特性を評価した。結果を表4に併せて示した。
【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
表1〜表4の結果から、以下のことが明らかである。即ち、本発明の実施例1〜13の熱可塑性樹脂組成物は、いずれも耐熱性(高荷重たわみ温度、高熱変形性)、成形加工性及び寸法安定性(低成形収縮率、低ソリ性)に優れていた。
【0082】
一方、油脂(D)及びマレイミド系共重合体(C)が未添加の比較例1と2は、ビニル系共重合体(B)の効果によって高弾性化しており、一見、耐熱性に優れるが、マレイミド系共重合体(C)が含まれていないため荷重下における熱変形性が劣るものであった。また、油脂(D)が添加されておらず、成形収縮率及びソリ量が大きく寸法安定性が悪く、その上、ビニル系共重合体(B)が85部に達すると(比較例1)高弾性化が更に進むが、その分、靭性が低下し衝撃性能が極めて悪くなった。
【0083】
マレイミド系共重合体(C)が未添加の比較例3は、油脂(D)の添加効果により、低成形収縮率と低ソリ性を実現してはいるが、荷重たわみ温度が低く、熱変形性が大きくなり、耐熱性が良くなかった。
【0084】
油脂(D)の添加量が不足している比較例4は、成形収縮率が大きくなってしまい寸法安定性が良くなかった。
【0085】
油脂(D)の添加量が過剰の比較例5は、金型汚れが顕著に発生し、成形加工性が悪かった。
【0086】
マレイミド系共重合体(C)の添加量が不足している比較例6は、比較例3と不具合の傾向は同様であり、耐熱性が不足するものであった。
【0087】
マレイミド系共重合体(C)の添加量が過剰の比較例7は、高粘度であるマレイミド系共重合体(C)の影響により、メルトフローレートが大幅に低下し、成形加工性が悪くなりソリ性が悪化し、成形収縮率も良くなかった。また、衝撃性能の低下が見られた。片持ち梁変形量が小さい結果となったが、これは、マレイミド系共重合体(C)の効果により向上した耐熱性のため、成形時に発生する内部歪みが65℃程度の温度環境では解放されないことに起因する。
【0088】
油脂(D)の融点が50℃未満のものを添加した比較例8〜11は、過剰に添加せずとも比較例6と同様に金型汚れが顕著に発生し、成形加工性が悪くなった。
【0089】
ビニル系共重合体(B)が未添加の比較例12は、特許文献6記載の熱可塑性樹脂であるが、これはシアン化ビニル系共重合体(B)が添加されていないため、温度220℃、98N条件では溶融・流動せず、メルトフローレートは測定不能であった。当該組成の熱可塑性樹脂は、特許文献6によれば温度220℃、98N条件下のメルトフローレートが40g/10min以上のはずであるが、明らかにこれを満足しない。また、比較例12は、成形温度を265℃以上にしないと流動せず、成形困難であった。また、成形温度が高いため、添加油脂の揮発に伴う金型汚れも確認された。物性に関しては、高弾性化と耐熱化が実現されてはいるが、極めて衝撃性能が悪く、脆かった。また、成形歪み起因の反りも大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、成形収縮率測定用角板の概略平面図と概略側面図である。
【図2】図2は、ソリ性と熱変形性測定用のトレイ状の成形品の概略平面図と概略側面図である。
【図3】図3は、熱変形性測定用の片持ち梁を用いた試験装置を説明するための概略平面図と概略側面図である。
【符号の説明】
【0091】
[図1]
A−A:成形体の樹脂流動方向の寸法測定位置
B−B:成形体の樹脂流動方向に対して直角方向の寸法測定位置(ゲート側)
C−C:成形体の樹脂流動方向に対して直角方向の寸法測定位置(反ゲート側)
[図2]
A点:反り測定時、定盤に密着させる成形体端部(ゲート側)
B点:反り測定時、定盤に密着させる成形体端部(反ゲート側)
C点:反り測定時、定盤からの距離を測定し反り量とする成形体端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体(a)に、芳香族ビニル系単量体(b)10〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)0〜50重量%およびその他共重合可能なビニル系単量体(d)0〜90重量%をグラフト共重合してなるゴム含有グラフト共重合体(A)10〜30重量部、芳香族ビニル系単量体(b)10〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)0〜50重量%およびマレイミド系単量体(e)を除くその他共重合可能なビニル系単量体(f)0〜90重量%を共重合させてなるビニル系共重合体(B)45〜85重量部、およびマレイミド系単量体(e)残基を20〜50重量%の範囲で含有するマレイミド系共重合体(C)を5〜40重量部混合した熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、融点が50〜200℃である油脂(D)を3〜10重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ゴム質重合体(a)の重量平均粒子径が0.1〜0.5μmであり、且つ、ゴム含有グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体(a)の含有量が20〜80重量%である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ビニル系共重合体(B)のメチルエチルケトン可溶分の30℃の温度で測定した固有粘度[η]が0.25〜0.60dl/gの範囲である請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
マレイミド系共重合体(C)を構成する芳香族ビニル系単量体(b)残基が10〜60重量%、シアン化ビニル系単量体(c)残基が0〜20重量%、及び、その他のビニル系単量体(d)残基が0〜20重量%であり、該マレイミド系共重合体(C)のN,N−ジメチルホルムアミド可溶分の30℃の温度で測定した還元粘度ηsp/cが0.40〜0.65dl/gの範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−227931(P2009−227931A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78325(P2008−78325)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】