説明

熱可塑性樹脂組成物及び用途

【課題】溶融成形が可能で成形が容易で、製造コストが低く、可視光の吸収が少なく、近赤外光の吸収が大きく、且つ広範な温度及び湿度領域にわたって十分な近赤外線吸収機能を維持する樹脂組成物および成形体、ならびにこれらからなる光学部品などの製品を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と色素とを含有し、光路長1mm、波長400nm〜700nmでの光線透過率の最大値が80%以上であり、且つ光路長1mm、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下である熱可塑性樹脂であって、250℃で30分間静置する加熱試験において、波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の前記加熱試験前後の変化率が5%以内で、且つ加熱試験後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物及びこれからなる光学レンズ等の成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線透過性に優れ、成形が容易で、広範な温度及び湿度領域にわたって十分な近赤外線吸収機能を有する樹脂組成物、ならびにそれを成形してなる光学レンズ等の光学部品及びそれを含む光学レンズユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等の、CCDやCMOSイメージセンサ等の撮像素子を用いた撮像装置において、撮像素子は可視領域の光線だけでなく、より長波長の近赤外線領域にも感度を持っている。そのため、歪みのない撮像を得るには、被写体から撮像素子に至るまでの光路内(例えばレンズユニット内)において近赤外線を吸収する部品を組み込む必要がある。
【0003】
そのような部品には、撮像装置の性能向上のための要求として、成形が容易で、製造コストが低く、可視光の吸収が少なく、近赤外光の吸収が大きく、且つ耐久性が高いことが求められる。
【0004】
かかる近赤外線を吸収する部品としては、従来、ガラスや樹脂製の板に近赤外線吸収膜または近赤外線反射膜をコートしたもの、または近赤外線遮断効果を有する物質を含有する樹脂等が用いられてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、特定のリン酸エステル化合物、銅塩を主成分とするアクリル系単量体組成物を注型重合してカメラの測光用フィルターや視感度補正用フィルターなどの光学部品を得ることが記載されている。しかしながらこの方法は、特定のアクリル樹脂にしか適用できない上、成形に非常に長い時間を要する。
【0006】
短時間で効率的に行える樹脂の成形方法としては、熱可塑性樹脂を材料とした溶融成形が考えられる。しかしながら、近赤外線を吸収する色素を含む熱可塑性樹脂の場合、溶融成形時に課される熱により、かかる色素の近赤外線吸収能が減少したり、可視光の吸収が増加してしまうことが多く、光学部品の製造の実用に耐えるものがなかなか見出されていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平6−345877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景に基づき、本発明の目的は、溶融成形が可能で成形が容易で、製造コストが低く、可視光の吸収が少なく、近赤外光の吸収が大きく、且つ広範な温度及び湿度領域にわたって十分な近赤外線吸収機能を維持する樹脂組成物および成形体、ならびにこれらからなる光学部品などの製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば:
[1] 熱可塑性樹脂と色素とを含有し、光路長1mm、波長400nm〜700nmでの光線透過率の最大値が80%以上であり、且つ光路長1mm、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下である熱可塑性樹脂組成物であって、250℃で30分間静置する加熱試験において、波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の前記加熱試験前後の変化率が5%以内で、且つ加熱試験後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2] 前記色素が、リン酸基含有化合物と銅原子とを含む銅錯体である[1]記載の樹脂組成物。
[3] 前記リン酸基含有化合物が、式(1)で表されることを特徴とする[2]記載の樹脂組成物:
式(1): PO(OH)n{(-O-)p-R13-n
(ただし式中R1は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基又は脂環基を示す。これらは置環基を有しても良い。前記置換基は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、及び脂環基のいずれかである。pは0または1、nは1または2である。(-O-)p-R1基が複数存在する場合、これらは同一又は異なる基である。)。
[4] 前記銅錯体において、銅原子1個に対するC=O結合単位及びC−O−C結合単位の合計が、3単位以下であることを特徴とする[2]又は[3]記載の樹脂組成物。
[5] [1]〜[4]のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形体;
[6] 光学部品である[5]記載の成形体;
[7] 光学レンズである[6]記載の成形体;及び
[8] [7]に記載の光学レンズを含む撮像装置用光学レンズユニット
がそれぞれ提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物及び成形体は、可視光の吸収が少なく、且つ近赤外領域の波長光を効率よくカットしできるという光学特性を持ち、溶融成形が可能であるため成形が非常に容易で、且つ高温高湿下で長期間安定し前記光学特性を保持することができる。
また、本発明の光学部品及び光学レンズは、前記本発明の樹脂組成物からなるので、ガラス製の製品等に比べて軽量で成形容易で耐衝撃性が高く、且つ良好な近赤外領域吸収能を安定して保持でき、撮像装置用光学レンズユニット等の装置の構成要素として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と色素とを含有する。
【0012】
(熱可塑性樹脂組成物)
熱可塑性樹脂としては、例えば、鎖状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリエステルサルホン、脂環式構造含有重合体などが挙げられ、これらの中でも、高温高湿下での長期間安定性、優れた光学特性という観点で、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエステルサルフォン、脂環式構造含有重合体樹脂などが好ましく、ポリカーボネート、ポリアクリレート、脂環式構造含有重合体がより好ましく、高温高湿下での長期間安定性、優れた光学特性という観点で脂環式構造含有重合体が特に好ましい。
【0013】
脂環式構造含有重合体は、その重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体である。この脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造を挙げることができる。これら脂環式構造の中でも、この発明に係る樹脂組成物から得られる成形体の熱安定性を向上させることを目的とするのであれば、シクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を形成する炭素数は、通常は4〜30、好ましくは、5〜20、より好ましくは、5〜15である。炭素数がこの範囲にあると、優れた耐熱性と柔軟性を有する成形体を得ることができる。この脂環式構造は、重合体の主鎖、側鎖のいずれに存在していてもよい。
【0014】
脂環式構造含有重合体における脂環式構造を含有する繰り返し単位の含有割合に制限はなく、得られる樹脂組成物の性状、物性等に応じて適宜、選択されるが、通常は50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%とすることができる。この繰り返し単位の含有割合が少量過ぎると、得られる樹脂組成物の耐熱性が低下することがある。なお、この発明に用いる脂環式構造含有重合体は、脂環式構造を含有する繰り返し単位以外の繰り返し単位を含有していてもよい。前記脂環式構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体等を挙げることができる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が耐熱性、機械強度の点から好ましい。
【0015】
前記ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体、およびこれら開環重合体又は開環共重合体の水素化物、並びにノルボルネン系モノマーの付加重合体、およびノルボルネン系モノマーとこれと付加共重合可能な他のモノマーとの付加共重合体を挙げることができる。
【0016】
これら重合体および共重合体の中でも、得られる樹脂組成物の耐熱性、機械的強度の観点からすると、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素化物が特に好ましい。
【0017】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの、以下、同じ。)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、テトラシクロ[9.2.1.02,10,03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(慣用名:メタテトラヒドロフルオレン)およびその誘導体、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体等を挙げることができる。
【0018】
前記置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、アルキレン基、ビニル基、フェニル基、ビフェニル基を挙げることができる。前記ノルボルネン系モノマーは、これら置換基を一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0019】
これら置換基を有するノルボルネン系モノマーとしては、9−メチル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチリデン−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−(ビフェニル)−フェニルテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等を挙げることができる。これらノルボルネン系単量体は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0020】
前記ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能な他のモノマーとしては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の炭素数5〜20、好ましくは5〜10の単環の環状オレフィン単量体または環状ジオレフィン単量体を例示することができる。ノルボルネン系モノマーの開環重合体及びノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体は、これらのモノマーを公知の開環重合触媒の存在下に溶媒中または無溶媒で、通常、-50℃〜100℃の重合温度、0.01〜5MPaの重合圧力で重合することにより得ることができる。重合時間は、使用する単量体の重合転化率に応じて適宜調整すればよい。
【0021】
重合反応用溶媒としては生成する重合体を溶解し、かつ重合反応を阻害しない溶媒であれば限定なく使用されうる。例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素系炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチルなどのエステル類、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類、ケトン類又はエステル類が好ましい。溶媒の量は、重合反応液中の単量体濃度が、1〜50質量%、好ましくは2〜45質量%、より好ましくは5〜40質量%になる範囲で適宜調整される。
【0022】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素化物及びノルボルネン系モノマーと開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体の水素化物は、これらの開環重合体又は開環共重合体の反応溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、通常-10〜+250℃、好ましくは0〜200℃の反応系に水素を、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜8MPaの圧力で導入して、通常、0.1〜50時間反応させることにより得られる。水素化率は、主鎖の炭素-炭素不飽和結合については90%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。
【0023】
前記ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、炭素数4〜20のモノ環状オレフィン又は環状共役ジエン、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン及びそれらの誘導体などの炭素数5〜20の非共役ジエン、ビニルシクロヘキセンなどのビニルシクロアルケン、ビニルシクロヘキサンなどのビニルシクロアルカンなどのビニル脂環式炭化水素化合物、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン及びこれらの誘導体などの炭素数2〜20のエチレンまたはα-オレフィンなどが挙げられる。これら単量体の中でも、α-オレフィン、特にエチレンが好ましい。これらの単量体は1種単独で、又は2種以上を併せて用いることができる。
【0024】
前記ノルボルネン系モノマーの付加重合体およびノルボルネン系モノマーとこれと付加共重合可能な他のモノマーとの付加共重合体は、これらのモノマーを公知の付加重合触媒の存在下に溶媒中で-50℃〜100℃の重合温度、0.01〜5MPaの重合圧力で重合することにより得ることができる。重合時間は、モノマーの重合転化率に応じて適宜調整すればよい。重合反応用溶媒は、上記の開環重合と同様の溶媒が使用される。
【0025】
ノルボルネン系モノマーとこれに対して共重合可能な他のモノマーとを付加共重合するにあたっては、得られる付加共重合体中のノルボルネン系モノマーに由来する構造単位と、付加共重合可能な他のモノマーに由来する構造単位との割合が、質量比で、好ましくは50:50〜99:1、より好ましくは70:30〜97:3の範囲となるよう、各モノマーの使用量が選択される。
【0026】
前記単環の環状オレフィン系重合体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環を有する環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0027】
前記環状共役ジエン系重合体としては、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2-または1,4-付加重合体およびその水素化物を挙げることができる。
【0028】
前記ビニル脂環式炭化水素重合体としては、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系モノマーの重合体およびその水素化物、スチレン、α-メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素系モノマーを重合してなる重合体に含まれる芳香族部分を水素化してなる水素化物、ビニル脂環式炭化水素系モノマーまたはビニル芳香族炭化水素系モノマーとこれらビニル芳香族炭化水素系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体等の共重合体およびその芳香環の水素化物等を挙げることができる。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロックまたはそれ以上のマルチブロック、傾斜ブロック共重合体等を挙げることもできる。
【0029】
本発明に好適に用いられる脂環式構造重合体は、極性基を有してもよい。しかしながら、成形体は実質的に疎水性であることが好ましいので、許容できる極性基の脂環式構造含有重合体中の含有量は、好ましくは0.8mmol/g以下、より好ましくは0.5mmol/g以下である。
【0030】
前記極性基としては、ヘテロ原子またはヘテロ原子を有する原子団等を挙げることができ、ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、ハロゲン原子等を挙げることができる。これらヘテロ原子の中でも、色素との分散性および相溶性の観点からすると、酸素原子および窒素原子が好ましい。前記極性基として、具体的には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、オキシ基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、ハロゲン基、シアノ基、アミド基、イミド基、スルホニル基、カルボニルオキシカルボニル基を挙げることができる。これらの中でも、色素との分散性及び相溶性の観点から、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カルボニル基、アミド基、イミド基、カルボニルオキシカルボニル基が好ましい。
【0031】
極性基を有するノルボルネン系モノマーとしては、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチル−9−メトキシカルボニル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シアノテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ジエチルアミノテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−N,N’−ジメチルアミノカルボニルテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、N-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-カルボキシイミド、9−フェニルスルホニルテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボキシアルデヒド、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2-カルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-カルボン酸無水物などが挙げられる。
【0032】
本発明においては、熱可塑性樹脂の質量平均分子量(Mw)は好ましくは500〜500,000、より好ましくは1,000〜200,000、特に好ましくは2,000〜100,000の範囲である。熱可塑性樹脂の質量平均分子量(Mw)がこの範囲である時に、機械的強度や成形加工性が高度にバランスされ好適である。なお、前記分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0033】
本発明においては、用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、通常80℃以上、好ましくは130〜250℃である。熱可塑性樹脂のガラス転移温度がこの範囲にあることにより、重合体は高温下の使用に耐え、熱変形、応力集中等を生じることなく、優れた耐久性を発現することができる。ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0034】
(色素)
本発明の樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂に加えて、色素を含有する。
【0035】
本発明において、色素は、樹脂組成物に、波長400〜700nmで最大値80%以上の光線透過率、及び波長700〜1000nmで最大値10%以下の光線透過率を与える色素である。さらに、前記色素は、本発明の樹脂組成物を250℃で30分間静置する加熱試験に供した際、波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の前記加熱試験前後の変化率を5%以内とし、且つ加熱試験後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値を10%以下としうる色素である。
【0036】
色素の具体例としては、シアニン系近赤外線吸収剤、ピリリウム系赤外線吸収剤、スクワリリウム系近赤外線吸収剤、クロコニウム系赤外線吸収剤、アズレニウム系近赤外線吸収剤、ナフトキノン系近赤外線吸収剤、アントラキノン系近赤外線吸収剤、インドフェノール系近赤外線吸収剤、アゾ系近赤外線吸収剤等が挙げられる。また、フタロシアニン系近赤外線吸収剤、ジチオール金属錯体系近赤外線吸収剤、チオールニッケル錯体クロム・コバルト錯塩(特公昭60−42269号公報)、クロム、コバルト錯塩(特公昭60−42269号公報)及び銅錯体などの金属系錯体等が挙げられる。中でも、二価の銅錯体が配位子場の遷移から、近赤外線を効率よく吸収するため好ましい。
【0037】
前記銅錯体としては、特にリン酸基含有化合物と銅原子とを含む銅錯体(以下、単に「リン酸銅錯体」という。)が、近赤外線を効率よく吸収し、かつ可視光線を効率よく透過するため、好ましい。
【0038】
(リン酸基含有化合物)
前記リン酸銅錯体を構成するリン酸基含有化合物は、銅イオンと配位結合またはイオン結合を形成して当該銅イオンを樹脂中に分散させるための成分である。このリン酸基含有化合物は、1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
前記リン酸基含有化合物としては、下記式(1)で表される化合物(以下において、リン酸基含有化合物(1)という場合がある。)を用いることができる:
式(1): PO(OH)n{(-O-)p-R13-n
【0040】
式(1)中R1は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は脂環基を示す。これらは置環基を有しても良い。このような置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、及び脂環基のいずれかである。pは0または1、nは1または2である。式(1)中において(-O-)p-R1基が複数存在する場合、これらは同一又は異なる基である。具体的には、n=1の場合、(-O-)p-R1基は式(1)中に2基存在するが、これらは同じ構造でも異なった構造でも良い。この基を適宜選択することにより、熱可塑性樹脂との相溶性や光学特性、耐久性のバランスを取ることができる。
【0041】
前記置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等の直鎖状、分岐状のアルキル基;フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等のアラルキル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;シクロプロパン基、シクロブタン基、シクロペンタン基、シクロヘキサン基、シクロヘプタン基、シクロオクタン基等の単環の脂環基;アダマンタン基、ノルアダマンタン基、ノルボルナン基、ノルボルネン基、ジシクロペンタジエン基等の多環の脂環基が挙げられる。これらはさらに置換基を有していても良い。
式(1)中R1は、適宜選択することにより、熱可塑性樹脂との相溶性や光学特性、耐久性のバランスを取ることができる。
【0042】
リン酸基含有化合物(1)等のリン酸基含有化合物の構造、及びリン酸基含有化合物と銅原子との割合を適宜選択することにより、リン酸銅錯体が、銅原子1個に対するC=O結合単位及びC−O−C結合単位の合計が特定数以下であるものとしうる。そのようなリン酸銅錯体を用いると、溶融成形の条件等の高温条件下における吸収特性の維持を、特に良好に達成しうる樹脂組成物を得ることができ、特に好ましい。具体的には、銅原子1個に対するC=O結合単位及びC−O−C結合単位の合計が好ましくは3単位以下、より好ましくは2単位以下、さらにより好ましくは1単位以下とすることにより、150℃以上の熱が加わった際の変色を避けることができ、優れた近赤外線吸収能を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
前記リン酸基含有化合物は、低分子化合物でもよく、オリゴマーやポリマーでもよく、質量平均分子量(Mw)は100〜500,000であることが好ましい。
【0044】
本発明のリン酸基含有化合物の調製方法は特に限定されないが、具体的には、アルコールと各種リン化合物とを反応させて合成することができる。より具体的には、下記方法(I)〜(III)のいずれかによって合成することができる。下記方法(I)〜(III)において、アルコールとしては、式R1-OHで表される化合物を用いることができる。R1としては、先に示した式(1)で表される化合物のR1と同様のものが挙げられる。
【0045】
方法(I):適宜の有機溶剤中で、アルコールと、五酸化リンとを反応させる方法
この方法において、アルコールと五酸化リンとの反応に用いられる有機溶剤としては、五酸化リンと反応しない有機溶剤が挙げられる。例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油スピリット等の炭化水素系溶剤;クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルケトン等のケトン系溶剤などが挙げられ、これらの中では、トルエン、キシレンやエーテル系溶剤が好ましい。
【0046】
また、アルコールと五酸化リンとの反応条件は、反応温度は0〜100℃、好ましくは40〜80℃、反応時間は1〜24時間、好ましくは4〜9時間とすることができる。
【0047】
方法(I)においては、反応に供するアルコールと五酸化リンとの割合を適宜調節することにより、所望の構造を有するリン酸基含有化合物を調製することができる。例えばアルコールが一価の場合、アルコールおよび五酸化リンをモル比で3:1となる割合で用いることにより、式(1)において水酸基の数nが2であるリン酸基含有化合物(以下、単に「モノ基含有」という。)と、式(1)において水酸基の数nが1であるリン酸エステル化合物(以下、単に「ジ基含有」という。)との割合がほぼ1:1の混合物を得ることができる。
【0048】
また、アルコールと五酸化リンとの割合および反応条件を選択することにより、モノ基含有とジ基含有との割合をモル比が99:1〜40:60となる範囲で調整することができる。
【0049】
方法(II):適宜の有機溶剤中で、アルコールとオキシハロゲン化リンとを反応させ、得られる生成物に水を添加して加水分解する方法
この方法において、オキシハロゲン化リンとしては、オキシ塩化リン、オキシ臭化リンを用いることが好ましく、特に好ましくはオキシ塩化リンである。
【0050】
また、アルコールとオキシハロゲン化リンとの反応に用いられる有機溶剤としては、オキシハロゲン化リンと反応しない有機溶剤が挙げられる。例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油スピリット等の炭化水素系溶剤;クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられ、これらの中では、トルエン、キシレン、およびエーテル系溶剤が好ましい。
【0051】
また、アルコールとオキシハロゲン化リンとの反応条件は、反応温度は0〜110℃、好ましくは40〜80℃、反応時間は1〜20時間、好ましくは2〜8時間とすることができる。
【0052】
上記反応により得られた生成物への水の添加は、反応終了後の反応混合物に単に過剰の水を注ぐことにより達成することができる。
【0053】
方法(II)においては、例えばアルコールおよびオキシハロゲン化リンをモル比で1:1となる割合で用いることにより、モノ基含有を得ることができる。また、四塩化チタン(TiCl4)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化アルミニウム(AlCl3)などのルイス酸触媒等の反応触媒やトリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン類や、ピリジンなどの塩酸捕捉剤を用いることにより、モノ基含有とジ基含有との混合物を得ることができ、その割合をモル比が99:1〜1:99となる範囲で調整することができる。
【0054】
方法(III):適宜の有機溶剤中で、アルコールと三ハロゲン化リンとを反応させることにより、ホスホン酸基含有化合物を合成し、その後、得られたホスホン酸基含有化合物を酸化する方法
この方法において、三ハロゲン化リンとしては、三塩化リン、三臭化リンを用いることが好ましく、特に好ましくは三塩化リンである。
【0055】
また、アルコールと三ハロゲン化リンとの反応に用いられる有機溶剤としては、三ハロゲン化リンと反応しない有機溶剤が挙げられる。例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油スピリット等の炭化水素系溶剤;クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられ、これらの中では、ヘキサン、ヘプタンが好ましい。
【0056】
また、アルコールと三ハロゲン化リンとの反応条件は、反応温度は0〜90℃、好ましくは40〜75℃、反応時間は1〜10時間、好ましくは2〜5時間とすることができる。
【0057】
上記反応により得られたホスホン酸基含有化合物を酸化する手段としては、ホスホン酸基含有化合物に例えば塩素ガスなどのハロゲンを反応させることにより、ホスホロハロリデート化合物を合成し、このホスホロハロリデート化合物を加水分解する手段を利用することができる。ここで、ホスホン酸基含有化合物とハロゲンとの反応温度は0〜40℃が好ましく、特に好ましくは5〜25℃である。
【0058】
また、ホスホン酸基含有化合物を酸化する前に、当該ホスホン酸基含有化合物を蒸留して精製することもできる。
【0059】
この方法(III)においては、例えばアルコールおよび三ハロゲン化リンをモル比で3:1となる割合で用いることにより、ジ基含有を高い純度で得ることができる。
また、アルコールと三ハロゲン化リンとの割合および反応条件を選択することにより、モノ基含有とジ基含有との混合物を得ることができ、その割合をモル比が99:1〜1:99となる範囲で調整することができる。
【0060】
(リン酸銅錯体の調製)
前記リン酸銅錯体は、前記リン酸基含有化合物と銅化合物を反応させることにより調製することができる。
【0061】
前記銅化合物としては、種々のものを用いることができる。具体例としては、酢酸銅、塩化銅、ギ酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、エチルアセト酢酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、クエン酸銅、硫酸銅、硝酸銅、炭酸銅等の無水物または水和物が挙げられるが、二価の銅イオンを供給することができれば、これらの銅化合物のみに限定されるものではない。
【0062】
リン酸基含有化合物と銅化合物とを反応させる際のこれらの配合割合は、銅原子1モルに対してリン酸基が通常0.1〜10モル、好ましくは0.5〜6モルとすることができる。この割合が0.5モル以上とすることにより、銅原子を樹脂中に均一に分散させることができる。また、この割合が10モルを超える場合には、銅原子との配位結合またはイオン結合に関与しないリン酸基の割合が過大となるため、当該色素が添加されることによって得られる樹脂組成物は、吸湿性の大きいものとなることがある。
【0063】
リン酸基含有化合物と銅化合物との反応は、適宜の条件下で両者を接触させることにより行うことができる。具体的には、(i)リン酸基含有化合物と銅化合物とを混合して両者を反応させる方法、(ii)適宜の有機溶剤中においてリン酸基含有化合物と銅化合物とを反応させる方法、(iii)リン酸基含有化合物が有機溶剤中に含有されてなる有機溶剤層と、銅化合物が溶解されてなる水層とを接触させることにより、リン酸基含有化合物と銅化合物とを反応させる方法、などが挙げられる。
【0064】
リン酸基含有化合物と銅化合物との反応条件は、上記方法(i)〜(iii)のいずれの場合も、反応温度は0〜150℃、好ましくは40〜100℃、反応時間は0.5〜10時間、好ましくは1〜7時間とすることができる。リン酸銅錯体形成反応の終点を決める代表的な方法としては、リン酸銅錯体を含有する溶液の分光透過スペクトルを観察し、この分光透過スペクトルの変動が実質的に無くなった時を反応の終点と判断する方法が挙げられる。
【0065】
上記(ii)の方法において用いられる有機溶剤としては、用いられる特定の燐酸エステル化合物を溶解し得るものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類;ヘキサン、ケロシン、石油エーテルなどが挙げられる。また、(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物などの重合性を有する有機溶剤を用いることもできる。これらの中では、トルエンが好ましい。
【0066】
また、上記(iii)の方法において用いられる有機溶剤としては、水に不溶または難溶であって、用いられる特定の燐酸エステル化合物を溶解し得るものであれば、特に限定されず、例えば(ii)の方法において用いられる有機溶剤として例示したもののうち、芳香族炭化水素類、エーテル類、エステル類、ヘキサン、ケロシン、(メタ)アクリル酸エステル類、芳香族ビニル化合物などが挙げられ、好ましくはトルエンである。
【0067】
リン酸基含有化合物と銅化合物との反応においては、酸成分が遊離される。このような酸成分は、樹脂組成物の耐湿性および熱安定性を低下させる原因となることがあるため、必要に応じて除去することが好ましい。
【0068】
上記(i)または(ii)の方法によりリン酸銅錯体を製造した場合の酸成分の除去は、例えば、リン酸基含有化合物と銅化合物との反応終了後の反応混合物から、生成された酸成分および有機溶剤を蒸留によって除くことにより行うことができる。
【0069】
また、上記(iii)の方法によりリン酸銅錯体を製造する場合には、例えば当該製造を以下の手順で行うことにより、酸成分を除きながらリン酸銅錯体を得ることができる:即ち、水に不溶または難溶の有機溶剤にリン酸基含有化合物が含有されてなる有機溶剤層に、アルカリを添加することによって中和した後、この有機溶剤層を銅化合物が溶解された水層と接触させることより、リン酸基含有化合物と銅化合物とを反応させ、その後、有機溶剤層と水層とを分離することにより、酸成分を除去することができる。
【0070】
ここで、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような方法によれば、銅化合物から遊離される酸成分とアルカリとによって水溶性の塩が形成され、この塩が水層に移行すると共に、生成されるリン酸銅錯体は、有機溶剤層に移行するため、当該水層と有機溶剤層とを分離することにより、酸成分を除去することができる。
【0071】
(熱可塑性樹脂と色素との配合、及び成形)
本発明の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂と色素との配合する場合の配合割合は、特に限定されず、後述する特定の光線透過率等の特性を満足するような配合割合とすることができる。特に、色素として銅錯体を用いる場合、その含有割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、銅原子として通常0.1〜50質量部、好ましくは0.1〜40質量部、更に好ましくは0.1〜30質量部とすることができる。この割合を0.1質量部以上とすることにより、近赤外領域の波長光を効率よく吸収することができ、一方、50質量部以下とすることにより、熱可塑性樹脂中に銅錯体を均一に分散させ、可視光透過率に優れた樹脂組成物を得やすい。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、その他必要に応じて、任意成分として酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤等、滑剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0073】
熱可塑性樹脂に色素、及び必要に応じて他の任意成分を配合する方法としては、色素が熱可塑性樹脂中で十分に分散する方法を適宜選択することができる。例えば、ミキサー、二軸混練機などで樹脂温を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させて凝固法、キャスト法、または直接乾燥法により溶剤を除去する方法などがある。
【0074】
色素を配合する操作と同時に又はその後に、樹脂組成物をさらに成形し、本発明の成形体又は光学部品を得ることができる。かかる成形方法は特に限定されない。目的に応じて、射出成形法、ブロー成形法、インジェクションブロー成形法、回転成形法、真空成形法、押出成形法、カレンダー成形法、溶液流延法などで成形し、後述する各種の形状の成形体とすることが可能である。特に、これら各種の成形法のうち、樹脂組成物を溶融して成形する方法が、短時間で様々な形状への加工を行うことができるため、特に好ましい。
【0075】
(樹脂組成物の物性)
本発明の樹脂組成物においては、光路長1mmにおける波長400〜700nmの範囲での光線透過率の最大値が80%以上であり、光路長1mmにおける波長700〜1000nmの範囲での光線透過率の最大値が10%以下である。
【0076】
波長400〜700nmの範囲での光線透過率の最大値が80%未満であると、透明性が十分でなく、光学材料として用いる際に実用的でない場合がある。また、波長700〜1000nmの範囲での光線透過率の最大値が10%を超えた場合、近赤外線吸収能が不足する。
【0077】
ここで、光路長とは、一般的に、屈折率nの媒質中を距離Lだけ光線が通過したときのnLをいう。また、特定の波長域内の光線透過率の最大値とは、当該波長域の全てにわたり光線透過率を測定した際、その中で示された値のうちの最も高い値をいう。
【0078】
本発明の樹脂組成物の光線透過率としては、樹脂組成物を成形して得られた板の光路長1mm部分についての測定値を採用することができる。光線透過率は、分光光度計(日本分光社製:「紫外可視近赤外分光光度計 V−570」)により、波長400〜1000nmの範囲について波長を連続的に変化させて測定し、400〜700nmの範囲での最大の光線透過率と、700〜1000nmの範囲での最大の光線透過率とを求めることにより行うことができる。
【0079】
さらに、本発明の樹脂組成物は、250℃で30分間静置する加熱試験において、波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の前記加熱試験前後の変化率が5%以内で、且つ加熱試験後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下である。
【0080】
250℃で30分間静置する加熱試験において、波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の前記加熱試験前後の変化率が5%以上となると、樹脂組成物を溶融成形した場合に成形体の透明性が低下する。加熱試験後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%を超えると、樹脂組成物を溶融成形した場合に成形体の近赤外線吸収能が発現しない。これは、熱による色素の変質が考えられ、樹脂組成物を溶融成形した場合に、所望の近赤外線吸収能が発現されないことを意味する。
250℃で30分間静置する加熱試験前後における波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の変化率は、以下の式より求められる。
変化率(%)=|T0−T1|/T0×100
上記式においてT0は常温環境下での波長400〜700nmでの光線透過率の最大値を表し、T1は250℃で30分間放置した後の波長400〜700nmでの光線透過率の最大値を表す。
【0081】
本発明の樹脂組成物においては、250℃で30分間静置する加熱試験において、波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の前記加熱試験前後の変化率が4%以内で、且つ加熱試験後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値が8%以下であることが好ましい。
【0082】
(用途)
本発明の樹脂組成物は、上述した特定波長光に対する吸収特性、成形加工性、及び高温高湿環境下での安定性といった優れた特性を発現することができる。したがって本発明の樹脂組成物及び本発明の樹脂組成物からなる本発明の成形体は、種々の形態とすることができ、各種機能材として、又は、各種機能材と組み合わせて、種々の用途に好適に用いることができる。
【0083】
具体的には例えば、本発明の成形体は、コート状、シート状、ディスク状、ファイバ状、フィルム状、プリスム状、レンズ状、円柱状、板状、膜状等の各種の形態とすることができる。または、特定の形状に成形せず、粘着材または接着剤として、本発明の樹脂組成物を用いることもできる。
【0084】
さらに、各種機能材としては、コーティング材(剤)、ハードコート材(剤)、ローパスフィルター等のバンドパス機能材、回折格子材、EMI除去用の電磁波遮蔽材、複屈折板、着色剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、水晶、帯電防止剤、熱安定剤、離型剤、重合調整剤、他の光学材料、反射防止材(反射防止コーティング材)、偏光解消板、導電層等と組み合わせた複合機能材が挙げられる。
【0085】
本発明の樹脂組成物及び本発明の成形体の用途としては、窓材、農業用被覆材、照明器具などのほか、CCDリッド材、PDP前面板等のディスプレイ前面板、ディスプレイ前面フィルター、ゴーグル、眼鏡用レンズ又は撮像素子用レンズ等のレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光学フィルター、光学的ローパスフィルター、視感度補正用フィルター、測光用フィルター、撮像用フィルター、等の光学部品に好適に用いられる。
【0086】
本発明の光学部品及び光学レンズは、前記本発明の樹脂組成物からなる。また、本発明の撮像素子用光学レンズユニットは、前記本発明の光学レンズを含む。本発明の撮像素子用光学レンズユニットは、CCD、CMOSなどの撮像素子用レンズユニットとすることができる。
【0087】
本発明の撮像素子用光学レンズユニットは、含まれる光学レンズが赤外線吸収フィルタとしての機能を併せ持つので、従来品において必要であった近赤外線吸収フィルタを省略することができ、部品点数の削減による小型化、低価格化等の利益を得ることが出来る。
【0088】
また、本発明の光学部品及び光学レンズは、溶融成形により、自由な形状に簡便に短時間で製造できる。従って本発明の光学部品及び光学レンズ、並びにこれを含む本発明の撮像素子用光学レンズユニットは、コストの低減の観点において、さらに有利である。
【0089】
また、本発明の光学部品は、CCD、CMOSなどの撮像素子用レンズユニットの近赤外線吸収フィルタとして用いることもできる。本発明の光学部品は、従来品のガラス製フィルタよりも軽量で且つ耐久性が高いものとすることができるため、落下などの衝撃による破損を起こしにくいユニットを与えることができる。
【0090】
また、本発明の光学部品は、CCD、CMOSなどの撮像素子のカバー材料として用いることができる。当該カバーを撮像素子上に設ければ、近赤外線吸収フィルタの省略による装置の小型化が可能となる。
【実施例】
【0091】
以下本発明を、製造例、実施例及び比較例を参照してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。下記の記載において、「部」及び「%」は、特に断らない限り質量比を表す。
【0092】
下記の実施例及び比較例において、試験法は下記によった。
(1)可視光透過率と近赤外線吸収能
厚さ1mmの平板を用い分光光度計(日本分光社製:「紫外可視近赤外分光光度計 V−570」)を用いて波長400〜1200nmの分光スペクトルを測定した。下記の実施例及び比較例における本試験の測定結果は、下記表1中の「常温環境下」の欄に示した。波長400〜700nmでの光線透過率の最大値が80%以上であれば可視光領域で透明性に優れ、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下であれば優れた近赤外線吸収能を持つと評価される。
(2)250℃耐久性
厚さ1mmの平板を用い、試料を250℃の高温環境に30分間静置した後、取り出して再度常温環境で波長400〜1200nmの分光スペクトルを測定した。高温環境に曝した後の波長400〜700nmでの可視光透過率の最大値を求め、(1)で求めた可視光透過率の最大値と比較し変化率を求めた。また高温環境に曝した後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値を求めた。下記の実施例及び比較例における本試験の測定結果は、下記表1中の「250℃加熱試験後」の欄に示した。可視光領域での透過率最大値の変化率が5%以内でかつ700〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下であるものは、優れた耐久性を持つと評価される。
なお、250℃で30分間静置する加熱試験前後における波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の変化率は、以下の式より求められた。
変化率(%)=|T0−T1|/T0×100
上記式においてT0は常温環境下での波長400〜700nmでの光線透過率の最大値を表し、T1は250℃で30分間放置した後の波長400〜700nmでの光線透過率の最大値を表す。
(3)高温高湿耐久性
厚さ1mmの平板を用い、試料を恒温槽に形成した高温高湿環境(80℃、相対湿度90%)に移して1000時間置いた後、取り出して再度常温常湿環境で波長400〜1200nmの分光スペクトルを測定した。高温高湿環境に曝した後の波長400〜700nmでの可視光透過率の最大値を求め、(1)で求めた可視光透過率の最大値と比較し変化率を求めた。また高温高湿環境に曝した後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値を求めた。下記の実施例及び比較例における本試験の測定結果は、下記表1中の「高温高湿環境後」の欄に示した。可視光領域での透過率最大値の変化率が5%以内でかつ700〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下であるものは、優れた耐久性を持つと評価される。
高温高湿試験前後における波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の変化率は、以下の式より求められる。
変化率(%)=|T0−T2|/T0×100
上記式においてT0は常温環境下での波長400〜700nmでの光線透過率の最大値を表し、T2は高温高湿試験後の波長400〜700nmでの光線透過率の最大値を表す。
【0093】
(製造例1:熱可塑性樹脂(a)の製造)
脱水したシクロヘキサン500部、1−ヘキセン(分子量調節剤)0.82部、ジブチルエーテル(開環重合触媒系成分)0.15部およびトリイソブチルアルミニウム(開環重合触媒系成分)0.3部を窒素雰囲気下において反応器に入れ、室温で混合した後45℃に保持しながら、9−メチル−テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(以下、「MTCD」と略記する。)100部および六塩化タングステンの0.7質量%トルエン溶液(開環重合触媒系成分)40部を、2時間に亘り連続的に添加して重合した。得られた重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部およびイソプロピルアルコール0.52部を加えて重合触媒を不活性化して重合反応を停止させ、MTCD開環重合体を含む重合反応溶液を得た。
【0094】
次いで、得られた重合反応溶液100部にシクロヘキサン270部を加え、さらにニッケル−アルミナ触媒(日揮化学社製:水素化触媒)5部を加え、水素で5MPaに加圧し、撹拌しながら200℃まで加温して4時間反応させて、MTCD開環重合体水素化物を20%含有する反応溶液を得た。得られた反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した後、ろ液に、重合体100部に対して0.1部の割合で酸化防止剤(イルガノックス1010、チバスペシャリティ・ケミカルズ社製)を添加して溶解させた。続いて、円筒型濃縮乾燥機(日立製作所社製)を用い、270℃、1kPa以下で、シクロヘキサンおよびその他の揮発成分を除去し、次いで、押出機により直径3mmのストランド状に押出し、冷却後、長さ3mmで切断して、熱可塑性樹脂(a)(MTCD開環重合体水素化物)の酸化防止剤含有ペレット(以下、「熱可塑性樹脂(a)ペレット」と記すことがある。)を製造した。
【0095】
熱可塑性樹脂(a)(MTCD開環重合体水素化物)の質量平均分子量(Mw)は40,000、水素化率は99.9%、ガラス転移温度(Tg)は148℃であった。
【0096】
(製造例2−1:リン酸基含有化合物の製造)
シクロヘキサンメタノール96.5部をジメトキシエタン200部に溶解し、10℃以下に冷却しながら、これに五酸化二リン40部を少量づつ加え、全量を攪拌添加した後、3時間攪拌を継続した。次いで、60℃で3時間攪拌混合した。
【0097】
TLC(薄層クロマトグラフィー)にて反応終了を確認後、ジメトキシエタン及び未反応のシクロヘキサンメタノールを減圧下で留去し、無色透明の粘調なオイル状のリン酸基含有化合物124部を得た。得られたリン酸基含有化合物について赤外線スペクトルを測定したところ、P-Oに由来する1014cm-1、1010cm-1にピークが見られた。また、分子量をGPCで測定したところ、得られたリン酸基含有化合物の質量平均分子量(Mw)は239であった。
【0098】
(製造例3−1:リン酸銅錯体の製造)
製造例2−1で得られたリン酸基含有化合物(シクロヘキシル基を有する)10部をトルエン30部に溶解した後に、酢酸銅一水和物を3.4部添加し攪拌し、混合物(3-1)を得た。この混合物を室温で2時間、110℃に加熱して4時間還流を行った。反応の終点の決定は、反応溶液の分光透過スペクトルを観察し、この分光透過スペクトルの変動が実質的に無くなった時を反応の終点と判断した。減圧下で反応溶液から酢酸及びトルエンを除去し、リン酸銅錯体を得た。ガスクロマトグラフィーにより分析したところリン酸基含有化合物のモノ基含有とジ基含有がほぼ同等であったことから、得られたリン酸銅錯体には、銅原子1モルに対しリン酸基が2.1モル含まれていた。得られたリン酸銅錯体をXバンドESR(Electron Spin Resonance)により分析した結果、銅イオンの二核体はほとんど存在せず、銅イオンが孤立状態で存在していることが観察され、リン酸銅錯体の構造が6配位8面体構造であることがわかった。銅原子に対するリン酸基量より、6配位中シクロヘキシル基が2配位していることが分かる。したがって、このリン酸銅錯体は、銅原子1個に対しシクロヘキシル環を2個含有していた。得られたリン酸銅錯体の赤外線スペクトルを測定したところ、1725cm-1付近のC=Oに起因するピークも1000cm-1付近のC−O−Cに起因するピークも見られないことから、C=OおよびC−O−C結合単位は存在しないことがわかる。
【0099】
(製造例3−2:リン酸銅錯体の製造)
ブトキシエチルリン酸(JP−506H、城北化学社製)10部をトルエン30部で溶解した後に、酢酸銅一水和物を3.4部添加し攪拌し、混合物(3-2)を得た。これを混合物(3-1)の代わりに用いた以外は製造例3−1と同様に操作し、リン酸銅錯体を得た。得られたリン酸銅錯体をXバンドESR(Electron Spin Resonance)により分析した結果、銅イオンの二核体はほとんど存在せず、銅イオンが孤立状態で存在していることが観察され、リン酸銅錯体の構造が6配位8面体構造であることがわかった。ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、得られたリン酸銅錯体は、モノ基成分が51.2%、ジ基成分が47.6%、及びリン酸成分が1.2%含まれる混合物であることが確認された。リン酸基含有化合物と銅化合物のモル比は2.1モルであり、モノ基成分とジ基成分とがほぼ同量であることから、銅原子1個に付きC−O−C結合単位は平均して1.5個であるといえる。6配位中リン酸基の2座配位が2個で4配位、アキシアル位に水が2モル配位している構造をとる。
【0100】
(製造例3−3:リン酸銅錯体の製造)
(2-ヒドロキシメチル)メタクリレートリン酸(JPA−514、城北化学社製)1部と製造例2−1で得られたリン酸基含有化合物(シクロヘキシル基を有する)9部とをトルエン30部で溶解した後に、安息香酸銅を4.9部添加し攪拌し、混合物(3-3)を得た。これを混合物(3-1)の代わりに用いた以外は製造例3−1と同様に操作し、リン酸銅錯体を得た。得られたリン酸銅錯体をXバンドESR(Electron Spin Resonance)により分析した結果、銅イオンの二核体はほとんど存在せず、銅イオンが孤立状態で存在していることが観察され、リン酸銅錯体の構造が6配位8面体構造であることがわかった。ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、モノ基成分とジ基成分の比率はほぼ同等であったので、銅原子1モルに対しリン酸基が6モルと算出され、そのうちC=O結合単位とC−O−C結合単位を合わせて平均3個持つメタクリロイル基が1配位、残りの5配位をシクロヘキシル基を含有するリン酸化合物であることから、銅原子1個に付きC=O結合単位とC−O−C結合単位は、あわせて平均3個と算出された。
【0101】
(製造例3−4:リン酸銅錯体の製造)
(2-ヒドロキシメチル)メタクリレートリン酸(JPA−514、城北化学社製)5部とブトキシエチルリン酸(JP−506H、城北化学社製)5部とをトルエン30部で溶解した後に、酢酸銅一水和物を3.4部添加し攪拌し、混合物(3-4)を得た。これを混合物(3-1)の代わりに用いた以外は製造例3−1と同様に操作し、リン酸銅錯体を得た。得られたリン酸銅錯体をXバンドESR(Electron Spin Resonance)により分析の結果、銅イオンの二核体はほとんど存在せず、銅イオンが孤立状態で存在していることが観察され、リン酸銅錯体の構造が6配位8面体構造であることがわかった。ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、モノ基成分とジ基成分の比率はほぼ同等であった。リン酸基含有化合物と銅化合物のモル比は、2.1モルであり、モノ基成分とジ基成分がほぼ同量であることから、銅原子1個に付きC=O結合単位とC−O−C結合単位は、合わせて平均して4.5個であるといえる。6配位中リン酸基の2座配位が2個で4配位、アキシアル位に水が2モル配位している構造をとる。
【0102】
(製造例3−5:リン酸銅錯体の製造)
(2-ヒドロキシメチル)メタクリレートリン酸(JPA−514、城北化学社製)10部をトルエン30部で溶解した後に、酢酸銅一水和物を3.4部添加し攪拌し、混合物(3-5)を得た。これを混合物(3-1)の代わりに用いた以外は製造例3−1と同様に操作し、リン酸銅錯体を得た。得られたリン酸銅錯体をXバンドESR(Electron Spin Resonance)により分析の結果、銅イオンの二核体はほとんど存在せず、銅イオンが孤立状態で存在していることが観察され、リン酸銅錯体の構造が6配位8面体構造であることがわかった。ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、モノ基成分とジ基成分の比率はほぼ同等であったので、銅原子1モルに対しリン酸基が2.0モルと算出できる。銅原子1個に付きC=O結合単位とC−O−C結合単位は、あわせて平均6個と算出される。
【0103】
(実施例1)
製造例1で製造した熱可塑性樹脂(a)ペレット100部と、上記製造例3−1で得られたリン酸銅錯体5部とを混合した後、直径35mmの二軸押出混練機(TEM−35B、東芝機械社製)を用い、樹脂温度200℃で混練し、ペレタイザーでペレット化してペレット化した樹脂組成物を得た。
【0104】
得られた樹脂組成物のペレットを樹脂温度200℃で熱プレスし、1mm×100mm×60mmの板に成形し、成形体を得た。この成形体の可視光透過率、近赤外線吸収能、250℃耐久性及び高温高湿耐久性を、前述の試験法にて試験した。結果を表1に示す。C=O結合単位とC−O−C結合単位が0個であり、250℃耐久性試験前後の400〜700nmでの透過率の変化率は2.6%、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が4.9%であった。
【0105】
(実施例2)
製造例3−1で得られたリン酸銅錯体の代わりに製造例3−2で得られた錯体を用いた以外は、実施例1と同様に操作することにより樹脂組成物のペレットを得、次いで成形体を得た。この成形体の可視光透過率、近赤外線吸収能、250℃耐久性及び高温高湿耐久性を、前述の試験法にて試験した。結果を表1に示す。C=O結合単位とC−O−C結合単位が平均1.5個であり、250℃耐久性試験前後の400〜700nmでの透過率の変化率は3.9%、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が6.4%であった。
【0106】
(実施例3)
製造例3−1で得られたリン酸銅錯体の代わりに製造例3−3で得られた錯体を用いた以外は、実施例1と同様に操作することにより樹脂組成物のペレットを得、次いで成形体を得た。この成形体の可視光透過率、近赤外線吸収能、250℃耐久性及び高温高湿耐久性を試験した。結果を表1に示す。C=O結合単位とC−O−C結合単位が3個であり、250℃耐久性試験前後の400〜700nmでの透過率の変化率は4.4%、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が8.6%であった。
【0107】
(実施例4)
熱可塑性樹脂(a)ペレットの代わりにメタクリル酸メチル樹脂(アクリペットVH、三菱レーヨン株式会社製、屈折率1.49)を用いた以外は、実施例1と同様に操作することにより樹脂組成物のペレットを得、次いで成形体を得た。この成形体の可視光透過率、近赤外線吸収能、250℃耐久性及び高温高湿耐久性を試験した。結果を表1に示す。C=O結合単位とC−O−C結合単位が0個であり、250℃耐久性試験前後の400〜700nmでの透過率の変化率は2.8%、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が5.8%であった。
【0108】
(実施例5)
熱可塑性樹脂(a)ペレットの代わりにポリカーボネート樹脂(パンライトL−1225、帝人化成株式会社製、屈折率1.59)を用い、且つ製造例3−1で得られたリン酸銅錯体の代わりに製造例3−2で得られた錯体を用いた以外は、実施例1と同様に操作することにより樹脂組成物のペレットを得、次いで成形体を得た。この成形体の可視光透過率、近赤外線吸収能、250℃耐久性及び高温高湿耐久性を試験した。結果を表1に示す。C=O結合単位とC−O−C結合単位が1.5個であり、250℃耐久性試験前後の400〜700nmでの透過率の変化率は3.8%、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が7.9%であった。
【0109】
(比較例1)
製造例3−1で得られたリン酸銅錯体の代わりに、製造例3−4で得られた錯体を用いた以外は、実施例1と同様に操作することにより樹脂組成物のペレットを得、次いで成形体を得た。この成形体の可視光透過率、近赤外線吸収能、250℃耐久性及び高温高湿耐久性を試験した。結果を表1に示す。C=O結合単位とC−O−C結合単位が4.5個であり、250℃耐久性試験前後の400〜700nmでの透過率の変化率は11.5%、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が38.8%であった。
【0110】
(比較例2)
熱可塑性樹脂(a)ペレットの代わりにメタクリル酸メチル樹脂(アクリペットVH、三菱レーヨン株式会社製、屈折率1.49)を用い、製造例3−1で得られたリン酸銅錯体の代わりに製造例3−5で得られた錯体を用いた以外は、実施例1と同様に操作することにより樹脂組成物のペレットを得、次いで成形体を得た。この成形体の可視光透過率、近赤外線吸収能、250℃耐久性及び高温高湿耐久性を試験した。結果を表1に示す。C=O結合単位とC−O−C結合単位が6個であり、250℃耐久性試験前後の400〜700nmでの透過率の変化率は39.8%、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が51.3%であった。
【0111】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と色素とを含有し、光路長1mm、波長400nm〜700nmでの光線透過率の最大値が80%以上であり、且つ光路長1mm、波長700nm〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下である熱可塑性樹脂組成物であって、250℃で30分間静置する加熱試験において、波長400〜700nmでの光線透過率の最大値の前記加熱試験前後の変化率が5%以内で、且つ加熱試験後の波長700〜1000nmでの光線透過率の最大値が10%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記色素が、リン酸基含有化合物と銅原子とを含む銅錯体である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン酸基含有化合物が、式(1)で表されることを特徴とする請求項2記載の樹脂組成物:
式(1): PO(OH)n{(-O-)p-R13-n
(ただし式中R1は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は脂環基を示す。これらは置環基を有しても良い。前記置換基は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、及び脂環基のいずれかである。pは0または1、nは1または2である。(-O-)p-R1基が複数存在する場合、これらは同一又は異なる基である。)。
【請求項4】
前記銅錯体において、銅原子1個に対するC=O結合単位及びC−O−C結合単位の合計が、3単位以下であることを特徴とする請求項2又は3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項6】
光学部品である請求項5記載の成形体。
【請求項7】
光学レンズである請求項6記載の成形体。
【請求項8】
請求項7に記載の光学レンズを含む撮像装置用光学レンズユニット。

【公開番号】特開2006−241410(P2006−241410A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62581(P2005−62581)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】