説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 金属腐食性が少なく、かつ熱伝導性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂(A成分)99〜20重量部、見掛け密度が0.15g/cm以下でありかつ、黒鉛粉末5gを水100gに分散した時の水層のpHが4〜10である黒鉛(B成分)1〜80重量部からなる樹脂組成物であって、好適には黒鉛(B成分)がさらに粒子厚み5μm以下、粒子径0.1〜500μmである熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、金属腐食性が少なくかつ熱伝導性にも優れる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、その製造、成形の容易さのため、あらゆる産業において広く用いられている。特に、エンジニアリングプラスチックスおよびスーパーエンジニアリングプラスチックス系の樹脂組成物は、一般に優れた耐熱性や耐衝撃性を有し、電子機器、機械、自動車などに幅広く使用されている。特に、近年の電子機器においては、高性能化、小型化、軽量化に伴う半導体パッケージの高密度化、LSIの高速化及び高集積化等により、電子機器内部で発生する熱を効率的に外部へ放散させる放熱対策が非常に重要な課題となっている。
【0003】
通常、電子機器内部の熱を拡散させるには、熱伝導性の良い金属やセラミックス系の材料を使用する方法、金属製のヒートシンクや放熱ファンを利用して熱源から熱を放散させる方法、さらに、発熱源と放熱器の接触熱抵抗を下げる目的で熱伝導性の大きなグリースや柔軟性のある熱伝導性高分子組成物からなるシート材料を介在させ放熱を促進する方法が用いられている。
【0004】
これらの熱伝導性を要求される高分子組成物には、従来、樹脂やゴムなどの高分子材料中に熱伝導率の大きい酸化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などの充填剤を充填したものが用いられている。しかし、これらの組成物は必ずしも充分に大きな熱伝導性は得られていなかった。
【0005】
一方、熱伝導性を更に向上させる方法として、熱伝導性の高い、炭素系材料を高分子材料に充填させた熱伝導性高分子材料が提案されている。
例えば、高分子材料に黒鉛化炭素繊維を添加する方法(特許文献1〜3参照)、熱可塑性樹脂にピッチ系炭素繊維と鱗状黒鉛を添加する方法(特許文献4参照)が公知であるが、熱伝導性フィラーは大量に充填しないと充分な熱伝導性が得ることが出来ず、更にこれらの黒鉛化炭素繊維系材料あるいはピッチ系炭素繊維を工業的に安価で大量に得ることが不可能であり実用的ではない。また、熱可塑性樹脂に黒鉛を添加する方法(特許文献5参照)が開示されている。しかしながら、近年の電子機器等の発熱量は増加傾向にあるため更なる高熱伝導化が求められており改良の余地がある。
【0006】
更に、樹脂に膨張黒鉛を配合する方法(特許文献6〜8参照)が開示されているが、この膨張黒鉛を熱可塑性樹脂に用いると優れた熱伝導性が得られるが、組成物の加工時、成形加工時の金属腐食性に劣り、押出機や成形機、更に使用する金型を腐食させるため実用上問題となる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−88250号公報
【特許文献2】特開2002−339171号公報
【特許文献3】特開2003−112915号公報
【特許文献4】特開2003−49081号公報
【特許文献5】特開2002−346308号公報
【特許文献6】特開平08−188407号公報
【特許文献7】特開2001−31880号公報
【特許文献8】特開平03−181532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属腐食性が少なくかつ熱伝導性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、見掛け密度が0.15g/cm以下でありかつ、黒鉛粉末5gを水100gに分散した時の水層のpHが4〜10である黒鉛を熱可塑性樹脂組成物に配合することにより、金属腐食性が少なくかつ、熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、結果本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、熱可塑性樹脂(A成分)99〜20重量部、黒鉛粉末5gを水100gに分散した時の水層のpHが4〜10である黒鉛(B成分)1〜80重量部からなる、金属腐食性が少なくかつ、熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【0010】
本発明で使用するA成分の熱可塑性樹脂は、基本的に限定されるものではなく、特に電子機器の筺体や内部機構部品に用いられる熱可塑性樹脂が好ましく使用される。かかる熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン樹脂、スチレン系樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマー等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。特に好ましいものとしては、例えばAS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびこれらの二種以上の混合物が挙げられる。
【0011】
本発明のより好適な熱可塑性樹脂(A成分)は、ポリカーボネート樹脂を50重量%以上含有する熱可塑性樹脂が好ましく、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上含有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0012】
かかるポリカーボネート樹脂は、通常使用されるビスフェノールA型ポリカーボネート以外にも、他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂であってもよい。ポリカーボネート樹脂はいかなる製造方法によって製造されたものでもよく、界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。ポリカーボネート樹脂はまた3官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、または二価の脂肪族または脂環族アルコールを共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは13,000〜40,000、より好ましくは15,000〜38,000である。芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。かかるポリカーボネート樹脂の詳細については、特開2002−129003号公報に記載されている。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0013】
他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂の具体例としては、下記のものが好適に例示される。
(1)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称)成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつ9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称)成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、ビスフェノールA成分が10〜95モル%(より好適には50〜90モル%、さらに好適には60〜85モル%)であり、かつBCF成分が5〜90モル%(より好適には10〜50モル%、さらに好適には15〜40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつ1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン成分が20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0014】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
【0015】
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。
【0016】
本発明でB成分として使用される黒鉛は黒鉛粉末5gを水100gに分散した時の水層のpHが4〜10、好ましくは5〜9、より好ましくは6〜8である黒鉛である。pHが4より低いと、製品加工に使用する押出機や成形機、金型などの金属部腐食が発生しやすく好ましくない。また、pHが10を超えると、熱可塑性樹脂とりわけポリカーボネート系樹脂の熱安定性が損なわれるため好ましくない。なお、このpH値は以下の方法で測定した値である。すなわち、内容量200mLの蓋付サンプル瓶に黒鉛5gを入れ、更に、例えば日本MILLIPORE(株)社製 超純水製造装置にて製造した超純水100gを入れ、振盪機にて10分間振盪したものをガラスフィルターでろ過分別した水層のpHをpHメーターで測定した。
【0017】
さらにこの黒鉛は見掛け密度が0.15g/cm以下であり、好ましくは0.13g/cm以下、より好ましくは0.10g/cm以下、さらに好ましくは0.07g/cm以下とした黒鉛であることが望ましい。見掛け密度が0.15g/cmより大きいと、熱伝導性に劣る。また、この黒鉛は天然リン状黒鉛、熱分解黒鉛、及びキッシュ黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の黒鉛を粉砕して作製することが好ましい。
【0018】
このような低見掛け比重の黒鉛の製造方法は一般的な粉砕方法である乾式粉砕機例えば、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミル等にて粉砕する乾式粉砕法がある。他に黒鉛の粉砕法としては、黒鉛を乾式粉砕機にて粗粉砕した後、水などの粉砕助剤を加えてスラリー状態とし、該状態にて湿式粉砕機で本粉砕し、その後脱水し乾燥を行う湿式粉砕法がある。
【0019】
本発明の黒鉛はいずれの粉砕法において製造されたものも使用できるが、例えば特開平6−254422に記載の方法により粉砕した高配向性の薄片状黒鉛がより好ましく、その薄片状黒鉛の粒子厚みは5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下であり、粒子径は8〜1000μm、好ましくは10〜500μm、より好ましくは12〜300μm、さらに好ましくは15〜100μmである。粒子径が8μm以下では樹脂組成物製造時の押出安定性が悪く生産性が低下し好ましくない。粒子径が1000μmを超えると成形品表面の外観が悪くなり好ましくない。
【0020】
尚、一般的に低見掛け比重となる膨張黒鉛は、黒鉛を硫酸などの酸で酸処理および熱処理した後、粉砕することにより作製するため、酸成分が残留し、pHが4以下となるため好ましくない。
【0021】
なお、この粒子厚みおよび粒子径は以下の方法により測定されたものである。すなわち、黒鉛の粒子厚みと粒子径は走査型電子顕微鏡により観察し、無差別に抽出した合計1,000個の数平均にて算出される数平均粒子厚みおよび数平均粒子径である。
【0022】
本発明で使用される黒鉛原料は、鉱物として天然に産出される天然リン状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛または石油コークス、石油ピッチ、無定形炭素等を熱処理して得られる人造黒鉛、黒鉛の基材を2000℃以上の高温に加熱することにより、炭化水素の分解重合などで基材表面に炭素が沈積することによって得られる熱分解黒鉛や、融体の鉄を除冷して析出させることで得られるキッシュ黒鉛などであり、好ましくは結晶化度のより高い天然リン状黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛が好適に用いることができる。
【0023】
また本発明の黒鉛の表面は、本発明の組成物の特性を損なわない限りにおいて芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性を増すために、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、酸化処理等が施されていてもよい。
【0024】
ここで、A成分の配合量は(A)および(B)成分の合計100重量部あたり99〜20重量部であり、90〜30重量部が好ましく、80〜40重量部がより好ましく、80〜50重量部が更に好ましい。
B成分の配合量は(A)および(B)成分の合計100重量部あたり1〜80重量部であり、10〜70重量部が好ましく、20〜60重量部がより好ましく、20〜50重量部が最も好ましい。1重量部未満では、熱伝導性に劣る。80重量部を超えると射出成形性が著しく損なわれるため好ましくない。
【0025】
本発明の樹脂組成物には、低異方性かつ剛性を得るために、本発明の効果を発揮する範囲において、(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、無機充填剤(C成分)を1〜200重量部配合することが出来る。この無機充填剤としてはマイカ、タルク、ワラストナイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機鉱物充填剤が好ましく用いられる。
【0026】
かかるマイカとしては、その平均粒子径が30〜300μm、好ましくは30〜280μm、より好ましくは35〜260μmのものが望ましい。平均粒子径は走査型電子顕微鏡により観察し、無差別に抽出した合計1,000個の数平均にて算出される数平均粒子径である。数平均粒子径が30μm未満となると衝撃強度が低下し、また芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性も低下する場合がある。また300μmを超えると衝撃強度は向上するが外観が悪化しやすい。外観の悪化は紙が通る部材などにおける滑り性を低下させるため、好ましくない場合がある。
【0027】
かかるマイカの平均粒子径は、外観をより重視する場合には、好ましく30〜100μmの範囲であり、より好ましくは35〜80μmの範囲である。一方、外観が重要視されない場合には、剛性や衝撃強度の点から、好ましくは100〜300μm、より好ましくは100〜260μmの範囲のマイカが使用される。
【0028】
マイカの厚みとしては、電子顕微鏡観察により実測した厚みが0.01〜10μm、好ましくは0.1〜5μmのものを使用できる。アスペクト比としては5〜200、好ましくは10〜100のものを使用できる。また使用するマイカはマスコバイトマイカが好ましく、マスコバイトマイカはフロゴバイトなど他のマイカに比較してより高剛性および高強度を達成できる。
【0029】
また、マイカの粉砕法としては、マイカ原石を乾式粉砕機にて粉砕する乾式粉砕法と、マイカ原石を乾式粉砕機にて粗粉砕した後、水などの粉砕助剤を加えてスラリー状態にて湿式粉砕機で本粉砕し、その後脱水、乾燥を行う湿式粉砕法がある。本発明のマイカはいずれの粉砕法において製造されたものも使用できるが、乾式粉砕法の方が低コストで一般的である。一方湿式粉砕法は、マイカをより薄く細かく粉砕するのに有効であるがコストがかかる。マイカは、シランカップリング剤、高級脂肪酸エステル、およびワックスなどの各種表面処理剤で表面処理されていてもよく、さらに各種樹脂、高級脂肪酸エステル、およびワックスなどの集束剤で造粒し顆粒状とされていてもよい。
【0030】
かかるタルクとは、層状構造を持った鱗片状の粒子であり、化学組成的には含水珪酸マグネシウムであり、一般的には化学式4SiO・3MgO・2HOで表され、通常SiOを56〜65重量%、MgOを28〜35重量%、HO約5重量%程度から構成されている。その他の少量成分としてFeが0.03〜1.2重量%、Alが0.05〜1.5重量%、CaOが0.05〜1.2重量%、KOが0.2重量%以下、NaOが0.2重量%以下などを含有しており、比重は約2.7である。
【0031】
かかるタルクの平均粒子径は0.5〜30μmが好ましい。該平均粒子径はJIS M8016に従って測定したアンドレアゼンピペット法により測定した粒度分布から求めた積重率50%時の粒子径である。タルクの粒子径は2〜30μmが好ましく、5〜20μmがより好ましく、10〜20μmが更に好ましい。0.5〜30μmの範囲では難燃処方を施す場合に、より良好な難燃性が達成される。
【0032】
またタルクを原石から粉砕する際の製法に関しては特に制限はなく、軸流型ミル法、アニュラー型ミル法、ロールミル法、ボールミル法、ジェットミル法、及び容器回転式圧縮剪断型ミル法等を利用することができる。更に粉砕後のタルクは、各種の分級機によって分級処理され、粒子径の分布が揃ったものが好適である。分級機としては特に制限はなく、インパクタ型慣性力分級機(バリアブルインパクターなど)、コアンダ効果利用型慣性力分級機(エルボージェットなど)、遠心場分級機(多段サイクロン、ミクロプレックス、ディスパージョンセパレーター、アキュカット、ターボクラシファイア、ターボプレックス、ミクロンセパレーター、およびスーパーセパレーターなど)などを挙げることができる。
【0033】
更にタルクは、その取り扱い性等の点で凝集状態であるものが好ましく、かかる製法としては脱気圧縮による方法、集束剤を使用し圧縮する方法等がある。特に脱気圧縮による方法が簡便かつ不要の集束剤樹脂成分を本発明の樹脂組成物中に混入させない点で好ましい。
【0034】
また、もう一つのC成分であるワラストナイトは、実質的に化学式CaSiOで表され、通常SiOが約50重量%以上、CaOが約47重量%、その他Fe、Al等を含んでいる。ワラストナイトは、ワラストナイト原石を粉砕、分級した白色針状粉末である。使用するワラストナイトの平均繊維径は0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。該平均繊維径は走査型電子顕微鏡により観察し、無差別に抽出した合計1000個の数平均にて算出されるものである。
【0035】
これらC成分の含有量は(A)および(B)成分の合計100重量部あたり1〜200重量部であり、2〜100重量部が好ましく、5〜80重量部がより好ましく、10〜50重量部が最も好ましい。1重量部未満では剛性の補強効果が少ないため好ましくない。200重量部以上では組成物製造時の押出加工性が著しく悪化するために好ましくない。
【0036】
本発明の樹脂組成物には、剛性を得るために、本発明の効果を発揮する範囲において、(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、繊維状充填剤(D成分)を1〜200重量部配合することが出来る。この繊維状充填剤としては、ガラスファイバー、ガラスミルドファイバー、カーボンファイバーおよび金属コートカーボンファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維状充填剤が好ましい。
これら繊維状充填剤はエポキシ系やウレタン系の収束剤でサイジング処理されたものがより好適に用いられるが、収束処理されていなくても使用可能である。
【0037】
これらD成分の含有量は(A)および(B)成分の合計100重量部あたり1〜200重量部であり、2〜100重量部が好ましく、5〜80重量部がより好ましく、10〜50重量部が最も好ましい。1重量部未満では剛性の補強効果が少ないため好ましくない。200重量部以上では組成物製造時の押出加工性が著しく悪化するために好ましくない。
【0038】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲において、(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、非繊維状ガラス充填剤(E成分)として、ガラスフレークならびにガラスバルーンおよびガラスビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種の非繊維状ガラス充填剤を1〜200重量部配合することが出来る。
【0039】
これらE成分の含有量は(A)および(B)成分の合計100重量部あたり1〜200重量部であり、2〜100重量部が好ましく、5〜80重量部がより好ましく、10〜50重量部が最も好ましい。1重量部未満では剛性の補強効果が少ないため好ましくない。200重量部以上では組成物製造時の押出加工性が著しく悪化するために好ましくない。
【0040】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲において、(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、滑剤(F成分)を0.01〜5重量部配合することが出来る。
かかる滑剤とは、プラスチックの成形加工において装置や金型との摩擦の低減や良好な離型を得るために広く知られた化合物であり、具体的には、オレフィン系ワックス、高級脂肪酸(例えば炭素数16〜60の脂肪族カルボン酸)のエステル化物、重合度10〜200程度のポリアルキレングリコール、シリコーンオイル、およびフルオロカーボンオイルなどが例示される。オレフィン系ワックスとしては、パラフィンワックス類としてパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、およびα−オレフィン重合体などが例示され、ポリエチレンワックスとしては、分子量1,000〜15,000程度のポリエチレンやポリプロピレンなどが例示される。尚、かかる分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)における標準ポリスチレンより得られた較正曲線を基準にして算出された重量平均分子量である。
【0041】
この滑剤としては酸性基含有滑剤、更に詳しくはカルボキシル基および/またはその酸無水物基を有するオレフィン系ワックス、およびエステル基含有ワックスが組成物の剛性の観点より、より好適に用いられる。尚、酸性基含有滑剤におけるその酸性基の濃度は、0.05〜10meq/g、より好ましくは0.1〜6meq/g、さらに好ましくは0.5〜4meq/gである。
【0042】
F成分の含有量は(A)および(B)成分の合計100重量部あたり0.01〜5重量部であり、0.03〜3重量部が好ましく、0.05〜2重量部がより好ましい。0.01重量部未満では離型性に劣るため好ましくない。2重量部以上では組成物の耐熱性が悪化するために好ましくない。
【0043】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲において、(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、リン系安定剤(G成分)を0.01〜3重量部配合することが出来る。
かかるリン系安定剤は、更に良好な剛性かつ熱安定性を有する熱伝導性熱可塑性樹種組成物を得るため含有することが好ましい。リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステルなどが例示される。
【0044】
具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0045】
更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0046】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0047】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0048】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0049】
上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でも、ホスファイト化合物またはホスホナイト化合物が好ましい。殊にトリメチルホスファイトに代表されるホスファイト化合物が配合されることが好ましい。
このリン系安定剤の配合量は、(A)および(B)成分の合計100重量部に対し、0.01〜3重量部、好ましくは0.02〜1重量部、より好ましくは0.02〜0.5重量部である。リン系安定剤が上記範囲よりも少なすぎる場合には良好な安定化効果を得ることが難しく、上記範囲を超えて多すぎる場合は、組成物の物性低下を起こす場合がある。
【0050】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲において、(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、難燃剤(H成分)を1〜50重量部配合することが出来る。
かかる難燃剤(H成分)としては、有機ハロゲン系難燃剤やリン酸エステル系難燃剤が好ましい。
【0051】
かかる有機ハロゲン系難燃剤としては、ハロゲン化カーボネートオリゴマー、ハロゲン化エポキシ化合物、ハロゲン化ポリスチレン、ハロゲン化トリアジン化合物、ハロゲン化ジフェニルアルカン系化合物、ハロゲン化インダン系化合物、およびハロゲン化芳香族フタルイミド系化合物などが挙げられ、中でもポリカーボネートとの相溶性に優れ、その耐熱性および熱安定性が良好であることからハロゲン化カーボネートオリゴマー、ハロゲン化エポキシ化合物が好ましい。
【0052】
一方、リン系難燃剤としては、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、およびホスファゼンオリゴマーなどが好適に例示される。更にリン酸エステルとしては、下記式(I)で示される化合物が好適である。
【化1】

[式中、Xは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、およびビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイドからなる群より選ばれる化合物から誘導される二価の基である。nは0〜5の整数であり、n数の異なるリン酸エステルの混合物の場合は0〜5の平均値である。R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子で置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、およびp−クミルフェノールからなる群より選ばれる化合物より誘導される一価の基である。]
【0053】
更に好ましいものとしては、上記式中のXが、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA、およびジヒドロキシジフェニルからなる群より選ばれる化合物から誘導される二価の基であり、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子で置換したもしくはより好適には置換していないフェノール、クレゾール、およびキシレノールからなる群より選ばれる化合物から誘導される一価の基であり、nが1〜3の整数である成分を主成分として含む化合物が挙げられる。
【0054】
この難燃剤(E成分)の配合量は(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、1〜50重量部であり、好ましくは2〜40重量部であり、3〜30重量部がより好ましく、3〜20重量部が最も好ましい。
難燃剤が上記範囲よりも少なすぎる場合には良好な難燃性が得ることが難しく、上記範囲を超えて多すぎる場合には、組成物の耐熱性および物性低下を起こす場合がある。
【0055】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲において、(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、含フッ素滴下防止剤(I成分)を0.01〜3重量部配合することが出来る。
かかる含フッ素滴下防止剤(I成分)としては、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーを挙げることができ、かかるポリマーとしてはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、など)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。中でも好ましくはポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称することがある)である。
【0056】
フィブリル形成能を有するPTFEの分子量は極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万〜1000万、より好ましく200万〜900万である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル形成能を有するPTFEは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。
【0057】
かかるフィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン工業(株)のポリフロンMPA FA500およびF−201Lなどを挙げることができる。PTFEの水性分散液の市販品としては、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業(株)製のフルオンD−1およびD−2、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)30Jなどを代表として挙げることができる。
【0058】
混合形態のPTFEとしては、(1)PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報などに記載された方法)、(2)PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4−272957号公報に記載された方法)、(3)PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報などに記載された方法)、(4)PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9−95583号公報に記載された方法)、および(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、さらに該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11−29679号などに記載された方法)により得られたものが使用できる。これらの混合形態のPTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレン A3000」(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEX B449」(商品名)などを挙げることができる。
【0059】
混合形態におけるPTFEの割合としては、PTFE混合物100重量%中、PTFEが1〜60重量%が好ましく、より好ましくは5〜55重量%である。PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、PTFEの良好な分散性を達成することができる。なお、上記F成分の割合は正味の含フッ素滴下防止剤の量を示し、混合形態のPTFEの場合には、正味のPTFE量を示す。
【0060】
この含フッ素滴下防止剤(F成分)の配合量は(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、0.01〜3重量部であり、好ましくは0.05〜2重量部であり、0.1〜1重量部がより好ましく、0.1〜0.7重量部が最も好ましい。
含フッ素滴下防止剤が上記範囲よりも少なすぎる場合には充分な滴下防止性能を得ることが難しく、上記範囲を超えて多すぎる場合には、組成物の外観不良を起こす場合がある。
【0061】
(その他の添加剤)
(ヒンダードフェノール系安定剤)
本発明の樹脂組成物は、更にヒンダードフェノール系安定剤を含有することにより、例えば成形加工時の色相悪化や長期間の使用における色相の悪化などの効果が更に発揮される。ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0062】
ヒンダードフェノール系安定剤の配合量は、(A)および(B)成分の合計100重量部に対し、0.0001〜1重量部、好ましくは0.001〜0.5重量部、より好ましくは0.005〜0.3重量部である。ヒンダードフェノール系安定剤が上記範囲よりも少なすぎる場合には良好な安定化効果を得ることが難しく、上記範囲を超えて多すぎる場合は、組成物の物性低下を起こす場合がある。
【0063】
(紫外線吸収剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、塗装などを施すことなく使用される場合がある。かかる場合には良好な耐光性を要求される場合があり、紫外線吸収剤の配合が効果的である。
【0064】
紫外線吸収剤としては、具体的にはベンゾフェノン系では、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンソフェノン、および2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノンなどが例示される。
【0065】
紫外線吸収剤としては、具体的に、ベンゾトリアゾール系では、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ル、並びに2−(2’−ヒドロキシ−5−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体や2−(2’―ヒドロキシ−5−アクリロキシエチルフェニル)―2H―ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体などの2−ヒドロキシフェニル−2H−ベンゾトリアゾール骨格を有する重合体などが例示される。
【0066】
紫外線吸収剤は、具体的に、ヒドロキシフェニルトリアジン系では、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−メチルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−エチルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−プロピルオキシフェノール、および2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ブチルオキシフェノールなどが例示される。さらに2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなど、上記例示化合物のフェニル基が2,4−ジメチルフェニル基となった化合物が例示される。
【0067】
紫外線吸収剤は、具体的に環状イミノエステル系では、例えば2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2,2’−p,p’−ジフェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが例示される。
【0068】
また紫外線吸収剤としては、具体的にシアノアクリレート系では、例えば1,3−ビス−[(2’−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3−ビス−[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼンなどが例示される。
【0069】
さらに上記紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。前記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。
【0070】
紫外線吸収剤の配合量は、(A)および(B)成分の合計100重量部に対して0.01〜2重量部、好ましくは0.03〜2重量部、より好ましくは0.04〜1重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部である。
【0071】
(光安定剤)
本発明の樹脂組成物においては、上記紫外線吸収剤と更に光安定剤を併用することができる。かかる光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}、およびポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系の光安定剤が例示される。上記光安定剤は単独であるいは2種以上の混合物を用いてもよい。光安定剤の配合量は(A)および(B)成分の合計100重量部に対して0.0005〜3重量部が好ましく、0.01〜2重量部がより好ましく、0.02〜1重量部が更に好ましい。
【0072】
(充填材)
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲において、強化フィラーとして(C)〜(E)成分以外の各種充填材を配合することができる。例えば、炭酸カルシウム、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、気相成長法極細炭素繊維(繊維径が0.1μm未満)、カーボンナノチューブ(繊維径が0.1μm未満であり、中空状)、フラーレン、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、金属酸化物粒子、金属酸化物繊維、金属酸化物バルーン、並びに各種ウイスカー(チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、および塩基性硫酸マグネシウムなど)などが例示される。これらの強化フィラーは1種もしくは2種以上を併用して含むものであってもよい。
【0073】
(他の樹脂やエラストマー)
本発明の樹脂組成物には、他の樹脂やエラストマーを本発明の効果を発揮する範囲において、少割合使用することもできる。
かかる他の樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレン、等のポリオレフィン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0074】
また、前記のエラストマー以外のエラストマーとしては、イソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム、コアシェル型のエラストマーであるMBS(メタクリル酸メチル/ステレン/ブタジエン)ゴム、MAS(メタクリル酸メチル/アクリロニトリル/スチレン)ゴム等が挙げられる。
【0075】
その他、本発明の樹脂組成物には、成形品に種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加物を少割合配合することができる。これら添加物は本発明の目的を損なわない限り、通常の配合量である。
【0076】
かかる添加剤としては、摺動剤(例えばPTFE粒子)、着色剤(例えばカーボンブラック、酸化チタンなどの顔料、染料)、光拡散剤(例えばアクリル架橋粒子、シリコン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子)、蛍光染料、無機系蛍光体(例えばアルミン酸塩を母結晶とする蛍光体)、蛍光増白剤、帯電防止剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛)、ラジカル発生剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)、およびフォトクロミック剤などが挙げられる。
【0077】
(熱可塑性樹脂組成物の製造)
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分〜I成分、および任意に他の成分をそれぞれV型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行い、その後ベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。
【0078】
各成分の溶融混練機への供給方法としては、(i)A成分〜I成分および他の成分はそれぞれ独立に溶融混練機に供給する方法、(ii)A成分〜I成分および他の成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法などが例示される。尚、配合する成分に液状のものがある場合、溶融混練機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0079】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
【0080】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0081】
上記の方法で得られた樹脂組成物の熱伝導率は0.6〜20.0W/mKであり、好ましくは0.8〜12.0W/mKであり、1.0〜7.0W/mKがより好ましい。
また、上記の方法で得られた樹脂組成物の表面固有抵抗は1.0×1011〜1.0×10Ωであり、好ましくは5.0×1010〜5.0×10Ωであり、1.0×1010〜1.0×10がより好ましく、1.0×1010〜5.0×10が最も好ましい。
【0082】
(成形品)
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、通常そのペレットを射出成形して得ることができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などを挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0083】
また本発明によれば、本発明の熱可塑性樹脂組成物を押出成形し、各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形とすることもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。
【0084】
また本発明の熱可塑性樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより成形品とすることも可能である。
さらに本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物をプレス成形などにより成形品とすることも可能である。
【0085】
(表面処理)
さらに本発明の成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。表面処理としては、ハードコート、撥水・撥油コート、親水性コート、帯電防止コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理を行うことができる。表面処理方法としては、液剤のコーティングの他、蒸着法、溶射法、およびメッキ法が挙げられる。蒸着法としては物理蒸着法および化学蒸着法のいずれも使用できる。物理蒸着法としては真空蒸着法、スパッタリング、およびイオンプレーティングが例示される。化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、および光CVD法などが例示される。
【発明の効果】
【0086】
見掛け密度が0.15g/cm以下でありかつ、黒鉛粉末5gを水100gに分散した時の水層のpHが4〜10である黒鉛を熱可塑性樹脂組成物に配合することにより、金属腐食性が少なくかつ、熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、結果本発明に到達した。
【0087】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、見掛け密度が0.15g/cm以下でありかつ、黒鉛粉末5gを水100gに分散した時の水層のpHが4〜10である黒鉛を熱可塑性樹脂組成物に配合した金属腐食性が少なくかつ、熱伝導性、更には導電性に優れた熱可塑性樹脂組成物である。
【0088】
本発明はかかる構成により従来公知の組成物にはない上記特性を有する樹脂組成物及びそれよりなる成形品を提供するものである。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用であり、OA機器および電気電子機器のハウジングおよびシャーシ成形品に対応した良好な特性を満足するものであり、特に、LSI、CPU、LEDランプ、レーザープリンタの定着器などの発熱源を有する製品の成形品に有用である。具体的にはデスクトップパソコン、ノートパソコン、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、およびスロットマシーンなど)、ディスプレー装置(CRT、液晶、プラズマ、プロジェクタ、および有機ELなど)、並びにプリンター、コピー機、スキャナーおよびファックス(これらの複合機を含む)などのハウジングおよびシャーシ成形品において好適である。
【0089】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、その他幅広い用途に有用であり、例えば、携帯情報端末(いわゆるPDA)、携帯電話、携帯書籍(辞書類等)、携帯テレビ、記録媒体(CD、MD、DVD、次世代高密度ディスク、ハードディスクなど)のドライブ、記録媒体(ICカード、スマートメディア、メモリースティックなど)の読取装置、光学カメラ、デジタルカメラ、パラボラアンテナ、電動工具、VTR、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、照明機器、冷蔵庫、エアコン、空気清浄機、マイナスイオン発生器、およびタイプライターなどを挙げることができ、これらのハウジング成形品やその他の部品に本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成された樹脂製品を使用することができる。またその他の樹脂製品としては、ランプリフレクター、ランプハウジング、インストルメンタルパネル、センターコンソールパネル、ディフレクター部品、カーナビケーション部品、カーオーディオビジュアル部品、オートモバイルコンピューター部品などの車両用部品を挙げることができる。以上から明らかなように本発明の奏する工業的効果は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0090】
本発明者が現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。尚、評価としては以下の項目について実施した。
(i)剛性(曲げ弾性率)
ISO178に準拠して曲げ弾性率(MPa)を測定した。試験片形状は、長さ80mm×幅10mm×厚み4mmであった。
(ii)金属腐食性
図1に示す形状の金型(キャビティーサイズ横42mm×縦24mm×深さ3mmt、金型鋼材NAK80にて作成した腐食評価用入れ子(20mmφ)挿入)を用いて型締力15Tの射出成形機により500ショット連続成形した後、腐食評価用入子を金型から取り外し、50℃×90%RHに設定した恒温湿機に2時間いれたのち外観観察を目視にて行い、金型鏡面の腐食の有無を判定した。尚、判定基準は以下のとおりである。
○:腐食は鏡面の5%以下である、△:鏡面の5〜50%に腐食が認められる、×:鏡面の50%以上に腐食が認められる。
(iii)熱伝導率
JIS R 2618に記載の非定常熱線法(プローブ法)に準拠し、京都電子工業(株)製迅速熱伝導測定計 QTM−500にて測定した(試験片形状:150mm×75mm×10mm)。
(iv)表面固有抵抗
長さ50mm×幅50mm×厚さ2.0mm、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.03μmの平滑平板の試験片を射出成形により製造した。かかる試験片は成形直後より23℃、湿度50%の環境にて一週間調整された。その後、試験片の表面固有抵抗(Ω)を東亜電波工業(株)製SM−8210極超絶縁計により測定した。
【0092】
原料としては、以下のものを用いた。
(A成分)
A−1:ビスフェノールAおよび末端停止剤としてp−tert−ブチルフェノール、並びにホスゲンから界面重縮合法で合成した直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WP(商品名)、粘度平均分子量22,500)
A−2:アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(第一毛織(株)製:STAREX HF5670(商品名))
A−3:ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 塊状重合品:サンタック UT−61(商品名))
A−4:PET樹脂(帝人化成(株)製:TR−8580(商品名))
A−5:エラストマー1(テレフタル酸ジメチル613部、ポリテトラメチレングリコール(平均分子量1000)185部、テトラメチレングリコール398部をテトラブトキシチタネートを触媒として、常法により重合して、融点215℃、固有粘度1.10、ハードセグメント量79重量%のポリエステルブロック共重合体エラストマーとした。)
A−6:エラストマー2(イソフタル酸ジメチル175部、セバシン酸ジメチル23部、ヘキサメチレングリコール140部をジブチル錫ジアセテート触媒でエステル交換反応後、減圧下に重縮合して、固有粘度1.06、DSC法によって結晶の溶融に起因する吸熱ピークを有さない非晶性のポリエステル(ア)を得た。このポリエステルに、別途同様に重縮合して得た固有粘度0.98のポリブチレンテレフタレート(イ)のチップを乾燥して、145部添加し、240℃で更に45分反応させたのち、フェニルフォスフォン酸を0.1部添加して、反応を停止させ、ポリエステルブロック共重合体エラストマーとした。)
A−7:変性ポリフェニレンエーテル樹脂(GEM社製:PPE(商品名)50重量部とA&Mスチレン(株)社製:HIPS 433(商品名)50重量部をタンブラーを用いて均一に混合して予備混合物を調製し、得られた予備混合物を径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]の第1供給口(スクリュー根元部)に供給し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量15kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、変性ポリフェニレンエーテル樹脂とした。)
A−9:ポリフェニレンスルフィド樹脂(ポリプラスチックス(株)社製:フォートロン0220A9(商品名))
【0093】
(B成分)
B−1:天然リン状黒鉛(見掛け比重0.09g/cm、pH=6.5、粒子厚み0.5μm、粒子径5μm)
B−2:薄片黒鉛(日本黒鉛(株)製:UP−20(商品名)見掛け比重0.10g/cm、pH=6.7、粒子厚み0.3μm、粒子径20μm)
B−3:薄片黒鉛(日本黒鉛(株)製:UP−10(商品名)見掛け比重0.05g/cm、pH=6.6、粒子厚み0.3μm、粒子径10μm)
(B成分以外)
B−4:膨張黒鉛(日本黒鉛(株)製:GR15(商品名)見掛け比重0.09g/cm、pH=3.0、粒子厚み2μm、粒子径15μm)
B−5:天然リン状黒鉛(見掛け比重0.20g/cm、pH=6.5、粒子厚み7μm、粒子径19μm)
B−6:膨張黒鉛(西村黒鉛(株)製:E−40(商品名)見掛け比重0.02g/cm、pH=3.5、粒子厚み3μm、粒子径350μm)
【0094】
(C成分)
C−1:マイカ(林化成(株)製:マスコバイトマイカ MC250(商品名) 平均粒径40μm)
C−2:マイカ(林化成(株)製:マスコバイトマイカ MC40(商品名) 平均粒径250μm)
C−3:タルク(勝光山鉱業所(株)製:ビクトリライト SG−A(商品名)、平均粒径15μm)
C−4:ワラストナイト(清水工業(株)製:H−1250F(商品名、数平均粒子径2.1μm、加重平均繊維長26μm)
【0095】
(D成分)
D−1:ガラス繊維(日東紡績(株)製「3PE937」;繊維径:13μm、カット長:3mm、アミノシラン処理−エポキシ/ウレタン系集束ガラス繊維、処理剤付着量:約1.0%、かさ密度:0.80g/cm
(E成分)
E−1:顆粒状ガラスフレーク[日本板硝子(株)製フレカREFG−301、標準篩法によるメジアン平均粒径140μm、厚み5μm、モース硬度:6.5]
(F成分)
F−1:モンタン酸エステル[クラリアントジャパン(株)製「WAX−Eパウダー」]
F−2:酸変性ポリオレフィン系ワックス[三菱化成(株)ダイヤカルナ30M]
(G成分)
G−1:リン系安定剤(大八化学工業(株)製:TMP トリメチルホスフェート)
(H成分)
H−1:ブロム化ビスフェノールAのカーボネートオリゴマー(帝人化成(株)製;ファイヤガードFG−7000(商品名))
H−2:ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(大八化学工業(株)製CR−741(商品名))
(I成分)
I−1:フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製 ポリフロンMPA FA500(商品名))
【0096】
[実施例1〜30、比較例1〜4]
表1〜表3に示す組成で成分をタンブラーを用いて均一に混合して予備混合物を作成した。尚、タンブラーに供給する際、G−1およびI−1成分はA−1のパウダーと均一に混合した10重量%のマスターを作成し、かかるマスターを所望の添加量となるようにタンブラーに供給した。得られた予備混合物を径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]の第1供給口(スクリュー根元部)に供給し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量15kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化した。
【0097】
得られたペレットを110℃で5時間熱風循環式乾燥機により乾燥した。乾燥後、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−150EN、およびFANUC(株)製:AUTOSHOT15T)によりシリンダー温度300℃、金型温度80℃で各種評価用の試験片を成形した。これらの成形品を用いて各特性を測定した。それらの結果を表1〜表3に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
上記表から本発明の熱可塑性樹脂に見掛け密度が0.15g/cm以下でありかつ、黒鉛粉末5gを水100gに分散した時の水層のpHが4〜10である黒鉛を配合した熱可塑性樹脂組成物は、金属腐食性が少なくかつ、熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂組成物があることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】金型腐食性の評価に使用した金型(キャビティーサイズ横42mm×縦24mm×深さ3mmt、金型鋼材NAK80にて作成した腐食評価用入れ子(20mmφ)挿入)の概要図である。
【符号の説明】
【0103】
1.ゲート
2.スプルー
3.腐蝕評価用入れ子(鋼材NAK80、20mmφ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A成分)99〜20重量部、見掛け密度が0.15g/cm以下でありかつ、黒鉛粉末5gを水100gに分散した時の水層のpHが4〜10である黒鉛(B成分)1〜80重量部からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
黒鉛(B成分)が天然リン状黒鉛、熱分解黒鉛、及びキッシュ黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の黒鉛を粉砕して見掛け密度が0.15g/cm以下とした黒鉛である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
黒鉛(B成分)が粒子厚み5μm以下、粒子径8〜1000μmである黒鉛である請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A成分)がポリカーボネート樹脂を50重量%以上含有する熱可塑性樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(A成分)が、ポリカーボネート樹脂(A−1成分)並びに、スチレン系樹脂(A−2成分)およびポリエステル系樹脂(A−3成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂よりなり、A−1〜A−3の合計100重量部に対して、A−1成分が50重量部以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(A成分)が熱可塑性エラストマーを50重量%以上含有する熱可塑性樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂(A成分)がポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂及びポリアリレート樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を50重量%以上含有する熱可塑性樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、無機充填剤(C成分)1〜200重量部を含有してなる請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
無機充填剤(C成分)がマイカ、タルクおよびワラストナイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機鉱物よりなる請求項8記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、繊維状充填剤(D成分)1〜200重量部を含有してなる請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
繊維状充填剤(D成分)がガラスファイバー、ガラスミルドファイバー、カーボンファイバーおよび金属コートカーボンファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維状充填剤よりなる請求項10記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、ガラスフレーク、ガラスバルーンおよびガラスビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種の非繊維状ガラス充填剤(E成分)1〜200重量部を含有してなる請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、滑剤(F成分)0.01〜5重量部を含有してなる請求項1〜12のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
滑剤が酸性基含有滑剤である請求項13記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項15】
酸性基含有滑剤が、カルボキシル基および/またはその酸無水物基を有するオレフィン系ワックスである請求項14記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項16】
滑剤がエステル基含有ワックスである請求項13記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項17】
(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、リン系安定剤(G成分)0.01〜3重量部を含有してなる請求項1〜16のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項18】
(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、難燃剤(H成分)を1〜50重量部を含有してなる請求項1〜17のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項19】
難燃剤(H成分)が有機ハロゲン系難燃剤またはリン系難燃剤である請求項18記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項20】
(A)および(B)成分の合計100重量部あたり、含フッ素滴下防止剤(I成分)0.01〜3重量部を含有してなる請求項18または19に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項21】
熱伝導率が0.6〜20W/mKである請求項1〜20のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項22】
表面固有抵抗が1.0×1011〜1.0×10Ωである請求項1〜21のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形品。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるプレス成形品。
【請求項25】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる押出成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−31611(P2007−31611A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218711(P2005−218711)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】