説明

熱可塑性軟質組成物

【課題】押出加工性、柔軟性に優れ、且つ塗装性、印刷性、複層成形性にも優れるスチレン系の軟質熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】スチレン系エラストマ−10〜90重量部(A)、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの1種以上のビニル系モノマー5〜60重量%とエチレンからなるエチレン系共重合体0〜80重量部(B)、不飽和ニトリル単量体単位を含有したスチレン系熱可塑性樹脂(C)および融点が30〜200℃の結晶性ポリエステル(D)からなり、(A)+(B)+(C)+(D)の合計が100重量部に対して、(C)+(D)が10〜90重量部から構成されていることを特徴とした熱可塑性軟質組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材、家具、家電製品等の各種工業用部材の用途に有用な押出成形性、柔軟性、塗装性、印刷性をもちかつ複層成形性に優れた熱可塑性軟質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
木口材、扉、戸あたり、敷居板、サッシ、グレーチング、テーブルエッジ等の建材や家具部材の軟質部材用途には、パッキング性、クッション性のみならず塗装性、印刷性、接着剤による接着性や、硬質素材等との複層成形等が必要とされる。こうした要求を満たす軟質樹脂材料としては、従来、塩化ビニル樹脂が数多く使用されてきた。ところが、近年、塩化ビニル樹脂からなる製品は、該製品を焼却処分する際の環境上の問題点が指摘され、他の樹脂に代替する事が望まれている。
従来よりスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、不飽和ニトリル単量体単位を含有したスチレン系樹脂、エステル系樹脂のいずれかを含む多成分系からなる組成物は数多く報告されている。
【0003】
例えば、水添ブロック共重合体の耐熱改良を目的とした、水添ブロック共重合体、ポリエステル系樹脂、変性スチレン系樹脂からなる組成物(例えば、特許文献1参照。)。また、架橋されたオレフィン系これらの変性スチレン系樹脂に関する技術のうち、エチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン系熱可塑性ゴムを有機過酸化物の存在下、架橋させる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。同様にスチレン系エラストマー、スチレン系樹脂、架橋されたエチレン共重合体からなる組成物も開示されている(文献3)。また、スチレン系エラストマー、変性スチレン系樹脂、エステル系樹脂からなる組成物も多々紹介されている(例えば、特許文献4、5、6参照。)。
しかしながら、これらの樹脂組成物は、押出成形性、耐熱性、柔軟性、塗装性、印刷性、複層成形性等のいずれかの性能において満足する性能を有しているとは言えなかった。このように、押出加工性、柔軟性に優れ、且つ塗装性、印刷性、複層成形性にも優れるスチレン系の軟質熱可塑性樹脂組成物が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平05−214209号公報
【特許文献2】特開平4−270746号公報
【特許文献3】特開2001−846490号公報
【特許文献4】特開2001−207037号公報
【特許文献5】特開平05−295197号公報
【特許文献6】特開平05−214207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、建材、家具、家電製品等の各種工業用部材の用途に有用な耐熱性、柔軟性、塗装性、印刷性、2色成形性に優れたスチレン系樹脂組成物、その成形体およびその複層成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討を重ね、本発明に到った。
即ち、
1.スチレン系エラストマー(A)10〜90重量部、酢酸ビニル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの1種以上のビニル系モノマー5〜60重量%とエチレンからなるエチレン系共重合体(B)0〜80重量部、不飽和ニトリル単量体単位を含有したスチレン系熱可塑性樹脂(C)および30〜200℃の融点を有する結晶性ポリエステル(D)からなり、成分(A)+成分(B)+成分(C)+成分(D)の合計が100重量部に対して、成分(C)+成分(D)が10〜90重量部から構成されていることを特徴とした熱可塑性軟質組成物、
2.スチレン系エラストマー(A)が、スチレン系水素添加ブロック共重合体であることを特徴とする上記1に記載の熱可塑性軟質組成物、
3.エチレン系共重合体(B)が、部分的または完全に架橋されていることを特徴とする上記1または2に記載の熱可塑性軟質組成物、
4.上記1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性軟質組成物と硬質材を積層してなる複層成形品、
である。
【発明の効果】
【0007】
建材、家具、家電製品等の各種工業用部材用途に有用な柔軟性、塗装性、印刷性、2色成形性等に優れた熱可塑性軟質組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、スチレン系エラストマー(A)10〜90重量部、酢酸ビニル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの1種以上のビニル系モノマー5〜60重量%とエチレンからなるエチレン系共重合体(B)0〜80重量部、不飽和ニトリル単量体単位を含有したスチレン系熱可塑性樹脂(C)、および30〜200℃の融点を有する結晶性ポリエステル(D)からなり、成分(A)+成分(B)+成分(C)+成分(D)の合計が100重量部に対して、成分(C)+成分(D)が10〜90重量部から構成されていることを特徴とした熱可塑性軟質組成物、である。
必須成分であるスチレン系エラストマー(A)とは、具体的には共役ジエン系単量体からなるブロック重合体と芳香族ビニル系単量体からなるブロックを有する共重合体であり、またその水素添加物が好ましい。
【0009】
スチレン系エラストマー(A)の含有量としては、10〜90重量部である。より好ましくは、20〜60重量部である。スチレン系エラストマー(A)が10重量部未満になると、熱可塑性軟質組成物の柔軟性が不足する。また、90重量部以上になると、2色成形品の硬質材との密着性が足りなくなる。
共役ジエン系単量体としては、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等が挙げられ、これら単量体から選ばれる1種あるいはこれら2種以上の混合物で使用できる。その中でも、物性の優れたエラストマーを得るには1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0010】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン等が好ましく、より好ましくはスチレンである。
また、スチレン系エラストマー(A)のメルトフローレイト(MFR)は、成形性、機械的強度から1〜30g/10分(ISO1133、条件;230℃、2.16kgf)が好ましい、また、2〜20g/10分がより好ましい。
スチレン系樹脂組成物としての柔軟性を保持するためにはスチレン系エラストマー(A)中に含まれる少なくとも1種は、その硬度がJIS A硬度で80以下のものであることが好ましい。また、JIS A硬度で70以下のものであることがさらに好ましい。
【0011】
本発明において好ましいスチレン系エラストマーは、芳香族ビニル単量体からなるブロックと共役ジエン単量体からなるブロックからなるブロック共重合体あるいは該ブロック共重合体の水素添加物である。本発明においては、水素添加されているブロック共重合体の方が水素添加されていないブロック共重合体に比べて耐熱性に優れ、経時的な物性変化が少なく、望ましい。この水素添加物は、スチレン系エラストマー中のオレフィン性二重結合の50%以上が水素添加されていることが好ましく、より好ましくは80%以上が水素添加されていることである。
ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの組み合わせのいずれであってもよい。このスチレン系エラストマーは、どの様な製造方法によって製造したものでもよい。例えば、特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック共重合させて得ることができる。また、こうしたブロック共重合体の水素添加処理は、例えば特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、あるいは特開昭59−133203号公報および特開昭60−79005号公報に記載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に行うことができる。
【0012】
このようなスチレン系水素添加ブロック共重合体の市販品としては「KRATON(登録商標)−G」(シェル化学)、「セプトン(登録商標)」(クラレ)、「タフテック(登録商標)」(旭化成ケミカルズ(株)製)等がある。
また、上記スチレン系エラストマー(A)に反応性基を導入しても良い。反応性基としては、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、メタクリロイル基、ヒドロキシル基等がある。反応性基を導入する方法には、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、メタクリロイル基、ヒドロキシル基等を有する単量体を共重合させる方法や、反応性基をもつ単量体をラジカル反応でグラフトさせる方法がある。カルボキシル基を持つビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、マレイン酸等の遊離カルボキル基を含有する不飽和化合物、無水マレイン酸、無水イタコン酸、クロロ無水マレイン酸、無水シトラコン酸などの酸無水物型カルボキシル基を含有する不飽和化合物等があげられるが、これらの中で、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が反応性、安価な事から好適である。また、グリシジル基を含有するビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、メチルグリシジルメタクリレート等が挙げられるが、これらの中でもメタクリル酸グリシジルが好適である。
【0013】
反応性基の含有量としては、0.1〜5重量%が望ましい。さらに好ましくは0.1〜2重量%が望ましい。
酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれる1種以上のビニル系モノマー5〜60重量%とエチレンからなるエチレン系共重合体(B)について説明する。
本発明におけるエチレン系共重合体(B)とは、酢酸ビニル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの群から選ばれる単量体の少なくとも1種を5〜60重量%、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは20〜40重量%とエチレンとからなる共重合体である。このエチレン系共重合体は、熱可塑性軟質樹脂に0〜80重量部含まれる事が望ましい。さらに好ましくは20〜50重量部である。このエチレン共重合体が、80重量部より多くなると、2色成形品の硬質材との密着性が足りなくなる。
【0014】
ここで、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの具体的な例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル等があり、中でもアクリル酸エチル、メタクリル酸エチルが好ましく用いられる。
エチレン共重合体中のこれらの単量体の含有量が5重量%未満であるとスチレン系樹脂等との相容性が悪く、60重量%を越えると、耐熱性、成形性に問題が生じる。また、エチレン系共重合体は、柔軟性を付与するためJISA硬度で90以下のものが好ましい。
【0015】
エチレン系共重合体の好ましい具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体等が挙げられる。
更に、エチレン系共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲で無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、メタクリロニトリル、N−フェニルマレイミド、プロピレン、ブタジエン等共重合可能なビニル系単量体を共重合させることも可能である。
また、本発明のエチレン系共重合体は、必要ならば部分的または完全に架橋させることができる。このことにより、更に高度な機械的特性や耐熱性を付与することが可能となるばかりでなく、塗装性や、2色成形品の密着性が向上する。
【0016】
本発明ではエチレン系共重合体を部分的または完全に架橋せしめる手段についてはなんら規定はされないが、架橋剤として有機過酸化物等のラジカル開始剤あるいは有機過酸化物および架橋助剤を併用して動的に架橋させる手法が最も推奨される。
ここで、好ましく使用される有機過酸化物の具体的な例として、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類が挙げられる。
【0017】
また、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類が挙げられる。
また、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドおよびm−トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウリレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。
【0018】
また、クミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類が挙げられ、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイドおよび1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類を挙げることができる。
これらの化合物の中でも、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3が特に好ましく用いられる。
【0019】
これらの有機過酸化物は、エチレン系共重合体100重量部に対し0.02〜3重量部、好ましくは0.05〜1.5重量部の量で用いられる。0.02重量部未満では架橋反応が不十分であり、一方、3重量部を越えて添加しても熱可塑性軟質樹脂組成物の機械的強度等の物性は頭打ちとなり、無意味なものとなる。
更に、架橋助剤としては、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ダイアセトンジアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジイソプロペニルベンゼン、P−キノンジオキシム、P,P’−ジベンゾイルキノンジオキシム、フェニルマレイミド、アリルメタクリレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、1,2−ポリブタジエン等が好ましく用いられる。これらの架橋助剤は単独で使用してもよいし、複数のものを併用してもよい。
【0020】
これらの架橋助剤は、エチレン系共重合体100重量部に対し0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部の量で用いられる。0.1重量部未満では架橋助剤としての役割が不十分であり、5重量部を越えて添加しても組成物の機械的強度等の物性は向上せず、むしろ過剰の架橋助剤が組成物中に残存する結果となり、品質上好ましくない。
エチレン系共重合体の架橋物を得る方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、上記の架橋剤を、必要に応じて架橋助剤を用い、エチレン系共重合体とブレンド後、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機等を用いて、180〜220℃で、溶融させて得ることができる。その際、スチレン系エラストマー、スチレン系樹脂、結晶性ポリエステルを、同時に添加し、架橋物を得ることができる。
【0021】
本発明の熱可塑性軟質樹脂組成物におけるエチレン系共重合体の架橋度は、未架橋でもかまわないが、好ましくは30%以上、最も望ましくは50%以上である。
ここで、「部分的に架橋された」とは、架橋度が10〜99%であることを意味しており、一方、「完全に架橋された」とは、架橋度が99%以上であることを意味している。ただし、他の重合体とのグラフト反応等が生じた場合、部分的な架橋であっても、見かけの架橋度が99%以上となる場合もある。
エチレン系共重合体の架橋度を求める方法としては、以下の方法が示される。
本発明の熱可塑性軟質樹脂組成物約5gを秤量し、まず2−ブタノン200mlを用いて、16時間のソクスレー抽出を行う。この操作により、スチレン系熱可塑性樹脂の抽出除去される。可塑剤が入っている場合もこの時に除去される。次いで、n−ヘプタン200mlを用いて、16時間のソクスレー抽出を行う。この操作により、未架橋のエチレン系共重合体の抽出除去される。相溶化ポリマーはそのタイプ・構造により、抽出の効率および可否が異なるので事前に溶解性テストをしておき、可溶な溶媒を予め把握し、その溶媒でソクスレー抽出を実施する必要がある。これら一連の操作の後、円筒濾紙中の残査を加熱真空乾燥後定量し、組成物中の全エチレン系共重合体の重量に対する残査、つまり架橋されたエチレン系共重合体の重量の比率、つまり架橋度(%)を算出する。
【0022】
この数値には、グラフト鎖やオクルードされた他の重合体の重量も含まれる。一方で、結晶性樹脂等の不溶性ポリマーや、(B)スチレン系熱可塑性樹脂に不溶性グラフトゴム成分が組成物中に入っている場合や、フィラー等の上記溶剤に不溶の添加剤成分が添加されている場合は、溶解性の強い有機溶媒(o−クロロベンゼンや熱キシレン等)を用いた溶媒分別法や遠心分離法等の公知の方法によって分別することが可能であり、フィラーに関しては焼結して灰分を求め、算術的に分離して架橋度を求めることも可能である。更には反応性基含有ポリマーを用いた場合に、これが不溶成分と化学結合をしている場合は、算出の際に相当量を差し引いて架橋度を求める。また、架橋度を求める際、用いる溶媒によって得られる結果が異なるので注意を要する。
【0023】
本発明の不飽和ニトリル単量体単位を含有したスチレン系熱可塑性樹脂(C)(以下、単にスチレン系熱可塑性樹脂(C)と言う。)としては、(c1)ゴム質重合体に芳香族ビニル単量体および不飽和ニトリル単量体を含む単量体混合物をグラフト重合させて得られるグラフト重合体、(c2)芳香族ビニル単量体および不飽和ニトリル単量体を含む単量体混合物を共重合させて得られる重合体、(c3)ゴム質重合体に芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体および不飽和ニトリル単量体を含む単量体混合物をグラフト重合させて得られるグラフト重合体、(c4)芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体および不飽和ニトリル単量体を含む単量体混合物を共重合させて得られるグラフト重合体等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
ここで、ゴム質重合体としては、具体的にはポリブタジエン(BR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)等のジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム(AR)、ポリイソプレン(IR)、ポリクロロプレン(CR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合ゴム、等のブロック共重合体およびそれらの水素添加物等を使用することができる。
これらの重合体の中で、好ましくは、BR、SBR、NBR、AR等が挙げられる。
【0025】
不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。好ましくは、アクリロニトリルである。
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルアクリレート等が挙げられる。
スチレン系熱可塑性樹脂(C)としては、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(MABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA)、アクリロニトリル−スチレン−EPDM共重合体(AES)等が好ましい。
【0026】
スチレン系熱可塑性樹脂(C)に含まれる不飽和ニトリル単量体単位は2〜40重量%であることが好ましい。
これらの樹脂のうち、アクリロニトリルを10〜40重量%含有しかつブタジエンゴムを10〜50重量%含有するABS、アクリロニトリルを20〜40重量%含有するAS、アクリロニトリルを2〜10重量%含有しかつブタジエンゴムを10〜50重量%含有するMABSがより好ましい。
スチレン系熱可塑性樹脂(C)の製造方法としては、特に限定はされず、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合、およびこれら重合法の組み合わせ等の方法がある。
【0027】
本発明の結晶性ポリエステル(D)とは、ジカルボン酸とジオールからなるポリエステル、ラクトン類を開環して得られる脂肪族ポリエステルの中で、結晶性でかつ融点が30〜200℃である事を特徴とする結晶性ポリエステルである。
上記融点とは、JIS K7121に準拠し、示差熱分析(DTA)又は示差走査熱量測定(DSC)から求められる。示差走査熱量測定(DSC)で、サンプル約10mg、昇温速度20℃/min、冷却速度10℃/minおよび窒素ガス流量10ml/minの条件より求められることが好ましい。
上記ジカルボン酸とジオールからなる結晶性ポリエステルのジカルボン酸としては、具体的には、炭素数4〜20のものが好ましく、その例として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウムのような芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸のような脂環族ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸が挙げられる。
【0028】
上記ジカルボン酸とジオールからなる結晶性ポリエステル樹脂のジオールとしては、炭素数2〜12の脂肪族及び/又は脂環族のジオールの事で、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等が上げられる。また、ポリエステル系熱可塑性樹脂の融点が30〜200℃なら、これらのジオールと、芳香族系のジオール、例えばビスフェノールA、ヒドロキノン等を併用しても良い。これらのジオール成分は、1種単独又は2種以上組合わせて用いることが出来る。本発明の熱結晶性ポリエステルとしては、テレフタル酸、フタル酸、1,4−ブタンジオールを用いた結晶性ポリエステル樹脂である。このような市販のポリマーは、「バイロン(結晶性ポリエステル)」東洋紡株式会社等を上げる事ができる。
ラクトン類を開環して得られる脂肪族ポリエステルとは、炭素数5〜12のラクトン類とは、具体的にはε−カプロラクトン、ω−オキシカプロン酸等が挙げられる。このような市販のポリマーは、「プラクセル」ダイセル化学工業株式会社等を上げる事ができる。
本発明の熱可塑性軟質組成物の特に好ましい組み合わせの例としては、スチレン−ブタジエン共重合体水素添加物、ABS樹脂、部分的に架橋されたEVA樹脂またはEEA樹脂、結晶性ポリエステルの四成分からなる樹脂組成物があげられる。
【0029】
本発明の成分(A)+成分(B)+成分(C)+成分(D)=100重量部中、成分(C)+成分(D)は10〜90重量部であることが望ましく、より好ましくは15〜40重量部である。
成分(C)+成分(D)が10重量部未満になると、2色成形品の硬質材との密着性が足りなくなる。
また、成分(C)+成分(D)が90重量部以上になると、熱可塑性軟質樹脂組成物が硬くなる。
本発明の熱可塑性軟質組成物の成分(A)〜成分(D)の各成分を溶融混合する方法については特に制限はなく、単軸押出機、ニ軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ミキシングロール等通常公知の方法を用いることができる。
また、本発明のスチレン系樹脂組成物は、発泡させて使用することもできる。発泡させる方法は特に制限されないが、例えば熱分解型発泡剤を配合する方法、加圧下で水を配合し発泡剤として利用する方法、溶融成形時に高圧ガスを注入する方法など、従来公知の方法が利用可能である。
【0030】
本発明の熱可塑性軟質組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブリード・ブルーム剤、シール性改良剤、結晶核剤、難燃化剤、架橋剤、共架橋剤、加硫剤、防菌、防カビ剤、分散剤、軟化剤、可塑剤、粘土調整剤、着色防止剤、発泡剤、発泡助剤、酸化チタン、カーボンブラックなどの着色剤、フェライトなどの金属粉末、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの有機繊維、複合繊維、チタン酸カリウムウィスカーなどの無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、ケイソウ土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、ポリマービーズなどの充填剤、またはこれらの混合物、あるいは他のゴム質重合体、例えばSBR、NBR、BR、NR、IR、AR,CR、IIR、また、その他必要に応じて上記成分以外の熱可塑性樹脂、例えばポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール樹脂など、適宜、配合することができる。
【0031】
本発明の熱可塑性軟質組成物は、押出、射出、ブロー、プレス成形等の各種成形法により成形することができる。中でも押出成形が好ましく、異型押出、シート押出、複層押出等の押出成形法が幅広く適用できる。
本発明における硬質材とは、本発明の熱可塑性軟質組成物と共押出または、射出成形により成形可能な熱可塑性樹脂のことをいう。例えば、不飽和ニトリル単量体単位を含有したスチレン系熱可塑性樹脂(B)、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)、ポリカーボネート、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS)、メタクリル酸メチル−スチレン−ブタジエン共重合体(MBS)等が挙げられる。中でも不飽和ニトリル単量体単位を含有したスチレン系熱可塑性樹脂(B)が好ましく、その中でもABS樹脂が特に好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性軟質組成物からなる成形品には表面に印刷や塗装を施すこと、接着剤を用いて他の素材と接着することが可能である。各種成形法で成形された成形品に対して、表面を塗装したり、グラビア印刷等で表面に種々の意匠、図柄を印刷して外観を見栄えの良いものにすることができる。また、他の素材と接着剤を用いて接着することにより製品の一部に本熱可塑性軟質組成物の成形品を組み合わせて用いることができる。
本発明の熱可塑性軟質組成物は、溶剤に対して適度の膨潤性を示すため、塗料、印刷用インク、接着剤に含まれる溶剤により膨潤することで塗料、インク、接着剤の樹脂素材と密着することが可能となる。
【0033】
ここで、本発明の熱可塑性軟質組成物が膨潤性を示す溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、トルエン、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、塩化メチレンあるいはこれらの混合物が挙げられる。このような溶剤を含む塗料や印刷用インク、接着剤に対して密着することが可能である。例えば、グラビア印刷インキは、樹脂成分が、EVA、変性塩ビ等であり、溶剤がMEK、トルエン、シクロヘキサン、酢酸ブチル等の混合物であり、本発明のスチレン系樹脂組成物の成形品の印刷用に好適に使用することができる。
また、例えば、接着剤としては、アセトン、ノルマルヘキサン、酢酸ブチル等の混合溶剤を用いたウレタン系接着剤、合成ゴム系接着剤により他の素材と良好に接着することができる。
本発明の熱可塑性軟質組成物の成形品の用途としては、屋内外の家具・建材の一部材として、例えば、木口材、戸あたり、敷居板、サッシ、グレーチング、テーブルエッジ、手すり、滑り止め、等があげられる。また2色成形品として、例えば、家電、筆記具等の各種グリップや、パッキン、衝撃吸収材、滑り止め、手すり、目地、風呂蓋等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。下記の実施例において、部および%は、特に断らない限り重量基準である。
(1)実施例および比較例に用いた原材料
<スチレン系エラストマー(A)>
(A−1):水素添加スチレンブタジエンブロック共重合体
(旭化成ケミカルズ(株)製、タフテックH1221(商品名))JIS A硬度42(成分)芳香族ビニル単量体単位含有量、12重量%
(A−2):水素添加スチレンブタジエンブロック共重合体
(旭化成ケミカルズ(株)製、タフテックH1043(商品名))JIS A硬度72(成分)芳香族ビニル単量体単位含有量、67重量%
【0035】
<スチレン系熱可塑性樹脂(B)>
(B−1):旭化成ケミカルズ(株)製、スタイラックABS 321、(成分)不飽和ニトリル単量体含有量、22重量%
<エチレン共重合体>
(C−1):日本ユニカー製、NUC3810、(成分)酢酸ビニル27%
(C−2):日本ユニカー製、NUC3195、(成分)酢酸ビニル25%
(C−3):日本ユニカー製、NUC6570、(成分)アクリル酸エチル25%
(C−4):C−1、25%、C−2、25%、A−1、42%、A−2、8%に、下記架橋剤(D−1)0.35部、架橋助剤(D−2)0.7部を添加しブレンドしたものを、35mm2軸押出機(東芝機械 TEM35B)設定200℃にて押出し、MFR(ISO 1133)3g/10min、硬度JIS−A 63の動架橋品を得た。
【0036】
<有機過酸化物(架橋剤)>
(D−1):日本油脂製、パーヘキサ25B[2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン]
<架橋助剤>
(D−2):日本化成製、タイク(トリアリルイソシアヌレート)
<エステル系樹脂組成物>
(E−1):東洋紡株式会社 バイロン 245(非晶性ポリエステル)
(E−2):東洋紡株式会社 バイロン GM920(結晶性ポリエステル)融点 107℃
(E−3):ダイセル化学工業株式会社 プラクセル H7(脂肪族ポリエステル)融点 60℃
(E−4):ウィンテックポリマー(株) DURANEX 2002(PBT)融点 228℃
<可塑剤および軟化剤>
(F)石油系パラフィンオイル;(株)出光興産製 ダフニールオイル KP68
【0037】
(2)評価方法
1.硬度
JIS K−7215に準拠し、硬度を測定した。
2.引張試験
JIS K6760:引張速度200mm/S 準拠。
180℃でプレス成形した2mm厚シートからJIS Aタイプのダンベル試験片を切り出し測定した。
3.ABS樹脂との2色成形品の接着性(図1)
硬質材にABSのスタイラック121を用い、本発明のスチレン系樹脂組成物を軟質材として用い、あらかじめ成形された9cm×3cm×0.1cmの121の平板を金型にインサートし、軟質部を220℃で成形し硬質材上に約1mm厚の軟質を被覆してなる複層成形品を用いた。複層成形品を2cm幅に切り出し、軟質部をチャックにてはさみ直角方向に引っ張って接着強度を確認した。
◎ 軟質部を剥がすのに2kgf以上の応力を必要とし、かつ軟質の素材が破壊する。
○ 軟質部を剥がすのに2kgf以上の強度を要した。
△ 1〜2kgfで簡単に軟質部が剥がれた。
× 軟質部がほとんど伸びずに剥がれた。
【0038】
[実施例1〜8および比較例1〜7]
表1に記載の配合比で原材料を用い、2軸押出機を用いて230度にて溶融混練し、スチレン系樹脂組成物のペレットを製造した。該ペレットを用い、上記評価方法で評価し、その評価結果を表1に示した。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、建材、家具、家電製品等の各種工業用部材の用途に有用な耐熱性、柔軟性、塗装性、印刷性、2色成形性に優れたスチレン系樹脂組成物、その成形体およびその複層成形品を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ABS樹脂との2色成形品の概略図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマー(A)10〜90重量部、酢酸ビニル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる1種以上のビニル系モノマー5〜60重量%とエチレンからなるエチレン系共重合体(B)0〜80重量部、不飽和ニトリル単量体単位を含有したスチレン系熱可塑性樹脂(C)および30〜200℃の融点を有する結晶性ポリエステル(D)からなり、成分(A)+成分(B)+成分(C)+成分(D)の合計が100重量部に対して、成分(C)+成分(D)が10〜90重量部から構成されていることを特徴とした熱可塑性軟質組成物。
【請求項2】
スチレン系エラストマー(A)が、スチレン系水素添加ブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性軟質組成物
【請求項3】
エチレン系共重合体(B)が、部分的または完全に架橋されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性軟質組成物
【請求項4】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性軟質組成物と硬質材を積層してなる複層成形品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−249372(P2006−249372A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71406(P2005−71406)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】