説明

熱安定な,高アミロペクチンでんぷん

【課題】ベーカリー製品のための、でんぷん含有充填物またはトッピングにおいて、熱安定なでんぷん含有充填物またはトッピングおよびそれをを含むベーカリー製品を提供する。
【解決手段】でんぷんの、アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも約90:10、好適には少なくとも95:5、より好適には99:1の、塊茎または根のでんぷんを使用することにより、ベーカリークリームの熱安定性を改良するとともに、最終ベーカリー製品の肌合いおよびおいしさを改良する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は,ベーカリークリーム,スイスクリーム,果物充填物,風味のあるまたは甘いパイトッピング,アーモンドペースト充填物,チューズ(choux)パストリー充填物,ピザトッピング,パストリーまたはスナック上のグレーズなどのような,でんぷんを含む充填物またはトッピング内の,ベーカリー業界で使用されるでんぷんに関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー製品に使用する,クリーム,果物またはパイ充填物,トッピング,グレーズおよび他の充填物またはトッピングは,たとえば,ゲル強度,粘性,グレーズ,肌合いまたはクリームもしくは充填物のクリーム状態を与える,バインダー,充填物,または濃化材のように,或る量のでんぷんの含有によりしばしば濃化される。
【0003】
多くの要因が,特定の成分または添加剤をベーカリー製品に適用することの決定に影響を与える。これらは,機能的な特性,コストまたは,おそらく最も重要となる,味,口当たりおよび肌合いのための地域的な好みを含む。さらに,種々の処理技術がベーカリー業界で使用され,またパン製品の特性に影響を与えている。
【0004】
でんぷんは,しばしばアルジネート,ペクチン,ゼラチンなどのような親水コロイドとともに,果物充填物,クリーム,他の充填物,トッピック,およびグレーズに広く適用されている。用意された冷たい果物充填物において,でんぷんは,透明性,迅速な粘性形成,および滑らかな光沢のある外観を与えなければならない。果肉状の,より果物の外観が必要なとき,このことは,質の劣った製品を適用することにより達成できる。料理を作り上げるとき,透明性および光沢も重要で,部分的にペクチンで置き換えることはときに可能である。
【0005】
ベーカリークリームにおいて,でんぷんは,高い粘性および,クリーミーな食感を分け与え,さらにクリーミーで光沢のある外観を与える。アーモンドペーストの充填物に対して,粗く挽いたインスタントでんぷん派生物がしばしば適用される。ピザのトッピングのような風味のある充填物に対して,広範囲な派生物が知られている。
【0006】
これらすべての適用例において,充填物またはトッピングは,ベーキングプロセスに対し抵抗力をもつ。たとえば,ベーカリークリームが,ベーキングの間その粘性を失うならば,クレームは単に製品から流れ出て,その製品においしそうな外観を与える。
【0007】
ベーカリークリームにおいて,でんぷん派生物のほか,他の親水コロイド,とくにアルジネートがゲル特性のために適用される。クリームのベーキング安定性は,非常に高い温度抵抗性をもつアルジネートを適用することにより改良できる。しかし,このことは好ましい肌合いが失われた製品とし,ときに多少泡の多いものとなり,またしばしばベーキングの後,砕けやすいものになり,したがって,好適には,アルジネートまたは他の熱的に安定な親水コロイドが,ベーカリー製品への添加剤として多少使用される。
【0008】
今日の業界は,ベーキングの安定性,および酸およびせん断安定性に関して,ベーカリー製品において使用される派生物に要求することが増加するようになってきている。たとえば,200℃で30分ベーキングするといった,高温で行うモダンなベーカリーの作業は一般的ではないことはなく,依然として,クリーム,トッピング,グレージング,充填物はなくすべきではない。一般的に,ろう(waxy)とうもろこしでんぷんおよびその派生物が,一般的なポテトでんぷんまたは一般的なとうもろこしでんぷん(からの派生物)よりも多少ベーキング安定性が高い傾向にあるため,ベーカリー製品において使用されているが,これらは,とうもろこしでんぷんが一般的に粘度が少なく,多くの量を適用する必要があり,しばしば顕著で,必ずしもよい味(これは,ポテトでんぷんにない付加的な欠点である)をもつという事実にもかかわらず,食品業界では一般的に使用されている。さらに,ろうトウモロコシ(maize)でんぷんでさえ,熱安定なでんぷんが必要とされていることを示す,今日の多くのベーキング状況のもとでは,その安定性,ゲル強度,または粘性を失っている。
【発明の開示】
【0009】
本発明は,ベーカリー製品のためのでんぷん含有充填またはトッピングを提供し,前記でんぷんは,アミロペクチン:アミロースの比が,少なくとも90:10,好適には少なくとも95:5,より好適には少なくとも99:1となる,塊茎または根でんぷんを含む。
【0010】
でんぷん(穀類からまたは塊茎もしくは根から得られる,アミロースおよびアミロペクチンの両方を含む一般的な種類,ならびに,穀類から得られるろう種類の両方)は食品において広く使用されている。
【0011】
一般的なでんぷんは,二つの主要な成分,線形のα(1−4)D−グルカン・ポリマー(分枝は低レベルで見つけられる)および精密に分枝したα(1−4および1−6)D−グルカン・ポリマー(それぞれアミロースおよびアミロペクチンといわれている)とからなる。アミロースは,溶液中で, 104−105以上の分子量をもつ螺旋配座をもつ。アミロペクチンは,(1−6)分枝および107までのまたはそれ以上の分子量をもつ(1−4)結合により主にリンクしたα−アンヒドログルコピラノーゼの短鎖からなる。
【0012】
植物の天然でんぷん中のアミロース/アミロペクチン比は,一般にどこでも10−40アミロース/90−60%アミロペクチン(研究した種々の植物にも依存する)である。植物種の多くにおいて,上記の割合から顕著に逸脱した突然変異が知られている。これら突然変異はトウモロコシ(maize)(とうもろこし)および他の穀物において長く知られている。ろうとうもろこし,またはろうトウモロコシは,今世紀の初めから研究されている。したがって,用語ろうでんぷんはしばしば,このようなでんぷんが一般的に,ポテトのような他のでんぷん源からは知られておらず,主にとうもろこしからのものと知られているという事実にもかかわらず,アミロースのないでんぷんと同等である。さらに,アミロースのないポテトでんぷん(基本的にアミロペクチン分子のみを含む)の工業的な使用は決してなく,広範囲な応用例はとうもろこしからのろうでんぷんによるように見える。
【0013】
本発明は,ベーカリー製品のための充填またはトッピングを提供し,ここで前記でんぷんは,ベーキング業界で一般的に使用されている充填物またはトッピングについて安定性を改良した,アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも90:10,好適には少なくとも95:5,より好適には99:1の,塊茎または根のでんぷんからなる。上記改良された安定性はたとえば,充填物またはトッピングの凍結融解安定性または貯蔵に関する。本発明の好適な実施例において,充填物またはトッピングが,ベーキング業界において一般的に使用されている充填物またはトッピングについての熱安定性を改良する。(アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも90:10,好適には少なくとも95:5,より好適には99:1の,塊茎または根のでんぷんはまた,ここで熱安定なでんぷんという。)
【0014】
好適実施例において,前記塊茎または根のでんぷんがポテトでんぷんからなるところの,本発明にしたがった充填物またはトッピングが提供される。植物のアミロース生産は酵素顆粒結合でんぷんシンターゼ(granule-bound starch synthase)(GBSS)(でんぷんのアミロース量を生産するときに関連する)により調整される他のものの中にあり,利用できるろう植物突然変異の多くがこの酵素を欠き,またはその活性を欠き,これによりこれら突然変異の,根本的に独占的なアミロペクチンの特性が生じる。一般的に産業上使用されているわけではないが,アミロースのないポテト突然変位は,基本的にアミロペクチン分子のみを含むでんぷんを生産する,でんぷん生産のために利用できる。
【0015】
本発明により与えられる熱安定なでんぷんの例は,たとえば,GBSS活性またはGBSSたんぱく質を全く欠き,これによりアミロースを欠き,基本的にアミロペクチン分子のみをもつ,アミロースのないポテト植物から得たでんぷんである。
【0016】
本発明の他の実施例において,充填物またはトッピングが与えられ,ここで前記塊茎または根のでんぷんは,減少したアミロース量または基本的にアミロペクチン分子のみを有する,ポテト,ヤマイモ,またはキャッサバのような,一般的に改変(modified)植物から導出される。植物の総称的な改変は,職人とって利用できる技術であり,たとえば,顆粒結合でんぷんシンターゼ(GBSS)(でんぷんのアミロースを決定することに関する)を暗号にする遺伝子のような遺伝子(の一部)の改変,除去またはその中への挿入,または(アンチセンス)復帰に関する。このような作物と操作するために,効果的な転換システムおよび孤立遺伝子が,基本的にポテトに利用でき,他のものは同様にして見出される。作物の一種内に導入されたアミロースの不存在といる特徴が,品種改良により他の種類の中に,容易に導入され得る。
【0017】
この記述の実験的な部分において,提供される,ベーカリー製品に対する充填物またはトッピングが,一般的に改変されまたはアミロースのないポテトから得られる熱安定なでんぷんからなる。一般的に工学的に作られた作物からのでんぷんの使用は,このような作物を一般的に改変することが可能になったときから提案されている(Bruinenberg等,Chemistry and Industry,1995年11月6日,第881-884頁,de Vries,Foodmarketing and Technology,1997年4月,第12-13頁を参照)。缶詰の充填物または粘性剤として,アミロペクチン型ポテトでんぷんの特別な使用は,WO/97/03573において提案され,一般的に使用されるでんぷんがもつように見える不所望な残留粘性を防止する。さらに,欧州出願第0796868号は,食物製品の粘性を増加するために,ヒドロプロキシル化し,さらに架橋したろうポテトでんぷんの使用を提案している。
【0018】
しかし,これらのいずれも,今日のベーキング産業において,一般に熱に対して低くまたは不十分な安定性をもつでんぷんの使用をどのように避け,少なくともおいしさ,肌合い,外観またはベーキング製品の他の関連した仕様とどのように折り合いをつけるかについて何ら示していない。
【0019】
本発明の一層好適な実施例において,充填物またはトッピングが提供されるが,ここで前記熱安定な,塊茎または根のでんぷんは,二でんぷんリン酸塩(di-starch phosphate),または二でんぷんアジピン酸塩(di-starch adipate)のような架橋されたでんぷんである。でんぷんの架橋化はそれ自身,職人にとって利用できる方法であり,種々の架橋剤が知られ,たとえば,エピクロロヒドリン,トリメタリン酸ナトリウム(sodium trimetaphosphate)(STMP),酸塩化燐(phosphorous oxychloride)(POCl3),アクロレイン,無水アジピン酸(Adip)または二つ以上の無水物,ハロゲン,ホロヒドリン,もしくはエポキシド基,もしくは架橋化剤として使用できるすべての組み合わせのものである。架橋でんぷんのような典型的で,しばしば好適な例は,二でんぷんリン酸塩(di-starch-phosphate)または二でんぷんアジピン酸(di-starch-adipate)である。
【0020】
本発明の他の実施例において,充填物またはトッピングが提供されるが,ここで,前記塊茎または根のでんぷんはでんぷんアセテートのような安定化したでんぷんである。でんぷんのヒロドキシアルキル化による安定化は,たとえば反応性部位として,ハロゲン,ハロヒドロリン,またはエポキシド基を含む試薬とともに得られる。他の試薬は,たとえば,1−オクテニル無水コハク酸,トリポリリン酸ナトリウム,トルトリン酸カリウム,オルトリン酸ナトリウム,またはオルトリン酸である。
【0021】
本発明の一実施例において,前記でんぷんは,たとえば酸化プロピレンを使用して,ヒドロキシプロピレン化により安定化される。本発明の好適な実施例において,前記でんぷんはアミロペクチン分子の利用できるすべてまたはいくつかの水酸基がアセチル基によりエステル化された,安定化されたでんぷんである。アセチル基の付加は,一般に,アルカリ状態で,反応物として,無水酢酸,無水コハク酸,または酢酸ビニルを使用して,でんぷんの懸濁液中でなされる。このような安定化したでんぷんの典型的でしばしば好適な例がでんぷんアセテートである。
【0022】
交差結合(crossbonding)および/または安定化試薬は,アルカリ状態で,でんぷんと反応する。適切なアルカリ剤は,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムおよびリン酸三ナトリウムである。好適には,アルカリ金属水酸化物で,より好適には水酸化ナトリウム,および炭酸ナトリウムである。ときに,アルカリ反応状態で,膨張を抑えるために塩が添加される。
【0023】
本発明により提供される熱安定なでんぷんに含まれる,交差結合したでんぷんアセテートは,DSまたは置換度が0.001ないし0.2,好適には0.03ないし0.092に対応するアセチルを有する。ここで使用する用語DSは置換基があるでんぷん分子の無水グルコースユニット当たりの部位の平均数を示す。
【0024】
本発明により提供される熱安定なでんぷんに含まれる,交差結合してヒドロキシプロピル化したでんぷんは一般に,DSが0.001ないし0.3,好適には0.03ないし0.21,最も好適には0.06ないし0.21に対応するヒドロキシプロピル量を含む。熱安定な二でんぷんアセテート(distarch-acetate)はたとえば,0.001ないし0.024%,好適には0.01ないし0.12%の無水アジピン酸で交差結合されてもよい。無水アジピン酸での交差結合の前に,でんぷんは過酸化水素および/または過酢酸で処理されてもよい。好適に,活性酸素が0.001%ないし0.045%,最も好適に,0.005ないし0.45%に対応する量である。熱安定な二でんぷんリン酸塩は好適に,たとえば,残留リン酸塩がアミロペクチンポテトでんぷんに対して0.14%より多くならず,他の根および塊茎のでんぷんに対して0.4%より多くならない程度まで,トリメタリン酸ナトリウムで交差結合されてもよい。職人にとって知られている状態で,好適にはでんぷんは0.01%ないし0.25%,より好適には0.25ないし0.15%のトリメタリン酸ナトリウムで交差結合されてもよい。もちろん,導出された性質をもつ,熱安定なでんぷんをもたらす好適な状態以外で,低レベルの収量で反応物質が反応する状態を,職人が見出すことは常に可能である。
【0025】
熱安定な二でんぷんリン酸塩も,残留リン酸塩が,アミロペクチンポテトでんぷんに対して0.14%以上とならないように,または他の根および塊茎のでんぷんに対して0.4%以上とならない程度まで,酸塩化燐と交差結合されてもよい。好適に,でんぷんは職人には知られた状態の下で,0.0001%から0.01%の酸塩化燐で交差結合される。もとろん,導出された性質をもつ,熱安定なでんぷんをもたらす好適な状態以外で,低レベルの収量で反応物質が反応する状態を,職人が見出すことは常に可能である。
【0026】
好適実施例において,熱安定な本スターチを含む充填剤またはトッピングが,本発明により提供され,これは,果物ジュースを固めるための,予め用意された冷たい果物充填物へ,またはベーカリージャムへの適用を可能にし,冷たいミックスベーカリークリームへの適用を可能に,高い粘度およびスムーズでクリーミーな肌合いを提供する。さらに,本発明は,ペーストリー,またはケーキミックスなどの前記熱安定な本スターチの使用を提供する。
【0027】
一般的に,でんぷんおよび食品業界用のでんぷん派生物が,冷水で不溶である。粘性および水結合は,過熱または料理することにより達成される。これらのでんぷんは料理用でんぷんと言われる。利便を図って,でんぷんはときどき,予めゼリー状に,すなわち予め料理され,乾燥される。これらのでんぷんはインスタントでんぷんとして参照され,加熱や料理することなく食品に利用される。予めゼリー状にすることは,スプレー料理,スプレー乾燥,ロール乾燥,ドラム乾燥,押し出し,水混和製有機溶剤で加熱すること,または従来から知られた他の方法により,達成され得る。
【0028】
本発明により,たとえば,当該でんぷんが,アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも約90:10の,塊茎または根のでんぷんである充填物またはトッピングが提供される。このような充填物またはトッピングは,たとえばさらに食肉,卵,ミルク,芳香剤のような非でんぷん製品から作られ,本発明にしたがった熱安定なでんぷんが唯一のでんぷん源である,風味のあるスナック充填物またはトッピングに適用される。このようなトッピングまたは充填物において,でんぷんの他の所望の性質もまた,一般的に,心地よい肌合いおよび外観をもつ製品とするために利用してもよい。
【0029】
本発明はまた,アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも90:10以下となるでんぷんから,さらになる,本発明にしたがった熱安定なでんぷんを含む充填物またはトッピングを提供する。一般に,果物充填物は,果物,または熱安定なでんぷんに見られる,アミロペクチン対アミロースの比をもたない通常のでんぷんを含む果物残部を有する。さらに,所望の安定性に至るように,本発明にしたがったでんぷんの使用に続き,たとえば所望の粘性特性をもつ製品を提供すべく,充填物またはトッピングに一般的に使用されたでんぷんを使用することは可能である。また,たとえばポテトをメッシュにしたものまたは風味のあるスナック用のポテトスライスも含む充填物のような品物が本発明にしたがった熱安定なでんぷんの使用から良いものとなり,たとえばベーキングの際に,より安定性をもつ。
【0030】
本発明の他の実施例において,本発明にしたがった充填物またはトッピングが,さらに,アルジネートペクチンまたはゼラチンのような親水コロイドをさらに含む。実験において,たとえば,本発明にしたがった熱安定なでんぷんで準備され,ベーカリークリームまたは果物充填物のようなベーカリー製品のベーキングについてのゲル強度および抵抗が一般的に,種々の食品内の異なったでんぷんの粘性がほぼ同じまたは少なくとも匹敵できるという事実にもかかわらず,一般的なポテトでんぷんまたはろうトウモロコシでんぷんで用意されたベーカリークリームのゲル強度よりも高いということを示している。このことは非常に都合のより焼きつき(bake-out percentage)とする。たとえば,ベーキングの際,非常に安定でないアルジネートのような親水コロイドを含むベーカリークリームにおいて,本発明にしたがった熱安定なでんぷんが,一般的なポテトでんぷん(31,28,26)およびとうトウモロコシでんぷん(24,18)で得られたベーキング安定性を越えた非常に優れたベーキング安定性(焼きつき割合,すなわち2,11,9,16)を示す。
【0031】
一般的なポテトでんぷんまたはろうトウモロコシでんぷんとの比較ととるために,レシピに,より熱安定な親水コロイドを含める必要がある。単に,最も安定な親水コロイドを使用して,本発明にしたがった熱安定なでんぷんで得られたこれら製品(すなわち,9,9,8,8,2)に対する,焼きつき割合を得ることは可能である。
【0032】
本発明はさらに,たとえば,ベーカリークリーム,果物もしくはパイ充填物,トッピングまたはグレーズのようなベーカリー製品に対する,でんぷんを含む充填物またはトッピングのメーキング安定性を改良するために,ベーカリー製品に対する充填物またはトッピングを作るために,アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも90:10である塊茎または根のでんぷんを使用することを提供する。この使用は,たとえばアミロース分子を約10−5%より少なく含む,本発明にしたがった熱安定なでんぷんを,前記充填物またはトッピングに添加することを含む。これとともに,本発明は,このようなクリーム,(果物)充填物,トッピングまたはグレーズを含む,前記ベーカリー製品の肌合いおよびおいしさは,ベーキング後,一般的に使用されているでんぷんまたはでんぷん派生物を使用するときの,肌合いおよびおいしさを越えて改良される方法を提供する。
【0033】
たとえば,例により示されているように,本発明により提供された,安定性を与える熱安定なでんぷんが,一般的に使用されるでんぷんがそうである以上に,ベーキング後,非常によいゲル強度または粘度(ベーキング安定性,焼きつきのように,またはベーキングの前後の粘度の比として表される)をベーカリークリームまたは果物充填物に与える。このことは一般的に使用されるろうとうもろこしでんぷんを越えた,味の良さをベーカリー製品に与えるばかりでなく,全体として必要と考えられるでんぷんの量を減少させ,または少ないアルジネートの使用または適度な熱安定なアルジネートのみの使用を可能にし,ベーカリー製品の安価な製造を可能にする。
【0034】
好適実施例において,本発明は,前記塊茎または根のでんぷんがポテトでんぷんを含むところの本発明にしたがった使用を提供する。本発明により提供される熱安定なでんぷんの使用は好適に,ポテトでんぷん,タピオカ,カンゾウ(sweetroot)でんぷん,ヤム(yam)でんぷん,麻(canna)でんぷんまたはマニホット(manihot)でんぷんから得ることができる,根または塊茎から導出される,アミロースのない,またはアミロペクチンの天然でんぷんで行われる。本発明の一好適実施例において,このような塊茎または根のでんぷんは,上述したように,アミロースのないポテト突然変異から導出される。本発明の他の実施例において,このような塊茎または根のでんぷんは,遺伝的に改変した植物,たとえば,遺伝的に改変したポテト植物種から導出される。このようなポテト植物種の例は,変種(variety)ApriorもしくはApropect,またはこれから導出された変種である。
【0035】
本発明はまた,ベーカリークリームへの,本発明にしたがった熱安定なでんぷんの使用(ここで,上記したような焼きつき割合の減少,すぐれたベーキング安定性を与える)を提供し,熱安定なでんぷんの果物充填物への使用を提供し,ベーキングの際に,粘性損失を減少し,または粘度の改良をする。
【0036】
本発明はまた,本発明にしたがったでんぷんを含む充填物またはトッピングを有するベーカリー製品を提供する。このようなベーカリー製品の例は,風味のあるスナックからペーストリー,ピザから果物パイに変わり,本発明にしたがった熱安定はでんぷんを含む,果物またはパイ充填物,トッピング,グレーズ,ペーストリーまたはケーキミックスのような,プリメイド(pre-made)またはレディーメイド(ready-made)のベーカリークリーム,プリメイドの充填物を含む。これら,および熱安定なでんぷんを有するトッピングまたは充填物を含む他の多くのものは,一般に使用されたでんぷんでできた製品を超えて,外観および肌合いを改良した。
【0037】
本発明はさらに,ベーカリー製品のための充填物またはトッピングに使用する,アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも90:10となる,塊茎または根のでんぷんを提供する。好適実施例において,前記でんぷんは,実験の説明において実施したように,ポテトでんぷんである。
【0038】
また,本発明は,ベーカリー製品またはベーカリー半製品への,熱安定なでんぷんまたは前記でんぷんから導出した派生物の使用を提供する。さらに,本発明は,熱安定なでんぷんまたは前記でんぷんから導出された派生物の使用からなり,ベーカリークリーム,(果物)充填物,トッピング,グレーズ,ペーストリーミックスまたはケーキミックスに熱安定性を与える方法を提供する。クリームまたは他の製品のベーキング安定性は,アルジネートまたは温度抵抗をもつ他の親水コロイドを適用すること,または過剰なアルジネートを使用することに代えて,本発明にしたがった熱安定なでんぷんを提供することにより改良され,これにともない,最終製品が親水コロイドのために所望の肌合いがなくなるが避けられる。
【0039】
本発明は,本発明を制限することなく,この記述の実験の部においてされに説明される。
【0040】
実験の部
方法
使用されたでんぷんは,一般的なポテトでんぷん(PS),ろうとうもろし(トウモロコシ)でんぷん(WMS)およびアミロースのない,基本的にアミロペクチン分子のみを含む,アミロペクチンポテトでんぷんである。
【0041】
本ベーカリークリームのレシピI
% g
インスタント改変でんぷん 20.00 80.0
全ミルクパウダー 30.00 120.0
粉末シュガー 47.50 190.0
アルジネートブレンド 2.25 9.0
着色剤/バニラ風味 0.25 1.0
*Lacticol F336(ベーキングに際して安定ではない)またはLacticol F616(より安定で,焼きつきをなくすとして知られている)(成分提供Danby food)
【0042】
調整手順
乾燥成分が混合される。
粉末化された配合物(400g)は,1000mlのタップ水に加えられ,ホバートミキサー(高速)を使用して,3分間攪拌される。
【0043】
本ベーカリークリームのレシピII
% g
本改変でんぷん 122.50 90.0
粉末シュガー 42.50 170.0
一水化デキストロース 10.50 42.0
低脂肪ミルクパウダー 16.75 67.0
Vanalata* 6.00 24.0
アルジネートブレンド* 1.50 6.0
着色剤/バニラ風味 0.25 1.0
*供給元 Kievit
**Lacticol F336
【0044】
調整手順
乾燥成分が混合される。
乾燥配合物は,1000mlのタップ水に加えられ,ホバートミキサー(高速)を使用して,以下の時間攪拌される。
1分 レベル1
1分レベル2および
レベル1で30秒
【0045】
果物充填物のレシピIII
% g
粉末シュガー 7 15
インスタント改変でんぷん 3,7 8
アップルジュース 89,3 192
【0046】
調整手順
乾燥成分は混合される。粉末化された配合物(23g)は,アップルジュース(192)に加えられ,ハンドミキサーを使用して,20秒間スピード1で攪拌される。粘性にある塊は250mlのビーカーに移され,20℃に温度制御された水浴に,30分浸けられる。
【0047】
焼きつき割合として表される,レシピIおよびIIのベーキング安定性
ベーキング安定性は,10分間(レシピI)または20分(レシピII)ベーキングしたとき,6.3cmのベーカリークリームのスライスの焼きつき(ベーキング処理の前後の,融解および後続の直径伸長)を測定することにより測定される。焼きつきは,ベーキングの後にみられる,ベーカリークリームの前記スライスの直径の伸長の割合として表される。焼きつきの割合が小さいほど,クリームのベーキング安定性はよりよい。
【0048】
充填物の粘度は,Brookfield LVFで測定される。配合物は175℃のオーブンで45分間ベーキングされる。粘度は再度測定される。ベーキング安定性は,ベーキングの前後の粘度の比として表される。比が低いほど,ベーキング安定性はよくなる。
【0049】
ゲル強度
ゲル強度Brookfield HATまたはStevensを使用して測定される。
【0050】
結果
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

1焼きつきの測定は調整直後,ベーキングされたベーカークリームに対してなされた。
2焼きつきの測定は調整1時間後,ベーキングされたベーカークリームに対してなされた。
【0053】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー製品のための,でんぷん含有充填物またはトッピングであって,
前記でんぷんが,アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも約90:10となる塊茎または根のでんぷんを含む,ところの充填物またはトッピング。
【請求項2】
改良された安定性をもつ,請求項1に記載の充填物またはトッピング。
【請求項3】
改良された熱安定性をもつ,請求項1または2に記載の充填物またはトッピング。
【請求項4】
前記塊茎または根のでんぷんはポテトでんぷんを含む,請求項1ないし3のいずれかに記載の充填物またはトッピング。
【請求項5】
前記塊茎または根のでんぷんは遺伝子的に改変した植物から導出される,請求項1ないし4のいずれかに記載の充填物またはトッピング。
【請求項6】
前記塊茎または根のでんぷんは二でんぷんリン酸塩または二でんぷんアジピン酸塩のような架橋されたでんぷんである,請求項1ないし5のいずれかに記載の充填物またはトッピング。
【請求項7】
前記塊茎または根のでんぷんはでんぷんアセテートのような安定化したでんぷんである,請求項1ないし6のいずれかに記載の充填物またはトッピング。
【請求項8】
前記塊茎または根のでんぷんはインスタントでんぷんである,請求項1ないし7のいずれかに記載の充填物またはトッピング。
【請求項9】
前記でんぷんは,アミロペクチン:アミロースの比が少なくとも約90:10となる塊茎または根のでんぷんである,請求項1ないし8のいずれかに記載の充填物またはトッピング。
【請求項10】
さらに,アミロペクチン:アミロースの比が約90:10より小さいでんぷんを含む,請求項1ないし8のいずれかに記載の充填物またはトッピング。
【請求項11】
さらに,親水コロイドを含む,請求項1ないし10のいずれかに記載の充填物またはトッピング。
【請求項12】
ベーカリー製品用の充填物またはトッピングを生産するための,アミロペクチン:アミロースの比がすくなくとも90:10である塊茎または根のでんぷんの使用。
【請求項13】
前記塊茎または根のでんぷんは,ポテトでんぷんを含む,請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記塊茎または根のでんぷんは,遺伝的に改変された植物から導出される,請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
ベーカリークリームまたは果物充填物における,請求項12ないし14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
請求項1ないし11のいずれかにしたがった,でんぷん含有充填剤またはトッピングを含むベーカリー製品。
【請求項17】
ベーカリー製品のための充填物またはトッピングにおいて使用する,アミロペクチン:アミロースの比がすくなくとも約90:10である塊茎または根のでんぷん。

【公開番号】特開2009−125(P2009−125A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209410(P2008−209410)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【分割の表示】特願2000−561839(P2000−561839)の分割
【原出願日】平成11年7月26日(1999.7.26)
【出願人】(500561528)
【Fターム(参考)】