説明

熱安定性に優れた位相差フィルム

【課題】ポリカーボネートからなる位相差フィルムであって、ガラスに貼合した際、環境温度変化に対して位相差変化が小さい位相差フィルムを提供する。
【解決手段】下記式(1)を満足する光学特性を有する位相差フィルムとする。Δnav=(nx+ny)/2−nz≧0.005(1)(但し、フィルムの遅相軸方向・進相軸方向、及び、厚さ方向の30℃における屈折率をそれぞれ、nx、ny、nzとする。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差の熱安定性に優れた位相差フィルムに関する。本発明は、特に、ポリカーボネート系の位相差フィルムであり、下記式(1)を満足する光学特性を有する位相差フィルム及びその製造方法に関する。
Δnav=(nx+ny)/2−nz ≧ 0.005 (1)
但し、フィルムの遅相軸方向・進相軸方向、及び、厚さ方向の30℃における屈折率をそれぞれ、nx、ny、nz とする。
【背景技術】
【0002】
近年、位相差フィルムは液晶ディスプレィを始めとし、反射防止用としてELディスプレィやタッチパネルなど、その応用範囲を広げてきている。
【0003】
なかでも、ポリカーボネートからなる位相差フィルムは、安価な材料から構成され、また、配向複屈折が大きく複屈折の付与が容易であり、広く応用されている。(非特許文献1)
位相差フィルムを利用する場合、フィルム単独で用いることは少なく、偏光板などと共にガラスなどの基材に粘着剤を用いて貼合され用いられることが多い。貼合された位相差フィルムは環境温度の変化により収縮膨張するが、粘着剤で基材に貼合されているため、自由に収縮膨張することが出来ず、基材との収縮率や膨張率差に起因する応力を受けることになる。
【0004】
ガラスに貼合した場合、加熱により位相差フィルムは膨張しようとするが、基材のガラスは膨張率が小さい為、位相差フィルムはガラスより圧縮応力を受け、厚み方向への膨張をすることとなる。この時、位相差フィルムの有する光弾性により、厚み方向の屈折率が変化し、位相差フィルムの三次元屈折率(すなわち、nx、ny、および、nz)が変化し、下式(2)や(3)で表される、フィルムの位相差(Re)や厚み方向の位相差(Rth)が、温度に依存することとなる。
Re=(nx−ny)×d (2)
Rth={(nx+ny)/2 − nz}×d (3)
但し、dはフィルムの厚さを示す。
【0005】
ポリカーボネートは、比較的光弾性が大きく、位相差が光学的に最適に設計されたものから大きくズレを生じるため、表示特性の劣化をもたらす場合がある。
【0006】
このズレを防止するために、光弾性の小さな材料からなる位相差フィルムが提案され、シクロオレフィン系やセルロース系の位相差フィルムが広く知られている(特許文献1、2)。しかし、これらの材料は、配向複屈折も小さくなり、大きな複屈折を付与することが難しく、必要とする位相差を得るためにフィルムの厚さdを大きくしなければならず、フィルム製膜がしにくくなる他、貼合品の厚さも厚くなり、表示装置の薄型化に支障を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−2108号公報
【特許文献2】特開2002−22943号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本液晶学会誌、9巻、第4号、227頁(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリカーボネートからなる位相差フィルムであって、ガラスに貼合した際、環境温度変化に対して位相差変化が小さい位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の複屈折を付与することにより、位相差フィルムをガラスに貼合した際、環境温度変化に対して位相差変化の小さい位相差フィルムを得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に関する。
(I)ポリカーボネート系の位相差フィルムであり、下記式(1)を満足する光学特性を有する位相差フィルム。
Δnav=(nx+ny)/2−nz ≧ 0.005 (1)
(但し、フィルムの遅相軸方向・進相軸方向、及び、厚さ方向の30℃における屈折率をそれぞれ、nx、ny、nz とする。)
(II)(I)記載のフィルムを有することを特徴とする偏光フィルム。
(III)(I)又は(II)記載のフィルムを搭載してなる液晶表示装置。
(IV)フィルムを逐次二軸延伸することを特徴とする、(I)記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明位相差フィルムは、ガラスに貼合した際、環境温度変化に対して位相差変化の小さい位相差フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ポリカーボネート系の位相差フィルムであり、下記式(1)を満足する光学特性を有する位相差フィルムに関する。
Δnav=(nx+ny)/2−nz ≧ 0.005 (1)
(但し、フィルムの遅相軸方向・進相軸方向、及び、厚さ方向の30℃における屈折率をそれぞれ、nx、ny、nz とする。)
「ポリカーボネート系の位相差フィルム」とは、ポリカーボネート樹脂を主成分として含有する位相差フィルムのことである。
【0014】
本発明のポリカーボネート系の位相差フィルムは、ポリカーボネート樹脂を主成分として含有する高分子フィルム(未延伸フィルム)を延伸することで得られる。
【0015】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂について特に制約はない。ポリカーボネート樹脂とは、一般には、フェノール誘導体と、ホスゲン、ジフェニルカーボネート等からの重縮合で得られる樹脂であり、通常、ビスフェノール−Aと呼称されている2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンをビスフェノール成分とするポリカーボネートが好ましく選ばれるが、適宜各種ビスフェノール誘導体を選択することで、ポリカーボネート共重合体を構成することが出来る。
【0016】
かかる共重合成分としてこのビスフェノール−A以外に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン等をあげることができる。また、一部にテレフタル酸および/またはイソフタル酸成分を含むポリエステルカーボネートを使用することも可能である。
【0017】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、10,000以上200,000以下であれば、好適に用いられる。2万〜12万が特に好ましい。粘度平均分子量が10,000より低いと得られるフィルムの機械的強度が不足する場合があり、また400,000以上の高分子量になるとフィルム化の際、溶融粘度や溶液粘度が大きくなり過ぎ取扱い上問題を生じるので好ましくない。
【0018】
上記の原料樹脂は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。また、上記の原料樹脂は、任意の適切なポリマー変性を行ってから用いることもできる。上記ポリマー変性の例としては、共重合、架橋、分子末端、立体規則性等の変性が挙げられる。
【0019】
本発明で使用する高分子フィルムは各種方法で成形することができるが、例えば有機溶剤に樹脂を溶解して溶液(ドープ)を調整しドープを支持体上にキャストし加熱により溶剤を乾燥してフィルム化するキャスティング法や、樹脂を溶融してTダイなどから押出してフィルム化する溶融押出し法により得ることができる。溶液キャスティング法の場合、溶液粘度は500〜100,000cps程度であることが好ましい。
【0020】
また、成形した高分子フィルムの片面又は両面にさらにグラビアコーターなどによって薄膜層を形成し、積層フィルムとしても良い。
【0021】
前記高分子フィルムには、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑剤、安定剤、残存溶媒、帯電防止剤、紫外線吸収剤など、その他の成分を必要に応じて含有させることができる。また、表面粗さを小さくするため、レベリング剤を添加することもできる。これらは樹脂との相溶性の良いものが好ましい。
【0022】
前記高分子フィルムの厚みの範囲は、設計する位相差値や延伸性、位相差の発現性等に応じて選択できるが、10〜100μmのものが好ましく用いられる。より好ましくは、10〜80μmである。上記の範囲であれば、フィルムの十分な自己支持性が得られ、広範囲の位相差値を得ることができる。
【0023】
前記高分子フィルムの光線透過率及びヘイズについては、液晶表示装置の輝度やコントラストへの影響を低減するため、波長590nmにおいて光線透過率は85%以上が好ましく、より好ましくは、90%以上である。また、ヘイズは2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下である。得られる位相差フィルムについても同様の光線透過率およびヘイズであることが好ましい。光線透過率及びヘイズについては、JIS K 7105に準じた積分球式ヘイズメーターを用いて測定する。
【0024】
前記高分子フィルムのガラス転移温度(Tg)は、特に制限はないが、110〜200℃ であることが好ましい。Tg が110℃以上であれば、耐久性の高いフィルムが得やすくなり、200℃以下の温度であれば延伸によってフィルム面内及び厚み方向の位相差値を制御しやすい。より好ましくは120〜195℃ である。特に好ましくは、130〜195℃ である。Tg は、JIS K 7121に準じたDSC法により求めた値である。
【0025】
特に、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂を用い、溶液製膜あるいは溶融製膜されたフィルムが最も好ましい。
【0026】
本発明位相差フィルムは、式(1)で与えられる複屈折を有している必要がある。
Δnav=(nx+ny)/2−nz ≧ 0.005 (1)
但し、フィルムの遅相軸方向・進相軸方向、及び、厚さ方向の30℃における屈折率をそれぞれ、nx、ny、nz とする。
Δnavの範囲は0.005以上が必要である。好ましくは0.010以上であり、より好ましくは0.015以上である。また、0.005より小さい複屈折では、位相差変化が大きくなり実用に耐えることができない。
【0027】
本発明の位相差フィルムは上記式(1)で表される複屈折を有していることにより、ガラスに貼合した場合、環境温度変化に対して位相差変化が小さい位相差フィルムを提供できる。
【0028】
位相差フィルムは、用途に応じて必要とされる位相差が異なるため、本発明複屈折範囲を満足する範囲で、目的に応じてフィルム厚み・複屈折を適当に選択することができる。
【0029】
上述の高分子フィルムに複屈折を付与する延伸方法としては、ロール延伸機やテンター延伸機を用いて、公知のフィルム延伸技術を制限無く用いることができる。
【0030】
上記式(1)を満たすように適宜延伸方法を組み合わせて用いることができる。好ましくは、ポリカーボネート樹脂を二軸延伸する方法であり、特に好ましくは逐次二軸延伸である。必要とされる延伸倍率は、延伸温度との兼ね合いで決定されるが、縦方向に1.1倍以上、特に好ましくは1.2倍以上、横方向に1.1倍以上、特に好ましくは1.2倍以上である。上限は、特に制限されないが、縦方向及び横方向ともに10倍以下が好ましい。10倍をこえる延伸倍率は、フィルムが破断するなどの問題を引き起こし好ましくない。また、縦方向と横方向との比率は、必要とするReやRthの値により適宜決定される。
【0031】
好ましい延伸温度は、樹脂のTgに依存する。一般には、好ましい延伸温度は、Tg−20℃からTg+10℃の範囲である。
【0032】
本発明位相差フィルムは、偏光フィルムと一体化して用いることができる。すなわち、本発明位相差フィルムを偏光フィルムと粘着剤を用いて貼合し、更に液晶表示装置に積層貼合して用いることができる。また、偏光子保護フィルムとしての機能も兼ね合わせ、接着剤や粘着剤を用いて、偏光子と直接積層一体化して用いることも可能である。本発明位相差フィルムは、広く液晶表示装置に用いることができるが、特に、パッシブ駆動型の垂直配向した液晶表示装置(VA液晶表示装置)に好適である。
【実施例】
【0033】
本発明について、実施例及び比較例をあげて具体的に説明するが、本実施例は本
発明を限定するものではない。なお、各種物理物性や光学特性の測定方法は、以下
の通りである。
(1)位相差(Re)、厚み方向複屈折
王子計測機器(株)製自動複屈折計KOBRA−WRを用いて、測定波長59
0nmの値で測定を実施した。
(2)厚み方向複屈折
遅相軸を中心とし、31°にサンプルを傾斜させ位相差(Re‘)を測定し、Re、Re’及び傾斜角度を用いて公知の方法によりnx,ny,nzを算出し、ΔnavとRthを算出した。
(3)温度依存性
温度制御機構付の透明なホットプレートの上にサンプルを乗せ、所定の温度に加温した後、Re及びRe‘を(1)、(2)に従って測定した。
(4)Rth変動
30℃で測定したRth(30)と、80℃で測定したRth(80)を用い、下記式(5)により、フィルム厚50μmに換算したRthの差(ΔRth)を求めた。
ΔRth=(Rth(30)−Rth(80))×50/d
(6)厚み
アンリツ(株)製触針式厚み計KG601Aを使用し、幅手方向の厚さを測定した。
【0034】
(実施例1)
ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂を用いて、塩化メチレンを溶剤として製膜した厚み65μmの原反フィルムを用い、152℃にて1.37倍延伸した後、150℃にて1.43倍延伸した。得られた位相差フィルムを、粘着剤を用いて4cm×5cmのガラス板(厚さ1.2mm)に貼合した。このとき、粘着剤の厚みは10μmでありフィルムの厚さは58μmであった。
【0035】
ガラスに貼合したサンプルの30℃における位相差Reは14.0nm、Rthは965.7nmであり、ポリカーボネートの平均屈折率1.59を用いて計算した三次元屈折率は nx=1.59566、ny=1.59542、nz=1.57892 であった。また、30℃でのΔnavは、0.0166であった。このサンプルを、80℃に加熱し、80℃での位相差を同様に測定したところ、Re=14.3nm、Rth=934.5nm、nx=1.59548、ny=1.59524、nz=1.57928 であった。30℃と80℃でのRth変動は31.5nmであり、フィルム厚50μmに換算したRth変動(ΔRth)は26.8nmであった。
【0036】
(実施例2〜8)
原反フィルムの厚みや延伸倍率を変えて、各種位相差を有する位相差フィルムを作成した。実施例1と同様にしてガラス貼合サンプルを作成し温度依存性を測定した。結果を表1に示した。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様の原反を用い、150℃にて縦一軸延伸を行い、65μm厚の位相差フィルムを得た。このフィルムを、実施例1と同様にしてガラス貼合サンプルを作成し、温度依存性を測定した。30℃では、それぞれ、Re=127.7nm、Rth=68.0nm、nx=1.59133、ny=1.58937、nz=1.58930 であり、Δnavは0.001であった。また、80℃では、Re=124.3nm、Rth=−44.2nmであった。これは、フィルム厚50μmに換算したRth変動(ΔRth)は96.4nmと大きな値を示した。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系の位相差フィルムであり、下記式(1)を満足する光学特性を有する位相差フィルム。
Δnav=(nx+ny)/2−nz ≧ 0.005 (1)
(但し、フィルムの遅相軸方向・進相軸方向、及び、厚さ方向の30℃における屈折率をそれぞれ、nx、ny、nz とする。)
【請求項2】
請求項1記載のフィルムを有することを特徴とする偏光フィルム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のフィルムを搭載してなる液晶表示装置。
【請求項4】
フィルムを逐次二軸延伸することを特徴とする、請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−237541(P2010−237541A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86733(P2009−86733)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】