説明

熱延鋼板の冷却方法

【課題】仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に周期的に波高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を均一に冷却する。
【解決手段】予め、熱延鋼板の波形状の急峻度と熱延鋼板の通板速度を所定の値に揃えた条件下で求められた、熱延鋼板の上面側の上側冷却装置と熱延鋼板の下面側の下側冷却装置によって冷却される熱延鋼板の熱伝達特性に基づき、前記所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面の平均熱伝達係数の比率である上下熱伝達係数比率を変更させ、その際に発生する熱延鋼板の圧延方向の温度の標準偏差と上下熱伝達係数比率との関係を線図で求め、さらに当該線図に基づいて温度の標準偏差が最小値となる上下熱伝達係数比率を導出する。前記導出された上下熱伝達係数比率の場合に前記所定の冷却区間における熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量が等しいとして、当該上下熱伝達係数比率で熱延鋼板を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に周期的に波高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を冷却する熱延鋼板の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車及び産業機械等に使用される熱延鋼板は、一般に、粗圧延工程及び仕上圧延工程を経て製造される。図16は、従来の熱延鋼板の製造方法を模式的に示す図である。熱延鋼板の製造工程においては、先ず、所定の組成に調整した溶鋼を連続鋳造して得たスラブSを粗圧延機101により圧延した後、さらに複数の圧延スタンド102a〜102dで構成される仕上圧延機103により熱間圧延して、所定の厚さの熱延鋼板Hを形成する。そして、この熱延鋼板Hは、冷却装置111により冷却水が注水されることにより冷却された後、巻取装置112によりコイル状に巻き取られる。
【0003】
冷却装置111は、一般に仕上圧延機103から出てきた熱延鋼板Hに対していわゆるラミナー冷却を施すための設備である。この冷却装置111は、ランナウトテーブル上を移動する熱延鋼板Hの上面に対して冷却ノズルにより垂直方向から冷却水を噴流水として噴射させると共に、さらに熱延鋼板Hの下面からパイプラミナーを介して噴流水として冷却水を噴射させ、熱延鋼板Hを冷却する。
【0004】
そして、従来において例えば特許文献1には、厚鋼板の上下面の表面温度差を低減させることにより、鋼板の形状不良を防止する技術が開示されている。この特許文献1における開示技術によれば、冷却装置による冷却時において鋼板の上面、下面の表面温度を温度計で同時に測定して得られた表面温度差に基づいて、鋼板の上面と下面に供給する冷却水の水量比を調整する。
【0005】
また、例えば特許文献2には、圧延機出側に設置した急峻度計により、鋼板先端の急峻度を測定し、測定した急峻度に応じて冷却水流量を幅方向に変えて調整することにより、鋼板の穴あきを防止する技術が開示されている。
【0006】
さらに、例えば特許文献3には、熱延鋼板の板幅方向における波形状の板厚分布を解消し、板幅方向においてこれを均一化させることを目的とし、鋼板の幅方向における最高熱伝達率と最低熱伝達率との差が所定値の範囲になるように制御する技術が開示されている。
【0007】
ここで、図16に示した上述した方法により製造される熱延鋼板Hは、例えば図17に示すように冷却装置111におけるランナウトテーブル(以降、「ROT」と記載する場合がある。)の搬送ロール120上で圧延方向(図17中の矢印方向)に波形状を生ずる場合がある。かかる場合、熱延鋼板Hの上面と下面の冷却にバラツキが生じてしまう。すなわち、熱延鋼板H自身が有する形状に起因した冷却偏差により均一冷却を行うことができなくなるという問題点があった。
【0008】
そこで、例えば特許文献4には、圧延方向に波形状が形成された鋼板において、当該鋼板の冷却を均一化するため、鋼板の上部の乗り水の影響と下部の距離の影響を最小化するように、上部冷却と下部冷却の冷却能を同一にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−74463号公報
【特許文献2】特開2005−271052号公報
【特許文献3】特開2003−48003号公報
【特許文献4】特開平6−328117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の冷却方法は、熱延鋼板が圧延方向に波形状を有する場合を考慮していない。すなわち、特許文献1では、熱延鋼板の波の位置によって表面高さが異なるために、温度の標準偏差が圧延方向に異なることを考慮していない。したがって、このように波形状が形成された熱延鋼板を均一に冷却することができない場合がある。
【0011】
また、特許文献2の冷却方法では、鋼板幅方向に急峻度を測定して当該急峻度の高い部分の冷却水流量を調整している。しかしながら、板幅方向の冷却水流量を変更すると、当該鋼板の板幅方向の温度を均一にするのは困難となる。さらに、特許文献2においても、熱延鋼板が圧延方向に波形状を有する場合を考慮しておらず、上述したように熱延鋼板を均一に冷却することはできない場合がある。
【0012】
また、特許文献3の冷却は、仕上圧延機ロールバイトの直前における熱延鋼板の冷却であるため、仕上圧延されて所定の厚みになった熱延鋼板に適用できない。さらに、特許文献3においても、熱延鋼板が圧延方向に波形状を有する場合を考慮しておらず、上述したように熱延鋼板を均一に冷却することはできない場合がある。
【0013】
また、特許文献4の冷却方法において、上部冷却の冷却能には、上部注水ノズルから鋼板に供給される冷却水による冷却に加えて、鋼板の上部の乗り水による冷却も含まれる。この乗り水は、鋼板に形成された波形状の急峻度や鋼板の通板速度によって影響されるため、厳密に乗り水による鋼板の冷却能を特定することはできない。そうすると、上部冷却の冷却能を正確に制御することが困難である。このため、上部冷却と下部冷却の冷却能を同一にすることも困難である。しかも、上部冷却と下部冷却の冷却能を同一にするに際し、これら冷却能の決定方法の一例は例示されているものの、普遍的な決定方法は開示されていない。したがって、特許文献4の冷却方法は、熱延鋼板を均一に冷却できない場合がある。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に周期的に波高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を均一に冷却することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するため、本発明は、仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に周期的に波高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を冷却する方法であって、所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を等しくして、当該熱延鋼板を冷却することを特徴としている。なお、所定の冷却区間とは、冷却装置によって熱延鋼板が冷却される区間をいう。
【0016】
熱延鋼板を冷却する際に、前記所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を等しくするため、予め求められた、熱延鋼板の上面側の上側冷却装置と熱延鋼板の下面側の下側冷却装置によって冷却される熱延鋼板の熱伝達特性に基づき、前記所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面の平均熱伝達係数を等しくして、熱延鋼板を冷却してもよい。なお、平均熱伝達係数とは、熱延鋼板の熱伝達係数を、所定の圧延方向の長さで平均したものである。ここで、所定の圧延方向の長さとは、例えば1〜10mの範囲の任意な長さとする。また、熱伝達係数は、冷却能力を具体的に定量化したものであり、冷却能力を強めるということは、状態として熱伝達係数を高めることであり、その手段として冷却水量密度を高めること、冷却水衝突圧力を上げること、等を含む。
【0017】
別な観点による本発明は、仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に周期的に波高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を冷却する方法であって、熱延鋼板を冷却する際に、所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を等しくするため、予め、熱延鋼板の波形状の急峻度と熱延鋼板の通板速度を所定の値に揃えた条件下で求められた、熱延鋼板の上面側の上側冷却装置と熱延鋼板の下面側の下側冷却装置によって冷却される熱延鋼板の熱伝達特性に基づき、前記所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面の平均熱伝達係数の比率である上下熱伝達係数比率を変更させ、その際に発生する熱延鋼板の圧延方向の温度の標準偏差と前記上下熱伝達係数比率との関係を線図で求め、さらに当該線図に基づいて前記温度の標準偏差が最小値となる前記上下熱伝達係数比率を導出し、前記導出された上下熱伝達係数比率の場合に前記所定の冷却区間における熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量が等しいとして、当該上下熱伝達係数比率で熱延鋼板を冷却することを特徴としている。なお、波形状の急峻度とは、波形状の振幅を1周期分の長手方向長さで割った値であり、急峻度の値及び熱延鋼板の通板速度の値は、操業条件や設備条件に応じて所定の値に定まる。
【0018】
前記所定の冷却区間において熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量が等しいとする領域は、前記温度の標準偏差が最小値から10℃以内となる領域であって、前記領域において前記上下熱伝達係数比率を設定して、熱延鋼板を冷却してもよい。
【0019】
熱延鋼板を冷却する際に、予め、前記急峻度と前記通板速度のそれぞれについて、前記上下熱伝達係数比率に対する前記温度の標準偏差の回帰式を求めておき、当該回帰式による急峻度又は通板速度の感度を補正してもよい。
【0020】
前記急峻度と前記通板速度についての前記回帰式は、線形回帰により導出されてもよい。
【0021】
前記回帰式を用いて、実際の前記温度の標準偏差の値に対する上下熱伝達係数比率と、前記温度の標準偏差がゼロとなる上下熱伝達係数比率との偏差分を求め、当該偏差分を用いて、熱延鋼板を冷却する際の前記上下熱伝達係数比率を修正してもよい。
【0022】
少なくとも前記急峻度又は前記通板速度に対する前記線図を、段階的に、前記上下熱伝達係数比率に対してテーブル化してもよい。
【0023】
前記冷却された熱延鋼板の温度を時系列で測定し、前記温度の時系列平均値が所定の目標値に一致するように、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量の合計値を調整してもよい。なお、所定の目標値は、製品毎に定められる熱延鋼板の冷却途中及び捲取機前の定点における操業上の目標温度である。
【0024】
我々のこれまでの実ラインにおけるデータを整理した結果、前記冷却された熱延鋼板の温度を測定した点と同一点で熱延鋼板の高さ方向の変動速度(即ち熱延鋼板の波形状の変化)を時系列で測定し、前記冷却された熱延鋼板の温度を測定した点と同一点の熱延鋼板の高さ方向の変動速度を時系列で測定し、
熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量の相対的バランスについては熱延鋼板の重力と反対方向を正とした場合において、
前記変動速度が正の領域で、熱延鋼板の波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して熱延鋼板の温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させ、熱延鋼板の温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させるように増減の方向を決定し、
前記変動速度が負の領域で、熱延鋼板の波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して熱延鋼板の温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させ、熱延鋼板の温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させるように増減の方向を決定し、
熱延鋼板を冷却する際に、前記所定の冷却区間での上面及び下面からの冷却抜熱量を調整することで、鋼板の温度の標準偏差が小さくなる事を発見した。なお、変動速度と温度を測定する点のずれは50mm以内であることが望ましい。
【0025】
前記冷却区間を圧延方向に複数の冷却ゾーンに分割し、前記冷却ゾーンの境において熱延鋼板の温度と波形状を測定し、当該測定結果に基づいて、前記冷却ゾーンにおける熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を調整する、フィードバック制御又はフィードフォワード制御を行ってもよい。
【0026】
前記冷却ゾーンの境において、熱延鋼板の温度と波形状に加えて少なくとも前記急峻度又は前記通板速度を測定し、当該測定結果に基づいて、前記冷却ゾーンにおける熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を補正してもよい。
【0027】
熱延鋼板を冷却した後、当該熱延鋼板の温度の標準偏差が許容される範囲に入るように、前記上側冷却装置から熱延鋼板の上面に冷却水をさらに噴出させると共に前記下側冷却装置から熱延鋼板の下面に冷却水をさらに噴出させてもよい。
【0028】
前記上側冷却装置と前記下側冷却装置は、それぞれ冷却水を噴出する複数のヘッダーを有し、前記上側冷却装置と前記下側冷却装置の冷却能力は、前記各ヘッダーをオンオフ制御することによって調整されてもよい。
【0029】
前記上側冷却装置と前記下側冷却装置は、それぞれ冷却水を噴出する複数のヘッダーを有し、前記上側冷却装置と前記下側冷却装置の冷却能力は、前記各ヘッダーの水量密度、圧力、水温のいずれか又は2つ以上の冷却能力を制御することによって調整されてもよい。
【0030】
熱延鋼板の冷却は、熱延鋼板の温度が600℃以上の範囲で行われてもよい。
【発明の効果】
【0031】
発明者らが鋭意検討した結果、
「予め、複数の試験条件で測定された熱延鋼板の温度と波形状に基づいて、熱延鋼板の上面と下面における平均熱伝達係数を推定し、前記平均熱伝達係数の上下で等しい点を挟んだ両側で、熱延鋼板の波形状の急峻度と通板速度のそれぞれについて、上下熱伝達係数比率に対する熱延鋼板の圧延方向の温度の標準偏差の回帰式を求めておき、
実際の操業条件での急峻度及び通板速度における前記回帰式に基づいて、温度の標準偏差の値が許容される上下熱伝達係数比率範囲を求め、当該上下熱伝達係数比率範囲内に、目標の上下熱伝達係数比率を設定し、
前記目標の上下熱伝達係数比率になるように、前記上側冷却装置から熱延鋼板の上面に冷却水を噴出させると共に前記下側冷却装置から熱延鋼板の下面に冷却水を噴出させる」ことで、上側冷却装置と下側冷却装置の冷却能力を調整して長手方向に均一に冷却できることが分かった。
【0032】
すなわち、熱延鋼板の上面と下面における上下熱伝達係数比率を変動させ、上下熱伝達係数比率と熱延鋼板の圧延方向の温度の標準偏差との関係を導出し、当該温度の標準偏差の最小点を求める。この際、最小点を探索する方法としては、この他にも、例えば2分法、黄金分割法、ランダムサーチ等の種々の探索アルゴリズムを用いることができる。そうすると、熱延鋼板を冷却する際に、予め、温度の標準偏差が最小となる上下熱伝達係数比率を求めることができ、上側冷却装置と下側冷却装置の冷却能力を適切に調整することができる。したがって、その後、調整された冷却能力で熱延鋼板を冷却することで、当該熱延鋼板を均一に冷却することができる。
【0033】
また、発明者らがさらに調べたところ、熱延鋼板の高さ方向の変動速度と同一点の温度を時系列で測定し、
前記温度の時系列平均値が所定の目標値に一致するように、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量の合計値を調整し、
熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量の相対的バランスについては熱延鋼板の重力と反対方向を正とした場合において、
前記変動速度が正の領域で、熱延鋼板の波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して熱延鋼板の温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させ、熱延鋼板の温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させるように増減の方向を決定し、
前記変動速度が負の領域で、熱延鋼板の波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して熱延鋼板の温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させ、熱延鋼板の温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させるように増減の方向を決定することで、鋼板の温度の標準偏差が小さくなる事を発見した。
【0034】
また、同一点の熱延鋼板温度と通板速度を測定すれば、この知見を用いることで、温度の標準偏差を小さくするために、上側冷却装置の冷却能力(以下、単に「上側冷却能力」という場合がある。)や下側冷却装置の冷却能力(以下、単に「下側冷却能力」という場合がある。)を調整する方向が明確となり、フィードバック制御やフィードフォワード制御を行うこともできることが分かった。
【0035】
本発明によれば、仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に周期的に波高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を均一に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施の形態における熱延鋼板の冷却方法を実現するための熱間圧延設備を示す説明図である。
【図2】熱間圧延設備において配設される冷却装置の構成の概略を示す説明図である。
【図3】上下熱伝達係数比率と温度の標準偏差との関係を示すグラフである。
【図4】温度の標準偏差の最小点を探索するための説明図である。
【図5】通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の熱延鋼板の温度変動と急峻度の関係を示すグラフであって、(a)はコイル先端からの距離或いは定点経過時間に対する温度変動を示すグラフであり、(b)は(a)の距離または定点経過時間に対する急峻度を示すグラフである。
【図6】通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の熱延鋼板の温度変動と急峻度の関係を示すグラフである。
【図7】熱延鋼板の変動速度が正の領域で熱延鋼板の平均温度に対して熱延鋼板の温度が低く、変動速度が負の領域で熱延鋼板の温度が高くなったと温度変動が検出された場合に、上面側の冷却抜熱量を減少させ、下面側の冷却抜熱量を増加させたときの熱延鋼板の温度変動と急峻度の関係を示すグラフである。
【図8】熱延鋼板の変動速度が正の領域で熱延鋼板の平均温度に対して熱延鋼板の温度が低く、変動速度が負の領域で熱延鋼板の温度が高くなったと温度変動が検出された場合に、上面側の冷却抜熱量を増加させ、下面側の冷却抜熱量を減少させたとき場合の熱延鋼板の温度変動と急峻度の関係を示すグラフである。
【図9】熱延鋼板の急峻度と温度の標準偏差との関係を示すグラフである。
【図10】熱延鋼板の急峻度毎に、上下熱伝達係数比率と温度の標準偏差との関係を示したグラフである。
【図11】熱延鋼板の通板速度と温度の標準偏差との関係を示すグラフである。
【図12】熱延鋼板の通板速度毎に、上下熱伝達係数比率と温度の標準偏差との関係を示したグラフである。
【図13】他の実施の形態にかかる熱間圧延設備において冷却装置付近の構成の概略を示す説明図である。
【図14】他の実施の形態にかかる熱間圧延設備において冷却装置付近の構成の概略を示す説明図である。
【図15】熱延鋼板の板幅方向に温度の標準偏差が形成された様子を示す説明図である。
【図16】従来の熱延鋼板の製造方法を示す説明図である。
【図17】従来の熱延鋼板の冷却方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態として、例えば自動車及び産業機械等に使用される熱延鋼板の冷却方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0038】
図1は、本実施の形態における熱延鋼板の冷却方法を実現するための熱間圧延設備1の例を模式的に示している。この熱間圧延設備1は、加熱したスラブSをロールで上下に挟んで連続的に圧延し、最小1mmまで薄くしてこれを巻き取ることを目的とする。熱間圧延設備1は、スラブSを加熱するための加熱炉11と、この加熱炉11において加熱されたスラブSを幅方向に圧延する幅方向圧延機16と、この幅方向に圧延されたスラブSを上下方向から圧延して粗バーにする粗圧延機12と、粗バーをさらに所定の厚みまで連続して熱間仕上圧延をする仕上圧延機13と、この仕上圧延機13により熱間仕上圧延された熱延鋼板Hを冷却水により冷却する冷却装置14と、冷却装置14により冷却された熱延鋼板Hをコイル状に巻き取る巻取装置15とを備えている。
【0039】
加熱炉11には、装入口を介して外部から搬入されてきたスラブSに対して、火炎を吹き出すことによりスラブSを加熱するサイドバーナ、軸流バーナ、ルーフバーナが配設されている。加熱炉11に搬入されたスラブSは、各ゾーンにおいて形成される各加熱帯において順次加熱され、さらに最終ゾーンにおいて形成される均熱帯において、ルーフバーナを利用してスラブSを均等加熱することにより、最適温度で搬送できるようにするための保熱処理を行う。加熱炉11における加熱処理が全て終了すると、スラブSは加熱炉11外へと搬送され、粗圧延機12による圧延工程へと移行することになる。
【0040】
粗圧延機12は、搬送されてきたスラブSにつき、複数スタンドに亘って配設される円柱状の回転ロールの間隙を通過させる。例えば、この粗圧延機12は、第1スタンドにおいて上下に配設されたワークロール12aのみによりスラブSを熱間圧延して粗バーとする。次にこのワークロール12aを通過した粗バーをワークロールとバックアップロールとにより構成される複数の4重圧延機12bによりさらに連続的に圧延する。その結果、この粗圧延工程終了時に粗バーは、厚さ30〜60mm程度まで圧延され、仕上圧延機13へと搬送されることになる。
【0041】
仕上圧延機13は、搬送されてきた粗バーを数mm程度まで仕上げ圧延する。これら仕上圧延機13は、6〜7スタンドに亘って上下一直線に並べた仕上げ圧延ロール13aの間隙に粗バーを通過させ、これを徐々に圧下していく。この仕上圧延機13により仕上げ圧延された熱延鋼板Hは、後述する搬送ロール32により搬送されて冷却装置14へと送られることになる。
【0042】
冷却装置14は、仕上圧延機13から出てきた熱延鋼板Hに対していわゆるラミナー冷却を施すための設備である。この冷却装置14は、図2に示すように、ランナウトテーブルの搬送ロール32上を移動する熱延鋼板Hに対して冷却口31により上側から冷却水を噴出させる上側冷却装置14aと、熱延鋼板H下面に対して下側から冷却水を噴出させる下側冷却装置14bとを備えている。冷却口31は、上側冷却装置14a並びに下側冷却装置14bのそれぞれについて複数個に亘り設けられている。また冷却口31には、図示しない冷却ヘッダーが接続されている。この冷却口31の個数が、上側冷却装置14a並びに下側冷却装置14bによる冷却能力を規定するものとなる。なお、この冷却装置14は、上下スプリットラミナー、パイプラミナー、スプレー冷却等の何れかで構成されていてもよい。また、この冷却装置14によって熱延鋼板Hが冷却される区間が、本発明における所定の冷却区間に相当する。
【0043】
巻取装置15は、図1に示すように、冷却装置14により冷却された熱延鋼板Hを所定の巻取温度で巻き取る。巻取装置15によりコイル状に巻き取られた熱延鋼板Hは、熱間圧延設備1外へと搬送されることになる。
【0044】
次に、以上のように構成された熱間圧延設備1において行われる、本実施の形態の熱延鋼板Hの冷却方法について説明する。熱延鋼板Hは仕上圧延機13で熱間圧延された熱延鋼板であって、図17に示した熱延鋼板と同様に、熱延鋼板Hには圧延方向に表面高さ(波高さ)が変動する波形状が形成されている。なお、本実施の形態において熱延鋼板Hを冷却する際、当該熱延鋼板H上の従来の乗り水の影響はほとんどないことが分かった。
【0045】
先ず、冷却装置14で熱延鋼板Hを冷却する前に、予め冷却装置14の上側冷却装置14aの冷却能力(以下、単に「上側冷却能力」という場合がある。)と下側冷却装置14bの冷却能力(以下、単に「下側冷却能力」という場合がある。)をそれぞれ調整する。これら上側冷却能力と下側冷却能力は、それぞれ上側冷却装置14aによって冷却される熱延鋼板Hの上面の熱伝達係数と、下側冷却装置14bによって冷却される熱延鋼板Hの下面の熱伝達係数とを用いて調整する。
【0046】
ここで、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の算出方法について説明する。熱伝達係数は、単位面積からの単位時間当たりの冷却抜熱量(熱エネルギー)を、被熱伝達体と熱媒体との温度差で除した値である(熱伝達係数=冷却抜熱量/温度差)。ここでの温度差は、冷却装置14の入側の温度計によって測定される熱延鋼板Hの温度と、冷却装置14で用いられる冷却水の温度との差である。また、冷却抜熱量は、熱延鋼板Hの温度差と比熱と質量をそれぞれ乗じた値である(冷却抜熱量=温度差×比熱×質量)。すなわち、冷却抜熱量は冷却装置14における熱延鋼板Hの冷却抜熱量であって、冷却装置14の入側の温度計と出側の温度計によってそれぞれ測定される熱延鋼板Hの温度の差と、熱延鋼板Hの比熱と、冷却装置14で冷却される熱延鋼板Hの質量とをそれぞれ乗じた値である。
【0047】
上述のように算出された熱延鋼板Hの熱伝達係数は、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数に分けられる。これら上面と下面の熱伝達係数は、例えば次のようにして予め得られる比率を用いて算出される。すなわち、上側冷却装置14aのみで熱延鋼板を冷却する場合の熱延鋼板の熱伝達係数と、下側冷却装置14bのみで熱延鋼板を冷却する場合の熱延鋼板の熱伝達係数を測定する。このとき、上側冷却装置14aからの冷却水量と下側冷却装置14bからの冷却水量を同一とする。測定された上側冷却装置14aを用いた場合の熱伝達係数と下側冷却装置14bを用いた場合の熱伝達係数との比率の逆数が、後述する上下熱伝達係数比率を1とする場合の上側冷却装置14aからの冷却水量と下側冷却装置14bからの冷却水量との上下比率となる。そして、このようにして得られた冷却水量の上下比率を、熱延鋼板Hを冷却する際の上側冷却装置14aからの冷却水量又は下側冷却装置14bからの冷却水量に乗じて、上述した熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の比率を算出する。なお上述では、上側冷却装置14aのみと下側冷却装置14bのみで冷却される熱延鋼板の熱伝達係数を用いたが、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの両方で冷却される熱延鋼板の熱伝達係数を用いてもよい。すなわち、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却水量を変更した場合の熱延鋼板の熱伝達係数を測定し、その熱伝達係数の比率を用いて熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の比率を算出してもよい。なお、これら上側冷却装置14aを用いた場合の熱伝達係数と下側冷却装置14bを用いた場合の熱伝達係数が、それぞれ本発明における熱伝達特性に相当する。
【0048】
以上のように、熱延鋼板Hの熱伝達係数を算出し、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の上記比率に基づいて、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数が算出される。
【0049】
そして、この熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率を用いて、図3に基づき、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をそれぞれ調整する。図3の横軸は熱延鋼板Hの上面の平均熱伝達係数と下面の平均熱伝達係数の比(すなわち、上下熱伝達係数比率と同義である。)を表し、縦軸は熱延鋼板Hの圧延方向における最大温度と最小温度との温度の標準偏差を表している。また図3は、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と熱延鋼板Hの通板速度を一定にした状態で、熱延鋼板Hの上面と下面における上下熱伝達係数比率を変動させ、熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差を実測し、この温度の標準偏差を上下熱伝達係数比率に対してプロットしたものである。図3を参照すると、温度の標準偏差と上下熱伝達係数比率との関係は、平均熱伝達係数が上下面で等しい点辺りで谷になる、V字状の関係になっていることが分かる。なお、熱延鋼板Hの波形状の急峻度とは波形状の振幅を1周期分の長手方向長さで割った値であり、図3における本実施の形態の急峻度は2%である。また、図3における熱延鋼板Hの通板速度は600m/min(10m/sec)である。また、図3において熱延鋼板Hの目標冷却温度は600℃以上の温度であって、例えば800℃である。
【0050】
上記のV字の線は谷底部を挟んで両側でほぼ直線状に描かれているので、この線を直線回帰してもよい。線形分布であるとすれば、試験材で確認する回数や、計算予測するための較正の回数が少なくて済む。
【0051】
そこで、例えば一般的に知られている探索アルゴリズムである、2分法、黄金分割法、ランダムサーチ等の様々な方法を用いて、温度の標準偏差の最小点を探索する。こうして、図3に基づいて熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差が最小となる上下熱伝達係数比率を導出する。また、ここで、平均熱伝達係数の上下で等しい点を挟んだ両側で、上下熱伝達係数比率に対する熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差の回帰式をそれぞれ求めておくとよい。
【0052】
ここで、上述した熱延鋼板Hの温度の標準偏差の最小点を探索する方法について説明する。本実施の形態においては、上述した2分法を用いて温度の標準偏差の最小点を探索する方法について説明する。
【0053】
図4は温度の標準偏差の最小点を挟んで互いに異なる回帰線が得られるような標準的な場合を示している。この図4に示すように、先ず、実測されたa点、b点、a点とb点の真中のc点における温度の標準偏差σa、σb、σcをそれぞれ抽出する。なお、a点とb点の真中とは、a点の上下熱伝達係数比率とb点の上下熱伝達係数比率との間の値を有するc点を示し、以下においても同様である。そして、温度の標準偏差σcがσa又はσbのどちらの値に近いかを判断する。本実施の形態では、σcはσaに近い。次に、a点とc点の真中のd点における温度の標準偏差σdを抽出する。そして、温度の標準偏差σdがσa又はσcのどちらの値に近いかを判断する。本実施の形態では、σdはσcに近い。次に、c点とd点の真中のe点における温度の標準偏差σeを抽出する。そして、温度の標準偏差σeがσc又はσdのどちらの値に近いかを判断する。本実施の形態では、σeはσdに近い。このようなアルゴリズムを繰り返し行い、熱延鋼板Hの温度の標準偏差の最小点fを特定する。なお、実用的な最小点fを特定するためには、上述したアルゴリズムを例えば5回程度行えばよい。また、探索対象の上下熱伝達係数比率の範囲を10分割し、それぞれの範囲で上述したアルゴリズムを行って最小点fを特定してもよい。
【0054】
また、いわゆるニュートン法を用いて上下熱伝達係数比率を較正してもよい。かかる場合、上述した回帰式を用いて、実際の温度の標準偏差の値に対する上下熱伝達係数比率と、温度の標準偏差がゼロとなる上下熱伝達係数比率との偏差分を求め、当該偏差分を用いて、熱延鋼板Hを冷却する際の上下熱伝達係数比率を修正してもよい。
【0055】
以上のように、熱延鋼板Hの圧延方向の温度の標準偏差が最小になる上下熱伝達係数比率が導出される。また、V字状になっている温度の標準偏差と上下熱伝達係数比率との関係については、その両側に分けて、最小2乗法などでそれぞれに回帰関数を求めることは容易である。
【0056】
そして、図3を参照すれば、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が最小になる上下熱伝達係数比率は1である。したがって、温度の標準偏差を最小にするため、すなわち熱延鋼板Hを均一に冷却するためには、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を同等に調整すればよく、かかる場合に熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量が等しくなる。なお、表1は、図3に示したように上下熱伝達係数比率を変動させた場合の熱延鋼板Hの温度の標準偏差、熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分、及びその評価を示している。表1中の上下熱伝達係数比率については、分子が熱延鋼板Hの上面における熱伝達係数であって、分母が下面における熱伝達係数を示している。また、表1中の評価(上下熱伝達係数比率の条件についての評価)においては、温度の標準偏差が最小値となる条件を“A”とし、後述するように最小値からの温度の標準偏差の差分が10℃以内、すなわち操業が好適となる条件を“B”とし、上述した回帰式を得るために試行錯誤的に行った条件を“C”としている。そして、表1を参照しても、評価が“A”となる、すなわち熱延鋼板Hの温度の標準偏差が最小になる上下熱伝達係数比率は1である。
【0057】
【表1】

【0058】
なお、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が少なくとも最小値から10℃以内に抑えられれば、降伏応力、引張強さなどのバラつきを製造許容範囲内に抑えられ、熱延鋼板Hを均一に冷却できるといえる。すなわち、熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量が等しくなる領域は、温度の標準偏差が最小値から10℃以内となる領域としてもよい。なお、熱延鋼板Hの温度測定には様々なノイズがあるため、熱延鋼板Hの温度の標準偏差の最小値は厳密には0(ゼロ)にならない場合がある。そこで、このノイズの影響を除去するため、製造許容範囲を、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が最小値から10℃以内となる範囲としている。
【0059】
温度の標準偏差を最小値から10℃以内に抑えるには、図3或いは図4において、2本の回帰線と、最小値からの温度の標準偏差が10℃の水平線を引き、回帰線と温度の標準偏差の2つの交点を求め、当該交点間の上下熱伝達係数比率に上下冷却装置の冷却能力を調整すればよいことになる。なお、表1においては、評価が“B”となる上下熱伝達係数比率が、この温度の標準偏差が最小値から10℃以内となる条件となる。
【0060】
また、図3及び図4で上下熱伝達係数比率を操作するには冷却水量密度を操作することが最も容易である。そこで、実際には図3及び図4において横軸の値を上下水量密度比に読み替えて、平均熱伝達係数の上下で等しい点を挟んだ両側で、水量密度の上下の比率に対する熱延鋼板の圧延方向の温度の標準偏差の回帰式を求めるという操作を行えばよい。ただし、平均熱伝達係数の上下で等しい点は、必ずしも冷却水量密度の上下で等しい点になるとは限らないので、少し広めに試験を行って回帰式を求めるとよい。
【0061】
ここで、熱延鋼板Hを均一に冷却するために、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力を調整することについて、発明者らが鋭意検討した結果、さらに、以下の知見を得るに至った。
【0062】
本発明者らは、熱延鋼板Hの波形状が発生した状態での冷却によって発生した温度の標準偏差の特徴について鋭意検討を重ねて来た結果、次の事を明らかにした。
【0063】
図13に示すように冷却装置14と巻取装置15との間には、熱延鋼板Hの温度を測定する温度計40と、当該熱延鋼板Hの波形状を測定する形状計41とが配置されている。
【0064】
そして、通板中の熱延鋼板Hに対し、温度計40と形状計41によって温度と形状をそれぞれ同一点で定点測定を行い、時系列データとして測定する。なお、ここで言う温度の測定領域は熱延鋼板Hの幅全域の測定も含む。また、ここでの形状とは定点測定で観測される熱延鋼板Hの高さ方向の変動量に熱延鋼板Hの通板方向の移動量を用いて、波のピッチ分の高さ或いは変動成分の線積分で求めた急峻度である。また同時に単位時間当たりの変動量、即ち変動速度も求める。さらに形状の測定領域は、温度の測定領域と同様に熱延鋼板Hの幅全域の測定も含む。またこれらのサンプリングされた時間に通板速度を乗じると、温度や急峻度の時系列データが圧延方向位置毎の急峻度及び温度変動に紐付けすることが可能となる。
【0065】
このデータを用いて、先ず、熱延鋼板Hの上面及び下面からの冷却抜熱量の合計値を調整する。具体的には、温度計40で測定される温度の時系列平均値が所定の目標値に一致するように、熱延鋼板Hの上面及び下面からの冷却抜熱量の合計値を調整する。そして、上下面の冷却抜熱量の合計値を調整するにあたっては、例えば三塚の式等に代表される実験理論式を用いて予め求められた理論値に対して、実際の操業実績との誤差を補正する様に設定した学習値に基づき、冷却装置14に接続される冷却ヘッダーのオンオフ制御を行う。或いは、実際に温度計40で測定された温度に基づいて、上記冷却ヘッダーのオンオフをフィードバック制御又はフィードフォワード制御してもよい。
【0066】
次に、上述した温度計40と形状計41からのデータを用いて従来のROTの冷却制御について説明をする。図5は通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の熱延鋼板Hの温度変動と急峻度の関係を示している。図5における熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率は1.2:1であり、上側冷却能力が下側冷却能力よりも高くなっている。図5(a)はコイル先端からの距離或いは定点経過時間に対する温度変動を示し、図5(b)は(a)の距離または定点経過時間に対する急峻度を示している。ここで領域Aと領域Bを分けている。これは図13で言うところのストリップ先端部が巻取装置15のコイラーに噛み込む前は張力が無い為、形状が悪い領域Aと、コイラーに噛み込んだ途端にここを境にユニットテンションの影響で波形状がフラットに変化する領域Bとなっている。本発明は領域Aの形状が悪い場合の改善を対象としている。
【0067】
そこで本発明者らは、ROTにおける温度の標準偏差増大の対策として、色々実験を行い調査をして来た結果、かかる発明を考案した。次にその説明を図6、図7、図8を用いて説明をする。
【0068】
図6は図5と同様に通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の同一形状急峻度に対する温度変動成分を示している。この変動成分とは実際の鋼板温度から温度の時系列平均(以下、「平均温度」という場合がある)を引いた残差である。例えば平均温度は、熱延鋼板Hの波形状1周期以上の範囲を平均としても良い。なお、平均温度は原則として周期単位での範囲の平均であり、さらに言えば1周期の範囲の平均温度は2周期以上の範囲の平均温度と大きな差がないことが操業データによって確認されている。このため、最低限1周期の範囲の平均をとればよい。熱延鋼板Hの波形状の範囲の上限は特に限定されないが好ましくは5周期であり、5周期あれば十分な精度の平均温度を得られる。また、平均する範囲が周期単位の範囲でなくとも、2〜5周期の範囲であれば許容できる平均温度を得られる。
【0069】
この状態で同一測定点における熱延鋼板Hの変動速度が正の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させ、熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させるように増減の方向を決定し冷却する。また、熱延鋼板Hの変動速度が負の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させ、熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させるように増減の方向を決定し冷却する。そうすると、図7に示すように温度の標準偏差が低減することを見出した。なお、変動速度の正負は、熱延鋼板Hの重力と反対方向を正としている。
【0070】
逆に、熱延鋼板Hの変動速度が正の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させ、熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させるように増減の方向を決定し冷却する。また、熱延鋼板Hの変動速度が負の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させ、熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させるように増減の方向を決定し冷却する。そうすると、図8に示すように温度の標準偏差が拡大することを見出した。なお、ここで説明する例でも冷却停止温度を変えてよいという前提にはなっていない。
【0071】
この関係を利用すれば、温度の標準偏差を低減させるために上下冷却装置14のいずれの冷却装置14a、14bの冷却能力を調整すればよいか明確になる。なお、表2は上記関係をまとめた表である。
【0072】
【表2】

【0073】
なお、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力の調整する際には、例えば上側冷却装置14aの冷却口31に接続される冷却ヘッダーと下側冷却装置14bの冷却口31に接続される冷却ヘッダーとを、それぞれオンオフ制御してもよい。あるいは、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bにおける各冷却ヘッダーの冷却能力を制御してもよい。すなわち、各冷却口31から噴出される冷却水の水量密度、圧力、水温のいずれか又は2つ以上を調整してもよい。また、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却ヘッダー(冷却口31)を間引いて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bから噴射される冷却水の流量や圧力を調整してもよい。例えば冷却ヘッダーを間引く前における上側冷却装置14aが下側冷却装置14bの冷却能力よりも上回っている場合、上側冷却装置14aを構成する冷却ヘッダーを間引く。
【0074】
こうして調整された冷却能力で上側冷却装置14aから熱延鋼板Hの上面に冷却水を噴出させると共に、調整された冷却能力で下側冷却装置14bから熱延鋼板Hの下面に冷却水を噴出させて、熱延鋼板Hが均一に冷却される。
【0075】
以上の実施の形態では、図3において熱延鋼板Hの通板速度の一例として600m/minである場合について説明したが、発明者らが鋭意検討した結果、通板速度が550m/min以上であれば、熱延鋼板Hをより均一にできることが分かった。
【0076】
熱延鋼板Hの通板速度を550m/min以上とすると、熱延鋼板Hに冷却水を噴射しても、熱延鋼板H上の乗り水の影響が顕著に少なくなることが分かった。このため、乗り水による熱延鋼板Hの不均一冷却も回避することができる。
【0077】
以上の実施の形態において、冷却装置14による熱延鋼板Hの冷却は、当該熱延鋼板Hの温度が600℃以上の範囲で行われるのが好ましい。熱延鋼板Hの温度600℃以上は、いわゆる膜沸騰領域である、すなわち、かかる場合、いわゆる遷移沸騰領域を回避し、膜沸騰領域で熱延鋼板Hを冷却することができる。遷移沸騰領域では、熱延鋼板Hの表面に冷却水を噴射した際、当該熱延鋼板H表面において、蒸気膜に覆われる部分と、冷却水が熱延鋼板Hに直接噴射される部分とが混在する。このため、熱延鋼板Hを均一に冷却することができない。一方、膜沸騰領域では、熱延鋼板Hの表面全体が蒸気膜に覆われた状態で当該熱延鋼板Hの冷却が行われるので、熱延鋼板Hを均一に冷却することができる。したがって、本実施の形態のように熱延鋼板Hの温度が600℃以上の範囲において、熱延鋼板Hをより均一に冷却することができる。
【0078】
以上の実施の形態では、図3を用いて冷却装置14の上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を調整する際、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と熱延鋼板Hの通板速度を一定としていた。しかしながら、例えばコイル毎に、これら熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合もある。
【0079】
発明者らが調べたところ、例えば図9に示すように熱延鋼板Hの波形状の急峻度が大きくなれば、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が大きくなる。すなわち、図10に示すように上下熱伝達係数比率が1から離れるにつれ、急峻度(急峻度の感度)に応じて温度の標準偏差が大きくなる。図10では、上述したように上下熱伝達係数比率と温度の標準偏差との関係が、急峻度毎にV字の回帰線によって表されていている。なお、図10において、熱延鋼板Hの通板速度は10m/sec(600m/min)で一定である。
【0080】
また、例えば図11に示すように熱延鋼板Hの通板速度が高速になると、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が大きくなる。すなわち、図12に示すように上下熱伝達係数比率が1から離れるにつれ、通板速度(通板速度の感度)に応じて温度の標準偏差が大きくなる。図12では、上述したように上下熱伝達係数比率と温度の標準偏差との関係が、通板速度毎にV字の回帰線によって表されていている。なお、図12において、熱延鋼板Hの波形状の急峻度は2%で一定である。
【0081】
このように熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合、上下熱伝達係数比率に対する温度の標準偏差の変化を定性的に評価できるものの、定量的に正確に評価することができない。
【0082】
そこで、予め熱延鋼板Hの上面と下面における熱伝達係数比率を固定しておき、例えば図9に示すように急峻度を3%から0%まで段階的に変更させて、当該急峻度に対する熱延鋼板Hの冷却後の温度の標準偏差をテーブルで求めておく。そして、実際の熱延鋼板Hの急峻度z%に対する温度の標準偏差を、内挿関数によって所定の急峻度に対する温度の標準偏差に補正する。具体的には、補正条件として所定の急峻度を2%にする場合、急峻度z%における温度の標準偏差σzに基づいて、下記式(1)で温度の標準偏差σz’が算出される。あるいは、例えば図9における急峻度の勾配αを例えば最小二乗法等で算出し、当該勾配αを用いて温度の標準偏差σz’を算出してもよい。
σz’=σz×2/z・・・・(1)
【0083】
また、図10の回帰式において、急峻度を所定の急峻度に補正し、当該回帰式から温度の標準偏差を導出してもよい。なお、表3は、図9中の急峻度に対して、図10に示したように上下熱伝達係数比率を変動させた場合の熱延鋼板Hの温度の標準偏差、熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分、及びその評価を示している。この表3における上下熱伝達係数比率の表示と評価の基準については、表1の評価と同様であるので説明を省略する。この図10又は表3を用いて、急峻度に応じた熱延鋼板Hの温度の標準偏差を導出できる。そして、例えば急峻度を2%に補正する場合、表3における評価が“B”となる、すなわち熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分が10℃以内となる上下熱伝達比率を1.1に設定することができる。
【0084】
【表3】

【0085】
同様に、例えば図11に示すように通板速度を5m/sec(300m/min)から20m/sec(1200m/min)まで段階的に変更させて、当該通板速度に対する熱延鋼板Hの冷却後の温度の標準偏差をテーブルで求めておく。そして、実際の熱延鋼板Hの通板速度v(m/sec)に対する温度の標準偏差を、内挿関数によって所定の通板速度に対する温度の標準偏差に補正する。具体的には、補正条件として所定の通板速度を10(m/sec)にする場合、通板速度v(m/sec)における温度の標準偏差σvに基づいて、下記式(2)で温度の標準偏差σv’が算出される。あるいは、例えば図11における通板速度の勾配βを例えば最小二乗法等で算出し、当該勾配βを用いて温度の標準偏差σv’を算出してもよい。
σz’=σv×10/v・・・・(2)
【0086】
また、図12の回帰式において、通板速度を所定の通板速度に補正し、当該回帰式から温度の標準偏差を導出してもよい。なお、表4は、図11中の通板速度に対して、図12に示したように上下熱伝達係数比率を変動させた場合の熱延鋼板Hの温度の標準偏差、熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分、及びその評価を示している。この表4における上下熱伝達係数比率の表示と評価の基準については、表1の評価と同様であるので説明を省略する。この図12又は表4を用いて、通板速度に応じた熱延鋼板Hの温度の標準偏差を導出できる。そして、例えば通板速度を10m/secに補正する場合、表4における評価が“B”となる、すなわち熱延鋼板Hの最小値からの温度の標準偏差の差分が10℃以内となる上下熱伝達比率を1.1に設定することができる。
【0087】
【表4】

【0088】
以上のように温度の標準偏差を補正することによって、熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合でも、上下熱伝達係数比率に対する温度の標準偏差の変化を定量的に正確に評価することができる。
【0089】
以上の実施の形態において、冷却装置14で冷却された熱延鋼板Hの温度と波形状を測定し、当該測定結果に基づいて、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を調整してもよい。すなわち、これら上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をフィードバック制御してもよい。
【0090】
かかる場合、図13に示すように冷却装置14と巻取装置15との間には、熱延鋼板Hの温度を測定する温度計40と、当該熱延鋼板Hの波形状を測定する形状計41とが配置されている。
【0091】
そして、通板中の熱延鋼板Hに対し、温度計40と形状計41によって温度と形状をそれぞれ同一点で定点測定を行い、時系列データとして測定する。なお、ここで言う温度の測定領域は熱延鋼板Hの幅全域の測定も含む。また、ここでの形状とは定点測定で観測される熱延鋼板Hの高さ方向の変動量を示す。さらに形状の測定領域は、温度の測定領域と同様に熱延鋼板Hの幅全域の測定も含む。これらのサンプリングされた時間に通板速度を乗じると、温度や板変位の時系列データが圧延方向位置毎の鋼板の高さ及び温度に紐付けすることが可能となる。
【0092】
前述図5並びに図6、図7、図8を使って説明したように熱延鋼板Hの変動速度の値に従って、同一測定点における熱延鋼板Hの変動速度が熱延鋼板Hの重力と反対方向を正とした場合に、変動速度が正の状態で熱延鋼板Hの温度が低い状態であれば上部冷却能力を小さくすると温度の標準偏差が低減する。同様の作用は下部冷却能力を大きくしても温度の標準偏差は低減する。この関係を利用すれば、温度の標準偏差を低減させるために温度変動と板形状及び板の高さ方向上下冷却装置14のいずれの冷却装置14a、14bの冷却能力を調整修正すればよいか明確になる。
【0093】
すなわち、これらの熱延鋼板Hの波形状と紐付けられる温度の変動位置を把握すれば、現在発生している温度の標準偏差が上側冷却あるいは下側冷却のどちらによって発生しているかを明らかにすることが可能となる。したがって、温度の標準偏差を小さくするための上側冷却能力と下側冷却能力の増減の方向性が決定され、上下熱伝達係数比率を調整することができる。また、温度の標準偏差の大きさに基づいて、当該温度の標準偏差が許容範囲、例えば10℃以内となるように上下熱伝達係数比率を決定することができる。この上下熱伝達係数比率を決定する方法は、図3及び図4に示した上記実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。なお、この温度の標準偏差が10℃以内としたのは、上述したように温度の標準偏差が少なくとも10℃以内に抑えられれば、降伏応力、引張強さなどのバラつきを製造許容範囲内に抑えられ、熱延鋼板Hを均一に冷却できるためである。また、かなりのばらつきはあるものの、温度の標準偏差の最小値となる冷却水量密度比率に対して±5%以内であれば温度の標準偏差が10℃以内となる。すなわち、冷却水量密度を用いて冷却水量密度の上下比率は温度の標準偏差の最小値となる冷却水量密度比率に対して±5%以内であることが望ましい。ただし、この許容範囲は必ずしも上下同水量密度を含むとは限らない。
【0094】
以上のように上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をフィードバック制御して定性的及び定量的に適切な冷却能力に調整できるので、その後冷却される熱延鋼板Hの均一性をより向上させることができる。
【0095】
以上の実施の形態において、図14に示すように、熱延鋼板Hが冷却される冷却区間を圧延方向に複数、例えば2つの冷却ゾーンZ1、Z2に分割してもよい。各冷却ゾーンZ1、Z2には、それぞれ冷却装置14が設けられている。また、各冷却ゾーンZ1、Z2の境、すなわち冷却ゾーンZ1、Z2の下流側には、温度計40と形状計41がそれぞれ設けられている。なお、本実施の形態では、冷却区間を2つの冷却ゾーンに分割したが、分割する冷却ゾーンの数はこれに限定されず任意に設定できる。例えば冷却区間を、1つ〜5つの冷却ゾーンに分割してもよい。
【0096】
かかる場合、温度計40と形状計41によって熱延鋼板Hの温度と波形状をそれぞれ測定する。そして、この測定に基づき、各冷却ゾーンZ1、Z2における上側冷却装置41a及び下側冷却装置14bの冷却能力を制御する。このとき、熱延鋼板Hの温度の標準偏差が許容範囲、例えば上述したように10℃以内になるように冷却能力が制御される。こうして、各冷却ゾーンZ1、Z2における熱延鋼板Hの上面と下面からの冷却抜熱量が調整される。
【0097】
例えば冷却ゾーンZ1においては、当該冷却ゾーンZ1の下流側における温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力がフィードバック制御され、上下面の冷却抜熱量が調整される。また、冷却ゾーンZ2においては、冷却ゾーンZ1の下流側における温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力がフィードフォワード制御されてもよいし、冷却ゾーンZ2の下流側における温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、フィードバック制御されもてよい。いずれにおいても、冷却ゾーンZ2において、上下面の冷却抜熱量が調整される。
【0098】
なお、温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力を制御する方法は、図5〜図8に示した上記実施の形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0099】
かかる場合、各冷却ゾーンZ1、Z2毎に熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量が調整されるので、より細やかな制御が可能となる。したがって、熱延鋼板Hをより均一に冷却することができる。
【0100】
以上の実施の形態において、各冷却ゾーンZ1、Z2毎に熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量を調整するに際し、温度計40と形状計41の測定結果に加えて、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と熱延鋼板Hの通板速度のいずれか又は両方を用いてもよい。かかる場合、図9〜図12に示した上記実施の形態と同様の方法で、少なくとも急峻度又は通板速度に応じた熱延鋼板Hの温度の標準偏差が補正される。そして、この補正された温度の標準偏差に基づいて、各冷却ゾーンZ1、Z2における熱延鋼板Hの上面と下面の冷却抜熱量が補正される。そうすると、熱延鋼板Hをさらに均一に冷却することができる。
【0101】
また、本発明を適用した熱延鋼板Hの冷却方法によれば、板幅方向においても均一な形状や材質となるように仕上げることが可能となる。図15は、中伸びによって幅方向に異なる振幅が生じている波形状の例を示している。このような板幅方向への振幅の相違に応じた温度の標準偏差が形成されるような場合であっても、上述した構成からなる本発明によれば、かかる板幅方向の温度の標準偏差を低減することが可能となる。
【0102】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に表面高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を冷却する際に有用である。
【符号の説明】
【0104】
1 熱間圧延設備
11 加熱炉
12 粗圧延機
12a ワークロール
12b 4重圧延機
13 仕上圧延機
13a 仕上げ圧延ロール
14 冷却装置
14a 上側冷却装置
14b 下側冷却装置
15 巻取装置
16 幅方向圧延機
31 冷却口
32 搬送ロール
40 温度計
41 形状計
H 熱延鋼板
S スラブ
Z1、Z2 冷却ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に周期的に波高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を冷却する方法であって、
所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を等しくして、当該熱延鋼板を冷却することを特徴とする、熱延鋼板の冷却方法。
【請求項2】
熱延鋼板を冷却する際に、前記所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を等しくするため、
予め求められた、熱延鋼板の上面側の上側冷却装置と熱延鋼板の下面側の下側冷却装置によって冷却される熱延鋼板の熱伝達特性に基づき、前記所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面の平均熱伝達係数を等しくして、熱延鋼板を冷却することを特徴とする、請求項1に記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項3】
仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に周期的に波高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を冷却する方法であって、
熱延鋼板を冷却する際に、所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を等しくするため、
予め、熱延鋼板の波形状の急峻度と熱延鋼板の通板速度を所定の値に揃えた条件下で求められた、熱延鋼板の上面側の上側冷却装置と熱延鋼板の下面側の下側冷却装置によって冷却される熱延鋼板の熱伝達特性に基づき、前記所定の冷却区間において、熱延鋼板の上面及び下面の平均熱伝達係数の比率である上下熱伝達係数比率を変更させ、その際に発生する熱延鋼板の圧延方向の温度の標準偏差と前記上下熱伝達係数比率との関係を線図で求め、さらに当該線図に基づいて前記温度の標準偏差が最小値となる前記上下熱伝達係数比率を導出し、
前記導出された上下熱伝達係数比率の場合に前記所定の冷却区間における熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量が等しいとして、当該上下熱伝達係数比率で熱延鋼板を冷却することを特徴とする、熱延鋼板の冷却方法。
【請求項4】
前記所定の冷却区間において熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量が等しいとする領域は、前記温度の標準偏差が最小値から10℃以内となる領域であって、
前記領域において前記上下熱伝達係数比率を設定して、熱延鋼板を冷却することを特徴とする、請求項3に記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項5】
熱延鋼板を冷却する際に、予め、前記急峻度と前記通板速度のそれぞれについて、前記上下熱伝達係数比率に対する前記温度の標準偏差の回帰式を求めておき、当該回帰式による急峻度又は通板速度の感度を補正することを特徴とする、請求項3又は4に記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項6】
前記急峻度と前記通板速度についての前記回帰式は、線形回帰により導出されることを特徴とする、請求項5に記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項7】
前記回帰式を用いて、実際の前記温度の標準偏差の値に対する上下熱伝達係数比率と、前記温度の標準偏差がゼロとなる上下熱伝達係数比率との偏差分を求め、
当該偏差分を用いて、熱延鋼板を冷却する際の前記上下熱伝達係数比率を修正することを特徴とする、請求項5又は6に記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項8】
少なくとも前記急峻度又は前記通板速度に対する前記線図を、段階的に、前記上下熱伝達係数比率に対してテーブル化することを特徴とする、請求項3〜7のいずれかに記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項9】
前記冷却された熱延鋼板の温度を時系列で測定し、
前記温度の時系列平均値が所定の目標値に一致するように、熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量の合計値を調整することを特徴とする、請求項3〜8のいずれかに記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項10】
前記冷却された熱延鋼板の温度を測定した点と同一点で熱延鋼板の高さ方向の変動速度を時系列で測定し、
熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量の相対的バランスについては熱延鋼板の重力と反対方向を正とした場合において、
前記変動速度が正の領域で、熱延鋼板の波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して熱延鋼板の温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させ、熱延鋼板の温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させるように増減の方向を決定し、
前記変動速度が負の領域で、熱延鋼板の波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して熱延鋼板の温度が低い場合は、上面側の冷却抜熱量を増加させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を減少させ、熱延鋼板の温度が高い場合は、上面側の冷却抜熱量を減少させ及び/又は下面側の冷却抜熱量を増加させるように増減の方向を決定し、
熱延鋼板を冷却する際に、前記所定の冷却区間での上面及び下面からの冷却抜熱量を調整することを特徴とする、請求項3〜9のいずれかに記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項11】
前記冷却区間を圧延方向に複数の冷却ゾーンに分割し、
前記冷却ゾーンの境において熱延鋼板の温度と波形状を測定し、当該測定結果に基づいて、前記冷却ゾーンにおける熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を調整する、フィードバック制御又はフィードフォワード制御を行うことを特徴とする、請求項10に記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項12】
前記冷却ゾーンの境において、熱延鋼板の温度と波形状に加えて少なくとも前記急峻度又は前記通板速度を測定し、当該測定結果に基づいて、前記冷却ゾーンにおける熱延鋼板の上面及び下面からの冷却抜熱量を補正することを特徴とする、請求項11に記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項13】
熱延鋼板を冷却した後、当該熱延鋼板の温度の標準偏差が許容される範囲に入るように、前記上側冷却装置から熱延鋼板の上面に冷却水をさらに噴出させると共に前記下側冷却装置から熱延鋼板の下面に冷却水をさらに噴出させることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項14】
前記上側冷却装置と前記下側冷却装置は、それぞれ冷却水を噴出する複数のヘッダーを有し、前記上側冷却装置と前記下側冷却装置の冷却能力は、前記各ヘッダーをオンオフ制御することによって調整されることを特徴とする請求項3〜13のいずれかに記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項15】
前記上側冷却装置と前記下側冷却装置は、それぞれ冷却水を噴出する複数のヘッダーを有し、前記上側冷却装置と前記下側冷却装置の冷却能力は、前記各ヘッダーの水量密度、圧力、水温のいずれか又は2つ以上の冷却能力を制御することによって調整されることを特徴とする請求項3〜13のいずれかに記載の熱延鋼板の冷却方法。
【請求項16】
熱延鋼板の冷却は、熱延鋼板の温度が600℃以上の範囲で行われることを特徴とする、請求項3〜15のいずれかに記載の熱延鋼板の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図15】
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