説明

熱成形用アクリル樹脂フィルムとその製造方法及びこの熱成形用アクリル樹脂フィルムを含む積層体

【課題】耐薬品性に優れ、且つ、耐擦傷性、表面硬度、耐熱性を備えた熱成形用アクリル樹脂フィルム及びその積層体を得る。
【解決手段】アクリル樹脂フィルムと、該アクリル樹脂フィルムの一方の面上に最外層として厚さ2−12μmの硬化樹脂層を有する60°表面光沢度が100%以上である熱成形用アクリル樹脂フィルム及び当該熱成形用アクリル樹脂フィルムを含む積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に耐薬品性に優れている積層体、詳しくは、耐薬品性と共に機械的強度を兼ね備えた新規な熱成形用アクリル樹脂フィルム及びその製造方法並びに当該熱成形用アクリル樹脂フィルムを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
低コストで成形品に意匠性を付与する方法として、インサート成形法及びインモールド成形法がある。インサート成形法は、印刷等により加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのフィルム又はシートを、予め真空成形等によって三次元形状に成形し、不要なフィルム又はシート部分を除去した後、射出成形金型内に移し、基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させた成形品を得るものである。一方、インモールド成形法は、印刷等の加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのフィルム又はシートを射出成形金型内に設置し、真空成形を施した後、同じ金型内で基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させた成形品を得るものである。
【0003】
インサート成形又はインモールド成形に用いることができる表面硬度、耐熱性に優れたアクリル樹脂フィルムを用いた成形品(以下、アクリル樹脂フィルム成形品という)として、特定の組成からなるゴム含有重合体と、特定の組成からなる熱可塑性重合体とを特定の割合で混合してなるアクリル樹脂フィルム成形品が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。このようなアクリル樹脂フィルム成形品は、成形品に加飾性を付与するばかりでなく、クリア塗装の代替材料としての機能を有する。
また、本出願人は、インサート成形又はインモールド成形時の成形白化性に優れ、且つ、表面硬度、耐熱性、透明性に優れたアクリル樹脂フィルム状物を提案した(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
近年、インサート成形法又はインモールド成形法により成形された表層にアクリル樹脂フィルム層を有する積層製品が車輌用途の部品として用いられている。
特定の平均粒子径のゴム含有重合体を特定量含有することで、表面硬度、耐熱性に優れたアクリル樹脂フィルム成形品が得られる(例えば、特許文献1参照)。また、特定の多層構造からなるゴム含有重合体を特定量含有することで、表面硬度、耐熱性に優れたアクリル樹脂フィルム成形品が得られる(例えば、特許文献2参照)。さらに、特定の多層構造からなるゴム含有重合体を特定量含有することで、成形白化性、表面硬度、耐熱性に優れたアクリル樹脂フィルム成形品が得られる(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、これらのアクリル樹脂フィルム成形品は、車輌内装用の表皮材として、優れた特性を有しているものの、液剤、例えば、日焼け止め用ローションに対する耐性が低いという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−323934号公報
【特許文献2】特開平11−147237号公報
【特許文献3】特開2005−163003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐薬品性、例えば、日焼け防止に用いるローションが付着したまま高温下で長時間曝されてもアクリル樹脂フィルム表面が荒れることなく、また、深絞り形状の成形品に成形した場合フィルム表面に割れが発生することがなく、且つ、耐擦傷性、表面硬度、耐熱性を備えた熱成形用アクリル樹脂フィルム及びその積層成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の本発明により達成される。
[1] アクリル樹脂フィルムと、該アクリル樹脂フィルムの一方の面上に最外層として厚さ2−12μmの硬化樹脂層を有する60°表面光沢度が100%以上である熱成形用アクリル樹脂フィルム。
[2] 硬化樹脂層がアクリルポリオール樹脂とポリイソシアネートを硬化して得られた樹脂である前記[1]の熱成形用アクリル樹脂フィルム。
[3] アクリル樹脂フィルムの硬化樹脂層とは反対側の面上に絵柄層を有する前記[1]または[2]の熱成形用アクリル樹脂フィルム。
[4] 前記[1]〜[3]記載の熱成形用アクリル樹脂フィルムの製造方法であって、硬化樹脂層を印刷法又はコート法により形成する熱成形用アクリル樹脂フィルムの製造方法。
[5] 前記[1]〜[3]記載の熱成形用アクリル樹脂フィルムを硬化樹脂層とは反対側の面が接するように基材上に積層して成る積層体。
[6] 前記[1]〜[3]記載の熱成形用アクリル樹脂フィルムを硬化樹脂層とは反対側の面が接するようにインモールド成形法又はインサート成形法により基材上に積層して成る積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクリル樹脂フィルムの一方の面上に、厚さ2−12μmの硬化樹脂層を有する60°表面光沢度が100%以上である熱成形用アクリル樹脂フィルムを採用することによって、従来のアクリル樹脂フィルム成形品に比べて、優れた耐薬品性が発現され、且つ、インサート成形あるいはインモールド成形を施し、深絞り形状の成形品に成形した場合フィルム表面に割れの発生がなく、且つ、車輌用途に用いることができる耐擦傷性、表面硬度、耐熱性を備えた熱成形用アクリル樹脂フィルム及びこれを積層した積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<アクリル樹脂フィルム>
本発明に用いるアクリル樹脂フィルムは、公知のアクリル樹脂フィルムを用いることができるが、車輌用として、耐擦り傷性、鉛筆硬度、耐熱性、耐薬品性などの特性を有している、例えば、特開平8−323934号公報、特開平11−147237号公報、特開2002−80678号公報、特開2002−80679号公報、特開2005−97351号公報などに開示されているものが好ましい。また、インサート成形やインモールド成形を行った場合の耐成形白化性の観点からは、特開2005−163003号公報、特開2005−139416号公報に開示されているものが好ましい。
【0010】
(加熱収縮率)
アクリル樹脂フィルムとしては、加熱時にできるだけ収縮しないような性質のものが好ましい。熱成形用アクリル樹脂フィルムをABS等の基材シートに貼り合せてインサート成形を実施した場合に、アクリル樹脂フィルムの収縮が大きいと基材シートから剥がれる場合がある。
したがって、本発明におけるアクリル樹脂フィルムとしては、130℃雰囲気下60分間加熱処理による、MD方向加熱収縮率が50%以下であり、TD方向加熱収縮率が−10〜10%であるアクリル樹脂フィルムが好ましい。このようなアクリル樹脂フィルムは、加飾フィルム又はシートとして、アクリル樹脂フィルムを基材シートに積層した積層シートを用いた場合、インサート成形又はインモールド成形時の加熱の際に、基材シートとアクリル樹脂フィルムとの界面での剥離を抑える。アクリル樹脂フィルムの加熱時の収縮率は小さいほうが好ましい。アクリル樹脂フィルムのMD方向加熱収縮率は30%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。また、0%以上が好ましい。アクリル樹脂フィルムのTD方向加熱収縮率は0〜5%が好ましい。
【0011】
加熱収縮率の測定は、A4サイズに切り出したアクリル樹脂フィルムの表面に、MD方向(製膜時の流れ方向)及びTD方向(MD方向と垂直に交わる向き)に、5cm間隔に3本の平行な直線を引き、その間隔をノギスで正確に計測する。間隔の計測は2箇所で行い、計測した箇所に目印を付ける。その後、130℃雰囲気下に60分放置して、取り出した後、先に計測した箇所と同じ箇所の間隔をもう一度計測する。2箇所の間隔の平均値を用いて、下記式により加熱収縮率を計算する。
加熱収縮率(%)=((加熱前の間隔−加熱後の間隔)/加熱前の間隔)×100
MD方向及びTD方向が不明であるアクリル樹脂フィルムにおいて、MD方向及びTD方向を特定するには、例えば次のように行う。フィルム上に特定半径の円を描き、上記した条件の加熱処理をして、得られたフィルム上の円(異方性がある場合は楕円)の形状から、収縮率が最大となる方向を決定し、その方向をMD方向とし、その方向と垂直な方向をTD方向とする。
【0012】
(鉛筆硬度)
アクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度(JIS K5600に基づく測定)は、本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度を高めるために、2B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましく、F以上であることが特に好ましい。
【0013】
(アクリル樹脂フィルムの製造方法)
アクリル樹脂フィルムの製造方法としては、溶融流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法、カレンダー法等の公知の方法が挙げられる。これらのうち、経済性の点からTダイ法が好ましい。
Tダイ法によりアクリル樹脂フィルムを成形する場合、金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトから選ばれる複数のロール又はベルトに狭持して製膜する方法を用いることが好ましい。この方法によれば、得られる熱成形用アクリル樹脂フィルムの表面平滑性を向上させ、アクリル樹脂フィルムに硬化樹脂層を形成する際のコーティング抜け、熱成形用アクリル樹脂フィルムに印刷処理した際の印刷抜けを抑制することができる。金属ロールとしては、金属製の鏡面タッチロール;特許第2808251号公報または国際公開第97/28950号パンフレットに記載の金属スリーブ(金属製薄膜パイプ)と成型用ロールとからなるスリーブタッチ方式で使用されるロール等が挙げられる。非金属ロールとしては、シリコンゴム製等のタッチロール等が挙げられる。金属ベルトとしては、金属製のエンドレスベルト等が挙げられる。これらの金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトを複数組み合わせて使用してもよい。
【0014】
金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトから選ばれる複数のロール又はベルトに狭持して製膜する方法においては、溶融押出後の原料を、実質的にバンク(樹脂溜まり)が無い状態で狭持し、実質的に圧延することなく面転写させて製膜することが好ましい。バンク(樹脂溜まり)を形成することなく製膜した場合は、冷却過程にある原料が圧延されることなく面転写されるため、この方法で製膜したアクリル樹脂フィルム基体の加熱収縮率を低減することができる。また、Tダイ法等で溶融押出しをする場合は、200メッシュ以上のスクリーンメッシュで溶融状態にあるアクリル樹脂原料を濾過しながら押出しすることも好ましい。
【0015】
アクリル樹脂フィルムの厚さは、10〜500μmが好ましい。アクリル樹脂フィルムの厚さを500μm以下とすることにより、インサート成形及びインモールド成形に適した剛性が得られ、より安定にフィルムを製造することができる。また、アクリル樹脂フィルムの厚みを10μm以上とすることにより、フィルムの保護性とともに、得られる積層体に深み感をより十分に付与することができる。アクリル樹脂フィルムの厚みは、30μm以上がより好ましく、50μm以上が特に好ましい。また、その上限は、300μm以下がより好ましく、200μm以下が特に好ましい。
【0016】
<硬化樹脂層>
硬化樹脂層は硬化性樹脂を硬化したものである。
アクリル樹脂フィルムの一方の面上に設けるかかる硬化樹脂層の厚さは、2〜12μmであることが必要である。硬化樹脂層の厚さが2μm以上であれば、積層体となった場合の耐薬品性を発現することができる。より好ましくは4μm以上である。硬化樹脂層の厚さが12μm以下であれば、インサート成形又はインモールド成形を施し、深絞り形状に成形した場合でも、硬化樹脂層に割れが発生することを軽減できる。硬化樹脂層の厚さは、好ましくは8μm以下である。また、塗工の際に用いる単位面積あたりの塗料量が少なくなるため、溶剤によるアクリル樹脂フィルムの物性低下を小さくすることができる。なお、硬化樹脂層の厚さは、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡で観察し、5箇所で厚さを測定し、それらを平均することにより求められる。
【0017】
(硬化性樹脂)
硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂を用いることが、耐薬品性、耐擦傷性、耐熱性の観点から好ましい。例えば、アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、シリコーンアクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂を用いることができる。これらのうち、ウレタンアクリレート系樹脂が物性面から好ましい。ウレタンアクリレート系樹脂としては、公知のものを用いることができるが、特に、メタクリル酸アルキルエステル単位を主成分とし、水酸基価が20〜120mgKOH/gであり、ガラス転移温度が50〜110℃である水酸基含有アクリル樹脂と、ポリイソシアネートとを含有するウレタンアクリレート系熱硬化性樹脂が好ましい。
水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、耐薬品性、耐擦傷性の観点から、20mgKOH/g以上が好ましく、50mgKOH/g以上がより好ましい。水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、耐薬品性、密着性、成形時の硬化樹脂層の割れの観点から、120mgKOH/g以下が好ましく、100mgKOH/g以下がより好ましい。
水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度は、耐薬品性、耐熱性、フィルムブロッキング性、鉛筆硬度、耐擦傷性などの観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。
【0018】
ポリイソシアネート(硬化剤)としては、特に限定されないが、加熱時の黄変が少ないヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等からなるイソシアヌレート型ポリイソシアネート、トリメチロールプロパンとのアダクト型ポリイソシアネート、ビューレット型ポリイソシアネートが好ましい。なお、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートをそのまま使用することもできる。
【0019】
ポリイソシアネートは、水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基のモル量に対して、イソシアネート基のモル量として0.5〜1.5倍の範囲に相当する添加量となるように使用することが好ましい。0.5倍以上とすることで、水酸基に対して、十分なイソシアネート基量となるため、硬化が十分に進み耐薬品性、耐擦傷性は良好となる。1.5倍以下の添加量で、十分な耐擦傷性が発現し、成形時の硬化樹脂層の割れが起こり難くなる。
なお、熱可塑性樹脂をバインダー樹脂として使用した場合は、成形性が良好であるものの、耐薬品性が低下する傾向がある。車輌内装用をとして用いたときに、日焼け止め、芳香剤などの液剤が付着すると、コート層が溶けて外観不良が発生することがあるので注意を要する。
【0020】
<熱成形用アクリル樹脂フィルム>
本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムは、アクリル樹脂フィルム上に、硬化樹脂層が2〜12μmの厚さで形成され、且つ、60°表面光沢度が100%以上であるものである。
【0021】
(硬化樹脂層の形成方法)
印刷法又はコート法により硬化樹脂層を形成することが好ましい。この場合、硬化樹脂層となる原料を溶剤に溶解又は分散して塗料を調製し、これをアクリル樹脂フィルムの一方の面に塗布し、溶剤除去のための加熱乾燥を行うことによって、硬化樹脂層が形成される。この方法は、硬化樹脂層とアクリル樹脂フィルムとの密着性が良好となるため好ましい。
印刷法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等の公知の印刷方法が挙げられる。
コート法としては、フローコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、キスリバースコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ロッドコート法、ロールドクターコート法、エアナイフコート法、コンマロールコート法、リバースロールコート法、トランスファーロールコート法、キスロールコート法、カーテンコート法、ディッピングコート法等の公知のコート方法が挙げられる。
【0022】
アクリル樹脂フィルム上に塗料を塗工する場合、溶剤によるアクリル樹脂フィルムの物性低下軽減の観点から、アクリル樹脂フィルム1m2 あたりに塗工される塗料に含まれる溶剤は、30g以下が好ましく、20g以下がより好ましく、10g以下が特に好ましい。また、塗工される塗料量は、乾燥後の硬化樹脂層の厚さが2〜12μmとなる量であることが必要である。塗料量が、硬化樹脂層の厚さが2μm以上となる量であれば、積層体となった場合の表面物性を発現することができる。好ましくは4μm以上である。塗料量が、硬化樹脂層の厚さが12μm以下となる量であれば、塗工の際に用いる単位面積あたりの塗料量が少なくなるため、溶剤によるアクリル樹脂フィルムの物性低下を小さくすることができる。硬化樹脂層の厚さは、好ましくは8μm以下である。
【0023】
溶剤としては、バーンダー樹脂(例えば、アクリルポリオール樹脂)のガラス転移温度より80℃以上高くない、好ましくは30℃以上高くない沸点を有する溶剤が、熱成形用アクリル樹脂フィルムに溶剤が残存しにくく好ましい。特に、硬化性樹脂の各成分を溶解または均一に分散させることが可能で、且つ、アクリル樹脂フィルムの物性(機械的強度、透明性等)に実用上悪影響を及ぼさず、さらにアクリル樹脂フィルムの主たる構成成分である樹脂成分のガラス転移温度より80℃以上高くない、好ましくは30℃以上高くない沸点を有している揮発性の溶剤が好ましい。
【0024】
溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤;キシレン、トルエン、ベンゼン等の芳香族系溶剤;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶剤;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、メトキシトルエン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶剤;ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸系溶剤;無水酢酸等の酸無水物系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸ブチル、ギ酸ブチル等のエステル系溶剤;エチルアミン、トルイジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の窒素含有溶剤;チオフェン、ジメチルスホキシド等の硫黄含有溶剤;ジアセトンアルコール、2−メトキシエタノール(メチルセロソルブ)、2−エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、2−ブトキシエタノール(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコール、2−アミノエタノール、アセトシアノヒドリン、ジエタノールアミン、モルホリン、1−アセトキシ−2−エトキシエタン、2−アセトキシ−1−メトキシプロパン等の2種以上の官能基を有する溶剤;水等、各種公知の溶剤が挙げられる。これらは、単独で、または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
これらのうち、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンを主成分とする溶剤が、溶剤によるアクリル樹脂フィルの物性低下の影響が少なく好ましい。また、硬化樹脂層とアクリル樹脂フィルムとの密着性の観点から、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトンを併用することが好ましい。また、塗工後の艶斑の観点からも、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン等の中沸点溶剤と、2−アセトキシ−1−メトキシプロパン、シクロヘキサノン等の高沸点溶剤を併用することが好ましい。また、塗料は、塗工抜けの軽減、ドクター筋発生軽減の観点から、異物を取り除く目的で、濾過を実施することが好ましい。濾過は、塗料調製後に行ってもよいし、塗工直前或いは塗工しながら行ってもよい。この濾過は公知の濾過装置で濾過することができるが、チッソフィルター(株)製のCPII−10、03、01が適している。
【0026】
塗料には、皮張り防止剤、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、消泡剤、レベリング剤等の溶液性状を改善するための公知の添加剤;光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、防カビ剤、難燃剤等の塗膜性能を改善するための公知の添加剤を添加することができる。塗工後、硬化樹脂層の架橋密度を十分なものとするために、30〜80℃の雰囲気下で、数時間から数日間静置することが好ましい。静置時間は、ポリイソシアネートの種類、アクリル樹脂フィルムの耐熱性等により設定されるが、一例として、ポリヘキサメチレンジイソシアネートを用いた場合、40℃、48時間の条件で十分な架橋密度を有する硬化樹脂層が得られる。
通常、成形品に塗装によって十分な厚みの塗膜を形成するためには、十数回の重ね塗りが必要になることがあり、この場合、コストがかかり、生産性があまりよくない。それに対して、本発明の積層体は、熱成形用アクリル樹脂フィルム自体が塗膜となるため、重ね塗り回数が少なくて済み工業的利用価値が高い。
【0027】
(熱成形用アクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度)
本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムは、鉛筆硬度(JIS K5600に基づく測定)が2B以上であることが好ましい。鉛筆硬度を2B以上にすることで、インサート成形又はインモールド成形を施す工程中で、熱成形用アクリル樹脂フィルム表面に傷がつきにくく、さらに積層体の耐擦傷性が向上する。車輌用部材等の積層体に使用される場合を考慮すると、本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度は、HB以上であることが好ましい。鉛筆硬度がHB以上の熱成形用アクリル樹脂フィルムを用いた積層体は、ドアウエストガーニッシュ、フロントコントロールパネル、パワーウィンドウスイッチパネル、エアバッグカバー等、各種車輌用部材に好適に使用することができる。用途拡大の観点から工業上非常に有用である。
【0028】
さらに、本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度がF以上であると、ガーゼなど表面の粗い布で擦傷しても傷が目立たなく、鉛筆硬度が2Hの熱成形用アクリル樹脂フィルムを用いた積層体と同等の実用上の耐擦傷性能を付与することができるため、工業的利用価値は非常に高い。このような鉛筆硬度を有する熱成形用アクリル樹脂フィルムを得るためには、基材となるアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度が重要である。基材となるアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度は2B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましく、F以上であることが最も好ましい。
【0029】
(ヘーズ値)
熱成形用アクリル樹脂フィルムのヘーズ値は、熱成形用アクリル樹脂フィルムをとおして絵柄層を見たときの意匠性の観点から、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。ヘーズ値は、JIS K7136の試験方法にて測定した値である。
<絵柄層>
本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムには、各種基材に意匠性を付与するために絵柄層を形成してもよい。この場合、硬化樹脂層が設けられた面とは反対側のアクリル樹脂フィルムの面上に絵柄層を形成することが好ましい。また、積層体の製造時には、絵柄層を基材との接着面に配することが加飾面の保護および高級感の付与の点から好ましい。絵柄層は印刷法或いは蒸着法で形成されたものが好ましい。
【0030】
(印刷層)
印刷層は、インサート又はインモールド成形によって得られた積層体表面で模様又は文字等となる。印刷柄としては、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字、全面ベタ等からなる絵柄が挙げられる。
印刷層のバインダーとしては、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体等のポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキッド樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂等の樹脂が挙げられる。
印刷層の形成には、バインダー及び適切な色の顔料又は染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。
顔料としては、例えば、ポリアゾ等のアゾ系顔料、イソインドリノン等の有機顔料;黄鉛等の無機顔料が挙げられる。赤色顔料としては、ポリアゾ等のアゾ系顔料、キナクリドン等の有機顔料;弁柄等の無機顔料が挙げられる。青色顔料としては、フタロシアニンブルー等の有機顔料;コバルトブルー等の無機顔料が挙げられる。黒色顔料としては、アニリンブラック等の有機顔料が挙げられる。白色顔料としては、二酸化チタン等の無機顔料が挙げられる。
また、染料としては、本発明の効果を損なわない範囲で、各種公知の染料を使用することができる。
【0031】
印刷層の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア輪転印刷法、スクリーン印刷法等の公知の印刷法;ロールコート法、スプレーコート法等の公知のコート法;フレキソグラフ印刷法等が挙げられる。印刷層の厚さは、必要に応じて適宜決めればよく、通常、0.5〜30μm程度である。
印刷層における印刷抜けの個数は、意匠性、加飾性の観点から、10個/m2 以下が好ましい。印刷抜けの個数を10個/m2 以下とすることにより、熱成形用アクリル樹脂フィルムを用いた積層体の外観がより良好となる。印刷層における印刷抜けの個数は、5個/m2 以下がより好ましく、1個/m2 以下が特に好ましい。
印刷層は、インサート又はインモールド成形によって得られた積層体において所望の表面外観が得られるよう、インサート又はインモールド成形時の伸張度合いに応じて、適宜その厚さを選択すればよい。
【0032】
(蒸着層)
蒸着層は、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、インジウム、スズ、銀、チタニウム、鉛、亜鉛等からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属、又はこれらの合金、化合物で形成される。蒸着層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等の方法が挙げられる。
蒸着層の厚みは、インサート又はインモールド成形によって得られた積層体において所望の表面外観が得られるようインサート又はインモールド成形時の伸張度合いに応じて適宜選択する。
【0033】
<他の層>
(接着層)
本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムには、必要に応じて接着層を設けてもよい。接着層は、硬化樹脂層が設けられた面とは反対側の表面に形成することが好ましい。
(カバーフィルム)
また、本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムには、さらにカバーフィルムを設けてもよい。このカバーフィルムは、熱成形用アクリル樹脂フィルムの表面の防塵に有効である。カバーフィルムは、硬化樹脂層の表面、硬化樹脂層が設けられた面とは反対側の表面のいずれにも設けることができるが、硬化樹脂層の表面に設けることが好ましい。カバーフィルムを硬化樹脂層の表面に設けた場合、カバーフィルムは、インモールド、インサート成形する前まで硬化樹脂層に密着し、インモールド、インサート成形する際は直ちに剥離するため、硬化樹脂層に対して適度な密着性及び良好な離型性を有していることが必要である。カバーフィルムとしては、このような条件を満たしたフィルムであれば、任意のフィルムを選択して用いることができる。そのようなフィルムとしては、ポリエチレン系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリエステル系フィルム等が挙げられる。
【0034】
(熱可塑性樹脂層)
本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムを、さらに熱可塑性樹脂層に積層して、積層フィルム又はシートとしてもよい。熱成形用アクリル樹脂フィルムを熱可塑性樹脂層に積層する向きとしては、硬化樹脂層が設けられた面とは反対側の表面が熱可塑性樹脂層に接するように積層することが好ましい。熱可塑性樹脂層は、基材との密着性を高める目的から、基材との相溶性を有する材料からなるものが好ましい。熱可塑性樹脂層は、基材と同じ材料からなるものがより好ましい。熱可塑性樹脂層としては、公知の熱可塑性樹脂フィルム又はシート用いることができ、例えば、アクリル樹脂;ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体);AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体);塩化ビニル樹脂;
【0035】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体またはその鹸化物、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂;6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、12−ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン樹脂;セルロースアセテート、ニトロセルロース等の繊維素誘導体;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン−テトラフロロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂等;またはこれらから選ばれる2種又は3種以上の共重合体または混合物、複合体、積層体等が挙げられる。
【0036】
これらのうち、熱可塑性樹脂層としては、絵柄層の形成性、積層フィルム又はシートの二次成形性の観点から、アクリル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、ポリカーボネートが好ましい。
熱可塑性樹脂層には、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、難燃剤等を配合してもよい。
熱可塑性樹脂層の厚さは、必要に応じて適宜決めればよく、通常、20〜500μm程度とすることが好ましい。熱可塑性樹脂層は、熱可塑用アクリル樹脂フィルムの外観が完全に円滑な上面を呈する、基材の表面欠陥を吸収する或いは射出成形時に絵柄層が消失しない程度の厚さを有することが好ましい。
【0037】
積層フィルム又はシートを得る方法としては、熱ラミネーション、ドライラミネーション、ウェットラミネーション、ホットメルトラミネーション等の公知の方法が挙げられる。また、押出しラミネーションにより熱成形用アクリル樹脂フィルムと熱可塑性樹脂層とを積層することもできる。
本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムを積層フィルム又はシートとすることで、衝撃、変形等の外力に対して取り扱い上十分な強度が発現する。例えば、インサート成形等でフィルムを真空成形した後に金型から取り外したり、その真空成形品を射出成形用金型に装着したりするときに被る衝撃、変形等に対しても、割れ等が生じ難く、取り扱い性が良好となる。さらに、例えば射出成形された基材の表面欠陥が、熱成形用アクリル樹脂フィルムに伝搬されることを最少にする、或いは基材を射出成形する際に、絵柄層が消失しにくくなるといった利点を与える。
熱成形用アクリル樹脂フィルムの片面、積層フィルム又はシートの熱可塑性樹脂層の表面には、必要に応じて、例えばコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理、アンカー、プライマー処理等の表面処理を施してもよい。これらの処理は、熱成形用アクリル樹脂フィルムと硬化樹脂層又は絵柄層との間、熱可塑性樹脂層と絵柄層との間、熱成形用アクリル樹脂フィルムと熱可塑性樹脂層との間等の密着性を向上させる。
【0038】
<積層体>
本発明の積層体は、熱成形用アクリル樹脂フィルム、その積層フィルム又はシートを、基材に積層したものである。このとき、硬化樹脂層が設けられている面とは反対側の面が基材に接するように積層して積層体とすることが好ましい。基材の材質としては、樹脂;木材単板、木材合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木材板;木質繊維板等の水質板;鉄、アルミニウム等の金属等が挙げられる。
樹脂としては、特に種類を問わない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂;
【0039】
ポリスチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、アクリル樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の汎用の熱可塑性または熱硬化性樹脂;ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート等の汎用エンジニアリング樹脂;ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、液晶ポリエステル、ポリアリル系耐熱樹脂等のスーパーエンジニアリング樹脂等;ガラス繊維または無機フィラー(タルク、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ等)等の補強材、ゴム成分等の改質剤を添加した複合樹脂又は各種変性樹脂等が挙げられる。
【0040】
これらのうち、基材の材料としては、熱成形用アクリル樹脂フィルム、その積層フィルム又はシートと溶融接着可能なものが好ましい。例えば、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂又はこれらを主成分とする樹脂が挙げられる。接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂又はこれらを主成分とする樹脂が好ましく、特にABS樹脂、ポリカーボネート樹脂又はこれらを主成分とする樹脂がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂等の熱融着しない樹脂であっても、接着層を設けることで、熱成形用アクリル樹脂フィルム、その積層フィルム又はシートからなる群より選ばれる1つと基材とを成形時に接着させることは可能である。
【0041】
本発明の積層体の製造方法としては、二次元形状の積層体の場合で、且つ、基材が熱融着できるものの場合は、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。例えば、木材単板、木材合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木材板、木質繊維板等の水質板、鉄、アルミニウム等の金属等、熱融着しない基材に対しては、接着層を介して貼り合わせることが可能である。
また、三次元形状の積層体の場合は、インサート成形法、インモールド成形法等の公知の方法を用いることができる。
インモールド成形法は、熱成形用アクリル樹脂フィルム、またはその積層フィルムまたはシートを加熱した後、真空引き機能を持つ金型内で真空成形を行い、ついで、同じ金型内において基材となる樹脂を射出成形することにより、熱成形用アクリル樹脂フィルム、又はその積層フィルム又はシートと基材とを一体化させた積層体を得る方法である。インモールド成形法は、フィルムの成形と射出成形を一工程で行えるため、作業性、経済性の点から好ましい。
熱可塑性樹脂層を有する積層フィルムまたはシートは、熱可塑性樹脂層が存在するために絵柄層の消失をより軽減することができる点で好ましい。
【0042】
インモールド成形時の加熱温度は、熱成形用アクリル樹フィルム又はシートが軟化する温度以上が好ましい。具体的には、フィルムの熱的性質又は積層体の形状によって適宜設定すればよく、通常70℃以上である。また、あまり温度が高いと、表面外観が悪化したり、離型性が悪くなる傾向がある。これもフィルムの熱的性質又は積層体の形状によって適宜設定すればよく、通常は170℃以下である。さらに、エネルギー効率の観点からは、真空成形時の予備加熱温度は低い方が好ましい。具体的には135℃以下が好ましい。また、予備加熱温度が低くとも成形できるフィルムは、予備加熱温度を低くする代わりに予備加熱時間を短くすることもできる。この場合は、真空成形のハイサイクル化が可能となり工業的利用価値が高い。
【0043】
真空成形によりフィルムに三次元形状を付与する場合、本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルム、その積層フィルム又はシートは、高温時の伸度に富んでおり、非常に有利である。
射出成形される樹脂としては、種類は問わず、射出成形可能な全ての樹脂が使用可能である。射出成形後の樹脂の収縮率を、熱成形用アクリル樹脂フィルム、その積層フィルム又はシートの収縮率に近似させることが、インモールド成形あるいはインサート成形によって得られた積層体の反り、フィルム又はシートの剥がれ等の不具合が解消されるため好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。また、実施例中の略記号は表1の通りである。
【0045】
【表1】

【0046】
〔物性の測定、評価方法〕
ゴム含有多段重合体(I)及びゴム含有重合体(II)、熱可塑性重合体(III)、熱可塑性重合体(IV)及び熱可塑性重合体(V)の物性、作製したアクリル樹脂フィルム基体(A)、アクリル樹脂フィルム基体(B)、実施例1〜5、比較例1〜3において得られた熱成形用アクリル樹脂フィルム及び積層体等の物性は、以下の方法によって測定、評価した。なお、積層体の評価は、以下の( )に示した成形性の評価用に作製した積層体を用いて行った。
【0047】
(1)ゴム含有多段重合体(I)及びゴム含有重合体(II)の質量平均粒子径:
乳化重合にて得られたゴム含有多段重合体(I)及びゴム含有重合体(II)の重合体ラテックスについて、光散乱光度計DLS−700(商品名:大塚電子(株)製の)を用いて動的光散乱法で測定した。
(2)ゴム含有多段重合体(I)及びゴム含有重合体(II)のゲル含有率:
所定量(抽出前質量)のゴム含有多段重合体(I)及びゴム含有重合体(II)(重合後、得られた凝固粉)をアセトン溶媒中、還流下で抽出処理し、この処理液を遠心分離により分別し、乾燥後アセトン不溶分の質量を測定し(抽出後質量)、下記式にて算出した。
ゲル含有率(%)=抽出後質量(g)/抽出前質量(g)×100
【0048】
(3)ゴム含有多段重合体(I)、ゴム含有重合体(II)、バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg):
ポリマーハンドブック(J.Brandrup,Interscience,1989)に記載されている値を用いてFOXの式から算出した。
(4)熱可塑性重合体(III)、熱可塑性重合体(IV)、熱可塑性重合体(V)の還元粘度:
重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定した。
【0049】
(5)バインダー樹脂の水酸基価:
JIS K0070に従って測定した。
(6)バインダー樹脂の質量平均分子量:
Shimadzu LC−6Aシステム((株)島津製作所製)を用い、GPCカラムとしてKF−805L(昭和電工(株)製)を3本連結したものを用い、溶媒としてTHFを用いて、ポリスチレン換算で測定した。
(7)熱成形用アクリル樹脂フィルムの硬化樹脂層の厚さ:
熱成形用アクリル樹脂フィルムを断面方向に70nmの厚みに切断したサンプルを、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製 J100S)にて観察し、5箇所で厚さを測定し、それらを平均することにより硬化樹脂層の厚さを求めた。
【0050】
(8)熱成形用アクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度:
JIS K5400に従って測定した。なお、硬化樹脂層の表面の鉛筆硬度を測定した。
(9)熱成形用アクリル樹脂フィルムの表面光沢:
JIS Z8741に従い、グロスメーター(ミノルタ製、Multi−Gloss268型(商品名))を用い、60°での表面光沢を測定した。なお、フィルムを60°光沢度が1%以下の黒紙の上に置いて測定した。
【0051】
(10)熱成形用アクリル樹脂フィルムのヘーズ:
JIS K7136に従って評価した。
(11)熱成形用アクリル樹脂フィルムのインモールド成形性:
熱成形用アクリル樹脂フィルムを用いてインモールド成形を行った。
具体的には、真空引き機能を有し、キャビティー側の金型の底、且つ、中央のゲートから横方向に3cmの位置に、1cm2 、深さ1mmの凹みがある金型を用い、J85ELII型射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名)及びホットパックシステム(日本写真印刷(株)製、商品名)を組み合わせたインモールド成形装置により、インモールド成形を行った。
積層体の形状は、縦150mm×横120mm×厚さ2mm、深さ10mmの箱型であり、金型のゲート位置は、積層体中央に1箇所、中央ゲートの上下(積層体縦方向)40mmの位置に各1箇所の計3箇所であり、ゲート形状は、直径1mmのピンポイントゲートである。また、金型のキャビティー側の底面と側面を結ぶ角のコーナーRは約3である。つまり、アクリル樹脂フィルムがラミネートされる側の積層体のコーナーRは約3である。コーナーRは、FUJI TOOL製 RADIUS GAGEで測定した。
【0052】
熱成形用アクリル樹脂フィルムの真空成形は、ヒーター設定温度約330℃、加熱時間15秒、ヒーターとフィルムとの距離15mmの条件で行い、硬化樹脂層が金型と接する向きに真空成形を実施した。
また、引き続き同一金型内で実施する射出成形は、シリンダー温度250℃、射出速度30%、射出圧力43%、金型温度60℃の条件で、非硬化性樹脂層から基材樹脂を射出した。基材樹脂としては、耐熱性ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商品名「バルクサムTM25B」)を用いた。
得られた積層体に形成された1cm2 、高さ1mmの凸部分、または積層体エッジ部のコーナー付近の状態を観察し、以下のように評価した。
【0053】
(凸部の割れについて)
○:割れなし
×:硬化樹脂層に割れが発生
(コーナー付近の割れについて)
○:割れなし
×:硬化樹脂層に割れが発生
(凸部の白化に関して)
○:フィルム白化なし
×:フィルム強い白化あり
(コーナー付近の白化に関して)
○:フィルム白化なし
×:フィルム強い白化あり
【0054】
(12)積層体の耐擦傷性:
1枚重ねのブロード60番上に0.01MPaの荷重をかけながら積層体を押さえ付け、該積層体を、100mmのストローク幅で、且つ、30往復/分の速さで1000往復させた。試験前後の擦り試験部分の60°光沢度値の変化量で、以下のように評価した。
60°光沢度は4箇所の平均値である。
◎:試験前の光沢度から試験後の光沢度を引いた数値が3未満
○:試験前の光沢度から試験後の光沢度を引いた数値が3以上10未満
×:試験前の光沢度から試験後の光沢度を引いた数値が10以上
【0055】
(13)積層体の耐薬品性
積層成形品表面にコパトーン(Water BABIES 30SFP)を一滴たらし、1cm角に切った綿布をかぶせ、4cm角、厚さ3mmのアルミ板をその上に載せ、更にアルミ板上に500gの錘を載せて、所定の温度で24hr静置した。試験後、試験片を水洗した後風乾し、試験部の表面の状態を観察する。
○:変化無し
△1:綿布の形状が転写されている
△2:綿布の形状は転写されていないがやや白くなる
×:綿布の形状が強く転写されるとともに白くなる
【0056】
〔製造例1〕(ゴム含有多段重合体(I)の製造)
攪拌機を備えた容器に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA 0.3部、n−BA 4.5部、1,3−BD 0.2部、AMA 0.05部及びCHP 0.025部からなる単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業(株)製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部及びEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、弾性重合体の第1段階目の重合を完結した(I−A−1)。続いて、MMA 9.6部、n−BA 14.4部、1,3−BD 1.0部及びAMA 0.25部からなる単量体成分を、CHP 0.016部と共に、90分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、弾性重合体の二段目重合体の重合を完結させ(I−A−2)、弾性重合体(I−A)を得た。
続いて、MMA 6部、MA 4部及びAMA 0.075部からなる単量体成分を、CHP 0.0125部と共に、45分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間重合体(I−B)を形成させた。
【0057】
続いて、MMA 57部、MA 3部、n−OM 0.264部及びt−BH 0.075部からなる単量体成分を140分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、硬質重合体(I−C)を形成して、ゴム含有多段重合体(I)の重合体ラテックスを得た。硬質重合体(I−C)単独のTgは99℃であった。また、重合後に測定したゴム含有多段重合体(I)の質量平均粒子径は0.11μmであった。
得られたゴム含有多段重合体(I)の重合体ラテックスを、濾材としてSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有多段重合体(I)を得た。ゴム含有多段重合体(I)のゲル含有率は、70%であった。
また、得られたゴム含有多段重合体(I)214.3gを目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mlに投入し、3時間攪拌して、ゴム含有多段重合体(I)のアセトン分散液を調製した。次いで、この分散液を目開き32μmのナイロンメッシュで濾過した後、ナイロンメッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の捕捉物をクロロホルム洗浄した。次いで、目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン150mlに上記超音波洗浄後の捕捉物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理した後、ナイロンメッシュを除去して、メッシュ上の捕捉物のアセトン分散液150mlを調製した。次いで、この分散液70mlについて、自動式液中微粒子計測器(リオン(株)製、型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めたところ、10個であった。
【0058】
〔製造例2〕(ゴム含有重合体(II)の製造)
窒素雰囲気下、還流冷却器付き反応容器内に脱イオン水244部を入れ、80℃に昇温した。そして、表2に示す(イ)を添加し、撹拌しながら、表3に示す弾性重合体の一段階目重合体(II−A−1)用の原料(ロ)の1/15を仕込み、15分間保持した。次いで、残りの原料(ロ)を、水に対する単量体成分[原料(ロ)]の増加率が8%/時間となる速度で、連続的に添加した後、60分間保持し、弾性重合体の一段階目重合体(II−A−1)のラテックスを得た。続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、表2に示す弾性重合体の二段階目重合体(II−A−2)用の原料(ハ)を、水に対する単量体成分[原料(ハ)]の増加率が4%/時間となる速度で、連続的に添加した後、120分間保持し、弾性重合体の二段階目重合体(II−A−2)を形成し、弾性重合体(II−A)のラテックスを得た。続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、表2に示す硬質重合体(II−C)用の原料(ニ)を、水に対する単量体成分[原料(ニ)]の増加率が10%/時間となる速度で、連続的に添加した後、60分間保持し、硬質重合体(II−C)を形成し、ゴム含有重合体(II)の重合体ラテックスを得た。硬質重合体(II−C)単独のTgは99℃であった。また、重合後に測定したゴム含有重合体(II)の質量平均粒子径は0.28μmであった。
得られたゴム含有重合体(II)の重合体ラテックスに酢酸カルシウムを添加し、凝析、凝集、固化反応を行い、ろ過、水洗後、乾燥して、粉体状のゴム含有重合体(II)を得た。このゲル含有率は90%であった。
【0059】
【表2】

【0060】
〔製造例3〕(熱可塑性重合体(III)の製造)
反応容器に窒素置換したイオン交換水200部を仕込み、さらに乳化剤として「ラテムルASK」(商品名:花王(株)製)1部及び過硫酸カリウム0.15部を仕込んだ。
次に、MMA 40部、n−BA 2部及びn−OM 0.004部を仕込み、窒素雰囲気下、65℃で3時間攪拌し、重合を完結させた。
続いて、MMA 44部及びn−BA 14部からなる単量体成分を2時間にわたって滴下した後、2時間保持し、重合を完結した。
得られた熱可塑性重合体(III)の重合体ラテックスを0.25%硫酸水溶液に添加し、重合体を酸析させた後、脱水、水洗、乾燥し、粉体状の熱可塑性重合体(III)を回収した。得られた熱可塑性重合体(III)の還元粘度は、0.38L/gであった。
【0061】
〔製造例4〕(熱可塑性重合体(IV)の製造)
(i)分散安定剤であるアニオン系高分子化合物水溶液(A1)の製造
攪拌機を備えた重合装置に、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム58部、メタクリル酸カリウム水溶液(メタクリル酸カリウム分30%)31部、メタクリル酸メチル11部からなる単量体混合物と、脱イオン水900部とを加えて攪拌溶解させた。その後、窒素雰囲気下で混合物を攪拌しながら60℃まで昇温し、6時間攪拌しつつ60℃で保持させてアニオン系高分子化合物水溶液を得た。この際、温度が50℃に到達した後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1部を添加し、更に別に計量したメタクリル酸メチル11部を75分間かけて、上記の反応系に連続的に滴下した。
上記した製造方法により得られたアニオン系高分子化合物水溶液を、(A1)とする。
【0062】
(ii)分散安定剤であるアニオン系高分子化合物水溶液(A2)の製造
攪拌機を備えた重合装置に、水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム分17.1%)68部、メタクリル酸メチル32部を加えてなる混合物を攪拌する。ケン化反応終了後、混合物の温度を80℃まで昇温し、4時間攪拌しつつ80℃で保持させてアニオン系高分子化合物水溶液を得た。この際、温度が72℃に到達した後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1部を添加した。その後、攪拌機を備えた重合装置内に脱イオン水1000部を分割投入すると同時に、攪拌機を備えた容器にアニオン系高分子化合物水溶液を移液・回収した。上記した製造方法により得られたアニオン系高分子化合物水溶液を、(A2)とする。
【0063】
(iii)懸濁重合方法
攪拌機を備えた内容積10リットルのセパラブルフラスコに、脱イオン水6000mlを入れ、分散安定剤として上記(i)で得られたアニオン系高分子化合物水溶液(A1)4g、上記(ii)で得られたアニオン系高分子化合物水溶液(A2)1g、分散安定助剤として硫酸ナトリウム9gを加え攪拌・溶解させた。また、攪拌機を備えた別容器に用意した、MMA2700g、MA300gの単量体混合物に、重合開始剤としてAIBN3g、連鎖移動剤としてn−OM6.6g、離型剤としてS100A6gを加え、攪拌・溶解させた。この単量体混合物を前記攪拌機の設備を備えた内容積10Lのセパラブルフラスコに投入し、窒素置換しながら攪拌機の回転数300rpmで15分間攪拌した。その後、80℃に加温して重合を開始させ、重合発熱ピーク終了後、95℃で60分間の熱処理を行い、重合を完結させた。
この懸濁重合方法で得られた重合体含有水溶液を脱水、水洗、乾燥した後、粉体状の熱可塑性重合体(IV)を回収した。この熱可塑性重合体(IV)を0.1gクロロホルム100mlに溶解し、25℃で還元粘度を測定した結果、0.06リットル/gであった。
【0064】
〔製造例5〕(熱可塑性重合体(V)の製造)
上記〔製造例4〕の熱可塑性重合体(IV)の製造方法のうち、MMA2940g、MA60gに変更した以外は、同様の懸濁重合方法で実施した。この熱可塑性重合体(V)を0.1gクロロホルム100mlに溶解し、25℃で還元粘度を測定した結果、0.06リットル/gであった。
【0065】
〔製造例6〕(アクリル樹脂フィルム(A)の製造)
ゴム含有多段重合体(I)75部および熱可塑性重合体(V)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]25部に、配合剤として「チヌビン234」(商品名:チバスペシャリティケミカルズ社製)1.4部、「アデカスタブAO−50」0.1部および「アデカスタブLA−67」(いずれも商品名:旭電化工業(株)製)0.3部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製、PCM−30(商品名))に供給し、混練して、300メッシュのスクリーンメッシュで異物を取り除きながら押し出し、ペレットを得た。
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm巾のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いて、シリンダー温度180〜240℃の条件で、500メッシュのスクリーンメッシュで異物を取り除きながら押し出し、Tダイ温度240℃、Tダイのスリット幅0.3mmの条件で押し出しした溶融状態のアクリル樹脂フィルムを2本の金属製冷却ロール間に通し、バンク(樹脂溜まり)のない状態で樹脂を挟持し、圧延せずに面転写した後、これを巻き取り機で紙巻に巻き取ることによって厚さ125μmのアクリル樹脂フィルム(A)を製膜した。なお、このアクリル樹脂フィルム(A)の鉛筆硬度はHであった。
【0066】
〔製造例7〕(アクリル樹脂フィルム(B)の製造)
ゴム含有重合体(II)16部および熱可塑性重合体(IV)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=90/10(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]84部に、配合剤として熱可塑性重合体(III)1部、「チヌビン234」(商品名:チバスペシャリティケミカルズ社製)1.4部、「アデカスタブAO−50」0.1部および「アデカスタブLA−67」(いずれも商品名:旭電化工業(株)製)0.3部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製、PCM−30(商品名))に供給し、混練して、300メッシュのスクリーンメッシュで異物を取り除きながら押し出し、ペレットを得た。
上記の方法で製造したペレットを用いる以外は、アクリル樹脂フィルム(A)の製膜と同様にして、厚さ125μmのアクリル樹脂フィルム(B)を製膜した。
なお、このアクリル樹脂フィルム(B)の鉛筆硬度は2Hであった。
【0067】
〔実施例1〕
MMA 85%、HEMA 12%、n−BA 3%の共重合体である水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価80mgKOH/g、ガラス転移温度90℃、質量平均分子量約8万)30部と、ヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアヌレート型)の3量体7.1部とを、酢酸エチル2.4部、酢酸ブチル30部、メチルエチルケトン25部、メチルイソブチルケトン35部からなる溶剤に分散させて塗料を得た。
つぎに、厚さ125μmのアクリル樹脂フィルム(A)の片面に、ベーカー式アプリケーターを用いて(メモリは2にセット)塗布した後、80℃、10分の雰囲気下で溶剤を揮発させて熱成形用アクリル樹脂フィルムを得た。該熱成形用アクリル樹脂フィルムを、40℃の雰囲気下で2日間エージングを実施し、硬化性樹脂を硬化させた。硬化樹脂層の厚さは5μmであった。
その後、得られた熱成形用アクリル樹脂フィルムをインモールド成形し、積層成形品を得た。
【0068】
〔実施例2〕
厚さ125μmのアクリル樹脂フィルム(B)を用いる以外は実施例1と同様に実施した。
【0069】
〔実施例3〕
ベーカー式アプリケーターのメモリを3にセットし塗布した以外は実施例1と同様の評価を実施した。なお、硬化後に得られた硬化樹脂層の厚さは9μmであった。
【0070】
〔実施例4〕
MMA 77%、HEMA 20%、n−BA 3%の共重合体である水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価104mgKOH/g、ガラス転移温度86℃、質量平均分子量約8万)29.3部と、ヘキサメチレンジイソシアネート(イソシアヌレート型)の3量体8.7部の割合で配合した以外は、実施例1と同様に実施した。
なお、硬化後に得られた硬化樹脂層の厚さは5μmであった。
【0071】
〔実施例5〕
ベーカー式アプリケーターのメモリを1にセットし塗布した以外は実施例4と同様の評価を実施した。
なお、硬化後に得られた硬化樹脂層の厚さは2μmであった。
表3の評価結果から、実施例1〜5については、成形性が良好であり、耐薬品性にも優れていることを確認した。
【0072】
〔比較例1〕
ベーカー式アプリケーターのメモリを4にセットし塗布した以外は実施例1と同様の評価を実施した。
なお、硬化後に得られた硬化樹脂層の厚さは15μmであった。
表3の評価結果から、成形性評価において、積層体のコーナー部分の割れを確認した。
【0073】
〔比較例2〕
アクリル樹脂フィルム(A)をそのまま用いてインモールド成形し、積層成形品を得た以外は、実施例1と同様の評価を実施した。
表3の評価結果から、耐薬品性試験を実施した積層成形品の表層は、綿布の形状は転写されていないがやや白くなっていた。
以上で得られたアクリル樹脂フィルム基体、熱成形用アクリル樹脂フィルム及び積層体の評価結果をまとめて表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
以上のように、本発明の構成を有する熱成形用アクリル樹脂フィルムを採用することで、従来のアクリル樹脂フィルムに比して優れた耐薬品性を発現し、且つ、取り扱い性が良好であり、インサート成形又はインモールド成形を施し、深絞り形状の成形品に成形した場合でも、フィルム表面に割れが発生しない、且つ、車輌用途に用いることができる耐擦傷性、表面硬度、耐熱性を有する熱成形用アクリル樹脂フィルム及びこれらを基材に積層した積層体を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の熱成形用アクリル樹脂フィルムを有する積層成形品は、特に車輌用途、建材用途に適している。具体例としては、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途、AV機器や家具製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居等の家具類の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途、瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器および材料、景品や小物等の雑貨等のその他各種用途等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂フィルムと、該アクリル樹脂フィルムの一方の面上に最外層として厚さ2−12μmの硬化樹脂層を有する60°表面光沢度が100%以上である熱成形用アクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
前記硬化樹脂層がアクリルポリオール樹脂とポリイソシアネートを硬化して得られた樹脂である請求項1記載の熱成形用アクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
前記硬化樹脂層とは反対側の面上に絵柄層を有する請求項1または2記載の熱成形用アクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
前記熱成形用アクリル樹脂フィルムの製造方法であって、硬化樹脂層を印刷法又はコート法により形成する請求項1〜3のいずれかに記載の熱成形用アクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記請求項1〜3のいずれかに記載の熱成形用アクリル樹脂フィルムをその硬化樹脂層とは反対側の面が接するように基材上に積層して成る積層体。
【請求項6】
前記請求項1〜3のいずれかに記載の熱成形用アクリル樹脂フィルムを硬化樹脂層とは反対側の面が接するようにインモールド成形法又はインサート成形法により基材上に積層して成る積層体。

【公開番号】特開2008−265062(P2008−265062A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108602(P2007−108602)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】