説明

熱拡散板

【課題】 広い範囲に熱を均等に拡散させることのできる熱拡散板を提供する。
【解決手段】 熱拡散板1は、高熱伝導材からなる上板3と下板5の一面にループ状溝7を形成し、両板をループ状溝7が対向するように重ね合わせて接合したヒートパイプ式の熱拡散板である。ループ状溝7は断面が半円形で、同溝を対向させた蛇行細孔の断面形状は円形となり、熱媒体の流動抵抗が少なくなる。さらに、熱拡散板1の最も中心部に至って折り返す2本の蛇行細孔11は平行で、同板1の中心から最も離れた周辺部にまで延びている。このため、中心付近の熱量を、中心から最も離れた周辺部まで輸送することができ、熱を熱拡散板1の全面にわたって均等に拡散することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体素子等の発熱部品から発せられる熱を拡散させる熱拡散板に関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器に搭載される半導体素子等の発熱部品の冷却装置として、熱拡散板が使用される場合がある。この熱拡散板は、銅等の高い熱伝導性を有する板であり、板の面上の一部に発熱部品が熱伝導性の高い方法で取り付けられる。熱は熱拡散板の面に沿って拡散し、発熱部品は冷却される。一般的に、発熱部品は一辺が10〜20mmの方形で、熱拡散板の大きさは50mm×50mm程度、厚さは5mm程度である。したがって、発熱部品の熱拡散板への接触面積の6〜25倍程度の面積に熱が拡散されることとなる。
【0003】一方、近年の電子機器の小型化にともない、機器内の半導体素子等の搭載密度はますます上がり、素子自身も小型化され、単位面積あたりの発熱量も多くなっている。このため、これらの素子から発する熱を拡散させる熱拡散板も、小型で、高い熱拡散効率を有するものが必要となっている。
【0004】ところで、熱拡散板の内部に蛇行細孔を形成し、この細孔に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板が提供されている。ヒートパイプ式の熱拡散板においては、発熱部品が取り付けられた部分が受熱部となり、発熱体から熱が伝えられて、同部のヒートパイプ内の熱媒体を蒸発させる。蒸気は蛇行細孔を通って放熱部に移動して放熱し、蒸気が液体に戻る。この蛇行細孔中の熱媒体の相の変化や移動により、発熱体の熱を拡散させる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】電子機器に寸法上の制約がある場合、2mm以下の厚さの熱拡散板を要求される場合がある。このような場合、厚さが薄く、より熱の拡散能力の高い熱拡散板が必要となる。
【0006】本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、広い範囲(発熱部品の熱拡散板への接触面積の10〜100倍程度の面積)に熱を均等に拡散させることのできる熱拡散板を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明の第一の熱拡散板は、 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔又は並列細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、 前記積層板として、断面がほぼ半円形の溝が対称形に形成された2枚の板を用い、 該2枚の板を重ね合わせて形成される前記細孔の断面形状がほぼ円形であることを特徴とする。ヒートパイプ式の熱拡散板の細孔の断面形状を円形とすると、熱媒体の流動抵抗が少なく、細孔中を熱媒体が流れ易くなる。このため、熱の拡散がより促進させる。
【0008】この態様においては、前記溝をエッチングにより加工すれば、溝の壁面が滑らかになり、熱媒体の流動がよりスムーズになる。
【0009】本発明の第二の熱拡散板は、 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔又は並列細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、 前記細孔が、熱拡散板の中心部の周りにおいて、半径方向の中心部と周辺部とをつなぐ放射状に形成されており、 熱拡散板の最も中心部に至る2本の蛇行細孔が平行に形成されていることを特徴とする。この第二の熱拡散板の具体的態様の熱拡散板は、 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、 前記蛇行細孔が、熱拡散板の中心部の周りにおいて、半径方向の中心部と周辺部とを折り返す放射ループ状に形成されており、 熱拡散板の最も中心部に至って折り返す2本の蛇行細孔が平行に形成されていることを特徴とする。細孔を完全に放射状に形成すると中心部で2本の細孔が交差することとなるが、平行に形成すると中心部でも交差せず、ループ状の細孔を形成することができる。また、熱拡散板の最も中心部に至って折り返す複数の蛇行細孔の対を平行に形成することによって、最中心部にまで細孔を形成することができる。
【0010】本発明の第三の熱拡散板は、 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔又は並列細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、 前記細孔が、熱拡散板の中心部の周りにおいて、半径方向の中心部と周辺部とをつなぐ放射状に形成されており、 熱拡散板の最も中心部に至る細孔が、熱拡散板の中心から最も離れた周辺部にまで延びていることを特徴とする。この第三の熱拡散板の具体的態様の熱拡散板は、 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、 前記蛇行細孔が、熱拡散板の中心部の周りにおいて、半径方向の中心部と周辺部とを折り返す放射ループ状に形成されており、 熱拡散板の最も中心部に至って折り返す蛇行細孔が、熱拡散板の中心から最も離れた周辺部にまで延びていることを特徴とする。
【0011】発熱体は一般的に熱拡散板の中心に取り付けられるため、同板の中心付近が最も発熱量の多い部分となる。熱拡散板の最も中心部に至って折り返す2本の蛇行細孔が、同板の中心から最も離れた周辺部まで延びていることにより、中心付近の熱量を、中心から最も離れた周辺部まで輸送することができる。したがって、発熱体の熱を、熱拡散板の全面にわたって均等に拡散することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る熱拡散板の構造を説明する図であり、(A)は上板、(B)は下板の各々の対向面の平面図であり、(C)は熱拡散板の細孔の断面図である。以下文中の上下左右は図の上下左右を示す。図2は、図1の熱拡散板を使用した冷却装置の構成の一例を模式的に示す図である。この熱拡散板1は、同じ大きさ及び形状の上板3と下板5からなる積層構造を有する。この例では、両板は銅製で、長さが63mm、幅が50mm、厚さが1mmである。したがって、両者が積層されて形成される熱拡散板1の厚さは2mmとなる。両板の対向面には、断面が半円形のループ状溝7がエッチングにより形成されている。上板3と下板5のループ状溝7のパターン形状は鏡像関係となっている。各板の材料としては、銅の他にアルミニウム等が使用される。
【0013】以下、ループ状溝7のパターン形状について、図1(A)の上板3の場合について説明するが、下板5の場合も同様である。ループ状溝7は、上板3の上下左右方向中心Cを中心としたほぼ50mm×50mmの範囲内にわたって形成されており、この部分が実質的な熱拡散部9となる。ループ状溝7は断面が半円形で、幅は0.7±0.1mm、最大深さは0.45±0.05mmである。同溝7のパターン形状は、熱拡散部9の中心付近と周囲付近を交互に折り返す放射ループ状であり、中心に対して対称となっている。
【0014】熱拡散部9の対角線上に沿って、4本の平行溝11a、11b、11c、11dが、同部7の中心Cに最も近い部分から同部9の角まで達している。つまり、この対角線上の平行溝11は熱拡散部9の中心Cから最も遠い位置まで延びている。さらに、熱拡散部9の中心Cを横断する横中心線と縦中心線に沿って、4本の平行溝13a、13b、13c、13dが、中心Cから同部の側辺中央まで達している。横平行溝及び縦平行溝13の中心折り返し部は、対角線上平行溝11の中心折り返し部よりやや外側に位置する。このように、熱拡散部9の対角線上、横中心線及び縦中心線に沿って計8本の平行溝11、13が形成されている。
【0015】各平行溝の間の溝は、平行ではなく、中心から外側に向かって放射状に延びている。これらの溝の中心折り返し部は、上述の8本の平行溝の中心折り返し部よりも外側に位置している。
【0016】ループ状溝7の一部から、上板3の端面に向けて、熱媒体封入溝15が分岐している。この熱媒体封入溝15は、上板3と下板5で対称の位置に形成される。同溝15も、上記ループ状溝7と同じエッチングにより作製され、断面形状は半円形で、幅は1.0±0.1mm、最大深さは0.5±0.05mmである。また、熱拡散部9の上方には、図の左右方向に延びる直線状のロウ逃げ溝17が形成され、同部の下方には、熱媒体封入溝15を避けて、左右方向に延びる直線状のロウ逃げ溝19が形成されている。これらのロウ逃げ溝17、19は、熱拡散部9と取り付け部を隔すためのもので、後述する上下板のロウ付けの際に、過剰のロウが熱拡散部9に侵入することを防ぐ。さらに、同溝17、19は上板3及び下板5に後述する貫通孔23、24を機械加工する際のクランプ歪みが、熱拡散部9に到達しないように仕切る目的も兼ねている。ロウ逃げ溝17、19もエッチングにより作製され、断面形状は半円形で、幅は0.7±0.1mm、最大深さは0.45±0.05mmである。
【0017】上板3及び下板5の下辺には、内方向にくぼんだ凹部21が形成されている。上述の熱媒体封入溝15はこの凹部21に繋がっている。この凹部21は、図示していない熱媒体封入用のノズルを封入溝15に接合した後、同ノズルが熱拡散板1の外形寸法(この場合63×50mm)より外部にはみ出さないようにするためのものである。上板3及び下板5の上下ロウ逃げ溝17、19の各々上方及び下方は、溝が形成されていない平面部となり、この部分が主な電子機器への取り付け部となる。同部には横方向に並んで各々3つの貫通孔23、24が形成されている。貫通孔23は上板3と下板5をロウ付けする際の位置決めピン挿入孔であり、貫通孔24は、上板3及び下板5から構成される熱拡散板1を、同板1が配置される装置に取り付けるための取り付け孔である。
【0018】上述のように溝及び貫通孔が形成された上板3及び下板5は、各溝及び孔の位置が一致するように面を合わせてロウ付けにより接合される。ロウは、各板の溝の間の平面部に塗られる。ロウ逃げ溝17、19は取り付け部に塗られたロウがループ状溝7に侵入することを防いでいる。
【0019】上板3と下板5が完全に接合されると、各板の対向面に形成されたループ状溝7が連通し、図1(C)に示すように、断面がほぼ円形のループ状細孔が形成される。また、熱媒体封入溝15も連通し、断面が円形の熱媒体封入細孔が形成される。この熱媒体封入細孔にノズルを接合し、そのノズルより水やブタン等の熱媒体がループ状細孔に封入され、封入後ノズルは密閉される。
【0020】このように形成された熱拡散板1はループ型蛇行細孔ヒートパイプとしての性能を有する。ループ型蛇行細孔ヒートパイプは以下の特性を備える(特開平4−190090号参照)。
(1)細孔の両端末が相互に流通自在に連結されて密閉されている。
(2)細孔の一部は受熱部、他の部分は放熱部となっている。
(3)受熱部と放熱部が交互に配置されており、両部の間を細孔が蛇行している。
(4)細孔内には2相凝縮性流体が封入されている。
(5)細孔の内壁は、上記作動流体が常に孔内を閉塞した状態のままで循環または移動することができる最大直径以下の径をもつ。
なお、非ループ型蛇行細孔ヒートパイプ(特開平9−33181号参照)では、上記(1)の条件は不要であり、本発明では、上記蛇行細孔を非ループ型とすることも可能である。さらに、受熱部や放熱部あるいはその中間の部分で、隣り合う細孔の間を別の細孔で連結することも可能である。このようにすると、細孔は並列型(特開平9−33181号の図7参照)あるいはそれに類似した形となる。
【0021】図2を参照して熱拡散板を使用した冷却装置の構成の一例を説明する。上板3及び下板5からなる熱拡散板1の下面中央には、発熱部品25が熱伝導性の高いグリースや高熱伝導性の接着剤で取り付けられている。発熱部品取り付け面と反対側の面には、コルゲート状の放熱フィン27が熱伝導性の高い方法で取り付けられている。
【0022】発熱部品25は熱拡散板1の中央付近、すなわち上述の熱拡散部9の中心付近に取り付けられてこの部分が受熱部となる。受熱部で受け取られた熱は、主にループ状溝の、対角線上に延びている4本の平行溝11から形成される細孔内の熱媒体を蒸発させ、蒸気は同溝11を通って熱拡散部9の4つの角まで達する。蒸気はこの部分で放熱して冷却され、液体にもどる。このように発熱部品の最も発熱量の多い部分である中心付近から発せられる熱量を、特に熱の届き難い熱拡散部9の4つの角まで輸送していることによって、熱拡散部9内に均等に熱を拡散させることができる。
【0023】さらに、細孔は、エッチングにより形成された断面が半円形の溝を対向させて連通させたものであるため、内部を移動する熱媒体の流動性がよい。したがって熱の移動が迅速に行われ、熱拡散能力が向上する。
【0024】熱拡散部9内に拡散された熱は、放熱フィン27によって放熱される。放熱フィン27の高さは、約6mmで、熱拡散板1と放熱フィン27の合計の厚さは約8mm程度で機能させることができる。放熱フィン27には、ファン(図示されず)から、同フィン27の各フィン板間に送風されており、放熱が促進される。
【0025】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、厚さが薄く、熱の拡散をより迅速に行うことのできるヒートパイプ式の熱拡散板を提供することができる。さらに、発熱部品の熱量を熱拡散板の全面にわたって均等に拡散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る熱拡散板の構造を説明する図であり、(A)は上板、(B)は下板の各々の対向面の平面図であり、(C)は熱拡散板の細孔の断面図である。
【図2】図2は、図1の熱拡散板を使用した冷却装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1 熱拡散板 3 上板
5 下板 7 ループ状溝
9 熱拡散部 11、13 平行溝
15 熱媒体封入溝 17、19 ロウ逃げ溝
21 凹部 23、24 貫通孔
25 発熱部品 27 放熱フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔又は並列細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、前記積層板として、断面がほぼ半円形の溝が対称形に形成された2枚の板を用い、該2枚の板を重ね合わせて形成される前記細孔の断面形状がほぼ円形であることを特徴とする熱拡散板。
【請求項2】 前記溝がエッチングにより加工されていることを特徴とする請求項1記載の熱拡散板。
【請求項3】 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、前記蛇行細孔が、熱拡散板の中心部の周りにおいて、半径方向の中心部と周辺部とを折り返す放射ループ状に形成されており、熱拡散板の最も中心部に至って折り返す2本の蛇行細孔が平行に形成されていることを特徴とする熱拡散板。
【請求項4】 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔又は並列細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、前記細孔が、熱拡散板の中心部の周りにおいて、半径方向の中心部と周辺部とをつなぐ放射状に形成されており、熱拡散板の最も中心部に至る2本の蛇行細孔が平行に形成されていることを特徴とする熱拡散板。
【請求項5】 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、前記蛇行細孔が、熱拡散板の中心部の周りにおいて、半径方向の中心部と周辺部とを折り返す放射ループ状に形成されており、熱拡散板の最も中心部に至って折り返す蛇行細孔が、熱拡散板の中心から最も離れた周辺部にまで延びていることを特徴とする熱拡散板。
【請求項6】 高熱伝導材からなる積層板の間に蛇行細孔又は並列細孔を形成し、該細孔内に熱媒体を封入したヒートパイプ式の熱拡散板であって、前記細孔が、熱拡散板の中心部の周りにおいて、半径方向の中心部と周辺部とをつなぐ放射状に形成されており、熱拡散板の最も中心部に至る細孔が、熱拡散板の中心から最も離れた周辺部にまで延びていることを特徴とする熱拡散板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2002−130964(P2002−130964A)
【公開日】平成14年5月9日(2002.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−235737(P2001−235737)
【出願日】平成13年8月3日(2001.8.3)
【出願人】(599069404)ティーエス ヒートロニクス 株式会社 (11)
【Fターム(参考)】