説明

熱硬化性エポキシ樹脂、複合材料、複合材料物品の形成方法、モールドおよびモールドの作製方法

熱硬化性エポキシ樹脂は、マイクロ波サセプタとして機能するマグネタイト粒子および導電性カーボン粒子を含む。複合材料は、マグネタイト粒子および炭素繊維補強材相を有する熱硬化性エポキシ樹脂マトリクス相を備える。複合材物品用モールドは、マイクロ波に対して実質的に透明な材料から形成したモールド本体を、マイクロ波放射吸収材料を含む表面層または裏面層と共に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性の複合材料の分野に関する。特に本発明は、熱硬化性の複合材料のマイクロ波硬化の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
片面モールドにおける繊維/エポキシ複合材の熱硬化は、確立された産業技術である。熱硬化は、熱エネルギーを付与すること、通常オーブンまたはオートクレーブ内での熱風対流により行われる。このプロセスは遅く、多くのエネルギーを用いて空気および装置を加熱する。その後、熱風を排出し、熱い装置を冷却しなければならない。また、装置が関連温度に到達するのに時間を要するため、ツール面が熱膨張により膨張するのに一層時間がかかる。これにより、最終品の形状にエラーが生じ得る。
【0003】
電磁エネルギーを用いてエポキシ樹脂をより短時間で硬化させることが既知である。電磁エネルギー、例えば電波またはマイクロ波エネルギーを用いてエポキシ樹脂を硬化させる利点は、エポキシそのもののみが加熱され、結果としてかなりのエネルギー節約になることである。また、硬化時間がより短いため、モールドそのものは熱くなりすぎず、熱膨張による許容誤差が減る。
【0004】
熱硬化性ポリマーのマイクロ波硬化の一例が、ゼネラルモーター社による米国特許第4626642号明細書(特許文献1)に示されている。この場合、熱硬化性ポリマーは、自動車用プラスチック部品を一緒に固定する際の接着剤として用いられている。熱硬化性ポリマーは、スチールまたはアルミニウムの繊維または粉末が添加されたエポキシを含む。黒鉛繊維が代替の添加剤として示されている。
【0005】
特開平5−79208号公報(特許文献2)は、エポキシ樹脂およびケブラー繊維を含む補強プラスチックをマイクロ波硬化する方法を開示する。米国特許第6566414号明細書(特許文献3)は、マイクロ波発熱促進剤を加えることを開示する。この文献は、樹脂組成物をアスファルト、コンクリート、スレートなどに適用することに関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4626642号明細書
【特許文献2】特開平5−79208号公報
【特許文献3】米国特許第6566414号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、改良された熱硬化性エポキシ樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、マグネタイト粒子および導電性カーボン材料の粒子を含む熱硬化性エポキシ樹脂が提供される。
【0009】
導電性カーボン材料、例えばグラファイト粉末とマグネタイトとの組合せは、これらのうち1種類の物質を添加した従来技術のエポキシには見られない、有益かつ相乗的な効果を有する。特に、マグネタイトは、臨界温度より上で効果的なマイクロ波サセプタとして機能し、一方カーボンサセプタはより低い温度で機能する。熱硬化性エポキシ樹脂内でこれら2種類の物質を組み合わせることにより、低温から始まって熱硬化温度までのマイクロ波加熱に対し良好な感受性を有する樹脂材料が提供される。
【0010】
本発明の目的は、改良された複合材料を提供することにある。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、マグネタイト粒子および収容された炭素繊維補強材を含む熱硬化性エポキシ樹脂マトリクスを備えた複合材料が提供される。
【0012】
炭素繊維補強材料が低温でのマイクロ波感受性をもたらす一方、熱硬化性エポキシ樹脂中にマグネタイト粒子を含むことで、より高温でのマイクロ波感受性がもたらされる。所要に応じて、追加の導電性炭素材料をエポキシ樹脂に加えることができる。
【0013】
本発明の目的は、改良された複合材料物品の形成方法を提供することにある。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、マグネタイト粒子を含む熱硬化性エポキシ樹脂を少なくとも備えたマトリックス材料を用意する工程と、実質的にマイクロ波を透過させる材料のモールドを用意する工程と、炭素繊維補強材料を用意する工程と、前記マトリックス材料および補強材料を前記モールド中に収容する工程と、マイクロ波放射線を前記収容された材料に付与して前記樹脂の熱硬化を行う工程とを備えた複合材料物品の形成方法が提供される。
【0015】
このように、樹脂のマイクロ波加熱が熱硬化をもたらし、炭素繊維補強材料とともにマグネタイト粒子が存在することにより、上述した炭素およびマグネタイトの組合せの相乗的なマイクロ波サセプタの効果が生じる。
【0016】
本発明の第4の態様によれば、複合材料物品の成形用モールドであって、マイクロ波放射線に対して実質的に透明な材料から形成したモールド本体と、マイクロ波サセプタを作業面上にまたは作業面に近接して有するツール面とを備えるモールドが提供される。
【0017】
このように、複合材料をモールドに収容し、マイクロ波エネルギーを付与すると、最少量のマイクロ波エネルギーがモールド自体に吸収されるが、モールド表面上にまたはモールド表面に近接してマイクロ波サセプタを設けることにより、マイクロ波エネルギーが局所的に吸収され、局所的な加熱が起こり、その結果、複合材料の少なくとも外側のモールドラインの熱硬化を促進する。
【0018】
本発明の第5の態様によれば、実質的にマイクロ波を透過させる材料のモールド本体を用意する工程と、ツール面を提供する工程と、マイクロ波放射線吸収材料を前記ツール面に組み込むかまたは前記ツール面の作業面に付与する工程とを備えた複合材料物品の成形用モールドの作製方法が提供される。
【0019】
本発明のさらなる利点は、ここに添付される特許請求の範囲において提示される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の種々の態様の実施形態が、例示的にかつ以下に添付の図面を参照して詳細に記載される。
【0021】
【図1】図1(a)および図1(b)は、繊維補強複合材料のマトリクスおよび補強相の概略図である。
【図2】図2は、複合材料の概略図である。
【図3】図3は、本発明に係るモールドの概略断面図である。
【図4】図4は、本発明に係る別のモールドの概略断面図である。
【図5】図5は、モールド上に収容された複合材料とともに示した図4のモールドの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1(a)および図1(b)には、炭素繊維複合材料の個々のマトリクスおよび補強相が示される。マトリクス相10は、1〜5体積%の範囲で分散されたマグネタイト粒子12を有する熱硬化性エポキシ樹脂からなる。マグネタイト粒子は、5〜100ナノメートルの範囲の寸法であるのが好ましい。
【0023】
樹脂とマグネタイトとの混合物は、高濃度のマグネタイト粉末を有する樹脂の最初のマスターバッチを用意することにより形成することができ、その後多量の樹脂に混入してマグネタイトの好ましい堆積割合を樹脂中に提供する。
【0024】
図1(b)は、複合炭素繊維材料の炭素繊維補強相14を示す。該炭素繊維補強相は、通常糸に成形し、次いで種々の異なるパターンに織る黒鉛繊維からなる。
【0025】
炭素繊維/エポキシ複合材料は、炭素繊維補強相14をエポキシマトリクス相と組み合わせる際に生じる。これら2つの組合わせは、成形に先立って例えばいわゆる「プリプレグ」プロセスにおいて生起し得る。或いはまた、エポキシと炭素繊維との組合わせは、材料をモールド内に収容する際に生じ得る。
【0026】
マイクロ波放射線を上述した炭素繊維/エポキシ/マグネタイト材料に付与することにより、炭素繊維中の黒鉛フィラメントが低温状態からマイクロ波サセプタとした働き、それによりマイクロ波エネルギーを吸収し、該エネルギーを熱に変換して炭素繊維を取り囲むエポキシマトリクス材料を加熱することに留意する。次に、マグネタイト粉末を加熱し、所定量の加熱の後、マグネタイト粒子もマイクロ波サセプタとして働く。合理的に熱的な近接近でのマグネタイトと炭素繊維との相乗的な組合せは、マイクロ波エネルギーの付与による熱硬化性エポキシ樹脂への適用に特に有用である。マイクロ波サセプタを複合材料に付与することにより、特定の複合材料モールドに付与するのに必要なマイクロ波エネルギーの量を低減する。
【0027】
複合材料中に存在する炭素繊維が低温状態からマイクロ波サセプタとして働くのに十分であることが期待されるが、追加の炭素を黒鉛粉末またはカーボンナノチューブの形態で加えることを必要とする場合がある。この場合、熱硬化性エポキシ樹脂中に添加する追加の炭素材料は、0.5体積%から2体積%の範囲の割合になる。黒鉛粉末を10〜60nmのカーボンブラックの形態で用いることができる。直径が5〜20nmで、長さが1〜100nmのカーボンナノチューブを用いることができる。
【0028】
エポキシ樹脂へのマイクロ波サセプタ添加剤の総量は、5体積%以下であることが好ましい。
【0029】
次に図3を見ると、モールド18は、モールドベース本体20と、該モールドベース本体20に搭載したモールドツール面22とからなる。モールドツール面22は外面24を有し、これに対して複合炭素繊維補強材料の外側モールドラインが位置する。
【0030】
図3の実施形態において、モールドベース本体20はマイクロ波に対して比較的透明な材料から形成され、これにより、マイクロ波エネルギーがモールドベース本体20の材料により容易に吸収されないことを意味する。一般に、マイクロ波を透過させる材料はセラミック材料を含む。最も具体的には、セラミック繊維材料がモールドベース本体20を形成する。モールドツール面22は、上記のようにマイクロ波サセプタの一部を最も好ましくは表面24に、または表面24に近接して含む材料から形成される。
【0031】
図3に示す例において、モールドツール面22は、マイクロ波サセプタを付加したケイ酸塩/玄武岩繊維材料から形成される。マイクロ波サセプタは、グラファイト、またはマグネタイトのようなフェライト材料とすることができる。このサセプタは、モールドツール面22を形成する際に混合によりケイ酸塩繊維中に導入することができる。
【0032】
図4には、図3のモールドと実質的に類似したモールド18を示し、図3の部品に対応する部品には同じ参照番号を付している。
【0033】
図3のモールド18におけるのように、図4のモールド18は、図3に関連して記載したようにマイクロ波を透過させる材料で形成されるモールドベース本体20を含む。図4において、モールド18は、モールドベース本体20上に搭載したモールドツール面22を有する。この場合、モールドツール面22もまたマイクロ波に対して実質的に透明な材料から形成される。図4のモールド18において、モールド表面24は、ある割合のマイクロ波サセプタ材料を含むコーティング26を有する。コーティング26は、モールド表面24をダスティングすることによるか、モールド表面24を粉末コーティングすることによるか、またはキャリアおよびマイクロ波サセプタ材料のエマルションを塗布することにより付与することができる。図4の配置の利点は、モールド18へのマイクロ波エネルギーの付与がマイクロ波サセプタ材料26を付与する箇所、すなわち熱硬化を行うのに熱を最も必要とするツール面22の表面24のみでの局所加熱をもたらすことである。ツールの残りはマイクロ波エネルギーを吸収しない。以前のモールド配置では、モールド18をオートクレーブ内に配置し、オートクレーブおよびモールドの全体を加熱してエポキシの熱硬化温度に到達させる必要があった。本発明の場合、モールドを大きなマイクロ波システム内に配置するので、マイクロ波エネルギーがモールドの残りの部分により吸収されない。大部分のマイクロ波エネルギーは、モールドの表面を被覆するマイクロ波受容可能な材料と、炭素繊維補強複合材料中のマイクロ波サセプタにより吸収される。
【0034】
図5は、炭素繊維補強材料と、マグネタイト粒子を含むエポキシマトリクスとを含む複合材料を有する図4のモールドを示す。
【0035】
炭素繊維複合材をモールド上に収容した場合、マイクロ波エネルギーを付与すると、モールドベース本体20およびモールドツール面22はマイクロ波放射線をほとんど吸収しない。マイクロ波サセプタ、例えばツール面22の表面を被覆する層26中のマグネタイトおよび/または黒鉛と、炭素繊維補強マトリクス中の黒鉛およびマグネタイト粒子とがマイクロ波エネルギーを吸収し、これを熱に変換して、エポキシマトリクス材料を熱硬化させるように働く。
【0036】
モールドに付与するマイクロ波放射線の周波数は、家庭用マイクロ波オーブンの典型的な周波数である(約)2.45GHzであるのが好ましい。

【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネタイト粒子および導電性カーボン材料の粒子を含む熱硬化性エポキシ樹脂。
【請求項2】
前記マグネタイト粒子が5〜100nmの範囲の寸法を有する請求項1に記載の熱硬化性エポキシ樹脂。
【請求項3】
前記導電性カーボン材料が黒鉛粉末を含む請求項1または2に記載の熱硬化性エポキシ樹脂。
【請求項4】
前記導電性カーボン材料がカーボンナノチューブを含む請求項1または2に記載の熱硬化性エポキシ樹脂。
【請求項5】
前記導電性カーボン材料が、黒鉛粉末およびカーボンナノチューブの混合物を含む前記請求項のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂。
【請求項6】
前記マグネタイト粒子が、前記樹脂の体積の1体積%〜5体積%、最も好ましくは3体積%〜5体積%の量で含まれる前記請求項のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂。
【請求項7】
前記導電性カーボン材料の粒子が、前記樹脂の体積の0.5体積%〜5体積%、最も好ましくは0.5体積%〜2体積%の量で含まれる前記請求項のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂。
【請求項8】
前記マグネタイトおよび導電性カーボン材料の粒子が、合わせて前記樹脂の体積の5体積%以下を形成する前記請求項のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂。
【請求項9】
マグネタイト粒子および炭素繊維補強材を含む熱硬化性エポキシ樹脂マトリクスを備えた複合材料。
【請求項10】
プリプレグ材料として形成される請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
導電性カーボン材料の粒子をさらに含む請求項9または10に記載の複合材料。
【請求項12】
前記マグネタイト粒子が5〜100nmの範囲の寸法を有する請求項9,10または11に記載の複合材料。
【請求項13】
前記導電性カーボン材料が黒鉛粉末を含む請求項11に記載の複合材料。
【請求項14】
前記導電性カーボン材料がカーボンナノチューブを含む請求項11に記載の複合材料。
【請求項15】
前記導電性カーボン材料が、黒鉛粉末およびカーボンナノチューブの混合物を含む請求項11に記載の複合材料。
【請求項16】
前記マグネタイト粒子が、前記樹脂の体積の1体積%〜5体積%、最も好ましくは3体積%〜5体積%の量で含まれる前記請求項のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項17】
前記導電性カーボン材料の粒子が、前記樹脂の体積の0.5体積%〜5体積%、最も好ましくは0.5体積%〜2体積%の量で含まれる請求項11または13〜15のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項18】
前記マグネタイトおよび導電性カーボン材料の粒子が、合わせて前記樹脂の体積の5体積%以下を形成する請求項11または13〜15のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項19】
少なくとも熱硬化性エポキシ樹脂およびマグネタイト粒子を含むマトリックス材料を用意する工程と、実質的にマイクロ波を透過させる材料のモールドを用意する工程と、炭素繊維補強材料を用意する工程と、前記マトリックス材料および補強材料を前記モールド中に収容する工程と、マイクロ波放射線を前記収容された材料に付与して前記樹脂の熱硬化を行う工程とを備える複合材料物品の形成方法。
【請求項20】
マイクロ波放射線に対して実質的に透明な材料から形成したモールド本体と、作業面上にまたは作業面に近接してマイクロ波放射吸収材料を有するツール面とを含む複合材料物品の成形用モールド。
【請求項21】
実質的にマイクロ波を透過させる材料のモールド本体を用意する工程と、ツール面を用意する工程と、マイクロ波放射吸収材料を前記ツール面に組み込むかまたは前記ツール面の作業面に付与する工程とを備えた複合材料物品の成形用モールドの作製方法。
【請求項22】
前記マイクロ波放射吸収材料をツール面の作業面に付与する工程が、成形前に塗布、粉末コーティング、またはダスティングのいずれかによりマイクロ波放射吸収材料で前記ツール面の作業面を被覆することを含む請求項21に記載のモールドの作製方法。
【請求項23】
前記マイクロ波放射吸収材料をツール面に組み込む工程が、マイクロ波放射吸収材料を前記ツール面の形成に用いたセラミックに加えることを含む請求項22に記載の複合材料物品の成形用モールドの作製方法。
【請求項24】
実質的にマイクロ波を透過させる材料のモールド本体がケイ酸塩セラミックからなる複合材料物品、複合材料物品の成形用モールドを作成する方法および請求項19〜23のいずれか1項に記載の複合材料物品の整形用モールドの作製方法。
【請求項25】
前記マイクロ波放射吸収材料が、マグネタイト粒子または導電性カーボン材料の片方または両方を含む請求項20〜23のいずれか1項に記載の複合材料物品の成形用モールドまたはその作製方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−521044(P2011−521044A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509009(P2011−509009)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050499
【国際公開番号】WO2009/138782
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510286488)エアバス オペレーションズ リミテッド (30)
【氏名又は名称原語表記】AIRBUS OPERATIONS LIMITED
【Fターム(参考)】