説明

熱硬化性樹脂シートの製造方法及び熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法

【課題】熱硬化性樹脂と硬化剤を含む樹脂シートにおいて、面内ムラのない樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂と硬化剤を含む樹脂混合物を、円筒状又は円柱状の樹脂硬化体とし、この樹脂硬化体の表面を所定厚みで切削して樹脂シートを作製する樹脂シートの製造方法において、前記樹脂硬化体を作製する際に、前記樹脂混合物を攪拌した後、静置して硬化を行い、この混合物における30℃〜40℃での粘度が1500mPa・s〜4000mPa・sの状態で再攪拌を行なうことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂シートの製造方法及びその樹脂シートに関する。また本発明は、樹脂シートの製造方法により得られた熱硬化性樹脂多孔シートと、それを用いた複合分離膜および、複合分離膜エレメントに関する。この熱硬化性樹脂多孔シートは、限外濾過膜(UF膜)や精密濾過膜(MF膜)、複合分離膜の支持体として好適に用いられる。この複合分離膜は、主に逆浸透膜(RO膜)やナノフィルトレーション膜(NF膜)として用いられ、超純水の製造、かん水または海水の脱塩や、排水処理などの膜分離処理に好適に用いられる。さらには、染色排水、電着塗料排水や下水などからの有害成分の分離・除去・回収や、食品用途における有効成分の濃縮などの高度処理に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
現在、本発明にかかる樹脂シートは流延法や押出し法などの様々な公知の方法により製造されるが、本発明では、硬化体のブロックを所定厚みで切削する切削法による樹脂シートの製造方法を提供する。この方法の例としては例えば、PTFEフィルムを製造しうる方法を提供することを目的として、ポリテトラフルオロエチレン粉末の塊状成形物を改質した後、これを切削して長尺フィルムとする改質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物を円柱状又は円筒状成形体に成形し、該成形体をスカイブ加工によりシート状体を成形する工程を含むスクロール型圧縮機用チップシールの製造方法が提案されている(特許文献2) 。
【0004】
さらには、ポリテトラフルオロエチレン粉末を圧縮成形して円筒状の予備圧縮成形体を作製し、該予備圧縮成形体をマンドレルにより水平に懸架し焼成することにより焼成多孔質成形体を作製し、その後、該焼成多孔質成形体を切削加工する焼成ポリテトラフルオロエチレン多孔質シートの製造方法が提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、本発明による樹脂シートは樹脂多孔シートとして用いることができ、この樹脂多孔シートは、液体や気体の分離膜や、複合分離膜の支持体として用いることができる。このような樹脂多孔シートとしては、例えば、基材の表面に実質的に分離機能を有する微多孔層が形成されたものが挙げられる。例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドなどを素材とする織布、不織布、メッシュ状ネット、及び発泡焼結シートなどが挙げられる。また、微多孔層の形成材料としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホンなどのポリスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなど種々のものが挙げられ、特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホンが好ましく用いられている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−338208号公報
【特許文献2】特開2000−240579号公報
【特許文献3】特開2001−341138号公報
【特許文献4】特開平2−187135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、樹脂硬化体の表面を切削して製造する樹脂シートの製造方法において、シート面に流紋などのムラがなく、均一且つ平滑な表面を有する樹脂シートの製造方法を提供することを目的とする。さらには、分離膜として用いる樹脂多孔シートは分離機能を阻害しないために薄膜でありかつ、面内均一な孔を有する必要があるが、そのような場合にも表面凹凸などによる欠陥のない面内均一な樹脂多孔シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱硬化性樹脂と硬化剤を含む樹脂混合物を、円筒状又は円柱状の樹脂硬化体とし、この樹脂硬化体の表面を所定厚みで切削して樹脂シートを作製する樹脂シートの製造方法において、前記樹脂硬化体を作製する際に、前記樹脂混合物を攪拌した後、静置して硬化を行い、この半硬化物における30℃〜40℃での粘度が1500mPa・s〜4000mPa・sの状態で再攪拌を行なうことを特徴とする樹脂シートの製造方法に関する。
【0009】
前記樹脂シートの切削厚みは20μm〜1000μmであることが好ましい。また、前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0010】
前記製造方法における再攪拌の後、10℃以上35℃以下の雰囲気下で静置して硬化することが好ましい。
【0011】
前記樹脂混合物にはさらにポロゲンを含むことが好ましく、このポロゲンを樹脂硬化後に除去することで樹脂を多孔化し、樹脂多孔シートの製造方法とすることが好ましく、この樹脂多孔シートに関する。
【0012】
前記樹脂多孔シートは逆浸透膜(RO膜)やナノフィルトレーション膜(NF膜)などの複合分離膜の支持体として用いることができ、本発明は、この複合分離膜および、この複合分離膜を用いた複合分離膜エレメントに関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】円筒状樹脂硬化体をスライサーを用いて切削する工程を示す概略図
【図2】実施例1で得られた樹脂シートの外観写真
【図3】実施例2で得られた樹脂シートの外観写真
【図4】比較例1で得られた樹脂硬化体の外観写真
【図5】比較例2で得られた樹脂シートの外観写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の樹脂シートは、熱硬化性樹脂および硬化剤を含むものであればよく、さらにポロゲンを含む混合物として、後に除去することで樹脂多孔シートとしてもよい。
【0015】
本発明の樹脂シートを製造する方法は、熱硬化性樹脂と硬化剤を含む樹脂混合物を、円筒状又は円柱状の樹脂硬化体とした上で、この樹脂硬化体の表面を所定厚みで切削することで樹脂シートとする。この樹脂硬化体を作製する際に、前記樹脂混合物を攪拌、静置して硬化させ、この半硬化物の30℃〜40℃での粘度が1500mPa・s〜4000mPa・sの状態で再攪拌を行なう。この再攪拌は、目視でもやもや感がなくなることを目安として1分間〜10時間程度行なうことが好ましい。
【0016】
樹脂混合物または半硬化物を攪拌する方法としては、内容物の容量や粘度に応じて従来公知の方法を用いればよく、攪拌子の形状や、攪拌速度、時間、動力などを適宜設定する必要がある。
【0017】
粘度測定においては、半硬化物をサンプリングし、回転式、振動式、毛細管式などの低粘度測定器において粘度測定すればよく、特にE型やSV型の粘度計を用いることが好ましい。このとき、対象物質の硬化時間と粘度の関係をグラフ化して適切な硬化時間で再攪拌を行ってもよい。
【0018】
本発明で使用できる熱硬化性樹脂としては、硬化剤を用いて硬化体を形成するものであれば限定することなく用いることができるが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シリコーン樹脂、及びジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。特に複合分離膜の支持体として用いる場合には、硬化剤とポロゲンを用いて多孔シートを形成可能なものが好ましく、エポキシ樹脂を好ましく用いることができる。
【0019】
円筒状又は円柱状樹脂硬化体は、例えば、前記樹脂混合物を円筒状又は円柱状モールド(型抜き用容器)内に充填し、その後、静置して硬化反応を促進することにより作製することができる。この際、必要に応じて加熱や攪拌してもよいが、本発明では、混合時に攪拌した後、30℃〜40℃での粘度が1500mPa・s〜4000mPa・sの状態で再攪拌を行なうことが必要である。その後は、10〜35℃の雰囲気下で静置することが、均一に硬化を進める上で好ましい。また、円筒状樹脂硬化体を作製する場合には、円柱状モールドを用いて円柱状樹脂硬化体を作製し、その後中心部を打ち抜いて円筒状樹脂硬化体を作製してもよい。
【0020】
樹脂混合物を注入する円筒状又は円柱状モールド(型抜き用容器)としては、金属、ガラス、硬化粘度、硬化プラスチック、またはこれらの併用体など適切なものを用いれば良いが、アルミやステンレスなどの腐食の生じにくい金属モールドにシリコン系離型剤を塗布し、乾燥したものを好ましく用いることができる。
【0021】
円筒状又は円柱状樹脂硬化体の大きさは特に制限されないが、円筒状樹脂硬化体の中心軸からの厚さは樹脂シートの製造効率の観点から5cm以上であることが好ましく、より好ましくは10cm以上である。また、円筒状又は円柱状樹脂硬化体の直径も特に制限されないが、樹脂シートの製造効率の観点からは30cm以上であることが好ましく、均一に硬化する上でより好ましくは40〜150cmである。また硬化体の幅(軸方向の長さ)は、目的とする樹脂シートの大きさを考慮して適宜設定することができるが、通常20〜200cmであり、取扱いやすさの観点から30〜150cmであることが好ましく、50〜120cmであることがより好ましい。
【0022】
その後、円筒状又は円柱状樹脂硬化体を円筒軸又は円柱軸を中心に回転させながら該硬化体の表面を所定厚みで切削して長尺状の樹脂シートを作製する。図1は、円筒状樹脂硬化体1を、スライサー2を用いて切削する工程を示す概略図である。切削時のライン速度は、例えば2〜50m/min程度である。
【0023】
切削後の樹脂シート4の厚さは特に制限されないが、強度や取り扱い易さの点から20〜1000μm程度であり、さらに、分離膜として用いる場合の観点も含めると、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは100〜200μmである。
【0024】
また、樹脂シート4の長さは特に制限されず、硬化体の容量に左右されるが、樹脂シートの製造効率の観点からは100m以上であることが好ましく、より好ましくは1000m以上である。
【0025】
以下、樹脂多孔シートを作製する上で適している、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合を例にして本発明を詳細に説明する。
【0026】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、及びテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、複素芳香環(例えば、トリアジン環など)を含有するエポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂などの非芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
これらのうち、耐薬品性や膜強度を確保するため、さらには多孔シートとする上で均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するためには、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、及びトリグリシジルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の脂環族エポキシ樹脂を用いることが好ましい。特に、エポキシ当量が6000以下で、融点が170℃以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、及びトリグリシジルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族エポキシ樹脂、エポキシ当量が6000以下で、融点が170℃以下である脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の脂環族エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0028】
硬化剤としては、例えば、芳香族アミン(例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなど)、芳香族酸無水物(例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)、フェノール樹脂、フェノーノレノボラック樹脂、複素芳香環含有アミン(例えば、トリアジン環含有アミンなど)などの芳香族硬化剤、脂肪族アミン類(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなど)、脂環族アミン類(イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、これらの変性品など)、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミンなどの非芳香族硬化剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するため、さらには膜強度と弾性率を確保するために、分子内に一級アミンを2つ以上有するメタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニノレメタン、及びジアミノジフェニノレスルホンからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族アミン硬化剤、分子内に一級アミンを2つ以上有するビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、及びビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンからなる群より選択される少なくとも1種の脂環族アミン硬化剤を用いることが好ましい。
【0030】
また、エポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせとしては、芳香族エポキシ樹脂と脂環族アミン硬化剤の組み合わせ、又は脂環族エポキシ樹脂と芳香族アミン硬化剤の組み合わせが好ましい。これらの組み合わせにより、得られるエポキシ樹脂シートの耐熱性が高くなり、複合逆浸透膜の多孔性支持体として好適に用いられる。
【0031】
エポキシ樹脂と硬化剤とさらにポロゲンを用いて多孔シートを作製することができる。ポロゲンとは、エポキシ樹脂及び硬化剤を溶かすことができ、かつエポキシ樹脂と硬化剤が重合した後、反応誘起相分離を生じさせることが可能な溶剤をいい、例えば、メチルセロソルブエチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、及びポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するために、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、分子量600以下のポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、及びポリオキシエチレンジメチルエーテルを用いることが好ましく、特に分子量200以下のポリエチレングリコール、分子量500以下のポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用しでもよい。
【0033】
また、個々のエポキシ樹脂又は硬化剤と常温で不溶又は難溶であっても、エポキシ樹脂と硬化剤との反応物が可溶となる溶剤についてはポロゲンとして使用可能である。このようなポロゲンとしては、例えば臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート5058」) などが挙げられる。
【0034】
エポキシ樹脂多孔シートの空孔率、平均孔径、孔径分布などは、使用するエポキシ樹脂、硬化剤、ポロゲンなどの原料の種類や配合比率、及び反応誘起相分離時における加熱温度や加熱時間などの反応条件により変化するため、目的とする空孔率、平均孔径、孔径分布を得るために系の相図を作成して最適な条件を選択することが好ましい。また、相分離時におけるエポキシ樹脂架橋体の分子量、分子量分布、系の粘度、架橋反応速度などを制御することにより、エポキシ樹脂架橋体とポロゲンとの共連続構造を特定の状態で固定し、安定した多孔構造を得ることができる。エポキシ樹脂多孔シートの空孔率としては20〜80%であることが好ましく、より好ましくは30〜60%である。
【0035】
また、エポキシ樹脂多孔シートを構成する全炭素原子に対する芳香環由来の炭素原子比率が0.1〜0.65の範囲になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤の種類と配合割合を決定することが好ましい。上記値が0.1未満の場合には、エポキシ樹脂多孔シートの特性である分離媒体の平面構造の認識性が低下する傾向にある。一方、0.65を超える場合には、均一な三次元網目状骨格を形成することが困難になる。
【0036】
また、エポキシ樹脂に対する硬化剤の配合割合は、エポキシ基1当量に対して硬化剤当量が0.6〜1.5であることが好ましい。硬化剤当量が0.6未満の場合には、硬化体の架橋密度が低くなり、耐熱性、耐溶剤性などが低下する傾向にある。一方、1.5を超える場合には、未反応の硬化剤が残留したり、架橋密度の向上を阻害する傾向にある。なお、本発明では、上述した硬化剤の他に、目的とする多孔構造を得るために、溶液中に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミン、2−フェノール−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチノレイミダゾール、2−フェノール−4,5ジヒドロキシイミダゾールなどのイミダゾール類などが挙げられる。
【0037】
このエポキシ樹脂多孔シートを複合分離膜の支持体として用いるためには、エポキシ樹脂多孔シートの水銀圧入法による平均孔径を0.01〜0.4μmに調整する必要がある。エポキシ樹脂多孔シートの平均孔径は、全体のエポキシ当量とポロゲンの割合、硬化温度などの諸条件を適宜設定することにより目的の範囲に調整できる。この平均孔径が大きすぎると、エポキシ樹脂多孔シート上に均一な分離機能層を形成し難く、小さすぎると複合分離膜の性能が損なわれる傾向にある。この平均孔径とするためには、エポキシ樹脂、硬化剤、及びポロゲンの総重量に対してポロゲンを40〜80重量%用いることが好ましく、ポロゲンの量が40重量%未満の場合には平均孔径が小さくなりすぎたり、空孔が形成されなくなる傾向にある。一方、ポロゲンの量が80重量%を超える場合には平均孔径が大きくなりすぎるため、複合逆浸透膜を製造する際に均一な分離機能層を多孔シート上に形成することができなくなったり、塩阻止率が著しく低下する傾向にある。これらをさらに高めるために平均孔径は0.05〜0.2μmとすることが好ましい。そのためにはポロゲンを60〜70重量%用いることが好ましい。
【0038】
また、エポキシ樹脂多孔シートの平均孔径を0.01〜0.4μmに調整する方法として、エポキシ当量の異なる2種以上のエポキシ樹脂を混合して用いる方法も好適である。その際、エポキシ当量の差は100以上であり、常温で液状のエポキシ樹脂と固形のエポキシ樹脂を混合して用いることが好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂組成物を硬化させる際の温度及び時間は、エポキシ樹脂及び硬化剤の種類によって変わるが、通常温度は15〜150℃程度、時間は10分〜72時間程度である。特に均一な孔形成のためには室温で硬化させることが好ましく、硬化初期温度は20〜40℃程度、硬化時間は1〜48時間であることが好ましい。硬化処理後、エポキシ樹脂架橋体の架橋度を高めるためにポストキュア(後処理)を行ってもよい。ポストキュアの条件は特に制限されないが、温度は室温又は50〜160℃程度であり、時間は2〜48時間程度である。
【0040】
その後、エポキシ樹脂シート中のポロゲンを除去して連通する空孔を有するエポキシ樹脂多孔シートを形成する。エポキシ樹脂シートからポロゲンを除去するために用いられる溶剤としては、例えば、水、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、THF(テトラヒドロフラン)、及びこれらの混合溶剤などが挙げられ、ポロゲンの種類に応じて適宜選択する。また、水や二酸化炭素などの超臨界流体も好ましく用いることができる。
【0041】
ポロゲンを除去した後にエポキシ樹脂多孔シートの乾燥処理等をしてもよい。乾燥条件は特に制限されないが、温度は通常40〜120℃程度であり、50〜80℃程度が好ましく、乾燥時間は3分〜3時間程度である。
【0042】
エポキシ樹脂多孔シートの表面に分離機能層を形成して複合分離膜を製造する場合、分離機能層を形成する前に、エポキシ樹脂多孔シートの分離機能層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理又はアルコール処理を施しておいてもよい。この処理を施して該表面を表面改質(例えば、親水性の向上、表面粗さの増大など)しておくことにより、エポキシ樹脂多孔シートと分離機能層の密着性が向上し、分離機能層の浮き(エポキシ樹脂多孔シートと分離機能層の聞に水が浸入するなどして、分離機能層が半球状に膨らむ現象)が生じ難い複合分離膜を製造することができる。
【0043】
前記大気圧プラズマ処理は、窒素ガス、アンモニアガス、又はヘリウム、アルゴンなどの希ガスの存在雰囲気下において、0.1〜5Wsec/cm2程度の放電強度で行うことが好ましい。また、前記アルコール処理は、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、又はt−ブチルアルコールなどの1価アルコールを0.1〜90重量%含む水溶液を塗布するか、または該水溶液中に浸漬して行うことが好ましい。
【0044】
エポキシ樹脂多孔シートの厚さは特に制限されないが、強度の点から20〜1000μm程度であり、複合逆浸透膜の多孔性支持体として用いる場合には、実用的な透水性及び塩阻止性などの観点から50〜250μm程度であることが好ましく、80〜150μmであることがより好ましい。また、エポキシ樹脂多孔シートは織布、不織布などで裏面を補強してもよい。
【0045】
エポキシ樹脂多孔シートは、複合逆浸透膜の多孔性支持体として用いる場合には、水銀圧入法による平均孔径が0.01〜0.4μmであることが好ましく、より好ましくは0.04〜0.2μmである。平均孔径が大きすぎると均一な分離機能層を形成し難く、小さすぎると複合逆浸透膜の性能が損なわれる傾向にある。また、空孔率は20〜80%であることが好ましく、より好ましくは30〜60%である。厚さは通常約25〜125μm、好ましくは約40〜75μmである。
【0046】
以下、前記樹脂多孔シートの表面に分離機能層が形成されている複合逆浸透膜の製造方法について説明する。
【0047】
前記複合分離膜の製造は、前記多孔性支持体上に多官能アミン成分を含む水溶液被覆層を形成し、そこに多官能酸ハライド成分を含む溶液を接触させることで前記ポリアミド系分離機能層を形成することが好ましい。
【0048】
前記多官能アミン成分は、多官能アミンであれば特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能アミンがあげられる。前記多官能アミン成分は単独で用いてもよく、混合物としてもよい。
【0049】
前記芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1、3、5‐トリアミノベンゼン、1、2、4‐トリアミノベンゼン、3、5‐ジアミノ安息香酸、2、4‐ジアミノトルエン、2、6‐ジアミノトルエン、2、4‐ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミンなどがあげられる。
【0050】
前記脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミンなどがあげられる。
【0051】
前記脂環式多官能アミンとしては、例えば、1、3‐ジアミノシクロヘキサン、1、2‐ジアミノシクロへキサン、1、4‐ジアミノシクロへキサン、ピペラジン、2、5‐ジメチルピペラジン、4‐アミノメチルピペラジンなどがあげられる。
【0052】
前記多官能アミン成分を含有する水溶液は、製膜を容易にし、あるいは得られる複合逆浸透膜の性能を向上させるために、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの重合体や、ソルビトール、グリセリンなどのような多価アルコールを水などに含有させることもできる。
【0053】
前記多官能酸ハライド成分は、特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能酸ハロゲン化物を用いることができる。これらの多官能酸ハライド成分は単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。
【0054】
前記芳香族多官能酸ハロゲン化物としては、例えばトリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸クロライド、ベンゼンジスルホン酸クロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸クロライドなどがあげられる。
【0055】
前記脂肪族多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、プロパントリカルボン酸クロライド、ブタントリカルボン酸クロライド、ペンタントリカルボン酸クロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライドなどがあげられる。
【0056】
前記脂環式多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸クロライド、シクロブタンテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタントリカルボン酸クロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸クロライド、シクロヘキサントリカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタンジカルボン酸クロライド、シクロブタンジカルボン酸クロライド、シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸クロライドなどがあげられる。
【0057】
前記溶液および前記水溶液にそれぞれ含まれる多官能酸ハライド成分および多官能アミン成分の濃度は、特に限定されるものではないが、多官能酸ハライド成分は、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%であり、多官能アミン成分は、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。
【0058】
前記複合膜分離膜の製造において、前記のようにポリアミド系複合分離膜の製造の際、多官能酸ハライド成分を含む溶液中に添加剤を添加してもよい。前記添加剤としては、酸ハライド成分を含む溶液に溶解せず、多官能アミン成分を含む水溶液との相溶性を高める物質であれば限定されず、エーテル類、ケトン類、エステル類、ニトロ化合物、ハロゲン化アルケン類、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族炭化水素、非芳香族不飽和炭化水素、複素芳香族が例示できる。
【0059】
分離機能層の形成については、前記多孔性支持体上に、前記多官能アミン成分を含む水溶液を被覆した後、余分な水溶液を除去して水溶液被覆層を形成する。次いで、前記多官能酸ハライド成分を含有する溶液を前記被覆層と接触させる。接触時間としては、通常10秒〜5分、好ましくは30秒〜1分である。余分な溶液を除去した後、接触により生じた界面で縮重合させる。さらに、空気中(20℃〜30℃)で約1〜10分間、好ましくは約2〜8分間乾燥させて、架橋ポリアミドからなるポリアミド系分離機能層を多孔性支持体上に形成させる。乾燥後、脱イオン水で膜面を洗浄する。
【0060】
また本発明の複合分離膜は、一般に分離膜エレメントの形態に加工され、圧力容器に装填されて使用される。例えば、スパイラル型の膜エレメントは、複合分離膜と供給側流路材と透過側流路材とが積層された状態で中心管(集水管)の周囲にスパイラル状に巻回され、端部材と外装材で固定される。
【0061】
以下に、本発明について実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、jER827)925.4g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、jER1001)132.2g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、jER1009)264.4g、硬化剤として、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン295g、及びポリエチレングリコール(三洋化成(株)、PEG200 )2383gを5リットルの円筒形容器に入れ、スリーワンモーターを用いて400rpmで15分間攪拌して樹脂混合物とした。その後4時間静置した後、スリーワンモーターを用いて300rpmで10分間再攪拌した。このときの混合物の粘度(音叉型振動式粘度計:SV−10Hを用いて測定)は3400mPa・s、温度は38℃だった。さらにその後、室温25℃、湿度35%以下の雰囲気下で48時間静置した後、80℃で24時間加熱して完全硬化させ、樹脂硬化体とした。作製した樹脂硬化体と切削旋盤にて厚さ約130μmで切削してシート化したところ、図1に示すように流紋や面内ムラのない樹脂シートを得ることができた。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様の樹脂混合物を作製し、3時間静置した後、実施例1と同様の再攪拌を行なった。このときの混合物の粘度は1800mPa・s、温度は35℃だった。その後、実施例1と同様に樹脂シートとしたところ、図2に示すように流紋や面内ムラのない樹脂シートを得ることができた。
【0064】
(比較例1)
実施例1と同様の樹脂混合物を作製し、6時間静置した後、実施例1と同様の再攪拌を行なった。このときの混合物の粘度は1万mPa・s以上、温度は45℃だった。その後、実施例1と同様に硬化体を作製し、容器から出したところ、図3のように硬化体にひび割れが生じていた。
【0065】
(比較例2)
実施例1と同様の樹脂混合物を作製し、再攪拌をしない以外は実施例1と同様に樹脂シートを作製した。その結果、図4に示すようにシート全面に流紋が発生し、シート厚みが異なる部分があった。
【符号の説明】
【0066】
1:円筒状樹脂硬化体
2:スライサー
3:回転軸
4:樹脂シート




【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と硬化剤を含む樹脂混合物を、円筒状又は円柱状の樹脂硬化体とし、この樹脂硬化体の表面を所定厚みで切削して樹脂シートを作製する樹脂シートの製造方法において、前記樹脂硬化体とする際に、前記樹脂混合物を攪拌した後、静置して硬化させ、この半硬化物における30℃〜40℃のときの粘度が1500mPa・s〜4000mPa・sの状態で再攪拌を行なうことを特徴とする樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
樹脂シートの切削厚みが20μm〜1000μmである請求項1記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項1または2記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記再攪拌の後、10℃以上35℃以下の雰囲気下で静置して硬化する請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂混合物にさらにポロゲンを含み、このポロゲンを樹脂硬化後に除去することで樹脂を多孔化することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法で得られた樹脂多孔シート。
【請求項7】
請求項6記載の樹脂多孔シートを含む複合分離膜。
【請求項8】
請求項7記載の複合分離膜を用いた複合分離膜エレメント。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121160(P2012−121160A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271620(P2010−271620)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】