説明

熱硬化性樹脂化粧板、天板付き家具、収納家具、家具、引き戸、壁、トイレブース、及びパーティション

【課題】指紋跡が目立ち難く、使用者の拭き取り作業の頻度を軽減することが可能な熱硬化性樹脂化粧板を提供する。
【解決手段】表面層がシボ加工により粗面形状となっているメラミン化粧板Kであって、表面層における粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)及び粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を、Rc+48≧0.2RSm(単位μm)を満たす値にすることにより、人の手が触れても指紋跡が目立ち難く、使用者の拭き取り作業の頻度を軽減することが可能な熱硬化性樹脂化粧板K。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばメラミン樹脂等の熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂化粧板、及び化粧部分に熱硬化性樹脂化粧板を適用した天板付き家具、収納家具、家具、引き戸、壁、トイレブース、パーティションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、天板等の化粧部分として、耐摩耗性、耐薬品性、耐汚染性、耐水性及び耐熱性等に優れた熱硬化性樹脂化粧板(代表的なものとしてメラミン化粧板)が適用されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000―325150号公報(段落番号0002等参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来から適用されている多くの熱硬化性樹脂化粧板は、上述した特性を有する一方で、人の手が触れると指紋跡がはっきりと残り、指紋跡が目立ち易いという問題があった。そのため、このような熱硬化性樹脂化粧板は、指紋跡が目立つことによって見た目の印象を損ない易く、結果として、良好な外観状態を維持するために使用者に頻繁な拭き取り作業を要求するものとなり、使用者にとって十分な満足が得られるものとはなっていなかった。このような不具合は特に明度の低い、すなわち暗い色の熱硬化性樹脂化粧板に生じていた。
【0004】
このような不具合に鑑み、例えば、吸油性に優れたプロテインパウダーを表面層に含むようにした化粧板(特開2005―199485号)とすることにより、手が触れた場合であっても指紋跡の手油の跡が残り難いようにしたものも考えられているが、この場合、従来の化粧板と比較して、プロテインパウダーが必須となるため、その分コストが高くなり、また製造工程の複雑化を招来し得るという問題があった。
【0005】
そこで、本願発明者等は、上記不具合を解決すべく様々な観点からアプローチを試みた結果、熱硬化性樹脂化粧板を熱圧プレス成型する際に金型から転写されるシボの形状、つまり表面層の粗面形状によって、指紋跡の目立ち易さに大きな差異が生じることを見出した。
【0006】
本発明は、このような極めて斬新な着眼点に基づいてなされたものであり、主たる目的は、指紋跡が目立ち難く、使用者の拭き取り作業の頻度を軽減することが可能な熱硬化性樹脂化粧板、及びこのような熱硬化性樹脂化粧板を化粧部分に適用した、天板付き家具、収納家具、家具、引き戸、壁、トイレブース、パーティションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の熱硬化性樹脂化粧板は、表面層が(シボ加工により)粗面形状となっているものであって、前記表面層における粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)及び粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が、〔式1〕を満たす値であることを特徴とする。
Rc+48≧0.2RSm(単位μm)・・・〔式1〕
ここで、「粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)」及び「粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)」は何れもJIS B0601:’01(ISO 4287:’97/ISO 1302:’02)で定義されるものである。
【0008】
発明者は、鋭意研究の末、表面層における粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)及び粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が〔式1〕を満たす値であれば、指紋跡が目立たないことを見出し、〔式1〕を充足する粗面形状とすることにより、人の手が触れても指紋跡が目立ち難く、使用者の拭き取り作業の頻度を軽減することが可能な化粧板となり、従来の不具合を悉く解消する化粧板を提供することができる。
【0009】
加えて、表面層における粗さ曲線要素の平均高さの数値が大き過ぎると、表面層がヤスリ状となり、白化現象が生じ易いことから、前記粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)が5μm〜25μmであるものが好ましい。
【0010】
特に、前記表面層及びコア層を積層してなり、前記表面層がメラミン樹脂を主体とするメラミン樹脂層であれば、従来品の一改良品として前述した態様、すなわち表面層にプロテインパウダーを含有させた態様と比較して、プロテインパウダーを必要とせず、不要なコスト高及び製造工程の複雑化を招来することがない。
【0011】
また、このような効果を奏する熱硬化性樹脂化粧板を適用する対象としては、天板付き家具における天板の化粧部分や、収納家具における開閉体の化粧部分、或いは家具全般における外部から視認可能な表出部の化粧部分、空間を仕切り得る引き戸の化粧部分、空間を仕切る壁の化粧部分、トイレブースの化粧部分、空間を仕切るパーティションの化粧部分が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、表面層の粗面形状を、前記〔式1〕を満たすものとすることにより、人の手が触れても指紋跡が目立ち難く、使用者の拭き取り作業の頻度を軽減することが可能な熱硬化性樹脂化粧板となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態では、図1に示すように、天板を備えた天板付き家具たるデスクDにおいて、天板D1の化粧部分に熱硬化性樹脂化粧板Kを適用している。
【0015】
このデスクDは、天板D1と、天板D1を支持する支持体D2とを備えたものである。本実施形態では、支持体D2として、天板D1の一方の側縁側に配される支持脚D21と、他方の側縁側に配される袖D22とを備えたいわゆる片袖タイプを適用しているが、天板D1の両側縁側にそれぞれ袖を配した両袖タイプ、或いは天板D1の両側縁側にそれぞれ支持脚を配した袖なしタイプであっても構わない。また、天板D1の反使用縁側には幕板D3を配している。
【0016】
天板D1は、例えば木製(又はスチール製)の芯材を主体としてなり、この天板D1の化粧部分、換言すれば芯材の上面材として、熱硬化性樹脂化粧板Kを適用している。この熱硬化性樹脂化粧板Kは、接着剤や接着板により芯材に貼り付けている。本実施形態では、熱硬化性樹脂化粧板Kとして、メラミン化粧板Kを適用している。
【0017】
メラミン化粧板Kは、図2に示すように、表面層K1とコア層K2とを積層してなるものである。具体的には、メラミン樹脂を含浸させて乾燥してなる表層用含浸紙K10と、フェノール樹脂を含浸させて乾燥してなるコア層用含浸紙K20とを複数層に重ね合わせ(同図(a)参照)、高温高圧下で熱圧プレスにより一体成型したプラスチック板である。このメラミン化粧板Kは、表面層K1がメラミン樹脂を主体とするメラミン樹脂層となり、基材として機能するコア層K2がフェノール樹脂を主体とするフェノール樹脂層となったものである。なお、図2は、メラミン化粧板Kの構成を極めて模式的に示す図であり、表面層K1の粗面形状を単純な直線で表している。
【0018】
メラミン化粧板Kは、シボ加工を施した図示しない金型を用いて熱圧プレス成型したものであり、表面層K1には金型のシボが転写されるため、メラミン化粧板Kの表面層K1は微細な凹凸を有する粗面形状となる。
【0019】
しかして、本願発明者は、表面層K1の粗面形状が異なる複数パターンのメラミン化粧板Kについて、指紋跡が目立ち易いか否かを以下に示す試験方法により調べた結果、表1に示す結果を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
試験方法
表面層K1の粗面形状が異なる複数パターンのメラミン化粧板K(サンプル)を用意し、複数人の当業者が、指先で各表面層K1を触り、表面層K1に指紋跡が目立つか否かを、現行品との対比において評価した。現行品は、粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)が7.19μm、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が357.7μmのものである。
【0022】
判定基準
1、各サンプルについて、各試験者が、指紋が気にならない、もしくは目立たないと評価したものには○、現行品より改善は見られるものの、依然指紋跡が目立つもしくは気になると評価したものには△、指紋跡の目立ち方が現行品と同等、もしくはそれ以下と評価したものには×を付ける。
2、各サンプルの評価結果のうち、最も良い評価と最も悪い評価を削除する。
3、2の調整後の結果において、○・△・×の数を集計する。
4、2種類以上の評価が混在するサンプルについては、○が最も多い場合には「どちらかと言えば○」、△が最も多い場合には△、×が最も多い場合には「どちらかと言えば×」、とする。
【0023】
表1には、各メラミン化粧板Kの表面層K1の粗面形状を表面粗さ測定装置(SurfcorderET3000/Kosaka Laboratory Ltd製)により測定し、測定した各種パラメータの数値のうち、JIS B0601:’01(ISO 4287:’97/ISO 1302:’02)で定義される粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)をX軸(縦軸)に表すとともに、JIS B0601:’01(ISO 4287:’97/ISO 1302:’02)で定義される粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)をY軸(横軸)に表している。
【0024】
そして、表1における○印は、全ての試験者が○と評価したもの又は前記「どちらかと言えば○」と評価した粗面形状であることを意味し、×印は、全ての試験者が×と評価したもの又は前記「どちらかと言えば×」と評価した粗面形状であることを意味し、△印は全ての試験者が△と評価したもの又は2種類以上の評価が混在し△が最も多かった粗面形状であることを意味する。なお、表1における◇印は現行品を示す。
【0025】
考察結果
〔考察結果1〕粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)の数値が高い程、相対的に指紋跡は目立たない。
〔考察結果2〕粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)が略同じ数値又は近い数値であっても、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の数値が異なれば、指紋跡の目立ち難さも異なる。例えば、粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)が10.98μm、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が196μmのサンプルについては指紋跡が目立たない「○」との評価を得た一方で、粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)が10.23μm、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が299μmのサンプルについては指紋跡が目立つ「×」との評価を得た。すなわち、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)と粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)との相対的な値によって指紋跡の目立ち難さに差が出る。
以上の2点が明らかになり、指紋跡の目立ち難さに差が出る境界線を追求した結果、
〔考察結果3〕粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)及び粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が以下の〔式1〕を満たす値であれば、指紋跡が目立たないという点を見出した。
Rc+48≧0.2RSm(単位μm)・・・〔式1〕
一方で、粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)の数値が大きければ大きい程、表面層K1の粗面形状がヤスリ状となり、触り心地を損なうことが知られている。
【0026】
そこで、本実施形態では、メラミン化粧板Kとして、その表面層K1の粗面形状が、前記〔式1〕を満たし、且つ粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)が5μm〜25μmであるものを適用した。
【0027】
このように、本実施形態に係る熱硬化性樹脂化粧板Kは、熱圧プレス成型する際に金型から転写されるシボの形状、すなわち表面層K1の粗面形状を、前記〔式1〕を満たし、且つその粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)を5μm〜25μmとすることにより、表面層K1に指紋跡が目立たないものとなり、使用者の拭き取り作業の頻度を軽減することができ、さらには、良好な触り心地をも確保できるものとなった。
【0028】
特に、デスクDの重厚感や高級感を醸し出すために、メラミン化粧板Kの色を、明度の低い色に設定した場合であっても、従来のように指紋跡が目立つということがなく、デスクDの重厚感や高級感を醸し出しつつ、指紋跡が目立たないものとすることができ、好適である。
【0029】
また、このようなメラミン化粧板Kを天板D1の化粧部分に適用したデスクDは、上述した効果を奏するものとなり、実用性に優れ、使用者にとって十分な満足が得られるものなる。
【0030】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0031】
例えば、表面層における粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)及び粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)の数値が前記〔式1〕を満たす値であればよく、粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)が25μm以上のもの、又は5μm以下のものであっても構わない。
【0032】
また、天板付き家具として、図示したデスクに替えて、テーブルを適用してもよい。さらに、天板付き家具が、天板の化粧部分のみならず、天板を支持する支持体や幕板の化粧部分にも本発明に係る熱硬化性樹脂化粧板を適用したものであっても構わない。
【0033】
さらに、内部に収納空間を有する収納家具本体と、前記収納空間を開閉し得る開閉体とを備え、少なくとも前記開閉体の化粧部分に、本発明の熱硬化性樹脂化粧板を適用した収納家具であってもよい。開閉体は、回転扉タイプのもの、引き戸タイプのもの、引き出しタイプのもの、シャッタータイプのもの、或いは窓付きタイプのもの等、どのようなものであっても構わない。また、収納家具が、開閉体の化粧部分のみならず、収納家具本体の化粧部分にも本発明に係る熱硬化性樹脂化粧板を適用したものであってもよい。
【0034】
また、空間を仕切り得る引き戸、空間を仕切る壁やパーティション、或いはトイレ室を壁によって仕切られたトイレブースであって、各化粧部分に上述した熱硬化性樹脂化粧板を適用した引き戸、壁、パーティション、トイレブースであっても構わない。さらに、展示ケースや収納棚等の各種家具において、外部から視認可能な表面部の化粧部分に、本発明に係る熱硬化性樹脂化粧板を適用してもよい。
【0035】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂化粧板を天板の化粧部分に適用した天板付き家具(デスク)の全体斜視図。
【図2】同実施形態に係る熱硬化性樹脂化粧板の構成を極めて模式的に示す図。
【符号の説明】
【0037】
D…天板付き家具(デスク)
D1…天板
K…熱硬化性樹脂化粧板(メラミン化粧板)
K1…表面層
K2…コア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層が粗面形状となっている熱硬化性樹脂化粧板であって、
前記表面層における粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)及び粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が、〔式1〕を満たす値であることを特徴とする熱硬化性樹脂化粧板。
Rc+48≧0.2RSm(単位μm)・・・〔式1〕
【請求項2】
前記粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)が5μm〜25μmである請求項1記載の熱硬化性樹脂化粧板。
【請求項3】
前記表面層をコア層に積層したものであり、前記表面層がメラミン樹脂を主体とするメラミン樹脂層である請求項1又は2記載の熱硬化性樹脂化粧板。
【請求項4】
天板と、当該天板を支持する支持体とを備え、少なくとも前記天板の化粧部分に、請求項1〜3何れか1項記載の熱硬化性樹脂化粧板を適用していることを特徴とする天板付き家具。
【請求項5】
内部に収納空間を有する収納家具本体と、前記収納空間を開閉し得る開閉体とを備え、少なくとも前記開閉体の化粧部分に、請求項1〜3何れか1項記載の熱硬化性樹脂化粧板を適用していることを特徴とする収納家具。
【請求項6】
外部から視認可能な表出部を備え、当該表出部の化粧部分に、請求項1〜3何れか1項記載の熱硬化性樹脂化粧板を適用していることを特徴とする家具。
【請求項7】
空間を仕切り得る引き戸であって、化粧部分に請求項1〜3何れか1項記載の熱硬化性樹脂化粧板を適用していることを特徴とする引き戸。
【請求項8】
空間を仕切る壁であって、化粧部分に請求項1〜3何れか1項記載の熱硬化性樹脂化粧板を適用していることを特徴とする壁。
【請求項9】
化粧部分に請求項1〜3何れか1項記載の熱硬化性樹脂化粧板を適用していることを特徴とするトイレブース。
【請求項10】
空間を仕切るパーティションであって、化粧部分に請求項1〜3何れか1項記載の熱硬化性樹脂化粧板を適用していることを特徴とするパーティション。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−269244(P2009−269244A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120138(P2008−120138)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】