説明

熱硬化性樹脂材料及び多層基板

【課題】保存安定性を高くすることができ、更に硬化後の硬化物の熱による寸法変化を小さくすることができる熱硬化性樹脂材料、及び該熱硬化性樹脂材料を用いた多層基板を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、熱硬化性樹脂と、フェノキシ樹脂の水酸基の少なくとも一部をアシル化することにより得られる化合物と、シアネートエステル硬化剤とを含む。本発明に係る多層基板11は、回路基板12と、回路基板12の回路が形成された表面12a上に配置された硬化物層13〜16とを備える。硬化物層13〜16は、上記熱硬化性樹脂材料を硬化させることにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、多層基板の絶縁層を形成するために用いられる熱硬化性樹脂材料に関し、より詳細には、熱硬化性樹脂と硬化剤とフェノキシ樹脂成分とを含む熱硬化性樹脂材料、並びに該熱硬化性樹脂材料を用いた多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層板及びプリント配線板等の電子部品を得るために、様々な樹脂組成物が用いられている。例えば、多層プリント配線板では、内部の層間を絶縁するための絶縁層を形成したり、表層部分に位置する絶縁層を形成したりするために、樹脂組成物が用いられている。
【0003】
上記樹脂組成物の一例として、下記の特許文献1には、シアネートエステル樹脂と、アントラセン型エポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂などの熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物が開示されている。ここでは、樹脂組成物の熱膨張率が低いこと、並びにスミアの除去が容易である絶縁層を形成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−291368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の樹脂組成物では、保存安定性が低いことがある。例えば、樹脂組成物の作製後に時間が経過するとともに、エポキシ樹脂などの反応が進行して、高分子量体が含まれることがある。このため、経時後の樹脂組成物の流動性が低いことがある。また、特許文献1に記載のような従来の樹脂組成物を成形してフィルムにした後に時間が経過した場合には、フィルムのハンドリング性が低くなることがある。
【0006】
また、多層プリント配線板の絶縁層には、該絶縁層に積層される他の絶縁層又は回路などと剥離が生じ難いことが強く求められる。このため、上記絶縁層では、熱により寸法が大きく変化しないことが望まれる。すなわち、上記絶縁層の線膨張率が低いことが望ましい。
【0007】
また、近年、パッケージの高密度化に伴い、該パッケージに用いられている基板がそりやすくなっている。このため、基板のそりを小さくする要求が非常に高まっている。基板のそりを十分に抑制するためには、基板上に積層される上記絶縁層の線膨張率を大幅に下げる必要がある。
【0008】
しかしながら、従来の樹脂組成物を用いた場合には、該樹脂組成物の硬化物の熱による寸法変化を十分に小さくすることができないことがあり、上記絶縁層の線膨張率が比較的高くなることがある。
【0009】
本発明の目的は、保存安定性を高くすることができ、更に硬化後の硬化物の熱による寸法変化を小さくすることができる熱硬化性樹脂材料、並びに該熱硬化性樹脂材料を用いた多層基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の広い局面によれば、熱硬化性樹脂と、フェノキシ樹脂の水酸基の少なくとも一部をアシル化することにより得られる化合物と、シアネートエステル硬化剤とを含む、熱硬化性樹脂材料が提供される。
【0011】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料のある特定の局面では、上記化合物は、上記フェノキシ樹脂の水酸基の数の5%以上がアシル化されている化合物である。
【0012】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料の他の特定の局面では、上記化合物の重量平均分子量は5,000以上、200,000以下である。
【0013】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料の別の特定の局面では、上記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂である。
【0014】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料の他の特定の局面では、シリカがさらに含まれている。
【0015】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、フィルム状に成形されたBステージフィルムであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、粗化処理又はデスミア処理される硬化物を得るために用いられる熱硬化性樹脂材料であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る多層基板は、回路基板と、該回路基板の表面上に配置された硬化物層とを備え、上記硬化物層が、本発明に従って構成された熱硬化性樹脂材料を硬化させることにより形成されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、熱硬化性樹脂と、フェノキシ樹脂の水酸基の少なくとも一部をアシル化することにより得られる化合物と、シアネートエステル硬化剤とを含むので、保存安定性に優れている。さらに、本発明に係る熱硬化性樹脂材料を硬化させた硬化物の熱による寸法変化を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂材料を用いた多層基板を模式的に示す部分切欠正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
(熱硬化性樹脂材料)
本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、熱硬化性樹脂と、フェノキシ樹脂の水酸基の少なくとも一部をアシル化することにより得られる化合物(以下、化合物Xと略記することがある)と、シアネートエステル硬化剤とを含む。
【0022】
上記組成の採用により、熱硬化性樹脂材料の保存安定性を高めることができる。このため、経時後の樹脂組成物の流動性を良好に維持したり、経時後のBステージフィルムのハンドリング性を良好に維持したりすることができる。さらに、上記組成の採用により、硬化後の硬化物の熱による寸法変化を小さくすることができる。
【0023】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、充填剤を含むことが好ましく、無機充填剤を含むことがより好ましく、シリカを含むことが更に好ましい。上記熱硬化性樹脂と上記化合物X
と上記硬化剤とを含む熱硬化性樹脂材料において、シリカなどの充填剤を多く配合することにより、硬化物の熱による寸法変化をより一層小さくすることができ、すなわち線膨張率を低くすることができる。
【0024】
熱硬化性樹脂と硬化剤と充填剤とを含む樹脂組成物において、溶剤を多く配合すると、樹脂組成物の粘度が低くなり、樹脂組成物を塗工したときに外観不良が発生しやすくなることがある。また、10μm以上の厚みに樹脂組成物を塗工することが困難である。これに対して、上記樹脂組成物がフェノキシ樹脂成分をさらに含むことにより、樹脂組成物の粘度が高くなり、樹脂組成物の製膜性及び塗工性が高くなり、更に樹脂組成物を塗工した時に外観不良が生じ難くなる。また、10μm以上の厚みに樹脂組成物を塗工することが容易になる。
【0025】
また、熱硬化性樹脂と硬化剤と充填剤とを含むBステージフィルムにおいて、熱硬化性樹脂及び硬化剤の内の一方又は双方の重量平均分子量が1000以下であると、Bステージフィルムの溶融粘度が低くなる。このため、基板上にBステージフィルムをラミネートしたときに、充填剤が不均一に存在しやすくなる。さらに、溶融粘度が低いと、硬化過程で、意図しない領域にBステージフィルムが濡れ拡がることがある。これに対して、熱硬化性樹脂と硬化剤と充填剤とを含むBステージフィルムであって、熱硬化性樹脂及び硬化剤の内の一方又は双方の重量平均分子量が1000以下であるBステージフィルムが、フェノキシ樹脂成分をさらに含むことにより、Bステージフィルムの溶融粘度が高くなる。この結果、基板上にBステージフィルムをラミネートしたときに、充填剤を均一に存在させることができる。さらに、硬化過程で、Bステージフィルムが意図しない領域に濡れ拡がるのを抑制できる。
【0026】
フェノキシ樹脂成分は、Bステージフィルムの溶融粘度を高くし、硬化物中での充填剤の分散性を高める役割を果たす。熱硬化性樹脂及び硬化剤の内の一方又は双方の重量平均分子量が1000以下ではない場合にも、フェノキシ樹脂成分は、Bステージフィルムの溶融粘度を高くし、硬化物中での充填剤の分散性を高める役割を果たす。
【0027】
また、熱硬化性樹脂と硬化剤と充填剤とを含むBステージフィルムがフェノキシ樹脂などの高分子成分を含まない場合には、溶融粘度によらず、基板上にBステージフィルムをラミネートして、Bステージフィルムを硬化させたときに、硬化物の外観が悪くなりやすい。これに対して、熱硬化性樹脂と硬化剤と充填剤とを含む樹脂組成物がフェノキシ樹脂を含む場合には、硬化物の外観が良好になる。
【0028】
上記のように、フェノキシ樹脂成分の使用には、多くの利点がある。本発明においては、フェノキシ樹脂成分の中でも、フェノキシ樹脂の水酸基の少なくとも一部をアシル化することにより得られる化合物Xを使用することで、上記多くの利点に加え、熱硬化性樹脂材料の保存安定性を高めることができるという利点も得られる。
【0029】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、ペースト状であってもよく、フィルム状であってもよい。本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、樹脂組成物であってもよく、該樹脂組成物がフィルム状に成形されたBステージフィルムであってもよい。本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、フィルム状に成形されたBステージフィルムであることが好ましい。
【0030】
また、本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、粗化処理又はデスミア処理される硬化物を得るために用いられる熱硬化性樹脂材料であることが好ましい。
【0031】
以下、本発明に係る熱硬化性樹脂材料に含まれている上記熱硬化性樹脂及び上記硬化剤、並びに含まれることが好ましい上記充填剤などの詳細を説明する。
【0032】
[熱硬化性樹脂]
本発明に係る熱硬化性樹脂材料に含まれている熱硬化性樹脂は特に限定されない。該熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。上記熱硬化性樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記エポキシ樹脂は特に限定されない。該エポキシ樹脂として、従来公知のエポキシ樹脂を使用可能である。該エポキシ樹脂は、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物をいう。エポキシ樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂、及びトリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0035】
粗化処理又はデスミア処理された硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくする観点からは、上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は好ましくは90以上、より好ましくは100以上、好ましくは1000以下、より好ましくは800以下である。
【0036】
上記エポキシ樹脂の重量平均分子量は1000以下であることが好ましい。この場合には、熱硬化性樹脂材料における充填剤の含有量を多くすることができる。さらに、充填剤の含有量が多くても、流動性が高い熱硬化性樹脂材料である樹脂組成物を得ることができる。一方で、重量平均分子量が1000以下であるエポキシ樹脂と、化合物Xとの併用により、熱硬化性樹脂材料であるBステージフィルムの溶融粘度の低下を抑制できる。このため、Bステージフィルムを基板上にラミネートした場合に、充填剤を均一に存在させることができる。
【0037】
[硬化剤]
上記熱硬化性樹脂材料に含まれている硬化剤は、シアネートエステル硬化剤(シアネートエステル化合物)である。シアネートエステル硬化剤の使用により、熱による寸法変化がより一層小さい硬化物を得ることができる。また、シアネートエステル硬化剤の使用により、硬化物に良好な絶縁信頼性を付与できる。また、上記シアネートエステル硬化剤の使用により、充填剤の含有量が多いBステージフィルムのハンドリング性を良好にすることができ、硬化物のガラス転移温度をより一層高くすることができる。上記シアネートエステル硬化剤は特に限定されない。該シアネートエステル硬化剤として、従来公知のシアネートエステル硬化剤を使用可能である。上記シアネートエステル硬化剤は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と反応可能な官能基を有することが好ましい。上記シアネートエステル硬化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
上記シアネートエステル硬化剤としては、ノボラック型シアネート樹脂及びビスフェノール型シアネート樹脂等が挙げられる。上記ビスフェノール型シアネート樹脂としては、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂及びテトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等が挙げられる。
【0039】
上記シアネートエステル硬化剤の市販品としては、フェノールノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製「PT−30」及び「PT−60」)、並びにビスフェノール
Aジシアネートがトリアジン化され、三量体とされたプレポリマー(ロンザジャパン社製「BA230」、「BA200」及び「BA3000」)等が挙げられる。
【0040】
粗化処理又はデスミア処理された硬化物の表面粗さをより一層小さくし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成し、かつ硬化剤により良好な絶縁信頼性を付与する観点からは、上記硬化剤は、当量(シアネートエステル基当量)が250以下である硬化剤を含むことが好ましい。
【0041】
上記シアネートエステル硬化剤の重量平均分子量は、3,000以下であることが好ましい。この場合には、熱硬化性樹脂材料における充填剤の含有量を多くすることができ、充填剤の含有量が多くても、流動性が高い熱硬化性樹脂材料である樹脂組成物を得ることができる。一方で、重量平均分子量が3,000以下であるシアネートエステル硬化剤と、化合物Xとの併用により、熱硬化性樹脂材料であるBステージフィルムの溶融粘度の低下を抑制できる。このため、Bステージフィルムを基板上にラミネートした場合に、充填剤を均一に存在させることができる。
【0042】
上記熱硬化性樹脂材料に含まれている上記充填剤を除く全固形分(以下、上記全固形分Bと略記することがある)100重量%中、上記熱硬化性樹脂と上記シアネートエステル硬化剤との合計の含有量は、好ましくは75重量%以上、より好ましくは80重量%以上、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99重量%以下、更に好ましくは97重量%以下である。
【0043】
上記熱硬化性樹脂と上記シアネートエステル硬化剤との合計の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、より一層良好な硬化物が得られ、溶融粘度を調整することができるために充填剤の分散性を良好にすることができ、かつ硬化過程で、意図しない領域にBステージフィルムが濡れ拡がることを防止できる。さらに、硬化物の熱による寸法変化をより一層抑制できる。また、上記熱硬化性樹脂と上記シアネートエステル硬化剤との合計の含有量が上記下限未満であると、樹脂組成物又はBステージフィルムの回路基板の穴又は凹凸に対する埋め込みが困難になり、さらに充填剤が不均一に存在しやすくなる傾向がある。また、上記熱硬化性樹脂と上記シアネートエステル硬化剤との合計の含有量が上記上限を超えると、溶融粘度が低くなりすぎて硬化過程で、意図しない領域にBステージフィルムが濡れ拡がりやすくなる場合がある。「全固形分B」とは、熱硬化性樹脂とシアネートエステル硬化剤と必要に応じて配合される他の固形分との総和をいう。全固形分Bには、充填剤は含まれない。「固形分」とは、不揮発成分であり、成形又は加熱時に揮発しない成分をいう。
【0044】
熱硬化性樹脂とシアネートエステル硬化剤との配合比は特に限定されない。熱硬化性樹脂とシアネートエステル硬化剤との配合比は、熱硬化性樹脂とシアネートエステル硬化剤との種類により適宜決定される。
【0045】
[充填剤]
硬化物の熱による寸法変化をより一層小さくする観点からは、上記熱硬化性樹脂材料は、充填剤を含むことが好ましい。また、充填剤の使用により、粗化処理又はデスミア処理された硬化物の表面粗さを小さくすることができる。上記充填剤としては、無機充填剤、有機充填剤及び有機無機複合充填剤等が挙げられる。なかでも、無機充填剤が好ましい。上記充填剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0046】
上記無機充填剤は特に限定されない。該無機充填剤として、従来公知の無機充填剤を使用可能である。上記無機充填剤としては、シリカ、タルク、クレイ、マイカ、ハイドロタルサイト、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び窒
化ホウ素等が挙げられる。粗化処理又はデスミア処理された予備硬化物の表面粗さを小さくし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成し、かつ硬化物により一層良好な絶縁信頼性を付与する観点からは、上記無機充填剤は、シリカ又はアルミナであることが好ましく、シリカであることがより好ましく、溶融シリカであることが更に好ましい。シリカの使用により、硬化物の線膨張率をより一層低くすることができ、かつ粗化処理又はデスミア処理された硬化物の表面の表面粗さを効果的に小さくすることができる。シリカの形状は略球状であることが好ましい。
【0047】
上記充填剤の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、好ましくは20μm以下、より好ましくは1μm以下である。上記充填剤の平均粒子径として、50%となるメディアン径(d50)の値が採用される。上記平均粒子径は、レーザー回折散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定できる。
【0048】
上記充填剤は、表面処理されていることが好ましく、カップリング剤により表面処理されていることがより好ましい。これにより、粗化処理又はデスミア処理された硬化物の表面粗さをより一層小さくすることができ、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成することができ、かつ硬化物により良好な配線間絶縁信頼性及び層間絶縁信頼性を付与することができる。
【0049】
上記カップリング剤としては特に限定されず、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤及びアルミニウムカップリング剤等が挙げられる。上記シランカップリング剤としては、アミノシラン、イミダゾールシラン及びエポキシシラン等が挙げられる。
【0050】
上記充填剤の含有量は特に限定されない。上記熱硬化性樹脂材料に含まれている全固形分(以下、全固形分Aと略記することがある)100重量%中、上記充填剤の含有量は好ましくは50重量%以上、好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。上記充填剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、粗化処理又はデスミア処理された硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくすることができ、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成することができると同時に、この充填剤量であれば金属銅並に硬化物の熱線膨張係数を低くすることも可能である。「全固形分A」とは、熱硬化性樹脂と硬化剤と充填剤と必要に応じて配合される固形分との総和をいう。「固形分」とは、不揮発成分であり、成形又は加熱時に揮発しない成分をいう。
【0051】
[化合物X]
本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、フェノキシ樹脂の水酸基の少なくとも一部をアシル化することにより得られる化合物Xを含む。該化合物Xの使用により、水酸基が全くアシル化されていないフェノキシ樹脂を用いた場合と比べて、熱硬化性樹脂材料の保存安定性がかなり高くなる。さらに、上記化合物Xの使用により、溶融粘度を調整することができるために充填剤の分散性を良好にすることができ、かつ硬化過程で、意図しない領域にBステージフィルムが濡れ拡がることを防止できる。また、化合物Xの添加量を所定の範囲内にすることで、樹脂組成物又はBステージフィルムの回路基板の穴又は凹凸に対する埋め込み性の悪化や、充填剤の不均一化を生じ難くすることができる。上記化合物Xは1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
上記アシル化により、アシル基を導入できる。上記アシル基は、RCO基である。該アシル基のRは、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましい。中でも炭素数1〜5のアルキル基がより好ましい。
【0053】
上記アシル化の方法としては、酸無水物やカルボン酸ハロゲン化物を用いる方法が挙げられる。上記アシル化に用いられるアシル基を導入するための化合物としては、無水酢酸
、無水プロピオン酸及び塩化アセチル等が挙げられる。
【0054】
下記式(11)に、水酸基をアシル化する前の代表的なフェノキシ樹脂の一例を示す。
【0055】
【化1】

【0056】
下記式(1)に水酸基をアシル化した後の代表的な化合物Xの一例を示す。
【0057】
【化2】

【0058】
上記式(1)中のRaはアシル基の一部である。
【0059】
アシル化する前の上記フェノキシ樹脂は特に限定されない。該フェノキシ樹脂として、従来公知のフェノキシ樹脂を使用可能である。
【0060】
上記フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型の骨格、ビスフェノールF型の骨格、ビスフェノールS型の骨格、ビフェニル骨格、ノボラック骨格、及びナフタレン骨格などの骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0061】
上記フェノキシ樹脂の具体例としては、例えば、東都化成社製の「YP50」、「YP55」及び「YP70」、並びに三菱化学社製の「1256B40」、「4250」、「4256H40」、「4275」、「YX6954BH30」、「YX8100BH30」、「YL7600DMAcH25」及び「YL7213BH30」などが挙げられる。
【0062】
硬化物の表面を粗化処理した後に、金属層を形成するためにめっき処理した場合に、硬化物と金属層との接着強度を高めることができるので、上記フェノキシ樹脂及び上記化合物Xは、ビフェニル骨格を有することが好ましく、ビフェノール骨格を有することがより好ましい。
【0063】
上記熱硬化性樹脂材料の保存安定性をより一層高める観点からは、フェノキシ樹脂の水酸基の数の5%以上がアシル化されている化合物が好ましい。上記熱硬化性樹脂材料の保存安定性をさらに一層高める観点からは、フェノキシ樹脂の水酸基の数の20%以上がアシル化されている化合物がより好ましい。水酸基の数の100%がアシル化されていてもよい。
【0064】
上記化合物Xの重量平均分子量は好ましくは5,000以上、好ましくは200,000以下である。上記化合物Xの重量平均分子量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物の成形性及び機械的強度がより一層高くなる。
【0065】
上記化合物Xの含有量は特に限定されない。上記全固形分B100重量%中、上記化合物Xの含有量は好ましくは0.1重量%以上、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。上記化合物Xの含有量が上記下限以上であると、硬化物の成形性及び機械的強度がより一層高くなる。上記化合物Xの含有量が上記上限以下であると、樹脂組成物又はBステージフィルムの回路基板の穴又は凹凸に対する埋め込み性が良好になる。さらに、充填剤の含有量が比較的多い場合でも、樹脂組成物又はBステージフィルムを各種パターンに積層又はラミネートした後の表面の平滑性をより一層高め、各種パターンに積層又はラミネートされた樹脂組成物又はBステージフィルムが硬化された後の硬化物の表面の平滑性をより一層高めることができる。
【0066】
[他の成分及び熱硬化性樹脂材料の詳細]
上記熱硬化性樹脂材料は、必要に応じて硬化促進剤を含んでいてもよい。硬化促進剤の使用により、硬化速度をより一層速くすることができる。熱硬化性樹脂材料を速やかに硬化させることで、硬化物の架橋構造を均一にすることができると共に、未反応の官能基数を減らすことができ、結果的に架橋密度を高くすることができる。該硬化促進剤は特に限定されず、従来公知の硬化促進剤を使用可能である。上記硬化促進剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0067】
上記硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物、リン化合物、アミン化合物及び有機金属化合物等が挙げられる。
【0068】
上記イミダゾール化合物としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール及び2−フェニル−4−メチル−5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0069】
上記リン化合物としては、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
【0070】
上記アミン化合物としては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン及び4,4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0071】
上記有機金属化合物としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)及びトリスアセチルアセトナートコバルト(III)等が挙げられる。
【0072】
硬化物の絶縁信頼性を高める観点からは、上記硬化促進剤は、イミダゾール化合物であることが特に好ましい。硬化物の絶縁信頼性を高める観点からは、上記硬化促進剤は、有
機金属化合物を含まないことが好ましい。
【0073】
上記硬化促進剤の含有量は特に限定されない。熱硬化性樹脂材料を効率的に硬化させる観点からは、上記全固形分B100重量%中、上記硬化促進剤の含有量は好ましくは0.01重量%以上、好ましくは3重量%以下である。
【0074】
耐衝撃性、耐熱性、樹脂の相溶性及び作業性等の改善を目的として、熱硬化性樹脂材料には、カップリング剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、消泡剤、増粘剤、揺変性付与剤及び上述した樹脂以外の他の樹脂等を添加してもよい。
【0075】
上記カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤及びアルミニウムカップリング剤等が挙げられる。上記シランカップリング剤としては、ビニルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン及びエポキシシラン等が挙げられる。
【0076】
上記他の樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ジビニルベンジルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾオキサゾール樹脂、ビスマレイミド樹脂及びアクリレート樹脂等が挙げられる。
【0077】
(Bステージフィルムである熱硬化性樹脂材料)
上記樹脂組成物をフィルム状に成形する方法としては、例えば、押出機を用いて、樹脂組成物を溶融混練し、押出した後、Tダイ又はサーキュラーダイ等により、フィルム状に成形する押出成形法、樹脂組成物を有機溶剤等の溶剤に溶解又は分散させた後、キャスティングしてフィルム状に成形するキャスティング成形法、並びに従来公知のその他のフィルム成形法等が挙げられる。なかでも、薄型化を進めることができるので、押出成形法又はキャスティング成形法が好ましい。フィルムにはシートが含まれる。
【0078】
上記樹脂組成物をフィルム状に成形し、熱による硬化が進行し過ぎない程度に、例えば90〜200℃で10〜180分間加熱乾燥させることにより、Bステージフィルムを得ることができる。
【0079】
上述のような乾燥工程により得ることができるフィルム状の樹脂組成物をBステージフィルムと称する。
【0080】
上記Bステージフィルムは、半硬化状態にある半硬化物である。半硬化物は、完全に硬化しておらず、硬化がさらに進行され得る。
【0081】
上記樹脂組成物は、基材と、該基材の一方の表面に積層されたBステージフィルムとを備える積層フィルムを形成するために好適に用いることができる。積層フィルムのBステージフィルムが、上記樹脂組成物により形成される。
【0082】
上記積層フィルムの上記基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステル樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム及びポリプロピレンフィルムなどのオレフィン樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、銅箔及びアルミニウム箔などの金属箔等が挙げられる。上記基材の表面は、必要に応じて、離型処理されていてもよい。
【0083】
上記熱硬化性樹脂材料を回路の絶縁層として用いる場合、熱硬化性樹脂材料により形成された層の厚さは、回路を形成する導体層の厚さ以上であることが好ましい。上記熱硬化性樹脂材料により形成された層の厚さは、好ましくは5μm以上、好ましくは200μm
以下である。
【0084】
(プリント配線板)
上記熱硬化性樹脂材料は、プリント配線板において絶縁層を形成するために好適に用いられる。
【0085】
上記プリント配線板は、例えば、上記樹脂組成物により形成されたBステージフィルムを用いて、該Bステージフィルムを加熱加圧成形することにより得られる。
【0086】
上記Bステージフィルムに対して、片面又は両面に金属箔を積層できる。上記Bステージフィルムと金属箔とを積層する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、平行平板プレス機又はロールラミネーター等の装置を用いて、加熱しながら又は加熱せずに加圧しながら、上記Bステージフィルムを金属箔に積層できる。
【0087】
(銅張り積層板及び多層基板)
上記熱硬化性樹脂材料は、銅張り積層板を得るために好適に用いられる。上記銅張り積層板の一例として、銅箔と、該銅箔の一方の表面に積層されたBステージフィルムとを備える銅張り積層板が挙げられる。この銅張り積層板のBステージフィルムが、本発明に係る熱硬化性樹脂材料により形成される。
【0088】
上記銅張り積層板の上記銅箔の厚さは特に限定されない。上記銅箔の厚さは、1〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、熱硬化性樹脂材料を硬化させた硬化物層と銅箔との接着強度を高めるために、上記銅箔は微細な凹凸を表面に有することが好ましい。凹凸の形成方法は特に限定されない。上記凹凸の形成方法としては、公知の薬液を用いた処理による形成方法等が挙げられる。
【0089】
また、本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、多層基板を得るために好適に用いられる。上記多層基板の一例として、回路基板と、該回路基板の表面上に積層された硬化物層とを備える回路基板が挙げられる。この多層基板の硬化物層が、上記熱硬化性樹脂材料を硬化させることにより形成される。上記硬化物層は、回路基板の回路が設けられた表面上に積層されていることが好ましい。上記硬化物層の一部は、上記回路間に埋め込まれていることが好ましい。
【0090】
上記多層基板では、上記硬化物層の上記回路基板が積層された表面とは反対側の表面が粗化処理又はデスミア処理されていることが好ましく、粗化処理されていることがより好ましい。
【0091】
粗化処理方法は、従来公知の粗化処理方法を用いることができ特に限定されない。上記硬化物層の表面は、粗化処理の前に膨潤処理されていてもよい。
【0092】
また、上記多層基板は、上記硬化物層の粗化処理された表面に積層された銅めっき層をさらに備えることが好ましい。
【0093】
また、上記多層基板の他の例として、回路基板と、該回路基板の表面上に積層された硬化物層と、該硬化物層の上記回路基板が積層された表面とは反対側の表面に積層された銅箔とを備える回路基板が挙げられる。上記硬化物層及び上記銅箔が、銅箔と該銅箔の一方の表面に積層されたBステージフィルムとを備える銅張り積層板を用いて、上記Bステージフィルムを硬化させることにより形成されていることが好ましい。さらに、上記銅箔はエッチング処理されており、銅回路であることが好ましい。
【0094】
上記多層基板の他の例として、回路基板と、該回路基板の表面上に積層された複数の硬化物層とを備える回路基板が挙げられる。上記複数層の硬化物層の内の少なくとも1層がが、上記熱硬化性樹脂材料を硬化させることにより形成される。上記多層基板は、上記熱硬化性樹脂材料を硬化させることにより形成されている上記硬化物層の少なくとも一方の表面に積層されている回路をさらに備えることが好ましい。
【0095】
図1に、本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂材料を用いた多層基板を模式的に部分切欠正面断面図で示す。
【0096】
図1に示す多層基板11では、回路基板12の上面12aに、複数層の硬化物層13〜16が積層されている。硬化物層13〜16は、絶縁層である。回路基板12の上面12aの一部の領域には、金属層17が形成されている。複数層の硬化物層13〜16のうち、回路基板12側とは反対の外側の表面に位置する硬化物層16以外の硬化物層13〜15には、上面の一部の領域に金属層17が形成されている。金属層17は回路である。回路基板12と硬化物層13の間、及び積層された硬化物層13〜16の各層間に、金属層17がそれぞれ配置されている。下方の金属層17と上方の金属層17とは、図示しないビアホール接続及びスルーホール接続の内の少なくとも一方により互いに接続されている。
【0097】
多層基板11では、硬化物層13〜16が、本発明に係る熱硬化性樹脂材料を硬化させることにより形成されている。本実施形態では、硬化物層13〜16の表面が粗化処理又はデスミア処理されているので、硬化物層13〜16の表面に図示しない微細な孔が形成されている。また、微細な孔の内部に金属層17が至っている。また、多層基板11では、金属層17の幅方向寸法(L)と、金属層17が形成されていない部分の幅方向寸法(S)とを小さくすることができる。また、多層基板11では、図示しないビアホール接続及びスルーホール接続で接続されていない上方の金属層と下方の金属層との間に、良好な絶縁信頼性が付与されている。
【0098】
(粗化処理及び膨潤処理)
本発明に係る熱硬化性樹脂材料は、粗化処理又はデスミア処理される硬化物を得るために用いられることが好ましい。上記硬化物には、更に硬化が可能な予備硬化物も含まれる。
【0099】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料を予備硬化させることにより得られた予備硬化物の表面に微細な凹凸を形成するために、予備硬化物は粗化処理されることが好ましい。粗化処理の前に、予備硬化物は膨潤処理されることが好ましい。硬化物は、予備硬化の後、かつ粗化処理される前に、膨潤処理されており、さらに粗化処理の後に硬化されていることが好ましい。ただし、予備硬化物は、必ずしも膨潤処理されなくてもよい。
【0100】
上記膨潤処理の方法としては、例えば、エチレングリコールなどを主成分とする化合物の水溶液又は有機溶媒分散溶液などにより、予備硬化物を処理する方法が用いられる。膨潤処理に用いる膨潤液は、一般にpH調整剤などとして、アルカリを含む。膨潤液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。具体的には、例えば、上記膨潤処理は、40重量%エチレングリコール水溶液等を用いて、処理温度30〜85℃で1〜30分間、予備硬化物を処理することにより行なわれる。上記膨潤処理の温度は50〜85℃の範囲内であることが好ましい。上記膨潤処理の温度が低すぎると、膨潤処理に長時間を要し、更に硬化物と金属層との粗化接着強度が低くなる傾向がある。
【0101】
上記粗化処理には、例えば、マンガン化合物、クロム化合物又は過硫酸化合物などの化学酸化剤等が用いられる。これらの化学酸化剤は、水又は有機溶剤が添加された後、水溶
液又は有機溶媒分散溶液として用いられる。粗化処理に用いられる粗化液は、一般にpH調整剤などとしてアルカリを含む。粗化液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0102】
上記マンガン化合物としては、過マンガン酸カリウム及び過マンガン酸ナトリウム等が挙げられる。上記クロム化合物としては、重クロム酸カリウム及び無水クロム酸カリウム等が挙げられる。上記過硫酸化合物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0103】
上記粗化処理の方法は特に限定されない。上記粗化処理の方法として、例えば、30〜90g/L過マンガン酸又は過マンガン酸塩溶液及び30〜90g/L水酸化ナトリウム溶液を用いて、処理温度30〜85℃及び1〜30分間の条件で、1回又は2回、予備硬化物を処理する方法が好適である。上記粗化処理の温度は50〜85℃の範囲内であることが好ましい。
【0104】
粗化処理された硬化物の表面の算術平均粗さRaは、50nm以上、350nm以下であることが好ましい。この場合には、硬化物と金属層又は配線との接着強度を高くすることができ、更に硬化物層の表面により一層微細な配線を形成することができる。
【0105】
(デスミア処理)
また、本発明に係る熱硬化性樹脂材料を予備硬化させることにより得られた予備硬化物又は硬化物に、貫通孔が形成されることがある。上記多層基板などでは、貫通孔として、ビア又はスルーホール等が形成される。例えば、ビアは、COレーザー等のレーザーの照射により形成できる。ビアの直径は特に限定されないが、60〜80μm程度である。上記貫通孔の形成により、ビア内の底部には、硬化物層に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアが形成されることが多い。
【0106】
上記スミアを除去するために、硬化物層の表面は、デスミア処理されることが好ましい。デスミア処理が粗化処理を兼ねることもある。
【0107】
上記デスミア処理には、上記粗化処理と同様に、例えば、マンガン化合物、クロム化合物又は過硫酸化合物などの化学酸化剤等が用いられる。これらの化学酸化剤は、水又は有機溶剤が添加された後、水溶液又は有機溶媒分散溶液として用いられる。デスミア処理に用いられるデスミア処理液は、一般にアルカリを含む。デスミア処理液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0108】
上記デスミア処理の方法は特に限定されない。上記デスミア処理の方法として、例えば、30〜90g/L過マンガン酸又は過マンガン酸塩溶液及び30〜90g/L水酸化ナトリウム溶液を用いて、処理温度30〜85℃及び1〜30分間の条件で、1回又は2回、予備硬化物又は硬化物を処理する方法が好適である。上記デスミア処理の温度は50〜85℃の範囲内であることが好ましい。
【0109】
本発明に係る熱硬化性樹脂材料の使用により、デスミア処理された硬化物の表面の表面粗さを十分に小さくすることができる。
【0110】
以下、実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0111】
実施例及び比較例では、以下に示す材料を用いた。
【0112】
(エポキシ樹脂)
(1)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC社製「830−S」)
(2)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC社製「HP−7200」)
【0113】
(硬化剤)
(1)シアネート硬化剤(シアネートエステル硬化剤、ロンザジャパン社製「BA−230S」)
【0114】
(化合物X)
(1)下記の合成例1:フェノキシ樹脂の水酸基をアシル化した化合物(X1)含有液
〔合成例1〕
フェノキシ樹脂(三菱化学社製、商品名「YX6954BH30」、水酸基当量325g/eq、不揮発成分30重量%のメチルエチルケトンとシクロヘキサノンとの1:1(重量比)溶液)100gに無水酢酸2.0g添加し、100℃で2時間攪拌した。その後、副生成物である酢酸を除去し、もとの固形分濃度30重量%になるようにメチルエチルケトンを加え、化合物(X1)含有液を得た。
【0115】
下記のNMR測定の結果、得られた化合物(X1)のアシル化率が15%(水酸基の数の15%がアシル基に変換されている)であることを確認した。下記のGPC測定の結果、得られた化合物(X1)のポリスチレン換算での重量平均分子量は42,000であった。
【0116】
(2)下記の合成例2:フェノキシ樹脂の水酸基をアシル化した化合物(X2)含有液
〔合成例2〕
無水酢酸の添加量を4.0gに変更したこと以外は合成例1と同様にして、化合物(X2)含有液を得た。
【0117】
下記のNMR測定の結果、得られた化合物(X2)のアシル化率が30%(水酸基の数の30%がアシル基に変換されている)であることを確認した。下記のGPC測定の結果、得られた化合物(X2)のポリスチレン換算での重量平均分子量は42,000であった。
【0118】
(3)下記の合成例3:フェノキシ樹脂の水酸基をアシル化した化合物(X3)含有液
〔合成例3〕
無水酢酸の添加量を10.0gに変更したこと以外は合成例1と同様にして、化合物(X3)含有液を得た。
【0119】
下記のNMR測定の結果、得られた化合物(X3)のアシル化率が65%(水酸基の数の65%がアシル基に変換されている)であることを確認した。下記のGPC測定の結果、得られた化合物(X3)のポリスチレン換算での重量平均分子量は42,000であった。
【0120】
(4)下記の合成例4:フェノキシ樹脂の水酸基をアシル化した化合物(X4)含有液
〔合成例4〕
無水酢酸の添加量を20.0gに変更したこと以外は合成例1と同様にして、化合物(X4)含有液を得た。
【0121】
下記のNMR測定の結果、得られた化合物(X4)のアシル化率が100%(水酸基の数の100%がアシル基に変換されている)であることを確認した。下記のGPC測定の結果、得られた化合物(X4)のポリスチレン換算での重量平均分子量は42,000であった。
【0122】
NMR測定:
JEOL製NMR測定装置「ECX−400」により、23℃でH−NMRスペクトルを測定した。
【0123】
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定:
島津製作所製高速液体クロマトグラフシステムを使用し、テトラヒドロフラン(THF)を展開媒として、カラム温度40℃、流速1.0ml/分で測定を行った。検出器として「SPD−10A」を用い、カラムはShodex製「KF−804L」(排除限界分子量400,000)を2本直列につないで使用した。標準ポリスチレンとして、東ソー製「TSKスタンダードポリスチレン」を用い、重量平均分子量Mw=354,000、189,000、98,900、37,200、17,100、9,830、5,870、2,500、1,050、500のものを使用して較正曲線を作成し、分子量の計算を行った。
【0124】
(フェノキシ樹脂)
フェノキシ樹脂含有液(三菱化学社製、商品名「YX6954BH30」、水酸基当量325g/eq、不揮発成分30重量%のメチルエチルケトンとシクロヘキサノンとの1:1(重量比)溶液)
【0125】
(硬化促進剤)
イミダゾール化合物(2−エチル−4−メチルイミダゾール、四国化成工業社製「2P4EZ」)
【0126】
(充填剤)
シリカ含有スラリー(アドマテックス社製「SC2050−MTF」)
【0127】
(実施例1)
シアネート硬化剤(ロンザジャパン社製「BA−230S」)9.1重量部と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC社製「830−S」)12.2重量部と、ジシクロペンジエン型エポキシ樹脂(DIC社製「HP−7200」)12.2重量部と、合成例1で得られた化合物(X1)含有液6.0重量部と、シリカ含有スラリー(アドマテックス社製「SC2050−MTF」)60.0重量部と、イミダゾール化合物(四国化成社製「2P4EZ」)0.5重量部とを混合し、均一な溶液となるまで常温で攪拌し、樹脂組成物ワニスを得た。
【0128】
アプリケーターを用いて、PETフィルム(東レ社製「XG284」、厚み25μm)の離型処理面上に得られた樹脂組成物ワニスを塗工した後、100℃のギアオーブン内で2分間乾燥し、溶剤を揮発させた。このようにして、PETフィルム上に、厚さが40μmであり、溶剤の残量が1.0重量%以上、1.5重量%以下であるシート状の成形体を得た。
【0129】
(実施例2〜4及び比較例1〜3)
使用した材料の種類及び配合量(重量部)を下記の表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物及びシート状の成形体を作製した。
【0130】
(流動性の評価)
(1)180度折り曲げ試験
得られたシート状の成形体を25℃で5日間保管した後、25℃で成形体を180度に折り曲げて、下記の基準で判定した。
【0131】
[180度折り曲げ試験の判定基準]
○:白化及び割れのいずれもなし
×:白化又は割れが発生
【0132】
(2)チッピング試験
得られたシート状の成形体を25℃で5日間保管した後、25℃で成形体をカッターナイフで切断し、下記の基準で判定した。
【0133】
[チッピング試験の判定基準]
○:切断後に成形体に亀裂及び欠けのいずれも発生していない
×:切断後に成形体に亀裂又は欠けが発生
【0134】
(3)溶融粘度
得られた直後(保管前)のシート状の成形体と、上記成形体を25℃で5日間保管した後のシート状の成形体とをそれぞれ直径25mm×厚み1mmの円形に打ち抜いた成形体を用意した。この成形体の溶融粘度を、レオメータ(商品名「AR−2000ex」、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)にて5℃/分の昇温速度、1Hz及び歪み量22%の測定条件にて、23℃から180℃までの測定を行い、100℃における溶融粘度を求めた。
【0135】
(硬化物性の評価)
(1)ガラス転移温度
得られた直後(保管前)のシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分硬化させ、硬化体を得た。得られた上記硬化体を5mm×3mmの平面形状に裁断した。粘弾性スペクトロレオメーター(品番「RSA−II」、レオメトリック・サイエンティフィックエフ・イー社製)を用いて、昇温速度5℃/分の条件で、30から250℃まで裁断された硬化体の損失率tanδを測定し、損失率tanδが最大値になる温度(ガラス転移温度Tg)を求めた。
【0136】
(2)熱線膨張係数
得られた直後(保管前)のシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分硬化させ、硬化体を得た。得られた硬化体を、3mm×25mmの大きさに裁断した。線膨張率計(セイコーインスツルメンツ社製「TMA/SS120C」)を用いて、引張り荷重3.3×10−2N、昇温速度5℃/分の条件で、裁断された硬化体の25〜150℃における平均線膨張率を測定した。
【0137】
[熱線膨張係数の判定基準]
○:平均線膨張率が35ppm/℃以下
×:平均線膨張率が35ppm/℃を超える
【0138】
(3)電気特性(誘電率及び誘電正接)
得られた直後(保管前)のシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分硬化させ、硬化体を得た。得られた上記硬化体を150mm×2mmの大きさに裁断した。裁断された硬化体を誘電率測定装置(ヒューレットパッカード社製、商品名「8510C」)を用いて空洞共振法により、25℃、1GHzにおける誘電率及び誘電正接を測定した。
【0139】
(4)破断伸び率
得られた直後(保管前)のシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分
間硬化させ、更に190℃で90分硬化させ、硬化体を得た。得られた上記硬化体を10×80mmの大きさに裁断し、厚み40μmの試験サンプルを得た。引張試験機(商品名「テンシロン」、オリエンテック社製)を用いて、チャック間距離60mm、クロスヘッド速度5mm/分の条件で引張試験を行い、破断伸び率(%)を測定した。
【0140】
[破断伸び率の判定基準]
○:破断伸び率が1.0%を超える
×:破断伸び率が1.0%以下
【0141】
結果を下記の表1に示す。
【0142】
【表1】

【0143】
比較例2のシアネートエステル硬化剤とフェノキシ樹脂との組合せでは、保管前から成形体の流動性及びハンドリングが極端に悪い。一方で、硬化物の硬化物性に関しては、耐熱性(ガラス転移温度)、熱線膨張係数及び電気特性に優れていた。しかし破断伸び率が1%以下と悪く、材料として脆いという課題がある。
【0144】
比較例3のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との組合せでは、流動性及びハンドリングに優れていた。一方で、硬化物の硬化物性に関しては、ガラス転移温度が低いことから耐熱性に劣り、電気特性も悪く、熱線膨張係数が高い(悪い)という課題がある。
【0145】
従って、比較例2,3の結果から、耐熱性、熱寸法安定性、電気特性及び流動性を良好にするためには、熱硬化性樹脂とシアネートエステル硬化剤と化合物Xとの3成分が必須であることがわかる。
【符号の説明】
【0146】
11…多層基板
12…回路基板
12a…上面
13〜16…硬化物層
17…金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、
フェノキシ樹脂の水酸基の少なくとも一部をアシル化することにより得られる化合物と、
シアネートエステル硬化剤とを含む、熱硬化性樹脂材料。
【請求項2】
前記化合物が、前記フェノキシ樹脂の水酸基の数の5%以上がアシル化されている化合物である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂材料。
【請求項3】
前記化合物の重量平均分子量が5,000以上、200,000以下である、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂材料。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂材料。
【請求項5】
シリカをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂材料。
【請求項6】
フィルム状に成形されたBステージフィルムである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂材料。
【請求項7】
粗化処理又はデスミア処理される硬化物を得るために用いられる熱硬化性樹脂材料である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂材料。
【請求項8】
回路基板と、
前記回路基板の表面上に配置された硬化物層とを備え、
前記硬化物層が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂材料を硬化させることにより形成されている、多層基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−207066(P2012−207066A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71696(P2011−71696)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】