説明

熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】配線板等への部品実装のための導電ペースト、特に熱硬化性はんだペーストとして使用可能であり、耐熱性の低い部品を含む複数の部品を配線板等に実装するにあたり、低温でのはんだリフロー処理により一括して部品実装が可能であり、且つはんだ接続部に高い強度及び靱性を付与することができる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】融点180℃以下のはんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー及び下記構造式(1)で示されるフラックス成分を含有する。
HOOCH2C−X−CH2COOH …(1)
但し、上記構造式(1)中の−X−は、−O−、−S−、−S−S−のうちのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品実装のための導電ペースト、特に熱硬化性低温はんだペーストとして用いられる熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線板等に部品を実装するにあたり、クリームはんだと呼ばれる材料が用いられている。クリームはんだは、はんだ粒子、フラックス成分及び溶剤を含む組成物である。このクリームはんだは、リフロー炉中で加熱されると、はんだ粒子が融点以上で溶解すると共に、このはんだ粒子の表面の酸化層がフラックス成分の作用によって除去される。これにより、はんだ粒子が一体化し、部品実装を完遂する。このクリームはんだを用いたはんだリフロープロセスを採用すると、多くの部品を配線板等に一括して接続でき、生産性が高くなる。
【0003】
クリームはんだに添加されるフラックス成分としては、アビエチン酸に代表されるロジン成分材料、各種アミン及びその塩、セバシン酸、アジピン酸等の高融点有機酸などが知られている。
【0004】
また、はんだ粒子としては、従来、融点183℃のPb共晶はんだが用いられていたが、昨今のPb排除の要請から、近年はAg−Sn−Cu系はんだを代表とする、いわゆる“Pbフリーはんだ”が使用されるようになってきている。このPbフリーはんだは、Pb共晶はんだよりも融点が30℃程度高い。このため、配線板等に部品を実装する場合、最高温度215−260℃という高温のはんだリフロープロセスを採用する必要がある。
【0005】
しかし、高温のはんだリフロープロセスに耐えられないような耐熱性の低い部品を含む複数の部品を配線板等に実装する場合、別工程で、前記耐熱性の低い部品だけをスポットはんだ、銀ペースト等を用いて配線板等に実装する必要がある。このことは、生産性の著しい低下を引き起こす原因となっていた。
【0006】
これに対して、Pbフリーはんだの合金組成を変えることで、融点を180℃以下にする試みもされている。しかし、このような低融点のPbフリーはんだを使用する場合は、以下の2つの問題があった。
【0007】
(1)前記低融点のPbフリーはんだは、Pb共晶はんだやAg−Sn−Cu系はんだと比較して、強度及び靱性が充分でない。このため、配線板等にはんだ接続だけで部品を固定すると、部品の脱落が起こりやすく、また、温度変化や衝撃によりはんだ接続部にクラックが起こりやすい。
【0008】
(2)従来のフラックス成分は、高温で解離することで、金属酸化物に対して強い化学的作用を及ぼす。このため、フラックス成分は、低温のリフロー条件では十分なフラックス作用を発揮せず、はんだ粒子が溶融しても一体化が起こりにくい。
【0009】
上記(1)の問題を解決するために、低融点のはんだ粒子及びフラックス成分を熱硬化性樹脂バインダーに分散させた組成物(熱硬化性はんだペースト)を用いてはんだ接続を行うと共に、前記組成物の硬化物によって部品を配線板等に固定することで、強度や靱性を大きく改善することも考えられるが(特許文献1参照)、このような組成物に使用可能な低温で活性を発揮するフラックス成分は知られていない。
【0010】
また、上記(2)の問題を解決するためには、Biのような特殊な低融点金属に対して、良好なフラックス特性を発揮する活性剤が必要となるが、先に挙げたアビエチン酸に代表されるロジン成分材料や各種アミン及びその塩、さらにはセバシン酸、アジピン酸等の高融点有機酸などでは十分な特性が得られていないというのが現状であった。
【特許文献1】特開2004−185884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、配線板等への部品実装のための導電ペースト、特に熱硬化性はんだペーストとして使用可能であり、耐熱性の低い部品を含む複数の部品を配線板等に実装するにあたり、低温でのはんだリフロー処理により一括して部品実装が可能であり、且つはんだ接続部に高い強度及び靱性を付与することができる熱硬化性樹脂組成物、及びこの熱硬化性樹脂組成物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る熱硬化性樹脂組成物は、融点180℃以下のはんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー及び下記構造式(1)で示されるフラックス成分を含有することを特徴とする。
【0013】
HOOCH2C−X−CH2COOH …(1)
但し、上記構造式(1)中の−X−は、−O−、−S−、−S−S−のうちのいずれかである。
【0014】
このフラックス成分は、カルボキシル基を両末端に有しているが、室温では溶融しないためフラックス活性はそれ程大きくなく、室温での保存安定性に優れている。一方、この化合物が100℃以上の温度に加熱されると溶融し、優れた活性力(還元力)が顕在化してカルボキシル基とはんだ粒子表面の金属酸化被膜との反応が促進され、はんだ粒子から酸化被膜を効果的に除去することができるようになる。このため、低温加熱により溶融したはんだ粒子の一体化を促進することができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1において、上記熱硬化性樹脂バインダーが、エポキシ樹脂であることを特徴とする。
【0016】
この場合、エポキシ樹脂は比較的低温で硬化すると共に接着性が高いため、従来のはんだリフロー処理より低い温度でも十分な硬化性を発揮して部品実装を可能とすると共に十分な補強効果を発揮することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、上記フラックス成分の含有量が、上記熱硬化性樹脂バインダーに対して1〜50phrの範囲であることを特徴とする。
【0018】
この場合、フラックス成分がフラックスとしての十分な作用を発揮すると共に熱硬化性樹脂組成物の硬化物により部品実装時に十分な補強効果を発揮することができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか一項において、熱硬化性樹脂バインダーとフラックス成分との含有量の合計が、熱硬化性組成物全量に対して5〜30質量%の範囲であることを特徴とする。
【0020】
この場合、熱硬化性樹脂組成物に良好な流動性を付与すると共に、はんだ粒子が一体化した際のボイドの発生を抑制することができ、更に優れた補強作用を発揮するとことができるものであり、また熱硬化性樹脂組成物中に十分な量のはんだ粒子を確保することができ、はんだ粒子の溶融一体化が容易となって、接続部分の接続抵抗を十分に低くすることが可能となる。
【0021】
請求項5に係る熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を製造する方法であって、上記熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂を用い、融点が180℃以下のはんだ粒子、液状エポキシ樹脂の一部又は全部、及びフラックス成分を予め混合・混練する工程と、前記工程で得られた混合物に、前記液状エポキシ樹脂の残部、及び硬化剤を添加する工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
この場合、はんだ粒子表面へのフラックス成分の吸着を促進することができ、そのため、熱硬化性樹脂組成物をはんだ粒子が溶融する温度まで加熱した場合に、フラックス成分中のカルボキシル基とはんだ粒子表面の金属酸化被膜との反応を促進することができ、溶融したはんだ粒子の一体化を促進することができる。また、熱硬化性樹脂組成物の硬化物中の、有効に作用しないフラックス成分の濃度を減少させ、硬化物の強度を向上することができる。
【0023】
請求項6に係る熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を製造する方法であって、上記熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂を用い、融点が180℃以下のはんだ粒子、溶剤、及びフラックス成分を混合した後、乾燥して溶剤を除去する工程と、前記工程で得られた混合物に、液状エポキシ樹脂及び硬化剤を添加する工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
この場合、はんだ粒子表面へのフラックス成分の吸着を促進することができ、そのため、熱硬化性樹脂組成物をはんだ粒子が溶融する温度まで加熱した場合に、フラックス成分中のカルボキシル基とはんだ粒子表面の金属酸化被膜との反応を促進することができ、溶融したはんだ粒子の一体化を促進することができる。また、熱硬化性樹脂組成物の硬化物中の、有効に作用しないフラックス成分の濃度を減少させ、硬化物の強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物を用いてはんだリフロー処理等により配線板等に部品を実装するにあたり、低融点のはんだ粒子が溶融する温度でフラックス成分が効果的にフラックス作用を発揮することができて、溶融したはんだ粒子の一体化を促進し、配線板等に部品をはんだ接続することができる。しかも、熱硬化性樹脂バインダーの硬化物によって、はんだ接続部の強度及び靱性を向上することができる。このため、耐熱性の低い部品を含む複数の部品を配線板等に一括して実装する場合に有用な材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施をするための最良の形態について説明する。
【0027】
本実施形態では、熱硬化性樹脂組成物は、融点が180℃以下のはんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー及びフラックス成分を含有する。
【0028】
そして、この熱硬化性樹脂組成物中のフラックス成分としては、下記構造式(1)で示される化合物を用いる。
【0029】
HOOCH2C−X−CH2COOH …(1)
この式中の−X−は、−O−、−S−、−S−S−のうちのいずれかである。すなわち、フラックス成分として、下記構造式(2)で示されるジグリコール酸、下記構造式(3)で示されるチオジグリコール酸、下記構造式(4)で示されるジチオグリコール酸のうちの少なくとも一種を用いる。
【0030】
HOOCH2C−O−CH2COOH …(2)
HOOCH2C−S−CH2COOH …(3)
HOOCH2C−S−S−CH2COOH …(4)
フラックス成分は、上記のような化合物のうち一種の化合物からなるものであっても良く、二種以上の化合物からなるものであっても良い。また、フラックス成分は、上記化合物に加えて、一般に用いられる他のフラックスを含むものであっても良い。
【0031】
この構造式(1)で示される化合物は、カルボキシル基を両末端に有しているが、室温では溶融しないためフラックス活性はそれ程大きくなく、室温での保存安定性に優れている。一方、この化合物が100℃以上の温度に加熱されると溶融し、優れた活性力(還元力)が顕在化してカルボキシル基とはんだ粒子表面の金属酸化被膜との反応が促進され、はんだ粒子から酸化被膜を効果的に除去することができるようになる。このため、低温加熱により溶融したはんだ粒子の一体化を促進することができる。
【0032】
尚、カルボキシル基を両末端に有する化合物としては、一般的には脂肪族骨格を有するグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、コルク酸等が挙げられる。しかし、これらは180℃以下の低温では還元力が不足気味であるため、金属表面の酸化膜に対する十分な還元作用を期待することができず、特にBi、In等の低融点の特殊な金属類を含むはんだに対しては、その還元力は十分に満足出来るレベルではない。
【0033】
これに対して、上記化学式(2)乃至(4)に示すような、主骨格に酸素原子、又は1個若しくは2個の硫黄原子が結合した構造の化合物は、脂肪族骨格の化合物と比べて、優れた還元力を発揮することができる。その理由は、主骨格の酸素原子及び硫黄原子が電子供与性の原子であるために、金属との配位接合性が高くなり、その結果、脂肪族骨格の化合物と比べて優れた還元力を発揮するためであると、推察される。
【0034】
また、はんだ粒子は、上記の通り融点が180℃以下のものであれば良い。はんだ粒子の融点の下限は特に制限されないが、80℃以上であることが好ましい。前記条件を満たす限り、はんだ粒子の組成は特に制限されないが、具体例として、Snをベースとする、Bi、Zn、In等の金属との合金を挙げることができる。
【0035】
また、熱硬化性樹脂バインダーとしては、特に制限されず、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリエステル樹脂等の適宜の熱硬化性樹脂を使用することができる。このうち、特にエポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は比較的低温で硬化すると共に接着性が高いため、従来のはんだリフロー処理より低い温度でも十分な硬化性を発揮して部品実装を可能とすると共に十分な補強効果を発揮することができる。
【0036】
熱硬化性樹脂バインダーとしてエポキシ樹脂を用いる場合は、通常は熱硬化性樹脂組成物中に硬化剤を含有させ、或いは更に必要に応じて硬化促進剤を含有させる。
【0037】
硬化剤としては公知公用の適宜のものを使用することができる。例えばフェノールノボラック樹脂、ナフタレン骨格含有フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂等を使用することができる。硬化剤の使用量は適宜設定されるが、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対する硬化剤の化学量論上の当量比が0.8〜1.2の範囲となるようにすることが好ましい。また、硬化促進剤を使用する場合も、公知公用の適宜のものを使用することができる。例えばトリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン等の有機リン化合物、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類等が挙げられる。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物中のフラックス成分の含有量は適宜設定されるが、特に熱硬化性樹脂バインダーの含有量に対してフラックス成分の含有量が1〜50phrの範囲であることが好ましい。このように前記含有量を1phr以上とすることでフラックス成分がフラックスとしての十分な作用を発揮し、また前記含有量が50phr以下であることで熱硬化性樹脂組成物の硬化物により部品実装時に十分な補強効果を発揮することができる。
【0039】
また、熱硬化性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂バインダーとフラックス成分の合計量は、前記組成物の全量に対して5〜30質量%の範囲であることが好ましい。前記含有量を5質量%以上とすることで、熱硬化性樹脂組成物に良好な流動性を付与すると共に、はんだ粒子が一体化した際のボイドの発生を抑制することができ、更に優れた補強作用を発揮するとことができる。また前記含有量を30質量%以下とすることで、熱硬化性樹脂組成物中に十分な量のはんだ粒子を確保することができ、はんだ粒子の溶融一体化が容易となって、接続部分の接続抵抗を十分に低くすることが可能となる。
【0040】
また、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、上記必須成分のほか、通常用いられる改質剤、添加剤を含有することができる。また、この熱硬化性樹脂組成物の粘度を低減し、或いは流動性を付与する目的で、低沸点の溶剤や可塑剤を加えることもできる。
【0041】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物の、好適な製造方法について説明する。この方法では、熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂を用い、硬化剤を併用する。
【0042】
まず、はんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー、及びフラックス成分を予め混合・混練し、予備混合物を調製する。前記予備混合物中に配合する熱硬化性樹脂バインダーは、熱硬化性樹脂組成物に含有させる予定の熱硬化性樹脂バインダー全量(以下、熱硬化性樹脂バインダー全量という)のうち、全部であっても良く、一部であっても良い。この予備混合物を調製することで、はんだ粒子表面へのフラックス成分の吸着を促進することができる。
【0043】
上記予備混合物を調製する際の熱硬化性樹脂バインダー(液状エポキシ樹脂)の添加は、はんだ粒子へのフラックス成分の馴染み性を向上するために行われる。この予備混合物の調製に用いられる熱硬化性樹脂バインダーの、熱硬化性樹脂バインダー全量に対する比率は、はんだ粒子の比率やフラックス成分の種類等に依存するため、特に限定されない。但し、はんだ粒子表面へのフラックス成分の馴染み性を充分に向上するためには前記比率が30質量%以上であることが好ましく、また予備混合物中のフラックス成分の濃度を十分に高く保つことではんだ粒子へのフラックス成分の吸着を促進するためには、前記比率が80質量%以下であることが好ましい。
【0044】
次に、前記予備混合物に硬化剤を添加する。このとき、予備混合物中の熱硬化性樹脂バインダーが、熱硬化性樹脂バインダー全量のうちの一部である場合は、熱硬化性樹脂バインダーの残部も添加する。これにより、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物を調製することができる。
【0045】
次に、本発明に係る熱硬化性組成物の、好適な他の製造方法について説明する。
【0046】
この方法でも、液状エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂バインダーを用い、硬化剤を併用する。また、溶剤を使用する。溶剤としては一般的な適宜の低沸点の溶剤を使用することができるが、例えばMEK(メチルエチルケトン)等を使用することができる。
【0047】
まず、はんだ粒子、溶剤及びフラックス成分を混合して予備混合物を調製する。この予備混合物を調製することで、はんだ粒子表面へのフラックス成分の吸着を促進することができる。
【0048】
次に、予備混合物を乾燥して溶剤を除去する。その後、乾燥後の予備混合物に熱硬化性樹脂バインダー及び硬化剤を添加することで、熱硬化性樹脂組成物を調製することができる。
【0049】
上記各製造方法によって熱硬化性樹脂組成物を調製すると、フラックス成分が、はんだ粒子表面にダイレクトに吸着されるため、熱硬化性樹脂組成物をはんだ粒子が溶融する温度まで加熱した場合に、フラックス成分中のカルボキシル基とはんだ粒子表面の金属酸化被膜との反応を促進することができ、溶融したはんだ粒子の一体化を促進することができる。また、熱硬化性樹脂組成物の硬化物中の、有効に作用しないフラックス成分の濃度を減少させ、硬化物の強度を向上することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。
【0051】
(実施例1)
はんだ粒子として、JIS H42B:58Aに規定されたはんだ組成のものを用いた(Sn42Bi58)。はんだ粒子は常法に従って作製した。このはんだ粒子の平均粒径は15μm、融点は139℃であった。
【0052】
このはんだ粒子を85質量部、熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、品番「YD128」)を11質量部、硬化剤(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名「アミキュアPN23」)を2質量部、フラックス成分としてジグリコール酸を2質量部用意した。前記成分を混合し、ディスパーを用いて均一に混練して、ペースト状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0053】
(実施例2)
熱硬化性樹脂組成物に配合するフラックス成分として、チオジグリコール酸を用いた。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0054】
(実施例3)
熱硬化性樹脂組成物に配合するフラックス成分として、ジチオジグリコール酸を用いた。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0055】
(実施例4)
熱硬化性樹脂組成物に配合するフラックス成分として、ジグリコール酸1質量部とグルタル酸1質量部を用いた。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0056】
(実施例5)
熱硬化性樹脂組成物に配合するはんだ粒子の配合量を95質量部、液状エポキシ樹脂の配合量を3質量部、硬化剤の配合量を0.5質量部、ジグリコール酸の配合量を1.5質量部とした。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0057】
(実施例6)
熱硬化性樹脂組成物に配合するはんだ粒子の配合量を70質量部、液状エポキシ樹脂の配合量を3質量部、硬化剤の配合量を0.5質量部、ジグリコール酸の配合量を1.5質量部とした。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0058】
(実施例7)
熱硬化性樹脂組成物に配合するはんだ粒子の配合量を82質量部、液状エポキシ樹脂の配合量を15質量部、硬化剤の配合量を2.85質量部、ジグリコール酸の配合量を0.15質量部とした。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0059】
(実施例8)
熱硬化性樹脂組成物を調製するための成分として、実施例1と同様のはんだ粒子を85質量部、熱硬化性樹脂バインダーとしてシアン酸エステル樹脂(Lonza社製、品番「L−10」)を12質量部、硬化剤としてFeアセチルアセトナート(Fe(acac)3)を0.1質量部、フラックス成分としてチオジグリコール酸を2.9質量部用意した。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0060】
(実施例9)
実施例1と同様のはんだ粒子を85質量部、熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、品番「YD128」)を6質量部、フラックス成分としてジチオジグリコール酸を2質量部、用意した。前記成分を混合し、ディスパーを用いて均一に混練し、予備混合物を調製した。前記予備混合物を一昼夜放置した。
【0061】
また、硬化剤(味の素テクノファイン株式会社製、商品名「アミキュアPN23」)を2質量部、熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、品番「YD128」)を5質量部用意し、前記成分を混合して組成物を調製した。
【0062】
この組成物を予備混合物に加え、均一に混合することにより熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0063】
(実施例10)
実施例1と同様のはんだ粒子を85質量部、MEK(メチルエチルケトン)を30質量部、フラックス成分としてジグリコール酸を2質量部用意した。前記成分を均一に混合して予備混合物を調製した後、この予備混合物を真空乾燥機を用いて乾燥し、MEKを除去した。この乾燥後の予備混合物に、熱硬化性樹脂バインダーである液状エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、品番「YD128」)を11質量部、硬化剤(味の素テクノファイン株式会社製、商品名「アミキュアPN23」)を2質量部加え、ディスパーを用いて均一に混練して、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0064】
(比較例1)
熱硬化性樹脂組成物に配合するフラックス成分として、セバシン酸を2質量部用いた。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0065】
(比較例2)
熱硬化性樹脂組成物を調製するにあたって、フラックス成分を用いなかった。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0066】
(比較例3)
熱硬化性樹脂組成物を調製するにあたって、熱硬化性樹脂バインダー及び硬化剤を用いなかった。他の条件は実施例1と同一として、はんだ組成物を得た。
【0067】
(比較例4)
熱硬化性樹脂組成物に配合するはんだ粒子として、融点950℃の銀粒子を85質量部用いた。他の条件は実施例1と同一として、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0068】
(評価試験)
各実施例及び比較例で得られた熱硬化性樹脂組成物(比較例3で得られたはんだ組成物を含む)を用いて、次のような評価試験を行った。
【0069】
1.はんだ粒子の一体化性評価
配線板(FR−4グレード)の表面にAuメッキが施された端子(パット)を形成し、前記パットの表面に、通常の方法に従い、熱硬化性樹脂組成物をスクリーン印刷法で塗布した。塗布後の熱硬化性樹脂組成物の厚みは、約70μmであった。この配線板をオーブン内で150℃で10分間加熱し、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させた。その後、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物を顕微鏡で観察し、下記評価基準で評価した。
◎:はんだ粒子が一体化した球状の層の周りを、はんだ粒子を含まない樹脂硬化物の層が取り囲み、二層に分離した。
○:はんだ粒子が一体化した球状の層の周りを、若干のはんだ粒子を含んだ樹脂硬化物の層が取り囲み、二層に分離した。
△:中央部でははんだ粒子の密度が高く、周辺部でははんだ粒子の密度が比較的低かった。
×:はんだ粒子の一体化が観察されない。
【0070】
2.表面性状評価
上記の「1.はんだ粒子の一体性評価」で形成された熱硬化性樹脂組成物の硬化物を指触し、粘着感の有無を下記評価基準で評価した。
○:粘着感がない(タックフリー)。
×:粘着感がある。
【0071】
3.接続抵抗値評価
上記の「1.はんだ粒子の一体性評価」の場合と同様の方法で配線板のパットに熱硬化性樹脂組成物を塗布した後、このパット上に0Ωの1608チップ抵抗器を配置した。この状態で配線板に対し、リフロー炉内で、最高温度150℃の条件でリフロー処理を施し、配線板上に前記チップ抵抗器を実装した。
【0072】
処理後のチップ抵抗器の電気抵抗を測定した。
【0073】
4.部品シェア強度評価
上記の「3.接続抵抗値評価」の評価において配線板に実装されたチップ抵抗器のシェア強度を測定した。
【0074】
5.評価結果
以上の評価試験による評価結果を下記表1,2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
尚、比較例3では、はんだ組成物は硬化せず、表面性状の評価を行うことができなかった。また、接続抵抗値及び部品シェア強度も評価不能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点180℃以下のはんだ粒子、熱硬化性樹脂バインダー及び下記構造式(1)で示されるフラックス成分を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
HOOCH2C−X−CH2COOH …(1)
但し、構造式(1)中の−X−は、−O−、−S−、−S−S−のうちのいずれかである。
【請求項2】
上記熱硬化性樹脂バインダーが、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
上記フラックス成分の含有量が、上記熱硬化性樹脂バインダーに対して1〜50phrの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
熱硬化性樹脂バインダーとフラックス成分との含有量の合計が、熱硬化性組成物全量に対して5〜30質量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を製造する方法であって、上記熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂を用い、融点が180℃以下のはんだ粒子、液状エポキシ樹脂の一部又は全部、及びフラックス成分を予め混合・混練する工程と、前記工程で得られた混合物に、前記液状エポキシ樹脂の残部、及び硬化剤を添加する工程とを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を製造する方法であって、上記熱硬化性樹脂バインダーとして液状エポキシ樹脂を用い、融点が180℃以下のはんだ粒子、溶剤、及びフラックス成分を混合した後、乾燥して溶剤を除去する工程と、前記工程で得られた混合物に、液状エポキシ樹脂及び硬化剤を添加する工程とを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−102545(P2009−102545A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276786(P2007−276786)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】