説明

熱膨張性マイクロカプセルの製造方法

【課題】最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することのない熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ビニリデン、又は、塩化ビニリデン及びニトリル系モノマー、カルボキシル基を有し、ラジカル重合性不飽和結合を有する炭素鎖の炭素数が3〜8であるラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー及び沸点が60℃以上の炭化水素を含有する揮発性膨張剤を含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、金属カチオンの水酸化物を含有する金属カチオン供給体を添加して、上記カルボキシル基と金属カチオンとを反応させる工程、及び、分散液を加熱することによりモノマーを重合させる工程を有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することのない熱膨張性マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性マイクロカプセルは、意匠性付与剤や軽量化剤として幅広い用途に使用されており、発泡インク、壁紙をはじめとした軽量化を目的とした塗料等にも利用されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤が内包されているものが広く知られており、例えば、特許文献1には、低沸点の脂肪族炭化水素等の揮発性膨張剤をモノマーと混合した油性混合液を、油溶性重合触媒とともに分散剤を含有する水系分散媒体中に攪拌しながら添加し懸濁重合を行うことにより、揮発性膨張剤を内包する熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、この方法によって得られた熱膨張性マイクロカプセルは、80〜130℃程度の比較的低温で熱膨張させることができるものの、高温又は長時間加熱すると、膨張したマイクロカプセルが破裂又は収縮してしまい発泡倍率が低下するため、耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることができないという欠点を有していた。
【0004】
一方、特許文献2には、ニトリル系モノマー80〜97重量%、非ニトリル系モノマー20〜3重量%及び三官能性架橋剤0.1〜1重量%を含有する重合成分から得られるポリマーをシェルとして用い、揮発性膨張剤を内包させた熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法が開示されている。
また、特許文献3には、ニトリル系モノマー80重量%以上、非ニトリル系モノマー20重量%以下及び架橋剤0.1〜1重量%を含有する重合成分から得られるポリマーを用い、揮発性膨張剤を内包させた熱膨張性マイクロカプセルにおいて、非ニトリル系モノマーがメタクリル酸エステル類又はアクリル酸エステル類である熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。
【0005】
これらの方法によって得られる熱膨張性マイクロカプセルは、従来のマイクロカプセルに比べ耐熱性に優れ、140℃以下では発泡しないとされているが、実際には130〜140℃で1分程度加熱を続けると一部のマイクロカプセルが熱膨張してしまうものであり、最大発泡温度が180℃以上の優れた耐熱性を有する熱膨張性マイクロカプセルを得ることは困難であった。
【0006】
更に、特許文献4には、最大発泡温度が180℃以上、好ましくは190℃以上である熱膨張性マイクロカプセルを得ることを目的として、85重量%以上のニトリル基をもつエチレン性不飽和モノマーの単独重合体又は共重合体からなるシェルポリマーと50重量%以上のイソオクタンを有する発泡剤からなる熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルでは、最大発泡温度が非常に高い値となっているものの、その後の膨張した状態を維持することができず、高温領域における長時間の使用は困難であった。また、高温領域において急激に弾性率が低下することから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行った場合に、熱膨張性マイクロカプセルに破裂、収縮が発生していた。
従って、最大発泡温度が高く、長時間膨張した状態を維持することができ、かつ、耐熱性に優れ、高剪断に耐え得る熱膨張性マイクロカプセルが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭42−26524号公報
【特許文献2】特公平5−15499号公報
【特許文献3】特許第2894990号
【特許文献4】欧州特許出願第1149628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することのない熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法は、塩化ビニリデン、又は、塩化ビニリデン及びニトリル系モノマー、カルボキシル基を有し、ラジカル重合性不飽和結合を有する炭素鎖の炭素数が3〜8であるラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー及び沸点が60℃以上の炭化水素を含有する揮発性膨張剤を含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、金属カチオンの水酸化物を含有する金属カチオン供給体を添加して、上記カルボキシル基と金属カチオンとを反応させる工程、及び、分散液を加熱することによりモノマーを重合させる工程を有する方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルは、重量平均分子量1万〜10万の単独重合体からなる厚さ30〜35μmのフィルムの酸素透過係数が1.0×10−12cc・cm/cm・sec・cmHg以下である高ガスバリア性モノマーに由来するセグメントを有する共重合体を含有するシェルを有する。このようなガスバリア性の高いモノマーに由来するセグメントを有する共重合体を含有するシェルからなることにより、膨張時に揮発させた揮発性膨張剤がシェルを透過しにくく、高温でへたりが生じることを防止することができる。
【0011】
上記高ガスバリア性モノマーは、重量平均分子量1万〜10万の単独重合体からなる厚さ30〜35μmのフィルムとしたときの酸素透過係数の上限が1.0×10−12cc・cm/cm・sec・cmHgである。1.0×10−12cc・cm/cm・sec・cmHgを超えると、膨張時に揮発させた揮発性膨張剤がシェルを透過し、高温でへたりが生ずる。
なお、上記酸素透過係数は、上記フィルムを用い、JIS K 7126に準拠する方法により測定した場合の25℃における酸素透過係数を意味する。
また、上記重量平均分子量は、上記高ガスバリア性モノマーを乳化重合法を用いて重合することにより得られる単独重合体についてGPC法により測定したものを意味する。
【0012】
上記高ガスバリア性モノマーとしては、例えば、塩化ビニリデン、アクリロニトリル等のニトリル系モノマー、ビニルアルコール、セルロース、カプロラクタム等が挙げられる。
これらのなかでは、塩化ビニリデンが好ましい。
上記塩化ビニリデンを重合してなる重合体は、極めてガスバリア性に優れることから、塩化ビニリデンに由来するセグメントを有する共重合体からなるシェルもガスバリア性に優れる。従って、このようなシェルを有する本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、膨張時に揮発させた揮発性膨張剤がシェルを透過しにくく、高温でへたりが生じることを防止することができる。
【0013】
また、複数の上記高ガスバリア性モノマーを組み合わせて使用する場合は、塩化ビニリデンとニトリル系モノマーとを用いることが好ましい。
上記ニトリル系モノマーを重合してなる重合体も上記塩化ビニリデンを重合してなる重合体と同様に、極めてガスバリア性に優れることから、ニトリル系モノマーに由来するセグメントを有する共重合体からなるシェルもガスバリア性に優れる。従って、このようなシェルを有する本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、膨張時に揮発させた揮発性膨張剤がシェルを透過しにくく、高温でへたりが生じることを防止することができる。
上記ニトリル系モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル又はこれらの任意の混合物等が挙げられる。また、アクリロニトリルとメタクリロニトリルとの混合物が好適である。
【0014】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルは、上記カルボキシル基を有し、ラジカル重合性不飽和結合を有する炭素鎖の炭素数が3〜8であるラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(以下、単にラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーともいう)に由来するセグメントを含有する。
上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーは、ラジカル重合性不飽和結合を有する炭素鎖の炭素数の下限が3、上限が8である。8を超えると、分子が嵩高くなり、ガスバリア性が低下する。
【0015】
上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーは、後述するカチオン性化合物とイオン架橋させるための遊離カルボキシル基を分子当たり1個以上持つものであり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物又はマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましく、なかでも、メタクリル酸は、ガラス転移温度が高く、嵩が低いことから、ニトリル系モノマーに由来するセグメントのガスバリア性を損なうことがないため、より好ましい。
【0016】
上記共重合体における上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーに由来するセグメントの含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は50重量%である。10重量%未満であると、最大発泡温度が180℃以下となることがあり、50重量%を超えると、最大発泡温度は上がるが、発泡倍率が落ちるので好ましくない。
【0017】
上記共重合体は、必要に応じて、上記高ガスバリア性モノマーに由来するセグメント及び上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーに由来するセグメント以外のセグメントを有していてもよい。このようなセグメントとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等に由来するセグメント等が挙げられる。これらのモノマーは、熱膨張性マイクロカプセルに必要な特性に応じて適宜選択されて使用され得るが、なかでも、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル等が好適に用いられる。
ただし、このようなセグメントの含有量は10重量%未満であることが好ましい。10重量%以上であると、シェルのガスバリア性が低下してしまうことがある。
【0018】
上記共重合体の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。10万未満であると、シェルの強度が低下することがあり、200万を超えると、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡倍率が低下することがある。
【0019】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルにカチオン性化合物を含有する。
上記シェルがカチオン性化合物を含有することにより、上記カチオン性化合物がシェルを構成する共重合体のカルボキシル基と反応して共重合体がイオン架橋していると考えられることから、耐熱性が向上し、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱膨張性マイクロカプセルとすることが可能となる。また、高温領域においてもシェルの弾性率が低下しにくいことから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱膨張性マイクロカプセルの破裂、収縮が起こることがない。
なお、上述したイオン架橋は、上記共重合体の側鎖として存在する遊離カルボキシル基間に架橋が形成されていることを意味する。なお、カチオン性化合物1価あたりのカルボキシル基の配列する数は、金属種によって異なる。
【0020】
上記カチオン性化合物としては、例えば、金属カチオン、エチレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、遷移金属−有機アミン錯体イオン、4級アンモニウム処理された化合物等が挙げられる。なかでも、金属カチオンが好ましい。
上記金属カチオンとしては、上記共重合体の有するカルボキシル基と反応して共重合体をイオン架橋させる金属カチオンであれば、特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、Ca、Zn、Alのイオンが好ましく、特にZnのイオンが好適である。
なお、上記金属カチオンを2種以上用いる場合の組み合わせとしては特に限定されないが、アルカリ金属のイオンと上記アルカリ金属以外の金属カチオンとを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属のイオンを有することにより、カルボキシル基等の官能基が活性化され、上記アルカリ金属以外の金属カチオンと上記共重合体が有するカルボキシル基との反応を促進させることができる。
上記アルカリ金属としては、例えば、Na、K、Li等が挙げられる。
【0021】
上記シェルにおける上記カチオン性化合物の含有量の下限は0.1重量%、上限は10重量%である。0.1重量%未満であると、充分に共重合体を架橋できず、耐熱性を向上させる効果が得られず、10重量%を超えて配合すると、発泡倍率が急激に低下することがある。好ましい下限は0.5重量%、好ましい上限は3重量%である。
なお、上記カチオン性化合物の含有量は、原子吸光分光光度計(AA−680、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
【0022】
また、上記共重合体の有するカルボキシル基とカチオン性化合物とを適度にイオン架橋させるためには、所望の架橋度に応じて、上記共重合体の有する遊離カルボキシル基あたりのカチオン性化合物の量を調整する必要があるが、カチオン性化合物の量の好ましい下限は、上記共重合体のカルボン酸量に対して0.01倍モル、好ましい上限は0.5倍モルである。0.01倍モル未満であると、架橋度が上がらず耐熱性に効果が得られにくい。0.5倍モルを超えて配合してもそれ以上の効果が得られない。より好ましい下限は0.05倍モルである。
【0023】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルにおいて、上記シェルの架橋度の好ましい下限は75重量%である。75重量%未満であると、最大発泡温度が低くなることがある。
上記架橋度は、架橋剤による共有結合性架橋と、上記共重合体の有する遊離カルボキシル基と上記カチオン化合物とによってイオン架橋された架橋の双方を含む。
なお、本発明の熱膨張性マイクロカプセルでは、上記共重合体の有する遊離カルボキシル基の一部又は全部がイオン化して、カルボキシルアニオンとなり、上記カチオン性化合物カウンターカチオンとしてイオン結合を形成することから、上記カチオン性化合物の含有量によって架橋度を容易に調節することができる。
また、上記イオン架橋は、例えば、赤外吸収スペクトル測定を行った場合に、1500〜1600cm−1付近にCOO−の非対称伸縮運動による吸収が存在することにより確認することができる。
【0024】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルにおいて、上記シェルの中和度の好ましい下限は5%である。5%未満であると、最大発泡温度が低くなることがある。
なお、上記中和度は、上記共重合体の有する遊離カルボキシル基のうち、上記カチオン性化合物が結合したカルボキシル基の割合を表す。
【0025】
上記シェルは、架橋剤を含有していてもよい。上記架橋剤を含有することにより、シェルの強度を強化することができ、熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。
上記架橋剤としては特に限定はされず、一般的にはラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが好適に用いられる。具体例には例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのなかでは、200℃を超える高温領域でも熱膨張したマイクロカプセルが収縮しにくく、膨張した状態を維持しやすいので、ポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート等の2官能性架橋剤が好ましく、トリメチロールプロパンのトリ(メタ)アクリレート等の3官能性架橋剤がより好ましい。
【0026】
上記シェルにおける上記架橋剤の含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は3重量%である。より好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は1重量%である。
【0027】
上記シェルは、更に必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有していてもよい。
【0028】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルにコア剤として揮発性膨張剤が内包されている。
上記揮発性膨張剤は、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる物質であり、低沸点有機溶剤が好適である。
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の低分子量炭化水素;CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン;テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルでは、上述した揮発性膨張剤のなかでも、沸点が60℃以上の炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、成形時の高温、高剪断条件下においても、熱膨張性マイクロカプセルが容易に破壊されず、耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。
【0030】
上記沸点が60℃以上の炭化水素としては、例えば、n−へキサン、ヘプタン等が挙げられる。なお、60℃以上の沸点を有する炭化水素は、それぞれ単独で用いてもよく、沸点が60℃未満の炭化水素と組み合わせて用いてもよい。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0031】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度の好ましい下限が200℃である。200℃未満であると、高温又は長時間加熱時に膨張したマイクロカプセルが破裂又は収縮してしまい、発泡倍率が低下することがある。
なお、本明細書において、最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となったとき(最大変位量)における温度を意味する。
【0032】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法としては、塩化ビニリデン、又は、塩化ビニリデン及びニトリル系モノマー、カルボキシル基を有し、ラジカル重合性不飽和結合を有する炭素鎖の炭素数が3〜8であるラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー及び沸点が60℃以上の炭化水素を含有する揮発性膨張剤を含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、金属カチオンの水酸化物を含有する金属カチオン供給体を添加して、上記カルボキシル基と金属カチオンとを反応させる工程、及び、分散液を加熱することによりモノマーを重合させる工程を行うことにより製造することができる。このような熱膨張性マイクロカプセルの製造方法もまた本発明の1つである。
【0033】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、上記水性媒体を調製する工程を行う。具体例には例えば、重合反応容器に、水と分散安定剤、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、分散安定剤を含有する水性分散媒体を調製する。また、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0034】
上記分散安定剤としては、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0035】
上記分散安定剤の添加量は特に限定されず、分散安定剤の種類、マイクロカプセルの粒子径等により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が20重量部である。
【0036】
上記補助安定剤としては、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0037】
また、上記分散安定剤と補助安定剤との組み合わせとしては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらの中では、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせが好ましい。
更に、上記縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、特にジエタノールアミンとアジピン酸との縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が好ましい。
【0038】
上記水溶性窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0039】
上記コロイダルシリカの添加量は、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、ビニル系モノマー100重量部に対して、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。更に好ましい下限は2重量部、更に好ましい上限は10重量部である。また、上記縮合生成物又は水溶性窒素含有化合物の量についても熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0040】
上記分散安定剤及び補助安定剤に加えて、更に塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルが得ることができる。上記無機塩の添加量は、通常、モノマー100重量部に対して0〜100重量部が好ましい。
【0041】
上記分散安定剤を含有する水性分散媒体は、分散安定剤や補助安定剤を脱イオン水に配合して調製され、この際の水相のpHは、使用する分散安定剤や補助安定剤の種類によって適宜決められる。例えば、分散安定剤としてコロイダルシリカ等のシリカを使用する場合は、酸性媒体で重合がおこなわれ、水性媒体を酸性にするには、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHが3〜4に調製される。一方、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを使用する場合は、アルカリ性媒体の中で重合させる。
【0042】
次いで、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、重量平均分子量1万〜10万の単独重合体からなる厚さ30〜35μmのフィルムの酸素透過係数が1.0×10−12cc・cm/cm・sec・cmHg以下である高ガスバリア性モノマー、カルボキシル基を有し、ラジカル重合性不飽和結合を有する炭素鎖の炭素数が3〜8であるラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー及び揮発性膨張剤を含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程を行う。この工程では、モノマー及び揮発性膨張剤を別々に水性分散媒体に添加して、水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め両者を混合し油性混合液としてから、水性分散媒体に添加する。この際、油性混合液と水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより油性混合液を水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加しても良い。
なお、上記モノマーを重合するために、重合開始剤が使用されるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、水性分散媒体と油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0043】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、上記モノマーに可溶な過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化ジアルキル;イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の過酸化ジアシル;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス-ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等のパーオキシエステル;ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル-オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0044】
上記油性混合液を水性分散媒体中に所定の粒子径で乳化分散させる方法としては、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、ラインミキサーやエレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には水系分散媒体と重合性混合物を別々に供給してもよいし、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0045】
次いで、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、カチオン性化合物を添加して、上記カルボキシル基とカチオン性化合物とを反応させる工程を行う。この工程を行うことにより、上記カチオン性化合物とカルボキシル基とが反応してイオン架橋することから、耐熱性が向上し、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱膨張性マイクロカプセルを製造することが可能となる。また、上記シェルの弾性率が向上することから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱膨張性マイクロカプセルの破裂、収縮が起こることがない。
【0046】
上記カチオン性化合物は、上記モノマーを重合させる前の分散液中に添加してもよく、上記モノマーを重合した後に添加してもよい。また、上記カチオン性化合物は、それ自体を直接添加してもよく、水溶液等の溶液の形態で添加してもよい。
【0047】
上記カチオン性化合物としては、特に限定されず、例えば、上述した金属カチオンの酸化物、水酸化物、リン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、亜硝酸塩、亜硫酸塩やオクチル酸、ステアリン酸等の各有機酸の塩等が挙げられる。これらのなかでは、水酸化物、塩化物、カルボン酸塩が好ましい。また、上記カチオン性化合物として、上述した金属カチオン以外のカチオン性化合物を用いてもよい。
【0048】
また、上記カチオン性化合物を添加する場合は、予めアルカリ金属の水酸化物を添加した後、上記アルカリ金属の水酸化物以外のカチオン性化合物を添加することが好ましい。上記アルカリ金属の水酸化物を予め添加することにより、カルボキシル基等の官能基が活性化され、上記カチオン性化合物との反応を促進させることができる。
また、上記アルカリ金属の水酸化物としては特に限定されないが、Na、K、Liの水酸化物が好ましく、なかでも塩基性の強いNa、Kの水酸化物を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、上記工程を経て得られた分散液を加熱することによりモノマーを重合させる工程を行うことにより、熱膨張性マイクロカプセルを製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することがない。
【発明の効果】
【0050】
本発明で得られる熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮したりすることがなく、極めて耐熱性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に本発明の実施例を挙げて更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
(実施例5、6、比較例1〜4、参考例1〜4)
重合反応容器に、水8Lと、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製)10重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.3重量部を投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示した配合量のモノマー、架橋剤、揮発性膨張剤及び重合開始剤からなる油性混合液を水溶性分散媒体に添加し、更に表1に示した配合量の金属カチオン供給体を添加することにより、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)し、60℃で20時間反応させることにより、反応生成物を調製した。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥して熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0053】
(評価)
実施例5、6、比較例1〜4、参考例1〜4で得られた熱膨張性マイクロカプセルについて、性能(体積平均粒子径、架橋度、金属カチオン濃度、発泡開始温度、最大発泡温度、最大変位量、最大発泡倍率)を評価した。結果を表1に示す。
【0054】
(1)体積平均粒子径
粒度分布径測定器(LA−910、HORIBA社製)を用い、体積平均粒子径を測定した。
【0055】
(2)発泡開始温度、最大発泡温度、最大変位
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、発泡開始温度(Ts)、最大変位量(Dmax)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から220℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とした。
【0056】
(3)架橋度
ガラス容器にN,N−ジメチルホルムアミド29gと試料1gを添加し、24時間振とうして膨潤液とした後、遠心分離により上澄み液を除いたゲル分について真空乾燥機を用い、130℃で蒸発乾固した。その重量を測定し、下記の式により架橋度を得た。
【数1】

【0057】
(4)金属分析
1N塩酸20mlに、得られた熱膨張性マイクロカプセル10gを添加し、2時間攪拌させた後、濾紙にてろ過した。そのろ液を検出範囲に入るよう希釈し、原子吸光分光光度計(AA−680、島津製作所社製)にて分析した。測定結果より熱膨張性マイクロカプセルに含まれる金属成分量(粒子中の金属カチオン濃度)を算出した。
【0058】
(5)最大発泡倍率
得られた熱膨張性マイクロカプセル0.1gをオーブンに入れ、熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度で2分間加熱し、発泡させた。得られた発泡済みマイクロカプセルの比重を測定し、発泡前の比重で割って最大発泡倍率を算出した。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することのない熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン、又は、塩化ビニリデン及びニトリル系モノマー、カルボキシル基を有し、ラジカル重合性不飽和結合を有する炭素鎖の炭素数が3〜8であるラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー及び沸点が60℃以上の炭化水素を含有する揮発性膨張剤を含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、金属カチオンの水酸化物を含有する金属カチオン供給体を添加して、上記カルボキシル基と金属カチオンとを反応させる工程、及び、分散液を加熱することによりモノマーを重合させる工程を有することを特徴とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
金属カチオンは、ナトリウムイオン及び亜鉛イオンであることを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2012−210626(P2012−210626A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−121383(P2012−121383)
【出願日】平成24年5月28日(2012.5.28)
【分割の表示】特願2005−14669(P2005−14669)の分割
【原出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】