説明

熱膨張性微小球、その製造方法およびその使用方法

熱可塑性樹脂を外殻とし、その内部に該熱可塑性樹脂の軟化点以下の温度でガス化し、かつ塩素、臭素を含有しない炭素数が2から10のエーテル構造を有する弗素系化合物を発泡剤として含有する熱膨張性微小球、およびその製造方法ならびにその使用方法を提供する。熱膨張性微小球は、例えば平均粒子径が1〜100μmの範囲内で、粒度分布の変動係数Cvが30%以下である。この熱膨張性微小球は、環境への負荷が小さく難燃性、不燃性に優れ、かつ粒度分布が極めてシャープである。また、これらの熱膨張性微小球および既発泡熱膨張性微小球は、従来と同じ用途に加え、耐火性塗料、難燃もしくは不燃性断熱材、難燃もしくは不燃性軽量フィラー、難燃もしくは不燃性軽量成型体への使用に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は熱可塑性樹脂を外殻とし、その内部に発泡剤が封入された構造を有する熱膨張性微小球、特に難燃性、不燃性に優れた、極めて粒度分布のシャープな熱膨張性微小球、その製造方法および使用方法に関する。
【背景技術】
熱可塑性樹脂を外殼とし、その内部に発泡剤が封入された構造を有する熱膨張性微小球は、一般に熱膨張性マイクロカプセルと呼ばれる。熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法は種々検討されている。特公昭42−26524号公報には熱膨張性マイクロカプセルに関する全般的な製造方法が記載されている。また、米国特許第3615972号にはポリマーシェルの厚さが均一な熱膨張性マイクロカプセルの製造方法が記載されている。
熱膨張性マイクロカプセルの製造にあたっては、通常、例えばn−ブタン、イソブタン、イソペンタンおよびネオペンタンのような炭化水素が使用される。特に、熱膨張性マイクロカプセルに極めて良好な発泡性能を付与するイソブタンおよびイソペンタンなどが使用される。
熱膨張性マイクロカプセルの市販製品であるマツモトマイクロスフェアー(松本油脂製薬株式会社製)は、熱可塑性樹脂として塩化ビニリデン重合体、アクリロニトリル共重合体、アクリル重合体などを用い、発泡剤としてイソブタンやイソペンタンなどを内部に封入した構造を有する。
ところで、熱膨張性マイクロカプセルは重合体に多量の塩素を含むと可燃性ガスを含んでいても難燃性となる。しかし、これを強熱で燃焼させるときには塩素、塩化水素の発生さらにホスゲンの生成も起こり有害である。
また、熱膨張性マイクロカプセルの発泡剤として可燃性炭化水素以外の発泡剤を使用して不燃性とすることは従来から提案されていた。米国特許第3615972号には、特定のクロロフルオロカーボンが使用できることが開示されているが、これらは商業的に使用されるにはいたっていない。クロロフルオロカーボンは、熱膨張性マイクロカプセルに十分な発泡特性を付与せず、また、他にも欠点がある。
また、フロンの特異性を生かして種々の不燃性製品が開発された。フロンガスは不活性とされ長期にわたり使用されてきたが、オゾン層の破壊が深刻な問題となり、使用制限が加えられ、使用可能なフルオロ化合物も見直されてきたことは周知の事実である。
実際にはクロロフルオロカーボンから塩素を含まない脂肪族フルオロカーボンあるいはフルオロ炭化水素へ移行してきている。またそれを用いたマイクロカプセルも特開平6−49260号公報にて開示されている。
脂肪族フルオロカーボンあるいはフルオロ炭化水素は確かに不活性でありオゾン破壊係数も小さい。しかし炭化水素の水素が弗素に変わったのみで分子自身は極性が乏しく、炭化水素との相溶性も乏しいため、良好な発泡性能を持たせるのに十分な量の炭化水素と混合して熱膨張性微小球へ使用することができなかった。また単独使用の場合は、重合反応時に単量体との相溶性が悪いので完全に熱可塑性樹脂内に封入することが難しく、外殼である熱可塑性樹脂中に含浸された状態で微小球が形成され微小球に十分な発泡性能を付与することができず甚だ問題であった。
また、特表2002−511900号公報には、中空内部に封入された発泡剤としてフッ化炭化水素流体(a)と有機エステルまたはエーテルまたはケトン(b)を併用した熱膨張性中空粒子が開示されている。しかし、脂肪族フルオロカーボンあるいはフルオロ炭化水素などのフッ化炭化水素流体は上記に示したように不活性でありオゾン破壊係数は小さいが、温暖化係数が極めて高く好ましくない。そして、単量体と相溶性のある脂肪族フルオロカーボンやフルオロ炭化水素であってもフッ素置換度の低い化合物では可燃性を示すようになるので好ましくない。得られる熱膨張性中空粒子の粒度分布もブロード、例えば粒度分布の変動係数Cvが30%を超えるようになり、安定した発泡性能を有する製品を供給することが困難である。
その実施例11、12には、フッ化炭化水素流体(a)として1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンと過フッ化ヘキサン(PF−5060)の混合物、併用する有機エステルまたはエーテルまたはケトン(b)として、ジメチルヘキサフルオログルタレートまたはジメチルオクタフルオロアジペートが用いられた熱膨張性中空粒子が例示されているが、この中空粒子は発泡倍率が低く、粒度分布もブロードである。
そのため発泡性を有するマイクロカプセルが一般的に市販されていないのが現状である。
【発明の開示】
本発明の目的は、環境への負荷が小さく難燃性、不燃性に優れ、かつ粒度分布が極めてシャープな熱膨張性微小球を提供することにある。
本発明の他の目的は、粒子形状が真球状で、極めてシャープな粒度分布をもち、低比重な、膨張済み中空微小球を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、難燃性または不燃性断熱材、難燃性または不燃性軽量フィラー、難燃性または不燃性軽量成型体への使用に適した熱膨張性微小球および膨張済み中空微小球を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記諸特性を備えた本発明の熱膨張性微小球を製造する方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、本発明の熱膨張性微小球あるいは膨張済み中空微小球を含有する組成物を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に熱可塑性樹脂からなる外殻およびその内部に含有される発泡剤からなりそして該発泡剤が該熱可塑性樹脂の軟化点の温度以下の温度でガス化し且つエーテル構造を有しそして塩素原子と臭素原子を持たない、炭素数2〜10の含弗素化合物である、ことを特徴とする熱膨張性微小球によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、本発明の熱膨張性微小球を、外殼である熱可塑性樹脂の軟化点の温度以上の温度で加熱してその微小球を体積膨張倍率が10倍以上に膨張させて得られる真比重0.1g/cc以下および粒度分布の変動係数が30%以下であることを特徴とする膨張済み中空微小球によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、少なくとも一種の重合可能な単量体を、発泡剤の存在下に水系懸濁液中で重合せしめることによって熱膨張性微小球を製造する方法において、該発泡剤がエーテル構造を有しそして塩素原子と臭素原子を持たない、炭素数2〜10の含弗素化合物である、ことを特徴とする熱膨張性微小球の製造方法によって達成される。
発明の好ましい実施形態
本発明の熱膨張性微小球は、発泡剤としてエーテル構造を有し且つ塩素原子、臭素原子を含有しない炭素数が2〜10の含弗素化合物を含有する。前記の含弗素化合物としては、熱膨張性微小球の外殻である熱可塑性樹脂の軟化点の温度以下の温度でガス化するものが好ましい。例えば、COCH、COCH、COC、C15OCなどのハイドロフルオロエーテルが挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。前記ハイドロフルオロエーテルのアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。上記発泡剤の使用量は熱膨張性微小球全体の2.0〜85.0重量%が好ましく、さらに好ましくは10.0〜60.0重量%であり、特に好ましくは15.0〜50.0重量%である。
発泡剤の全量を弗素系化合物で構成すること以外に、これらの発泡剤を、一般的に発泡剤として使用されておりそして熱膨張性微小球の外殻である熱可塑性樹脂の軟化点の温度以下でガス状になる物質を併用することができる。
かかる他の化合物としては、例えば、プロパン、プロピレン、ブテン、ノルマルブタン、イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル、メタンのハロゲン化物、テトラアルキルシランの如き低沸点液体、加熱により熱分解してガス状になるアゾジカルボンアミド等が挙げられる。これらは、熱膨張性微小球を発泡させたい温度域により随時選択される。しかしながら、弗素系化合物の物性を熱膨張性微小球に反映させるためには、含弗素化合物以外の他の発泡剤の割合が全発泡剤量の50重量%以下であることが好ましい。発泡剤中の含弗素化合物の割合が高ければ高いほど、含弗素化合物の物性が熱膨張性微小球に反映され、難燃性、不燃性を示す熱膨張性微小球を得ることができる。
本発明の熱膨張性微小球の外殼を構成する熱可塑性樹脂としては、ラジカル重合可能な単量体の重合体により構成される。単量体の例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリルの如きニトリル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸の如きカルボン酸単量体;塩化ビニリデン;酢酸ビニル;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、β−カルボキシエチルアクリレートの如き(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレンの如きスチレンモノマー;アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミドの如きアミド単量体またはこれらの任意の混合物等が例示される。耐熱性に優れた熱膨張性微小球は、ニトリル単量体を用いることにより得られる熱可塑性樹脂を外殼とする熱膨張性微小球である。特に好ましくはアクリロニトリルとメタクリロニトリルの混合物である。ニトリル単量体の使用量は好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%である。ニトリル単量体の使用量が80重量%未満では耐熱性が求められる分野においては好ましくない。
本発明において、上記単量体と併用される重合性二重結合を2個以上有する重合性単量体または架橋剤としては次のようなものが例示される。例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンの如き芳香族ジビニル化合物;メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレートおよびそれらの混合物等があげられる。これらの架橋剤の使用量とは、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%の範囲にある。0.01重量%より少ない場合、架橋度が少なく内包発泡剤保持性、耐熱性が劣るため好ましくない。5重量%より多い場合には、架橋度が多くなりすぎ、膨張性が著しく劣るものとなるため好ましくない。
熱膨張性微小球の壁材は上記成分に適宜重合開始剤を配合することにより調整される。重合開始剤としては、例えば過酸化物やアゾ化合物等の公知の重合開始剤を用いることができる。例えば、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキサイドの如き過酸化物および2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)の如きアゾ化合物が挙げられる。好適には、使用する重合性モノマーに可溶な油溶性の重合開始剤が使用される。
熱膨張性微小球を実際に作成するにあたっては、熱膨張性マイクロカプセルの従来の作成方法が一般に用いられる。すなわち、水系における分散安定剤としては、コロイダルシリカ、コロイダル炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナなどの無機微粒子が用いられる。その他に、分散安定補助剤としてジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸の縮合生成物、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコールの如き高分子タイプの分散安定補助剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウムの如き陽イオン界面活性剤、アルキル硫酸ナトリウムの如き陰イオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタインの如き両イオン性界面活性剤など各種乳化剤などが用いられる。
本発明の熱膨張性微小球は、その平均粒子径が1〜100μmの範囲内でありかつその粒度分布の変動係数Cvが30%以下であるものが好ましい。本発明の熱膨張性微小球の平均粒子径は、広い範囲で変えることができ、用途に応じて自由に設計することができる。変動係数Cvは以下に示す式により計算される。
Cv=(s/<x>)×100(%) ・・・(1)
s={Σi=1(x−<x>)/(n−1)}1/2 ・・・(2)
ここで、sは粒子径の標準偏差であり、<x>は平均粒子径であり、xはi番目の粒子径であり、nは粒子の数である。
本発明の熱膨張性微小球を原料にして膨張済み中空微小球を製造する際には、外殼の熱可塑性樹脂の軟化点の温度以上の温度で加熱してその体積膨張倍率が10倍以上となるように膨張させるのが好ましい。それにより、真比重が0.1g/cc以下、粒度分布については変動係数Cvが30%以下である膨張済み中空微小球が得られ好ましい。粒度分布の変動係数が30%以上の場合、熱膨張性微小球の発泡性能にばらつきが発生しやすく好ましくない。また、他の材料へ配合、混合して用いた場合は表面性などにも悪影響を与え好ましくない。
本発明の熱膨張性微小球、および膨張済み中空微小球の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製 HEROS&RODOS)を用いて測定した。
本発明における熱膨張性微小球の真比重の測定は、液体置換法(置換液イソプロピルアルコール)により測定した。
体積膨張倍率は、熱膨張性微小球をタバイESPEC社製パーフェクトオーブン中に入れ、所定温度(発泡温度)にて2分間加熱して発泡させた膨張済み中空微小球の真比重を測定した後、原料の熱膨張性微小球の真比重を膨張済み中空微小球の真比重で割ることによって求めた。
本発明に用いられる熱膨張性微小球よりも粒子径の小さな、好ましくは一次粒子が熱膨張性微小球の粒子径の10分の1以下の粒子径を持つ微粒子充填剤としては、材料中への分散性向上、流動性改善などの使用目的に応じて、有機系充填剤あるいは無機系充填剤が適宜選定される。熱膨張性微小球に対する微粒子充填剤の混合比が0.1から95重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5から60重量%、特に好ましくは5から50重量%である。
有機系充填剤として、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸リチウムの如き金属セッケン類、ポリテトラフルオロエチレンビーズ、ポリメチルメタクリレートビーズの如き樹脂粉体類、ポリアミド繊維などが挙げられる。
無機系充填剤として、例えばシリカ、アルミナ、マイカ、タルク、雲母、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、セラミックビーズ、ガラスビーズ、水晶ビーズ、カーボンブラック、二硫化モリブデンなどが挙げられるが、これらの有機系あるいは無機系充填剤は、混合して用いてもよい。
熱膨張性微小球と微粒子充填剤との混合には、一般的な揺動または攪拌を行える粉体混合機を用いることができる。具体的には、リボン型混合機、垂直スクリュー型混合機等の揺動攪拌または攪拌を行える粉体混合機を用いることができる。近年、攪拌装置を組み合わせたことにより効率の良い多機能な粉体混合機であるスーパーミキサー(株式会社カワタ製)やハイスピードミキサー(株式会社深江製)、ニューグラムマシン(株式会社セイシン企業製)なども紹介されており、これらを用いることもできる。または容器と攪拌バネといった極めて簡単な機構にあってもよい。
上記微粒子充填剤は、熱膨張性微小球の表面に付着した状態となる。
本発明の熱膨張性微小球は、ゴム、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂に配合、加熱することにより軽量化された発泡組成物を得ることができる。
本発明の熱膨張性微小球を原料にした膨張済み中空微小球は、ゴム、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂に配合することにより軽量な樹脂組成物を得ることができる。用いることができる樹脂は、例えばSBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PU(ポリウレタン)、PS(ポリスチレン)、天然ゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などがあるがこれに限定されるものではない。
熱可塑性微粒子及び膨張済み中空微小球は、得られる組成物に対し、好ましくは0.5〜50重量%、より好ましくは1.0〜30重量%で含有される。
本発明の熱膨張性微小球は、含弗素化合物をほとんど揮散させることなく膨張済み中空微小球に変換することができ、また他の脂肪族フルオロカーボンやフルオロ炭化水素を封入した熱膨張性微小球よりも極めてシャープな粒度分布をもち、優れた発泡性能を有する点で有利である。このような発泡剤を封入した熱膨張性微小球を環境への負荷の小さい難燃(不燃)性材料として用いることができるという点でも有利である。
本発明の熱膨張性微小球ならびに膨張済み中空微小球は数多くの用途がある。未発泡熱膨張性微小球を使用する場合には、その発泡性能を利用して、自動車等の塗料の充填剤、壁紙や衣服装飾用等の発泡インク用発泡剤などとして使用する。また、未発泡熱膨張性微小球を熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂などに配合したのち熱膨張性微小球の発泡開始温度以上に加熱し発泡膨張させることにより軽量化、多孔化、クッション性、断熱性などの機能を付与する発泡材としても使用することができる。
既発泡熱膨張性微小球を使用する際には、低密度性や充填効果を利用して、例えば、塗料、パテ、複合材料、紙、絶縁材などの軽量化充填材、圧力容器などの体積保持材として利用することができる。上記のように本発明の熱膨張性微小球は、従来の熱膨張性微小球が通常使用されるのと同じ用途に使用することができる。
さらに本発明は、耐火性塗料ならびに絶縁材へも使用できる。耐火性塗料では、前記熱膨張性微小球を難燃(不燃)性の充填材・フィラーとして使用することができる。
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明について詳細に説明する。
【実施例1】
イオン交換水500gに、食塩水150g、アジピン酸−ジエタノールアミン縮合物3.0gおよびコロイダルシリカ20g(有効20%)を加えた後、均一に混合してこれを水相とした。
アクリロニトリル200g、メタクリロニトリル70g、メタクリル酸メチル5.0g、エチレングリコールジメタクリレート1.2g、アゾビスイソブチロニトリル2.0gおよびメチルパーフルオロブチルエーテル150gを混合、撹拌、溶解し、これを油相とした。
水相と油相を混合し、ホモミキサーで3,000rpmにて2分間予備混合し、10,000rpmにて2分間撹拌して縣濁液とした。これを反応器に移して窒素置換をしてから撹拌しつつ61℃で20時間反応した。反応後、濾過、乾燥を行った。得られた熱膨張性微小球の平均粒子径30μm、変動係数Cvは27%であった。熱膨張性微小球の真比重を測定した結果1.23g/ccであった。熱膨張性微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ33.8重量%であった。熱膨張性微小球に着火源を近づけたが燃焼することはなかった。パウダテスタ(ホソカワミクロン製、PT−N型)により粉体流動性の良し悪しを示す安息角を測定したところ43度であった。
得られた熱膨張性微小球を160℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径120μm、変動係数Cvは27%であった。真比重は0.020g/ccであり、体積膨張倍率は61倍であった。つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ33.2重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
【実施例2】
実施例1で得られた熱膨張性微小球と二酸化チタン(平均粒径15nm)を重量比で6:4の割合で混合し、スーパーミキサー(株式会社カワタ製)を用いて均一に混合し二酸化チタンが表面に付着した熱膨張性微小球を得た。平均粒径は30μm、変動係数Cvは27%であった。安息角は0度になり極めて良好な流動性を示した。
【実施例3】
ホモミキサーからインライン式ホモミキサーに変更した以外は実施例1と同様に行った。その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径31μm、変動係数Cv15%、真比重1.20g/cc、発泡剤の揮発分率33.2重量%であった。熱膨張性微小球に着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
実施例1と同様に160℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は120μm、変動係数Cv16%であった。真比重は0.021g/ccであり、体積膨張倍率は57倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ31.9重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
比較例1
メチルパーフルオロブチルエーテル150gからイソヘキサン65gへ変更した以外は実施例1と同様に行った。
その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径31μm、変動係数Cv44%、真比重1.02g/cc、発泡剤の揮発分率17.5重量%であった。熱膨張性微小球へ着火源を近づけると炎を上げて燃焼した。
実施例1と同様に160℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は120μm、変動係数Cv42%であった。真比重は0.019g/ccであり、体積膨張倍率は53倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ14.6重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけると炎を上げて燃焼した。
比較例2
メチルパーフルオロブチルエーテル150gをパーフルオロカーボン(C14)161.5gへ変更した以外は実施例1と同様に行った。
その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径30μm、変動係数Cv45%、真比重1.20g/cc、発泡剤の揮発分率22.5重量%であった。熱膨張性微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
実施例1と同様に160℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は110μm、変動係数Cv46%であった。真比重は0.028g/ccであり、体積膨張倍率は43倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ24.3重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
比較例3
油相にジメチルアジペートを7.0g加えた以外は比較例2と同様に行った。その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径21μm、変動係数Cv48%、真比重1.19g/cc、発泡剤の揮発分率20.5重量%であった。熱膨張性微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
実施例1と同様に160℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は70μm、変動係数Cv48%であった。真比重は0.032g/ccであり、体積膨張倍率は37倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ加熱後16.3重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
比較例4
油相にジメチルアジペート7.0gをジメチルオクタフルオロアジペート12.7gに変更した以外は比較例3と同様に行った。
その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径18μm、変動係数Cv42%、真比重1.21g/cc、発泡剤の揮発分率24.5重量%であった。熱膨張性微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
実施例1と同様に160℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は38μm、変動係数Cv41%であった。真比重は0.172g/ccであり、体積膨張倍率は7倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ16.3重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
【実施例4】
アクリロニトリル200g、メタクリル酸メチル75g、エチレングリコールジメタクリレート1.2g、アゾビスイソブチロニトリル2.0g、メチルパーフルオロブチルエーテル100g、イソブタン20gを混合、撹拌、溶解し、これを油相とした以外は実施例1と同様に行った。
その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径22μm、変動係数Cv25%、真比重1.16g/cc、発泡剤の揮発分率28.9重量%であった。熱膨張性微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
得られた熱膨張性微小球を140℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は88μm、変動係数Cvは24%であった。真比重0.019g/ccであり、体積膨張倍率は63倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ26.3重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
比較例5
メチルパーフルオロブチルエーテル100gをイソヘキサン41.0gへ変更した以外は実施例4と同様に行った。
その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径21μm、変動係数Cv38%、真比重1.03g/cc、発泡剤の揮発分率15.2重量%であった。熱膨張性微小球へ着火源を近づけると炎を上げて燃焼した。
実施例4と同様に得られた熱膨張性微小球を140℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は78μm、変動係数Cv39%であった。真比重は0.021g/ccであり、体積膨張倍率は49倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ11.3重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけると炎を上げて燃焼した。
【実施例5】
アクリロニトリル150g、塩化ビニリデン120g、メタクリル酸メチル5.0g、トリメチロールプロパントリメタクリレート0.8g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート1.0g、メチルパーフルオロブチルエーテル90gおよびイソブタン20gを混合、撹拌、溶解し、これを油相とした以外は実施例1と同様に行った。
その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径15μm、変動係数Cv24%、真比重1.33g/cc、発泡剤の揮発分率25.9重量%であった。得られた熱膨張性微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
得られた熱膨張性微小球を120℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は63μm、変動係数Cv24%であった。真比重は0.018g/ccであり、体積膨張倍率は72倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ24.7重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけたが燃焼することはなかった。
比較例6
メチルパーフルオロブチルエーテル90gをノルマルペンタン36.9gへ変更した以外は実施例3と同様に行った。
その結果得られた熱膨張性微小球は、平均粒子径13μm、変動係数Cv38%、真比重1.26g/cc、発泡剤の揮発分率14.2重量%であった。得られた熱膨張性微小球へ着火源を近づけると炎を上げて燃焼した。
実施例5と同様に得られた熱膨張性微小球を120℃にて2分間加熱したところ膨張済み中空微小球が得られた。膨張済み中空微小球の平均粒子径は46.4μm、変動係数Cv39%であった。真比重は0.029g/ccであり、体積膨張倍率は43倍であった。
つづいて膨張済み中空微小球に封入された発泡剤の揮発分率を測定したところ9.3重量%であった。膨張済み中空微小球へ着火源を近づけると炎を上げて燃焼した。
【実施例6】
実施例1で得られた熱膨張性微小球2重量%をプロセスオイル2重量%で湿化させ、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、比重0.9g/cm)96重量%と混合、80℃で2軸ロールにて混練、ゴムシートを作成、ヒートプレスにて160℃で10分間加熱し、発泡ゴムシートを作成した。結果を表1に示す。
比較例7
実施例1で得られた熱膨張性微小球の代わりに、比較例4で得られた熱膨張性微小球を用いた以外は実施例6と同様に行った。結果を表1に示す。

本発明の熱膨張性微小球はシャープな粒度分布かつ良好な発泡性能を有する。そのため本発明の熱膨張性微小球を用いて発泡ゴムシートを作成すると、熱膨張性微小球が有効に働くことにより、ゴムシート表面性が良好であり軽量化できた発泡ゴムシートを得ることができる。
【実施例7】
実施例1の熱膨張性微小球を加熱することにより得られた膨張済み中空微小球(平均粒子径120μm、変動係数Cv27%、真比重0.020g/cc)5重量%を、PVC系ゾル塗料(比重1.4g/cm)95重量%と混合し、基板に塗工後、パーフェクトオーブンにて160℃で30分間加熱ゲル化することによりシートを作成した。結果を表2に示す。
比較例8
実施例1で得られた熱膨張性微小球の代わりに、比較例4で得られた熱膨張性微小球を加熱することにより得られた膨張済み中空微小球(平均粒子径38μm、変動係数Cv41%、真比重0.172g/cc)を用いた以外は実施例7と同様に行った。結果を表2に示す。

【実施例8】
実施例1の熱膨張性微小球を加熱することにより得られた膨張済み中空微小球(平均粒子径120μm、変動係数Cv27%、真比重0.020g/cc)50gをゴム風船に空気に代えて充填することにより4Lの容量まで膨張させた。このゴム風船を50℃の雰囲気中に1ヶ月間放置したが体積の減少は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる外殻およびその内部に含有される発泡剤からなりそして該発泡剤が該熱可塑性樹脂の軟化点の温度以下の温度でガス化し且つエーテル構造を有しそして塩素原子と臭素原子を持たない、炭素数2〜10の含弗素化合物である、ことを特徴とする熱膨張性微小球。
【請求項2】
発泡剤が上記含弗素化合物と異なる他の化合物をさらに含有する請求項1に記載の熱膨張性微小球。
【請求項3】
発泡剤が熱膨張性微小球の2〜85重量%を占める請求項1に記載の熱膨張性微小球。
【請求項4】
平均粒子径が1〜100μmの範囲内にありそして粒度分布の変動係数Cvが30%以下である請求項1から3のいずれかに記載の熱膨張性微小球。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ニトリル単量体80重量%以上と、重合性二重結合を2個以上有する重合性単量体0.01〜5重量%を含有する単量体混合物の重合体である請求項1から4のいずれかに記載の熱膨張性微小球。
【請求項6】
熱膨張性微小球表面に微粒子充填剤が付着し、そして該微粒子充填剤は一次粒子の粒子径が熱膨張性微小球の10分の1以下の粒子径を有して、そしてその付着割合が熱膨張性微小球に対して0.1〜95重量%の範囲にある請求項1から5のいずれかに記載の熱膨張性微小球。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の熱膨張性微小球を、外殻である熱可塑性樹脂の軟化点の温度以上の温度で加熱してその微小球を体積膨張倍率が10倍以上に膨張させて得られる真比重0.1g/cc以下および粒度分布の変動係数が30%以下であることを特徴とする膨張済み中空微小球。
【請求項8】
少なくとも一種の重合可能な単量体を、発泡剤の存在下に水系懸濁液中で重合せしめることによって熱膨張性微小球を製造する方法において、該発泡剤がエーテル構造を有しそして塩素原子と臭素原子を持たない、炭素数2〜10の含弗素化合物である、ことを特徴とする熱膨張性微小球の製造方法。
【請求項9】
発泡剤が上記含弗素化合物と異なる他の化合物をさらに含有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ゴム、熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂に請求項1から6のいずれかに記載の熱膨張性微小球を0.5〜50重量%配合し、加熱膨張せしめることにより得られる発泡組成物。
【請求項11】
ゴム、熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂に請求項7記載の膨張済み中空微小球を0.5〜50重量%配合することにより得られる軽量な樹脂組成物。
【請求項12】
請求項7記載の膨張済み中空微小球を圧力容器の体積保持材として使用する方法。

【国際公開番号】WO2004/074396
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502802(P2005−502802)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002053
【国際出願日】平成16年2月23日(2004.2.23)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】