説明

熱転写受像シート用樹脂の分散液

【課題】染料の染着性及び離型性が共に優れた熱転写受像シートを製造し得る熱転写受像シート用樹脂の分散液、該樹脂の分散液の製造方法及び該樹脂の分散液を塗布して得られる染料受容層を有する熱転写受像シートを提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)


(式中、R1O、R2Oは、それぞれ独立にオキシエチレン基又はオキシプロピレン基を表し、それぞれ繰り返し単位毎に同一であっても異なってもよい。x及びyは、それぞれ正の数であり、かつxとyの和の平均値は2〜7である。)
で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上含有するアルコール成分(A)と、トリメリット酸及び/又はその無水物を該アルコール成分(A)100モルに対して25〜60モルに相当する量を含有するカルボン酸成分(B)とを縮重合して得られ、且つ軟化点が95〜125℃であるポリエステルを含有する熱転写受像シート用樹脂の分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写受像シート用樹脂の分散液及びその製造方法並びに熱転写受像シートに関する。
【背景技術】
【0002】
昇華性染料を記録材とし、これを基材に担持させた熱転写シートを用いて、昇華性染料で染着可能な熱転写受像シート上にカラー画像を形成する方法が提案されている。これは加熱手段としてプリンターのサーマルヘッド等を使用し、加熱によって染料を受像シートに転写させてカラー画像を得るものである。このようにして形成された画像は、染料を用いることから非常に鮮明であり、且つ透明性に優れているため、中間色の再現性や階調性に優れ、高品質の画像が期待できる。
上記熱転写受像シートの染料受容層としては、染料の染着性に優れることから、ポリエステルが使用されることがある。ポリエステルを用いた熱転写受像シートとしては、例えば、ビスフェノールA由来のジオール化合物を20〜80モル%で含むアルコール成分と芳香族二塩基酸を反応させて得られるポリエステルを染料受容層に含有する熱転写受像シート(特許文献1参照)、イソフタル酸、テレフタル酸及びトリメリット酸を含有するカルボン酸成分と、エチレングリコール等のアルコール成分とを反応させて得られるポリエステルを染料受容層に含有する熱転写受像シート(特許文献2参照)、及びビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等をアルコール成分とし、トリメリット酸を含有するカルボン酸成分と反応させて得られるポリエステルを染料受容層に含有する熱転写受像シート(特許文献3参照)等が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−175916号公報
【特許文献2】特開2003−89276号公報
【特許文献3】特開平02−112991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、カルボン酸成分に無水トリメリット酸を少量(アルコール成分100モルに対して0.5〜1モル)含有させて得られたポリエステルを用いているが、無水トリメリット酸を使用することによる効果については何ら記載が無く、さらに、より多くの無水トリメリット酸を含有するカルボン酸成分を使用したポリエステル及びその分散液は製造されておらず、その分散液の効果は全く不明である。また、特許文献1に開示された熱転写受像シートは、熱転写受像シートへの染料の染着性が良好であるが、画像形成時に、昇華性染料を担持させた熱転写シートとの熱融着が生じ、剥離が困難(離型性が不十分)な場合があり、その結果、画像性能においても十分とはいえなかった。特許文献2では、トリメリット酸の使用量の記載が無く、またアルコール成分として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物について何ら記載が無い。また、特許文献2に開示された熱転写受像シートは、離型性については不明であり、染着性は不十分という問題がある。特許文献3では、参考例2及び3を参照すると、ポリエステルの製造において、トリメリット酸をアルコール成分100モルに対して10〜20モル使用している。特許文献3には、この様にトリメリット酸をカルボン酸成分に含有させることにより、得られるポリエステルの基材シートに対する「接着性」が向上する旨、及びトリメリット酸を多く使用するとポリエステルがゲル化し、使用不能となる旨が開示されている。しかし、トリメリット酸をアルコール成分100モルに対して20モルを超えた量を使用したポリエステルは具体的には製造されておらず、引用文献3の上記開示事項から、通常、この様なポリエステルでは、基材シートとの接着性が高くなると同時に熱転写シートとの接着性も高くなる恐れがあると考えられ、熱転写受像シートの離型性の低下が懸念される。
この様に、染料の染着性及び離型性が共に優れる熱転写受像シートは、未だ開発されていない状況にある。
本発明は、染料の染着性及び離型性が共に優れた熱転写受像シートを製造し得る熱転写受像シート用樹脂の分散液、該樹脂の分散液の製造方法及び該樹脂の分散液を塗布して得られる染料受容層を有する染料の染着性及び離型性が共に優れた熱転写受像シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
[1]下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1O、R2Oは、それぞれ独立にオキシエチレン基又はオキシプロピレン基を表し、それぞれ繰り返し単位毎に同一であっても異なってもよい。x及びyは、それぞれ正の数であり、かつxとyの和の平均値は2〜7である。)
で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上含有するアルコール成分(A)と、トリメリット酸及び/又はその無水物を該アルコール成分(A)100モルに対して25〜60モルに相当する量を含有するカルボン酸成分(B)とを縮重合して得られ、且つ軟化点が95〜125℃であるポリエステル(1)を含有する熱転写受像シート用樹脂の分散液、
[2]水系媒体中に、樹脂を分散させて得られる熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造方法であって、前記樹脂が、下記一般式(I)
【化2】

(式中、R1O、R2O、x及びyは、前記定義の通りである。)
で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上含有するアルコール成分(A)と、トリメリット酸及び/又はその無水物を該アルコール成分(A)100モルに対して25〜60モルに相当する量を含有するカルボン酸成分(B)とを縮重合して得られ、且つ軟化点が95〜125℃であるポリエステル(1)を分散させる工程を有する、熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造方法、及び
[3]基材に、上記[1]に記載の熱転写受像シート用樹脂の分散液を塗布して得られる染料受容層を有する熱転写受像シート、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、染料の染着性及び離型性に優れる熱転写受像シートを製造し得る熱転写受像シート用樹脂の分散液、該樹脂の分散液の製造方法及び該樹脂の分散液を塗布して得られる染料受容層を有する熱転写受像シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の熱転写受像シートは、以下のポリエステル(1)を有する熱転写受像シート用樹脂の分散液を用いて得られる。
[ポリエステル(1)]
(アルコール成分(A))
本発明の熱転写受像シート用樹脂の分散液に用いられる樹脂はポリエステル(1)を含有する。ポリエステル(1)の原料モノマーの1つであるアルコール成分(A)は、下記条件(i)を満たす必要がある。
【0008】
(条件(i))
【化3】

【0009】
で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物(以下、BPA−ROと称する)を、熱転写受像シートへの染料の染着性及び熱転写受像シートの熱転写シート(インクリボン等)からの離型性の観点から80モル%以上、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、よりさらに好ましくは100モル%含有する。
【0010】
一般式(I)において、R1O、R2Oはいずれもオキシアルキレン基であり、具体的には、それぞれ独立にオキシエチレン基又はオキシプロピレン基を表す。また、R1O、R2Oは、それぞれ繰り返し単位毎に同一であっても異なっていてもよいが、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の両立の観点から、同一であることが好ましい。
x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数に相当し、それぞれ正の数である。さらに、カルボン酸成分との反応性の観点から、xとyの和の平均値は2〜7であり、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜3である。
上記BPA−ROとしては、具体的には、x及びyが前記定義の範囲内であり、かつR1O及びR2Oが共にオキシエチレン基であるポリオキシエチレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、BPA−EOと略称する)、x及びyが前記所定の範囲内であり、かつR1O及びR2Oが共にプロピレンオキシ基であるポリオキシプロピレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、BPA−POと略称する)が好ましく挙げられる。BPA−ROは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本発明では、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の両立の観点から、BPA−RO中に、BPA−EO及び/又はBPA−POを好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、よりさらに好ましくは100モル%含有させる。なお、BPA−EOのオキシエチレン基の一部がオキシプロピレン基で、又はBPA−POのオキシプロピレン基の一部がオキシエチレン基で置換されていてもよい。
【0011】
さらに、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、前記定義の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物の全量中におけるエチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットの含有比率(エチレンオキサイドユニット/プロピレンオキサイドユニット)は、モル比で好ましくは50/50〜0/100、より好ましくは40/60〜0/100、さらに好ましくは35/65〜0/100、よりさらに好ましくは30/70〜0/100である。
【0012】
前記BPA−ROは、アルコール成分(A)中における含有量が前記範囲内となる限りにおいて、その他のアルコールと組み合わせて用いてもよい。その他のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ビスフェノールAの水素添加物、ソルビトール、又はこれらのアルキレン(炭素数2〜4)オキサイド(平均付加モル数1〜16)付加物等が挙げられる。これらその他のアルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
(カルボン酸成分(B))
また、熱転写受像シート用樹脂の分散液に用いる樹脂が含有するポリエステル(1)の原料モノマーの1つであるカルボン酸成分(B)は、トリメリット酸及び/又はその無水物を、上記アルコール成分(A)100モルに対して25〜60モル、好ましくは25〜50モル、より好ましくは30〜50モルに相当する量を含有するものである。トリメリット酸及び/又はその無水物の量が、アルコール成分(A)に対して25モル未満であると染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性が不十分となり、一方、60モルを超えると、実質的にポリエステルの製造が困難となる。
カルボン酸成分(B)は、トリメリット酸及びその無水物以外の、その他のカルボン酸を含有していてもよい。その他のカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香環を形成する炭素数が6〜12の、芳香族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、コハク酸や、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸(例えばドデセニルコハク酸及びオクテニルコハク酸等)等の脂肪族ジカルボン酸(脂肪族基の炭素数2〜6);1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−エチル−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,3−ジメチル−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸等の脂環を形成する炭素数が5〜10の、脂環族ジカルボン酸;ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸(但し、トリメリット酸は含まない。)、それらの酸の無水物及びそれらのアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。これらその他のカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の両立の観点から、前記脂環族ジカルボン酸が好ましく、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸がより好ましい。カルボン酸成分(B)に該脂環族ジカルボン酸を含有させる場合、該脂環族ジカルボン酸の含有量は、アルコール成分(A)100モルに対して好ましくは20〜80モル、より好ましくは30〜70モル、さらに好ましくは40〜65モル、よりさらに好ましくは50〜60モルに相当する量である。
【0014】
本発明の熱転写受像シート用樹脂の分散液には、前記ポリエステル(1)以外に、下記のその他のポリエステル[以下、ポリエステル(2)と称する]を含有させてもよい。
[ポリエステル(2)]
ポリエステル(2)としては、上記ポリエステル(1)の原料モノマーとして用いるアルコール成分(A)と後述のカルボン酸成分(C)を原料モノマーとして用いて得られるポリエステルが好ましい。ポリエステル(2)の製造に用いるアルコール成分は、ポリエステル(1)の製造に用いるアルコール成分(A)と同一でも異なっていてもよいが、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、同一であることが好ましい。
【0015】
(カルボン酸成分(C))
カルボン酸成分(C)は、トリメリット酸及び/又はその無水物を、アルコール成分(A)100モルに対して好ましくは25モル未満、より好ましくは10モル以下、さらに好ましくは5モル以下を含有するカルボン酸成分であり、トリメリット酸及びその無水物を全く含有しないカルボン酸成分であることが好ましい。
カルボン酸成分(C)としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香環を形成する炭素数が6〜12の、芳香族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、コハク酸や、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸(例えばドデセニルコハク酸及びオクテニルコハク酸等)等の脂肪族ジカルボン酸(脂肪族基の炭素数2〜6);1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−エチル−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,3−ジメチル−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸等の脂環を形成する炭素数が5〜10の、脂環族ジカルボン酸;ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸、それらの酸の無水物及びそれらのアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。これらのカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の両立の観点から、前記脂環族ジカルボン酸が好ましく、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸がより好ましい。カルボン酸成分(C)に該脂環族ジカルボン酸を含有させる場合、該脂環族ジカルボン酸の含有量は、アルコール成分(A)100モルに対して好ましくは75〜110モル、より好ましくは80〜105モル、さらに好ましくは90〜105モルに相当する量である。
【0016】
[ポリエステルの製造方法]
本発明で使用する前記ポリエステル(1)及び(2)は、例えば、前記アルコール成分(A)と上記カルボン酸成分(B)又は(C)とを、不活性ガス雰囲気中において、必要に応じてエステル化触媒の存在下、好ましくは160〜250℃、より好ましくは180〜250℃、さらに好ましくは200〜230℃、よりさらに好ましくは200〜215℃で縮重合することにより製造することができる。
ここで、ポリエステル(1)を製造する場合、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、トリメリット酸及び/又はその無水物は、ポリエステルの製造に使用する全量の70重量%以上、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%をポリエステル化の反応初期(例えば反応開始時から10分以内)に、ポリエステル化に使用する全アルコール成分(A)の70重量%以上、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%と共に反応系に存在させるのがよい。従来、枝分かれしたポリエステルを製造する場合、線形のポリマーを得てから、反応系内にトリメリット酸及び/又はその無水物を添加して、縮重合反応をさせることにより得られていた。このため、得られるポリエステルの分子の「一部」が枝分かれする構造となっていると考えられる。しかし、本件では、反応初期から、反応系内に前記一定量以上のトリメリット酸及び/又はその無水物を他の原料モノマーと共に存在させて縮重合反応させるために、分子内において均一に枝分かれしたポリエステルを得ることができるため、本発明の効果が十分に発揮されると考えられる。
なお、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、ポリエステル(1)及び(2)はブロードな分子量分布を有するものであることが好ましく、エステル化触媒を用いて縮重合をすることが好ましい。エステル化触媒としては、錫触媒、チタン触媒、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、二酸化ゲルマニウム等の、エステル化能を有する公知の金属化合物等が挙げられ、前記観点から、錫触媒、チタン触媒が好ましく、錫触媒の中では、オクチル酸錫(II)等のSn−C結合を有しない錫化合物がより好ましい。
こうして得られるポリエステル(1)及び(2)は、それぞれ1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
(ポリエステルの物性)
本発明では、前述の通り、従来実施されていない程度の量のトリメリット酸を使用してポリエステル(1)を得る。しかし、本発明者らが行った実験によると、単にカルボン酸成分中のトリメリット酸の割合を増加させていくだけでは、本発明の効果が得られない場合があることが判明した。詳細には、ポリエステルの軟化点が一定範囲を超えると、得られるポリエステルの溶剤への溶解性が急激に低下し、熱転写受像シート用樹脂の分散液を得ることができなくなった(製造例8及び9参照)。そのため、ポリエステル(1)の軟化点は95〜125℃である必要があり、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、100〜120℃が好ましく、105〜115℃がより好ましい。
ポリエステル(1)のガラス転移温度は50〜80℃が好ましく、55〜80℃がより好ましく、55〜75℃がさらに好ましい。ポリエステル(1)の酸価は、水性媒体中での分散性の観点から、10〜50mgKOH/gが好ましく、15〜50mgKOH/gがより好ましく、20〜50mgKOH/gがさらに好ましい。また、ポリエステル(1)の数平均分子量は、熱転写受像シートを得る際の造膜性の観点から、1,500〜10,000が好ましく、1,700〜8,000がより好ましく、1,800〜7,000がさらに好ましく、1,800〜4,000がよりさらに好ましい。ポリエステル(1)の軟化点、ガラス転移温度、酸価及び数平均分子量は、いずれも用いる原料モノマーの種類、配合比率、縮重合温度、反応時間等を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。なお、ポリエステル(1)の軟化点を前記範囲にする方法としては、ポリエステルを製造する際に、「ASTM D36−86」に従ってポリエステルの軟化点測定しながら重合反応を継続し、前記範囲の軟化点において重合反応を終了させる方法を採ることが好ましい。
また、ポリエステル(2)の軟化点は95〜125℃が好ましく、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、98〜120℃がより好ましく、100〜115℃がさらに好ましく、100〜110℃がよりさらに好ましい。ポリエステル(2)のガラス転移温度は40〜85℃が好ましく、45〜80℃がより好ましく、50〜75℃がさらに好ましい。ポリエステル(2)の酸価は10〜50mgKOH/gが好ましく、10〜30mgKOH/gがより好ましく、10〜20mgKOH/gがさらに好ましい。また、ポリエステル(2)の数平均分子量は、熱転写受像シートを得る際の造膜性の観点から、1,500〜10,000が好ましく、2,000〜8,000がより好ましく、3,000〜7,000がさらに好ましく、4,000〜6,000がよりさらに好ましい。ポリエステル(2)の軟化点、ガラス転移温度、酸価及び数平均分子量は、いずれもポリエステル(1)の場合と同様にして所望のものを得ることができる。
【0018】
なお、ポリエステル(1)及び(2)は、前記範囲内において、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等でグラフト化やブロック化したポリエステルや、ポリエステルユニットを含む2種以上の樹脂ユニットを有する複合樹脂が挙げられる。
【0019】
[熱転写受像シート用樹脂の分散液]
本発明の熱転写受像シート用樹脂の分散液は、水性媒体中に、前記ポリエステル(1)及び必要に応じてポリエステル(2)及び/又は他の樹脂を含有するものである。なお、熱転写受像シート用樹脂の分散液中におけるポリエステル(1)の含有量は、熱転写受像シート用樹脂の分散液に対して、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは5〜35重量%であり、さらにより好ましくは5〜30重量%である。また、熱転写受像シート用樹脂の分散液にポリエステル(2)を含有させる場合、ポリエステル(2)のポリエステル[ポリエステル(1)及びポリエステル(2)の合計]に対する含有割合は、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%、さらに好ましくは40〜60重量%、よりさらに好ましくは45〜55重量%である。さらに、全樹脂[ポリエステル(1)、(2)及び他の樹脂]中におけるポリエステル(1)及び(2)の合計含有量は、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは100重量%である。
熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造方法としては、前記ポリエステル(1)並びに必要に応じてポリエステル(2)及び/又は他の樹脂を有機溶剤に溶解し、適宜中和剤を添加してカルボキシル基をイオン化した後、水性媒体を添加し、次いで有機溶剤を留去する方法が好ましい。なお、水性媒体を用いず、トルエン及び/又はメチルエチルケトン等の有機溶剤を用いて上記ポリエステル(1)を溶解した塗工液を用いて染料受容層を形成した場合、染着性が大幅に低下するため不利である(比較例7参照)。
【0020】
前記他の樹脂としては、熱転写受像シートの受容層として用いられる公知の樹脂を用いることができ、例えば、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルエステル等のビニルポリマー、ポリスチレン系樹脂、エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体系樹脂、セルロースジアセテート等のセルロース系樹脂、ポリカーボネート等を挙げることができる。
前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤が挙げられる。この中でもポリエステル(1)及び(2)の溶解性や有機溶剤の揮発性の観点からメチルエチルケトン、トルエンが好ましく、メチルエチルケトンがより好ましい。
ポリエステル(1)及び/又は(2)を有機溶剤に溶解する方法としては、ポリエステル(1)及び/又は(2)と有機溶剤を混合して、常温又は加温状態、すなわち20〜50℃、好ましくは20〜40℃で攪拌することで溶解させる方法が挙げられる。
【0021】
上記中和剤としては、例えばアンモニア水、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液;アリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、トリ−n−オクチルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ネオペンタノールアミン、ジグリコールアミン、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノプロパン、1,6−ジアミノヘキサン、1,9−ジアミノノナン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン等のアミン類等を挙げることができる。これらの中でもアルカリ水溶液が好ましく、アンモニア水がより好ましく、25重量%アンモニア水がさらに好ましい。中和剤の使用量は、ポリエステル(1)及び(2)の酸価を中和できる量であれば特に制限は無く、目安として、熱転写受像シート用樹脂の分散液のpHが後述の範囲になるように調整すればよい。
【0022】
前記水性媒体とは、水を主成分とするもの、すなわち、水が50%以上のものである。環境性の観点から、水性媒体中の水の含有量は80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、実質100重量%がさらに好ましい。水としては、脱イオン水が好ましい。また、水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等の、水に溶解し易い有機溶媒が挙げられる。
有機溶剤を留去する方法としては特に制限は無いが、例えば、有機溶剤としてメチルエチルケトンを使用する場合、減圧下(例えば5〜30kPa)に30〜80℃(好ましくは40〜70℃)で留去する方法が好ましい。
【0023】
こうして得られる熱転写受像シート用樹脂の分散液の固形分濃度は、操作性と生産性の観点から、10〜45重量%が好ましく、20〜40重量%がより好ましく、30〜40重量%がさらに好ましい。また、熱転写受像シート用樹脂の分散液のpHは、好ましくは6〜9であり、より好ましくは6.5〜8.0であり、さらに好ましくは7.0〜8.0である。熱転写受像シート用樹脂の分散液中のポリエステル(1)及び(2)の体積中位粒径(D50)は、それぞれ好ましくは1μm以下であり、より好ましくは50nm〜1μmであり、さらに好ましくは70nm〜700nmであり、よりさらに好ましくは70nm〜300nmである。ここで「体積中位粒径(D50)」とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。その測定方法は実施例に記載の通りである。
【0024】
熱転写受像シート用樹脂の分散液を製造方法するに際して、染料の染着性及び熱転写受像シートの離型性の観点から、オキサゾリン基含有化合物を添加し、本発明で使用するポリエステル(1)及び/又は(2)とを加熱下で混合することが好ましい。このようにすることで、ポリエステル(1)及び/又は(2)とオキサゾリン基含有化合物とが架橋反応をすると考えられる。
オキサゾリン基含有化合物は、前記熱転写受像シート用樹脂の分散液を製造する際に他の成分と共に添加しておき、一段階でポリエステル(1)及び/又は(2)が架橋された熱転写受像シート用樹脂の分散液を製造してもよいが、オキサゾリン基含有化合物とポリエステル(1)及び(2)との反応性の観点からは、オキサゾリン基含有化合物が含まれない熱転写受像シート用樹脂の分散液を製造した後にオキサゾリン基含有化合物を添加して、該熱転写受像シート用樹脂の分散液中のポリエステル(1)及び/又は(2)と反応させる方法を採ることが好ましい。
【0025】
(オキサゾリン基含有化合物)
オキサゾリン基含有化合物としては、分子内にオキサゾリン基を複数含有するものが好ましい。分子内にオキサゾリン基を複数含有する化合物としては、2,2−(1,3−フェニレン)−ビス−2−オキサゾリン、2,2−(1,4−フェニレン)−ビス−2−オキサゾリン等の2官能タイプ;オキサゾリン基を含有する重合性単量体を重合した多官能タイプ(重合体)が挙げられる。
【0026】
また、オキサゾリン基含有化合物としては、ポリエステル(1)及び/又は(2)との反応による架橋効果を効果的に発現する観点から、オキサゾリン基を含有する重合体(以下、オキサゾリン基含有重合体と称する)が好ましい。反応を効果的に促進させることにより、染料受容層組成物を構成する樹脂の分子量が高くなり、熱転写受像シートと熱転写シートとの離型性が改善されるものと考えられる。オキサゾリン基含有重合体は、例えば、オキサゾリン基を含有する重合性単量体を重合することによって得られる。必要に応じて、オキサゾリン基を含有する重合性単量体と共重合可能な、オキサゾリン基を有しない重合性単量体との共重合によって得られる。
【0027】
オキサゾリン基を含有する重合性単量体としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、工業的な入手容易性の観点から、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが好ましい。
【0028】
オキサゾリン基を有しない重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン含有α,β−不飽和脂肪族炭化水素;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン等のα,β−不飽和芳香族炭化水素等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
オキサゾリン基含有重合体の重量平均分子量は、ポリエステル(1)及び/又は(2)との架橋反応性及び生産性の観点から、500〜2,000,000であることが好ましく、1,000〜1,000,000であることがより好ましい。
【0030】
オキサゾリン基含有重合体の一般的な市販品としては、日本触媒社製のエポクロス(登録商標)WSシリーズ(水溶性タイプ)及びKシリーズ(エマルションタイプ)等が挙げられる。
上記オキサゾリン基含有化合物の含有量あるいは添加量は、ポリエステル(1)及び/又は(2)との架橋反応性及び本発明の熱転写受像シート用樹脂の分散液の生産性の観点から、熱転写受像シート用樹脂の分散液中、ポリエステル(1)及び(2)(必要に応じて含有させる前記他の樹脂を含む)100重量部に対して、固形分として0.1〜30重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜20重量部である。
【0031】
本発明の熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造方法においては、前記の通り、前記ポリエステル(1)及び/又は(2)を含有する熱転写受像シート用樹脂の分散液と前記オキサゾリン基含有化合物とを、各々前記配合量となるように混合して反応させることで、熱転写シートからの熱転写の際の熱転写シートと熱転写受像シートとの離型性を向上させることができる。特に、水性媒体中で、ポリエステル(1)及び/又は(2)とオキサゾリン基含有化合物とを混合して反応させることが好ましく、具体的には、ポリエステル(1)及び/又は(2)とオキサゾリン基含有化合物とを含有する水性媒体を加熱することにより反応を促進する。反応の際の加熱温度、すなわち、反応温度は、好ましくは60〜100℃、より好ましくは70〜98℃、さらに好ましくは85〜95℃である。好ましくは前記温度に加熱して反応させることで、ポリエステル(1)及び(2)の少なくとも一部がオキサゾリン基含有化合物により適度に架橋されると考えられる。すなわち、本発明においては、熱転写受像シート用樹脂の分散液にオキサゾリン基含有化合物が適量添加され、かつ好ましくは前記架橋反応温度で反応させることにより、熱転写受像シート用樹脂の分散液に分散しているポリエステル(1)及び(2)の一部が架橋されて分子量が高まるため、熱転写受像シートの離型性が向上し、同時に、ポリエステル粒子の内部に架橋されていないポリエステルが存在するために造膜性が損なわれず、分子量を高めた場合でも画像品質を維持できると考えられる。
【0032】
ポリエステル(1)及び(2)がオキサゾリン基含有化合物により架橋された熱転写受像シート用樹脂の分散液の固形分濃度は、操作性と生産性の観点から、10〜45重量%が好ましく、20〜40重量%がより好ましく、30〜40重量%がさらに好ましい。また、熱転写受像シート用樹脂の分散液のpHは、通常、8.0〜9.5が好ましく、8.9〜9.4がより好ましい。熱転写受像シート用樹脂の分散液中のポリエステル(1)及び(2)の体積中位粒径(D50)は、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは50nm〜1μmであり、さらに好ましくは70nm〜700nmであり、よりさらに好ましくは80nm〜300nmである。
【0033】
[熱転写受像シート]
本発明の熱転写受像シートは、少なくとも基材と、前記熱転写受像シート用樹脂の分散液を塗布して得られる染料受容層とからなる。
(基材)
基材としては、例えば合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系等)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、セルロース繊維紙、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート等の樹脂のフィルム又はシート等が使用できる。また、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート等の樹脂に白色顔料や充填剤を加えて造膜した白色不透明フィルム又は発泡させた発泡シート等も使用できる。また、上記基材を組み合わせた積層体も使用できる。
基材の厚みに特に制限は無いが、一般的には、10〜300μm程度である。基材には、後述する染料受容層との密着力を向上する観点から、その表面にプライマー処理やコロナ放電処理を施すことが好ましい。
【0034】
(染料受容層)
本発明の熱転写受像シート用樹脂の分散液を、熱転写受像シートの基材の少なくとも一方の面に、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等により塗布し、乾燥させることにより、染料受容層を形成することができる。
【0035】
染料受容層には、熱転写受像シートの離型性向上の観点から、離型剤を含有させることができる。離型剤としては、例えば、水分散性あるいは水溶性の変性シリコーンオイル及び/又は無水珪酸の微粒子のコロイド溶液(例えば、コロイダルシリカ)等を使用することが好ましい。
また、染料受容層には、染料受容層の白色度を向上させて転写画像の鮮明度を高める観点から、酸化チタン、酸化亜鉛、カオリンクレー、炭酸カルシウム、微粉末シリカ等の顔料や充填剤を含有させることができる。
染料受容層には、必要に応じて適宜、架橋剤、造膜助剤、触媒等の添加剤を含有させることもできる。なお、これらの添加剤は、必要に応じて水と混合してから用いてもよい。
【0036】
前記造膜助剤としては、熱転写受像シートの離型性の観点から、グリコールエーテルを含有することが好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテルがより好ましい。
前記グリコールエーテルは、熱転写受像シートの離型性の観点から、染料受容層中の全樹脂の固形分に対して0.1〜30重量%含有されることが好ましく、より好ましくは1〜30重量%であり、さらに好ましくは1〜20重量%である。
本発明においては、前記グリコールエーテルを熱転写受像シート用樹脂の分散液に添加する場合には、熱転写受像シート用樹脂の分散液を製造する工程中又は熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造後のいずれの段階で添加してもよいが、生産性の観点から、熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造後に添加することが好ましく、ポリエステル(1)及び/又は(2)がオキサゾリン基含有化合物で架橋された熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造後に添加することがより好ましい。
混合時の熱転写受像シート用樹脂の分散液の安定性の観点から、グリコールエーテルは水(好ましくは脱イオン水)で希釈して用いることが好ましい。希釈は、例えば、グリコールエーテルと水を混合することにより行われる。混合時の樹脂の分散液の安定性が向上することで、凝集物の発生が抑制され、該染料受容層用組成物により得られる熱転写受像シートの印字表面の凹凸がなくなり平滑となるため、高画質画像を得ることができる。
【0037】
こうして得られる染料受容層の厚さは、一般には1〜50μmの厚さであり、画質及び生産性の観点から、3〜15μmであることが好ましい。また、乾燥後の固形分量としては、受容層1m2当たり3〜15g/m2であることが好ましい。
【0038】
[熱転写方法]
本発明においては、前述の基材に前記染料受容層を設けてなる熱転写受像シートの染料受容層面に、昇華性染料を有する転写シートを加熱下に圧着し、染料の転写を行って、転写画像を得る。
昇華性染料を有する転写シートから熱転写受像シートに対して熱転写を行う際、使用する転写シートは、通常、紙やポリエステルフィルム上に昇華性染料を含む染料層を設けたものであり、公知の転写シートを使用することができる。
【0039】
本発明の熱転写受像シートに好適に使用できる昇華性染料としては、例えばイエロー染料では、ピリドンアゾ系、ジシアノスチリル系、キノフタロン系、メロシアニン系;マゼンタ染料では、ベンゼンアゾ系、ピラゾロンアゾメチン系、イソチアゾール系、ピラゾロトリアゾール系;シアン染料では、アントラキノン系、シアノメチレン系、インドフェノール系、インドナフトール系が挙げられる。
また、熱転写時の熱エネルギーの付与手段としては、従来公知の付与手段がいずれも使用でき、例えば、サーマルプリンター等の記録装置によって記録時間をコントロールすることにより、5〜100mJ/mm2程度の熱エネルギーを付与することによって行うことが出来る。
【実施例】
【0040】
以下に実施例等により、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例等において、各性状値は次の方法により測定及び評価した。
【0041】
[軟化点]
フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのブランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
[ガラス転移温度]
示差走査熱量計「Pyris6DSC」(Perkin Elmer社製)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、ベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とした。
【0042】
[酸価]
JIS K0070に従って測定した。但し、測定溶媒は、エタノールとエーテルの混合溶媒を、アセトンとトルエンの混合溶媒[アセトン:トルエン=1:1(容量比)]とした。
【0043】
[数平均分子量]
以下の方法により、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、数平均分子量を算出した。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP−200」(住友電気工業社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量分布測定
下記装置を用いて、THFを毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行った。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製の2.63×103、2.06×104、1.02×105、ジーエルサイエンス社製の2.10×103、7.00×103、5.04×104)を標準試料として作成したものを用いた。
測定装置:CO−8010(東ソー社製)
分析カラム:GMHLX+G3000HXL(東ソー社製)
【0044】
[体積中位粒径(D50)]
レーザー回折型粒径測定機「LA−920」(HORIBA製)を用いて、測定用セルに蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で、体積中位粒径(D50)を測定した。
[pH]
25℃でpHメーター「HM−20P」(東亜ディーケーケー社製)で測定した。
[固形分濃度]
赤外線水分計「FD−230」(ケツト科学研究所社製)を用いて、分散液5gを乾燥温度150℃及び測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)にて、ウェットベースの水分含率を測定し、固形分濃度を下記の式に従って算出した。
固形分濃度(重量%)=100−M
M:ウェットベースの水分含率(重量%)=[(W−W0)/W]×100
W:測定前の試料重量(初期試料重量)
0:測定後の試料重量(絶対乾燥重量)
【0045】
製造例1及び2(ポリエステルa及びbの製造)
窒素導入管、脱水管、攪拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表1に示す配合量にて全ての原料モノマー及び触媒を入れ、窒素雰囲気下、205℃で、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が表1に示す温度に達するまで反応させてポリエステルa及びbを得た。得られたポリエステルa及びbの物性等を表1に示す。
【0046】
製造例3及び4(ポリエステルc及びdの製造)
窒素導入管、脱水管、攪拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表1に示す配合量にて全ての原料モノマー及び触媒を入れ、窒素雰囲気下、210℃で、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が表1に示す温度に達するまで反応させてポリエステルc及びdを得た。得られたポリエステルc及びdの物性等を表1に示す。
【0047】
製造例5(ポリエステルeの製造)
窒素導入管、脱水管、攪拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表1に示す配合量にて全ての原料モノマー及び触媒を入れ、窒素雰囲気下、200℃で、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が表1に示す温度に達するまで反応させてポリエステルeを得た。得られたポリエステルeの物性等を表1に示す。
【0048】
製造例6(ポリエステルfの製造)
窒素導入管、脱水管、攪拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表1に示す原料モノマー及び触媒の内、無水トリメリット酸以外をそれぞれ表1に記載の配合量分入れ、窒素雰囲気下、235℃で10時間反応させ、さらに同温度で減圧下(8.3kPa)にて1時間反応させた。次いで、210℃で無水トリメリット酸を表1に記載の配合量分加え、1時間反応させた後、同温度及び減圧下(20kPa)にて、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が表1に示す温度に達するまで反応させてポリエステルfを得た。得られたポリエステルfの物性等を表1に示す。
【0049】
製造例7(ポリエステルgの製造)
製造例3において、各成分の配合量を表1の製造例7に示す通りに変更し、かつポリエステルの軟化点が表1に示す温度になるよう変更したこと以外は、製造例3と同様に製造を行い、ポリエステルgを得た。得られたポリエステルgの物性等を表1に示す。
【0050】
製造例8(ポリエステルhの製造)
製造例1において、ポリエステルの軟化点が表1の製造例8に示す温度になるよう変更して反応時間を製造例1よりも長くしたこと以外は、製造例1と同様に製造を行い、ポリエステルhを得た。得られたポリエステルhの物性等を表1に示す。なお、ポリエステルhはTHF等の溶剤に溶解せず、数平均分子量は測定不能であった。また、メチルエチルケトン等の溶剤にも不溶であったため、熱転写受像シート用樹の脂分散液の製造に用いることはできなかった。
【0051】
製造例9(ポリエステルiの製造)
製造例1において、各成分の配合量を表1の製造例9に示す通りに変更し、かつポリエステルの軟化点が表1に示す温度になるよう変更したこと以外は、製造例1と同様に製造を行い、ポリエステルiを得た。得られたポリエステルiの物性等を表1に示す。なお、ポリエステルiはTHF等の溶剤に溶解せず、数平均分子量は測定不能であった。また、メチルエチルケトン等の溶剤にも不溶であったため、熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造に用いることはできなかった。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1〜5、比較例1及び2(熱転写受像シート用樹脂の分散液A〜Gの製造)
窒素導入管、還流冷却管、攪拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表2に示す配合で各ポリエステルa〜gを仕込み、25℃でメチルエチルケトンに溶解させた。次いで、25重量%アンモニア水を添加し、攪拌しながら脱イオン水を加えた後、減圧下(20kPa)に50℃でメチルエチルケトンを留去することにより、熱転写受像シート用樹脂の分散液A〜Gを得た。得られた熱転写受像シート用樹脂の分散液A〜Gの物性等を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例6〜10、比較例3及び4(熱転写受像シート用樹脂の分散液H〜Nの製造)
窒素導入管、還流冷却管、攪拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表3に示す配合で、熱転写受像シート用樹脂の分散液A〜G及び水溶性のオキサゾリン基含有重合体「エポクロス(登録商標)WS−700」(日本触媒社製;重量平均分子量50,000、数平均分子量20,000)を入れ、攪拌しながら95℃で4時間反応させ、熱転写受像シート用樹脂の分散液H〜Nを得た。得られた熱転写受像シート用樹脂の分散液H〜Nの物性等を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
実施例11〜15、比較例5〜7
表4に示す配合で、各成分を25℃で混合し、固形分濃度30重量%の塗工液O〜Vを調製した。この塗工液の各々を、ワイヤーバーにより合成紙「YUPO(登録商標) FGS−250」(厚さ250μm、坪量200g/m2)に乾燥後に5.0g/m2になるように塗布し、50℃で2分間乾燥させて熱転写受像シートを得た。
こうして得られた熱転写受像シートに、市販の昇華型プリンタ「SELPHY」(キヤノン社製)を用いて各色[黒(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、グリーン(G)、レッド(R)、ブルー(B)]の階調パターンを印画し、下記の方法で染着性(最高濃度(黒))を評価した。また、8×8cmの黒ベタを印画し、印画時のインクリボンとの離型性を下記の方法で評価した。結果を表4に示す。
【0058】
[染着性(最高濃度)]
高濃度印画(18階調目)での転写色濃度をグレタグ濃度計「Spectro Eye」(GRETAG-MACBETH製)で測定し、染着性の指標とした。数値が高いほど印字画像の最高濃度が高く、染着性に優れることを示す。
[染着性(印字感度)]
低濃度印画(9階調目)での転写色濃度をグレタグ濃度計「Spectro Eye」(GRETAG-MACBETH製)で測定し、染着性の指標とした。数値が高いほど印字画像の濃度が高く、染着性に優れることを示す。
【0059】
[離型性(剥離性)]
階調パターン印画時のインクリボンと熱転写受像シートの熱融着の程度から、下記基準によって離型性を判断した。熱融着が少なく異音が小さいほど離型性に優れることを示す。
A:異音はなく、剥離できる。
B:若干の異音があるが、剥離できる。
C:熱融着しており、剥離が困難である。
【0060】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の熱転写受像シート用樹脂の分散液を用いた熱転写受像シートは、離型性に優れ、また印字感度に優れ、高濃度の画像を得ることができることから、優れた画像性能を有する熱転写受像シートとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1O、R2Oは、それぞれ独立にオキシエチレン基又はオキシプロピレン基を表し、それぞれ繰り返し単位毎に同一であっても異なってもよい。x及びyは、それぞれ正の数であり、かつxとyの和の平均値は2〜7である。)
で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上含有するアルコール成分(A)と、トリメリット酸及び/又はその無水物を該アルコール成分(A)100モルに対して25〜60モルに相当する量を含有するカルボン酸成分(B)とを縮重合して得られ、且つ軟化点が95〜125℃であるポリエステル(1)を含有する熱転写受像シート用樹脂の分散液。
【請求項2】
前記2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物の全量中におけるエチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットの含有比率(エチレンオキサイドユニット/プロピレンオキサイドユニット)がモル比で50/50〜0/100である、請求項1に記載の熱転写受像シート用樹脂の分散液。
【請求項3】
前記ポリエステル(1)の数平均分子量が1,500〜10,000である、請求項1又は2に記載の熱転写受像シート用樹脂の分散液。
【請求項4】
さらに、下記一般式(I)
【化2】

(式中、R1O、R2O、x及びyは、前記定義の通りである。)
で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上含有するアルコール成分(A)と、脂肪族カルボン酸及び/又は脂環族カルボン酸を該アルコール成分(A)100モルに対して20〜80モルに相当する量を含有するカルボン酸成分(C)とを縮重合して得られるポリエステル(2)を、前記ポリエステル(1)及びポリエステル(2)の合計に対して10〜70重量%含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の熱転写受像シート用樹脂の分散液。
【請求項5】
水系媒体中に、樹脂を分散させて得られる熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造方法であって、前記樹脂が、下記一般式(I)
【化3】

(式中、R1O、R2O、x及びyは、前記定義の通りである。)
で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上含有するアルコール成分(A)と、トリメリット酸及び/又はその無水物を該アルコール成分(A)100モルに対して25〜60モルに相当する量を含有するカルボン酸成分(B)とを縮重合して得られ、且つ軟化点が95〜125℃であるポリエステル(1)を分散させる工程を有する、熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造方法。
【請求項6】
水系媒体中に、さらにオキサゾリン化合物を添加する工程を有する、請求項5記載の熱転写受像シート用樹脂の分散液の製造方法。
【請求項7】
基材に、請求項1〜4のいずれかに記載の熱転写受像シート用樹脂の分散液を塗布して得られる染料受容層を有する熱転写受像シート。

【公開番号】特開2010−137440(P2010−137440A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315785(P2008−315785)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】