説明

熱輸送装置、及びエンジン

【課題】作動媒体の循環を阻害する要因を除去し、熱輸送能力の低下を抑制した熱輸送装置を提供する。
【解決手段】熱輸送装置1は、作動媒体を加熱し蒸気化する蒸発器2と、蒸気化した作動媒体により加熱対象へ熱を付与し、作動媒体を凝縮する第1凝縮器3、及び第2凝縮器4と、蒸発器2において蒸気化した作動媒体を第1凝縮器3、及び第2凝縮器4のそれぞれへ供給する蒸気管7と、第1凝縮器3において凝縮した作動媒体を蒸発器2へ供給する第1凝縮水管5と、第2凝縮器4において凝縮した作動媒体を蒸発器2へ供給する第2凝縮水管6とを備え、第1凝縮器3において凝縮した作動媒体と第2凝縮器4において凝縮した作動媒体とが、蒸発器2内で合流させる。この構成により、配管内に空気層が生じて作動媒体の循環を阻害することが抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動媒体を介して蒸発器から凝縮器へ熱を輸送する熱輸送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作動媒体を過熱し蒸気化する蒸発器と、作動媒体を凝縮する凝縮器とを配管で接続し、作動媒体の往来、または循環により熱の輸送を行うヒートパイプが知られている。例えば、特許文献1の排気熱回収システムでは、エンジンの排気から熱を受け取る蒸発部に対し、蒸発部で蒸発した作動媒体を加熱対象との熱交換により冷却して凝縮させる複数の凝縮部を並列に接続したループ型のヒートパイプにおいて、複数の凝縮部のいずれかへ作動媒体を流入させる切替弁を備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−195105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、引用文献1の排気熱回収システムでは、凝縮部において発生した液相の作動媒体(凝縮水)は、凝縮部に接続された還流管を通り蒸発部に戻される。複数の凝縮部に端部を有する還流管(配管)は、図4に示すように、合流部201において一つの配管にまとめられ、蒸発部に接続する。配管200内には、凝縮水とともに空気(気泡)が充填されることから、複数の凝縮部より発生した凝縮水が蒸発部へ還流する際に、凝縮水中の気泡同士が集まり、合流部201に空気層202を形成する。空気は水と比べて圧縮されやすいため、合流部201に空気層202が形成された場合、空気層202がダンパとして振る舞い、一方の凝縮部から還流してきた凝縮水を緩衝し、凝縮水の合流を阻害する。この結果、装置内の凝縮水の循環を妨げてしまい、蒸発部において回収した熱を凝縮部へ輸送する能力が低下してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、作動媒体の循環を阻害する要因を除去し、熱輸送能力の低下を抑制した熱輸送装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決する本発明の熱輸送装置は、作動媒体を加熱し蒸気化する蒸発器と、蒸気化した作動媒体を凝縮する第1凝縮器、及び第2凝縮器と、前記蒸発器において蒸気化した作動媒体を前記第1凝縮器、及び第2凝縮器へ供給する蒸気管と、前記第1凝縮器において凝縮した作動媒体を前記蒸発器へ戻す第1凝縮水管と、前記第2凝縮器において凝縮した作動媒体を前記蒸発器へ戻す第2凝縮水管と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、複数の凝縮器において凝縮した作動媒体は、それぞれ直接、蒸発器へ戻るため、蒸発器へ戻る前に合流することがない。このため、作動媒体内に混入した空気が配管内において空気層を作ることを防ぐこととなり、この結果、作動媒体の循環が阻害されることを抑制する。これにより、蒸発器から凝縮器への熱輸送が滞りなく行われ、熱輸送能力を維持することができる。
【0008】
また、前記蒸発器が排気から熱を回収し、前記作動媒体を蒸気化する上記の熱輸送装置が組み込まれたエンジンを構成することができる。エンジンの排気を熱源として、熱回収することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、凝縮水管内に空気層が形成することを防ぎ、空気緩衝による作動媒体の循環阻害を抑制することにより、熱輸送能力の低下を抑制した熱輸送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】熱輸送装置の概略構成を示した説明図である。
【図2】蒸気のループ経路の一例を示した説明図である。
【図3】熱輸送装置を組み込んだエンジンを示した説明図である。
【図4】従来の排気熱回収システムの凝縮水の合流部を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための一形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本実施例の熱輸送装置1の概略構成を示した説明図である。熱輸送装置1は、作動媒体を介して熱源から加熱対象へと熱を輸送する装置である。熱輸送装置1は、蒸発器2、第1凝縮器3、第2凝縮器4を備えている。蒸発器2は、熱源に相当し、作動媒体を加熱し蒸気化する。第1凝縮器3、及び第2凝縮器4は、蒸発器2で蒸気化した作動媒体を取り込む。第1凝縮器3、及び第2凝縮器4において、蒸気化した作動媒体と加熱対象との間で熱交換が行われて、作動媒体が凝縮する。また、第1凝縮器3、第2凝縮器4は蒸発器2よりも上方に位置する。第1凝縮器3と蒸発器2の液面高さの差、すなわちヘッド差がh1、第2凝縮器4と蒸発器2のヘッド差がh2となっている。
【0013】
さらに、熱輸送装置1は第1凝縮水管5、第2凝縮水管6、蒸気管7を備えている。第1凝縮水管5は、蒸発器2と第1凝縮器3とを接続し、第1凝縮器3において凝縮した作動媒体を蒸発器2へ戻す配管である。第2凝縮水管6は、蒸発器2と第2凝縮器4とを接続し、第2凝縮器4において凝縮した作動媒体を蒸発器2へ戻す配管である。このように、熱輸送装置1において、凝縮水管は凝縮器ごとに独立して形成されている。さらに、蒸気管7は、蒸発器2において蒸気化した作動媒体を第1凝縮器3、第2凝縮器4のそれぞれへ供給する配管である。蒸気管7は、蒸発器2側に接続する入口が1つに対し、出口が2つある。出口の1つは第1凝縮器3に接続し、他方の出口は第2凝縮器4に接続している。
【0014】
このように蒸発器2、第1凝縮器3、及び第2凝縮器4を接続することにより、熱輸送装置1には作動媒体が循環するループ状の経路が2つ形成される。一方のループは、蒸発器2と第1凝縮器3とを循環するループである。他方のループは、蒸発器2と第2凝縮器4とを循環するループである。これら2つのループ状の経路は、蒸発器2と蒸気管7とを共通にするため、循環する作動媒体が蒸発器2内で合流する。すなわち、第1凝縮器3で凝縮した作動媒体と第2凝縮器4において凝縮した作動媒体とは蒸発器2内で合流する。このようなループ状の経路は密封されて内部を減圧された後、作動媒体が封入される。
【0015】
このような構成により、第1凝縮器3で凝縮した作動媒体は蒸発器2へ直接戻される。また、第2凝縮器4で凝縮した作動媒体も蒸発器2へ直接戻される。すなわち、凝縮水管に合流部が形成されないため、配管内に空気層が形成されて作動媒体の循環を阻害することが防止される。これにより、蒸発器2から得られる熱を各凝縮器へと送る熱分配が可能となり、ロバスト性を確保したループ経路を形成することができる。この結果、熱輸送装置1の熱輸送能力を維持することができる。
【0016】
次に、蒸発器と凝縮器との間のヘッド差の影響について説明する。初めに、単純な蒸気のループ経路について説明する。図2は、蒸気のループ経路の一例を示した説明図である。図2のループ経路100は、蒸発器101と、蒸発器101よりも上方に配置された凝縮器102とを備え、内部を作動媒体が矢印で示した一方方向に流れ、循環するように構成されている。蒸発器101では外部から熱量qinが与えられ、作動媒体が蒸気化する。蒸発器101で蒸気化した作動媒体(蒸気)は、凝縮器102へ流れ込み、熱量qoutを放出し、凝縮する。凝縮器102で凝縮した作動媒体(液体)は、蒸発器101と凝縮器102の液面高さの差、すなわちヘッド差hを利用して、蒸発器101へ戻る。
【0017】
このような構成の蒸気ループ100において、作動媒体の液体状態、気体状態における密度をそれぞれ、ρ、ρとすると、ベルヌーイの定理及びエネルギー保存則より、以下の数式が導かれる。なお、以下の数式において、蒸発器101の出口101outにおける状態量の添え字を1、凝縮器102の入口102inにおける状態量の添え字を2、凝縮器102の出口102outにおける状態量の添え字を3、蒸発器101の入口101inにおける状態量の添え字を4、として示す。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【0018】
ここで、ヘッド差の異なる2つの蒸気ループを考える。一方のヘッド差をh、他方のヘッド差をh’とし、ヘッド差h’の蒸気ループでは、上記の4つの数式における状態量に「’」を添えて示すこととする。このとき、ヘッド差hの蒸気ループとヘッド差h’の蒸気ループとを比較すると以下の式が成り立つ。
【数5】

ここで、連続の式より、v=vなので、
【数6】

の関係が成り立つ。数6の式はヘッド差が圧力差に比例することを示している。
【0019】
本実施例の熱輸送装置1のような構成では、蒸気ループの圧力差により、蒸気ループの作動媒体の流れ易さが決定される。このため、数6の式を熱輸送装置1に適用すると、ヘッド差の大きい蒸気ループの方が、作動媒体が容易に流れることとなる。作動媒体の移動が容易であるほど熱の輸送量が多くなるため、ヘッド差の大きいものほどより熱の輸送量が多くなる。したがって、ヘッド差h1とh2の関係により、第1凝縮器3と第2凝縮器4とへ送られる熱量の比率が決まる。このため、第1凝縮器3の加熱対象と第2凝縮器4の加熱対象を比較し、加熱対象がより熱量を要求するものほど、凝縮器を高い位置に配置することが望ましい。
【0020】
次に、具体的に熱輸送装置1をエンジン10に組み込んだ場合について説明する。図3は、熱輸送装置1を組み込んだエンジン10を示した説明図である。熱輸送装置1の蒸発器2は、エンジン10の本体11から排出される排気が流れる排気管12内に配置されて、排気から熱を回収して作動媒体を加熱する。作動媒体としては例えば水が用いられる。水の沸点は1気圧で100℃であるが、減圧された配管内の水は100℃よりも低い温度で沸騰し蒸気化する。作動媒体としては、水の他にアルコール、フロロカーボン、フロン等を適宜選択することができる。
【0021】
蒸発器2は、作動流体が流れる複数のチューブを備えている。チューブ内を作動媒体が流れ、チューブの外を排気が流れることにより、排気の熱が作動媒体へ伝達されて作動媒体が蒸気化する。
【0022】
第1凝縮器3はエンジン本体11内に設けられている。第1凝縮器3はいわゆるウォータジャケットのようにエンジン本体11内に形成された通路であって、エンジン本体11と作動媒体が熱交換する。エンジン10の冷間始動時に第1凝縮器3内の作動媒体から低温のエンジン本体11へ熱が与えられ、暖機が促進される。ところで、この第1凝縮器3の配置位置はエンジン本体11内に限定されない。第1凝縮器3はエンジン本体11の外部でエンジン冷却水を加熱する構成であってもよい。この構成であれば、エンジン本体11の外部で温められたエンジン冷却水がエンジン本体11に流入した際にエンジン本体11を暖機することができる。
【0023】
第2凝縮器4は空調装置13内に設けられている。第2凝縮器4は、いわゆる一般的に知られているヒータと同様に構成されており、複数のチューブと、チューブと効率よく熱伝導するように接続されたフィンと、が交互に積層されている。空調装置13にはファン14が設けられており、ファン14の回転により引き込まれた空調空気と作動媒体が熱交換することにより、空調空気が温められて、エンジン10が搭載された車両の室内へ暖気が送風される。
【0024】
このエンジン10に組み込まれた熱輸送装置1の冷間始動時では、空調装置13がエンジン本体11より高い熱交換性能を必要とする場合がある。この場合、例えば、空調装置13側の第2凝縮器4をエンジン本体11側の第1凝縮器3よりも上方(高い位置)に配置し、熱分配を調整する。これにより、車両の室内へ早期に暖気を送風することができる。
【0025】
このような熱輸送装置1はエンジン本体11、空調装置13のみならず、トランスミッションやバッテリの暖機その他の蒸気により熱輸送可能なシステムの全てに適用できる。また、蒸発器で蒸気化した作動媒体を用いてタービンを備える廃熱回収機を駆動し、排気から得た熱エネルギーを回収する構成であってもよい。
【0026】
以上のように、複数の凝縮器から戻る凝縮水が蒸発器内で合流するように凝縮水の戻る配管を独立して設けたことと、より熱量を必要とする凝縮器を高所に配置し熱分配を調整することにより、スムーズな熱分配、熱切替が可能な高度の熱輸送システムが形成できる。また、この熱輸送装置1は構造が単純であるため、製造コストが抑制できる。また、車両のみならず様々な分野に利用可能である。
【0027】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【符号の説明】
【0028】
1 熱輸送装置
2 蒸発器
3 第1凝縮器
4 第2凝縮器
5 第1凝縮水管
6 第2凝縮水管
7 蒸気管
10 エンジン
11 エンジン本体
12 排気管
13 空調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動媒体を加熱し蒸気化する蒸発器と、
蒸気化した作動媒体を凝縮する第1凝縮器、及び第2凝縮器と、
前記蒸発器において蒸気化した作動媒体を前記第1凝縮器、及び第2凝縮器へ供給する蒸気管と、
前記第1凝縮器において凝縮した作動媒体を前記蒸発器へ戻す第1凝縮水管と、
前記第2凝縮器において凝縮した作動媒体を前記蒸発器へ戻す第2凝縮水管と、
を備えたことを特徴とする熱輸送装置。
【請求項2】
前記蒸発器が排気から熱を回収し、前記作動媒体を蒸気化する請求項1記載の熱輸送装置が組み込まれたエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−172940(P2012−172940A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37524(P2011−37524)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】