説明

熱量測定によるフラグメントタイプのランク付け

【課題】配位子と標的との組合せについての情報を得るための改良された手法を提供する。
【解決手段】アレイ熱量計を使用する方法であって、アレイ熱量計の二つ以上のセルのセットのそれぞれに対して、各テストおよび基準グループのサンプルを供給する工程と、少なくとも、セルのテストおよび基準グループの第1および第2のサンプルを組み合わせる工程と、セルのテストグループの、第1および第2のサンプルを組み合わせる工程による反応熱についての情報を含む各出力信号を供給する工程と、標的タイプのうちの一つ以上のセットのそれぞれに対して、出力信号を用いて標的タイプと反応するフラグメントタイプをランク付けする工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、配位子と標的との組合せについての情報を、例えば、熱量測定によって得る手法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2では、ナノ熱量計アレイを用いた薬剤発見のための分析法が記載されている。
【特許文献1】米国特許出願公開2003/0186454号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開2003/0186455号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
配位子と標的との組合せについての情報を得るための改良された手法があれば、有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、熱量計または熱量測定を使用して、標的タイプと反応するフラグメントタイプをランク付けする工程を含んでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
用語「標的分子」、または単に「標的」とは、その活動に影響を与えたい対象の化合物を指す言葉である。標的分子が、ペプチド、蛋白質、蛋白質錯体、核酸、リボまたはデオキシリボ核蛋白質などの蛋白質・核酸錯体、またはアミノ酸またはヌクレオチドの少なくとも一つの鎖を有する別のそのような分子である場合は、それは、「標的蛋白質/核酸」である。
【0006】
用語「配位子」とは、標的分子に結合する作用物質を指す言葉である。
【0007】
反応熱は、配位子と標的分子との間の反応を観察することによって得られる情報の一タイプであり、全てのそのようなタイプの情報は、ここで、まとめて「配位子・標的情報」と呼ぶ。
【0008】
配位子・標的情報を得る手法によっては、「フラグメント」を試験することによって得るものもあり、「フラグメント」とは、それ自体では薬剤として適切ではないが、より複雑な薬剤サイズの化合物に含めることができる十分に小さな作用物質を意味する。フラグメントが、このような化合物に適しているかどうかを判定する手法は、「フラグメントに基づくスクリーニング」または「FBS」と呼ばれている。
【0009】
X線結晶学法、NMR法、および他の同様の手法を用いるFBS法で生ずる問題は、配位子・標的情報を得るのが難しいこと、大量の物質の使用すること、およびFBSの結果を得るのに長時間掛かることなどである。
【0010】
図1は、標的タイプと反応するフラグメントタイプをランク付け(順位付け)する熱量測定を示す。熱量計10では、熱電構成要素11が、ボックス12、14、および16内の領域(1)、領域(m)、および領域(M)によるM個の領域のアレイから熱信号を受け取る。ボックス14内には、全ての領域内またはサブセット内に存在し得る追加の細部がある。領域のアレイは、熱量計10内に、熱量計10上に、あるいは熱量計10と別様に熱的に接続されて、存在することができる。
【0011】
領域(m)は、テスト熱信号を供給する領域20および基準熱信号を供給する領域22を含んでいる。領域20内のサンプルは、標的サンプル30およびフラグメントサンプル32を含んでいる。
【0012】
標的サンプル30は、一つ以上のタイプの標的分子を含んでおり、各標的タイプの分子は全て、ほぼ同じ化学構造を有し、これは、それらの化学構造が十分に似ているため、それらが、実質的に同じセットの配位子と反応することを意味する。同様に、フラグメントサンプル32は、一つ以上のタイプのフラグメントを含んでおり、各フラグメントタイプのフラグメントは全て、ほぼ同じ化学構造を有し、これは、それらの化学構造が十分に似ているため、それらが、実質的に同じセットの配位子と反応することを意味する。FBSは、内部的に多種多様な化学構造を有するフラグメントタイプを使用することができ、また、異なる種類の標的タイプと相互作用させることができる。異なる領域内のフラグメントサンプルは、異なる濃度のフラグメントタイプを有することができる。
【0013】
領域20内のグループにおける各サンプルは、約100マイクロリットルを超えない非常に小さなものにすることができ、すなわち、100マイクロリットル、10マイクロリットル、1マイクロリットル、500ナノリットル、250ナノリットル、あるいはさらに小さなものにすることができる。例えば、一方は標的サンプルで、他方はフラグメントサンプルである、ほぼ等しいサイズの二つの小液滴を合体させることができる。
【0014】
領域22では、サンプル34および36は、サンプル30および32と同様である。各グループが、同じ数のサンプルを含む場合は、グループ同士は、「似て」おり、また、各グループ内の各サンプルは、各他のグループ内の対応物であるサンプルに、少なくとも体積が似ている。
【0015】
領域20および22内のサンプルのグループは、同時に組み合わされて、結果として領域20内の合体サンプル40および領域22内の合体サンプル42となり得る。領域22は、組み合わせても反応しない基準サンプルを含んでおり、合体サンプル42内では、いかなる反応も起きない。領域20は、組み合わせると反応するサンプルを含んでおり、反応は、合体サンプル40で、起きることもあり、サンプル32からのフラグメントは、標的サンプル30内の標的分子と、あるいは、その存在下で、反応することができ、また、反応は、エンタルピーを放出することができる。反応は、合体サンプルが混合するにつれて、あるいは成分が拡散するにつれて、起こり得る。
【0016】
合体サンプル40からの熱信号は、放出エンタルピーおよび同相モードの熱事象についての情報に加えて、外因性のノイズソース44からのノイズも含んでいる。基準熱信号は、同相モードの妨害などの、外因性のノイズソース46からのノイズを含み得る。
【0017】
二つのグループのサンプル同士は、組み合わせて、合体サンプル40および42を同時に形成させることができ、結果として、テストおよび基準熱信号は、同じ外来性の熱影響のうちのいくらかを受けることになる。組合せが行なわれる前または後の、グループが存在する時間同士の間に、何らかのオーバーラップがある場合は、サンプル同士は、「並行して組み合せられる」。
【0018】
「外因性のノイズ」は、同相モードソース48からの、互いに等しい両方の合体サンプル40および42からの熱信号成分を含んでいない。したがって、熱電構成要素11は、差分サーキットリ50を備えていて、これは、例えば、ホイートストーンブリッジで実現することができる。差分サーキットリ50は、領域20および22からの熱信号を受け取り、そして、合体サンプル40内で放出されたが、同相モードソース48で相殺されたエンタルピーについての情報を有する差分信号を供給する。差分信号は、外因性のノイズソース44および46および構成要素11内の内因性のノイズソース52からのノイズを含んでいるが、テスト信号と基準信号との差を示している。
【0019】
「ノイズ」は、反応によって放出されたエンタルピーを正確に示す熱信号成分も、同相モードソースから生ずる成分も含んでいない。ノイズは、検出器からの、特性的な熱拡散のための時間より遅い混合および拡散による熱信号ノイズ、あるいは、テストサンプルと基準サンプルの体積との間の体積差分サンプルの形状、サンプルの温度、サンプルの配置、試薬の混合、試薬の拡散、サンプルの蒸発、対流または伝導による熱伝達、または他の同相モード妨害による熱信号ノイズなどの外因性のノイズを含むことができ、大部分の外因性のノイズは、熱ノイズである。ノイズはまた、熱センサで生ずるノイズ、増幅器または他の差分サーキットリ構成要素で生ずるノイズ、アナログ・ディジタル変換などで生ずるノイズなどの内因性ノイズも含むことができ、大部分の内因性ノイズは、電子的なノイズである。
【0020】
セルからのアナログ出力信号は、外因性および内因性のノイズソースからの、例えば約1.0J/L以下の、非常に低いノイズを有することができ、結果として、内因性のノイズは、0.05J/Lまで減らすことができるが、外因性のノイズは、さらに相当高いことが示されている。アナログ出力信号は、非常に敏感なものとすることができ、したがってより小さな濃度が可能となる。10μ℃の範囲で反応温度の測定値が得られた。
【0021】
構成要素11は、領域に対してそれぞれ差分サーキットリ50を有するセルのアレイを含むことができる。構成要素11は、各セルからのアナログ出力信号を供給することができ、セル(m)からのアナログ出力信号は、差分信号である。
【0022】
初期動作は、ボックス70において、アナログ出力信号をディジタル値に変換することができる。アナログ・ディジタル(A/D)変換は、全セルに対して並列に、一度に1セルずつ直列に、または直列および並列動作の何らかの組合せで行なうことができる。ボックス70における動作は、反応熱についての情報を示すディジタル値を提供する。
【0023】
ボックス70における動作を行なうサーキットリは、熱量計10の一部とすることができ、あるいはアナログ出力信号を受信する別個の構成要素内とすることができ、また、他の構成要素、例えばボックス72および74を実現するサーキットリもまた、熱量計10内に存在させることができる。
【0024】
ボックス72における反応解析は、ボックス70からのディジタル値を用いて、フラグメントタイプをランク付けすることができる。反応解析動作は、ボックス74における、標的分子タイプ、フラグメントタイプ、および各領域内のサンプルにおける濃度についての情報を含む各種の他のタイプのデータにアクセスすることができる。
【0025】
ボックス72における反応解析は、与えられた標的タイプと測定可能に反応するフラグメントタイプを識別する動作により、初期スクリーニングの際に行なうことができ、このようなフラグメントタイプは、ここで「ヒット」と呼ぶ場合がある。滴定に基づくスクリーニングでは、ボックス72における反応解析は、フラグメント濃度の、放出されるエンタルピーに対する影響を判定することができ、放出されたエンタルピーを、フラグメント濃度の関数として解析して、標的タイプと測定可能に反応する各フラグメントタイプに対する平衡定数Kdまたは配位子効率を得る、あるいは、例えば、配位子効率または結合強度によるフラグメントタイプのランクオーダリングを得ることができる。
【0026】
ボックス70からのディジタル値は、反応熱および内因性および外因性のノイズを示すノイズ成分についての情報を有する信号成分を含んでいる。ボックス72における反応解析は、ディジタル値、すなわち「逆畳込」からの信号成分を抽出することができる。信号対雑音比が低い場合は、逆畳込は、反応を起こしたフラグメント・標的の組合せ体、そしてもしそうであれば、反応熱の大きさを判定するのに役立つ場合がある。逆畳込時間は、可能な場合は、平行性を増大させることによって、低減することができる。
【0027】
図2の横断面図は、ナノ熱量計、すなわちナノカロリーの範囲の測定ができる熱量計のアレイ内の熱感知セルを示す。アレイは、基板102、フレーム120に支持された多層構造体の一部を含み、各セルは、接点パッドに至る導電性ラインを介して外部サーキットリに接続可能なサーキットリを含んでいる。フレーム120は、電気的に伝導性の物質を含み、かつ、反結合層270が接地できるよう、接地されている。層270は、図2に示すように、アイランド部122の上、あるいはアイランド部122の下にすることができ、あるいは別の反結合構成要素で置き換えることができる。アイランド部122は、熱的に伝導性の金属、例えば、厚さ9μmまたはそれより薄い銅またはアルミニウムを含むことができ、また、アイランド部122は、任意の熱的に伝導性の物質を含むことができ、また、物質の熱伝導性に比例して厚さを調整することによって、所望の伝導率を得ることができる。層270は、アイランド部122の隣接部分間の容量性結合を防ぐために、厚さ10nmの金層であってもよい。層270は、非常に薄いので、熱伝導率が低く、熱分離を維持する。
【0028】
フレーム120はまた、多層構造体に熱的に安定した支持体を提供することもできる。フレーム120は、高い熱慣性を有することができる。
【0029】
バリヤ層271は、初めに、基板102の上側に蒸着させることで、汚染物質および湿度に対する保護および装置性能を向上させることができる。実装の成功例としては、層271は、約300nmの酸化窒化珪素である。次いで、各種他の構成要素および各種の特性を与えるための層を作り出すことができる。
【0030】
層271上には、熱センサ272および液滴マージャ274がある。マージャ274は、電気信号を受信して液滴合体を制御する電極を含むことができる。液滴マージャ信号は、異なる電極において反対極性で受信される高電圧パルスを含むことができる。接点パッドを介して導電性ラインに接続される外部サーキットリは、高電圧パルスの間の増幅器サーキットリに対する保護を行うことができる。
【0031】
図2において、標的蛋白質/核酸または他の標的分子を含有する標的液滴280およびフラグメントを含有するフラグメント液滴282は、マージャ274の上側面に蒸着されている。マージャ274は、ポリマーまたはパッシベーション、絶縁、疎水性または疎油性の上側面、または他の特性を与えることができる他の物質の被覆層を含むことができる。液滴280は、上側面に蒸着することができるが、電極同士の間の間隙上に、第1の電極の真上の液滴280の比率を第2の電極上の比率より大きくして、非対称的に位置決めすることができる。液滴282は、完全に第2の電極上に蒸着することができる。
【0032】
液滴280および282を蒸着して、熱平衡に到達させた後、信号源は、高電圧パルスまたは他の信号を電極に供給して、液滴280を静止液滴282に向かって左方に進ませ、液滴同士を合体させることができる。合体された液滴は、拡散によって混合することができ、また、高電圧パルスは、液滴同士が、合体後より迅速に混合できるように十分に強くできる。混合は、液滴280における標的分子同士の間の反応、および液滴282におけるフラグメント同士の間の反応を開始させる。
【0033】
反応は、熱入力信号を生じ、これは、反応からのエンタルピーを示し、かつ、蒸発、対流、および伝導などの各種のソースからの外因性ノイズも示す。
【0034】
この信号は、マージャ274、層271、基板102、および層270を含む層構造体を介して下方に導かれ、アイランド部122に達する。アイランド部122は、信号を、熱センサ272の下の領域まで横方向に導き、ここで、信号は、層構造体を介して上方に導かれ、センサ272に達する。同時に、別の液滴マージャ上で、基準反応が生じて、同様に、別のアイランド部を介して別の熱センサに達する基準熱信号を供給することができる。測定サーミスタにおける温度の変化は、それらの抵抗を変化させ、その結果、ブリッジを介した電流の検出することになる。ブリッジは、抵抗が基準サーミスタと同じであったとすれば、平衡状態である。電流の大きさは、測定サーミスタと基準サーミスタとの間の温度差を示す。
【0035】
図3は、標的タイプと反応するフラグメントタイプをランク付けすることができるシステム400を示す。システム400は、部分的に自動化された動作を行なう多数の処理構成要素、および可能であれば、全自動化された動作を行なう単一の処理構成要素を含むことができる。
【0036】
システム400は、処理構成要素402、例えば、それぞれモニターおよびキーボードまたは他のユーザインタフェースおよびメモリおよび周辺機器を有し、かつ、バス404または別の適当なネットワークまたは相互接続構造体を介して他の構成要素に接続されている中央処理装置(CPU)を含んでいる。ハードウェアおよびソフトウェアの任意の組合せを含む他のアーキテクチャも使用できる。
【0037】
システム400は、制御入/出力(I/O)構成要素410、メモリ412、アレイI/O414、および外部I/O416を備えており、これらは全て、バス404に接続されており、外部構成要素に直接接続することができる。
【0038】
制御I/O410は、処理構成要素402内のCPUが、アレイ418に信号を供給し、かつ、それから信号を受け取るサーキットリ以外のシステム400の構成要素と通信し、かつ、それらを制御することを可能にするものである。
【0039】
処理構成要素402内におけるCPUは、制御I/O410を介して、自動または部分的に自動の制御を行ない、同じCPUまたは別のCPUは、アレイI/O414を介して、アレイ418から自動または部分的に自動に、アナログ出力信号を得る。インタラクティブな用途では、制御I/O410は、ユーザインタフェースに接続することができる。アレイ位置制御420、すなわち「ロボット」は、アレイ418を支持する構造体を保持し、被覆し、かつ、移動させる装置、および装置を制御するサーキットリを含むことができる。サンプル蒸着制御422は、サンプル貯槽、貯槽からサンプルを供給するための流体装置、および装置を制御するためのサーキットリを含むことができる。環境制御424は、ガスの組成および湿度のレベルおよびタイプ、およびアレイ418の周囲およびその中の温度を含む、アレイ418の周囲の雰囲気を制御するための各種の構造体および装置を含むことができる。
【0040】
アレイI/O414は、処理構成要素402内のCPUが、アレイ418内のサーキットリに電気的に接続することができるサーキットリ構成要素と通信することを可能にする。アレイI/O414は、ブリッジI/Oサーキットリ430およびサンプル合体および混合サーキットリ432に接続されている。サーキットリ432は、液滴マージャ内の電極に、例えば、マルチプレクシングサーキットリを介して測定されているセルの接点パッドに、適切な電圧信号を供給することができる。
【0041】
ブリッジI/Oサーキットリ430は、各セルのブリッジのノードの両端電圧を受信し、かつ、例えば、差分増幅器およびロックイン増幅器によって、それらを比較することができる。サーキットリ430はまた、アレイI/O414が、バス404を介して、処理構成要素402内のCPUにディジタル信号を供給することができるように、アナログ出力信号をディジタル形態に変換するが、この目的のため、サーキットリ430は、ロックイン増幅器または他のアナログ・ディジタル変換サーキットリを、プレコンディショニング構成要素などと共に含むことができる。サーキットリ430はまた、ロックイン増幅器の内部基準電圧源からの正弦波を増幅する駆動およびマルチプレクシングサーキットリを含むことができ、かつ、増幅された正弦波信号を、例えば、接点パッドを介して、各セルのブリッジのノードに供給する。
【0042】
サーキットリ432は、液滴マージャ内の電極に適切な電圧信号を供給することができる。サーキットリ432は、同じマルチプレクシングサーキットリをサーキットリ430として使用して、測定されているセルのパッドに信号を供給することができる。
【0043】
サーキットリ430および432は、多数のセルに対して並列とすることができるか、あるいは各セルにシーケンス接続するマルチプレクシングサーキットリを有することができる。
【0044】
メモリ412は、プログラムメモリ440およびデータメモリ442を含んでいる。メモリ440に記憶されたルーチンは、メインルーチン(複数可)450、負荷および位置サブルーチン452、測定サブルーチン454、およびデータ解析サブルーチン456を含んでおり、これら全ては、単一のルーチンに組み合わせることができる。メモリ442内のデータは、フラグメント・標的(F−T)組合せ体データ460、温度データ461、エンタルピーデータ462、滴定データ464、およびフラグメントランク付けデータ466を含んでいる。
【0045】
処理構成要素402内のCPUは、メインルーチン(複数可)450を実行する際、制御424を介して、環境条件を監視し、かつ、制御することができる。同じまたは別のCPUは、サブルーチン452、454、および456を順に呼び出して、標的タイプと反応するフラグメントタイプに対するデータ466を自動または部分的に自動で得ることができ、その間に、あるいはその後に、メインルーチン(複数可)450のうちのいずれかが、サブルーチン452を呼び出して、アレイ418を支持する構造体を別のシーケンスのために所定の位置から移動させる。
【0046】
サブルーチン452では、CPUは、信号を制御420に供給して、アレイ418を支持する構造体をサンプルの蒸着位置に位置決めすることができる。CPUは、信号を制御422に供給して、例えば、各セルに対して、フラグメントおよび標的サンプル内の、それぞれフラグメントタイプ(複数可)および標的タイプ(複数可)、およびフラグメントおよび標的タイプの濃度を示すデータ460に従って、アレイ418に所望のサンプルを蒸着させ、CPUは、この情報を用いて、アレイ418の、各セルへのサンプルの蒸着を制御することができる。サンプルが所定の位置に存在するかどうか、およびそれらがプレマージされているかどうかをビジュアルまたは自動判定することを可能にするため、画像を取ることができ、その後、調整を行なって、例えば、別のセルへの再蒸着を行なうか、あるいは実験全体をやり直してから、貯槽を別の物質で再充填することができる。
【0047】
満足なサンプルが蒸着されたら、CPUは、再び信号を制御420に供給して、測定の準備をすることができる。アレイ418の画像は、誤動作に関して監視することができ、その場合には、修正措置を取ることができる。
【0048】
サブルーチン454では、CPUは、信号をサーキットリ430に供給して、それにアレイ418内のブリッジを駆動させ、ブリッジを自己加熱させて、サンプル温度が、アレイ418の周囲の制御環境と平衡になる温度まで自己加熱させる。サンプルが、熱平衡に達した後、CPUは、信号を制御420に供給して、測定チャンバ内のアレイ418を位置決めすると共に、電気的接触を維持させることができる。アレイ418は、熱平衡を保証する期間の間、安定状態に保持することができる。信号をサーキットリ430に供給してブリッジを駆動させることによって、測定シーケンスを開始させることができる。
【0049】
測定中、各ブリッジは、差動増幅器内のオフセット電圧を設定することによって、ゼロ状態にすることができる。熱平衡は、サーキットリ430を動作させて、ブリッジの両端電圧を短期間測定することによって確認することができ、ビジュアル観察で、または自動判定で、変化率が閾値レベル以下になったら、熱平衡状態に達したことになる。ゼロ化動作は、サブルーチン454で反復することができる。
【0050】
ゼロ化後、CPUは、自動的に、またはオペレータの操作に応答して、測定期間を開始することができ、その間、ディジタル熱値が、ある時間期間、例えば4〜10分間、サーキットリ430内の一つ以上のロックイン増幅器から連続的に得られる。この期間の間、セルの一列または他のセット内の各ブリッジの不平衡電圧を繰り返し測定して、一連の出力アナログ信号を得、サーキットリ430内の一つ以上のロックイン増幅器または他の構成要素によって、差分を示すディジタル温度値に変換することができる。
【0051】
初期サンプリング期間、例えば30秒後、CPUは、信号をサーキットリ432に供給して、セルの一列または他のセット内のサンプルを並行して合体させ、かつ、混合することができ、各セル内のパッドを介して、液滴移動電圧を加えることができる。過渡電圧は、例えば一時的に休止することによって、放散させることができる。測定期間の残り、例えば2〜8分間の間に得られたディジタル温度値は、各セルのブリッジ内の電圧不平衡に基づく反応中に放出されたエンタルピーを示し、また、各測定された反応に対する時系列のディジタル温度値は、次いで、メモリ412内のデータ461に記憶させて、後で自動または手動解析を行なうか、あるいは直ちに処理構成要素402に供給して、自動的なリアルタイム解析を行なわせることができる。CPUは、例えば各値に定数を掛けることによって、各値をスケーリングして、時系列のスケーリングされたディジタル温度値を生成することができ、この定数は、TCR、増幅器の利得、および他の要因の組合せに基づいたものとすることができる。
【0052】
サブルーチン452は、アレイをローディングチャンバに戻すことができる。画像を手動または自動的に解析して、各セル内のサンプルの両方のペアが、合体し、かつ誤動作が起こらなかったことを確認できる。
【0053】
図4は、システム400による2段スクリーニング方法を示す。ボックス480、482、および484における動作は、「初期スクリーニング」とすることができ、一方、ボックス490、492、および494における動作は、「滴定に基づくスクリーニング」とすることができる。
【0054】
ボックス480における動作は、フラグメントサンプルおよび標的サンプルを蒸着して、アレイ418上に、基準サンプルと共に、フラグメント・標的の組合せ体を生ずる。組合せ体は、例えば、化合物のライブラリまたは他の初期スクリーニング法により、初期スクリーニング用に選択することができる。ボックス480における動作は、オプションとしてマルチプレクシングされたフラグメントまたは標的サンプルを蒸着することができる。この動作は、サブルーチン452を実行することができる。初期スクリーニングのための適切な濃度は、恐らく粗いスクリーンとなる数ミリモルであるが、これは、数ミリモルよりはるかに大きなKdを有するフラグメントタイプは、大きな信号を生じないためである。ボックス480における動作は、初期スクリーニング中は、一般に異なる濃度を使用しないであろう。なぜなら、一つの目的は、複雑な滴定解析を行なうこと無しに反応する組合せ体を識別することだからである。
【0055】
ボックス482における動作は、セル内のサンプルを合体させながら、テスト信号と基準熱信号との間の温度差を測定し、各セルに対して、データ461に記憶される時系列のディジタル温度値を得る。この動作は、ルーチン454を実行することによって、実行することができる。次の動作には、ボックス480および482の複数の反復を行なってから進むことができ、したがって、より多くのデータを解析することができる。
【0056】
ボックス484における動作は、ボックス482からのデータを解析して、ヒット、すなわち、標的タイプと反応したフラグメントタイプを、適切な基準に従って識別する。この動作は、サブルーチン456を実行することができる。初期スクリーニングのセッションは、ボックス480、482、および484の複数の反復を行なって、例えば所望の数のフラグメント・標的の組合せ体が試験され終わるまで、または所望の数のヒットが識別され終わるまで継続する工程を含むことができる。ボックス480で、マルチプレクシングされたサンプルが、蒸着された場合は、ボックス484における動作は、ボックス480、482、および484の追加の反復を開始して、「デマルチプレクシング」することができる。
【0057】
ボックス484における動作は、ある与えられた標的タイプに対して、それと反応するフラグメントタイプのセットを供給するものであり、したがって、フラグメントタイプをランク付けするものである。セット内の識別されたフラグメントタイプは、標的タイプと反応しない他のフラグメントタイプから区別される。
【0058】
ボックス490は、ヒットのセット、例えば、ボックス484において識別された組合せ体に対して、滴定に基づくスクリーニングを開始し、ヒットのセットの一部または全ては、ボックス490に入る破線で示すように、ボックス484からではなく、例えば、X線結晶学法またはNMR法による、別の初期スクリーニング動作によって識別することができ、ボックス484において識別されたヒットは、ボックス484から出る破線で示すように、ボックス490、492、および494におけるような滴定に基づくスクリーニングではなく、例えば、X線結晶学法またはNMR法による、別のより詳細なスクリーニング動作で使用できる。
【0059】
ボックス490における動作は、ヒットのセットのうちの一つ以上に対して、各基準サンプルと共に、フラグメントサンプルおよび標的サンプルをアレイ418上に蒸着する。この動作は、各フラグメントタイプに対して異なる濃度を含むサンプルを蒸着して、後の滴定解析を可能にし、また、ボックス490における動作は、サンプル内のフラグメントまたは標的タイプを一般にマルチプレックシングしないであろう。フラグメントおよび標的タイプに対する濃度は、滴定に基づくスクリーニング用に、例えば、周知の滴定法によって選択することができる。ボックス490における動作は、サブルーチン452を実行することができる。
【0060】
ボックス492における動作は、アレイ418のセル内のサンプルを合体させながら、テスト信号と基準熱信号との間の温度差を測定し、各セルに対して、データ461に記憶された時系列のディジタル温度値を得る。この動作は、ルーチン454を実行することができる。ボックス490および492の反復は、次に進む前に数回行なうことができ、結果として、より多くのデータを解析することができ、また、ボックス490および492の各反復を一様な濃度で、しかし、異なる反復で蒸着される濃度同士の間には差をつけて、実行することも可能であろう。
【0061】
ボックス494における動作は、ボックス492からのデータを解析して、フラグメントタイプをランク付けする。ボックス494内の解析は、滴定解析を含み、これは、サブルーチン456を実行することができる。滴定に基づくスクリーニングのセッションは、ボックス490、492、および494の反復を数回行なうことができ、例えば、所望の数のヒットがさらにランク付けされ終わるまで、またはその標的タイプとの反応が、適切な基準を満足するフラグメントタイプが見つかるまで、継続することができる。
【0062】
ボックス494における動作は、フラグメントタイプをランク付けする別の例であり、ある与えられた標的タイプに対して、フラグメントタイプのセットのそれぞれが、それとどのように反応するかについての識別情報を有している。情報は、例えば、配位子効率または結合強度に従って、Kdまたは配位子効率などの各フラグメントタイプに対する値とすることができ、あるいはフラグメントタイプのランクオーダリングとすることができる。
【0063】
図5は、サブルーチン456を実行する際の動作を示す。この動作は、全自動とすることができ、あるいは解析の際、人間の何らかの関与を伴うことができる。
【0064】
ボックス500は、データ461から得た、反応の時系列のスケーリングされたディジタル温度値にアクセスし、それを用いて対応する時系列のパワー値を得る初期動作を示す。「パワー値」とは、反応中の熱放出または吸収率を示す値を指す。この動作はまた、値を調整して、例えば、測定後に異なるTCR値が発見された場合に有用な、あるいは基準線調整のための、スケーリングを可能にすることもできる。
【0065】
測定中に基準線ドリフトが複雑に生ずる場合があり、例えば熱シフトが小液滴の合体後に生ずる場合があるので、基準線調整は重要である。「熱シフト」とは、テストサンプルと基準サンプルとの間の熱拡散の差による一つの温度から別の温度への基準線の変化であり、測定中、例えば熱拡散に影響する液滴形状の差によって、熱拡散の特性的な時間と共に生ずる。
【0066】
基準線の修正は、合体の前に温度時系列における当てはめ値を曲げて、プレマージ基準線を得ることができ、かつ、基準線の戻り後に当てはめ値を曲げて、ポストリターン基準線を得ることもでき、プレマージおよびポストリターン基準線は共に、線形フィッティングを行なうことによって、成功裡に得ることができた。ポストリターン基準線の当てはめは、次いで、合体時において、その値に等しい定数を引くことによって調整することができ、したがって、プレマージ基準線当てはめおよび調整済みのポストリターン基準線当てはめは、合体時において等しくなる。プレマージおよびポストリターン基準線当てはめは、組み合わせて、各温度時系列値に対して基準線値を含む単一の基準線時系列とすることができる。各基準線時系列値は、次いで、カウンターパートの温度時系列値から引いて、時系列の基準線で修正された温度値を生ずることができる。
【0067】
基準線で修正された温度値は、基準線シフトが起こる場合がある事前の基準線調整で使用することができる。温度値には、液滴内で発生した熱のパルスに対する熱量計の応答に対する熱モデルに基づいて予め計算されたマトリクスを掛け、線形解を求めて、十分に小さなチャンクにおける時間の関数としてのパワー値を得て、迅速な計算を可能にする。液滴内で発生する熱のパルスに対する熱量計の熱応答は、ノイズソースを考慮に入れてモデル化することができ、その結果を用いて、予め計算されたマトリックスを得、これは、基準線調整を行なうデータセットのサイズに従って選ぶことができる。ボックス500における動作は、逆畳込を行なうことができるが、これは、基準線で修正された温度値から信号成分を抽出することができるからである。
【0068】
代わりに、一体化されたヒータを有するアレイ内で、オンサイト測定を行なうことができる。定義された時点から始まって、抵抗性ヒータに電圧を加えることによって、既知量のパワーを導入することができ、かつ、温度が新しい定常状態に変化する際の温度上昇を監視することができる。温度応答の導関数を予め計算されたマトリクスを得るために用いられるインパルス応答のモデルとして、用いることができる。
【0069】
ボックス500の一部として、パルス応答を用いて、時系列のパワー値から時系列の温度値を計算することができる。二つの時系列をプロットし、かつ、表示して、オペレータが、それらの当てはめをチェックし、必要なら、調整を行なうことを可能にすることができる。
【0070】
ボックス502において、反応の時系列のパワー値を用いて、反応の総熱を得ることができる。この動作は、例えば、ボックス500から、系列全体に亘って、あるいは、反応の開始時間と終了時間との間でパワー値の合計を取ることによって、反応の時間に亘ってパワーを積分することができる。
【0071】
ボックス500および502における動作は、多数の反応に対して行なうことができる。この動作は、一度に一つの反応、次いで、次の反応などという具合に行なうことができる。その結果は、各反応に対する総熱値であり、総熱値は、データ462に記憶させることができる。
【0072】
図6は、ボックス480、482、および484(図4)内の、図5と同様のデータ解析を用いる初期スクリーニングを示す。図6の動作は、全自動とすることができ、あるいは人間の何らかの関与を伴うことができる。
【0073】
ボックス550における動作は、テストおよび基準サンプルペアを、アレイ418の多数のセル内に蒸着することによって、ボックス480を実行する。全てのセル内のテストサンプルは全て、適度に高い濃度、すなわち、あまり高くないため常に反応を生ずるが、しかし誤ったネガティブな反応を生ずることは滅多に無いほど十分に高い濃度で、同じ濃度のフラグメントタイプを有することができ、多くのフラグメントタイプでは数ミリモルの濃度で十分である。全てのセル内のテスト標的サンプルは全て、等しい、適度に高い濃度の標的分子タイプを有することができ、装置の感度限度までは、より低い濃度がベターである。
【0074】
ボックス552における動作は、セルのそれぞれに対して測定動作を行ない、各セルの反応に対して時系列の温度値をセーブすることによって、ボックス482における動作を実行する。各反応の温度時系列は、データ461に記憶させることができる。
【0075】
ボックス484における動作は、図6におけるボックス554、560、562、および564によって実行される。ボックス554における動作は、時系列の温度値を用いて、各反応の総熱を得る。ボックス560における動作は、ボックス554からの総熱値に適切な基準を加えて、標的タイプと各フラグメントタイプとの間のフラグメント・標的組合せ体の反応熱が、滴定に基づくスクリーニングまたは他のさらなるスクリーニングを正当化するのに十分かどうかを判定する。十分でない場合には、フラグメントタイプは、ボックス562において廃棄される。しかし、ボックス560において、反応が本当に生じた、と判定された場合は、ボックス564における動作は、見出されたヒットにフラグメントタイプを加え、例えば、フラグメントタイプに対する識別情報を記憶させる。さらなるフラグメントタイプに対して、図6の手法を再び行なって、より多くのヒットを見出すことができ、適切なヒットのセットが見出された場合は、それらに対して、例えばボックス566において滴定を行い、かつ、ボックス568において配位子効率を得ることによって、滴定に基づくスクリーニングを行なうことができる。
【0076】
ボックス552において、与えられたフラグメントタイプに対して与えられた数の反応が測定された場合は、フラグメントタイプに対する判定は、各反応からの総熱に基準を別々に加えて、反応の半分以上が基準を満たしているかどうかに基づいて行うことができる。あるいは、全ての反応に対する平均の、あるいは別様に組み合せられた熱に、基準を加えることができる。基準は、例えば、同じ標的タイプをバッファーサンプルと合体させることによって、完全に評価された対照よりもよいフラグメントタイプを識別することができ、また、基準は、反応の総熱が、対照組合せ体のそれとは相当に異なっているかどうかを判定することができる。
【0077】
図7は、ボックス490、492、および494における滴定に基づくスクリーニングを示す。図7における動作は、全自動とすることができ、あるいは解析の際、人間の何らかの関与を伴うことができる。
【0078】
ボックス600における動作は、テストおよび基準サンプルペアを、アレイ418の多数のセル内に蒸着することによって、ボックス490における動作を実行する。与えられた標的タイプを有するテスト標的サンプルには、それぞれ一つのフラグメントタイプを有するテストフラグメントサンプルを蒸着するが、与えられた標的タイプを蒸着されたテストフラグメントサンプルは、滴定計算に対するデータが得られるよう選択された異なる濃度を有している。
【0079】
ボックス602における動作は、セルのそれぞれに対して測定動作を行ない、各セルの反応に対する時系列の温度値をセーブすることによって、ボックス492における動作を実行する。各反応の温度時系列は、データ461に記憶させることができる。
【0080】
ボックス494における動作は、図7におけるボックス604、606、および608によって実行される。ボックス604における動作は、時系列の温度値を用いて、各反応の総熱を得る。
【0081】
ボックス606における動作は、与えられた標的タイプおよびそれと反応するフラグメントタイプに対して、ボックス604からの総熱を用いて、各フラグメントタイプに対して、Kdなどの平衡定数を得、かつ、各フラグメントタイプのKdを用いて、その配位子効率を得る。それにおいて標的タイプを組み合わせるセルに対するフラグメントタイプおよび濃度は、データ460にアクセスして検索することができる。濃度は、適切な滴定計算の際に、ボックス604からの総熱値に対して使用することができる。滴定計算では、フラグメントタイプに対する平衡定数Kdが得られ、これは、データ464にセーブすることができる。
【0082】
ボックス606における動作は、各フラグメントの配位子効率値を得るために、セーブされたKd値を用いることができる。関係式LE≡(RT(lnKd))/N(ここで、「≡」はnearly equalの意味である)を用いて、各フラグメントタイプに対するKd値から配位子効率値LEを得ることができ、ここで、Rは、ガス定数、Tは、絶対温度、およびNは、フラグメントタイプにおける重原子の数である。ボックス606において得られた配位子効率値は、データ466にセーブすることができる。ボックス606における動作は、フラグメントタイプのランク付けリストをセーブすることができ、これは、LEまたは結合強度を示す他のデータの大きさを比較することによって行なわれる簡単なランクオーダリングとすることができる。
【0083】
ボックス608における動作は、例えば、外部I/O416またはユーザインタフェースを介して、標的タイプに対するフラグメントタイプのランク付けを行なう。ランク付けは、オプションとして、配位子効率およびKd値も含むフラグメントタイプのランクオーダリングされたリストとすることができる。ボックス608からのランク付けは、例えば、可能な試験のため薬化学を用いて組み合わされ、かつ(あるいは)、修正された化合物を選択する際に使用することができ、その際、高度にランク付けされたフラグメントタイプを含む治療学的または診断学的作用物質・化合物が選択できる。フラグメントタイプのランク付けされたリストは、提供し得る各種のランク付けの一つにすぎず、フラグメントタイプの配位子効率値は、それが得られるにつれて、リアルタイムに提供することができるか、あるいは多数のフラグメントタイプに対する配位子効率を、別の適切なデータ構造体で提供することができる。
【0084】
ボックス606および608における動作は、多数の標的タイプに対して繰り返すことができる。各標的タイプのランク付けは、得られる時に、出力として提供することができ、あるいは代わりに、標的タイプのグループのランク付けを、全てが得られた後、出力として提供することができる。
【0085】
図3〜7におけるようなシステムは、例えば、処理構成要素402における多数のプロセッサによって、実行することができる。例えば、ロックイン増幅器からのディジタル温度データは、測定を行なうプロセッサによって外部データベースにロードされて、データ解析を行なうための他のプロセッサによるアクセスを可能にする。生産システムが、僅か1台のプロセッサを有して、測定およびデータ解析の両方を行なう場合もある。プロトタイプの実装では、閉ループ環境制御が、成功裡に行なわれており、他の動作を全自動にすることも実行可能であることが証明されるかもしれない。
【0086】
プロトタイプの実装では、5回以上の測定値を平均して、約0.5J/Lのノイズを有するhsp90を測定した。これは、外因性のノイズを減らすことによって、3倍改善できる、と考えられる。熱センサからの電圧信号の変動による内因性のノイズは、0.05J/Lに低減された。
【0087】
例えば、製薬会社による薬剤発見における、またはFBSにおけるような、可能な用途のため化合物をスクリーニングする際には、フラグメントタイプのランク付けに対する多数の可能な用途が存在する。FBS法は、それぞれ、例えば、150〜250Daのより低い分子量を有する1000化合物のオーダーで、ライブラリを使用することができる。FBS法によっては、X線結晶学またはNMRなどの生物物理学的な手法を用いて、高濃度でスクリーニングを行なうものもある。図1〜7の手法は、フラグメントについての配位子効率情報および他のランク付け情報、X線解析を用いては得られず、またNMRでは得ることが困難な情報を得るのに実行することができる。
【0088】
さらに、上述の手法は、非常に敏感なシステムにおける非常に小さなサンプルに対して熱量測定を行なって、フラグメントタイプを、小さな量の標的物質およびフラグメント物質で、かつ、一般に「マイクロ熱量測定」と呼ばれる手法などのより大きなスケールの手法で可能となる時間よりもはるかにより短い時間で、ランク付けすることを可能にする。より大きなスケールの手法は、例えば、各サンプルが、熱平衡に達するのにより多くの時間を必要とするため、より多くの時間を必要とし、また、各反応は、拡散時間が長いため、より多くの時間を取る。また、より大きなスケールの手法によっては、一試薬(例えば、100〜1000nL)の小さな液滴を、別の試薬(例えば、10μL)の大きな貯槽に滴下するため、濃度問題が生じ、これは今度は、溶剤マッチング問題を生ずる。例えば、小さな液滴がフラグメントを含む場合は、濃度は、非常に高くなり、約200ミリモルの濃度を有するライブラリ化合物を用いる場合は、希釈されていないか、あるいはほんの僅か希釈されたDMSO溶剤を必要とする。しかし、高濃度のDMSOからの混合の熱が、温度測定を圧倒するのを防ぐため、標的は、貯槽内に同じ濃度で存在させて、析出させ、FBSが成功するのを妨げねばならない。
【0089】
また、より大きなスケールの手法の、既知の市販の実装では、上述の非常に敏感な、低ノイズの熱量計は使用されない。ある比較的敏感なシステムは、3μJより低い熱感度、50nWより低いパワー感度、および5nWより低い基準線感度を有し、0.15〜0.3J/Lの推定ノイズレベルに至る計画された仕様を発表したが、上述の手法では、さらに相当大きな感度が達成可能である、と思われる。既知の市販の実装によっては、測定およびその後の減算による以外の同相モードの成分を無くすためのサーキットリも持たないものもある。
【0090】
図1〜7の手法は、X線結晶学およびNMR手法によって相補的に、FBSを行なうよう実行できる。例えば、上述の手法を用いて、X線結晶学用の化合物をプレスクリーンすることができるが、目的とする遊離蛋白質の既存の結晶が無い状況に対して特に有用な場合がある。フラグメントの「ヒット」(これは、より高い配位子効率を有するフラグメントのタイプを意味する)は、共結晶化試験に直接使用することができ、また、化学的な最適化および再試験を加えてから、共結晶化に使用することができる。一般に、上記の手法では、構造的な情報は得られず、これは、X線結晶学またはNMR法から得られるが、上記の手法は、配位子結合サイトを識別するために、競合分析で使用することができる。
【0091】
NMR法は、平衡定数Kdを求めるのに使用することができる場合もあるとはいえ、NMR法によっては、固有の蛋白質サイズ限界を有するものもあり、一方、上記の手法にはそのような限界は無い。適切な場合には、上記の手法を用いて、予備スクリーニングを行なうことができ、次いで、NMR法を用いて、予備スクリーニングを行なうことができ、最後に、X線結晶学法を、他の手法に基づいて選択された低減された数の化合物に対して行なうことができる。
【0092】
上述の手法は、現在の技術を利用して、低減された物質条件で、かつ、高速度でFBSを行なって、例えば、配位子効率を示すデータまたは他の結合定数を得ることにより、フラグメントタイプをランク付けすることができる。手法の感度および速度は、時間と共に向上し続けることが予知できる。現在のシステムの処理能力では、384個のフラグメントタイプの初期スクリーンは、1.5mgより少ない蛋白質を必要とするであろうと推定され、かつ、手法が改善するにつれて、より少ない蛋白質で行なえることが予知できる。10%のヒット率を仮定した場合、確認されたヒットのそれぞれのKdも決定するとすれば、総体的な蛋白質必要量は、初期スクリーン、識別、および滴定に対して、3mgより少ない。例えば、より少量の物質を蒸着してより迅速に混合することができるので、また、より小さな一体化された構造体および計算上の進歩は、より大きな平行度を可能にするので、速度の改善も予知できる。FBSヒットの予想される親和力は、上述のシステムに対する最大の感度の範囲内にある。上で説明したように、上述の手法を用いて得られたKd値は、今度は、ヒットに対する配位子効率を得るのに使用することができる。従来の手法と同様、上述のように行なわれたFBSは、自動化または部分的に自動化されたデータ収集および処理に頼っており、かつ、データ収集および処理の手法も改善されるであろうことが予知できる。
【0093】
図1〜7における実装は、FBSに特に適した各種の手法を示す。これら手法は、低ノイズ熱量計で小さなサンプルに対してフラグメントタイプをランク付けする他の手法に容易に拡張することができる。
【0094】
上述の好適な実装は、特定のナノ熱量計、および特定のやり方で接続され、かつ動作する他の構成要素を有するシステムを使用しているが、異なる熱量計または反応熱を測定するための他の装置、および上述したのとは別様に接続され、かつ動作する他の構成要素を有する、また、上で図示し、かつ、記述したもの以外の各種の他の形状、寸法、または他の数値または定性的な特性を有する各種の他のシステムも使用できる。例えば、上述のサーミスタ物質は、現在適切であるとして知られている多くのものを含んでいるが、新しいサーミスタ物質が開発されること、また、新しい熱感知法が開発されることも予知でき、同様に、他のタイプの液滴マージャまたは他のサンプル組合せ法も使用できる。同様に、上述の信号は、一般に、アナログまたはディジタルいずれかの電気信号であるが、例えば、何らかのタイプの機械的信号を含む各種の他のタイプの信号も使用できる。また、上では、特定のタイプのプロセッサおよび他のシステム構成要素、ソフトウェアおよびデータ構造体に言及しているが、以後開発されるタイプを含む、システム構成要素、ソフトウェアおよびデータ構造体を有する任意のプロセッサが、使用できる。加えて、異なるサンプルサイズに適した、あるいは異なるサンプル組合せ法に適した各種のナノ熱量計寸法が使用できるし、また、各種のタイプのアナログおよびディジタル出力信号および他のタイプの出力信号を、様々な手法で使用して、様々な手法でフラグメントタイプをランク付けすることができる。
【0095】
上記の好適な実装は、一般に、ディジタル温度値の解析、および特定の動作に続く他のスクリーニングおよび解析手法を含んでいるが、異なる動作を行なうこともでき、動作の順序を修正することもでき、また、本発明の範囲内で、追加の動作を加えることもできる。例えば、好適な実装のうち、あるものは、Kdまたは配位子効率などの中間の結果を得て他の結果を得るのに使用する中間の計算を行い、また、他の実装では、そのような中間の計算を省略し、あるいは修正しても、同じまたは同様の結果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】熱量測定を用いて、標的タイプと反応するフラグメントタイプをランク付けする際の動作を示す図である。
【図2】アレイ内の熱感知セルの横断面図である。
【図3】システムの図である。
【図4】標的タイプと反応するフラグメントタイプをランク付けする際の動作を示す図である。
【図5】データ解析における動作を示す図である。
【図6】フラグメントタイプの初期スクリーニングの際の動作を示す図である。
【図7】フラグメントタイプの滴定に基づくスクリーニングの際の動作を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ熱量計を使用する方法であって、
アレイ熱量計の二つ以上のセルのセットのそれぞれに対して、
各テストおよび基準グループのサンプルを供給する工程であって、前記テストグループは、少なくとも、一つ以上の標的タイプの分子を含む各第1のサンプルと、一つ以上のフラグメントタイプのフラグメントを含む各第2のサンプルとを含み、前記第1および第2のサンプルのそれぞれは、約100マイクロリットルを超えず、前記基準グループは、前記テストグループの前記第1および第2のサンプルと同様の各第1および第2のサンプルを含み、
少なくとも、前記セルの前記テストおよび基準グループの前記第1および第2のサンプルを組み合わせる工程と、
前記セルの前記テストグループの、前記第1および第2のサンプルを組み合わせる工程による反応熱についての情報を含む各出力信号を供給する工程と、
前記標的タイプのうちの一つ以上のセットのそれぞれに対して、前記出力信号を用いて、前記標的タイプと反応するフラグメントタイプをランク付けする工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記出力信号を用いてフラグメントタイプをランク付けする前記工程は、
前記標的タイプと測定可能に反応する前記フラグメントタイプのサブセットを識別する工程と、
前記標的タイプと測定可能に反応する前記フラグメントタイプの前記サブセットのそれぞれに対して、平衡定数を得る工程と、
前記標的タイプと測定可能に反応する前記フラグメントタイプの前記サブセットのそれぞれに対して、配位子効率値を得る工程と、
前記標的タイプと測定可能に反応する前記フラグメントタイプの前記サブセットのランクオーダリングを得る工程であって、前記ランクオーダリングは、前記フラグメントタイプの配位子効率に依存する工程と、
のうちの少なくとも一つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記各セルの前記出力信号は、各反応熱および約1.0ジュール/リットル以下の大きさを有する各ノイズ成分についての情報を有する各信号成分を含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−304462(P2008−304462A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148930(P2008−148930)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】