熱鋼板の冷却方法およびその冷却設備
【課題】幅方向における温度分布の均一化を図り、良好な品質の熱鋼板を得ることができる冷却方法およびその冷却設備を提案する。
【解決手段】熱間圧延ラインに配置された冷却設備に熱鋼板Sを導入して、その上面に冷却水を供給することによって該熱鋼板Sを冷却するに当たって、冷却設備の入側から出側に至るまでの全長さのうち、該冷却設備の出側からその上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域で、熱鋼板Sの幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲にわたって冷却水の供給を遮断する。
【解決手段】熱間圧延ラインに配置された冷却設備に熱鋼板Sを導入して、その上面に冷却水を供給することによって該熱鋼板Sを冷却するに当たって、冷却設備の入側から出側に至るまでの全長さのうち、該冷却設備の出側からその上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域で、熱鋼板Sの幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲にわたって冷却水の供給を遮断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延された熱鋼板つき、その上面に冷却水を供給して冷却する方法と、その冷却に用いて好適な冷却設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱鋼板の一つとして例えば、熱延鋼板を製造するには、図1に示すように加熱炉1において所定温度まで加熱されたスラブを、粗圧延機2で圧延して粗バーとなし、次いで、該粗バーを、複数基の圧延スタンドからなる連続熱間仕上圧延機3において所定の厚さになるまで圧延し、さらに、ランアウトテーブルに設置された冷却装置4にてその上面および下面に冷却水を供給して所定の温度まで冷却した後、巻取機5でコイル状に巻き取る工程を経るのが普通である。
【0003】
上記の工程を経て製造される熱鋼板の品質は、とくに冷却設備5による冷却により大きく変化する。通常、熱鋼板をその上面から冷却する冷却設備5においては、ヘッダーに接続された円管状の冷却ノズルから供給(注水)される冷却水によって冷却されるが、熱鋼板の幅端部では、上面から供給された冷却水が流れ落ちるだけでなく、端面からも冷却されるため、幅方向の端部は中央部に比べて温度が低くなる。
【0004】
そして、熱鋼板の幅方向端部における温度が中央部よりも大きく低下すると、端部において硬化、伸びの低下等が起こり材質が悪化する。
【0005】
また、この場合、圧延形状が良好であっても、熱収縮差により、幅方向の端部には引張り方向の塑性歪が生じ、これにより、熱鋼板の幅端部が中央に対して相対的に圧延方向に伸びることとなり、コイルの巻戻し後において幅方向の端部が、図2に示すように、波形状に変形する、いわゆる耳波が発生することがあり、その程度が大きいと、形状を矯正する余計な工程が必要となることから製造コストの上昇が避けられない。
【0006】
そのため、従来は、特許文献1に記載されているように、鋼板の冷却に際して板幅方向の温度分布を一定にするために、該鋼板の幅方向端部の位置にマスキング板を配置してその部位の冷却を弱める方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−263724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、マスキング板を適用した従来の冷却方法では、熱鋼板の幅方向端部における過冷却は抑制されるものの、図3に示すように、その部位の温度が上昇して目標とする温度範囲から外れる場合があることが懸念されている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、熱鋼板の幅方向における温度分布を一定にし、品質劣化につながる耳波を回避することができる冷却方法およびその冷却設備を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、熱間圧延ラインに配置された冷却設備に熱鋼板を導入して、その上面に冷却水を供給することによって冷却する方法において、前記冷却設備の入側からその出側に至るまでの全長さのうち、該冷却設備の出側からその上流1/3〜2/3の長さに相当する領域にて、前記熱鋼板の幅端から幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲にわたって前記冷却水の供給を遮断することを特徴とする熱鋼板の冷却方法である。
【0011】
本発明においては、前記熱鋼板が、巻取温度600℃以下の鋼板を対象とするのが好ましい。
【0012】
また、本発明は、熱間圧延ラインに設置され、搬入口を通して導入された熱鋼板の上面に冷却水を供給することによって該熱鋼板を冷却する冷却設備であって、前記冷却設備が、前記熱鋼板の搬入口を有する前段ゾーン、該熱鋼板の搬出口を有する後段ゾーン、該前段ゾーンと該後段ゾーンとを相互につなぐ少なくとも1つの中段ゾーンに区分された複数の冷却ゾーンからなり、前記冷却ゾーンの全長さのうち、前記後段ゾーンから前記前段ゾーンに向かう1/3〜2/3の長さに相当する領域に、前記熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲を覆い隠してその部位への前記冷却水の供給を遮断する遮蔽板を設けたことを特徴とする熱鋼板の冷却設備である。
【発明の効果】
【0013】
上記のような構成を有する本発明によれば、冷却設備の入側からその出側に至るまでの全長さのうち、該出側から上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域にて、熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲にわたって冷却水の供給を遮断するようにしたため、幅方向における温度分布がほぼ一定になる。
【0014】
また、本発明の熱鋼板の冷却方法によれば、巻取温度600℃以下の鋼板を対象とすることにより、耳波が防止された品質の良好な熱鋼板を得ることができる。
【0015】
また、上記の構成からなる本発明の冷却設備によれば、冷却設備を、前記熱鋼板の搬入口を有する前段ゾーン、該熱鋼板の搬出口を有する後段ゾーン、該前段ゾーンと該後段ゾーンとを相互につなぐ少なくとも1つの中段ゾーンに区分された複数の冷却ゾーンから構成し、該冷却ゾーンの全長さのうち、後段ゾーンから上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域に、前記熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲を覆い隠してその部位への前記冷却水の供給を遮断する遮蔽板を設けたため、幅端部における過冷却が回避され、熱鋼板の幅方向において温度分布の均一化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、熱間圧延ラインを模式的に示した図である。
【図2】図2は、熱鋼板の変形状況を示した図である。
【図3】図3は、熱鋼板の幅方向における温度分布を示した図である。
【図4】図4は、本発明を実施するのに用いて好適な冷却設備を模式的に示した図である。
【図5】図5は、図4のA―A部を示した図である。
【図6】図6は、熱間圧延後の熱鋼板の幅方向における温度分布を示した図である。
【図7】図7は、熱鋼板の温度と冷却時間との関係を示した図である。
【図8】図8は、熱流束と熱鋼板の温度との関係を示した図である。
【図9】図9は、冷却設備内における熱鋼板の温度変化を示した図である。
【図10】図10は、波高さと幅方向最大温度差との関係を示した図である。
【図11】図11は、温度と幅方向端部からの距離との関係を示した図である。
【図12】図12は、遮蔽板の適用領域と最大温度差との関係を示した図である。
【図13】図13は、巻取温度の違いによる幅方向の温度の変動状況を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明をより具体的に説明する。
【0018】
図4は、本発明の冷却方法を実施するのに用いて好適な冷却設備を模式的に示した図であり、図5は、図4のA―A部を示した図である。
【0019】
図4、図5の冷却設備は、上掲図1に示した如き熱間圧延ラインに配置されるものであって、熱鋼板Sの搬入口を有する前段ゾーンF、該熱鋼板Sの搬出口を有する後段ゾーンG、前段ゾーンFと後段ゾーンHとを相互につなぐ中段ゾーンCの3つに区分された冷却ゾーン(各ゾーンの長さは全て等しいものとする)からなるものとして示してある。
【0020】
なお、上記前段ゾーンF、中段ゾーンH、後段ゾーンGは、熱鋼板の鋼種、圧延条件等によってその長さを適宜変更することが可能であり、3つに区分された冷却ゾーンに限定されることはない。
【0021】
図4、5における符号6は、熱鋼板Sを搬送するためのロール、7は、冷却ヘッダー、8は、冷却ヘッダー7に保持された冷却ノズル、そして9は、冷却ゾーンの入側からその出側に至るまでの全長さ(冷却設備の全長さ)のうち、後段ゾーンGの出側(冷却設備の出側)から上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域に設けられた遮蔽板である。
【0022】
上記遮蔽板9は、熱鋼板Sの幅端からその幅方向に沿う50〜150mmの範囲を覆い隠す幅寸法を有しており、これにより、熱鋼板Sの幅端部への冷却水の供給を遮断するようになっている。
【0023】
本発明は、上記のような構成の冷却設備における冷却において、後段ゾーンGから前段ゾーンFが位置する上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域(この場合、後段ゾーンG、あるいは後段ゾーンGおよび中段ゾーンH)で遮蔽板9により熱鋼板Sの幅端から50〜150mmの範囲にわたって冷却水の供給を遮断するようにしたものである。
【0024】
冷却設備内で熱鋼板Sの上面に冷却水を供給すると、該冷却水は、該熱鋼板の幅方向端部へと流れていく一方、該熱鋼板Sは、幅端側からも冷却されるため、その部位の温度は、幅方向の中央部に比べて低くなる傾向にある。
【0025】
これは、図6に示すように、熱間仕上圧延後の熱鋼板の幅方向における温度分布においても同様であり、冷却設備に導入された後は、熱鋼板の幅端部の過冷却がさらに進行することになるからである。
【0026】
また、熱鋼板の温度履歴を図7に、熱鋼板の冷却(水冷)時の表面温度と熱流束との関係を図8にそれぞれ示したように、熱鋼板の表面温度が高い場合、熱流束は小さく、温度の低下も小さい(以下、この状態を「膜沸騰」という)。
【0027】
ところで、熱鋼板の表面温度がある温度以下になった場合、熱流束が急減に増加し、該熱鋼板の温度が急激に低下する(以下、この状態を「遷移沸騰」という)。この変化点の温度(以下、この温度を「遷移沸騰温度」という)は、熱間圧延ラインにおける冷却では500℃程度であることが知られている。
【0028】
熱鋼板の巻取温度が、例えば、550℃とすると、該熱鋼板の幅方向端部のみが遷移沸騰温度、すなわち500℃以下になる場合があり、これが耳波を発生させる主原因になる。
【0029】
ここで、熱鋼板の幅方向端部が遷移沸騰温度以下になるのは、冷却ゾーンの後半部であり、この領域で遮蔽板9を適用して熱鋼板の幅方向端部の過冷却を抑制することがとりわけ有効となる。
【0030】
以下、該遮蔽板9の設置領域を、後段ゾーンGの末端、すなわち、冷却設備の出側から前段ゾーンFが位置する上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域で、かつ、熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲とすることについての根拠を、図9〜図12の調査結果を基に説明する。
【0031】
図9は、熱鋼板Sの幅方向端部を50mmの範囲において覆うべく、幅寸法が50mmになる遮蔽板9を配置して、板厚2.0mm、板幅1000mmになる熱鋼板の冷却を行って温度550℃でコイル状に巻き取った場合の、幅方向端部における温度の変化を、遮蔽板9を適用しない場合、前段ゾーンFにおいて適用した場合、中段ゾーンHにおいて適用した場合、全段において適用した場合、さらに後段ゾーンGにおいて適用した場合(各ゾーンの長さは冷却ゾーンの全長の1/3)のそれぞれについて示したグラフであり、その時の熱鋼板の幅方向端部の温度履歴を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
図9から、何れの条件においても、熱鋼板Sの温度低下は、幅方向中央、端部ともに最初は緩やかであるが、幅方向端部が遷移沸騰温度以下になると、温度が急激に低下することが分かる。
【0034】
ここに、遮蔽板9の適用は、とくに、熱鋼板Sの幅方向端部の温度が遷移沸騰温度以下になる後段ゾーンGとすることが好ましいことが明らかである。
【0035】
また、熱鋼板Sを巻き取る巻取機の入側には、巻取り形状を改善するためにサイドガイドが設置されており、熱鋼板の蛇行が小さくなるため、後段ゾーンGに遮蔽板9を設置することにより、その幅寸法も狭くすることできるという利点もある。
【0036】
次に、熱鋼板Sの幅方向における最大温度差(幅方向の最大温度と最低温度の差)と、コイルの巻き戻し後に発生する耳波高さの関係を調査した結果を図10に示す。
【0037】
幅方向最大温度差が80℃を超えると、熱鋼板の幅方向端部には、引張り方向の塑性歪が生じ、耳波が発生する。従って耳波の発生を防止するには、上記最大温度差を80℃以下にする必要ことが有効であることが分かる。
【0038】
さらに、遮蔽板9の適用領域の違いによる熱鋼板の幅方向における温度分布の変化を図11に、遮蔽板9の適用領域の違いによる幅方向最大温度差の変化を図12に示す。
【0039】
図11において、冷却ゾーンの全域に遮蔽板9を適用した場合(図中(1))、該遮蔽板9が設置された部位の温度が過剰に上昇するため、却って幅方向の温度偏差が大きくなり、しかも、冷却ゾーンの全域に遮蔽板9を配置しなければならないことから設備コストも増大するのが避けられない。
【0040】
また、後段ゾーンGの半分の領域に遮蔽板9を適用した場合(図中(5))には、熱鋼板の幅端における過冷却を充分に抑制することができない。
【0041】
これに対して、冷却ゾーンの全長さの2/3の領域に遮蔽板9を適用した場合(図中(2))、中段ゾーンシHの半分から後段ゾーンGに至るまでの領域に遮蔽板9を適用した場合(図中(3)幅端から40mmの位置で最高温度570℃となり、幅端の温度508℃に対して62℃程度の温度差となる)、さらに、後段ゾーンGのみに遮蔽板9を適用した場合(図中(4))においては、温度偏差が小さくなる傾向にある。
【0042】
以上の知見事実から、本発明では、冷却ゾーンの全長さのうち、後段ゾーンの出側から上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域に遮蔽板9を配置して熱鋼板の幅方向端部において冷却水の供給を遮断するようにしたものである。
【0043】
上記遮蔽板9については、熱鋼板Sの幅端から幅方向中央に向け50〜150mmの範囲を覆うようこととしたが、それは、以下の理由による。
【0044】
すなわち、熱鋼板の通板時においては、該熱鋼板が最大50mm程度蛇行することがあり、このような蛇行が発生しても熱鋼板の幅方向端部を確実に覆うためであり、一方、150mmを超えると、冷却抑制効果により温度の上昇領域が広がり、目標とする温度範囲に収めることができなくなるからである。
【0045】
図13は、厚さ2.0mm、幅1000mmの熱鋼板を冷却設備で冷却(冷却条件:冷却開始温度870℃、搬送速度1000mpm、冷却長120m)するに当たり、該熱鋼板の巻取り温度の変化、遮蔽板9の適用の有無によって、該熱鋼板の幅方向における温度分布がどのように変化するかを調査した結果を示したものである。
【0046】
なお、図13においては、後段ゾーンGに幅50mmの遮蔽板9を配置した冷却した場合である。
【0047】
とくに、遮蔽板9を適用せずに冷却を施した熱鋼板の最大温度差は、80℃よりも大きくなり、耳波の発生が懸念されるが、遮蔽板9を適用して冷却を行った場合(図中(6))には、80℃以下になることが明らかであって、従って対象とする熱鋼板としては、巻取り温度が600℃以下になる熱鋼板を適用するのがとくに好ましいことになる。
【0048】
なお、本発明は、基本的には、冷却長に対するマスキング長さの割合でその効果が決まることになるが、おおよその目安として、冷却設備は、80〜200m程度の長さを有するものを適用することができる。
【0049】
また、熱鋼板としては、厚さ1〜4mm程度のものを用い、搬送速度400〜1500mpmとするのが好適であり、冷却開始温度については、800〜1000℃程度するのがよい。冷却終了温度は、低い程効果が大となるので、より低くする。
【実施例】
【0050】
幅寸法が50mmになる遮蔽板9を、後段ゾーンG(冷却ゾーンの全長さの1/3の長さ)と、後段ゾーンGおよび中段ゾーンH(冷却ゾーンの長さの2/3の長さ)にそれぞれ配置した上掲図4、図5に示したような冷却設備を備えた熱間圧延ラインを使用して、下記の条件のもとに、板厚2.0mm、幅1000mm、引張強度40MPaになる熱延鋼板を圧延し、得られた鋼板の巻取り直前において、その板幅方向の中央部、幅端部(幅端から50mmの位置)の温度を実測するとともに、コイルの巻き戻しの際の耳波の高さ、切捨て量、精整ライン能率についての調査を行った。
【0051】
その結果を、遮蔽板9を設置せずに冷却を行った場合(比較例1)、遮蔽板9を冷却設備の前段ゾーンFに適用して冷却した場合(比較例2)、遮蔽板9を中段ゾーンHに適用して冷却した場合(比較例3)、遮蔽板9を前段ゾーンFから後段ゾーンGに至るまでの全域に適用して冷却した場合(比較例4)の結果とともに表2に示す。
【0052】
条件:
仕上圧延機出側における熱鋼板の搬送速度は、該鋼板の先端部で650mpmとし、その先端部が巻取機に到達してからは順次速度を上げて最高110mpmまで増速した。また、仕上圧延機の出側における熱延鋼板の温度を870℃とし、冷却設備を使って巻取機手前の温度計の指示が550℃となるように冷却した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2より明らかなように、比較例1では、得られた鋼板の幅方向端部は中央部に比べて250℃程度低いうえ、耳波の高さは38mmであった。かかる鋼板においては耳波形状が酷いため、精整ラインでは低速で通さざるを得ず、その能率(稼動能率)は60%に留まった。
【0055】
比較例2では、精整ラインにおいては、通常の速度で通過させることができとくに問題はないものの、鋼板の幅方向端部は、中央部に比べて120℃程度低く、また、耳波の高さは27mmであった。
【0056】
比較例3では、比較例2と同様、精整ラインにおいてはとくに問題なしに通常の速度で通過させることができたが、鋼板の幅方向端部の温度は、中央部に比べ103℃程度低く、耳波の高さは25mmであった。
【0057】
比較例4では、鋼板の幅方向端部の温度が中央部に比べ5℃程度高いにすぎなかったが、幅端部から中央部へ向かう50mmの位置での温度が30℃高く、この部位の温度が品質保証温度範囲から外れたため、コイル単位重さ当たり10%の切捨て量が生じた。
【0058】
これに対して、発明例1(1/3の領域で冷却水遮断)では、鋼板の幅方向端部の温度は、中央部の温度に比べ低かったが、その差は71℃程度であり耳波形状の発生は見られなかった。また、鋼板の幅端から50mmの位置における温度は、中央部の温度よりも3℃程度低いにすぎず、鋼板の全長にわたって品質保証温度範囲内にあることが確認された。
【0059】
また、発明例2では、鋼板の幅方向端部の温度は、中央部に比べ低いものの、その差は、25℃程度と極わずかであり、耳波形状の発生は見られなかった。また、鋼板の幅端から50mmの位置における温度は、中央部の温度よりも11℃程度低いにすぎず、上記発明例1と同様、鋼板の全長にわたって品質保証温度範囲内にあることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、質保証温度範囲内で板幅方向の温度分布の均一化を図ることが可能となり、品質の良好な熱鋼板を安定供給することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 加熱炉
2 粗圧延機
3 連続熱間仕上圧延機
4 冷却設備(冷却帯)
5 巻取機
6 ロール
7 冷却ヘッダー
8 冷却ノズル
9 遮蔽板
F 前段ゾーン
G 後段ゾーン
H 中段ゾーン
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延された熱鋼板つき、その上面に冷却水を供給して冷却する方法と、その冷却に用いて好適な冷却設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱鋼板の一つとして例えば、熱延鋼板を製造するには、図1に示すように加熱炉1において所定温度まで加熱されたスラブを、粗圧延機2で圧延して粗バーとなし、次いで、該粗バーを、複数基の圧延スタンドからなる連続熱間仕上圧延機3において所定の厚さになるまで圧延し、さらに、ランアウトテーブルに設置された冷却装置4にてその上面および下面に冷却水を供給して所定の温度まで冷却した後、巻取機5でコイル状に巻き取る工程を経るのが普通である。
【0003】
上記の工程を経て製造される熱鋼板の品質は、とくに冷却設備5による冷却により大きく変化する。通常、熱鋼板をその上面から冷却する冷却設備5においては、ヘッダーに接続された円管状の冷却ノズルから供給(注水)される冷却水によって冷却されるが、熱鋼板の幅端部では、上面から供給された冷却水が流れ落ちるだけでなく、端面からも冷却されるため、幅方向の端部は中央部に比べて温度が低くなる。
【0004】
そして、熱鋼板の幅方向端部における温度が中央部よりも大きく低下すると、端部において硬化、伸びの低下等が起こり材質が悪化する。
【0005】
また、この場合、圧延形状が良好であっても、熱収縮差により、幅方向の端部には引張り方向の塑性歪が生じ、これにより、熱鋼板の幅端部が中央に対して相対的に圧延方向に伸びることとなり、コイルの巻戻し後において幅方向の端部が、図2に示すように、波形状に変形する、いわゆる耳波が発生することがあり、その程度が大きいと、形状を矯正する余計な工程が必要となることから製造コストの上昇が避けられない。
【0006】
そのため、従来は、特許文献1に記載されているように、鋼板の冷却に際して板幅方向の温度分布を一定にするために、該鋼板の幅方向端部の位置にマスキング板を配置してその部位の冷却を弱める方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−263724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、マスキング板を適用した従来の冷却方法では、熱鋼板の幅方向端部における過冷却は抑制されるものの、図3に示すように、その部位の温度が上昇して目標とする温度範囲から外れる場合があることが懸念されている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、熱鋼板の幅方向における温度分布を一定にし、品質劣化につながる耳波を回避することができる冷却方法およびその冷却設備を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、熱間圧延ラインに配置された冷却設備に熱鋼板を導入して、その上面に冷却水を供給することによって冷却する方法において、前記冷却設備の入側からその出側に至るまでの全長さのうち、該冷却設備の出側からその上流1/3〜2/3の長さに相当する領域にて、前記熱鋼板の幅端から幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲にわたって前記冷却水の供給を遮断することを特徴とする熱鋼板の冷却方法である。
【0011】
本発明においては、前記熱鋼板が、巻取温度600℃以下の鋼板を対象とするのが好ましい。
【0012】
また、本発明は、熱間圧延ラインに設置され、搬入口を通して導入された熱鋼板の上面に冷却水を供給することによって該熱鋼板を冷却する冷却設備であって、前記冷却設備が、前記熱鋼板の搬入口を有する前段ゾーン、該熱鋼板の搬出口を有する後段ゾーン、該前段ゾーンと該後段ゾーンとを相互につなぐ少なくとも1つの中段ゾーンに区分された複数の冷却ゾーンからなり、前記冷却ゾーンの全長さのうち、前記後段ゾーンから前記前段ゾーンに向かう1/3〜2/3の長さに相当する領域に、前記熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲を覆い隠してその部位への前記冷却水の供給を遮断する遮蔽板を設けたことを特徴とする熱鋼板の冷却設備である。
【発明の効果】
【0013】
上記のような構成を有する本発明によれば、冷却設備の入側からその出側に至るまでの全長さのうち、該出側から上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域にて、熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲にわたって冷却水の供給を遮断するようにしたため、幅方向における温度分布がほぼ一定になる。
【0014】
また、本発明の熱鋼板の冷却方法によれば、巻取温度600℃以下の鋼板を対象とすることにより、耳波が防止された品質の良好な熱鋼板を得ることができる。
【0015】
また、上記の構成からなる本発明の冷却設備によれば、冷却設備を、前記熱鋼板の搬入口を有する前段ゾーン、該熱鋼板の搬出口を有する後段ゾーン、該前段ゾーンと該後段ゾーンとを相互につなぐ少なくとも1つの中段ゾーンに区分された複数の冷却ゾーンから構成し、該冷却ゾーンの全長さのうち、後段ゾーンから上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域に、前記熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲を覆い隠してその部位への前記冷却水の供給を遮断する遮蔽板を設けたため、幅端部における過冷却が回避され、熱鋼板の幅方向において温度分布の均一化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、熱間圧延ラインを模式的に示した図である。
【図2】図2は、熱鋼板の変形状況を示した図である。
【図3】図3は、熱鋼板の幅方向における温度分布を示した図である。
【図4】図4は、本発明を実施するのに用いて好適な冷却設備を模式的に示した図である。
【図5】図5は、図4のA―A部を示した図である。
【図6】図6は、熱間圧延後の熱鋼板の幅方向における温度分布を示した図である。
【図7】図7は、熱鋼板の温度と冷却時間との関係を示した図である。
【図8】図8は、熱流束と熱鋼板の温度との関係を示した図である。
【図9】図9は、冷却設備内における熱鋼板の温度変化を示した図である。
【図10】図10は、波高さと幅方向最大温度差との関係を示した図である。
【図11】図11は、温度と幅方向端部からの距離との関係を示した図である。
【図12】図12は、遮蔽板の適用領域と最大温度差との関係を示した図である。
【図13】図13は、巻取温度の違いによる幅方向の温度の変動状況を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明をより具体的に説明する。
【0018】
図4は、本発明の冷却方法を実施するのに用いて好適な冷却設備を模式的に示した図であり、図5は、図4のA―A部を示した図である。
【0019】
図4、図5の冷却設備は、上掲図1に示した如き熱間圧延ラインに配置されるものであって、熱鋼板Sの搬入口を有する前段ゾーンF、該熱鋼板Sの搬出口を有する後段ゾーンG、前段ゾーンFと後段ゾーンHとを相互につなぐ中段ゾーンCの3つに区分された冷却ゾーン(各ゾーンの長さは全て等しいものとする)からなるものとして示してある。
【0020】
なお、上記前段ゾーンF、中段ゾーンH、後段ゾーンGは、熱鋼板の鋼種、圧延条件等によってその長さを適宜変更することが可能であり、3つに区分された冷却ゾーンに限定されることはない。
【0021】
図4、5における符号6は、熱鋼板Sを搬送するためのロール、7は、冷却ヘッダー、8は、冷却ヘッダー7に保持された冷却ノズル、そして9は、冷却ゾーンの入側からその出側に至るまでの全長さ(冷却設備の全長さ)のうち、後段ゾーンGの出側(冷却設備の出側)から上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域に設けられた遮蔽板である。
【0022】
上記遮蔽板9は、熱鋼板Sの幅端からその幅方向に沿う50〜150mmの範囲を覆い隠す幅寸法を有しており、これにより、熱鋼板Sの幅端部への冷却水の供給を遮断するようになっている。
【0023】
本発明は、上記のような構成の冷却設備における冷却において、後段ゾーンGから前段ゾーンFが位置する上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域(この場合、後段ゾーンG、あるいは後段ゾーンGおよび中段ゾーンH)で遮蔽板9により熱鋼板Sの幅端から50〜150mmの範囲にわたって冷却水の供給を遮断するようにしたものである。
【0024】
冷却設備内で熱鋼板Sの上面に冷却水を供給すると、該冷却水は、該熱鋼板の幅方向端部へと流れていく一方、該熱鋼板Sは、幅端側からも冷却されるため、その部位の温度は、幅方向の中央部に比べて低くなる傾向にある。
【0025】
これは、図6に示すように、熱間仕上圧延後の熱鋼板の幅方向における温度分布においても同様であり、冷却設備に導入された後は、熱鋼板の幅端部の過冷却がさらに進行することになるからである。
【0026】
また、熱鋼板の温度履歴を図7に、熱鋼板の冷却(水冷)時の表面温度と熱流束との関係を図8にそれぞれ示したように、熱鋼板の表面温度が高い場合、熱流束は小さく、温度の低下も小さい(以下、この状態を「膜沸騰」という)。
【0027】
ところで、熱鋼板の表面温度がある温度以下になった場合、熱流束が急減に増加し、該熱鋼板の温度が急激に低下する(以下、この状態を「遷移沸騰」という)。この変化点の温度(以下、この温度を「遷移沸騰温度」という)は、熱間圧延ラインにおける冷却では500℃程度であることが知られている。
【0028】
熱鋼板の巻取温度が、例えば、550℃とすると、該熱鋼板の幅方向端部のみが遷移沸騰温度、すなわち500℃以下になる場合があり、これが耳波を発生させる主原因になる。
【0029】
ここで、熱鋼板の幅方向端部が遷移沸騰温度以下になるのは、冷却ゾーンの後半部であり、この領域で遮蔽板9を適用して熱鋼板の幅方向端部の過冷却を抑制することがとりわけ有効となる。
【0030】
以下、該遮蔽板9の設置領域を、後段ゾーンGの末端、すなわち、冷却設備の出側から前段ゾーンFが位置する上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域で、かつ、熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲とすることについての根拠を、図9〜図12の調査結果を基に説明する。
【0031】
図9は、熱鋼板Sの幅方向端部を50mmの範囲において覆うべく、幅寸法が50mmになる遮蔽板9を配置して、板厚2.0mm、板幅1000mmになる熱鋼板の冷却を行って温度550℃でコイル状に巻き取った場合の、幅方向端部における温度の変化を、遮蔽板9を適用しない場合、前段ゾーンFにおいて適用した場合、中段ゾーンHにおいて適用した場合、全段において適用した場合、さらに後段ゾーンGにおいて適用した場合(各ゾーンの長さは冷却ゾーンの全長の1/3)のそれぞれについて示したグラフであり、その時の熱鋼板の幅方向端部の温度履歴を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
図9から、何れの条件においても、熱鋼板Sの温度低下は、幅方向中央、端部ともに最初は緩やかであるが、幅方向端部が遷移沸騰温度以下になると、温度が急激に低下することが分かる。
【0034】
ここに、遮蔽板9の適用は、とくに、熱鋼板Sの幅方向端部の温度が遷移沸騰温度以下になる後段ゾーンGとすることが好ましいことが明らかである。
【0035】
また、熱鋼板Sを巻き取る巻取機の入側には、巻取り形状を改善するためにサイドガイドが設置されており、熱鋼板の蛇行が小さくなるため、後段ゾーンGに遮蔽板9を設置することにより、その幅寸法も狭くすることできるという利点もある。
【0036】
次に、熱鋼板Sの幅方向における最大温度差(幅方向の最大温度と最低温度の差)と、コイルの巻き戻し後に発生する耳波高さの関係を調査した結果を図10に示す。
【0037】
幅方向最大温度差が80℃を超えると、熱鋼板の幅方向端部には、引張り方向の塑性歪が生じ、耳波が発生する。従って耳波の発生を防止するには、上記最大温度差を80℃以下にする必要ことが有効であることが分かる。
【0038】
さらに、遮蔽板9の適用領域の違いによる熱鋼板の幅方向における温度分布の変化を図11に、遮蔽板9の適用領域の違いによる幅方向最大温度差の変化を図12に示す。
【0039】
図11において、冷却ゾーンの全域に遮蔽板9を適用した場合(図中(1))、該遮蔽板9が設置された部位の温度が過剰に上昇するため、却って幅方向の温度偏差が大きくなり、しかも、冷却ゾーンの全域に遮蔽板9を配置しなければならないことから設備コストも増大するのが避けられない。
【0040】
また、後段ゾーンGの半分の領域に遮蔽板9を適用した場合(図中(5))には、熱鋼板の幅端における過冷却を充分に抑制することができない。
【0041】
これに対して、冷却ゾーンの全長さの2/3の領域に遮蔽板9を適用した場合(図中(2))、中段ゾーンシHの半分から後段ゾーンGに至るまでの領域に遮蔽板9を適用した場合(図中(3)幅端から40mmの位置で最高温度570℃となり、幅端の温度508℃に対して62℃程度の温度差となる)、さらに、後段ゾーンGのみに遮蔽板9を適用した場合(図中(4))においては、温度偏差が小さくなる傾向にある。
【0042】
以上の知見事実から、本発明では、冷却ゾーンの全長さのうち、後段ゾーンの出側から上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域に遮蔽板9を配置して熱鋼板の幅方向端部において冷却水の供給を遮断するようにしたものである。
【0043】
上記遮蔽板9については、熱鋼板Sの幅端から幅方向中央に向け50〜150mmの範囲を覆うようこととしたが、それは、以下の理由による。
【0044】
すなわち、熱鋼板の通板時においては、該熱鋼板が最大50mm程度蛇行することがあり、このような蛇行が発生しても熱鋼板の幅方向端部を確実に覆うためであり、一方、150mmを超えると、冷却抑制効果により温度の上昇領域が広がり、目標とする温度範囲に収めることができなくなるからである。
【0045】
図13は、厚さ2.0mm、幅1000mmの熱鋼板を冷却設備で冷却(冷却条件:冷却開始温度870℃、搬送速度1000mpm、冷却長120m)するに当たり、該熱鋼板の巻取り温度の変化、遮蔽板9の適用の有無によって、該熱鋼板の幅方向における温度分布がどのように変化するかを調査した結果を示したものである。
【0046】
なお、図13においては、後段ゾーンGに幅50mmの遮蔽板9を配置した冷却した場合である。
【0047】
とくに、遮蔽板9を適用せずに冷却を施した熱鋼板の最大温度差は、80℃よりも大きくなり、耳波の発生が懸念されるが、遮蔽板9を適用して冷却を行った場合(図中(6))には、80℃以下になることが明らかであって、従って対象とする熱鋼板としては、巻取り温度が600℃以下になる熱鋼板を適用するのがとくに好ましいことになる。
【0048】
なお、本発明は、基本的には、冷却長に対するマスキング長さの割合でその効果が決まることになるが、おおよその目安として、冷却設備は、80〜200m程度の長さを有するものを適用することができる。
【0049】
また、熱鋼板としては、厚さ1〜4mm程度のものを用い、搬送速度400〜1500mpmとするのが好適であり、冷却開始温度については、800〜1000℃程度するのがよい。冷却終了温度は、低い程効果が大となるので、より低くする。
【実施例】
【0050】
幅寸法が50mmになる遮蔽板9を、後段ゾーンG(冷却ゾーンの全長さの1/3の長さ)と、後段ゾーンGおよび中段ゾーンH(冷却ゾーンの長さの2/3の長さ)にそれぞれ配置した上掲図4、図5に示したような冷却設備を備えた熱間圧延ラインを使用して、下記の条件のもとに、板厚2.0mm、幅1000mm、引張強度40MPaになる熱延鋼板を圧延し、得られた鋼板の巻取り直前において、その板幅方向の中央部、幅端部(幅端から50mmの位置)の温度を実測するとともに、コイルの巻き戻しの際の耳波の高さ、切捨て量、精整ライン能率についての調査を行った。
【0051】
その結果を、遮蔽板9を設置せずに冷却を行った場合(比較例1)、遮蔽板9を冷却設備の前段ゾーンFに適用して冷却した場合(比較例2)、遮蔽板9を中段ゾーンHに適用して冷却した場合(比較例3)、遮蔽板9を前段ゾーンFから後段ゾーンGに至るまでの全域に適用して冷却した場合(比較例4)の結果とともに表2に示す。
【0052】
条件:
仕上圧延機出側における熱鋼板の搬送速度は、該鋼板の先端部で650mpmとし、その先端部が巻取機に到達してからは順次速度を上げて最高110mpmまで増速した。また、仕上圧延機の出側における熱延鋼板の温度を870℃とし、冷却設備を使って巻取機手前の温度計の指示が550℃となるように冷却した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2より明らかなように、比較例1では、得られた鋼板の幅方向端部は中央部に比べて250℃程度低いうえ、耳波の高さは38mmであった。かかる鋼板においては耳波形状が酷いため、精整ラインでは低速で通さざるを得ず、その能率(稼動能率)は60%に留まった。
【0055】
比較例2では、精整ラインにおいては、通常の速度で通過させることができとくに問題はないものの、鋼板の幅方向端部は、中央部に比べて120℃程度低く、また、耳波の高さは27mmであった。
【0056】
比較例3では、比較例2と同様、精整ラインにおいてはとくに問題なしに通常の速度で通過させることができたが、鋼板の幅方向端部の温度は、中央部に比べ103℃程度低く、耳波の高さは25mmであった。
【0057】
比較例4では、鋼板の幅方向端部の温度が中央部に比べ5℃程度高いにすぎなかったが、幅端部から中央部へ向かう50mmの位置での温度が30℃高く、この部位の温度が品質保証温度範囲から外れたため、コイル単位重さ当たり10%の切捨て量が生じた。
【0058】
これに対して、発明例1(1/3の領域で冷却水遮断)では、鋼板の幅方向端部の温度は、中央部の温度に比べ低かったが、その差は71℃程度であり耳波形状の発生は見られなかった。また、鋼板の幅端から50mmの位置における温度は、中央部の温度よりも3℃程度低いにすぎず、鋼板の全長にわたって品質保証温度範囲内にあることが確認された。
【0059】
また、発明例2では、鋼板の幅方向端部の温度は、中央部に比べ低いものの、その差は、25℃程度と極わずかであり、耳波形状の発生は見られなかった。また、鋼板の幅端から50mmの位置における温度は、中央部の温度よりも11℃程度低いにすぎず、上記発明例1と同様、鋼板の全長にわたって品質保証温度範囲内にあることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、質保証温度範囲内で板幅方向の温度分布の均一化を図ることが可能となり、品質の良好な熱鋼板を安定供給することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 加熱炉
2 粗圧延機
3 連続熱間仕上圧延機
4 冷却設備(冷却帯)
5 巻取機
6 ロール
7 冷却ヘッダー
8 冷却ノズル
9 遮蔽板
F 前段ゾーン
G 後段ゾーン
H 中段ゾーン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延ラインに配置された冷却設備に熱鋼板を導入して、その上面に冷却水を供給することによって該熱鋼板を冷却する方法において、
前記冷却設備の入側から出側に至るまでの全長さのうち、該冷却設備の出側から上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域にて、前記熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲にわたって前記冷却水の供給を遮断することを特徴とする熱鋼板の冷却方法。
【請求項2】
前記熱鋼板が、巻取温度600度以下の鋼板であることを特徴とする請求項1に記載した熱鋼板の冷却方法。
【請求項3】
熱間圧延ラインに設置され、搬入口を通して導入された熱鋼板の上面に冷却水を供給することによって該熱鋼板を冷却する冷却設備であって、
前記冷却設備が、前記熱鋼板の搬入口を有する前段ゾーン、該熱鋼板の搬出口を有する後段ゾーン、該前段ゾーンと該後段ゾーンとを相互につなぐ少なくとも1つの中段ゾーンに区分された複数の冷却ゾーンからなり、
前記冷却ゾーンの全長さのうち、前記後段ゾーンから前記前段ゾーンが位置する上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域に、前記熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲を覆い隠してその部位への前記冷却水の供給を遮断する遮蔽板を設けたことを特徴とする熱鋼板の冷却設備。
【請求項1】
熱間圧延ラインに配置された冷却設備に熱鋼板を導入して、その上面に冷却水を供給することによって該熱鋼板を冷却する方法において、
前記冷却設備の入側から出側に至るまでの全長さのうち、該冷却設備の出側から上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域にて、前記熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲にわたって前記冷却水の供給を遮断することを特徴とする熱鋼板の冷却方法。
【請求項2】
前記熱鋼板が、巻取温度600度以下の鋼板であることを特徴とする請求項1に記載した熱鋼板の冷却方法。
【請求項3】
熱間圧延ラインに設置され、搬入口を通して導入された熱鋼板の上面に冷却水を供給することによって該熱鋼板を冷却する冷却設備であって、
前記冷却設備が、前記熱鋼板の搬入口を有する前段ゾーン、該熱鋼板の搬出口を有する後段ゾーン、該前段ゾーンと該後段ゾーンとを相互につなぐ少なくとも1つの中段ゾーンに区分された複数の冷却ゾーンからなり、
前記冷却ゾーンの全長さのうち、前記後段ゾーンから前記前段ゾーンが位置する上流側1/3〜2/3の長さに相当する領域に、前記熱鋼板の幅端からその幅方向中央に向かう50〜150mmの範囲を覆い隠してその部位への前記冷却水の供給を遮断する遮蔽板を設けたことを特徴とする熱鋼板の冷却設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−103236(P2013−103236A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247313(P2011−247313)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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