説明

熱間ブロー成形用成形材

【課題】熱間ブロー成形により、メス型金型によって成形されると同時に、その内部に中空部を確実に形成する中空一体成形品を製造する。
【解決手段】二枚の超塑性金属板の上板7、下板8を積層して、内部に非接合部9を形成するようにその周縁部10を封止した上で、摩擦撹拌接合により一体に線接合して形成する接合部11により非接合部9を区画し、各々の非接合部9内に連通する孔12を上板7に穿設してなる熱間ブロー成形用成形材6を熱間ブロー成形することで、該成形材は高圧不活性ガスによりメス型金型に押し付けられて成形されると同時に、該上板の孔より非接合部に吹き込む高圧不活性ガスの圧力で非接合部は膨張し、上板は膨出して中空部を形成し中空一体成形品となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば、自動車等のボディシートインナー材とレインフォース、又はインナー材とアウター材等のように内部に中空部を形成する中空一体成形品の熱間ブロー成形による製造において使用する成形材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等のボディシートインナー材やアウター材等は剛性を確保するために、別工程で作製したレインフォースやインナー材等を内部に中空部を形成するように接合して中空一体成形品としている。ところが、前記ボディシートインナー材やアウター材パネル材に対して接合するレインフォースやインナー材を別工程で作製することは複数の作業工程と金型が必要となる上、更に両者を成形した後の接合は部材の変形や損傷の防止等の面から取り扱いが煩雑であり作業性が低下するため、製造コストの上昇を招来するものである。
【0003】
そのため、予め成形材を、3枚の超塑性金属板を積層して、各超塑性金属板の周縁部間を接合して接合部を形成し、かつ内部においては、一方の外面側の超塑性金属板と中間の超塑性金属板との間の溶融溶接による接合部及び非接合部と、他方の外面側の超塑性金属板と中間の超塑性金属板との間との圧着による接合部および非接合部とが互い違いに位置するようにして3層構造の積層板とし、該積層板を上金型及び下金型との間に配置して超塑性温度域まで加熱した上で、加圧気体を非接合部内に導入して非接合部内の空間を膨張させるとともに、前記上金型及び下金型によってブロー成形と同時に内部に中空部を形成してなる中空一体成形品の製造が提案されている(特許文献1参照)。その結果、中空一体成形品の製造において、部材の変形や損傷の防止等の面から取り扱いが煩雑となり作業性が低下する部材成形後の接合工程を省略することができるものとなる。
【0004】
しかしながら、上記中空一体成形品の製造においては、上金型及び下金型の複数の金型が必要であるので製造コストの上昇を避けることはできない。そして、積層板を構成する超塑性金属板間で接合部を圧着により形成するものであるが接合部の強度が低いため、ブロー成形に際して容易に破断が起こりうるものである。そのため、接合部の形成に溶融接合を用いても、接合部での強度は向上するが、接合部では溶融接合時の熱により変形が生じ易く、新たに接合部の変形を修正する作業工程が必要となる。そこで、該接合部の形成に摩擦撹拌接合を用いることも考えられるが、超塑性金属板は薄いので接合部ではキッシングボンドが発生し易く確実に接合できないことがあり、熱間ブロー成形中に接合部での破断が発生するおそれがある。そして、接合部ではばりが発生し易く、接合部の表面を平滑にする必要もある。
【特許文献1】特開2000−33431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、熱間ブロー成形により中空一体成形品を製造する際に、成形をメス型金型だけで行い、平滑な接合部の形成とともに、メス型金型による成形と同時に接合部の強度を確保してその内部に中空部を確実に形成できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、オス型金型より内部に吸入した高圧ガスを超塑性温度域まで加熱した成形材に吹き付け、高圧ガスの圧力で該成形材を挟んでオス型金型側の反対に配置するメス型金型に押し付けて成形する熱間ブロー成形において使用するものであって、
本願発明は、第1の特徴として、熱間ブロー成形用成形材を、複数の超塑性金属板を積層し、内部に密閉した非接合部を形成するように周縁部を封止した上で、積層する超塑性金属板同士を摩擦撹拌接合により一体に線接合して形成する接合部によって非接合部を区画するとともに、一面側の超塑性金属板に、接合部により区画された各々の非接合部内に連通する孔を穿設するものである。
【0007】
そのため、熱間ブロー成形用成形材の一面側の超塑性金属板に向かって高圧ガスを吹き付けることで、成形材は高圧ガスの圧力によりメス型金型側に変形し、メス型金型に押し付けられて成形されるものである。従って、本願発明の熱間ブロー成形用成形材の成形にはオス型金型は不要となる。そして、該熱間ブロー成形用成形材のメス型金型による成形と同時に、成形材内部に形成される各々の非接合部内に連通する一面側の超塑性金属板に穿設された孔から強固に接合されている接合部により区画されている非接合部内に高圧ガスが吹き込み、この高圧ガスの圧力により非接合部は膨張するので、該超塑性金属板はメス金型側とは反対に膨出して中空部を形成するものとなる。
なお、本願発明の熱間ブロー成形用成形材の超塑性金属板の超塑性金属としては、超塑性特性を示すチタン合金系、又はステンレス鋼系合金の他、Al合金、例えばAl−Zn系、Al−Mg系、Al−Mg−Mn系、Al−Zn−Mg系、Al−Zn−Mg−Cu系、Al−Cu系、Al−Li系、Al−Mg−Si系、Al−Si系等が挙げられ、特に超塑性金属としてAl合金を用いる場合には、JIS 5083アルミニウム合金板が好ましいものである。
また、内部に吸入される高圧ガスは、熱間ブロー成形用成形材の変質や火災を防止するため、例えばアルゴンや窒素等の不活性ガスが好ましいものである。
【0008】
更に、上記第1の特徴を踏まえて第2の特徴は、上記一面側の超塑性金属板に穿設する孔の総断面積に対する熱間ブロー成形に使用されるメス型金型の開口部の面積比を20以上、100000以下とするものである。
【0009】
そのため、高圧ガスを熱間ブロー成形用成形材に吹き付けると、高圧ガスは該熱間ブロー成形用成形材をメス型金型側に変形させるとともに、メス型金型に押し付けて成形する。これと同時に、高圧ガスは、熱間ブロー成形用成形材を構成する一面側の超塑性金属板に穿設する孔から熱間ブロー成形用成形材内部の非接合部に円滑に吹き込んで、非接合部を膨張させるので、該超塑性金属板は膨出して中空部を一体に形成するものとなる。
ここで、各々の非接合部に連通する孔の総断面積に対するメス型金型の開口部の面積が20未満であると、孔の総断面積がメス金型開口部の面積、即ちメス金型により変形する他面側の超塑性金属板部分に対して大きくなるので、孔を穿設するためのコストが上昇するものとなる。また、各々の非接合部に連通する孔の断面積に対するメス型金型の開口部の面積が100000より大であると、孔の総断面積がメス金型開口部の面積、即ちメス金型により変形する他面側の超塑性金属板部分に対して非常に小さくなるので、高圧ガスは孔より成形材内の非接合部に円滑に吹き込むことができず、熱間ブロー成形用成形材内の非接合部は膨張することなく中空部を形成せずに該熱間ブロー成形用成形材全体がメス金型に押し付けられて成形されるものとなる。そこで、各々の非接合部に連通する孔の総断面積に対するメス型金型の開口部の面積比は100以上50000以下とすることが好ましいものである。
【0010】
そして、上記第1及び2の特徴を踏まえて第3の特徴は、上記超塑性金属板の非接合部を区画する接合部を形成する摩擦撹拌接合において、ツールの回転数(rpm)/ツールの送り速度(mm/min.)の値を3.5以上50以下とするものである。
【0011】
そのため、摩擦撹拌接合により形成される接合部は、ツールの回転数(rpm)/ツールの送り速度(mm/min.)の値を3.5以上50以下とすることで、ばり等が発生することなく平滑な表面を形成するとともに、接合部内部ではキッシングボンドの発生は抑制され、熱間ブロー成形用成形材を構成する積層した超塑性金属板同士を強固に接合することができる。
ここで、前記ツールの回転数(rpm)/ツールの送り速度(mm/min.)の値が3.5未満であると、摩擦撹拌接合に際しての撹拌量が少なく、酸化被膜を十分に分断することができないためキッシングボンドが発生し易く、ブロー成形中に圧力が掛かると破断を起こすおそれがある。また前記ツールの回転数(rpm)/ツールの送り速度(mm/min.)の値が50より大となると、接合部にばりが生じ易く、このばり除去のために作業性が低下するおそれがある。そこで、前記ツールの回転数(rpm)/ツールの送り速度(mm/min.)の値は5以上30以下とすることが好ましいものである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の熱間ブロー成形用成形材により、一つのメス型金型で成形が可能になるともに、この成形と同時に内部に確実に中空部を形成することができるので、作業性を向上させながら中空一体成形品の製造コストを低減させることができる優れた効果を有するものである。
【0013】
以下において、本願発明の実施例について説明する。
なお、この実施例は、本願発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これにより本願発明が制限されるものでない。
【実施例1】
【0014】
まず、図1に示す1は本願発明の後述する熱間ブロー成形用成形材6(以下、「成形材6」とする。)を後述する中空一体成形品13に成形する熱間ブロー成形機であり、該熱間ブロー成形機1は、外部より供給された高圧不活性ガスを後述の成形材5に対して吹き付ける吹出口3を有するオス型金型2と、高圧不活性ガスにより押し付けられた成形材6の成形を行う断面台形形状のメス型金型4から構成される。そのため、成形材6を成形するにあたっては、前記オス型金型2とメス型金型3との間に成形材6を挟持して加熱した上で、オス型金型2より内部に供給された高圧不活性ガスを吹出口3から成形材6に吹き付け、その圧力で該成形材6を変形させてメス型金型4の開口部5を通してメス型金型4に押し付けて成形を行うものである。なお、該オス型金型2及びメス型金型4のいずれにおいても成形材6を超塑性温度域まで加熱できるようにヒーター(図示せず)を内蔵するものである。その上、本願発明の成形材6はメス型金型4によってのみ成形されるので、熱間ブロー成形機1を構成するオス型金型2は成形材6の成形に必要とされない。
【0015】
また、図2に示すのは、本願発明の成形材5である。この成形材6は、二枚の超塑性金属板7、8を積層し(以下、オス型金型2側を上、メス型金型4側を下とし、そのため二枚の超塑性金属板7、8のうち、オス型金型2側の超塑性金属板7を「上板7」、メス型金型4側の超塑性金属板8を「下板8」とする。)、内部に密閉した非接合部9を形成するように周縁部10を、例えば変形させることで圧着し封止してなるものである。その上、積層する上板7と下板8とを摩擦撹拌接合により一体に線接合して形成する接合部11により非接合部9を区画するとともに、上板7に、前記接合部11によって区画された各々の非接合部9内に連通する孔12を穿設してなるものである。
【0016】
そして、図3において示す13は、本願発明の成形材6を熱間ブロー成形機1によって熱間ブロー成形することによって製造される中空一体成形品である。該中空一体成形品13は、高圧不活性ガスにより成形材6がメス金型4に押し付けられることで断面台形形状に成形される同時に、上板7に穿設された孔12を通して上板7と下板8との間に形成された非接合部9に吹き込む前記高圧不活性ガスの圧力で各々膨張し、上板7は下板8と接合部11を介して固定されたまま膨出して断面波状の中空部14を形成するものである。
【0017】
そこで、本願発明の成形材6について、その効果を確認するために熱間ブロー成形による中空一体成形品13を製造する試験を行った。
まず、本願発明の成形材6には、上板7として板厚2mmのJIS 5083−H18のアルミニウム合金板を、下板8として板厚1mmのJIS 5083−H18のアルミニウム合金板を各々400mm角に切断して使用した。そして、積層した上板7と下板8との周縁部10を変形させることで圧着して封止した上で、上板7と下板8との間に非接合部9を形成し、該非接合部9を区画する接合部11を摩擦撹拌接合により形成した。この摩擦撹拌接合は、使用するツールのピンの高さが2.4(mm)であり、ツールの回転数を350〜3000(rpm)、ツールの送り速度を40〜500(mm/min.)とし、条件を適宜変化させながら行った。更に、上板7においては、該接合部11により区画された非接合部9内に連通する直径1〜80(mm)の孔12を穿設して成形材6とした。そこで、前記成形材6について、深さが30mm、その開口部4の縦×横が300×300mmの断面台形形状のメス型金型3を用い、メス型金型3の温度を500℃、高圧不活性ガスのガス圧を1MPa、及び成形時間10分間という条件下、熱間ブロー成形機1内で熱間ブロー成形を行い中空一体成形品13の製造を行った。
その結果、表1の実施例1乃至13で示すように、製造された中空一体成形品13は、ばりの発生はなく完全に成形されており、その内部はブロー成形に際して接合部10が破断することなく中空部13が形成されていた。以上より、本願発明の効果は確認された。
【0018】
一方、比較例では、表1で示すように、成形材6の上板7に穿設する孔12の直径を0.5mm又は10mmとし、摩擦撹拌接合に際してのツールの回転数を350〜3000(rpm)、ツールの送り速度を1〜60(mm/min.)とし、その他の条件は実施例1に準じるものとした。その上で実施例と同様にブロー成形機1内で熱間ブロー成形を行い中空一体成形品13の製造を試みた。その結果、比較例1では中空部14は形成されず、比較例2乃至5では接合部10で破断が発生し、そして比較例6ではばりの発生が激しく、満足な中空一体成形品13を得ることはできなかった。
【0019】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本願発明は、熱間ブロー成形による中空一体成形品の製造において広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本願発明の熱間ブロー成形用成形材を成形する熱間ブロー成形機の構成を示す模式図である。
【図2】本願発明の熱間ブロー成形用成形材の、(イ)は平面図、(ロ)は底面図、及び(ハ)は(イ)のA−A断面拡大図である。
【図3】本願発明の熱間ブロー成形用成形材から中空一体成形品へ至る製造工程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0022】
1 熱間ブロー成形機
2 オス型金型
3 吹出口
4 メス型金型
5 (メス型金型の)開口部
6 熱間ブロー成形用成形材
7 上板(超塑性金属板)
8 下板(超塑性金属板)
9 非接合部
10 周縁部
11 接合部
12 孔
13 中空一体成形品
14 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超塑性金属板を積層し、内部に密閉した非接合部を形成するように周縁部を封止した上で、積層する超塑性金属板同士を摩擦撹拌接合により一体に線接合して形成する接合部によって非接合部を区画するとともに、一面側の超塑性金属板に、接合部により区画された各々の非接合部内に連通する孔を穿設していることを特徴とする熱間ブロー成形用成形材。
【請求項2】
上記一面側の超塑性金属板に穿設する孔の総断面積に対する熱間ブロー成形に使用されるメス型金型の開口部の面積比を20以上、100000以下とすることを特徴とする請求項1記載の熱間ブロー成形用成形材。
【請求項3】
上記成形材内部に形成される非接合部を区画する接合部を形成する積層した超塑性金属板同士の摩擦撹拌接合において、ツールの回転数(rpm)/ツールの送り速度(mm/min.)の値を3.5以上、50以下とすることを特徴とする請求項1又は2記載の熱間ブロー成形用成形材。
【請求項4】
上記超塑性金属板において、JIS 5083Al合金板とすることを特徴とする請求項1乃至3記載の熱間ブロー成形用成形材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−28761(P2009−28761A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196205(P2007−196205)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】