説明

熱電変換材料、及び熱電変換材料の製造方法

【課題】緻密性が良好でかつ低コストで量産性に優れたハーフホイスラー化合物を主成分とする熱電変換材料、及びその製造方法を実現する。
【解決手段】一般式XYZ(ただし、X、Y、Zは、それぞれ少なくとも一種の金属元素を示す。)で表される金属間化合物を主成分とし、酸化ホウ素、酸化ケイ素、及びCaやBa等のアルカリ土類金属酸化物を含有したガラス成分が、15vol%未満(0vol%を含まず。)の範囲で含まれている。また、主成分にガラス成分が添加された混合粉末からなる成形体を主成分と同一組成の合金粉末中に埋め込み、常圧で焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料、及び熱電変換材料の製造方法に関し、より詳しくはハーフホイスラー型の金属間化合物を主成分とした熱電変換材料、及び熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における資源エネルギー問題や地球温暖化等の環境問題に対応すべく、熱エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換する熱電変換材料の実現が要請されている。
【0003】
従来より、この種の熱電変換材料としては、ゼーベック効果を利用したものが広く知られている。このゼーベック効果とは、物質の両端に温度差を設けた場合、その両端には温度差に応じた電圧が生じるという現象をいい、熱電変換材料の熱電特性は、数式(1)に示す出力因子Pで評価することができる。
【0004】
P=S/ρ …(1)
Sはゼーベック係数、ρは抵抗率である。
【0005】
上記熱電変換材料には、正のゼーベック係数を有するp型熱電変換材料と負のゼーベック係数を有するn型熱電変換材料があるが、電流が流れやすくなると抵抗率ρが小さくなり、電圧が大きくなるとゼーベック係数Sの絶対値も大きくなることから、数式(1)より出力因子Pが大きいほど、熱電特性は向上することになる。
【0006】
ゼーベック係数Sの絶対値が大きい熱電変換材料としては、一般式XYZ(ただし、X、Y、Zは、それぞれ少なくとも一種の金属元素を示す。)で表されるハーフホイスラー型金属間化合物(以下、「ハーフホイスラー化合物」という。)が知られている。このハーフホイスラー化合物は、金属元素Xと金属元素Zとで構成されるNaCl型結晶格子に金属元素Yが挿入された立方晶系の結晶構造を有する。
【0007】
そして、特許文献1には、組成式:(Tia1Zrb1Hfc1NiSn100−x−y(ただし、0<a1<1、0<b1<1、0<c1<1、a1+b1+c1=1、30≦x≦35、30≦y≦35)で表わされ、MgAgAs型結晶構造を有するハーフホイスラー化合物相を主相とする熱電変換材料が提案されている。
【0008】
この特許文献1では、合金粉末をホットプレス焼結法や放電プラズマ焼結法等の加圧焼結法により焼結させ、これにより最終製品であるバルク状の熱電変換材料を得ている。すなわち、加圧せずに常圧で焼結させると、微量の酸素で表面が酸化したり、金属元素が揮発し、このため熱電特性の低下を招くおそれがある。例えば、ハーフホイスラー化合物を使用した熱電変換材料では、Zサイトの金属元素としてSnやSbの使用されることが多いが、常圧焼結法では、これらSnやSbが特に揮発しやすい。また、加圧焼結法は、一般に、常圧焼結法に比べて緻密性が良好で、出力因子Pの大きな熱電変換材料を得ることができると考えられている。このため、従来の熱電変換材料は、特許文献1のように、加圧焼結法により熱電変換材料を作製している。
【0009】
【特許文献1】特開2004−356607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の熱電変換材料は、上述したように加圧焼結法により作製されているため、生産性に劣り、コスト高を招くという問題点があった。例えば、ホットプレス焼結法の場合、粉体を加圧しながら熱を加える必要があるため、高価で大規模な加圧装置が必要となる。また、放電プラズマ焼結法の場合、加圧・真空下で通電させながら放電プラズマを発生させているため、比較的短時間で均質高品位の焼結体を得ることが可能であるが、加圧・真空装置が必要になる他、放電プラズマを発生させる装置も必要となり、生産性が悪く、設備費も高くつくという問題点があった。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、緻密性が良好でかつ低コストで量産性に優れたハーフホイスラー化合物を主成分とする熱電変換材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述したハーフホイスラー化合物からなる熱電変換材料を加圧焼結法ではなく、常圧焼結法で行うことができれば、高価な設備が不要となり低コストで大量生産することが可能となる。
【0013】
しかしながら、〔背景技術〕の項にも記載したように、一般に、常圧焼結法は、加圧焼結法に比べて緻密性に劣り、焼結性が低い。
【0014】
そこで、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、特定のガラス成分を15vol%未満(0vol%を含まず。)の範囲で含ませることにより、異相が生成されることもなく、所望の液相焼結を行うことができ、これにより加圧焼結しなくとも、緻密性が良好で十分に実用価値のある熱電変換材料を得ることができるという知見を得た。
【0015】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る熱電変換材料は、一般式XYZ(ただし、X、Y、Zは、それぞれ少なくとも一種の金属元素を示す。)で表される金属間化合物を主成分とし、酸化ホウ素、酸化ケイ素、及びアルカリ土類金属酸化物を含有したガラス成分が、15vol%未満(0vol%を含まず。)の範囲で含まれていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の熱電変換材料は、前記アルカリ土類金属が、Ca及びBaのうちの少なくともいずれか一方を含むことを特徴としている。
【0017】
また、本発明の熱電変換材料は、前記金属間化合物が、少なくともTi、Ni、Snを含むことを特徴としている。
【0018】
また、本発明の熱電変換材料は、前記Snの一部が、Sbで置換されていることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の熱電変換材料は、前記Tiの一部が、Zr及びHfのうちの少なくともいずれか一方の元素で置換されていることを特徴としている。
【0020】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法は、複数種の金属粉末を出発原料として一般式XYZ(ただし、X、Y、Zは、それぞれ少なくとも一種の金属元素を示す。)で表される金属間化合物からなる合金粉末を作製し、さらに、酸化ホウ素、酸化ケイ素、及びアルカリ土類金属酸化物を含有したガラス成分が15vol%未満(0vol%を含まず。)となるように、前記合金粉末に前記ガラス成分を混合して混合粉末を作製し、次いで該混合粉末を成形して成形体を作製し、その後、前記合金粉末中に前記成形体を埋め込んだ状態で焼成処理を行ない、熱電変換材料を作製することを特徴としている。
【0021】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法は、前記焼成処理を常圧で行なうことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の熱電変換材料によれば、一般式XYZ(ただし、X、Y、Zは、それぞれ少なくとも一種の金属元素を示す。)で表される金属間化合物を主成分とし、酸化ホウ素、酸化ケイ素、及びCa、Ba等のアルカリ土類金属酸化物を含有したガラス成分が、15vol%未満(0vol%を含まず。)の範囲で含まれているので、ガラス軟化点の低いガラス成分を主成分に所定量添加することにより、異相が生成されることもなく、液相焼結を行うことが可能となる。
【0023】
しかも、酸化ホウ素、酸化ケイ素、及びアルカリ土類金属酸化物を含有したガラス成分は、前記金属間化合物に対して濡れ性が良好であり、異相の生成を抑制しつつ液相焼結を行うことができる。したがって、焼結性が向上し、緻密で所望の熱電特性を有する熱電変換材料を得ることができる。
【0024】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法によれば、合金粉末中に成形体を埋め込み、焼成処理を行なうので、焼結体表面の酸化や金属元素の揮発が抑制され、低コストで熱電特性の良好な熱電変換材料を容易に製造することができる。
【0025】
また、前記焼成処理を常圧で行なうので、ホットプレス焼結法や放電プラズマ焼結法のような加圧焼結法とは異なり、製造工程が簡素化され、高価な製造設備が不要となり、低コストで量産に適した生産性に優れた熱電変換材料の製造方法を実現できる。
【0026】
また、前記金属間化合物は、少なくともSnを含有し、さらには前記Snの一部をSbで置換するので、金属元素としてSnやSbを含有していても、これらSnやSbが揮発してしまうのを抑制することができる。すなわち、SnやSbは、通常、常圧で焼成すると、揮発して消散してしまい、このため熱電特性の低下を招くおそれがある。しかしながら、本発明のように成形体を合金粉末中に埋め込んで焼成することにより、これらSnやSbが揮発するのを回避することが可能となる。したがって、常圧でも容易に所望の焼結を行なうことができ、実用に支障が生じない程度の熱電特性を有する熱電変換材料を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0028】
本発明に係る熱電変換材料は、一般式XYZで表されるハーフホイスラー化合物を主成分としている。
【0029】
ここで、上記一般式XYZ中、Xサイトに配位する金属元素としては、Tiが挙げられる。また、Tiを主成分とし、このTiの一部をZrやHf等の4価の元素で置換したり、La、Se、Nd、Sm等の3価の希土類元素で置換するのも好ましい。
【0030】
Yサイトに配位する金属元素としては、Niを挙げることができる。また、Niを主成分とし、このNiの一部をFe、Cu等の遷移金属元素で置換するのも好ましい。
【0031】
Zサイトに配位する金属元素としては、Snを挙げることができる。また、Snを主成分とし、このSnの一部をSbで置換するのも好ましい。
【0032】
そして、本熱電変換材料は、主成分である上記ハーフホイスラー化合物に特定のガラス成分が、15vol%未満(0vol%を含まず。)の範囲で含有されている。これにより、異相が生成されることもなく、液相焼結されて良好な緻密性を有する焼結体とすることができ、熱電特性の良好な熱電変換材料を得ることができる。
【0033】
ここで、特定のガラス成分としては、酸化ホウ素、酸化ケイ素、及びCaやBa等のアルカリ土類金属酸化物を含有したガラス成分(以下、「B−Si−Am−O系ガラス成分」という。)(Amはアルカリ土類金属元素を示す。)を使用することができる。すなわち、このB−Si−Am−O系ガラス成分はガラス軟化点が790℃と低く、液相焼結を行なうのに適している。しかも、このガラス成分は、ハーフホイスラー化合物に対して良好な濡れ性を示し、異相の生成を抑制しつつ液相焼結させることが可能である。尚、このB−Si−Am−O系ガラス成分以外のガラス成分、例えば、アルカリ土類金属酸化物の代えて、亜鉛酸化物を含んだガラス成分を使用した場合、斯かるガラス成分もガラス軟化点は800℃と低く、液相焼結は可能であるが、ハーフホイスラー化合物に対する濡れ性が悪く、ガラスの元素が金属間化合物の元素を反応するため、異相が生成され易くなり、好ましくない。
【0034】
また、B−Si−Am−O系ガラス成分の体積含有量を15vol%未満としたのは、体積含有量が15vol%以上になると、ガラス成分の含有量が過剰となり、この場合も異相が生成され易くなって熱電特性の低下を招くおそれがあるからである。
【0035】
次に、上記熱電変換材料の製造方法の一実施の形態を詳述する。
【0036】
まず、ハーフホイスラー化合物を構成する複数種の金属素原料、例えばNi、Ti、Sn、Zr、Hf、Sb等の高純度粉末を用意する。
【0037】
次いで、所定組成のハーフホイスラー化合物となるように、各金属素原料を秤量し、溶解法を使用して秤量物を溶解させ、溶融合金を作製する。ここで、溶解法としては、特に限定されるものではなく、高周波溶解法やアーク溶解法等、任意の方法を使用することができる。
【0038】
この後、溶融合金を急冷・凝固させ、合金粉末を作製する。ここで、溶融合金を急冷・凝固させる方法としては、特に限定されるものではなく、(単ロール法、双ロール法、回転ディスク法、或いはガスアトマイズ法や水アトマイズ法などのアトマイズ法などの液体急冷法等、任意の方法を使用することができる。
【0039】
次に、得られた合金粉末を粉砕機に投入して粉砕し、所定粒径の微粉末とする。ここで、粉砕機としては、特に限定されるものではなく、ボールミル、ジェットミル、遊星ミル等を任意に使用することができる。
【0040】
次に、この微粉砕して得られた合金粉末に対し、B−Si−Am−O系ガラス成分が15vol%未満(0vol%を含まず。)となるように、該ガラス成分を添加し、混合粉末を作製する。
【0041】
次いで、B−Si−Am−O系ガラス成分を添加した上記混合粉末に所定圧力を加圧してプレス成形を行い、成形体を作製する。尚、プレス成形の方法につても、特に限定されるものではなく、例えば冷間等方圧プレス法等を使用することができる。
【0042】
次いで、前記液体急冷後の合金粉末を坩堝等の所定の容器内に収容し、該合金粉末の収容された容器内に成形体を入れ、成形体を前記合金粉末中に完全に埋め込む。
【0043】
そして、この状態で所定条件下、常圧で焼成処理を行なう。焼成条件は、合成されるハーフホイスラー化合物の組成や合金粉末の粒径によっても異なるが、焼結体の相対密度が70%以上であればよく、例えば、1200〜1300℃の焼成温度で4〜8時間程度、加圧することなく常圧焼成を行なう。また、焼成雰囲気は、合金酸化を避ける観点から、Ar雰囲気等の不活性雰囲気で行なうのが好ましい。
【0044】
このように本実施の形態によれば、ハーフホイスラー化合物を主成分とし、B−Si−Am−O系ガラス成分が、15vol%未満(0vol%を含まず。)の範囲で含まれているので、ガラス軟化点の低いガラス成分を主成分に所定量添加することにより、異相が生成されることもなく、液相焼結を行うことが可能となる。
【0045】
しかも、前記ガラス成分は、金属間化合物に対して濡れ性が良好であり、異相を生成することなく液相焼結を行うことができ、焼結性が向上する。したがって、緻密で所望の熱電特性を有する熱電変換材料を得ることができる。
【0046】
また、合金粉末中に成形体を埋め込み、焼成するので、成形体が酸素に触れることもなく焼成を行うことができる。したがって、焼結体表面の酸化やSnやSb等のZサイトに配位される金属元素の揮発が抑制され、低コストで実用価値のある所望の熱電特性を有する熱電変換材料を容易に製造することが可能となる。
【0047】
また、前記焼成処理を常圧で行なうことができるので、ホットプレス焼結法や放電プラズマ焼結法のような加圧焼結法とは異なり、製造工程が簡素化され、高価な製造設備が不要となり、低コストで量産に適した熱電変換材料の製造方法を実現できる。
【0048】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0049】
本実施例では、n型の熱電変換材料を作製して特性を評価した。
【0050】
〔実施例1〕
まず、純度が99%以上のTi、Zr、Hf、Ni、Sb、及びSnの各金属素原料を用意した。
【0051】
そして、これら金属素原料を、組成式が(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)Ni(Sn0.998Sb0.002)となるように秤量し、高周波溶解法で溶解し、溶融合金を作製した。すなわち、秤量した金属粉末をアルミナ製坩堝に入れて高周波炉内にセットし、10-2〜10-3Paの真空下で高周波電流を流し、高周波誘導加熱により坩堝内の金属素原料を溶解し溶融合金を作製した。
【0052】
次いで、この溶融金属を急冷凝固した後、粗粉砕し、合金粉末を得た。そしてその後、この合金粉末をボールミルに投入し、粒径が1〜20μm程度の微粉末状に粉砕した。
【0053】
次に、B、SiO、CaO、及びBaOのモル%が、B:8モル%、SiO:41モル%、CaO:34モル%、及びBaO:17モル%に調合されたB−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分を用意した。
【0054】
そして、このB−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分を、体積含有量が5vol%となるように、前記微粉末状の合金粉末に添加して混合し、混合粉末を得た。
【0055】
次いで、この混合粉末を冷間等方圧プレス法によって200MPaで加圧し、縦8mm、横8mm、厚み5mmの成形体を作製した。
【0056】
その後、この成形体を上述した合金粉末と共にアルミナ製坩堝内に投入し、成形体を金属粉末中に埋めた。そしてこの状態で、Ar雰囲気下、1200℃で6時間保持し、常圧焼成を行い、実施例1の試料を作製した。
【0057】
〔比較例1〕
ガラス材料を添加しなかった以外は、上記実施例1と同様の方法・手順で、比較例1の試料を作製した。
【0058】
〔比較例2〕
実施例1で使用したB−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分を、体積含有量が15vol%となるように添加した以外は、上記実施例1と同様の方法・手順で、比較例2の試料を作製した。
【0059】
〔比較例3〕
、SiO、ZnOのモル%が、B:31モル%、SiO:47モル%、及びZnO:22モル%に調合されたB−Si−Zn−O系ガラス成分を用意した。
【0060】
そして、このB−Si−Zn−O系ガラス成分を、体積含有量が5vol%となるように、上記実施例1で作製した合金微粉末に添加して混合した。
【0061】
そしてその後は上記実施例1と同様の方法・手順で、比較例3の試料を作製した。
【0062】
〔比較例4〕
比較例3と同一組成のB−Si−Zn−O系ガラス成分を、体積含有量が15vol%となるように、合金微粉末に添加した以外は、比較例3と同様の方法・手順で、比較例4の試料を作製した。
【0063】
〔試料の評価〕
実施例1及び比較例1〜4の各試料について、アルキメデス法で焼結密度を測定し、焼結密度の実測値を理論焼結密度で除算して相対密度を算出した。
【0064】
また、上記各試料について、50〜420℃の温度範囲における抵抗率ρ及びゼーベック係数Sを測定し、出力因子P(=S/ρ)を求めた。
【0065】
ここで、抵抗率ρは、試料を縦4mm、横2mm、厚み5mmに切断し、直流四端子法を使用して測定した。
【0066】
また、ゼーベック係数Sは、試料を縦4mm、横2mm、厚み5mmに切断し、各試料の両端に5℃の温度差を設けて起電力を測定し、算出した。
【0067】
表1は、各試料の相対密度、及び300℃における抵抗率ρ、ゼーベック係数S、出力因子Pを示している。
【0068】
【表1】

【0069】
この表1から明らかなように実施例1の試料は、5vol%のB−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分が含有されているので、異相を生成することなく液相焼結することができた。そして、この実施例1の試料は、相対密度が73.0%となって緻密性が良好であり、出力因子Pも2.35×10-3W/K・mと良好で実用価値のある高性能な熱電変換材料が得られた。
【0070】
これに対し比較例1は、ガラス成分が含まれておらず、このため実施例1よりも相対密度が低く緻密性に劣り、出力因子Pも実施例1と比べて劣ることが分かった。
【0071】
比較例2は、B−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分を含有しているものの、ガラス成分の体積含有量が15vol%と多いため、ガラス成分を含まない場合に比べても相対密度が低く、出力因子Pも低くなった。これはガラス成分の体積含有量が過剰であるため、異相が形成されたためと思われる。
【0072】
比較例3、4は、いずれもB−Si−Zn−O系ガラス成分を使用しているため、相対密度が低下し、出力因子Pも低くなった。これは、B−Si−Zn−O系ガラス成分は、ガラス軟化点は低いものの、主成分であある合金粉末に対して濡れ性が悪く、異相が生成されたためと思われる。
【0073】
図1は、50〜420℃の温度範囲における実施例1、比較例1、2の出力因子の温度特性を示す図である。横軸が温度(℃)、縦軸が出力因子P(W/K・m)である。また、図中、実線が実施例1、一点鎖線が比較例1、破線が比較例2である。
【0074】
実施例1と比較例1との対比から明らかなように、B−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分を添加することにより、出力因子Pが相対的に増加しており、熱電特性は向上するが、ガラス成分の体積含有量が15vol%になると、出力因子Pは顕著に減少し、したがって熱電特性も低下することが分かった。
【0075】
すなわち、B−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分を15vol%未満(0vol%を含まず。)の範囲で含むことにより、相対密度が向上して緻密性が増し、熱電特性の指標となる出力因子Pが向上する。そしてこれにより加圧焼結法に依らなくとも、実用に耐えうる高性能の熱電変換材料の得られることが分かった。
【0076】
図2〜図4は、50〜420℃におけるガラス成分の体積含有量と抵抗率ρ、ゼーベック係数S、及び出力因子Pとの関係を、B−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分とB−Si−Zn−O系ガラス成分とで比較した図である。横軸はいずれもガラス成分の体積含有量(vol%)であり、縦軸は抵抗率ρ(Ω・cm)(図2)、ゼーベック係数S(μV/K)(図3)、及び出力因子P(W/K・m)(図4)を示している。また、図中、●印がB−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分、■印がB−Si−Zn−O系ガラス成分をそれぞれ示している。
【0077】
この図2〜4に示すように、B−Si−Zn−O系ガラス成分は、体積含有量が増加すると抵抗率ρは低下するが、ゼーベック係数Sの絶対値はB−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分の絶対値に比べて相対的に小さく、結果としてB−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分はB−Si−Zn−O系ガラス成分に比べて良好な出力因子Pを得ている。すなわち、B−Si−Ca−Ba−O系ガラス成分は、B−Si−Zn−O系ガラス成分に比べ、優位性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】出力因子の温度特性を示す図である。
【図2】ガラス成分の体積含有量と抵抗率との関係を示す図である。
【図3】ガラス成分の体積含有量とゼーベック係数との関係を示す図である。
【図4】ガラス成分の体積含有量と出力因子との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式XYZ(ただし、X、Y、Zは、それぞれ少なくとも一種の金属元素を示す。)で表される金属間化合物を主成分とし、
酸化ホウ素、酸化ケイ素、及びアルカリ土類金属酸化物を含有したガラス成分が、15vol%未満(0vol%を含まず。)の範囲で含まれていることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属は、Ca及びBaのうちの少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする請求項2記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記金属間化合物は、少なくともTi、Ni、Snを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記Snの一部が、Sbで置換されていることを特徴とする請求項3記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記Tiの一部が、Zr及びHfのうちの少なくともいずれか一方の元素で置換されていることを特徴とする請求項3記載の熱電変換材料。
【請求項6】
複数種の金属粉末を出発原料として一般式XYZ(ただし、X、Y、Zは、それぞれ少なくとも一種の金属元素を示す。)で表される金属間化合物からなる合金粉末を作製し、さらに、酸化ホウ素、酸化ケイ素、及びアルカリ土類金属酸化物を含有したガラス成分が15vol%未満(0vol%を含まず。)となるように、前記合金粉末に前記ガラス成分を混合して混合粉末を作製し、次いで該混合粉末を成形加工して成形体を作製し、その後、前記合金粉末中に前記成形体を埋め込んだ状態で焼成処理を行ない、熱電変換材料を作製することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項7】
前記焼成処理を常圧で行なうことを特徴とする請求項6記載の熱電変換材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−67672(P2010−67672A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230685(P2008−230685)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】