説明

熱電変換材料および熱電変換素子

【課題】 ハーフホイスラー化合物を主相とする材料において、高いゼーベック係数と低い抵抗率とを維持しつつ熱伝導率を十分に低減して、無次元性能指数ZTの大きな熱電変換材料を提供する。
【解決手段】 下記組成式(2)で表わされ、MgAgAs型結晶構造を有することを特徴とする。 (Lnd(Tia2Zrb2Hfc21-dxNiySn100-x-y 組成式(2)(ここで、30≦x≦35、30≦y≦35、LnはYおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種であり、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1、0<d≦0.3である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料に係り、特にMgAgAs型結晶構造を有するハーフホイスラー化合物を主相とする熱電変換材料、およびこれを用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対する意識の高揚から、フロンレス冷却であるぺルチェ効果を利用した熱電冷却素子に関する関心が高まってきている。地球温暖化問題から二酸化炭素排出量を削減するために、未利用廃熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する熱電発電素子に対する関心もまた、同様に高まりつつある。
【0003】
このような熱電変換素子に用いられるp型やn型の熱電冷却材料および熱電発電材料には、効率の高さから、Bi−Te系の単結晶構造あるいは多結晶構造のものが多く用いられる。室温より高温の条件下で使用される熱電材料においても、効率の高さからp型およびn型のいずれにもPb−Te系材料が用いられている。
【0004】
Pb−Te系材料に含有されているPb(鉛)は、人体にとって有毒有害であり、また地球環境問題の観点からも好ましくない。Bi−Te系材料には、一般的に不純物としてSeが添加されており、これも人体にとって有毒有害な元素である。地球環境問題の観点からも、Seは好ましくない。さらに、こうした材料系に用いられているTeは地球上の埋蔵量が非常に少なく、資源的に供給上の困難がある。このため、Bi−Te系材料およびPb−Te系材料よりも効率が高く、しかも無害な熱電変換材料が求められている。
【0005】
ハーフホイスラー化合物は、化学式ABXで表わされ、立方晶系のMgAgAs型結晶構造の金属間化合物であり、AXのNaCl型結晶格子にB原子が挿入された構造である。こうした構造を有する化合物は室温で高いゼーベック係数を有し、例えばTiNiSnは−142μV/K、ZrNiSnは−176μV/K、また、HfNiSnは−124μV/Kと報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
なお、熱電変換材料の性能指数Zは、下記数式(1)式で表される。
【0007】
Z=α2σ/κ (1)
上記数式(1)中、αは熱電変換材料のゼーベック係数、σは熱電変換材料の導電率であり、κは熱電変換材料の熱伝導率である。導電率σの逆数は、電気抵抗率ρとして表わされる。
【0008】
Zは温度の逆数の次元を有し、この性能指数Zに絶対温度を乗ずると無次元の値となる。この値ZTは、無次元性能指数と呼ばれ、熱電変換材料の熱電変換効率に相関関係を有して、このZTの大きな材料ほど熱電変換効率は大きくなる。
【0009】
すなわち、熱を通しにくく、電気をよく通して、熱起電力が大きい材料ほど高効率な熱電変換材料となる。例えば、現在知られている材料の中で最も大きな無次元性能指数を有するBi−Te系の無次元性能指数は、300Kで約1.0である。
【0010】
前述したハーフホイスラー化合物ZrNiSnは、室温で−176μV/Kという高いゼーベック係数を有しているものの、室温での抵抗率が11mΩcmと大きく、また熱伝導率も8.8W/mKと大きい。このため、無次元性能指数ZTは0.010と小さく、熱電変換効率は小さいことが報告されている。TiNiSnおよびHfNiSnでは、熱電変換効率はさらに小さく、TiNiSnで0.007程度であり、HfNiSnでは0.005に留まる。
【0011】
一方、希土類を含むハーフホイスラー化合物としては、例えばHoPdSbが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。このHoPdSbは、室温におけるゼーベック係数は150μV/Kであり、熱伝導率は6W/mKとZrNiSnよりやや小さいものの、やはり抵抗率が9mΩcmと大きいため、無次元性能指数ZTは0.01に留まる。Ho0.5Er0.5PdSb1.05、Er0.25Dy0.75Pd1.02Sb、およびEr0.25Dy0.75PdSb1.05には、室温における無次元性能指数は小さく、それぞれ0.04、0.03、および0.02と報告されている。
【非特許文献1】J.Phys.:Condens.Matter 11 1697−1709(1999)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,74,1414−1417(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記問題に鑑み、ハーフホイスラー化合物を主相とする材料において、高いゼーベック係数と低い抵抗率とを維持しつつ熱伝導率を十分に低減して、無次元性能指数ZTの大きな熱電変換材料、およびこれを用いた熱電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様にかかる熱電変換材料の製造方法は、MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する熱電変換材料の製造方法であって、下記組成式(2)で表わされる組成を有する合金粉末を焼結法によって一体成形する工程を有することを特徴とする。
【0014】
(Lnd(Tia2Zrb2Hfc21-dxNiySn100-x-y 組成式(2)
(上記組成式(2)中、LnはYおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種であり、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1、0<d≦0.3、30≦x≦35、30≦y≦35である。)
本発明の他の態様にかかる熱電変換材料は、MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する熱電変換材料の製造方法であって、下記組成式(3)で表わされる組成を有する合金粉末を焼結法によって一体成形する工程を有することを特徴とする。
【0015】
Ln1XNiYSb100-X-Y 組成式(3)
(上記組成式(3)中、Ln1は、Sc,Y,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Th,Uの中から選ばれる少なくとも一種であり、30≦X≦35、30≦Y≦35である。)
本発明の他の態様にかかる熱電変換材料は、MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する熱電変換材料の製造方法であって、下記組成式(4)で表わされる組成を有する合金粉末を焼結法によって一体成形する工程を有することを特徴とする。
【0016】
(Ln2p1-pXNiYSb100-X-Y 組成式(4)
(Ln2は、Sc,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Th,Uの中から選ばれる少なくとも一種であり、0.001≦P≦0.999、30≦X≦35、30≦Y≦35である。)
本発明の一形態にかかる熱電変換素子は、交互に直列に接続されたp型熱電変換材料およびn型熱電変換材料を含み、前記p型熱電変換材料および前記n型熱電変換材料の少なくとも一方は、前記合金粉末を焼結法によって一体成形する製造方法によって製造された熱電変換材料を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハーフホイスラー化合物を主相とする材料において、高いゼーベック係数と低い抵抗率とを維持しつつ熱伝導率を十分に低減して、無次元性能指数ZTの大きな熱電変換材料、およびこれを用いた熱電変換素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
一般に熱の伝導は、フォノン、すなわち結晶格子振動の伝播によるものと、導電キャリア、すなわち自由電子の移動によるものとに分けられる。したがって、熱伝導率κは下記数式(2)式で表される。
【0020】
κ=κph+κel 数式(2)
上記数式(2)中、κphは格子熱伝導率、κelは電子熱伝導率である。
【0021】
電子熱伝導率κelは、ビーデマンフランツ則により下記数式(3)式で表される。
【0022】
κel=LTσ 数式(3)
上記数式(3)中、σは導電率、Tは絶対温度、またLはローレンツ因子であり、下記数式(4)で表わされる。
【0023】
L=(π/3)(kB/e) (4)
上記数式(4)中、kBはボルツマン定数(1.38×10−23J/K)であり、eは電子の電荷量(−1.60×10−19C)である。
【0024】
したがって、ローレンツ因子は定数となり、その値は2.44×10−8/Kである。上記数式(3)式に示されるように、電子熱伝導率κelは絶対温度および導電率に比例することから、同一温度で電子熱伝導率を小さくするためには、導電率を小さくする必要がある。
【0025】
しかしながら、上記数式(1)式からわかるように、無次元性能指数ZTを大きくするためには導電率を大きくしなければならない。したがって、電子熱伝導率を小さくして全体の熱伝導率κを低減し、それによって無次元性能指数を大きくすることはできない。また、上記数式(3)式からわかるように、導電率が温度依存性をもたず温度変化に対して一定だとすると、電子熱伝導率は温度に比例して増加する。そのため、格子熱伝導率が温度依存性をもたず一定であっても、上記数式(2)式より全体の熱伝導率κは温度が高い領域ほど大きくなり、無次元性能指数は小さくなってしまう。
【0026】
以上から、全体の熱伝導率κを低減して無次元性能指数ZTを大きくするためには、格子熱伝導率κphをいかに小さくするかが重要である。格子熱伝導率は、結晶格子の種類、構成される元素に大きく依存し、格子の規則性を乱すことによって低下させることができる。ハーフホイスラー構造を持つMNiSnにおいてはMとしてTi,Zr,Hfを単独に用いた場合には格子熱伝導率は6.7〜9.3W/mKである。
【0027】
本発明者らは鋭意研究した結果、図1に示されるハーフホイスラー構造を有するMNiSnにおいて、Aサイトの原子の原子半径不規則性を導入することによって、熱伝導率をさらに低減できることを見出した。なお、図1中、参照符号1,2,3は、それぞれA元素(M)、B元素(Ni)およびX元素(Sn)を表わし、参照符号4は空孔を表わす。
【0028】
具体的には、Aサイトにある原子がTi,Zr,Hf全てを含むようにすることにより、原子半径および原子量の不均一性によるフォノンの散乱、および結晶格子の大きさに不均一性を生じさせて、熱伝導率を大幅に低減することを可能とした。
【0029】
さらに、Aサイトにある原子がTi,Zr,Hf全てを含むようにすることは、フェルミ面近傍における電子密度分布変化を急峻にし、ゼーベック係数の増加にも効果があることを本発明者らは見いだした。
【0030】
すなわち、本発明の一形態にかかるn型の熱電変換材料は、下記組成式(1)で表わされ、MgAgAs型結晶構造を有する相を主相とすることを特徴とする。
【0031】
(Tia1Zrb1Hfc1NiSn100−x−y 組成式(1)
Aサイトにある原子がTi,Zr,Hf全てを含むようにするために、前記組成式(1)におけるa1,b1,c1は、0より大きいことが必要である。したがって、a1,b1,c1の数値は、0<a1<1、0<b1<1、0<c1<1、a1+b1+c1=1に
規定される。さらにより好ましくは、0.1<a1<0.9、0.1<b1<0.9、0
.1<c1<0.9、a1+b1+c1=1に規定される。
【0032】
また、MgAgAs型結晶構造を有する相の体積占有率を高めて、高いゼーベック係数を得るために、xおよびyは、30≦x≦35および30≦y≦35の範囲にそれぞれ規定される。xおよびyのより好ましい範囲は、33≦x≦34、および33≦y≦34である。
【0033】
さらに本発明者らは、Ti,Zr,Hfのいずれの元素よりも原子半径が大きい希土類元素に着目した。希土類元素は、NiまたはSnとの間に合金相を形成しやすいため、これに起因する熱伝導率の低減も期待される。こうした知見に基づいて鋭意ら調査を行なった結果、本発明者らは、ハーフホイスラー化合物MNiSn(X=Ti,Zr,Hf)におけるMの一部を、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素で置換することによっても、熱伝導率を大幅に改善できることを見出した。
【0034】
すなわち、本発明の他の態様にかかるn型の熱電変換材料は、下記組成式(2)で表わされ、MgAgAs型結晶構造を有する相を主相とすることを特徴とする。
【0035】
(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNiSn100−x−y 組成式(2)
Lnは、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、希土類元素には、周期律表における原子番号57のLaから、原子番号71のLuまでの全ての元素が含まれる。融点および原子半径を考慮すると、Er,Gd,およびNdが、Lnとして特に好ましい。
【0036】
Lnは、前述したように熱伝導率を低減するのに有効な元素である。少量でもその効果を発揮するが、熱伝導率をより低減するめには、Lnの配合量は、Lnと(Ti,Zr,Hf)との総量のうち、0.1原子%以上とすることが好ましい。Lnの配合量が、Lnと(Ti,Zr,Hf)との総量の30原子%を越えた場合には、MgAgAs型結晶構造を有する相以外の相、例えばLnSn3相の析出が顕著になって、ゼーベック係数の劣化を招くおそれがある。このため、dの値は0<d≦0.3の範囲内に規定され、より好ましくは0.001≦d≦0.3の範囲内である。
【0037】
前記組成式(2)においては、Ti、ZrおよびHfは、必ずしもすべてが同時に存在する必要はない。このため、a2,b2,c2は、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1の範囲内となる。
【0038】
MgAgAs型結晶構造を有する相の体積占有率を高めて、高いゼーベック係数を得るために、xおよびyは、30≦x≦35、30≦y≦35の範囲に設定される。ハーフホイスラー化合物においては、総価電子数が18近傍の場合に大きなゼーベック係数が観測される。例えば、ZrNiSnにおける外殻電子配置は、Zr(5d6s)、Ni(3d4s)、Sn(5s5p)であり、価電子の総数は18となる。TiNiSn、およびHfNiSnも同様に、価電子の総数は18となる。
【0039】
これに対して、前述の組成式(2)で表わされるようにTi,Zr,Hfの一部を希土類元素で置換した場合には、Ce,Eu,Ybを除く希土類元素は(5d6s)の外殻電子配置により3価となる場合が多いため、総価電子数が18からずれてしまうおそれがある。そこで、xおよびyを適宜調整してこれを補うことが可能である。
【0040】
前述の組成式(1)および(2)において、Ti,ZrおよびHfの一部は、V,Nb,Ta,Cr,Mo,およびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換されていてもよい。これらの元素は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いて、Ti,ZrおよびHfの一部を置換することができる。このような置換によって、主相であるMgAgAs相における総価電子数を調整して、ゼーベック係数や導電率を増大させることが可能である。前述したように、ハーフホイスラー化合物においては総価電子数が18近傍の場合に大きなゼーベック係数が観測されるため、これらの置換元素と希土類元素とを併用することによって、総価電子数を調整することが有効である。ただし、置換量は、Ti,Zr,Hf総量の30原子%以下とすることが好ましい。30原子%を越えると、MgAgAs型結晶構造を有する相以外の相の析出が顕著となって、ゼーベック係数の劣化を招くおそれがある。
【0041】
また、前記組成式(1)または(2)におけるNiの一部は、Mn,Fe,Co,およびCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換されてもよい。これらの元素は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いて、Niの一部を置換することができる。このような置換によって、主相であるMgAgAs相における総価電子数を調整するなどしてゼーベック係数や導電率を増大させることが可能である。置換量は、一般的には、Niの50原子%以下にとどめることが望まれる。特に、Cuで置換する場合には、その置換量が多すぎるとMgAgAs相の生成を阻害するおそれがあるため、Niの30原子%以下とすることが好ましい。
【0042】
さらに、前記組成式(1)または(2)におけるSnの一部は、As,Sb,Bi,Ge,Pb,Ga,およびInからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換されてもよい。これらの元素は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いて、Snの一部を置換することができる。このような置換によって、主相であるMgAgAs相における総価電子数を調整するなどしてゼーベック係数や導電率を増大させることが可能である。ただし、Snを置換する元素は有害性、有毒性、材料コストを考慮すると、Sb、Biが特に好ましい。置換量は、Snの30原子%以下とすることが好ましい。30原子%を越えた場合には、MgAgAs型結晶構造を有する相以外の相の析出が顕著となって、ゼーベック係数の劣化を招くおそれがある。
【0043】
以上、n型の熱電変換材料について説明したが、同様の理論はp型の熱電変換材料にも適用することができる。B元素としてPdを用いた場合に比べて、Niを用いることによりパワーファクターが増大することが、本発明者らによって見出された。
【0044】
本発明の一実施形態にかかるp型の熱電変換材料は、下記組成式(3)で表わされ、MgAgAs型結晶構造を有する相を主相とすることを特徴とする。
【0045】
Ln1NiSb100−X−Y 組成式(3)
図1に示した結晶構造と対応させると、A元素1がLn1、B元素2がNi,X元素3がSbに相当する。
【0046】
組成式(3)中、Ln1は、Sc,Y,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Th,Uの中から選ばれる少なくとも一種の元素である。MgAgAs型結晶構造を有する相の体積占有率を高めて、高いゼーベック係数を得るためには、XおよびYは、30≦X≦35および30≦Y≦35の範囲にそれぞれ規定される。XおよびYのより好ましい範囲は、33≦X≦34、および33≦Y≦34である。
【0047】
結晶格子の大きさに不均一性を生じさせて、熱伝導率を大幅に低減させるためには、Ln1の一部としてYを含有することが好ましい。
【0048】
本発明の他の実施形態にかかるp型の熱電変換材料は、下記組成式(4)で表わされ、MgAgAs型結晶構造を有する相を主相とすることを特徴とする。
【0049】
(Ln21−PNiSb100−X−Y 組成式(4)
図1に示した結晶構造と対応させると、A元素1がLn2およびY、B元素2がNi、X元素3がSbである。
【0050】
組成式(4)中、Ln2は、Sc,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Th,Uの中から選ばれる少なくとも一種の元素である。MgAgAs型結晶構造を有する相の体積占有率を高めて、高いゼーベック係数を得るためには、P、XおよびYは、0.001≦P≦0.999、30≦X≦35、30≦Y≦35の範囲にそれぞれ規定される。P、XおよびYのより好ましい範囲は、0.01≦P≦0.99、33≦X≦34、および33≦Y≦34である。
【0051】
前述の組成式(4)で表わされるp型熱電変換材料は、Yを必須とし、このYが熱伝導度を低下させる。したがって、性能指数をよりいっそう高めることができる。
【0052】
前述の組成式(3)または(4)において、Ln1もしくはLn2の一部は、Ti,Zr,Hf,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Be,Mg,Ca,Sr,Baからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素で置換されていてもよい。これらの元素は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いて、Ln1もしくはLn2の一部を置換することができる。このような置換によって、主相であるMgAgAs相における総価電子数を調整して、導電率を増大させることが可能である。特に、Be,Mg,Ca,Sr,Baの様な2価の元素で置換することは、3価のLn1,Ln2を2価の元素で置換することとなるため、電気的なホールが形成される。
【0053】
本実施形態の熱電変換材料はp型であるため、キャリアー濃度を増加させ、導電率の増大に有効である。ただし、置換量は、Ln1若しくはLn2の総量の約30原子%以下とすることが好ましい。約30原子%を越えると、MgAgAs型結晶構造を有する相以外の相の析出が顕著となって、ゼーベック係数の劣化を招くおそれがある。
【0054】
また、前記組成式(3)または(4)において、Niの一部は、V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Fe,Co,Rh,Ir,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Znからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素で置換されてもよい。これらの元素は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用い、Niの一部を置換することができる。このような置換によって、主相であるMgAgAs相における総価電子数を調整するなどしてゼーベック係数や導電率を増大させることが可能である。特に、Co,Rh,Irの様なNiよりも外殻価電子数が一つ少ない元素で置換することは、電気的なホールが形成され、キャリアー濃度を増加させ、導電率の増大に有効である。
【0055】
ただし、置換量は、Niの30原子%以下にとどめることが望ましい。30原子%を越えると、MgAgAs型結晶構造を有する相以外の相の析出が顕著となって、ゼーベック係数の劣化を招くおそれがある。
【0056】
さらに、前記組成式(3)または(4)において、Sbの一部は、Al,Si,Ga,Ge,As,In,Sn,Pb,Biからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素で置換されてもよい。これらの元素は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いて、Sbの一部を置換することができる。このような置換によって、主相であるMgAgAs相における総価電子数を調整するなどしてゼーベック係数や導電率を増大させることが可能である。特に、Si,Ge,Sn,Pbの様なSbよりも外殻価電子数が一つ少ない元素で置換することは、電気的なホールが形成されることによりキャリアー濃度を増加させ、導電率の増大に有効である。
【0057】
ただし、置換量は、Sbの30原子%以下にとどめることが望ましい。30原子%を越えると、MgAgAs型結晶構造を有する相以外の相の析出が顕著となって、ゼーベック係数の劣化を招くおそれがある。また、SbをBiで置換することは、より原子半径が大きく原子量が大きな元素で置換することとなるため、フォノン散乱効果が大きくなり、格子熱伝導率の低下に有効である。
【0058】
本発明の実施形態にかかる熱電変換材料は、例えば以下のような方法により製造することができる。
【0059】
まず、所定量の各元素を含有する合金を、アーク溶解や高周波溶解などによって作製する。合金の作製に当たっては、単ロール法、双ロール法、回転ディスク法、ガスアトマイズ法などの液体急冷法、あるいはメカニカルアロイング法などの固相反応を利用した方法などを採用することもできる。液体急冷法やメカニカルアロイング法といった方法は、合金を構成する結晶相を微細化する、結晶相内への元素の固溶域を拡大するなどの点で有利である。このため、熱伝導率を大幅に低減することができる。
【0060】
あるいは、前述したような溶解プロセスを経ずに、原料金属粉末をホットプレスして合金を作製することも可能である。
【0061】
作製された合金は、必要に応じて熱処理を施してもよい。この熱処理によって合金が単相化され、結晶粒子径も制御されるので、熱電特性をさらに高めることができる。溶解、液体急冷、メカニカルアロイングおよび熱処理などの工程は、合金の酸化を防止するという観点から、例えばArなどの不活性雰囲気中で行なわれることが好ましい。
【0062】
次に、合金をボールミル、ブラウンミル、またはスタンプミルなどにより粉砕して合金粉末を得、合金粉末を、ホットプレス法、およびSPS法などの焼結法によって一体成型する。合金の酸化を防止するという観点から、一体成型は、例えばArなどの不活性雰囲気中で行なわれることが好ましい。次いで、得られた成型体を所望の寸法に加工することによって、本発明の実施形態にかかる熱電変換材料が得られる。成型体の形状や寸法は適宜選択することができる。例えば、外形0.5〜10mmφ、厚み1〜30mmの円柱状や、(0.5〜10mm)×(0.5〜10mm)×厚み(1〜30mm)程度の直方体状などとすることができる。
【0063】
こうして得られた熱電変換材料を用いて、本発明の実施形態にかかる熱電変換素子を製造することができる。その一例の構成を表わす概略断面図を、図2に示す。
【0064】
図2に示される熱電変換素子においては、本発明の実施形態にかかるn型半導体の熱電変換材料9と、p型半導体の熱電変換材料8が並列に配置されている。n型熱電変換材料9およびp型熱電変換材料8のそれぞれの上面には、電極10aおよび10bがそれぞれ配置され、その外側に上側絶縁性基板11aを接続される。n型熱電変換材料9およびp型熱電変換材料8の下面は、下側絶縁性基板11bに支持された電極10cによって接続されている。
【0065】
上下の絶縁性基板11aと11bとの間に温度差を与えて上部側を低温度に、下部側を高温度にした場合、p型半導体熱電変換材料8内部においては、正の電荷を持ったホール14が低温度側(上側)に移動し、電極10bは電極10cより高電位となる。一方、n型半導体熱電変換材料9内部では、負の電荷を持った電子15が低温度側(上側)に移動して、電極10cは電極10aより高電位となる。
【0066】
その結果、電極10aと電極10bとの間に電位差が生じる。図2に示したように、上部側を低温度として下部側を高温度にした場合、電極10bは正極となり、電極10aは負極となる。
【0067】
図3に示すように、複数のp型熱電変換材料8とn型熱電変換材料9とを交互に直列に接続することによって、図2に示した構造よりも高い電圧を得て、より大きな電力を確保することができる。
【0068】
上述した熱電変換素子16は、熱電池に適用することができる。その構成の一例を図4に示す。図示するように、電変換素子16の上部側を低温度にして、下部側を高温度にすると、熱電変換素子16の終端電極19に電位差が生じる。電極19aと電極19bとに負荷20を接続すると、図示する矢印方向に電流21が流れて熱電池として機能する。
【0069】
あるいは、上述した熱電変換素子は冷却器に適用することができる。その一例の構成を図5に示す。図示するように、熱電変換素子16の終端電極19に直流電源22を用いて図中の矢印方向に直流電流23を流す。その結果、熱電変換素子16の上部側は高温になり、一方の下部側は低温になって冷却器として機能する。
【0070】
本発明の熱電変換材料について、実施例を示して以下に詳細に説明する。
【0071】
(実施例I)
本実施例においては、n型の熱電変換材料について説明する。
【0072】
(実施例I−1)
純度99.9%のTi、純度99.9%のZr、純度99.9%のHf、純度99.99%のNi、および純度99.99%のSnを原料として用意し、これを組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)NiSnになるように秤量した。
【0073】
秤量された原料を混合し、ア−ク炉内の水冷されている銅製のハ−スに装填して、2×10−3Paの真空度まで真空引きした。その後、純度99.999%の高純度Arを−0.04MPaまで導入して減圧Ar雰囲気として、ア−ク溶解した。溶解後、水冷されている銅製のハ−スで急冷されて得られた金属塊を、石英管に10−4Pa以下の高真空で真空封入し、1073Kで72時間熱処理した。
【0074】
得られた金属塊を粉砕し、内径20mmの金型を用いて圧力50MPaで成形した。得られた成形体を内径20mmのカーボン製モールドに充填し、Ar雰囲気中、80MPa、1200℃で1時間加圧焼結して、直径20mm円盤状の焼結体を得た。
【0075】
この焼結体を粉末X線回折法にて調べたところ、MgAgAs型結晶構造を有する相を主としていることが確認された。
【0076】
また、得られた焼結体の組成をICP発光分光法で分析した所、ほぼ所定の組成であることが確認された。
【0077】
得られた焼結体は以下の方法によって熱電特性を評価した。
【0078】
(1)抵抗率
焼結体を2mm×0.5mm×18mmに切断し、電極を形成し直流4端子法で測定した。
【0079】
(2)ゼーベック係数
焼結体を4mm×1mm×0.5mmに切断し、この両端に2℃の温度差を付け起電力を測定し、ゼーベック係数を求めた。
【0080】
(3)熱伝導率
焼結体をφ10mm×t2.0mmに切断し、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定した。これとは別にDSC測定により比熱を求めた。アルキメデス法により焼結体の密度を求め、これらより熱伝導率を算出した。
【0081】
こうして得られた抵抗率、ゼーベック係数、および熱伝導率の値を用い、前述の数式(1)により無次元性能指数ZTを求めた。300Kおよび700Kにおける抵抗率、ゼーベック係数、格子熱伝導率、および無次元性能指数は、以下のとおりである。
【0082】
300K:抵抗率8.62×10-3Ωcm
ゼーベック係数−333μV/K
格子熱伝導率3.05W/mK
ZT=0.12
700K:抵抗率2.35×10-3Ωcm
ゼーベック係数−328μV/K
格子熱伝導率1.95W/mK
ZT=1.20
(実施例I−1)で作製された熱電変換材料の無次元性能指数ZTの温度依存性を、図6中に曲線aとして示す。図示するように最大で1.21程度の無次元性能指数ZTが得られる。
【0083】
すでに説明したように、既存の熱電変換材料についての無次元性能指数ZTの最大値は、Bi−Te系材料の1.0である。本実施例においては、(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)NiSnという組成としているので、これを越える高性能の熱電変換材料が得られた。
【0084】
(比較例I−1)
純度99.9%のZr、純度99.9%のHf、純度99.99%のNi、純度99.99%のSnを原料として用意し、これを組成式Zr0.5Hf0.5NiSnになるように秤量した。秤量された原料粉末を用いて、実施例I−1と同様の手法により焼結体を作製し、同様の手法により熱電特性を評価した。300Kおよび700Kにおける抵抗率、ゼーベック係数、格子熱伝導率、および無次元性能指数は、以下のとおりである。
【0085】
300K:抵抗率9.6×10-3Ωcm
ゼーベック係数−180μV/K
格子熱伝導率3.95W/mK
ZT=0.02
700K:抵抗率2.3×10-3Ωcm
ゼーベック係数−272μV/K
格子熱伝導率3.49W/mK
ZT=0.53
(比較例I−1)で作製された熱電変換材料の無次元性能指数ZTの温度依存性を、図6中に曲線cとして示す。無次元性能指数ZTは最大でも0.54程度にとどまっていることがわかる。
【0086】
このように、Zr0.5Hf0.5NiSnという組成の場合には、Bi−Te系材料の1.0を越える高性能の熱電変換材料は得られなかった。
【0087】
(実施例I−2〜I−21、比較例I−2〜I−3)
組成式(Tia1Zrb1Hfc1)NiSnで表わされる種々の組成の熱電変換材料を、前述の実施例1と同様の手法により作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表1にまとめる。なお、表1には、前述の(実施例I−1)および(比較例I−1)の結果も併せて示した。
【表1】

【0088】
表1に示されるように、Ti、ZrおよびHfの3種類の元素を含有し、前述の組成式(1)で表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。これに対し、Ti、ZrおよびHfのいずれかを含有しない比較例I−1、I−2およびI−3は、無次元性能指数ZTが劣っていることが、表1の結果に明確に示されている。
【0089】
(実施例I−22〜I−45)
前述の実施例I−1で作製された、組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)NiSnで表わされる熱電変換材料におけるTi,Zr,Hfの一部を、V,Nb,Taの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式((Ti0.3Zr0.35Hf0.351−e)NiSnで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0090】
具体的には、XとしてのV,NbまたはTaを、下記表2に示す置換元素量eでさらに添加した以外は、(実施例I−1)と同様の手法により熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表2にまとめる。
【表2】

【0091】
さらに、組成式(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)NiSnで表わされる熱電変換材料におけるTi,Zr,Hfの一部を、V,Nb,Taの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式((Ti0.5Zr0.25Hf0.251−e)NiSnで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0092】
具体的には、XとしてのV,NbまたはTaを、下記表3に示す置換元素量eでさらに添加した以外は、(実施例I−1)と同様の手法により熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表3にまとめる。
【表3】

【0093】
表2に示されるように、組成式((Ti0.3Zr0.35Hf0.351−e)NiSn,(X=V,Nb,Ta)で表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。表3に示されるように、組成式((Ti0.5Zr0.25Hf0.251−e)NiSn,(X=V,Nb,Ta)で表わされる種々の組成の熱電変換材料もまた、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。
【0094】
(実施例I−31)で作製された熱電変換材料の無次元性能指数ZTの温度依存性を、曲線bとして図6のグラフに示した。(実施例I−31)の熱電変換材料は、実施例1の熱電変換材料よりも無次元性能指数ZTが高い。これは、4価のTi,Zr、Hfを5価のTaで置換したことに起因して、キャリア濃度が増加し抵抗率が小さくなったためであると推測される。
【0095】
また、実施例I−2〜I−18で作製された熱電変換材料におけるTi,ZrおよびHfの一部を、V,NbおよびTaの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した熱電変換材料においても、同様に良好な熱電変換特性が確認された。
【0096】
さらに、実施例I−1〜I−18で作製された熱電変換材料におけるTi,ZrおよびHfの一部を、Cr,MoおよびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した熱電変換材料もまた、熱電変換特性は同様に良好であることが確認された。
【0097】
(実施例I−46〜I−53)
前述の実施例I−1で作製された、組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)NiSnで表わされる熱電変換材料におけるNiの一部を、Cuで置換して組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)Ni1−fCuSnで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0098】
下記表4に示す置換元素量fでCuをさらに添加した以外は、前述の実施例I−1と同様の手法により熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表4にまとめる。
【表4】

【0099】
さらに、組成式(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)NiSnで表わされる熱電変換材料におけるNiの一部を、Cuで置換して組成式(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)Ni1−fCuSnで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0100】
下記表5に示す置換元素量fでCuをさらに添加した以外は、前述の実施例I−1と同様の手法により熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表5にまとめる。
【表5】

【0101】
表4に示されるように、組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)Ni1−fCuSnで表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。表5に示されるように、組成式(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)Ni1−fCuSnで表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。
【0102】
また、実施例I−2〜I−18で作製された熱電変換材料におけるNiの一部を、Cuで置換した熱電変換材料においても、同様に良好な熱電特性を有することが確認された。
【0103】
さらに、実施例I−1〜I−18で作製された熱電変換材料におけるNiの一部を、Mn,FeおよびCoからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した熱電変換材料もまた、熱電変換特性は同様に良好であることが確認された。
【0104】
(実施例I−54〜I−69)
前述の実施例I−1で作製された組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)NiSnで表わされる熱電変換材料におけるSnの一部を、SbおよびBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)NiSn1−gで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0105】
具体的には、XとしてのSbまたはBiを、下記表6に示す置換元素量gでさらに添加した以外は、実施例I−1と同様の手法により熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表6にまとめる。
【表6】

【0106】
さらに、組成式(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)NiSnで表わされる熱電変換材料におけるSnの一部を、SbおよびBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式(Ti0.53Zr0.25Hf0.25)NiSn1−gで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0107】
具体的には、XとしてのSbまたはBiを、下記表7に示す置換元素量gでさらに添加した以外は、実施例I−1と同様の手法により熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表7にまとめる。
【表7】

【0108】
表6に示されるように、組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.35)NiSn1−g(X=Sb,Bi)で表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。表7に示されるように、組成式(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)NiSn1−g(X=Sb,Bi)で表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。
【0109】
また、実施例I−2〜I−18で作製された熱電変換材料におけるSnの一部を、Sb,Biの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した熱電変換材料においても、同様に良好な熱電特性を有することが確認された。
【0110】
さらに、実施例I−1〜I−18で作製された熱電変換材料におけるSnの一部を、As、Ge、Pb、GaおよびInからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した熱電変換材料もまた、熱電変換特性は同様に良好であることが確認された。
【0111】
(実施例I−70〜I−93)
組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNiSn100−x−y(LnはEr,Gd,およびNdからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1、035、30≦y≦35)で表わされる熱電変換材料を、前述の実施例(I−1)と同様の手法により作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表8にまとめる。
【表8】

【0112】
表8に示されるように、組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNiSn100−x−y(LnはEr,Gd,およびNdからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1、0d≦0.3、30≦x≦35、30≦y≦35)で表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。
【0113】
(実施例I−94〜I−105)
組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNiSn100−x−y(LnはEr,GdおよびNdからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1、05、30≦y≦35)で表わされる熱電変換材料において、(TiaZrbHfc)の一部をV,Nb,Taの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNiSn100−x−yで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0114】
具体的には、XとしてのV,NbまたはTaを、下記表6に示す配合量eでさらに添加し、(実施例I−1)と同様の手法により熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価した。LnとしてErが含有された熱電変換材料についての結果を、下記表9にまとめる。
【表9】

【0115】
表9に示されるように、組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNiSn100−x−yにおいて、Ln=Er,a2=0.3,b2=0.35,c2=0.35,x=y=33.3にて表わされる種々の組成の熱電変換材料は、XとしてV,NbまたはTaが含有されると、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。
【0116】
また、前述の組成式において、LnとしてGdまたはNdが含有された熱電変換材料においても、同様に良好な熱電変換特性が確認された。
【0117】
さらに、XとしてV,NbまたはTaが含有された熱電変換材料もまた、Lnとして含有される元素によらず、熱電特性は同様に良好であった。
【0118】
(実施例I−106〜I−109)
組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNiSn100−x−y(LnはEr,GdおよびNdからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1、05、30≦y≦35)で表わされる熱電変換材料において、Niの一部をCuで置換して、組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−d(Ni1−fCuSn100−x−yで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0119】
具体的には、下記表10に示す配合量fでCuをさらに添加し、実施例I−1と同様の手法により熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価した。LnとしてErが含有された熱電変換材料についての結果を、下記表10にまとめる。
【表10】

【0120】
表10に示されるように、組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−d(Ni1−fCuSn100−x−yで表わされる熱電変換材料において、Ln=Er,a2=0.3,b2=0.35,c2=0.35,x=y=33.3にて表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。
【0121】
また、前述の組成式において、LnとしてGdまたはNdが含有された熱電変換材料においても、同様に良好な熱電変換特性が確認された。
【0122】
さらに、Cuの代わりにMn、Fe、またはCoでNiの一部が置換された熱電変換材料もまた、Lnとして含有される元素によらず、熱電特性は同様に良好であった。
【0123】
(実施例I−110〜I−117)
組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNiSn100−x−y(LnはEr,Gd,Ndから選ばれる少なくとも一種の元素、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1、035)で表わされる熱電変換材料において、Snの一部をSb,Biの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNi(Sn1−g100−x−yで表わされる熱電変換材料を作製した。
【0124】
具体的には、XとしてのBiまたはSbを、下記表11に示す配合量gでさらに添加し、実施例I−1と同様の手法で熱電変換材料を作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価した。LnとしてErが含有された熱電変換材料についての結果を、下記表11にまとめる。
【表11】

【0125】
表11に示されるように、組成式(Ln(Tia2Zrb2Hfc21−dNi(Sn1−g100−x−yで表わされる熱電変換材料において、Ln=Er,(X=Sb,Bi),a2=0.3,b2=0.35,c2=0.35,x=y=33.3で表わされる種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。
【0126】
また、前述の組成において、LnとしてGdまたはNdが含有された熱電変換材料においても、同様に良好な熱電変換特性が確認された。
【0127】
さらに、XとしてAs,Ge、Pb,GaまたはInが含有された熱電変換材料もまた、Lnとして含有される元素によらず、熱電特性は同様に良好であった。
【0128】
(実施例I−118)
p型熱電変換材料としてCeCoFeSb12を使用し、n型熱電変換材料として実施例I−30の熱電変換材料を使用して、図3に示すような熱電変換素子を作製した。
【0129】
p型およびn型の各熱電変換材料とも3.0mm角、高さ10.0mmに切り出し、各60個、全120個を10列×12行になるようp,n交互に並べ、全120個を銀電極板で直列に接続した。さらに、銀電極板の他方の面、すなわち熱電変換素子を接合した面の反対面には窒化アルミニウム焼結体板を接合し、終端電極に電流リード線を接合して熱電変換素子を作製した。
【0130】
得られた熱電変換素子について、高温度側を570℃、低温度側を55℃にして発電特性を評価した。この温度条件における内部抵抗は、2.22Ωであった。負荷として、この熱電変換モジュールの内部抵抗と同じ2.22Ωの負荷を繋ぐ、整合負荷条件で発電特性を測定した。その結果、発生した電圧は5.0Vであり、3.24Aの電流が流れ、16.2Wの電力が得られ、発電が確認された。
【0131】
(実施例II)
本実施例においては、p型の熱電変換材料について説明する。
【0132】
(実施例II−1)
純度99.9%のY、純度99.9%のEr、純度99.99%のNi、および純度99.99%のSbを原料として用意し、これを組成式Y0.5Er0.5NiSbになるように秤量した。
【0133】
秤量された原料を混合し、ア−ク炉内の水冷されている銅製のハ−スに装填して、2×10−3Paの真空度まで真空引きした。その後、純度99.999%の高純度Arを−0.04MPaまで導入して減圧Ar雰囲気として、ア−ク溶解した。溶解後、水冷されている銅製のハ−スで急冷されて得られた金属塊を、石英管に10−4Pa以下の高真空で真空封入し、1073Kで72時間熱処理した。
【0134】
得られた金属塊を粉砕し、内径20mmの金型を用いて圧力50MPaで成形した。得られた成形体を内径20mmのカーボン製モールドに充填し、Ar雰囲気中、80MPa、1200℃で1時間加圧焼結して、直径20mm円盤状の焼結体を得た。
【0135】
この焼結体を粉末X線回折法にて調べたところ、MgAgAs型結晶構造を有する相を主としていることが確認された。
【0136】
また、得られた焼結体の組成をICP発光分光法で分析した所、ほぼ所定の組成であることが確認された。
【0137】
得られた焼結体は以下の方法によって熱電特性を評価した。
【0138】
(1)抵抗率
焼結体を2mm×0.5mm×18mmに切断し、電極を形成し直流4端子法で測定した。
【0139】
(2)ゼーベック係数
焼結体を4mm×1mm×0.5mmに切断し、この両端に2℃の温度差を付け起電力を測定し、ゼーベック係数を求めた。
【0140】
(3)熱伝導率
焼結体をφ10mm×t2.0mmに切断し、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定した。これとは別にDSC測定により比熱を求めた。アルキメデス法により焼結体の密度を求め、これらより熱伝導率を算出した。
【0141】
こうして得られた抵抗率、ゼーベック係数、および熱伝導率の値を用い、前述の数式(1)により無次元性能指数ZTを求めた。300Kおよび700Kにおける抵抗率、ゼーベック係数、格子熱伝導率、および無次元性能指数は、以下のとおりである。
【0142】
300K:抵抗率47.5×10-3Ωcm
ゼーベック係数351μV/K
格子熱伝導率3.18W/mK
ZT=0.02
700K:抵抗率2.82×10-3Ωcm
ゼーベック係数311μV/K
格子熱伝導率1.79W/mK
ZT=1.04
(実施例II−1)で作製された熱電変換材料の無次元性能指数ZTの温度依存性を、図7中に曲線dとして示す。図示するように最大で1.05程度の無次元性能指数ZTが得られる。
【0143】
すでに説明したように、既存の熱電変換材料についての無次元性能指数ZTの最大値は、Bi−Te系材料の1.0である。本実施例においては、Y0.5Er0.5NiSbという組成としていることから、これを越える高性能の熱電変換材料が得られた。これは、本実施例では、ハーフホイスラー化合物ABXのB元素をNiとしていることから、パワーファクターを大きくすることができたものである。
【0144】
(比較例II−1)
純度99.9%のY、純度99.9%のEr、純度99.99%のPd、および純度99.99%のSbを原料として用意し、これを組成式Y0.5Er0.5PdSnになるように秤量した。秤量された原料粉末を用いて、実施例II−1と同様の方法で焼結体を作製し、同様の手法により熱電特性を評価した。300Kおよび700Kにおける抵抗率、ゼーベック係数、格子熱伝導率、および無次元性能指数は、以下のとおりである。
【0145】
300K:抵抗率29.0×10-3Ωcm
ゼーベック係数155μV/K
格子熱伝導率2.97W/mK
ZT=0.00
700K:抵抗率2.1×10-3Ωcm
ゼーベック係数190μV/K
格子熱伝導率1.29W/mK
ZT=0.57
本比較例では、ハーフホイスラー化合物ABXのB元素をPdとしていることから、Bi−Te系材料の1.0を越える高性能の熱電変換材料は得られなかった。
【0146】
(実施例II−2〜II−31)
組成式(Ln3Ln41−S)NiSb(Ln3,Ln4は、Y,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Ybの中から選ばれた異なる元素である)で表わされる種々の組成の熱電変換材料を、前述の実施例II−1と同様の手法により作製した。各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を前述と同様にして評価し、得られた結果を下記表12にまとめる。なお、実施例II−1についても同様に表12に示す。
【表12】

【0147】
表12に示されるように、組成式(Ln3Ln41−S)NiSb(Ln3,Ln4は、Y,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Ybの中から選ばれる元素)で表される種々の組成の熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。
【0148】
(実施例II−32〜II−51)
前述の実施例II−1で作製された組成式Y0.5Er0.5NiSbで表わされる熱電変換材料におけるY,Erの一部を、Be,Mg,Ca,Sr,Baの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式(Y0.5Er0.51−aNiSb(X=Be,Mg,Ca,Sr,Ba)で表わされる熱電変換材料を、実施例II−1と同様の手法により作製した。
【0149】
各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を評価し、得られた結果を下記表13に示す。
【表13】

【0150】
表13に示されるように、組成式(Y0.5Er0.51−aNiSb(X=Be,Mg,Ca,Sr,Ba)で表わされる熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。つまり、実施例II−2〜II−31の熱電変換材料のLn3,Ln4の一部を、Be,Mg,Ca,Sr,Baの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した組成においても同様に良好な熱電特性を有することが確認された。
【0151】
(実施例II−52〜II−63)
組成式Y0.5Er0.5NiSbで表わされる熱電変換材料におけるNiの一部を、Co,Rh,Irの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式(Y0.5Er0.5)Ni1−bSb(Z=Co,Rh,Ir)で表わされる熱電変換材料を実施例II−1と同様の手法により作製した。
【0152】
各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を評価し、得られた結果を下記表14に示す。
【表14】

【0153】
表14に示されるように、組成式(Y0.5Er0.5)Ni1−bZbSb(Z=Co,Rh,Ir)で表される熱電変換材料は、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。つまり、実施例II−2〜II−31の熱電変換材料のNiの一部を、Co,Rh,Irの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した組成においても、同様に良好な熱電特性を有することが確認された。
【0154】
実施例II−53で作製された熱電変換材料の無次元性能指数ZTの温度依存性を、曲線eとして図7のグラフに示した。実施例II−53の熱電変換材料は、実施例II−1の熱電変換材料よりも無次元性能指数ZTが高い。これは、10価のNiを9価のCoで置換したため、キャリア濃度が増加し、抵抗率が小さくなったためであると推測される。
【0155】
(実施例II−64〜II−79)
組成式Y0.5Er0.5NiSbで表される熱電変換材料におけるSbの一部を、Si,Ge,Sn,Pbの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換して、組成式(Y0.5Er0.5)NiSb1−c(T=Si,Ge,Sn,Pb)で表される熱電変換材料を実施例II−1と同様の手法により作製した。
【0156】
各熱電変換材料について、300Kおよび700Kにおける特性を評価し、得られた結果を下記表15に示す。
【表15】

【0157】
表15に示されるように、組成式(Y0.5Er0.5)NiSb1−c(T=Si,Ge,Sn,Pb)で表される熱電変換材料で、いずれも良好な熱電変換特性を有することが認められた。実施例II−2〜II−31の熱電変換材料のSbの一部を、Si,Ge,Sn,Pbの群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した組成においても、同様に良好な熱電特性を有することが確認された。
【0158】
(実施例II−80)
p型熱電変換材料として実施例II−53の熱電変換材料を使用し、n型熱電変換材料としては、組成式(Ti0.3Zr0.35Hf0.350.99Ta0.1NiSnで表わされる組成の熱電変換材料を使用して、図3に示すような熱電変換素子を作製した。このn型熱電変換材料は、実施例I−31に相当する。
【0159】
p型およびn型の各熱電変換材料とも3.0mm角、高さ10.0mmに切り出し、各60個、全120個を10列×12行になるようp,n交互に並べ、全120個をSUS410電極板で直列に接続した。さらに、銀電極板の他方の面、すなわち熱電変換素子を接合した面の反対面には窒化アルミニウム焼結体板を接合し、終端電極に電流リード線を接合して熱電変換素子を作製した。
【0160】
得られた熱電変換素子について、高温度側を570℃、低温度側を55℃にして発電特性を評価した。この温度条件における内部抵抗は、1.51Ωであった。負荷として、この熱電変換モジュールの内部抵抗と同じ1.51Ωの負荷を繋ぐ、整合負荷条件で発電特性を測定した。その結果、発生した電圧は5.68Vであり、3.76Aの電流が流れ、21.3Wの電力が得られ、熱電池として良好な発電特性を有することが確認された。
【0161】
(実施例II−81)
n型の熱電変換材料をCe0.2(Co0.97Pd0.03Sb12に変更した以外は、前述の実施例II−80と同様の手法により熱電変換素子を作成した。ここで用いたn型の熱電変換材料は、従来の材料であり、ハーフホイッスラー化合物を主相としない。
【0162】
得られた熱電変換素子について、前述と同様の条件で発電特性を評価した。この温度条件における内部抵抗は、1.23Ωであった。負荷として、この熱電変換モジュールの内部抵抗と同じ1.23Ωの負荷を繋ぐ、整合負荷条件で発電特性を測定した。その結果、発生した電圧は4.87Vであり、3.96Aの電流が流れ、19.3Wの電力が得られ、発電が確認された。
【0163】
(従来例)
p型の熱電変換材料をCeCoFeSb12に変更した以外は、前述の実施例II−81と同様の手法により熱電変換素子を作成した。ここで用いたp型の熱電変換材料は、従来の材料でありハーフホイッスラー化合物を主相としない。
【0164】
得られた熱電変換素子について、前述と同様の条件で発電特性を評価した。この温度条件における内部抵抗は、1.43Ωであった。負荷として、この熱電変換モジュールの内部抵抗と同じ1.43Ωの負荷を繋ぐ、整合負荷条件で発電特性を測定した。その結果、発生した電圧は4.80Vであり、3.37Aの電流が流れた。電力は、16.1Wにとどまっていた。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】ハーフホイスラーABXの構造を表わす模式図。
【図2】本発明の一実施形態にかかる熱電変換素子を表わす模式図。
【図3】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を表わす模式図。
【図4】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を表わす模式図。
【図5】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を表わす模式図。
【図6】本発明の一実施形態にかかる熱電変換材料の無次元性能指数の温度依存性を表わすグラフ図。
【図7】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換材料の無次元性能指数の温度依存性を表わすグラフ図。
【符号の説明】
【0166】
1…A元素,2…B元素,3…X元素,4…空孔,8…p型熱電変換材料,9…n型熱電変換材料,10,19…電極,11…絶縁性基板,14…ホール,15…電子,16…熱電変換素子,20…負荷,21…電流,22…直流電源,23…電流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する熱電変換材料の製造方法であって、
下記組成式(2)で表わされる組成を有する合金粉末を焼結法によって一体成形する工程を有することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
(Lnd(Tia2Zrb2Hfc21-dxNiySn100-x-y 組成式(2)
(上記組成式(2)中、LnはYおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも一種であり、0≦a2≦1、0≦b2≦1、0≦c2≦1、a2+b2+c2=1、0<d≦0.3、30≦x≦35、30≦y≦35である。)
【請求項2】
前記組成式(2)におけるTi,ZrおよびHfの一部が、V,Nb,Ta,Cr,Mo,およびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換されていることを特徴とする請求項1記載の熱電変換材料製造方法。
【請求項3】
前記組成式(2)におけるNiの一部が、Mn,Fe,Co,およびCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の熱電変換材料製造方法。
【請求項4】
前記組成式(2)におけるSnの一部が、As,Sb,Bi,Ge,Pb,GaおよびInからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する熱電変換材料の製造方法であって、
下記組成式(3)で表わされる組成を有する合金粉末を焼結法によって一体成形する工程を有することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
Ln1XNiYSb100-X-Y 組成式(3)
(上記組成式(3)中、Ln1は、Sc,Y,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Th,Uの中から選ばれる少なくとも一種であり、30≦X≦35、30≦Y≦35である。)
【請求項6】
MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する熱電変換材料の製造方法であって、
下記組成式(4)で表わされる組成を有する合金粉末を焼結法によって一体成形する工程を有することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
(Ln2p1-pXNiYSb100-X-Y 組成式(4)
(Ln2は、Sc,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Th,Uの中から選ばれる少なくとも一種であり、0.001≦P≦0.999、30≦X≦35、30≦Y≦35である。)
【請求項7】
前記組成式(3)におけるLn1の一部または前記組成式(4)におけるLn2の一部がTi,Zr,Hf,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Be,Mg,Ca,Sr,Baからなる群より選ばれる少なくとも一種で置換されていることを特徴とする請求項5または6に記載の熱電変換材料製造方法。
【請求項8】
前記組成式(3)または(4)におけるNiの一部がV,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Fe,Co,Rh,Ir,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Znからなる群より選ばれる少なくとも一種で置換されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項9】
前記組成式(3)または(4)におけるSbの一部がAl,Si,Ga,Ge,As,In,Sn,Pb,Biからなる群より選ばれる少なくとも一種で置換されていることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項に記載の熱電変換材料製造方法。
【請求項10】
交互に直列に接続されたp型熱電変換材料およびn型熱電変換材料を含み、前記p型熱電変換材料および前記n型熱電変換材料の少なくとも一方は、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の熱電変換材料製造方法によって製造された熱電変換材料を含むことを特徴とする熱電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−173799(P2007−173799A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326853(P2006−326853)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【分割の表示】特願2003−201294(P2003−201294)の分割
【原出願日】平成15年7月24日(2003.7.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】