説明

燃料システムおよび溶存酸素最小限化方法

【課題】サイズおよび重量効率的なシステムにおいて炭化水素燃料の脱酸素化を向上させる。
【解決手段】脱酸素システム14は、複数のガス/燃料マイクロチャネルアッセンブリ34を備える。脱酸素システム14は、複数の燃料プレート44、酸素透過性膜36、多孔質基板42および基板フレームプレート46を備え、これらのプレートおよび膜により、波状の形態が画定される。波状の形態により、効率および不可欠性が向上し、脱酸素化が促進される。作動中、燃料チャネル38を通って流れる燃料は、酸素透過性膜36と接触する。真空により、燃料チャネル38の内壁と酸素透過性膜36との間に酸素分圧差が生じ、これにより、燃料内の溶存酸素が多孔質基板42を通って移動し、燃料チャネル38から離れたスイープチャネル40を通って酸素が脱酸素システム14から流出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素による燃料安定化に関し、特に、燃料プレート燃料安定化ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料は、航空機においては、種々の航空機システムの冷媒として用いられることが多い。炭化水素ジェット燃料内に溶存酸素が存在することは、酸素により酸化反応が促進され、複数の望ましくない生成物が生じてしまうため、好ましくない。ジェット燃料内における空気の溶解により、酸素濃度が約70ppmとなる。空気混入燃料が350°F〜850°F(約177°C〜約454°C)の間で加熱されると、酸素により燃料の遊離基反応が始まり、通常、コークスまたはコーキングと呼ばれている堆積物が生じる。コークスにより、燃料ラインに悪影響が及ぶとともに燃焼が妨げられる場合がある。そのような堆積物が生じることにより、意図する熱交換作用または効果的な燃料噴射に対する燃料システムの正常な機能が損なわれてしまう。
【0003】
現在、燃料から酸素を除去するため、従来の様々な燃料脱酸素化の技術が用いられている。通常、酸素濃度を2ppmまで下げることにより、コーキングの問題は十分に克服される。
【0004】
航空機に使用されている従来の燃料安定化ユニット(FSU)では、酸素透過性の膜を横切って酸素圧力勾配を生じさせることによりジェット燃料から酸素が除去される。燃料安定化ユニットは、ハウジング内に設けられた透過性膜と多孔質基板との間に挟まれた複数の燃料プレートを備える。各燃料プレートにより、燃料通路の一部が画定され、透過性膜を支持する多孔質基板により、燃料通路の残りの部分が画定される。液体燃料の大部分が透過性膜および多孔質基板を通って移動しないように、透過性膜は燃料通路内の燃料と接触するテフロン(登録商標)または他の種類のアモルファスガラス状ポリマーコーティングを備える。
同様の形態を有する複数の平坦なプレートを用いることにより、生産効率が向上するとともに、総コストが減少する。さらに、燃料安定化ユニットのサイズおよび重量が実質的に減少する一方で、燃料からの溶存酸素の除去能力が向上する。さらに、平面的なデザインは、以前の環状のデザインと比べて容易に拡大縮小可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、不利なことに、平面的な燃料プレートは、製造が比較的困難であるとともに高価である。さらに、透過性膜は、比較的薄く(2〜5μm)、機械的な完全性を欠く場合がある。また、燃料プレートと透過性膜との接触により、透過性膜が損傷を受けることがある。損傷を受けた透過性膜により、燃料が膜を通って漏出して基板に堆積し、脱酸素に対する抵抗が生じてしまう。
【0006】
したがって、燃料の乱流および脱酸素化を向上させるとともにサイズおよび重量効率的なシステムにおいて炭化水素燃料から酸素が除去されることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるエネルギー変換装置の燃料システムは、酸素透過性膜を有する脱酸素システムを備える。スイープガスおよび真空により、燃料から酸素を除去するように酸素透過性膜を横切る酸素濃度差が維持される。脱酸素システムは、複数の燃料プレート、酸素透過性膜、多孔質基板プレートおよび真空フレームプレートを備え、これらのプレートおよび膜により、波状の形態が画定される。波状の形態により、より高いサーフェースボリューム比、乱流の増加、およびエッジの鋭さの最小限化(さもなければ、酸素透過性膜36に損傷を与えてしまう場合がある)がもたらされ、効率および不可欠性が向上することにより、脱酸素化が促進する。
【0008】
したがって、本発明により、燃料の乱流および脱酸素化を向上させるとともにサイズおよび重量効率的なシステムにおいて炭化水素燃料の脱酸素化がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1を参照すると、エネルギー変換装置(ECD)12の燃料システム10の概略図が図示されている。脱酸素システム14は、燃料タンクなどの貯蔵部16から液体燃料Fを受ける。燃料Fは、通常、ジェット燃料などの炭化水素燃料である。エネルギー変換装置12(ECD)は、種々の形態で存在していてもよく、これらの形態においては、燃料は、処理、燃焼またはある種のエネルギー放出のため最終的に使用される前のある時点において、十分な熱を受け、これにより、自動酸化反応および燃料中にかなりの量の溶存酸素が存在する場合にはコーキングが生じる。
【0010】
エネルギー変換装置12の1つの形態としては、ガスタービンエンジン、特に、高性能の航空機におけるガスタービンエンジンが挙げられる。また、燃料は、通常、航空機における1つまたは複数のサブシステム用の冷媒として作用するとともに、燃焼の直前に燃料インジェクタに供給される際に加熱される。
【0011】
熱交換セクション18は、熱交換関係で燃料がその内部を通過するシステムである。熱交換セクション18は、エネルギー変換装置12に直接対応していてもよいし、より大きなシステム10の他の場所に配設されていてもよいことを理解されたい。別の実施例として、または付加的に、熱交換システム18は、システム全体にわたって配設された複数の熱交換器を備えていてもよい。
【0012】
一般的に理解されるように、貯蔵部16に貯蔵された燃料Fは、約70ppmの飽和レベルで、溶存酸素を通常含有している。燃料ポンプ20により、燃料Fが貯蔵部16から抽出される。燃料ポンプ20により、燃料貯蔵導管22およびバルブ24を介して貯蔵部16と脱酸素システム14の燃料入口26とが連通している。燃料ポンプ20による圧力により、脱酸素システム14、および燃料システム10の他の部分を通る燃料Fの循環が促進される。燃料Fが脱酸素システム14を通過する際に、酸素がスイープガスシステム28内に選択的に除去される。
【0013】
酸素が除去された燃料Fdは、脱酸素燃料導管32を介して脱酸素システム14の燃料出口30から熱交換システム18、およびガスタービンエンジンの燃料インジェクタなどのエネルギー変換装置12まで流れる。脱酸素燃料の一部を、再循環導管33を介して脱酸素システム14または貯蔵部16まで再循環させてもよい。図示された実施例においては、構成要素の特定の配置を示しているが、他の配置であっても本発明の利点を得られることを理解されたい。
【0014】
図2を参照すると、好ましくは、脱酸素システム14は、複数のガス/燃料マイクロチャネルアッセンブリ34を備える。チャネルアッセンブリ34は、燃料チャネル38とスイープガスチャネル40などの酸素受容チャネルとの間に酸素透過性膜36を備える。スイープガスチャネル40は、窒素または他の不活性ガスを含むことが好ましい。チャネルは、燃料から酸素を除去するように膜に亘る酸素濃度差を維持する圧力差をもたらす種々の形状および配置を備えていてもよいことを理解されたい。燃料およびスイープガスは、対向する方向に流れることが望ましい。
【0015】
酸素透過性膜36としては、望ましくは、オングストロームサイズの孔を通して溶存酸素(および他のガス)を拡散させるが、より大きな燃料分子を遮断する多孔質膜、および燃料を遮断するが、酸素(および他のガス)を溶解させ、膜を通して酸素(または他のガス)を拡散させるように溶解−拡散のメカニズムを用いる透過性膜である。デュポン社(E.I.Dupont de Nemours、米国デラウェア州ウィルミントン)の「テフロン」(登録商標)の名称で認識されているポリテトラフルオロエチレン系の化合物(PTFE)により、燃料の脱酸素化に効果的な結果がもたらされることが明らかになっている。PTFE材料は、溶解−拡散のメカニズムを用いると考えられているが、配合や構造に応じてその多孔性を介して作用する場合もある。さらに、他の多孔質膜材料の例としては、50オングストロームの多孔性アルミナセラミックスまたはゼオライトの薄膜が挙げられる。さらに、別の多孔質膜の例としては、シリコーンゴムの薄膜がある。
【0016】
作動中、燃料チャネル38を通って流れる燃料は、酸素透過性膜36と接触する。真空により、燃料チャネル38の内壁と酸素透過性膜36との間に酸素分圧差が生じる。これにより、燃料内の溶存酸素の拡散が酸素透過性膜36を支持する多孔質基板42を通って移動し、燃料チャネル38から離れたスイープチャネル40を通って酸素が脱酸素システム14から流出する。燃料流で完全に満たされたマイクロチャネルにおいては、可燃性の揮発性物質の濃縮は最小限となり、膜壁上における泡の流出後に酸素が酸素透過性膜36を通って除去される(酸素透過性膜36を横切る圧力差により)。膜をベースとした燃料脱酸素システムおよび関連する構成要素の他の態様については、米国特許第6,315,815号明細書および米国特許出願第10/407,004号明細書(発明の名称:平面薄膜脱酸素装置)に記載されており、これらは、本発明の出願人に譲渡され、全体が本願の参考となる。
【0017】
図3を参照すると、脱酸素システム14のマイクロチャネルアッセンブリ34を形成する1組のプレートは、多孔質基板42に支持された隣接の酸素透過性膜36に隣接して挟持された複数の燃料プレート44を備える。多孔質基板はハニカム構造として図示されているが、種々の形態であってもよいことを理解されたい。多孔質基板42は、基板フレームプレート46内に支持される。酸素透過性膜36は、燃料チャネル38の一部を形成するように多孔質基板42により支持される(図2参照)。酸素透過性膜36および燃料プレート44の一方の側には、ガスケット48が位置する。ガスケット48により、燃料プレート44によって画定された燃料通路を横切って燃料が漏出しないように防止される。脱酸素システム14は、マイクロチャネルアッセンブリ34の数に関係なく、外側ハウジングプレート50a,50bによりシールされる。外側ハウジングプレート50a,50bは、入口26、真空ポート29および出口30をそれぞれ備える。図示された実施例では、直方形として図示されているが、当業者であれば、他の形状、サイズおよび形態が本発明の範囲内にあることを理解されるであろう。
【0018】
脱酸素システム14は、燃料入口26、燃料出口30および真空ポート29を備える。真空ポート29は、真空源と連通している。燃料は、燃料ポンプ20から入口26に向かって流れ、出口30を通ってエネルギー変換装置12まで流れる(図1参照)。
【0019】
スイープガスチャネル40は、複数の燃料プレート44により形成される。各燃料プレート44および対応する酸素透過性膜36により、入口26と出口30との間に燃料チャネル38の一部が画定される。真空ポート29は、真空ポート29fから基板フレームプレート46および多孔質基板42まで連通している。真空により、燃料チャネル38から酸素透過性膜36を通して溶存酸素を抽出するように各多孔質基板42内に分圧勾配が生じる。酸素は、真空ポート29を通って放出される。ガスケット48により、燃料プレート間の燃料の漏出が防止されるとともに、真空が多孔質基板42に伝わるように真空シールが付与される。
【0020】
燃料プレート44、酸素透過性膜36および多孔質基板フレームプレート46の特定数量は、燃料の種類、燃料温度、エンジンからの質量流量(マスフロー)の要求などのアプリケーション特有の要求条件により決定される。さらに、異なる量の溶存酸素を含有する種々の燃料には、所望の量の溶存酸素を除去するように異なる量の脱酸素化が必要となる。
【0021】
燃料プレート44により、入口26と出口30との間にスイープガスチャネル40(図4参照)が画定される。各燃料プレート44により、各燃料チャネル38の2つの側だけが画定され、酸素透過性膜36により、各燃料チャネル38の残りの側が画定される。燃料チャネル38の形態は、燃料が酸素透過性膜36と最大限に接触するように画定されることが望ましい。各燃料プレート44は、入口26fおよび出口30fを備える(図4参照)。燃料チャネル38は、酸素透過性膜36に対して燃料が最大限に露出するように形成される。これは、燃料に撹拌(mixing)または適切なフローパターンをもたらすことにより実現される。燃料チャネル38は、燃料から除去される溶存酸素量を最大にするために、透過性膜と接触する燃料の領域を最大にするように形成される。燃料チャネル38は、燃料が酸素透過性膜36と接触する程度で十分に小さいことが好ましく、また、燃料流を制限しない程度で十分に大きくなければならない。
【0022】
燃料プレート44、酸素透過性膜36、多孔質基板42、基板フレームプレート46およびガスケット48は、非平面的であることが好ましく、波形のパターンを画定することが最も好ましい。本発明においては、他の非平面的な形状を用いてもよいことを理解されたい。波状の形態により、鋭いエッジを有する形態と比べて、より高いサーフェースボリューム比、乱流の増加、およびエッジの鋭さの最小限化(さもなければ、酸素透過性膜36に損傷を与えてしまう場合がある)がもたらされ、効率および不可欠性が向上することにより脱酸素化が促進する。酸素透過性膜36およびガスケット48は、相対的に弾力性および可塑性を有する部材であって、初めから波形を備えていなくてもよく、プレート44,46,50a,50bの間に挟まれる際に、これらのプレートに適合して、非平面的な形状となることを理解されたい。
【0023】
プレート50a,50b,44,46、酸素透過性膜36およびガスケット48は、入口26と出口30との間を結んだ平面Pに対して平面的でないことが望ましい(図5参照)。すなわち、燃料チャネル38は、入口26と出口30との間で蛇行しており(図4参照)、また、その間において非平面的である(図5参照)。脱酸素システム14の非平面的な形態により、溶存酸素の大量移送を向上させるように燃料流と酸素透過性膜36との間の接触が促進される。大量移送能力が増加することにより、性能を低下させることなくサイズを減少させることができ、あるいは、同じサイズの脱酸素システム14であれば性能が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による燃料脱酸素装置を用いるエネルギー変換装置(ECD)および対応する燃料システムの概略的な構成図。
【図2】1つの燃料プレートおよび1つの酸素透過性膜を示す脱酸素システムの一部分の概略断面図。
【図3】複数の燃料プレート、酸素透過性膜および基板プレートを示す脱酸素システムの分解図。
【図4】本発明に用いられる非平面的な燃料プレートの斜視図。
【図5】蛇行形態によりもたらされる付加的な表面積を示す酸素透過性膜の概略図。
【符号の説明】
【0025】
10…燃料システム
12…エネルギー変換装置
14…脱酸素システム
16…貯蔵部
18…熱交換システム
20…燃料ポンプ
22…燃料貯蔵導管
24…バルブ
26…燃料入口
28…スイープガスシステム
29…真空ポート
30…燃料出口
32…脱酸素燃料導管
33…再循環導管
34…ガス/燃料マイクロチャネルアッセンブリ
36…酸素透過性膜
38…燃料チャネル
40…スイープガスチャネル
42…多孔質基板
44…燃料プレート
46…基板フレームプレート
48…ガスケット
50…外側ハウジングプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料チャネルと、
酸素受容チャネルと、
前記燃料チャネルおよび前記酸素受容チャネルと連通するとともに、非平面的な面を有する酸素透過性膜と、
を備える燃料システム。
【請求項2】
前記酸素透過性膜が、波形のパターンを画定することを特徴とする請求項1に記載の燃料システム。
【請求項3】
前記酸素透過性膜が波形のパターンを画定するように、前記酸素透過性膜を支持する非平面的な基板プレートをさらに備える請求項1に記載の燃料システム。
【請求項4】
非平面的な燃料プレートと、
非平面的な基板プレートと、
一方の側に燃料チャネルを画定し、かつ他方の側に酸素受容チャネルを画定するように前記非平面的な基板プレートに隣接して取付けられた酸素透過性膜と、
を備える燃料システム。
【請求項5】
前記非平面的な燃料プレートが、波状のパターンを画定することを特徴とする請求項4に記載の燃料システム。
【請求項6】
前記非平面的な基板プレートが、波状のパターンを画定することを特徴とする請求項4に記載の燃料システム。
【請求項7】
前記酸素受容チャネルが、前記チャネルを通して不活性ガスを導くことを特徴とする請求項4に記載の燃料システム。
【請求項8】
前記酸素受容チャネルが、前記チャネル内の真空を画定することを特徴とする請求項4に記載の燃料システム。
【請求項9】
前記酸素透過性膜が波状のパターンを画定するように、前記非平面的な基板プレートが前記酸素透過性膜を支持することを特徴とする請求項4に記載の燃料システム。
【請求項10】
燃料システム内の溶存酸素を最小限化する方法であって、
(1)溶存酸素を含有する液体燃料流に隣接する非平面的な面を画定する酸素透過性膜を位置決めするステップと、
(2)前記酸素透過性膜を通して前記酸素を引き込むように、前記酸素透過性膜に沿ってスイープガスを流すステップと、
を含む溶存酸素最小限化方法。
【請求項11】
前記(1)の位置決めするステップが、前記酸素透過性膜を支持するステップをさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の溶存酸素最小限化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−343093(P2006−343093A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159413(P2006−159413)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】