説明

燃料フィルタ

【課題】濾紙をひだ折りしたフィルタエレメントの長寿命化を図る。
【解決手段】第1フィルタエレメント31は、濾紙をひだ折りして山折り部311と谷折り部312間に中間壁面313が形成され、燃料が第1フィルタエレメント31の外周側から内周側に流通するように構成され、中間壁面313に連通孔314が設けられている。連通孔314を通過した燃料中の異物は、対向する中間壁面313の裏面内周側の面に衝突して裏面の濾目で捕捉される。この時、燃料が連通孔314を通過する際に発生する噴流により流れが拡散し、連通孔314の面積よりも中間壁面313の裏面への衝突面積の方が大きくなるため、それらの面積差分だけ異物を捕捉できる面積が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料中の異物を除去する燃料フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮着火式内燃機関用燃料フィルタは、燃料中の微小異物をフィルタ下流の高圧ポンプやインジェクタに流出させない機能が求められ、濾紙をひだ折りしたフィルタエレメントが多用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−223028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、濾紙をひだ折りしたフィルタエレメントは、濾材をハニカム状にしたフィルタエレメントと比較して、単位体積当りの濾過面積が小さいため、濾過寿命が短いという問題があった。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、濾紙をひだ折りしたフィルタエレメントの長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、濾紙をひだ折りして山折り部(311)と谷折り部(312)間に中間壁面(313)が形成され、且つ円筒状に成形されて燃料中の異物を捕捉する第1フィルタエレメント(31)と、第1フィルタエレメント(31)よりも燃料流れ下流側に配置されて、燃料中の異物を捕捉する第2フィルタエレメント(32)とを備える燃料フィルタであって、燃料が第1フィルタエレメント(31)の外周側から内周側に流通するように構成され、中間壁面(313)に連通孔(314)を備えることを特徴とする。
【0007】
これによると、連通孔(314)を通過した燃料中の異物は、対向する中間壁面(313)の裏面(内周側の面)に衝突して裏面の濾目で捕捉される。この時、燃料が連通孔(314)を通過する際に発生する噴流により流れが拡散し、連通孔(314)の面積よりも中間壁面(313)の裏面への衝突面積の方が大きくなるため、それらの面積差分だけ異物を捕捉できる面積が増加する。したがって、濾紙をひだ折りした第1フィルタエレメント(31)の長寿命化を図ることができる。
【0008】
また、第1フィルタエレメント(31)において捕捉できなかった異物、および中間壁面(313)の裏面に捕捉後に中間壁面(313)の表面から継続的に作用する燃料圧により剥離した異物は、連通孔(314)を備えていない第2フィルタエレメント(32)で再捕捉されるため、異物がフィルタ下流に流出するのを防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の燃料フィルタにおいて、第2フィルタエレメント(32)は、円筒状に成形されて、第1フィルタエレメント(31)の内周側に同心状に配置されていることを特徴とする。これによると、フィルタの大型化を抑制することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の燃料フィルタにおいて、1つの中間壁面(313)に連通孔(314)を複数個備えることを特徴とする。
【0011】
これによると、中間壁面(313)の裏面での異物捕捉量を増加させることができるため、第1フィルタエレメント(31)のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料フィルタにおいて、連通孔(314)は、連通孔(314)内の燃料流れ方向に沿って広がるテーパ形状であることを特徴とする。
【0013】
これによると、中間壁面(313)の裏面への衝突面積が大きくなり、中間壁面(313)の裏面での異物捕捉量を増加させることができるため、第1フィルタエレメント(31)のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料フィルタにおいて、連通孔(314)は、連通孔(314)内の燃料流れ方向に沿って狭まるテーパ形状であることを特徴とする。
【0015】
これによると、連通孔(314)を通過した燃料の流速が高まり、異物は対向する中間壁面(313)の奥まで侵入するため、中間壁面(313)の表面から継続的に作用する燃料圧を受けても、捕捉された異物は剥離し難い。
【0016】
請求項6に記載の発明のように、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料フィルタにおいて、山折り部(311)を挟んで隣接する2つの中間壁面(313)のうち、一方の中間壁面(313)のみに連通孔(314)を設けてもよい。
【0017】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料フィルタにおいて、全ての中間壁面(313)に連通孔(314)を備えることを特徴とする。
【0018】
これによると、中間壁面(313)の裏面での異物捕捉量を増加させることができるため、第1フィルタエレメント(31)のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0019】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料フィルタの断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図2のB部の拡大断面図である。
【図4】図3のC−C線に沿う断面図である。
【図5】図3のD部の拡大断面図である。
【図6】変形例を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について説明する。図1は本実施形態に係る燃料フィルタの断面図、図2は図1のA−A線に沿う断面図、図3は図2のB部の拡大断面図、図4は図3のC−C線に沿う断面図、図5は図3のD部の拡大断面図である。
【0022】
本実施形態の燃料フィルタは、図示しない内燃機関(具体的には、圧縮着火式内燃機関または火花点火式内燃機関)用の燃料供給システムに用いられる。
【0023】
図1、図2に示すように、燃料フィルタは、ハウジング1、カバー2、異物捕捉部3等から構成されている。なお、図1中の矢印は、燃料の流れを示している。
【0024】
ハウジング1は、金属または樹脂よりなり、上側に開口部を有する有底円筒状に形成されている。カバー2は、金属または樹脂よりなり、ハウジング1の開口部に嵌合固定されてハウジング1の開口部を塞いでいる。そして、カバー2とハウジング1とにより、異物捕捉部3を収容する収容空間4が形成されている。また、カバー2は、収容空間4に連通する燃料入口通路21、および後述する中心部通路69に連通する燃料出口通路22を備えている。
【0025】
異物捕捉部3は、燃料中の異物を捕捉する第1、第2フィルタエレメント31、32を備えている。2つのフィルタエレメント31、32は、全体形状が略円筒状に成形され、同心状に配置されている。より詳細には、第1フィルタエレメント31の内周側に第2フィルタエレメント32が配置されている。
【0026】
また、燃料入口通路21から収容空間4に流入した燃料は、第1フィルタエレメント31の外周側から内周側に流通した後に、第2フィルタエレメント32の外周側から内周側に流通し、さらに中心部通路69を介して燃料出口通路22に至るようになっている。換言すると、第1フィルタエレメント31よりも燃料流れ下流側に、第2フィルタエレメント32が配置されている。
【0027】
図3、図4に示すように、第1フィルタエレメント31は、濾紙をひだ折りしたものであり、山折り部311と谷折り部312間に中間壁面313が形成されている。より詳細には、第1フィルタエレメント31は、その軸線に直角な断面形状が三角波状(すなわち、菊花状)になるようにひだ折りされている。そして、山折り部311を挟んで隣接し且つ対向する2つの中間壁面313のうち、一方の中間壁面のみに連通孔314が1個形成されている。この連通孔314は、通路面積が一定の円形の孔である。
【0028】
第2フィルタエレメント32は、濾紙をひだ折りしたものであり、その軸線に直角な断面形状が三角波状ないしは菊花状になっている。なお、第2フィルタエレメント32は、第1フィルタエレメント31における連通孔314に相当するものは形成されていない。
【0029】
図1に示すように、2つのフィルタエレメント31、32の軸方向両端には、金属または樹脂よりなる円盤状の第1、第2エンドプレート51、52が、2つのフィルタエレメント31、32の各端面を覆うようにして配置されている。2つのフィルタエレメント31、32と2つのエンドプレート51、52は、接着剤にて接合されている。そして、2つのフィルタエレメント31、32間に中間通路61が形成され、第2フィルタエレメント32の内周側に中心部通路69が形成されている。
【0030】
上記構成になる燃料フィルタの作用を説明する。燃料入口通路21を介して収容空間4に流入した燃料は、第1フィルタエレメント31、中間通路61、第2フィルタエレメント32、および中心部通路69を通って燃料出口通路22に至る。
【0031】
この際、燃料中の異物の大部分は、第1フィルタエレメント31の表面(外周側の面)の濾目で捕捉される。
【0032】
一方、図5に示すように、連通孔314を通過する燃料中の異物は、対向する中間壁面313の裏面(内周側の面)に衝突して裏面の濾目で捕捉される。このとき、燃料が連通孔314を通過する際に発生する噴流により、破線で示すように流れが拡散し、連通孔314の通路面積よりも中間壁面313の裏面への衝突面積の方が大きくなるため、それらの面積差分だけ異物を捕捉できる面積が増加する。
【0033】
ここで、菊花型エレメントにおいては、山折り部311および中間壁面313に対し直角方向に燃料が流れるため、連通孔314を高流量で通過する燃料eは、対向する中間壁面313を通過する燃料fおよび山折り部311を通過する燃料gと干渉し、エレメント中心部H(図2参照)方向に流路が変化する。
【0034】
しかし、連通孔314を通過した燃料eの流路が変化しても、連通孔314を通過した燃料e中の異物はその自重による慣性力が作用するため、連通孔314を通過した直後の流れ方向をほぼ維持したまま進んで、対向する中間壁面313の裏面に衝突することができる。
【0035】
なお、連通孔314を通過した燃料eの流路変化が大きくて、対向する中間壁面313の裏面への異物衝突量低下が懸念される場合は、本実施形態のように、対向する中間壁面313および山折り部311には連通孔を設置せず、対向する中間壁面313を通過する燃料fおよび山折り部311を通過する燃料gの通過流量を小さくして、前記の流路変化を低減するのが望ましい。
【0036】
また、第1フィルタエレメント31において捕捉できなかった異物、および中間壁面313の裏面に捕捉後に中間壁面313の表面から継続的に作用する燃料圧により剥離した異物は、連通孔を備えていない第2フィルタエレメント32で再捕捉される。
【0037】
以上述べたように、本実施形態では、連通孔314を通過した燃料中の異物は、対向する中間壁面313の裏面でも捕捉され、異物を捕捉できる面積が増加するため、第1フィルタエレメント31の長寿命化を図ることができる。
【0038】
また、第1フィルタエレメント31において捕捉できなかった異物、および中間壁面313の裏面に捕捉後に剥離した異物は、連通孔314を備えていない第2フィルタエレメントで再捕捉されるため、異物がフィルタ下流に流出するのを防止することができる。
【0039】
さらに、円筒状の2つのフィルタエレメント31、32を同心状に配置しているため、フィルタの大型化を抑制することができる。
【0040】
上記実施形態においては、1つの中間壁面313に対して連通孔314を1個形成したが、図6(a)に示す第1変形例のように、1つの中間壁面313に対して連通孔314を複数個形成してもよい。これによると、中間壁面313の裏面での異物捕捉量を増加させることができるため、第1フィルタエレメント31のさらなる長寿命化を図ることができる。なお、図6(a)に示すように、第1フィルタエレメント31の径方向に沿って連通孔314を複数個配置してもよいし、或いは、第1フィルタエレメント31の軸方向に沿って連通孔314を複数個配置してもよい。
【0041】
上記実施形態においては、連通孔314の通路面積を一定にしたが、図6(b)に示す第2変形例のように、連通孔314は、連通孔314内の燃料流れ方向に沿って広がるテーパ形状にしてもよい。これによると、中間壁面313の裏面への衝突面積が大きくなり、中間壁面313の裏面での異物捕捉量を増加させることができるため、第1フィルタエレメント31のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0042】
上記実施形態においては、連通孔314の通路面積を一定にしたが、図6(c)に示す第3変形例のように、連通孔314は、連通孔314内の燃料流れ方向に沿って狭まるテーパ形状にしてもよい。これによると、連通孔314を通過した燃料の流速が高まり、異物は対向する中間壁面313の奥まで侵入するため、中間壁面313の表面から継続的に作用する燃料圧を受けても、捕捉された異物は剥離し難い。
【0043】
上記実施形態においては、山折り部311を挟んで隣接し且つ対向する2つの中間壁面313のうち、一方の中間壁面のみに連通孔314を形成したが、図6(d)に示す第4変形例のように、全ての中間壁面313に連通孔314を形成してもよい。これによると、中間壁面313の裏面での異物捕捉量を増加させることができるため、第1フィルタエレメント31のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0044】
この場合、一方の中間壁面313の連通孔314を通過した燃料流と、他方の中間壁面313の連通孔314を通過した燃料流との干渉を避けるために、両者の連通孔314は、図6(d)に示すように、第1フィルタエレメント31の径方向に沿ってずらして配置するか、或いは、第1フィルタエレメント31の軸方向に沿ってずらして配置するのが望ましい。
【0045】
上記実施形態においては、第1フィルタエレメント31および第2フィルタエレメント32は、その軸線に直角な断面形状が三角波状になるようにひだ折りした後に略円筒状に成形したが、軸線に直角な断面形状が正弦波状または矩形波状になるようにひだ折りした後に略円筒状に成形してもよい。なお、上記実施形態および変型例は、実施可能な範囲で任意に組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0046】
31 第1フィルタエレメント
32 第2フィルタエレメント
311 山折り部
312 谷折り部
313 中間壁面
314 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾紙をひだ折りして山折り部(311)と谷折り部(312)間に中間壁面(313)が形成され、且つ円筒状に成形されて燃料中の異物を捕捉する第1フィルタエレメント(31)と、
前記第1フィルタエレメント(31)よりも燃料流れ下流側に配置されて、燃料中の異物を捕捉する第2フィルタエレメント(32)とを備える燃料フィルタであって、
燃料が前記第1フィルタエレメント(31)の外周側から内周側に流通するように構成され、前記中間壁面(313)に連通孔(314)を備えることを特徴とする燃料フィルタ。
【請求項2】
前記第2フィルタエレメント(32)は、円筒状に成形されて、前記第1フィルタエレメント(31)の内周側に同心状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料フィルタ。
【請求項3】
1つの前記中間壁面(313)に前記連通孔(314)を複数個備えることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料フィルタ。
【請求項4】
前記連通孔(314)は、前記連通孔(314)内の燃料流れ方向に沿って広がるテーパ形状であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料フィルタ。
【請求項5】
前記連通孔(314)は、前記連通孔(314)内の燃料流れ方向に沿って狭まるテーパ形状であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料フィルタ。
【請求項6】
前記山折り部(311)を挟んで隣接する2つの前記中間壁面(313)のうち、一方の中間壁面(313)のみに前記連通孔(314)を備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料フィルタ。
【請求項7】
全ての前記中間壁面(313)に前記連通孔(314)を備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−132401(P2012−132401A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286813(P2010−286813)
【出願日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】