説明

燃料供給装置

【課題】内燃機関2を始動する際に気体燃料を噴射供給する場合に、必要な供給量を確保できずに失火したり、また、着火が維持できたとしても、内燃機関2の回転数の立ち上がりが遅くなって応答性が低くなったりする虞を低減する。
【解決手段】内燃機関2を始動する際に気体燃料を噴射供給する場合、必要な供給量の確保が最も困難になるのは、燃焼室3への吸気一発目である。そこで、気体燃料供給手段7により吸気ライン6に気体燃料を供給した後、スタータ10による内燃機関2の始動を開始するように制御手段8を組み立てる。これにより、燃焼室3への吸気一発目が行われる前に、予め吸気ライン6に充分な気体燃料を充填しておくことができるので、必要な供給量が確保できずに失火したり、また、内燃機関2の回転数の立ち上がりが遅くなって応答性が低くなったりする虞を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に燃料を供給する燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関に燃料を供給する燃料供給装置では、例えば、噴射供給された燃料が液体のまま燃焼室の壁面等に付着することに起因して、排気ガスの未燃HCやPM等が増加する問題がある。そこで、特許文献1には、冷間時に内燃機関を始動する冷間始動時に液体燃料を気化させた気体燃料を噴射供給することで、排気ガスの未燃HCやPM等を抑制する技術が開示されている。
【0003】
しかし、気体燃料を噴射供給する場合、必要な供給量を確保するには、液体燃料を噴射供給する場合に比べて長い供給期間が必要となる。このため、内燃機関を始動する際に気体燃料を噴射供給する場合、必要な供給量が確保できずに失火する虞がある。また、着火が維持できたとしても、内燃機関の回転数の立ち上がりが遅くなって応答性が低くなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−343365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関に燃料を供給する燃料供給装置において、内燃機関を始動する際に気体燃料を噴射供給する場合に、必要な供給量を確保できずに失火したり、また、着火が維持できたとしても、内燃機関の回転数の立ち上がりが遅くなって応答性が低くなったりする虞を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段によれば、燃料供給装置は、内燃機関の燃焼室、または内燃機関の燃焼室に通じる吸気ラインのいずれか一方に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、液体燃料を気化して気体燃料にする燃料気化手段と、燃料気化手段により得られる気体燃料を吸気ラインに供給する気体燃料供給手段と、気体燃料供給手段により吸気ラインに気体燃料を供給した後、内燃機関の始動を開始し、その後に、内燃機関への燃料の供給を気体燃料供給手段による気体燃料の供給から液体燃料供給手段による液体燃料の供給に切り替える制御手段とを備える。
【0007】
ここで、内燃機関を始動する際に気体燃料を噴射供給する場合、必要な供給量の確保が最も困難になるのは、燃焼室への吸気一発目である。そこで、燃焼室への吸気一発目において必要な供給量を確保するため、制御手段を以下のように組み立てる。つまり、気体燃料供給手段により吸気ラインに気体燃料を供給した後、回転電機等による内燃機関の始動を開始するように制御手段を組み立てる。
【0008】
これにより、内燃機関の始動前、つまり、燃焼室への吸気一発目が行われる前に、予め吸気ラインに充分な気体燃料を充填しておくことができる。このため、吸気一発目から充分な気体燃料を燃焼室に供給することができるので、必要な供給量が確保できずに失火したり、また、内燃機関の回転数の立ち上がりが遅くなって応答性が低くなったりする虞を低減することができる。
【0009】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段によれば、吸気ラインは、内燃機関の気筒数と同数に分岐して内燃機関に接続している。また、気体燃料供給手段は、気体燃料を噴射する噴射弁を内燃機関の気筒数と同数だけ有し、分岐後の吸気ラインごとに1つの噴射弁が配置されている。そして、制御手段は、全ての噴射弁を開弁させて分岐後の吸気ラインのそれぞれに気体燃料を供給した後、内燃機関の始動を開始する。
これにより、内燃機関の始動前に、分岐後の吸気ラインごとに充分な気体燃料を充填しておくことができる。
【0010】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段によれば、吸気ラインは、内燃機関の気筒数と同数に分岐して内燃機関に接続している。また、気体燃料供給手段は、分岐後の吸気ラインのそれぞれに接続して気体燃料を供給する第1供給路と、分岐前の吸気ラインに接続して気体燃料を供給する第2供給路と、吸気ラインへの気体燃料の供給路を第1供給路と第2供給路との間で切り替える切替手段とを有する。そして、制御手段は、第1供給路を通じて分岐後の吸気ラインのそれぞれに気体燃料を供給した後、内燃機関の始動を開始し、その後に吸気ラインへの気体燃料の供給路を第1供給路から第2供給路に切り替える。
【0011】
これにより、分岐後の吸気ラインごとに噴射弁を配置しなくても、内燃機関の始動前に、分岐後の吸気ラインごとに充分な気体燃料を充填しておくことができる。このため、気体燃料供給手段を構成する機器数を削減することができる。
【0012】
〔請求項4の手段〕
請求項4の手段によれば、燃料気化手段は、液体燃料が気化する空間を形成する気化容器と、気化容器に液体燃料を噴射する第2噴射弁と、気化容器に接続して気化容器に大気を導入する大気導入路と、大気導入路に組み込まれて気化容器からの逆流を阻止する逆止弁とを有する。
【0013】
気体燃料の噴射供給に伴う失火の虞や応答性低下の虞は、冷間始動時において顕著に高くなる。すなわち、冷間始動時には、エンジンルーム内が例えば常温のような低温であるため、気化容器に大気を導入できない場合、気体燃料の供給圧に相当する気化容器内の圧力は、常温における燃料の飽和蒸気圧相当までしか高まらない虞がある。このため、内燃機関の始動前に気体燃料の供給期間を長く設定しても、必要な供給量の気体燃料を吸気ラインに充填できない虞がある。
【0014】
そこで、気化容器に大気導入が可能となるように、かつ、気化容器から大気側への逆流阻止が可能となるように燃料気化手段を設ける。これにより、大気導入によって気化容器内の圧力を大気圧相当まで高めた上で気化容器に液体燃料を噴射することで、気化容器内の圧力を、大気圧相当の圧力に燃料の飽和蒸気圧相当の圧力を加算したレベルまで高めることができる。このため、冷間始動時でも気体燃料の供給圧を高めることができるので、冷間始動時において、内燃機関の始動前に必要な供給量の気体燃料を吸気ラインに充填しておくことができる。
【0015】
〔請求項5の手段〕
請求項5の手段によれば、大気導入路には、気化容器からの逆流に関して逆止弁よりも下流側に、気体燃料を吸着するキャニスタが組み込まれている。
これにより、逆止弁に大気側への漏れが発生しても、キャニスタによって気体燃料を吸着して大気への気体燃料の放出を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】燃料供給装置の構成図である(実施例1)。
【図2】燃料供給装置の動作を示すタイムチャートである(実施例1)。
【図3】燃料供給装置の制御フローを示すフローチャートである(実施例1)。
【図4】燃料供給装置の構成図である(実施例2)。
【図5】燃料供給装置の動作を示すタイムチャートである(実施例2)。
【図6】燃料供給装置の構成図である(実施例3)。
【図7】燃料供給装置の構成図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態1の燃料供給装置は、内燃機関の燃焼室、または内燃機関の燃焼室に通じる吸気ラインのいずれか一方に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、液体燃料を気化して気体燃料にする燃料気化手段と、燃料気化手段により得られる気体燃料を吸気ラインに供給する気体燃料供給手段と、気体燃料供給手段により吸気ラインに気体燃料を供給した後、内燃機関の始動を開始し、その後に、内燃機関への燃料の供給を気体燃料供給手段による気体燃料の供給から液体燃料供給手段による液体燃料の供給に切り替える制御手段とを備える。
【0018】
吸気ラインは、内燃機関の気筒数と同数に分岐して内燃機関に接続している。また、気体燃料供給手段は、気体燃料を噴射する噴射弁を内燃機関の気筒数と同数だけ有し、分岐後の吸気ラインごとに1つの噴射弁が配置されている。そして、制御手段は、全ての噴射弁を開弁させて分岐後の吸気ラインのそれぞれに気体燃料を供給した後、内燃機関の始動を開始する。
【0019】
実施形態2の燃料供給装置によれば、吸気ラインは、内燃機関の気筒数と同数に分岐して内燃機関に接続している。また、気体燃料供給手段は、分岐後の吸気ラインのそれぞれに接続して気体燃料を供給する第1供給路と、分岐前の吸気ラインに接続して気体燃料を供給する第2供給路と、吸気ラインへの気体燃料の供給路を第1供給路と第2供給路との間で切り替える切替手段とを有する。そして、制御手段は、第1供給路を通じて分岐後の吸気ラインのそれぞれに気体燃料を供給した後、内燃機関の始動を開始し、その後に吸気ラインへの気体燃料の供給路を第1供給路から第2供給路に切り替える。
【0020】
実施形態3の燃料供給装置によれば、燃料気化手段は、液体燃料が気化する空間を形成する気化容器と、気化容器に液体燃料を噴射する第2噴射弁と、気化容器に接続して気化容器に大気を導入する大気導入路と、大気導入路に組み込まれて気化容器からの逆流を阻止する逆止弁とを有する。
実施形態4の燃料供給装置によれば、大気導入路には、気化容器からの逆流に関して逆止弁よりも下流側に、気体燃料を吸着するキャニスタが組み込まれている。
【実施例】
【0021】
〔実施例1の構成〕
実施例1の燃料供給装置1の構成を、図1を用いて説明する。
燃料供給装置1は、例えば、内燃機関2の燃焼室3に直接的に液体燃料を噴射供給することを主動作とするものであり、例えば、液体燃料としてのガソリンを内燃機関2に供給する。
【0022】
そして、燃料供給装置1は、内燃機関2の燃焼室3に液体燃料を供給する液体燃料供給手段4と、液体燃料を気化して気体燃料にする燃料気化手段5と、燃料気化手段5により得られる気体燃料を吸気ライン6に供給する気体燃料供給手段7と、液体燃料供給手段4、燃料気化手段5、および気体燃料供給手段7が有する各種機器の動作を制御する制御手段8とを備える。
【0023】
ここで、内燃機関2は、直流電動機(図示せず)を具備する周知のスタータ10により始動されるものであり、スタータ10が具備する直流電動機の出力によって始動される。なお、スタータ10は、例えば長時間の内燃機関2の停止後の冷間時、および、例えばアイドルストップ後の温間時のいずれにおいても、制御手段8からの指令により起動されて内燃機関2を始動させる。
【0024】
また、吸気ライン6は、スロットル装置11、インテークマニホールド12等を有する周知の構成である。また、インテークマニホールド12は、新気を主成分とする吸入ガスを受け入れるサージタンク13と、サージタンク13から分岐して吸入ガスを複数の燃焼室3に順次に導く複数の分岐管14とを有する周知の構成である。つまり、吸気ライン6は、インテークマニホールド12において、内燃機関2の気筒数と同数に分岐して内燃機関2に接続している。
【0025】
液体燃料供給手段4は、液体燃料を貯留する燃料タンク16から液体燃料を汲み上げる低圧フィードポンプ17と、低圧フィードポンプ17により汲み上げられた液体燃料を高圧化して吐出する高圧ポンプ18と、高圧ポンプ18から吐出された液体燃料を高圧状態で蓄圧する蓄圧容器としてのコモンレール19と、燃焼室3ごとに内燃機関2に搭載され、コモンレール19から高圧の液体燃料の分配を受けて燃焼室3に液体燃料を噴射するインジェクタ20とを有する。
【0026】
低圧フィードポンプ17、高圧ポンプ18、コモンレール19およびインジェクタ20は周知の構造を有するものであり、低圧フィードポンプ17、高圧ポンプ18およびインジェクタ20は、制御手段8から与えられる指令に応じて動作を制御される。また、コモンレール19は、蓄圧する液体燃料の燃料圧を検出する圧力センサ21を有し、圧力センサ21の検出信号は制御手段8に出力されて低圧フィードポンプ17、高圧ポンプ18およびインジェクタ20の制御に利用される。
【0027】
燃料気化手段5は、液体燃料が気化する空間を形成する気化容器23と、気化容器23に液体燃料を噴射する噴射弁24Aとを有する。
【0028】
気化容器23は、例えば、内燃機関2のシリンダーブロックに取り付けられている。このため、温間時の気化容器23内は、エンジン冷却水から伝熱されて高温状態に保たれ、液体燃料が気化しやすい状態になっている。また、気化容器23内には、気体燃料の取り出し口25を噴射弁24Aの噴射口に対して遮蔽する遮蔽板26が設けられ、遮蔽板26は、噴射弁24Aから噴射された液体燃料が気体燃料に混入して取り出されるのを防止している。
【0029】
なお、気化容器23の底部には、噴射された液体燃料の内、気化することなく溜まった液体燃料や、一旦気化した後、再度、液化することで溜まった液体燃料を燃料タンク16に戻すための戻し流路27が接続している。そして、戻し流路27には開閉弁28が配置され、開閉弁28は、気化容器23内の液体燃料の液面に応じて戻し流路27を開閉する。これにより、気化容器23内は、必要な供給量に応じた気体燃料が得られるように最適な状態に保たれる。
【0030】
噴射弁24Aは、気化容器23に搭載されて、液体燃料の噴射口を有する先端部が気化容器23内に突出する。また、噴射弁24Aに液体燃料を供給するための液体燃料供給路29aは、低圧フィードポンプ17から高圧ポンプ18に液体燃料を供給するための液体燃料供給路29bから分岐している。そして、液体燃料供給路29aは、通過する液体燃料が、例えばエンジン冷却水と伝熱可能となるように構成され、温間時には、エンジン冷却水からの伝熱により高温になった液体燃料が噴射弁24Aに供給されて気化容器23内に噴射される。このため、気化容器23内における液体燃料の気化がさらに促進される。
【0031】
気体燃料供給手段7は、気体燃料を噴射する噴射弁24Bを内燃機関2の気筒数と同数だけ有し、インテークマニホールド12の分岐管14ごとに1つの噴射弁24Bが配置されている。そして、それぞれの噴射弁24Bは、気体燃料の噴射口を有する先端部が分岐管14内に突出しており、分岐管14内に気体燃料を噴射する。
【0032】
また、気体燃料供給手段7は、気体燃料をそれぞれの噴射弁24Bに供給する気体燃料供給路30を有する。ここで、気体燃料供給路30は、気化容器23における気体燃料の取り出し口25と、それぞれの噴射弁24Bにおける気体燃料の入口とを接続するものであり、気化容器23からそれぞれの噴射弁24Bに向かう途中で噴射弁24Bと同数に分岐している。
【0033】
制御手段8は、コモンレール19に装着された圧力センサ21やその他の各種センサから入力される検出信号に基づき、液体燃料供給手段4、燃料気化手段5および気体燃料供給手段7等を構成する各種機器を駆動制御する。すなわち、制御手段8は、各種検出信号の入力を受けるとともに各種機器を制御するための制御信号を合成して出力するマイコン(図示せず)、制御信号の入力を受けて電源(図示せず)から各種機器に電力を供給する電力変換器(図示せず)等により構成されている。
【0034】
なお、マイコンは、制御処理および演算処理を行うCPU、各種のデータおよびプログラム等を記憶するROMおよびRAM等の記憶装置、入力装置、ならびに出力装置等を含んで構成される周知構造を有するものである。
【0035】
また、制御手段8は、気体燃料供給手段7による気体燃料の供給に関し、次のような制御を行なう。すなわち、制御手段8は、気体燃料供給手段7によりインテークマニホールド12の分岐管14に気体燃料を供給して充填した後、スタータ10による内燃機関2の始動を開始し、その後に、内燃機関2への燃料の供給を気体燃料供給手段7による気体燃料の供給から液体燃料供給手段4による液体燃料の供給に切り替える。また、制御手段8は、全ての噴射弁24Bを開弁させて分岐管14に気体燃料を充填した後、スタータ10を起動して内燃機関2の始動を開始する。
【0036】
〔実施例1の制御方法〕
以下、制御手段8による気体燃料の供給に係わる制御方法を、図2のタイムチャートおよび図3のフローチャートに基づいて説明する。
ここで、図3のフローチャートに示された制御フローは、冷間時または温間時に係わらず停止している内燃機関2を始動させる前に処理が始まるものであり、内燃機関2が冷間時である場合、例えばIGオンとともに処理が始まり、内燃機関2が温間時である場合、例えばアイドルストップに伴う内燃機関2の停止とともに処理が始まる。
【0037】
図3のフローチャートによれば、まず、ステップS1で、内燃機関2が冷間時であるか否かを判定する。
内燃機関2が冷間時であるか否かは、例えば、エンジン冷却水の温度により判定することができる。そして、エンジン冷却水の温度が低い場合、内燃機関2が冷間時であると判定して(YES)ステップS2に進み、エンジン冷却水の温度が高い場合、内燃機関2が冷間時ではなく温間時であると判定して(NO)ステップS3に進む。
【0038】
ステップS2では、気体燃料を分岐管14に供給して充填するための準備を行う。すなわち、内燃機関2が冷間時である場合、気化容器23内にはさほど気体燃料が存在していない可能性が高いので、噴射弁24Aを開弁させて気化容器23内に液体燃料を噴射し、気化容器23内に充分な気化燃料を発生させる。このとき、低圧フィードポンプ17が停止していれば、噴射弁24Aを開弁させる前に、低圧フィードポンプ17を起動して噴射弁24Aによる液体燃料の噴射圧を高めておく。
【0039】
ステップS3では、気体燃料を分岐管14ごとに噴射して供給する。そこで、ステップS3では、まず、気体燃料の必要な充填量を算出し、算出した充填量や気化容器23の圧力等に基づいて噴射弁24Bの開弁期間を算出する。そして、算出した開弁期間に応じて、全ての噴射弁24Bを開弁させて分岐管14ごとに気体燃料を噴射して充填する(図2の期間イ参照:期間イは、気体燃料の分岐管14への充填期間である。)。
【0040】
ここで、算出すべき必要な充填量は、全ての燃焼室3への吸気および着火が所定回数ずつ行なわれる間に、それぞれの燃焼室3でストイキ燃焼するのに必要な燃料の質量合計として算出され、例えば、全ての燃焼室3への吸気および着火が1回ずつ行なわれる間に(つまり、クランクシャフトが2回転する間に)、それぞれの燃焼室3でストイキ燃焼するのに必要な燃料の質量合計として算出される。
【0041】
ステップS4では、スタータ10を起動させて内燃機関2の始動を開始する。すなわち、制御手段8は、気体燃料供給手段7により吸気ライン6に気体燃料を供給した後、スタータ10による内燃機関2の始動を開始する。より具体的には、制御手段8は、全ての噴射弁24Bを開弁させて分岐管14に気体燃料を供給して充填した後、スタータ10を起動して内燃機関2の始動を開始する。
【0042】
ステップS5では、充填された気体燃料の消費が終了したか否かを判定する。この判定の基準は、例えば、ステップS3で設定されている吸気および着火の回数に応じて異なり、上記のように、設定されている吸気および着火の回数が全ての燃焼室3で1回ずつである場合、全ての燃焼室3で吸気および着火の一発目が終了したか否か、つまり、スタータ10起動後にクランクシャフトが2回転したか否かを基準とする。
【0043】
そして、スタータ10起動後にクランクシャフトが2回転していれば(YES)ステップS6に進み、2回転していなければ(NO)2回転するまでステップS5で待機する(図2の期間ロ参照:期間ロは、分岐管14に充填された気体燃料の消費期間である。)。
【0044】
ステップS6では、気体燃料の噴射をクランクシャフトの回転に同期させる。つまり、ステップS3で充填された気体燃料が消費された後は、それぞれの燃焼室3の1サイクルごとに最適な気体燃料の供給時期および供給量を求め、得られた供給時期および供給量に基づいて噴射弁24Bの開弁開始時期および開弁期間を算出する。そして、算出した開弁開始時期および開弁期間に応じて、噴射弁24Bを、順次、開弁させて分岐管14ごとに気体燃料を噴射して供給する(図2の期間ハ参照:期間ハは、気体燃料の同期噴射期間である。)。
【0045】
ステップS7では、気化容器23内の気体燃料の消費が終了したか否かを判定する。この判定の基準は、例えば、気体燃料の同期噴射の開始時期から所定期間経過時までの期間における全ての燃焼室3での気体燃料の消費量合計であり、例えば、気体燃料の同期噴射を開始した後のクランクシャフトの回転回数として設定することができる。
【0046】
ここで、気体燃料の消費可能量は気化容器23の容積や噴射弁24Aの性能等に応じて異なるので、判定の基準とすべきクランクシャフトの回転回数も、気化容器23の容積や噴射弁24Aの性能等に応じて変更される。そこで、ステップS7では、例えば、気体燃料の同期噴射を開始した後にクランクシャフトが4回転したか否か(気体燃料の同期噴射を開始した後に、それぞれの噴射弁24Bで噴射が2回ずつ行なわれたか否か)を基準として、気化容器23内の気体燃料の消費が終了したか否かを判定する。
【0047】
そして、気体燃料の同期噴射開始後にクランクシャフトが4回転していれば(YES)ステップS8に進み、4回転していなければ(NO)4回転するまでステップS7で待機する(図2の期間ハ参照。)。
なお、図2の期間ロにおける噴射弁24Bの開閉推移の表示では、点線による表示が示されている。この点線表示は、燃焼室3で吸気および着火の一発目を行なうのに必要な供給量の気体燃料を、仮に、噴射弁24Bの同期噴射により供給した場合の推移を表示している。
【0048】
ステップS8では、クランクシャフトの回転に同期させたインジェクタ20による液体燃料の噴射を開始する(図2の期間ニ参照:期間ニは、液体燃料の同期噴射期間である。)。つまり、制御手段8は、内燃機関2への燃料の供給を気体燃料供給手段7による気体燃料の供給から液体燃料供給手段4による液体燃料の供給に切り替える。なお、期間ニの途中で、クランクシャフトの回転数がスタータ10の回転数を超え、スタータ10による内燃機関2の始動が終了する。
【0049】
〔実施例1の効果〕
実施例1の燃料供給装置1によれば、制御手段8は、気体燃料供給手段7によりインテークマニホールド12の分岐管14に気体燃料を供給した後、内燃機関2の始動を開始し、その後に、内燃機関2への燃料の供給を気体燃料供給手段7による気体燃料の供給から液体燃料供給手段4による液体燃料の供給に切り替える。
【0050】
内燃機関2を始動する際に気体燃料を噴射供給する場合、必要な供給量の確保が最も困難になるのは、燃焼室3への吸気一発目である。そこで、燃焼室3への吸気一発目において必要な供給量を確保するため、制御手段8を以下のように組み立てる。つまり、気体燃料供給手段7により吸気ライン6に気体燃料を供給した後、スタータ10による内燃機関2の始動を開始するように制御手段8を組み立てる。
【0051】
これにより、内燃機関2の始動前、つまり、燃焼室3への吸気一発目が行われる前に、予め吸気ライン6に充分な気体燃料を充填しておくことができる。このため、吸気一発目から充分な気体燃料を燃焼室3に供給することができるので、必要な供給量が確保できずに失火したり、また、内燃機関2の回転数の立ち上がりが遅くなって応答性が低くなったりする虞を低減することができる。
【0052】
また、インテークマニホールド12の分岐管14ごとに1つの噴射弁24Bが配置され、制御手段8は、全ての噴射弁24Bを開弁させて分岐管14のそれぞれに気体燃料を充填した後、内燃機関2の始動を開始する。
これにより、内燃機関2の始動前に、分岐管14ごとに充分な気体燃料を充填しておくことができる。
【0053】
〔実施例2の構成〕
実施例2の燃料供給装置1によれば、図4に示すように、気体燃料供給手段7は、インテークマニホールド12の分岐管14とサージタンク13の上流側配管32との間で気体燃料の供給先を切り替えることができるように設けられている。
【0054】
すなわち、気体燃料供給手段7は、気体燃料の供給先を分岐管14と上流側配管32との間で切り替える2方切替弁33と、気化容器23から2方切替弁33への気体燃料の供給をオンオフする開閉弁34とを有し、2方切替弁33および開閉弁34は、制御手段8からの指令に応じて動作する。
【0055】
また、気体燃料供給手段7は、2方切替弁33の一方の吐出口とそれぞれの分岐管14とを接続して気体燃料を分岐管14ごとに供給する第1供給路36、2方切替弁33の他方の吐出口と上流側配管32とを接続して上流側配管32に気体燃料を供給する第2供給路37、2方切替弁33の吸入口と気化容器23の取り出し口25とを接続して気化容器23から2方切替弁33に気体燃料を供給する主供給路38とを有し、開閉弁34は主供給路38に配置されて主供給路38を開閉する。
【0056】
また、制御手段8は、気体燃料供給手段7による気体燃料の供給に関し、次のような制御を行なう。すなわち、制御手段8は、第1供給路36を通じて分岐管14のそれぞれに気体燃料を供給した後、内燃機関2の始動を開始し、その後に吸気ライン6への気体燃料の供給路を第1供給路36から第2供給路37に切り替える。
【0057】
〔実施例2の制御方法〕
以下、実施例2の制御手段8による気体燃料の供給に係わる制御方法を、実施例1の制御方法と異なる点を中心に説明する。
まず、図3のステップS3では、噴射弁24Bの開弁期間に替えて開閉弁34の開弁期間を算出し、算出した開弁期間に応じて開閉弁34を開弁させる(図5の期間イ参照:図5における期間イ〜ニの定義は実施例1のタイムチャートである図2と同様である。)。このとき、予め、2方切替弁33を第1供給路36と主供給路38とが連通する状態に切り替えておき、開閉弁34を開弁させることで、第1供給路36を通じて分岐管14ごとに気体燃料を供給して充填する。
【0058】
また、ステップS6では、第2供給路37を通じて上流側配管32に気体燃料を供給することで気体燃料の同期噴射を実現する。すなわち、ステップS5で、分岐管14に充填された気体燃料の消費が終了したものと判定したら、2方切替弁33を第2供給路37と主供給路38とが連通する状態に切り替え、クランクシャフトの2回転ごとに開閉弁34を開弁させて気体燃料を上流側配管32に供給する(図5の期間ハ参照。)。
【0059】
これにより、燃焼室3への吸気が行なわれるたびに、上流側配管32からサージタンク13を介して分岐管14に気体燃料が吸入され、さらに、分岐管14から燃焼室3に気体燃料が吸入されるので、実質的に、クランクシャフトの回転に同期した分岐管14への気体燃料の噴射が実現する。なお、期間ハにおける開閉弁34の開弁期間は次のように算出することができる。
【0060】
つまり、全ての燃焼室3への吸気および着火が1回ずつ行なわれる間に(つまり、クランクシャフトが2回転する間に)、それぞれの燃焼室3でストイキ燃焼するのに必要な燃料の質量合計を、1回の開弁により供給すべき供給量として算出し、算出した供給量に基づいて開弁期間を算出する。
【0061】
なお、図5の期間ロ、ハにおけるインジェクタ20の開閉推移の表示では、点線による表示が示されている。この点線表示は、仮に、実施例1と同様に噴射弁24Bが存在した場合に、気体燃料の供給を噴射弁24Bの同期噴射により行なった場合の噴射弁24Bの開閉推移を表示している。
【0062】
〔実施例2の効果〕
実施例2の燃料供給装置1によれば、気体燃料供給手段7は、インテークマニホールド12の分岐管14のそれぞれに接続して気体燃料を供給する第1供給路36と、サージタンク13の上流側配管32に接続して気体燃料を供給する第2供給路37と、吸気ライン6への気体燃料の供給路を第1供給路36と第2供給路37との間で切り替える2方切替弁33とを有する。
【0063】
そして、制御手段8は、第1供給路36を通じて分岐管14のそれぞれに気体燃料を供給した後、内燃機関2の始動を開始し、その後に吸気ライン6への気体燃料の供給路を第1供給路36から第2供給路37に切り替える。
これにより、インテークマニホールド12の分岐管14ごとに噴射弁24Bを配置しなくても、内燃機関2の始動前に、分岐管14に充分な気体燃料を充填しておくことができる。このため、気体燃料供給手段7を構成する機器数を削減することができる。
【0064】
〔実施例3〕
実施例3の燃料供給装置1によれば、図6に示すように、燃料気化手段5は、気化容器23に接続して気化容器23に大気を導入する大気導入路40と、大気導入路40に組み込まれて気化容器23からの逆流を阻止する逆止弁41とを有する。
【0065】
気体燃料の噴射供給に伴う失火の虞や応答性低下の虞は、冷間時に内燃機関2を始動する際に顕著に高くなる。すなわち、冷間始動時には、エンジンルーム内が例えば常温のような低温であるため、気化容器23に大気を導入できない場合、気体燃料の供給圧に相当する気化容器23の圧力は、常温における燃料の飽和蒸気圧相当までしか高まらない。このため、内燃機関2の始動開始前に噴射弁24Bの開弁期間を長く設定しても、必要な供給量の気体燃料を分岐管14に充填できない虞がある。
【0066】
そこで、気化容器23に大気導入が可能となるように、かつ、気化容器23から大気側への逆流阻止が可能となるように燃料気化手段5を設ける。これにより、大気導入によって気化容器23の圧力を大気圧相当まで高めた上で、噴射弁24Aを開弁させて気化容器23に液体燃料を噴射することで、気化容器23の圧力を、大気圧相当の圧力に燃料の飽和蒸気圧相当の圧力を加算したレベルまで高めることができる。このため、冷間始動時でも気体燃料の供給圧を高めることができるので、冷間始動時において、内燃機関2の始動前に必要な供給量の気体燃料を吸気ライン6に充填しておくことができる。
【0067】
〔実施例4〕
実施例4の燃料供給装置1によれば、図7に示すように、大気導入路40には、気化容器23からの逆流に関して逆止弁41よりも下流側に、気体燃料を吸着するキャニスタ43が組み込まれている。
これにより、逆止弁41に大気側への漏れが発生しても、キャニスタ43によって気体燃料を吸着して大気への気体燃料の放出を阻止することができる。なお、キャニスタ43は、大気導入路40とは別に、タンク接続路44により燃料タンク16の気相領域と接続されている。
【0068】
〔変形例〕
燃料供給装置1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。例えば、実施例の燃料供給装置1の液体燃料供給手段4は、内燃機関2の燃焼室3に液体燃料を供給するものであったが、吸気ライン6に液体燃料を供給してもよい。また、コモンレール19を介さずに液体燃料を供給してもよい。
【0069】
また、実施例の燃料供給装置1の制御手段8は、気体燃料の供給に係わる制御において、ストイキ燃焼を前提として気体燃料の供給量等を算出していたが、ストイキ燃焼を前提とすることなく気体燃料の供給量等を算出してもよい。
また、実施例の燃料供給装置1によれば、内燃機関2の始動は直流電動機を具備するスタータ10により行なわれたが、例えば、いわゆるハイブリッドカーにおけるモータジュネレータにより内燃機関2を始動してもよい。
【0070】
さらに、実施例の燃料供給装置1は、燃料としてガソリンを内燃機関2に供給するものであったが、軽油や液化石油ガス等のガソリン以外の燃料を燃料供給装置1により供給してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 燃料供給装置
2 内燃機関
3 燃焼室
4 液体燃料供給手段
5 燃料気化手段
6 吸気ライン
7 気体燃料供給手段
8 制御手段
14 分岐管(分岐後の吸気ライン)
23 気化容器
24A 噴射弁(第2噴射弁)
24B 噴射弁
32 上流側配管(分岐前の吸気ライン)
33 2方切替弁(切替手段)
36 第1供給路
37 第2供給路
40 大気導入路
41 逆止弁
43 キャニスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室、または前記内燃機関の燃焼室に通じる吸気ラインのいずれか一方に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、
液体燃料を気化して気体燃料にする燃料気化手段と、
この燃料気化手段により得られる気体燃料を前記吸気ラインに供給する気体燃料供給手段と、
前記気体燃料供給手段により前記吸気ラインに気体燃料を供給した後、前記内燃機関の始動を開始し、その後に、前記内燃機関への燃料の供給を前記気体燃料供給手段による気体燃料の供給から前記液体燃料供給手段による液体燃料の供給に切り替える制御手段とを備える燃料供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料供給装置において、
前記吸気ラインは、前記内燃機関の気筒数と同数に分岐して前記内燃機関に接続しており、
前記気体燃料供給手段は、気体燃料を噴射する噴射弁を前記内燃機関の気筒数と同数だけ有し、
分岐後の前記吸気ラインごとに1つの前記噴射弁が配置されており、
前記制御手段は、全ての前記噴射弁を開弁させて分岐後の前記吸気ラインのそれぞれに気体燃料を供給した後、前記内燃機関の始動を開始することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料供給装置において、
前記吸気ラインは、前記内燃機関の気筒数と同数に分岐して前記内燃機関に接続しており、
前記気体燃料供給手段は、分岐後の前記吸気ラインのそれぞれに接続して気体燃料を供給する第1供給路と、分岐前の前記吸気ラインに接続して気体燃料を供給する第2供給路と、前記吸気ラインへの気体燃料の供給路を前記第1供給路と前記第2供給路との間で切り替える切替手段とを有し、
前記制御手段は、前記第1供給路を通じて分岐後の前記吸気ラインのそれぞれに気体燃料を供給した後、前記内燃機関の始動を開始し、その後に前記吸気ラインへの気体燃料の供給路を前記第1供給路から前記第2供給路に切り替えることを特徴とする燃料供給装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の内のいずれか1つに記載の燃料供給装置において、
前記燃料気化手段は、
液体燃料が気化する空間を形成する気化容器と、気化容器に液体燃料を噴射する第2噴射弁と、前記気化容器に接続して前記気化容器に大気を導入する大気導入路と、この大気導入路に組み込まれて前記気化容器からの逆流を阻止する逆止弁とを有することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料供給装置において、
前記大気導入路には、前記気化容器からの逆流に関して前記逆止弁よりも下流側に、気体燃料を吸着するキャニスタが組み込まれていることを特徴とする燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241582(P2012−241582A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111312(P2011−111312)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】